既に確定してるあの√
世の中がどうなろうがどうでも良い。
他人の為に生きてやるつもりもない。
欲しいのただ、何者にも縛られぬ自由だけ。
好きに食って、好きに暴れて、好きに寝る。
他人を信じた所で結局はバカを思い知っていた俺にとって、生きるとはそういう事だった。
それは俺と同じような痛みを持つ親友二人も同じだった。
だから俺はその繋がりに固執し続けた。
だからふざけた理由で訳のわからない世界に飛ばされてもどうでも良かったし、その世界で知り合った連中に対して帰る為に精々上手いこと利用してやるだけのつもりだった。
けれど飛ばされた事で別々になってしまった親友達は、其々出会った連中と繋がりを持った。
それに俺は……気色悪くて絶対に口にはしたくないけど早い話がソイツ等に嫉妬した。
信じた親友達を訳のわからん世界の訳のわからん連中に取られたと勝手にキレて、殺してやろうとすら思った。
だけど親友二人は俺を止めた。
それが何よりもショックだったのと、小さな頃のトラウマを思い出した俺はそれ以降暫く本気で荒れていた。
女だろうがなんだろうが、最早全てにムカついていて、些細な理由で何かに当たり散らして……。
もういっそ自分で自分を終わりにしてやりたくなる程に自棄となっていた頃、俺は出会った時は敵同士として殺りやった変な女の子と再会し、その女の子と行動を共にしていく内に落ち着きを取り戻した。
無口で無表情で、自己主張が低い――されど弱体化していたとはいえ俺が本気で手こずった女の子の妙な関係によって俺はきっと本当の意味で過去を振りきることができた。
思いどおりにならないと周囲に当たり散らすガキのような俺を止めるでもなければ押さえつける訳でもなく、ただ受け止めた女の子。
歴史の教科書辺りに名前が載ってる気がする名前と同じ名を持つ女の子によって俺は本当の意味で先への一歩を踏み出せた。
その女の子とはその後色々とあったわけだけど、俺はもう以前のように焦燥はしない。
再び会うことになるだろう親友二人にぶっ飛ばされた借りを返す為に、そして今でも俺を仲間として迎える変わり者な連中への借りを返す為に。
俺は更に先へと進むんだ。
今度は一人でなく……。
本当の意味で天の御使いこと北郷一刀率いる蜀勢の仲間となった青年こと一誠は、漢王朝の崩壊後に逃れる形で亡命し、姓と名と字の全てを捨てて生きる事になった董卓こと月と賈詡こと詠と共にやって来た呂布こと恋との時間により、其々魏と呉の勢力に留まる親友のヴァーリと元の時代における曹操の子孫こと神牙ですら成し得なかった『一誠の抱える過去へのトラウマ』からの解放に成功した。
無論、この恋にそんな打算なぞ一切なく、ただ泣きわめく子供のようであった一誠を全力で受け止めきれるだけの器を待っていたからこそだからに過ぎない。
恋におかげで漸くトラウマを払拭することで、失っていた力の一端を取り戻せた一誠は蜀という勢力においても、最高戦力の一人に数えられるようになるのだが、同じく未来からこの世界に飛ばされた一般人である一刀は決して事態を楽観視しているわけではない。
何故なら魏と呉には少なくとも一誠と同等と戦力を持つ者が存在しており、史実とは違ってその魏と呉が自分達と勢力である蜀を押さえ込もうと同盟を組む可能性が高い。
もしそうなれば実質に2対1を一誠に強いてしまう。
それ故に一刀は自分自身を含め、もしもの事態になって一誠の足を引っ張らないようにと出きる限り戦う為の地力を底上げせんと日々努力する。
この世界の武将は軒並み女性であり、当初一刀はそんな武将達にはおろか、軍師にすら力負けする有り様だった。
それでも可能な限りはやってみせるというハングリー精神を燃やすのは、同じく未来から来た一誠――そして一誠の親友であるヴァーリと神牙の間で繰り広げられた非現実的な闘争を見たからなのかもしれない。
