色々なIF集   作:超人類DX

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続き

端から見たら鬼畜なのが赤龍帝式トレーニング


赤き龍門への道筋

 

 

 

 何故か外史なる世界にて二度と目覚めるつもりの無かった眠りから目覚めた青年には最早、かつての頃の生きる意味や灼熱のような情熱は無い。

 

 何故ならその理由の全てである赤髪の悪魔の少女も、 文字通り異心同体だった赤き龍も青年に力の全てを託して逝ってしまった。

 だから二度と目覚めぬ眠りについたというのに、誰かの悪戯なのか、青年はパラレルワールドの過去の地で目覚め、そこで知り合った親子の世話になり、時折その親子の障害となる存在をぶちのめすような生活をしていた。

 

 かつての頃の情熱は冷めきったまま。

 

 同じく未来から迷い込んだと言う少年に請われる形で何度か力を貸すことはあっても進んでこの世界の平和とやらの為に力を振るうことはしない。

 正直言えば、この世界自体がどうなろうとどうでも良いので。

 

 

「この世界で目覚めた時、何度か自殺を試みたんだが、見ての通り、なにをしても死ねなかったんだ」

 

「じ、自殺……? なんでまた……」

 

「正直言うと生きる意味が俺にはもう無いんだよ。

北郷君のお仲間さん達みたいに世の中を平和にしたいといった御大層な目標もないし」

 

 

 そんな怠惰な姿に対して、紆余曲折あって同じ勢力下に属する一部真面目な者達はあまり良い顔をしない。

 そんな者達を天の御使いと呼ばれる形で勢力のトップ位置に収まる北郷一刀という少年が宥めてくれているので今のところ関係性の崩壊は無いにせよ、それも何時まで続くかはわからない。

 

 

「ある時期から俺は頭に鉛玉ぶちこまれても、心臓を引き抜かれても、全身をバラバラに解体して臓器をぶちまけても『再生』してしまうようになってね。

ガキの頃――あの子と共に生きてた頃はあの子を守れると望んでた領域だったけど、あの子を喪った今となっては忌々しいものでしかないってわけさ」

 

「剣で斬られてもすぐに傷が塞がっているのを何度か見たことはあるが、そこまでだったのか?」

 

「まぁね…………って、キミもキミでよくこんな話を信じるな?」

 

「そりゃあ何度も手からビーム出したりするのを見てればな……」

 

「普通、そんな奴を化け物と怖がるものなんだが……」

 

「怖いというよりは憧れみたいな感情の方が強いぞ。

まるでアニメのヒーローみたいな………」

 

「若者っぽい発言だな実に。

けどヒーロー……ねぇ? 柄じゃないし、寧ろそんなヒーローを笑いながら嬲り殺しにする悪役のほうがしっくりくるぜ」

 

 

 同じ未来から迷い込んだ者同士であり、自分にはできない事を可能にする者という事もあって、一刀は寧ろ一誠に対して羨望のような感情が大きく、恐怖はないと言えば一誠は苦笑いを浮かべる。

 

 

「星もそうなんだろう? だから一誠を主だと呼ぶんだし」

 

「人を見る目が無さすぎるんだよあの子は。

俺は人の上に立つよりは誰かの指示で敵をふちのめすしたっぱ気質だってのによ……」

 

 

 現代を生きた者同士という事で、時間が合えばこうしてサシで雑談する事が多い一刀と一誠。

 

 

「ましてや俺は、守りたかった人達を守れずにテメーだけが生き恥を晒し続ける馬鹿な負け犬なんだからよ……」

 

「…………」

 

 

 言動や行動を見ていて、常に過去を後悔し続けていると感じる一刀はまだ若いながらもこの一誠の人生が壮絶なものだったと察している。

 故に彼の怠惰な行動を咎めたりはしない。

 

 やる時はやる……そう信じているから。

 

 

 

 

 恒例の未来人同士のトークを終えた一誠は、本拠地となる城を出ようと城の廊下をテクテクと歩く。

 その際、すれ違う使用人の者達に軽く会釈等をされるので適当に返しながら歩くと、一刀がこの地に迷い込んで最初に出会ったらしい者とばったり出くわす。

 

 

「む、兵藤か……」

 

「っす………」

 

 

