『もしも』という、とても便利な言葉がこの世にはある。
これはそんな『もしも』な話。
赤龍帝イッセーとリアスちゃんと……
恐らくは死んだ方がマシと思える精神的な暴力を、仲間や友人と信じていた者達から受け、更には味方であってくれる筈の肉親達からすらも受け続けたリアス・グレモリーは、自分の意思すらも無視して推し進め様とした周囲に恐怖を抱き、何もかもかなぐり捨てて飛び出した。
逃げた所で逃げ切れるとは思えなかった――しかしそれでもリアスは逃げるという選択をした自分の意思をからは逃げたくはなかったのだ。
だからリアスは逃げた。
「こっちよリアス……!」
「ま、待ってソーナ……!」
歪み始めた時から疎遠になり、でも歪んではいなかった、今となっては唯一の親友と共に。
「な、なんとか人間界まで逃げて来たけど、このままでは見つかるのも時間の問題だわ……」
「つ、捕まったら私だけじゃなくてソーナまで……」
「そんな事は百も承知よ。
けど、あんな狂った場所にアナタが押し込められるくらいなら、無理にでも連れ出した方がマシよ……!」
その親友は自分と同じく、全てを捨てて連れ出してくれた。
彼女もまた、歪みによって変わっていく肉親や仲間達の姿をこれ以上見たくなかったが、それ以上に親友であるリアスが傷つけられていくのに我慢がなからなかった。
だからこそ立場をフル活用し、隙を見て互いに着の身着のままで故郷である冥界から人間界へと逃亡したのだ。
だが現実は彼女達に甘くない。
あっという間に追っ手に取り囲まれたのだ。
「よぉリーアスゥ。やっと見付だぜ? 和正って野郎の情報は確かみたいだな」
「ラ、ライザー……!」
その追っ手は、勝手に決められたリアスの婚約者本人とその眷属達。
怯えるリアスを咄嗟にソーナが庇うが、対するライザーはニヤニヤとしている。
「悪いようにはしない。早く帰って結婚しようぜリアス?」
「い、いや……! 嫌ぁっ!!!」
「帰ってください!
見て解る通り、リアスは貴方と結婚するつもりなんてありません!」
「意思は関係ないんだよ。
ったく、キミも悪い子だな……? だが今大人しく従えば俺からキミのご両親を説得してもいいぜ?」
「そんなものは必要ない!」
啖呵を切るソーナだが、 捕まえに来たライザーやその眷属達は私を逃がす気は更々無い。
どんなに喚いても聞き入れてくれない。
だから少女達は願ったのだ……。
(助けて……! 助けてっ!!!)
(誰でも良い……! こんな狂った世の中から連れ出して……!)
リアスとソーナは悪魔でありながら祈る様に願った。
この狂った状況を打ち壊してくれるなにかを。
「ドライグ、なんだか女の子二人ががピンチっぽいぞ。
突撃特攻をかますぜ!」
『あの小娘達は悪魔だろ?
物好きだな……。まぁ、それがお前らしいが』
「そんなに誉めんなって、行くぜドライグ!」
『Boost!!』
その祈りが届いたかどうかは解らない。
だが確かに救世主は現れた。
「な、何者っ――ひでぶぅ!?」
悪魔をぶちのめす赤き閃光。
「ラ、ライザーさまっ――ぐばっ!?」
何が何だかはその時分からなかった。
ただ解ったことは、突如現れた者は人間の大人に差し掛かるであろう青年であり、左腕に神器と思われる力を纏い、ライザーとその眷属達を一撃で殴り飛ばし――
「このホスト崩れっぽい美男子くんの仲間か? 全員女らしいが……。
まあ良いや、見られたからには―――」
『Boost!!』
ただの人間から明らかに逸脱したパワーを放つ者であったという事であった。
「―――消えて貰おうか?」
ひっくり返るライザーや眷属達を見て、突如現れた神器使いと思われる青年に狼狽える残りの眷属達に、低い声でそう放った青年は、全身から燃える様なオーラを放出させると、両手を真横に広げる。
「その目に焼き付けるんだな。
これが
両手首を合わせ、そこから腰付近へと両手を移動させオーラと同じ色の球体が生成され、瞬く間に巨大化し―――
「ドラゴン波ーーーッ!!!!」
前方へと突き出した両手から極大の光線が放たれた。
