執念を超えた怒りを燃やした。
だけど燃えたぎる怒りを更に超えた執念を知った。
明確な答えがだせない何かを求め続け、そして見つけた。
自分の抱く執念と同等の怒りを持つ者と。
だから俺は――
だから私は――
―――一緒に居る。
誰が何時言い出したのかはわからないけど、人間達は私を『癒し系』がどうとか言う。
多分私の外見でそう言ってるのだろうけど、その連中達はそれだけ私の個の事を見抜けていない訳で。
つまるところ、私はそういった連中には興味なんてない。
私にとっての全てはこの世でただ一人。無色に見えた世界に色を与えてくれたあの人だけ。それ以外がどうなろうが知ったことじゃあない。
死にたくないから一緒に居る。
そんな理由で四六時中行動を共にするとある少年と少女が居た。
その内の片割れであやり少女はある理由があってある悪魔の眷属となっているのだけど、その主が彼女を制御できているのかと言われたらそうではなく……。
「一応言い訳だけは聞いてあげるわ……どういう事かしら?」
「や、マジで違うっす。
単に作戦が白音にバレただけっす」
「…………」
当たりと思ったら爆弾のような危険生物を眷属にしてしまった悪魔の少女は微妙に困った顔をする少年と、その隣に座って呑気にお菓子を食べている白髪の少女をジトっと睨むのだった。
「小猫が何をしたの?」
「部長さんに言われた通り、ヘラヘラしながら人間に化けた堕天使を釣り上げたまでは良かったんですが、普通にそれがバレて白音が殺っちまいました……その堕天使のお仲間もろとも」
悪魔としての協力者兼、将来的には眷属にしようと思っている少年の説明に、リアスの目付きが更にジトっとしたものに変わるが、その視線を向けられている――少年からは白音、リアスからは小猫と呼ばれている少女の態度は変わらない。
変わらないどころは寧ろ『自分は悪くない』とばかりに言う。
「私に内緒でイッセー先輩に変な事を頼むからこうなっただけです。
嘘ではあってもあの堕天使は先輩に色目使いましたからね。
そんなバカな雌に生きてる資格なんてございませんから」
「………だ、そうっす」
「………………」
困った顔をするイッセーと呼ばれた少年にスリスリと猫のように懐く白音にリアスはため息を溢す。
「私はこの町に最近入り込んできた堕天使達の動向を探ろうと思って、まだ悪魔に転生させていない彼に頼んで素人の人間を装わせたのよ」
「知ってます、ぶち殺してやった後に先輩から聞きましたから」
「………。何度も言うけど、そんな簡単に別勢力の存在を殺しちゃ困るのよ。
こっちにも立場というものがあるし、なにが切っ掛けで戦争になるかわからないの」
「でもリアス部長のその様子からして、あの連中は堕天使の組織の意向とは無関係に好き勝手やっていたから、殺しても問題にはなってないのですよね?」
「……アナタが狂暴な猫のようにレイナーレ一派を皆殺しにしたとイッセーから聞いて生きた心地がしない気持ちで堕天使側に問い合わせたらそうだっただけよ……」
「それなら良いじゃないですか。
あのクソ雌、私に八つ裂きにされた後も命乞いのつもりか先輩に舐めた事をほざいてましたから、どうなろうとぶち殺してやってました」
「………レイナーレは最期になんて言っていたの?」
「あー……助けてくれたらアナタを愛してなんでもするから――とか言ってたよーな。
まあ、お察しの通りリアクションをする暇もなくキレてた白音に食い尽くされてしまいましたが……」
「………はぁ」
普段は割りと忠実な癖に、一定の条件を踏むと制御不能と化する眷属に再びのため息を吐くリアス。
その制御を少しでもまともにさせる為に、今はまだ人間であるイッセーも将来的に引き込もうと考えているのだが、実はこのイッセーもイッセーで白音に負けず劣らずの制御不能っぷりを爆発させることがある。
故に今の自分の実力的な意味で転生させられないという意味でも見習いという位置について貰うのが現状だった。
「お茶のおかわりはいかがですかイッセーくん?」
「へ? あ、ういっす……」
「………」
「そ、そんなに睨まなくても何もしないわよ小猫ちゃん?」
「…………してたらとっくに副部長をシャクシャクしてますから」
白音と一誠が何時出会ったのかについては詳しく知らない。
ただ白音が言うにはリアスが眷属にする前から既に出会っていたらしい。
純人間である彼と猫妖怪というべき彼女がどこでそんな接点を持ったかはわからないにせよ、とにかく白音は一誠に少しでも異性が近寄るだけで危険ゾーンに入る。
今も仲間である筈の自身の女王に向かって殺意を向けてる始末。
「大丈夫かいイッセー君?」
「慣れてるからな……」
同性である騎士の少年はセーフらしいが、とにかく白音は異質なレベルでイッセーへの独占欲が強いのだった。
「あ、そうそう。