 お互いに予期せぬ顔合わせだったのと、特に一誠の怠惰さに不満を持つ者だというのもあってか、その者の表情は実に微妙なそれだった。

 

 関羽というどこかで聞いたことがあったような名を持つ黒髪の女性武将は、そのままぬぼーっとした顔で自分の横を通りすぎようとする一誠に『待て』と呼び止めた。

 

 

「ご主人様に呼ばれて来たのだろう? この後はどうするつもりだ?」

 

「へ? あぁ……家に帰って寝るとか?」

 

「…………」

 

 

 要するに怠けまくるとハッキリと宣言してくる一誠に関羽こと真名を愛紗の表情が幻滅のそれになる。

 

 

「お前の武の腕は認めてやるが、もう少しなんとかならんのか?」

 

「なんとかとは……?」

 

「その怠惰な姿だ……!」

 

「え、あ、あぁ……。

すんませんけど、最早どうにもならないかなと」

 

「どうにもならんなら、どうにかする努力を何故しない!」

 

「………………」

 

 

 

 生き方から考え方に至るまで、全てが対極に位置するせいか、顔を見られる度に同じような事を言われてしまう一誠は一応向こうの立場もあるだろうからとペコペコと頭を下げて謝ってはおくが、愛紗からしたら生返事されていると思われたのか、そのまま廊下のど真ん中でお説教をされてしまうことに。

 

 

「遥か年下の子に怒られるって結構凹むな……」

 

 

 遥か昔、まだ日雇いのアルバイト等をしながら生きていた時代、職場で中年のアルバイトが若い正社員に怒鳴られている姿を見たことがあったが、今の自分はまさにその中年のアルバイトと同じだと思うと、年を食ったという実感と世知辛さを感じてしまう。

 結局1時間近く説教された一誠は、言われるがままに流れ者集団から一応軍と呼ばれるまでに足並みが揃うようになった蜀軍の訓練に参加することに。

 

 勿論一兵卒の者達に混ざって。

 

 

「そこ! 兵藤! もっと気合いを入れて振らぬか!!」

 

「は、はいはい!!」

 

「はいは一回だ戯け者!!」

 

「はい!!」

 

 

 その一兵卒達の訓練を取り仕切る愛紗にすぐ怒鳴られてしまう一誠。

 

 

「あの、兵藤様が何故我々一兵卒の訓練に……?」

 

 

 そんな光景というか、一応一誠の存在は軍の兵達の間でも有名だし、その力量が異次元だというのも何度か最前線に出ては一人で敵軍を殲滅する姿を見たこともある、とある一兵卒に愛紗に何度も怒鳴られている一誠に対して恐る恐る訪ねてくる。

 

 

「怠け者過ぎたから気合いを入れてやるって言われて……」

 

「は、はぁ……」

 

「それにここでの俺は一兵卒みたいなものだしね……」

 

「え、ですが兵藤様は黄忠様の旦那様ですし……」

 

「……。前から疑問なんだけど、何時からそんな話になってるんだよ? 俺はあの子とはそんなんじゃないんだけど……」

 

 

 隣から話しかけてくる一兵卒と共に素振りをしながら、黄忠――つまり紫苑の旦那認定されているのを否定する一誠。

 その内に質問をしてきた一兵卒や他の者が息を切らしていく中、顔色ひとつ変えることなく一定のペースを完全に維持して素振りをし続けている辺りは伊達に修羅場を生きてきた訳ではないことがうかがえる。

 

 

「大丈夫かよ?」

 

「は、は……い……。

ひょ、兵藤様はさ、流石です……」

 

「一応それなりにやってきたからな……。ほら、ゆっくり息を吐きな」

 

 

 正直この程度では準備運動にもならないのだけど、そんな空気の読めない発言をするつもりは無い一誠はフラフラになってる他の兵隊さん達を案じながら、こちらをジトーッと睨んでいる愛紗を怒らせないように、黙々と振り続けるのだった。

 

 

 こうして実は普段の三倍増しにキツイ訓練を涼しい顔のままこなして見せた一誠はやっと愛紗から解放される。

 その際愛紗の顔が何故か悔しげだった訳だが、下手な事を言って刺激をしたくなかった一誠はそそくさと退散した。

 

 

「今度はあの子に見つからないようにしよ……」

 

 

