色々と枝分かれしまくってしまったお話の内、この運命を辿る事になった悪魔の執事が恐らくは一番コミュ障であり、気の強い者に結構弱かったりするのかもしれない……。
リアス・グレモリーの騎士の少年、ソーナ・シトリーの兵士の少年の二人と共に迷い込み、今現在帰還に向けて色々と四苦八苦しているこのお話が……。
訳のわからない体験を経て、色々と間違えているとしか思えない過去の世界に飛ばされ、本来出せる力が笑えないレベルにまで落ちてしまいった三人の少年は、これまた色々と間違えているとしか思えない過去の偉人(女の子)の下で奮闘中だった。
リアス・グレモリーの騎士である少年は、持ち前の人当たりの良さもあってそれなりに器用に。
ソーナ・シトリーの兵士である少年は、そのハングリー精神で。
しかしながら、誰の眷属では無い、シトリーとグレモリー家の執事をしている少年は――――色々あって元から拗らせていたコミュ障のせいで割りと大変だった。
一応そんな彼等を味方として引き入れた者達の一部はそんな彼の面倒な性格を把握しつつ徐々に慣れてくれたりしたお陰で、上手いことやれてはいるものの、彼自身は他人とお話することを極端に避け続けた。
それは例え自分達の雇い主でもある曹操を相手にしても変わらないままであるのだが、彼自身はその育ちのせいか、気の強い異性には割りと弱いというか、圧されやすい所があった。
それは曹操への果てしなき心酔と忠誠心を持つ猪突猛進気味な女性との一悶着だったり、当曹操の直属配下なる地位をただ一人与えられてしまっていた彼に対する嫉妬と対抗心で敵意すら剥き出しにしていた、新人軍師の少女とのちょっとしたやり取りによって浮き彫りとなっていき……。
「キミはつまり一誠くんにどうしても謝りたいと?」
「だけど謝ったら思いきり拒否されたと……」
「は、はい……。
顔を真っ青にされたり、吐かれたり……。
元はと言えば、嫌われる原因はボク自身にあるのはわかってはいますけど……」
逆にそうでは無いのに、気になるようになってしまった者は、彼の異質なまでのガードの強固さに凹まされてばかりであった。
その内の一人であるとある少女に至っては、初めての邂逅の際に起こった事故で大ケガをさせてしまった事への謝罪すらままならず、挙げ句の果てには目の前で思いきり血まで吐かれてしまった。
それがショック過ぎて、彼と同じ場所から来たとされる二人の少年――つまり木場祐斗と匙元士郎に相談をする程であった。
「別に一誠君自身はキミを嫌ってるからという訳ではないと思うよ?」
「ああ、そもそも本当に嫌いな相手には、嫌悪感を一切隠さなくなるし」
「で、でも春蘭様や桂花とは普通に話したりするのは……?」
「あーうん、それはねー……」
「アイツが極端に気の強い異性に弱いだけだから……」
そんな少女に、彼の極端なコミュ障をよく知る二人の少年は苦笑いをする。
彼を取り巻く存在の悉くが、全員もれなく我の強い方々で、気性だけなら例の二人は特に勝るとも劣らないと二人も認める程なのだから。
「しかし珍しいよな? アイツって子供に対しては結構優しい対応するってのに」
「ミリキャス様の事を考えたらそうだね。うーん……」
「………」
とはいえ、基本的に子供に対してはそこそこ対応が甘い筈の一誠にしては珍しいと祐斗と元士郎は季衣という少女と共に今現在の一誠のルーティンを確認してみることにした。
「悪いけど暫く席を外すから、その間の訓練はキミに頼むぞ凪」
「お任せください! 元士郎隊長の顔に泥を塗るような真似は一切いたしませぬ!」
「お、おう……そんなに力まなくていいからな?」
現在警備隊の隊長をしている元士郎は部下となった少女に暫く隊を仕切っておいてくれと頼み、祐斗と季衣の三人で執事の様子を探しに行く。
基本的に曹操こと華琳の直属配下である為、華琳の傍に居ることが多いというのは全員知っている事実なので華琳を訪ねてみるが、一誠の姿はどこにもなかった。
「一誠なら休みを取らせたわよ。
放っておくと一切寝ずに雑用やら春蘭の訓練相手をやり続けるって桂花が言ってたし、そういえばまともに一誠が寝るところを見たことなかったし」
「なるほど……」
どうやら今日の一誠はオフらしく、直の配下にしたのに春蘭や桂花にしか心を開かない現状もあってか微妙に不機嫌に一誠の不在を話す華琳から逃げるように退散した三人。
