折角の作戦をパァにされてしまい、自分が管理を任されている人間界の町に侵入してきた堕天使一派を自分の眷属が皆殺しにしてしまってから時は流れていく中、リアスは何故だか知らないが、その作戦をパァにされた事で何かしらの利益というか棚からぼた餅的なものまで失って損でもした気分がしていた。
こう、自分にとても有益な何かを破壊されたかのような……。
とはいえそれは所詮そんな気がしているだけだったし、眷属候補としてイッセーが居るのでリアスは忘れることにした。
ある意味当たらずとも遠からずだったりするのだけど。
「あまり触れずに居ようとは思っていたのだけど、イッセーはクラスのお友だちとかは居ないの? しょっちゅう小猫と一緒にいるみたいだけど……」
「あーいや、一年の頃は友達とは言えずとも話をする人とかは居たんですがね。
女子更衣室とか覗きに行こうぜー! とか誘ってくれる男子とか」
「あら意外ね」
「何と無くイッセー君にはお友だちがたくさん居るイメージがありましたわ」
「そうっすか? でも二年になってからはそいつらからもシカトされちゃってますね……。てか何ならクラスどころか学園の男子達からむっちゃ嫌われてますよ」
「え……いや僕はそんなつもりじゃ」
「あ、ごめん、木場以外でした。
多分というか間違いなく白音が入学してからは……まあ、そんな感じッス」
「あー……」
「なんとなーくイメージできますね……」
堕天使皆殺し騒動以降は特に目立った騒動もなく、やることといえば悪魔としてのお仕事かこうして部室で他愛の無いお話であった。
「私は悪くありませんよ。
休み時間やお昼休みに先輩の所に行って何が悪いんですか?」
「つまり単純に嫉妬みたいなものかしら」
「と、俺は思いますよ。
もっとも、別になに思われようが言われようが気にしてませんけど」
「イッセーもイッセーでブッ飛んでる所があるものね……」
イッセー関連では常時ブッ飛んでる白音とは逆に、普段は無害な少年であるイッセーだけど、一度スイッチが入ると白音に劣らぬ狂暴性を剥き出しにする光景を何度も見ていたリアスは苦笑いを浮かつつ、この前白音に粗相をしでかしたあの人間はお気の毒にと思う。
何せ容赦ゼロで歯を全部へし折られ、骨も折られ……。
白音もそうだが、よくもまあ殺し合いとなれば間違いなく格下である自分の眷属になってくれているものだと最早他人事のように思えてしまう。
証拠に幼馴染みであり、ライバルでもある生徒会組ことソーナ達は以前の一件のせいか完全にイッセーと白音に怯えているのだから。
「匙君だったかしら? 最近ソーナの兵士になったあの子の耳がちゃんとくっついていて良かったわ……」
「あれは嫌な事件でしたね……」
「…………。小猫、それは突っ込み待ちかしら?」
手持ちぶさただったこともあり、なんとなくリアス、朱乃、祐斗、白音、イッセーの五人でトランプをしながら雑談をする。
「あれは報酬を渋った向こうが悪いと俺も思うんですがね……」
「そこに関してはまあ私と同意はできるにしても耳を噛みちぎるのはやり過ぎよ……あ、揃ったわ」
「部長の幼馴染みだからと高を括ったのでしょうね。
でもそんな事を良しとしてたらどんどん付け込まれるだけです」
「確かにいくら親しくても線引きはすべきだとは思いますわよ?」
「わかってるわ」
「…………ぐ。(またババを引いてしまった……)」
どこかの世界では憎悪により崩壊しきっていた事など誰も知るわけもなく、のほほんとトランプを楽しむリアスと眷属達なのであった。
「ところで相談があるというか、意見が欲しいのだけど……」
「なんですか? おっ、揃った」
「胸のサイズがまた大きくなったとか系の自慢話をする気だったら一発ひっぱたかせて貰いますが?」
「ち、違うわよ。
イッセーと小猫にはまだ言ってなかったのだけど、最近実家から勝手に婚約の話を決められちゃったのよ」
「え、そうなんですか? 確か部長さんの実家ってスゲー金持ちっすよね? やっぱ相手も金持ちなんですか?」
「お金持ちなんてどうでもいいのよ。
というか私はそんな話に了承したくもないし、もっと言えばその相手自体が嫌なのよ」
「あら……」
「ちなみに聞きますけど、その相手とは?」
「フェニックス家の三男」
「あー……なーんか噂程度には聞いたことがあるような。
アレですよね、確か眷属を全員女性で固めてるとかなんとか……」
「眷属である私達からはあまり大きな声では言えませんが、その通りの性格でしたよ」
「へー、所謂ハーレムってやつなんだ」
「そういう訳だからちょっとどころじゃなく嫌だというか、結婚相手は自分で見つけたいし……」
そう最後の一枚が揃って一番に上がったリアスに持ち上がっている話を聞くイッセーと白音。
「それで今度その話をする為にそのフェニックスの三男が部室に来る訳なのよ。
それで小猫に一生のお願いが――」
「嫌です」
「――な、内容くらい聞いてくれてもいいじゃない」
「どうせイッセー先輩に恋人のフリでもさせようって話でしょう? 祐斗先輩に頼んだら良いでしょう?」
「や、僕はそういう演技とか苦手だし……」
「それを言ったら俺だって苦手だぞ」
「祐斗君はある程度リアスの騎士として相手にも知られてますからね。