 ぽつりと一人で呟きながら城を出た一誠は、一刀に貰った自宅へと帰ろうと歩く。

 最近集落において変な格好をした『なんたら仮面』を名乗る者が出没するとかしないとか的な噂を住人同士でしているのを耳にしながら歩き、集落から少し離れた箇所に建てられた自宅へやっと帰宅すると、留守番をしていた璃々とその留守番の間の面倒を見ていた趙雲こと星が出迎える。

 

 

「おかえりおとーさん!」

 

「妙に遅かったようですが、なにかあったのですか?」

 

 

 最早なにを言ってもお父さん呼ばわりしてくる璃々に抱き着かれたのでそのまま抱っこする一誠は、これまた最早当たり前のように部下気取りになっている星の質問に答える。

 

 

「キミの同僚の……確か関羽だったか? あの子の持つ警備隊って奴の訓練に参加させられてたんだよ」

 

「なんですと? また愛紗になにか言われたのですね?」

 

「言われてもしょうがねぇ真似しかしてないって自覚はあるから余計な事は言わなくて良いよ。

……俺も直す気無いし」

 

 

 そう星に言ってから璃々を抱えたまま中へと入る一誠だけど、星はどこか不満そうな表情だった。

 

 

「主様の言うとおり、基礎の体力を底上げしました。

……そろそろ本格的な稽古をつけて頂きたいのですが」

 

 

 一誠が命じた以上は愛紗にものを言うつもりはないが、どこか納得できない気持ちを一旦横に置き、ここ数ヶ月を使って一誠に言われた通り基礎体力の底上げを完了したので次の訓練に移行して欲しいと直訴する。

 

 

「………」

 

「?」

 

 

 そんな星に対して一誠は一旦璃々を降ろすと、じーっと星の頭の先から足の先までをジロジロと見つめる。

 その視線に星は若干の戸惑いと疑問を感じつつも直立不動で居ると……。

 

 

「ひゃ!? あ、主様……!?」

 

「静かにしろ身体つきを調べてるだけだ……。

ふーむ、確かにそこそこマシな所まで自力で来たってわけか……」

 

 

 無遠慮に頭に手を置いたかと思えば二の腕をムニムニと触るわ、脚に触れ始める。

 

 

「なにしてるのおとーさん?」

 

「んー? この子がどれだけ自力で体力を底上げできてるか調べてるんだ」

 

「ベタベタ触るとわかるの?」

 

「体つきで大体な。

……ま、及第点ってところだ」

 

 

 ひとしきり調べ終えた一誠は及第点と評価しながら星から離れる。

 

 

「………………」

 

「及第点にも満たなきゃ続行させてたけど、言われた通りまで底上げできたみたいだし、こうまで言われちゃ教えない訳にもいかない。

良いぜ、次のステップ―――じゃなくて段階に行こうじゃないの」

 

「………………………………」

 

「あ? どうした?」

 

「………………。い、いえ……なんでもありませぬ」

 

 

 まさかいきなり全身を触られるとは思っていなかったのもあり、完全に動揺してしまっている星に、一切そんなつもりがない一誠は『はて?』と首を傾げる。

 

 

「女の人をそうやって触るのはよくないとおもうよおとーさん?」

 

「は? あ、そういう意味か。ごめんごめん、確かにこりゃセクハラだわな」

 

「その『せくはら』という意味はわかりませぬが、私なら大丈夫です。

……ちょっと驚いただけですので」

 

 

 そう俯きながら気にしていないと返す星だが、触られた事よりも自分のしてきた努力の結果をちょっと真剣な表情で見てくれたその顔にドギマギさせられた割合が強かったらしい。

 

 

「むぅ……おかーさんに言っちゃおうっと」

 

 

 その星の表情を見た璃々は、おとーさんこと一誠が自分と母から取られた気がしてちょっと面白くないのか、つーんとした態度になってしまう。

 

 

「?」

 

 

 その意図に気づかない一誠だけが、頭に?を浮かべまくるという、リアス馬鹿の本領を発揮させるオチを添えて。

 

 

 

 

 

 

 

 何故か一誠が愛紗の警備隊の訓練に参加させられた――という話を愛紗の愚痴混じりに聞かされる紫苑。

 

 

「奴の力量だけは認めてやるが、あの怠惰な態度だけはどうにかならぬのか?」

 

