色々なIF集   作:超人類DX

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一応続き。
世間が群雄割拠時代化してる中、地元でのほほんとしてる様子。


野良犬執事と虎さん達

 

 

 

 壁を越えた時のあの快感に勝る物などない。

 

 勝ち誇った顔でニヤ付いている奴の顔をぶち抜く時の爽快感をガキの頃から覚えた俺はまともな人格ではないとはわかっている

 

 どこかの誰かが言ってた様に、多分きっと俺という無神臓(ジガ)を持ったあの日から、本来の俺とは正反対の精神と成り果ててしまい、もう戻る事など不可能な所まで来てしまっている。

 だがそれで良い。

 どこかの誰かに本来の自分という個性を取られたのだとしても、今更そんなものを取り戻す気なぞ更々ない。

 そんなものがそんなに欲しいのならくれてやる。

 

 

 俺が望むのはただひとつ。

 どれだけ走っても追い付けない最強の悪魔(サーゼクス)を越え、誰にも届かぬ遥かな領域へと到達すること。

 何物にも縛られぬ、この世の生物の誰もが到達していないその頂に到達すれば誰も俺から奪うことはできない。

 

 だから今回のこの嘘みたいな件にしてもそうだ。

 変態としか思えないないクソッタレに良い様に利用され、別次元の世界へと飛ばされたのも俺が弱いからに他ならない。

 普段の力をも制御されたのも、喧しい女共に圧されているのも全ては俺自身の弱さが招いた結果だ。

 

 認めなければならない。

 自分はまだサーゼクスに追い付けぬちっぽけな人間のガキであることを。

 

 認めなければならない。

 この意味不明の世界の女共が人間にしては妙に強いことを。

 

 認めなければならない。

 力を制御させられた途端元の世界へ帰還することすら儘ならない脆弱な己を。

 

 認め、己の不甲斐なさを怒りへと変えて固く閉じられた進化という名の扉を破壊する。

 そうすれば俺はきっとこの世界に飛ばされた時よりも更に強くなれるはずなんだ……。

 

 

 というか、そう思ってないとこの世界じゃやってられない。

 

 

 

 

 

 大きな戦争が終わり、大陸の各地が群雄割拠の時代を察知して力を溜め始める中、江東の地に本拠を構える孫家の勢力はといえば相変わらず同盟相手となる袁家からの頭の悪そうな命令をのらりくらりで回避しながら、この群雄割拠の時代の波に飲み込まれない為の準備やらなにやらに忙しくしている。

 

 と言っても、彼女等は別段倒した皇帝に取って替わるといった野望は持ち合わせおらず、どちらかと言えば自分達が生きるこの場所を守る為に奔走する側だった。

 

 強いて云うなら、無口で無愛想な青年と共に歩む未来への道を作る事が彼女達――というか彼をよく知る者達が掲げる共通の『野望』だ。

 

 

 

「……………」

 

 

 そんな野望を密かに掲げられてるとは知らない未来世界における悪魔の執事である日之影一誠は基本的には一兵卒に近い立場のようで、重鎮達の補佐を勤める幹部候補のような立場でもある――つまり地位が曖昧な状態だった。

 

 なのでたまに使用人がやっているような雑用を淡々と機械的に行う一誠の姿を偶々発見する一兵卒クラスの者からは様付けで呼ばれたりなんて事があったりなかったり。

 

 

「…………」

 

 

 重鎮の一部達とはまるで対等な立場のように喋る癖に、それ以外の者とは基本的に一切口を聞かない。

 当初は炎蓮の気まぐれから始まったただのお気に入りだからと思われていたのも、先の大きな戦争の際、炎蓮と二人だけで敵本陣目掛けて敵兵をなぎ倒しながら突き進んだり、砦を守る敵将との一騎討ちに勝利したりという実績のお陰か、そういった疑念は消え始めていた。

 

 しかしそれでも基本的に日之影一誠――江東に迷いし『狂犬』は一握りの者以外とは喋らないのだった。

 