その点まだ候補であるイッセーくんの事は向こうも知りませんという意味もあるのでは?」
「じゃあそこら辺の人間の男に頼めばいいじゃないですか。
リアス部長といえどそんなの嫌です」
イッセーが二番目に上がり、その流れで白音も上がると朱乃と祐斗のタイマン勝負となる中、白音は反対と言い張る。
「そもそもそんな付け焼き刃で誤魔化せるかというのもありますが、向こうがそれを聞いて『はいそうですか』とでも言って婚約話を無かったことになんてするんですかね?」
「無いでしょうけど、理由ありきで主張すればどうにか解消させる為の条件を獲られる所まで持ち込めると思ってるわ。
それにほら、小猫と常に色々としてそうなイッセーなら女の子の扱いに慣れてそうだし……」
「いやいや、全然馴れてないっすよそんな――」
「つまり先輩が私にしてくれることと同じことを演技とはいえ部長にするんですか? ますます嫌ですね。
先輩とお風呂で湯冷めするまでするのも、お布団の中でビシャビシャにさせられるのも、全部私だけのものです」
断固拒否の姿勢を崩さず、朱乃と祐斗の攻防を見ていたイッセーの頭を抱き寄せるように抱く白音にリアスは肩を落とす。
「ビシャビシャってなによ……」
「ビシャビシャはビシャビシャです。
ああ、部長はならないんですか? ビシャビシャに……」
「な、ならないわよ……!」
「へー……? 悶々と一人遊びしてそうな顔してるのに?」
「し、失礼ね!? そ、そりゃあ何度かあるけど……」
「ふふん、私は先輩にビシャビシャにされてますけどねっ! 優しく……でも気持ちいいんですよこれが……」
「あ、あっそう……」
「あの……絶妙に恥ずかしいんだけど」
というか、予想していたより結構ハードなやり取りをしてるのだと自分より大人な事をしている眷属二人にちょっと赤面してしまう。
「先輩って結構甘え気質なんですよね。
今日の朝だって私の胸を赤ちゃんみたいにちゅーって――もがもが」
「マジやめろ……!」
「なんなのよ、この敗北感……」
結局断られた挙げ句敗北感だけ貰ったリアス。
「というよりもっと簡単な方法がありますよ。
そのフェニックスの三男を暗殺してしまえばいいんです」
「あのね、どうであれ純血悪魔なのよ……。流石にそこまでの危険は犯せないわ……」
いくら好かない男とはいえ、殺すまで嫌っている訳ではないと言うリアスは、仕方ないので別の方法を考える事にした。
しかしそのフェニックスの三男がやって来た当日……。
「今なぁウチの部長ええ感じやねん」
リアスはグラサンを掛け、エナメルのポーチを抱えるという出で立ちになってるイッセーのお陰で思わぬ展開とチャンスを手に入れる事に。
「分かる? 何をお前、ウチの部長の気持ちも分からんとや? そっちは古くさいホスト崩れのスーツ着て、そっちは最早時代遅れのメイド服着ていちびっとんねん?」
「な、なんでイッセーは関西弁なの? それに何あの格好……?」
「実はこの前の休みに先輩と関西のたこ焼きを食べに行った時、大学か何かの野球部が練習しているのを見ましてね。
その時野球部の人だと思われる人が多分監督だと思われる人に凄い怒られてお説教されてたんですよね。
その監督っぽい人の真似をしてるんだと思います」
「へ、へぇ……? で、でも凄いわね、ライザーはともかくあのグレイフィアまで直立不動になってるわ。
いやグレイフィアは別に怒られる必要ないのだけど……」
偶々先日の休みに関西まで遊びに行った際に見たとある大学の野球部の一幕に完全に影響されまくっているイッセーによって、本来なら取るに足らぬ人間風情と見下すライザーや、リアスの義姉にて魔王の妻ですらあるグレイフィアすら妙に貫禄のあるガラガラの声で説教をするイッセーに直立不動となっていた。
「あ? 履き違えるな!」
「す、すいません……」
「こ、こちらの準備不足でしたわ……」
「す、凄いわ! ふ、二人が何故か謝ってる……!」
挙げ句の果てに本気で頭まで下げる二人にリアスは妙な感動すら覚えた模様。
「分かるか? リアス部長を筆頭に、ええ感じになっとんねん」
「「………」」
「お前らみたいなゆるいゆるキャラは要らない。
ハッキリ言って邪魔! 害悪! わかる?」
「「」」
「もういい……出ろ!」
そして最期に出ろと命じれば、ライザー・フェニックスやその眷属達、果てにはグレイフィアまでもが部室を出ていくのであった。
「………………。おぉ、冗談半分で真似したらめっちゃ効果あったわ。
やっぱあの野球部の監督っぽいおっさんってスゴかったんだな……」
出ていくのを確認した途端何時ものイッセーに戻り、グラサンを外す。
「って、追い出してどうするのよ!? 私の問題は解決になってないじゃない!」
こうして慌てて呼び戻したリアスは萎縮しっぱなしのグレイフィアによってレーティングゲームで白黒付ける事を提案されるのであった。
終了
補足
お姉ちゃんの事なんか最早言えんくらい毎日盛ってる模様。
まあ、殺し合いする関係の時点でそんな感じだったし、仲良くしてたらこうもなるってね。
その2
グラサン掛けてエナメルポーチ抱えてる関西弁の野球部の監督―――の元ネタは多分知ってる方は知ってるかと。