「どうにかと言われましてもねぇ……」

 

「そんなに目くじらを立てる事なんてないんじゃないの? 正直戦の時のあの武功を考えたら多少普段は怠惰でも良いとおもうし」

 

 

 どうしても生真面目故に一誠の怠惰さに我慢なら無い愛紗に対して、一誠が何故ああも怠惰なのかの理由――つまり過去を知る紫苑は上手く流そうとし、その援護とばかりに話を聞いていた一誠よりも少し明るめ――強いて言うならリアスの母であり、リアスを捨てた悪魔に近い亜麻色の髪の女性武将が言う。

 

 

「奴の場合その武功を帳消しにする程に怠惰過ぎるのだ! お前だって見たことがあるだろう翠!?」

 

 

 どちらかと言えば――いや間違いなく猪タイプである武将こと馬超は愛紗の言葉に微妙な顔をする。

 

 

「あるけどさぁ。

偶々愛紗が見たときがそんな感じなだけで、兵藤って意外と働いてるとおもうんだけど。

この前も集落の民と一緒に土を耕してたし」

 

「う、そ、そんなの一度くらいでは……」

 

「そもそもこの地を開拓したのもあの人が岩山等を消し飛ばして平地にしてくれたからですもの」

 

「う……」

 

「そりゃあ確かにアイツが兵達の訓練の面倒とか見てくれたら一気に強くなれそうだなとは思うけど……」

 

「そ、そうだろう!? それなのに兵藤は『キミ達の基礎体力が低すぎるから間違いなくついてこれない』等と馬鹿にしてくるだけだ!」

 

「それは事実ですからね。

実際彼の訓練を受ければ間違いなく吐きますわ」

 

 

 現役の頃の一誠の訓練を見たらドン引き確定というか、自分達ならまず死ぬくらい壮絶極まりないのを知っている紫苑とは反対に、若干根に持っている愛紗はやはり納得できない顔だ。

 

 そんな時だったか、妙に興奮した様子でガールズ(?)トークをしていた三人のもとへと星がやって来たのは。

 

 

「愛紗! 訓練場を借りるぞ!!」

 

「な、なんだ星? 唐突に……」

 

「ふっふっふっ、聞いて驚くなよ? 主様がやっと直接私に稽古をつけてくれるのだ」

 

「え、本当なのかそれ?」

 

「ああ、くっくっくっ、これでやっと主様の下僕としての道が始まるというものよ。

そういう事だから訓練場を使わせて貰うぞ? わっはっはっはー!」

 

「ちょ、ま、待て星!?」

 

 

 返答無しでそのまま去っていった星を呼び止める暇が無かった愛紗。

 

 

「兵藤の訓練かぁ、ちょっと興味あるかも……って!どうしたんだよ紫苑?」

 

「いえ、星さんがあの人の訓練に参加可能になったということは、私の訓練も再開する時が来たのだと思いましてね……」

 

「そーいや、アンタ等はここに入る前からやってたんだっけか?」

 

「ええ……あくまでも自衛手段としてですがね」

 

 

 すっと椅子から立ち上がる紫苑に翠は興味深そうな眼差しを送る。

 

 

「お二人も見てみますか? あの人の訓練を」

 

「お、良いのか!?」

 

「………。これで怠惰な真似をしてたら素振りを千回を命じてやる」

 

 

 本音を言うと徐々に一誠に近づいてきている星に対してちょっとしたモヤモヤを感じる紫苑と共にその訓練を見物することになった翠と愛紗だが……。

 

 

「ゴブァッ!?」

 

 

 訓練場は文字通り地獄と化していた。

 一方的に――しかも容赦ゼロで叩きのめされまくる星の悲鳴のせいで。

 

 

「「………」」

 

「う、うわぁ……えげつない」

 

「せ、星ちゃんが血塗れにされてる……」

 

「し、死んじゃうのだ……」

 

 

 先に来て訓練を見ていたらしい一刀、劉備こと桃香、張飛こと鈴々がドン引きしているように、倒れても無理矢理立たされてはメタメタにされる星の悲惨すぎる状態に、愛紗と翠はちょっとした恐怖を抱く。

 

 

「く、訓練じゃないだろこれは……」

 