「アイツって確かに休んでる所なんて見たことないよな」
「常に雑用か訓練している姿しか見たことないし……」
「では一体どこに……」
完全に仕事を休んでいる一誠が何をしているのかまるで想像もできないし、そもそもどこに今いるのか不明な三人はとにかく探してみることに。
いきなり一日きっかり休めと妙に不満そうな顔で命じられてしまった日之影一誠は普通に困った。
何故なら一誠は悪魔の執事をするようになってから休むということをしなかったからだ。
無論悪魔の家族達はきちんと一誠を休ませてはいたが、目を離すと休みだというのに雑用仕事をしていたり、ボロボロになるまでのハードなトレーニングをしていたりする。
その両方を禁じられた上で休めと今回言われてしまった一誠は宛がわれた自室でこの世界で手に入れた質素な服で横になっているものの、全くもって落ち着かなかった。
「………」
そもそも休みが必要になる程柔ではないという自負もあるし、暇を潰せる趣味もこれといってない一誠にとって完全なるオフは別の意味での拷問に近い程退屈な時間でしかなく、先程こっそり春蘭に訓練の相手を頼んでみても断られてしまった。
『華琳様から頂いた休暇なのだから、訓練などしなくても良い。
そもそもお前は働きすぎだ、だから休め』
と、脳筋である筈の春蘭からいやに優しげな顔で言われてしまった。
ならば一人でと思ったのだけど、誰かに見られてチクられたら面倒な事になりそうな気がしたのと、よくもわからない子供兵士だの兵士だのに見られたら気持ち悪くなって訓練にならない。
故にこうやって自室に綴じ込もってみたものの、退屈すぎて暴れたくなる。
「…………」
結局限界が来てしまった一誠は何時もの一張羅に着替えて外に出ることにした。
そしてつい自然と向かった先は……。
「はぁ? なにか仕事を振ってくれですって?」
「おう……」
軍師としての雑務中であったとにかく気が強い少女軍師である荀彧こと桂花の仕事場だった。
何でも良いから仕事させろと来るなり言ってきた一誠に桂花も流石に呆れる。
「アンタね、せっかくアンタみたいな男に華琳様が休暇を与えてくださったのに、何で休まないのよ?」
最初はどこの馬の骨ともわからない男が華琳の直属配下という地位に立つ一誠に盛大なる嫉妬と敵意を持っていた桂花だが、その一誠が他の男達とは正反対すぎる―――というより面倒臭い性格をしている不器用の極みのような男だとわかってからは、持ち前の気の強さで常に無茶な真似をしようとする一誠を封殺できる側の存在へと変わり、一誠も一誠で桂花の気の強さのせいもあるのか、本人に自覚はないが微妙懐いている。
「休めったって何してれば良いかわからないんだよ。
何かしてないと落ち着かないし……」
「…………」
放っておくと一睡もせず常になにかするような男であるのは知ってた桂花は、困った顔の一誠を見て呆れてしまう。
「アンタに仕事をさせる気なんてないわよ。
わかったならとっとと戻って寝るなりしてなさい」
「…………………」
「そんな顔してもダメなものはダメなの!」
帰れと言っても、どことなく捨てられた犬のようなしょんぼりとした顔となる一誠は動こうとしないままじーっと桂花を見つめる。
「……………………」
「…………」
最初は無視をしていた桂花だが、あまりにもじーっと見てくるせいで段々気が散ってしまい、元々短気なのもあってバンと机を大きく叩く。
「あーもう! わかったわよ!」
「……!」
子供かコイツは! と一誠に対して思いながら、仕方なくなにかをさせることにした桂花に一誠の目がちょっと輝く。
「まずそこに座りなさい」
「おう……!」
芸を仕込まれた犬のように素直に座る一誠。
この時点で本人に自覚はまったくないが、相当桂花に対して一定以上の好感度があると言えるのかもしれない。
早く仕事をさせろとばかりな目をしてくる一誠に見つめられる桂花は、あらゆる意味で図体のデカい子供にため息を吐きながらすぐ隣に座る。
「?? なんだ、肩揉みか? それなら得意だぞ、しょちゅうリアスだソーナにやらされてたからな」
余程退屈だったのか、任せろと言わんばかりの発言に対して、桂花は一誠の口から出てきたソーナだリアスだといった、恐らく彼等の時代に居るであろう馴染みの女であろう名前を聞いてほんの少しだけムッとなりながら違うと返す。