昨日のシトリー様からの依頼についてなのですけど……」
「ああ、ソーナが手伝って欲しいと頼んだやつね? なにか問題でも……?」
「いえ、きちんとお手伝いはしましたけど、正当な働きに対する正当な報酬を要求をしました。
そしたらシトリー様は貸しにして欲しいと言ってきました。
でも貸しにした所で返ってくる保証がないので、断ってそのまま要求をしました。
そうしたら――」
「そ、そうしたら?」
「最近あの方の兵士として入った……あー……? 名前が何なのかは忘れましたけど、その兵士の人がいきなりムカつきだしました」
「………」
「正直言うと、私と先輩もムカつきました」
「ま、まさかソーナ達を……?」
「別に殺しちゃいませんよ? ただ、その兵士の人の耳を噛みちぎって、耳朶を地面にそのまま吐き捨ててやったら喜んで報酬を渡してきたので、部長に渡します」
「」
果たしてちゃんと制御できる日は来るのかと、幼馴染み悪魔の仕事の手伝いに二人を寄越したのを後悔しながらリアスは項垂れるのだった。
「じゃあ今日はここまでに……」
「そうですか、じゃあ帰りましょう先輩?」
「ん、ではまた明日」
今後はちゃんと話を聞いてくれ、あともうちょっとマイルドになってくれと言われてこの日の『部活』を終えたイッセーと白音はその帰り道を共にする。
「まったく、お前がいきなり現れたかと思ったら説明の暇なく皆殺しにしちまったから怒られたじゃんか?」
「嘘でもなんでも嫌なものは嫌なの。
逆に聞くけど、もし私がそうだったらどうなの?」
「そりゃあ……まあ……」
繋がりというものは、そう簡単に切れるものではない。
ましてや、共に修羅場を潜り抜けただとかそんな経験を共にしてきたともなれば、付け焼き刃の何か程度では切れたものではない。
強すぎてその仲の良さが気持ち悪いとまで言われてしまう―――そんな繋がりがあり続ける世界のお話が………。
「だけどお前が入学してからは、休み時間だろうがなんだろうが俺のクラスに来るせいでなんか嫌われちまってんだけど……」
「そんな連中なんてどうでも良いでしょう? 先輩には私が居るんだから」
「それ言われると微妙に言い返せないって思ってる俺も大概終わってるのかもな……」
基本的にとても大人しい美少女として通っていて、学園内でも五指には入るであろう人気者の一人であるのが塔城小猫――真名を白音である。
絹糸の様な白い髪と、金色の瞳はどことなく小さな猫を思い起こさせるとして、癒し系なマスコットなんて呼ばれることもしばしばある。
もっとも、塔城小猫なんて呼ばれている彼女には真の名があり、彼女自身が呼んで欲しいと思った相手にしか決して呼ばせようとはしないなんて事もあるのでわざわざ偽名で通す。
もっと言ってしまえば、大人しめな美少女というのも正解ではあるが不正解でもあるのだ。
白音にとっての全ては彼だ。
自分にとっての先輩でもあり、仲間でもあり、家族以上の繋がりがあると信じているこの青年。
「手、繋ぐか?」
「もちろん……ふふっ♪」
ちょっとおちゃらけているけど、少女にとって大切な者。
大切に思いすぎて、少しでも彼が他の他人と話しているのを見ると、気が狂いそうになる程度には少女は彼が大好きだった。
「前にイッセーくんと同じクラスってだけで話しかけてきた女が居た時は殺してやりたい気持ちをちゃんと押さえ込めたし、少しは成長したでしょ?」
「先生に呼ばれてるって教えてくれただぞ」
そんな少女の少々重い気持ちに対してイッセーは上手く付き合ってあげている。
自分の些細な行動だけで過激な行動をしてしまう事に苦労することはあれど、それでもイッセーにとっては可愛い後輩であり、同じ釜の飯を食い続ける者なのだ。
その妙に地に根付いたような構えた態度だから、余計に白音が傾倒してくると気づかずに。
これは、そんな白い少女のお話
私はイッセーくんと手を繋ぎながら家へと帰る。
勿論私とイッセーくんは同じ家に住んでいる。
「しっかしあのシトリーの新しい兵士の人はクソ不味かったなぁ……」
「お前のその悪食はなんとかならないのか?」
「性分ですからねぇ。
もっとも、私はやっぱりイッセーくんの味しか美味しいなんて思わないです」
そして転生悪魔になった理由もただなりたいからなった訳じゃなく、私もイッセーくんも其々それしか生き残る方法がなかったから。
イッセーくんと私には親がいない。
……いや、私に関しては姉が存在していたけど、もう多分二度と会うこともないでしょうし、イッセーくんとは絶対に会わせたくはない。
そしてイッセーくんも『その異質さ』のせいで両親を失い、今はリアス部長の実家の応援によって生活をしている。
だから私とイッセーくんは帰る家が同じ。
それは私が望んだ事であり、一般人の生徒共は知らない。
そして家に帰れば、私とイッセーくんはただの先輩と後輩ではなくなる。