「最初は私もそう思いましたが、実戦を通じて身体に叩き込む方が覚えやすいという意味があってああいう形になるのですわ」

 

「大丈夫なんだろうな星は……?」

 

「死なない程度にはあの人も加減はしますわ……」

 

 

 訓練場の壁に何度も顔面を叩きつけられるわ、倒れたら容赦なく頭を踏みつけられる等など、訓練ではなく一方的な蹂躙劇となっている状況。

 

 

「ぐ、ま、まだ出来ます……!」

 

「…………」

 

 

 それでも尚立ち上がれる辺り、星も星でどかこのリミッターが壊れ始めているのかもしれない。

 

 

「ぬぁぁぁっ!!」

 

「…………」

 

 

 持っていた槍をその場に放り捨て、素手で挑みかかる星の繰り出す拳を平然と掴めば、そのまま星の脇腹に拳をめり込ませる。

 

 

「ご……ぁ……!?」

 

「……………」

 

 

 悶絶し、その場に膝を付けば即頭部に強烈なミドルキックが叩き込まれ、人形のように吹っ飛んでしまったり。

 何度も何度も何度も何度も、立ち上がっては挑みかかる星も遂に力尽きてしまう。

 

 

『……………』

 

 

 最早単に殺しに掛かってるとしか思えぬ訓練に誰しもが絶句する中、ピクリとも動かなくなった星を見て一瞬だけ空を仰いだ一誠は『こんな所か』とだけ呟くと、倒れている星のもとへと近づき、ぴくりとも動かない星が生きているのかを確認する。

 

 

「ぅ……」

 

「よし、生きてるな。

オーケー、そこまでの根性見せられたのなら合格だよお嬢ちゃん」

 

「か、身体ぜんぶがいたしゅぎて……ぎゃくにいたくない気が……します、ぞ……?」

 

「途中で止めるって言ってりゃあそうはならなかった。

が、キミは最後まで言わんかったからね。

待ってろ、今立てるくらいにはしてやるよ」

 

 

 顔中ぼこぼこに腫れていても尚ヘラヘラと笑ってみせた星に、一誠は苦笑いしながら左腕に赤き龍帝の証となる『籠手』を纏う。

 

 その神秘的な赤き光と共に現れた籠手に見ていた者達がギョッとしているのを無視しながら淡い輝き放ち続ける左腕で星の額に触れれば、光が星の身体を包む。

 

 

「な、なんだアレは?」

 

「妖術……なのか?」

 

「………」

 

 

 その左腕の意味を知る紫苑以外の者達が次々と目の前で展開される異次元の光景に唖然とする中、光に包まれた星の傷が徐々に癒えていく。

 

 

「本当なら俺自身の血を飲ませれば一瞬だけど、そんな真似をしたらキミはもう人間に戻れなくなるからな」

 

 

 そう言いながらかつて傷ついたリアスを癒す事だけを目的にドライグと共に開発した赤龍帝の籠手の新たな領域を使って星の傷を癒して見せた一誠。

 端から見ればその行為自体が神の所業にしか見えず、苦しそうに呻いていた星もやがて規則的な呼吸と共に意識を手放す。

 

 

「ふぅ、やっぱ苦手だわこういうのは……」

 

 

 きっかり癒してみせた一誠は自分が誰かの傷やダメージを癒すセンスがないと改めて思うと、眠っている星を抱える。

 

 

「耐えきったご褒美じゃないけど、キミが妙に好きなメンマでもご馳走してやるさ」

 

 

 そんな事を言いながら星を抱えて訓練場を出ようとする一誠は、畏怖の顔でこちらを見ていた愛紗といった面々と目が合う。

 

 

「あ、訓練場借りました」

 

「え、あ……おう……」

 

 

 怠惰な男の見せた神のような力にすっかり萎縮をしてしまう愛紗。

 その横で何故かニコニコと……意味合い的には『何時からそんなホイホイと他所の女に気安く触れるようになった?』的なそれの紫苑に気づく。

 

 

「抱え方が少しいやらしいわよ?」

 

「は? どこが?」

 

 

 自分の時は適当な抱えかただったのもあって、簡単に言えば嫉妬をしている紫苑に対して、一誠はそこに一切気づかずにどこが悪いのかとわからない様子。

 

 こうして一誠はある意味怠惰で居ても見逃されるようになるのであった。

 