「は……はっ……! はぁ……! ぜぇ……!」
「休憩、する……?」
「ま、まだだ……! 続けてくれ恋……! もう少しで何かを掴めそうな気がするんだ……!」
「ん、わかった……」
その向上心がある意味仲間の女性達が惹かれていくのだ。
「信じられん……。
正直、まともな武を持たなかったご主人様が、手加減をされているとはいえ恋に食らい付いていけるようになるなんて……」
「うん。どんどん強くなっていってるのが私でもわかるよ」
近く、それでいて遥か遠い領域を知ったからこその情熱は、ただの青年であった一刀を著しく成長させていくのだ。
恋のお陰で色々と吹っ切ることが出来た一誠だが、最終目的である『三人での帰還』だけは変えては居ない。
それは吹っ切る事が出来たからこそしなくてはならない『ケジメ』が元の世界にはあるからであり、その為にはまずヤサグレていた時期の自分を二人がかりでぶっ飛ばしてくれたヴァーリと神牙に対する借りを返す必要がある。
魏だか呉だかに其々留まっている以上、再びの喧嘩は間違いなく訪れる。
そうなったら今度は自分があの二人をシバき回して借りを返す。
そんな仕返しの野望を心に秘めながら、現在恋を相手に訓練をしている一刀同様、一誠も力の一部を取り戻した事で内に宿す相棒の龍との意志疎通を復帰させたばかりか、時間制限付きで分離を可能にしたその龍に付きまとう鬱陶しい女を相手に―――
「げべっ!?」
「ヒーッヒヒヒッ!」
基本美女やら美少女に甘い方である一誠とは思えぬ容赦のなさで趙雲こと星という女性をメタメタにしていた。
「ひ、酷い……」
「あんな固そうな棒で星の顔面を思いきりぶん殴ってるし、訓練じゃないだろあんなの……」
そのメタメタっぷりは偶々見ていた他の武将達をドン引きさせる程であり、金属バットのような鉄の棒でボールを打つかのごとくフルスイングを顔面にかますなどといったものだった。
「あんなに顔が大変なことになるくらいやられてるのに、次の日には何事もなかったように治ってるんだよな星って……」
「なんでもドライグさんが治療をしてあげているからみたいですね。だから余計一誠さんが容赦しなくなるという悪循環に……」
「元から一誠って何故か星には容赦しないもんなぁ……」
頭を掴まれ、石壁に何度も頭を叩きつけられた挙げ句手刀を肩に叩き込まれて地面に倒れる星を見ながら、見物人達はひたすら一誠の鬼畜さにドン引きしつつ星に同情をする。
「そこまでにしてやれ」
「ペッ! この泥棒猫が……」
「い、………いひゃい」
「皮肉なもので、耐久力は上がってきているな星も……」
「へん!」
星がいやにドライグに懐いている……そんな理由で。
どれだけメタメタにしてもドライグに懐くのを止めない星を治療する為に暫く離れる事になった一誠だけど、実のところここまで食い下がられていて、尚且つドライグ自身がそこまで嫌がってもいないのもあるので、星に対してある程度は認めはじめてはいたりする。
しかし星の性格的にそれを言えば明らかに調子に乗りそうだったのでそれを言う気は無いし、やはりちょっとはムカつくのだ。
そんな気分のまま、すっかり動物園状態になっている自宅に帰宅すると、別の場所で一刀に稽古をつけていた恋と陳宮こと音々音が既に帰ってきていたらしく、恋が拾ってきた動物達と共に一誠の帰宅を出迎えてくれる。
「おかえり……。一誠の服が血塗れ……」
「また星殿をメタメタにしたのですか?」
「最早あの泥棒女はある程度加減しなくても問題ないからな……。
それに今ドライグの治療も受けてるし」
「ホントに仲が悪いですね……」
悪びれもせず星を半殺しにしてやったと、服の所々についている反り血の元との仲の悪さに呆れる音々音。
「そっちはどうだった?」