 

 

「うーん……」

 

 

 誰にも懐かず、誰にも牙を剥く。

 その牙は孫家の当主たる炎蓮にすら構わず向けられる――

 

 しょっちゅう炎蓮相手に殺し合いに近い模擬戦を繰り広げ続けるという事で本人の知らぬ所で付けられた渾名が『狂犬』。

 

 普段は決して群れようとはせず、馴れ合いを嫌うだけの大人しい野良犬だが、ひとたび戦いとなると敵の息の根を止めるまで牙を剥き続ける様を――なにより先の戦争の際の呂布との一騎討ちの際の苛烈さと恐怖すら覚える妖術を扱った時の『狂気の形相』が狂犬と呼ばれる由来だった。

 

 

「どうしよっかなー?」

 

 

 そんな孤高の野良犬状態である一誠がせっせと使用人がやるような仕事をしているその姿を物陰から覗くようにして見る者が一人。

 その者はせっせせっせと城内部全体を迅速かつ丁寧に掃除する一誠の様子を注意深く伺いながらなにかに迷っているように呟く。

 

 

「いきなり声とかかけたらまた吐かれちゃうかもしれないし……。

かといって雪蓮か冥琳を介して話をするってのも違うし……」

 

 

 

 この地域特有の褐色肌の女性。

 暗めの赤い頭髪を持つその女性の名は大史慈という女性であり、少し前にその分け隔てない性格で一誠に話し掛けたら目の前で吐かれてしまい、挙げ句の果てには傍に居た雪蓮に通訳させて直接の会話を拒否られた女性だった。

 

 普通の感性を持つ者ならその時点で二度と一誠のような極度のコミュ障と話そうだなんて思うこともなくなるのだが、ああも拒否されたせいもあってか逆に納得の方ができなくなったらしいのと、先日の戦の際、宣言通り最前線に出てしまった炎蓮を『一切傷つけずに守った』姿を知ったので、寧ろ興味の方が沸いてしまっていた。

 

 

「………」

 

「さて、どうやって声をかけてみようか……」

 

 

 とはいえ、流石の大史慈――真名を梨晏も目の前で吐かれながら『話すなんて無理』と言われてるので、何時ものようには話しかけるのは憚れる。

 けどどうしても話はしてみたい。

 

 

 そんな事を思いながらタイミングを伺っていた梨晏はふと気づいた。

 

 

 

「蓮華様、あのようなケダモノなぞとそこまで関わる必要はないのではありませんか……?」

 

「そうかもしれないけど、やっぱり納得できないのよ。

私は決して地味女じゃないし……」

 

「奴の戯言など気にする事など……」

 

 

 

 

 

「最近日之影さんは文字の読み書きを覚えられたと冥琳さんから聞きましてね~

となれば書を介してお話ができる良い機会なのではないかと~」

 

「は、はぁ……しかし日之影様はなにやらお仕事の途中ですし、無視をされてしまうのでは……?」

 

 

 

 

 

「あれれ?」

 

 

 

 向こうには孫家の次女とその側近が。

 

 反対側には冥琳の補佐役の軍師二人が其々コソコソと掃除をする一誠を覗いている事に梨晏は気づいた。

 

 

「皆日之影とは一言も話ができない人達だ……」

 

 

 どうやら自分と同じ考えに至った者が他にも居たらしいと梨晏はぼんやりと考えるが、即座にハッとする。

 

 

「……これ、もしこの中の誰かが先んじて日之影と話せたらますます機会を失う事になるんじゃあ……」

 

 

 ただでさえ日之影という男はしゃべろうとしない男であり、とことん興味ない者には無関心なのでここで一人でも例外が増えたら余計難しくなる気がする。

 

 

「や、やあ偶然だね日之影~!」

 

 

 