「イッセーくん、ご飯の前に先にお風呂に入ろうよ?」
「別にいいけど、そろそろいい加減一人で入ったらよ?」
「良いじゃん、昔からそうなんだから! ほら!」
兄妹、親子、恋人……色々な関係はあれど、私達の関係はそれを越えたものだと思っている。
お互いが存在しなければこの世に価値など無いと思えるような絶対的な繋がり。
「~♪」
「白音も大きくなったな……こうして見ると」
「え、本当……実は最近胸がちょっと――」
「そっちじゃなくて背だよ背。それにそこに関しては……まあ、うん」
だから誰にも渡さない。
この繋がりを私から奪う輩は誰であろうが喰い殺す。
それが私の生きる意味なのだから……。
「ふーんだ。そんな事だろうって思ってたし、どうせ私はぺったんこだもん。
イッセーくん好みじゃない貧相ボディですよー」
「そんなに卑下するなよ……。別にだから嫌いだって思うわけもないんだしさぁ?」
「うん……知ってるけどたまに不安になるから」
そう自分のあまり成長しない胸に触れながら湯船に浸かる私に、クスっと笑う先輩――いえ、イッセーくんはポンポンと頭を撫でてくれる。
「そういう可愛いところ、俺は好きだぜ?」
「もー……でも嬉しい♪」
どれだけ私が過激な事をしても、イッセーくんは笑いながら受け止めるのだ。
だから私は好きなんだ。これまでも……これからずっと。
「ねぇ、今日もイッセーくんが欲しいな……?」
「はいはい、湯冷めしないようにちゃんと温まってからな」
「あは♪」
だから誰にも渡さない。
奪うというのなら全部喰い壊してやる。
破壊コンビの日常――始まらない。
白音の破綻した異常な気質と精神に押されがちに見えるが、実の所イッセー自身もまた異常で異質で、不安定な精神を宿している。
例えば白音は見た目だけなら実に愛らしい容姿の美少女なので、現在通う学校でも人気がある。
中には見た目に黙らされた輩が白音に対して少々行きすぎた真似をする事もある。
しかしそんな輩は総じて『失踪』する。
何故なら。
「いいか良く聞けよ虫けら野郎? あの子とはガキの頃から同じ釜の飯を食った仲なんだ。
俺はその時から誓ったぜ、あの子にふざけた真似をする馬鹿は生皮を剥いでやるってな……!」
一度スイッチが切り替わると、とてつもなく凶暴化する彼により消される運命となるから。
「わ、悪かった! も、もう二度と小猫ちゃんに近づかないから許してくれ!」
「い、イッセー……? その、彼もこう言っている事だし、許してあげても――」
「は? おいおいおいおい!? 白音はアンタの眷属でもあるんだぞ? テメーの眷属の為なんだから、普通だったらコイツの歯を全部へし折りたくなる筈だろうが!!」
「そ、そこまでするわけには――」
「それとてめぇ!!」
「ひっ!? は、はい……!!」
かつて両親にすら存在を否定され、そして捨てられた事で『自分は誰からも認められない』という闇を抱えてきた一誠は、生まれて初めての『自分の同類』であり『自分を一人の人間として受け入れてくれた』白音を何よりも大事にする。
だが、そのやり方が他から見れば『異常』そのものであり、不安定な精神を抱える爆弾のような男にしか見えない。
しかしそれが一誠であり……。
「さっさと死ねボケが!!」
「げぶぉっ!?」
「死ねっ! 死ねっ!! 死ねっ!!!」
「や、やめなさいっ!!」
ある意味で前向きな少年だった。
「あらら、見事に手足の骨も歯もへし折られてますね。
これは二度とステーキは食べれないかな?」
「これでも足りねぇくらいだ。お前の盗撮なんぞしてたからな……」
そんな二人が何故一介の悪魔の眷属になっているのかは疑問が残る所だが、少なくとも主となるリアスは制御不能な爆弾である二人に頭が痛い。
「一応そこら辺の消しカスにも劣る輩に写真を持たれるのは嫌なので、この人の家ごと破壊してきました」
「なっ!? な、なにを馬鹿な事を!? そんな事をしたら――」
「大丈夫ですよ。たまたまこの人の家の上空から隕石が降ってきてしまったというだけの事故と見せかけたので」
やることが過激で極端。
その癖自分達に実害がない件にはやる気がない。
同年代とは思えない力の強さだけに目が行ってしまって眷属にしたのは間違いであったと思わされる程に、二人は制御不能だった。
「また実家から言われるわ……」
リアス・グレモリーの受難はまだまだ続くのだ。
「そ、それとだけど……その、これはゲームに勝つための合宿なのよ? べ、別にするなとは言わないけど、もう少し声を抑えて貰えないかしら?」
「あ、すんません…」
「わざわざ聞き耳を立てるのもどうかと想うのですがね……」
補足
敵意が無いのでこんな関係になれた。
敵意がないので人外絶対殺すマンにならなかった。
ただし、隙あらばねっとりとしたイチャイチャしてるので別の意味で辛いらしい。