「うん、ご主人様は少しずつだけど強くなってきている」
「最初は恋殿の一撃で気絶していましたが、意識を失うことはなくなりましたぞ。
もっとも、それでも恋殿との差は蟻と龍程の差ではありすが」
「へぇ、思ってたより根性据わってるじゃん」
恋が用意してくれた替えの服に着替えつつ、一刀の近況を聞いた一誠は星とはちがって素直にその根性を誉める。
「さぞかしそれを見てた女の子達は―――こりゃあ今晩も大変だろうなぁ北郷君も」
「?」
「??」
そういう星の下にあるのか、異様にモテる一刀の数時間後を予想してくつくつと笑う一誠に恋とねねは『?』と首を傾げる。
その発言がブーメラン状態なのに気づかず、何時ものように恋がそこかしこから拾ってきた動物達の世話などをしながら夕飯を食べると、先にねねが眠るのを見てから、まだ戻ってこないドライグを待つまでの間、恋と一誠は手合わせをしながら時間を潰す。
「あの泥棒女め、何時までドライグを引き留めてんだ? もっとメタメタにしとくべきだったか……」
「色々あるからだと思う……」
「色々あったら寧ろやべぇだろ……」
恋の言う色々の意味がどんな『色々』なのかはわからないが、一誠の考える『色々』だったとしたら大変な話だとその顔は少し苦いものだ。
しかしあの星という、図々しさといったメンタルだけはある意味で異次元突破している女ならあの手この手でドライグを騙してやらかしそうではあるわけで。
「一誠は嫌なの? ドライグと星が仲良くなるの……」
「あの女は正直ムカつくが、ドライグに対する好意ってのは俺が一番解るから……ちょっとだけ複雑ではあるかな。
そりゃあ、ドライグが良いってんなら仕方ねーと思わなくもないけど」
腹は立つけど、ドライグへの好意に関してはある意味で自分に近いものがあるのでわからないでもない。
そう複雑な顔で吐露する一誠を恋はじーっと見つめる。
「擬似的にとはいえ、ドライグだってやっと自由になれたんだからと思えば俺がギャーギャー言える話ではないってのはわかってるさ。
……つってもドライグって今の見た目こそ俺達と変わらないけど、本来は生粋の龍なんだけどね」
「……」
「いやでもマジでそうなっちまったらどうなるんだろ……? ハーフ悪魔やハーフ吸血鬼ってのが居るように、ハーフなドラゴンになるのか?」
一人で考察をし始める一誠をただ見つめ続ける恋の視線に気づいているのかいないのか、やがて考えるのをやめた一誠は身体を伸ばしながら『先に寝ようかな』と言っている時もずっと見てくる恋に、実は最初から気付いていた一誠が気まずそうな表情をする。
「そんなじーっと見られると普通に照れるぞ……」
「一誠なら意味、わかっているはず」
そうじーっと真っ直ぐに見つめる恋に、一誠は参ったと思いながら恋を抱き寄せれば、空気が読める動物達が散っていく。
「ん、恋は一誠のもの。
だから好きにして……?」
その言葉と共に二つの影がひとつになり、二人だけの時間となるのだ。
そして―――
「せ、星よ……。
何故ドライグ殿と一緒に部屋から出てきたのだ?」
「それが全く覚えておらぬ……。
ドライグに傷の治療をして貰った後、日頃のお礼として秘蔵のメンマを一緒に食べながら飲んだ辺りまでは覚えてはおるのだが、気が付いたら私もドライグも素っ裸だったのだ」
「俺も一切の記憶がない……」
「そ、その事を一誠は知ってるのか?」
「いえ、まだ知りませぬがドライグが戻っていないのは気づいているかと……。
しかし起きてからずっと妙というか……その、妙に股がヒリヒリするというか、異物感が残っているというか……」
話がややこしくなる展開が始まる……
補足
最早堂々と『あ、嫁っす』と言えるまでに発展しきってる。
なのである意味でブレなくなり始めている。
その2
寧ろパパドラゴンが大変なのかもしれない……