 そう考えた梨晏は少し焦りながら別の場所へと移動しようとする一誠に向かって物陰から飛び出し、勢いそのままに一誠へ話しかけようとした。

 その瞬間同じく物陰から見ていた者達が『出し抜かれた』と焦る中、桶を抱えていた一誠は……。

 

 

「あ、ちょ、ちょっと!?」

 

 

 梨晏を見ることもせず、全力で駆け出して逃げてしまった。

 それはまるで外敵を察知して逃げる野良犬のように……。

 

 

「そ、そんなに嫌なのかな私のこと……?」

 

「「「「………」」」」

 

 

 そのあまりの逃げっぷりに、最早嫌われてるのかとすら思ってしまう梨晏も流石に傷つき、しゅんとしょげてしまい、同じく一言も会話が成立したことのない組達も、炎蓮や雪蓮といった者達との違いすぎる対応の差に複雑な顔をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 一人でする雑用の気楽さをある意味楽しんでたら、よくわからない女共に囲まれたと察知した一誠は全力でその場から逃げ出した。

 

 

「ちっ、とことん訳のわからん女共め……」

 

 

 ただでさえこの世界の女は――というかこの地域の者達は軒並みおかしな感性ばかりで、近寄るなオーラを出しても何故か絡んでくる。

 ある意味元の世界の悪魔達に近いともいうべきものなのだが、一々仲良しこよしする気なんてないし、そもそも仲よしこよしするメリットが無い―――と、正面切って話をするのが単に苦手なのをそういった理由で誤魔化しまくる一誠は、梨晏といった者達がただただ傷つきまくっているのを知らないで、自作の清掃用具を自室にしまう。

 

 

「ほっとけってんだ……こんなワケわからん野郎なんぞ」

 

 

 

 ぶつくさ言いつつ自室の軽い掃除も終わらせた一誠は、このまま外に出てトレーニングでもしようかと考え―――

 

 

「………………!」

 

 

 背後に突如現れた殺気を察知し、とっさにその場にしゃがむ。

 すると鈴の音と大気を裂くような鋭い音が同時に静寂だった部屋に鳴り響く。

 

 

「……っ!」

 

 

 間違いなく背後から殺ろうとしたと判断する一誠は虚を突いたつもりが避けられたと、僅かに動揺の息を洩らす背後に立つ誰かに目掛けて地に手を付ながら思いきり蹴りあげた。

 

 

「がっ!?」

 

 

 後ろ蹴りにより腹部を貫かれたその者は盛大に吹っ飛び、部屋に置いてあった椅子を破壊しながら壁に叩き付けられる。

 

 

「ぐ……ぅっ!?」

 

 

 そしてそのまま首を掴まれ、片手で締め上げながらよくよく見てみれば、確か例の地味女こと次女の傍に四六時中居る女だったと一誠は気づく。

 

 

「………………」

 

「ぐ……ぐぐっ……!」

 

 

 さてどうしたものか……。

 なんのつもりで後ろから殺しにきたのかは知らないが、返り討ちのつもりでこのまま絞め殺すとなると厄介な事になりそうな気がしないでもない。

 

 そう判断した一誠は苦しそうに呻く甘寧という女性の持っていた剣を取り上げた上で反対側の壁目掛けてぶん投げる。

 

 

「ごほっ! ごほっ!?」

 

「…………………」

 

 

 あっさりと避けられたあげく武器を取り上げられて返り討ちにされた甘寧なむせながら石像のような無表情面で自分を見下ろすように見ている一誠を悔しげに見やる。

 

 

「……………………………………………」

 

「り、理由を聞かんのか貴様は……? 何故突然私が貴様を襲撃したのかを……」

 

「…………………………………………………」

 

 

 忌々しそうな目付きで睨む甘寧の言葉に対して一誠は表情を変えることなく冷たい目付きで彼女を見ているだけで口は開かない。

 一誠としてもそこの所は気になるにせよ、こんな性格やら態度してるのだから恨みを買われても不思議ても珍しくもないと思っているし、なにより何を言って良いのか微妙にわからない。