「横になりなさい」
ある程度自分の言うことなら聞くことを見越した桂花は、少し前までならまず虫酸走ると絶対にしなかったであろうと真似をする為に、自分の膝を軽く叩きながら横になれと言う。
「は?」
一誠もキョトンとする辺りは大概鈍い。
しかし桂花は気にせずもう一度横になれと若干強引に一誠を横にさせ、頭を膝に乗せてあげる。
「これがアンタに与える仕事よ」
「………」
こういう奴は多少強引にでもさせなきゃわからないと思う桂花に膝枕された一誠は少し不満顔で桂花を見上げる。
「仕事じゃないだろ……」
「休める時に休むのも仕事の内なのよ。
私だって男にこんな真似するのは嫌よ。
けどアンタは特殊すぎてそういった嫌悪感が無いし、仕方なくやってあげてる訳。
精々感謝して少し眠りなさい?」
「………………」
やや強引な気もするが、一誠にはこのぐらいで丁度良い。
不満顔のまま何か言いたげな一誠も、やがて観念したのかゆっくりと目を閉じ………そして眠り始めた。
「すー……すー……」
「やっぱり疲れてたんじゃない。
病人癖に無茶しかしないんだから一誠は……」
血を吐く程の病がありながら、それを一切隠して狂気に取り憑かれたように雑務をこなしたり、敵を薙ぎ倒す不器用な変人男である一誠にそう小さく呟く桂花は常に目付きを鋭くさせた石像顔ではない、穏やかな表情で眠る一誠を暫し見つめ――ふとその頭を撫でていた。
「ホント、デカい子供よアンタ」
呆れたように笑う桂花はもう暫くこの図体のデカい子供の面倒を見るのであった。
「……!? ちょ、い、一誠……!? あ、アンタ何を……、!」
「んー……」
「ばっ!? ど、どこに顔を……!? 恥ずかしいからやめてってば!」
「んー………」
「く……全然起きない。
こんな所を誰かに見られたら誤解されてしまうわ……」
「す、すげぇなあの子……」
「一誠くんが警戒しないであんなに熟睡するなんて……」
「や、やっぱり桂花にはそうなんだ……。
ボクって本当に嫌われてるんだ……」
「なんなの、この納得のいかなさは?」
「ま、まあ一誠の奴もちゃんと休めたのですし、今日の所は桂花に任せましょうよ華琳様?」
「………。春蘭、アナタはなにも思わないの? 桂花にああしている一誠を見て」
「へ? 私は一誠がちゃんと休めたから良かったなと思いますが。
本当にアイツは四六時中働き続けていましたし、その上私の訓練にすら手抜きなしで付き合いますし……。
ああしないと休めないというのなら、今度また休む時がくれば、やってやっても良いかなーとは思いますが……。華琳様への無礼以外は意外と良い奴ですし……」
「姉上にそこまで言わせるのか……」
「………やっぱなんか腹立つわ」
桂花の心配をよそに、がっつり見られていたというお約束を添えて。
「ちょ、ちょっと!? な、なに抱きついて――ひゃ!?」
「zzz……」
「い、いつつ……ね、寝相が悪いにも程があるわよ!」
「んん……」
「ね、寝ぼけて誰かと間違えてるのかしら? はぁ……ホントに世話のかかる奴だわ」
「………」
「っ!? ほ、本当に寝てるんでしょうね一誠!? そ、そこまでして良いとは言ってな――はひっ!? そ、そんなとこ吸うにゃ……ぁ……んっ!」
その後一誠が起きた時、自身の胸を抑えながら睨み付けてくる桂花に対して死ぬほど謝ることになるのだが、本当にただ寝ぼけてたのもあってか、桂花には許して貰えたらしい。
「絶対に華琳様の近くで寝ないこと、わかった?」
「わ、わかった……すまん」
「私の事は別に良いわよ。普段のアンタを見てればわざとやった訳じゃないってわかるしね。
ただ、さっき言ったことだけは守りなさい、というよりアンタは異性の近くで寝るのは禁止よ。
私は………まあ、ここまでされたし私の近くでなら別に寝ても良いけど」
「…………」
「げ、首筋も虫刺されみたいな痕付けられちゃってるわ……。
胸に比べたら全然少ないけど……まったく」
余計桂花に頭が上がらなくなった執事。
終わり
補足
三馬鹿とは違って猫耳フード軍師との関わりが多く、彼女の気性が執事を封殺可能なまでに強くなってるので、こんな感じの関係性。
同じく春蘭さんも。
しかし珍しく子供に対する甘さが微妙に薄い。