 

「私に稽古を付けてくださる時、主様はこう言っていた。

戦や一騎討ちに負けた奴が敗者になるんじゃない。

………最後まで『張り続けられなかった奴』が負けるとな」

 

 

 そして遥か彼方の天の頂へと到達した龍の帝王を追いかけようと飛翔を始めた竜は少しずつ『龍』へと到達せんとする。

 

 

「だから私も地の底へと堕ちようと、この先どんな屈辱や挫折を知ることになろうとも、この命ある限り、何度でも這い上がってみせるさ……!」

 

 

終わり

 

 

 

オマケ――おとーさんとおかーさんの仲をなんとかしたい璃々ちゃん。

 

 

 一誠が本当の父親ではないのは当たり前だが承知している。

 しかしそれでも一誠をお父さんと呼び続ける理由は、一誠に対して母である紫苑が惹かれている事を子供ながらに察しているからなのもあるし、単純に一誠が父親になってくれたら嬉しいからなのもある。

 

 故に璃々な子供の立場を最大限に利用して上手く一誠と紫苑を仲良くさせようと奮闘する。

 例えば三人一緒に寝たいと子供の立場を全開にして駄々をこねまくったら成功したり。

 

 

「……Zzz」

 

「おとーさんって寝るの早いね……」

 

「そうね……」

 

 

 でも寝付きが良すぎるせいで成功なんだけど失敗したり。

 

 

「あれ、璃々は?」

 

「桃香様とお花畑に行ったわ」

 

「ほーん?」

 

「そして私も今日は暇だったり……」

 

「へー?」

 

「…………」

 

 

 上手いこと二人だけにさせるのは成功しても、結局家でゴロゴロするだけなので実質的には失敗したり。

 

 

「ねぇ、おとーさんとおかーさんにお願いがあるの」

 

「んー?」

 

「りり、弟か妹が欲しい」

 

「すっげぇ無茶振り来たなオイ。

敵の勢力を全滅させる方が遥かに簡単だぜそりゃあ……」

 

「で、でも璃々もこう言っているし……? アナタさえ良ければ私は別に――」

 

「キミがそこら辺の男でも捕まえりゃあ良いじゃん。

俺は無理だけど」

 

「………」

 

 

 ドストレートにお願いしても断られたり。

 璃々の奮闘は中々上手くいかない。

 

 かと思えば………。

 

 

「ま、まさか主様がこんなにも酒に弱かったとは……」

 

「一口で卒倒してしまったのだ」

 

「ああ、しかしどうする気だ? 完全に起きる気配がないし、先程から紫苑にああしたまま微動だにしてないぞ」

 

 

 

 

「うー……ん」

 

「こ、困りましたわね……いえホントに……」

 

「よかったねおかーさん?」

 

 

 異常に酒に弱かった一誠が意識をすっ飛ばした際、介抱していた紫苑を抱き枕にしたまま寝てしまったり。

 怪我の功名というか不幸中の幸いというか、偶然起きたこの展開はあらゆる意味で好機だった。

 

 

「んー……あ、あれ……リアスちゃん……?」

 

「……」

 

「ま、マジかよ兵藤。

お、落ち着け紫苑……寝ぼけてるだけだからさ?」

 

「別に気にしてはおりませ――」

 

「リアスちゃん……? なんか……太った?」

 

「……………………………………………………」

 

「いでぇ!? にゃ、にゃんだ!?」

 

 

 結局はデリカシーが終わっている一言で粉々に吹き飛ばされる事になり、暫く一誠は紫苑から口を聞いて貰えなくなるのだったとか。

 

 

「な、なに!? お、俺はそんなことをあの子にしたってのか!?」

 

「あ、ああ……昔の恋人の名前を呼びながらな」

 

「う、うわ最低だな俺……。

それは流石に謝らないとな……」

 

「おとーさん……」

 

「お、おう……ちゃんとおかーちゃんに謝るよ……」

 

 

 

終わり




補足

どんどん人を辞め始めてる感は否めない。


その2
最近星さんに対して親身に接しているので、紫苑さんは面白くはない。


その3
リーアたんよりぷにってたせいでとんだ修羅場になった事がどこかであったらしい。

その後ちゃんと謝ったら許しては貰えたとか。

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