 

 

「知るかどうでも良い。見なかった事にするからとっとと消えろ」

 

 

 考えに考えた結果、コミュ障執事が捻り出せた言葉は実に冷たいものだった。

 それは甘寧にしてみれば――

 

 

『貴様程度の雑魚の相手なんぞ一々してる暇なんてない』

 

 

 と言われてる気がするだけだった。

 一見すれば華奢でひ弱そうに見える男に徹底的に相手にすらされてないという現実は酷く彼女に挫折を与えた。

 

 

「…………」

 

 

 こうして会話が可能な相手とそうではない相手との温度差が広がっていく事になるのだった。

 

 

 

「炎蓮様のように戦えるだけの力量を示したら少しは興味を持つと思ったのに、まるで相手にされませんでした……」

 

「わー、やっぱり強いね日之影……。そして容赦もない」

 

「こ、これではますます母達と私達の格差が……。

地味女と思われるままに……」

 

「一体何がいけないのでしょうかねー……?」

 

「そこを理解しないと始まらないような気がします……」

 

 

 

 

 

「な、なんてことするのよ!!? ま、また私の服だけ吹き飛ばすなんて!!」

 

「ヒャーッハハハハ!! 服とは思えねぇ服なんだから関係ねーだろ! ギャハハハ!!」

 

 

 

「アイツ、まーた雪蓮にあんな事してんのかよ?」

 

「ああいう時の一誠は途端に子供じみた真似に走りますからね。しかも雪蓮にだけ」

 

「て事ァ……上手く雪蓮がその気にさせりゃあ一誠をここに留まらせる事が出来るって訳か。

誰も出来なきゃオレがと思ってたが――いやまあオレと雪蓮でやりゃあなんとか出来るか?」

 

 

 

 ましてや雪蓮を虐め倒す時のキラッキラとした顔をなまじ見てしまっているので。

 

 

「酷いめにあったわ……」

 

「振り回す側であるお前が、一誠には振り回されるからな」

 

「本当よ……。

あんな事はするくせに、それ以上のことは酔っぱらいでもしない限りはなーんにもしないなんて……」

 

「しかし炎蓮様とは違う意味で雪蓮は一誠の感情を引き出せているとは思うぞ?」

 

「う、うーん……。それを言われると悪い気がしないのが複雑ね」

 

『……………』

 

 

 一体本当に何がどう違うのか。

 からかう冥琳と言われて微妙な顔をする雪蓮と、当たり前のように一誠におんぶされてる小蓮……そして何故か例外レベルで言うことをある程度聞く存在になっている雷火を見ながら彼女達はモヤモヤモヤモヤとするのであった。

 

 

「酔うと凄いのがまたねぇ……」

 

「ああ、あの時は凄かった。

というか、一誠にあんな事されたせいで最早他に替えが利かなくなった身体にされた気がしないでもない」

 

「それよそれ……。

はぁ……本当にどうしてくれるのよ……?」

 

「しかし私の予想だが、酔わない状態のアイツとそこまでに至ったら、とても素直になりそうな気がしないか?」

 

「ある意味今も素直っちゃあ素直だから、ありえそうだわ。

こう、すっごく大切にされそう」

 

「どうすればそこまでに至れるかだな。

そこに関してはどうやら未来の時代に居る一誠に近しい者達も到達はしていない様だ」

 

 

 

 彼女等も彼女等で別の悩みを持つようになったりしながら……。

 

 

 




補足

母、長女、長女の側近、末っ子、重鎮オバさ――もといお姉さん達―――くらいしかほぼまともに話せません。


その2
三馬鹿モードだとほぼ全デレ化しとる蓮華さん達は悲しいことに避けてるというか、自己主張が薄めだったので会話ゼロのままだという。


その3
どこかの魔王少女に対する真似を長女さんには嬉々としてする。

毎度手合わせ中に服だけ吹っ飛ばされるとか

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