その光線はライザーやその眷属達を呆気なく飲み込んみ……眩いまでの赤き光が周辺一帯を照らした。
そして光が晴れた後に残るのは――何も無かった。
突如現れた青年の、強大な力を見たリアスとソーナだったが、当たり前の様に警戒した。
確かに追っ手はこの青年によって撃退されたのかもしれないが、その理由やその強大な力に警戒するなという方が当たり前の事であるのだ。
『で? 成り行きで助ける形となったそこの小娘達の事はどうする気だ?』
「あ、そうだった」
そんな青年が左腕に纏う神器であろうものに宿っている人格から声を掛けられ、思い出した様に振り向く。
容姿からして年の頃はソーナやリアスとそう変わらないであろう青年は一見するとそこら辺の人間ではあるが、ソーナもリアスもその警戒は解かない。
「えーっと、別に何もしないからそんな睨まないでくださいよ――って言っても信じてくれるわけもないか……?」
「……」
「……」
警戒が強すぎて自然と睨む目付きとなっているリアスとソーナに、青年は苦笑いの表情だ。
何か打算があって自分達を助けたのかもしれない――肉親達からすらも裏切られてきたせいで、今ではすっかり警戒心が強くなりすぎてしまったリアスとソーナだが、タイミング良く二人――と青年の腹から空腹のサインが鳴った。
「「ぁ……」」
女子なので、結構な音量で鳴った自身の腹の虫に対してちょっと恥ずかしくなってしまうリアスとソーナ。
反対に青年はといえば自分の腹に触れながら、『三日くらいそういや食ってねーな』と呟くと。ポケットから結構なボロさを誇る財布を取り出し、中身を確認する。
「さ、三千円かぁ……。
こりゃあまた年齢誤魔化して日雇いの深夜バイトしないとやべーぞ」
『そろそろストックしている衣服も買い替えないと、また丈が合わなくなってるぞ?』
「それもそうだが、取り合えず何か買って食わないと―――けどこの時間じゃコンビニしか開いてねーんだよなぁ。
便利だけど単価が高いんだよコンビニって……」
等とブツクサ言いながら財布の中身とちょっと目が泳いでるソーナとリアスをチラチラ見る青年は、やがて決心でもしたのか、ソーナとリアスがびっくりする速度で跳躍すると、何処へと消えていった。
「な、なんなの……?」
「あの男を彷彿とさせる強力な力を持ってたけど、敵ではないのかしら?」
逃げる事に精一杯で忘れていた空腹と疲労が思い出したかの様に二人の身体に襲い掛かり、その場に座り込んでしまうソーナとリアスは、文字通り跳んで去っていった青年がいまひとつよくわからないで5分程その場から動けずに居ると、文字通り青年から空から落ちてきた。
両手に大量の食料が入ってるコンビニ袋を持って。
「スーパーならもっと安く買えたが、仕方ないよな……」
『またバイトすれば良いだろ』
「まーな」
極大ビームで周囲一帯がただの荒れ地と化した山林に戻ってきた青年は、神器の人格らしき者と喋りながら、買ってきた食材を袋から取り出す。
「はいどーぞ、好き嫌いとかわかんないから適当に買っちゃったけど……」
「「………」」
リアスもソーナも良いところのお嬢様で、良いものを食べてきたタイプなので、普段はあまりコンビニ系統の弁当等は口にしなかった。
「んめんめー」
「ぅ……」
「お、おいしそう……」
が、青年が買ってきたのであろう添加物たっぷりレンジで温め済みのお弁当から漂う匂いは、それはそれは美味しそうな匂いだった。
気付けばリアスもソーナもムシャムシャとその場で食べ始める青年をガン見していた。
『おい……見てるぞ?』
「やっぱり減ってたんだな……」
そのあまりのガン見っぷりに、若干食べづらくなってきた青年は、取り敢えず二人に声を掛けてみた。
「食っても構いませんよ、一応結構買ってきたし。
………全財産が23円になったけど」
「「…………」」
そう言って二つ目の袋から色々な菓子パンやら惣菜パンやら飲み物を出して広げる青年に、ソーナとリアスは無言で顔を見合せ―――また腹の虫を鳴らした。
そして恐る恐る青年に近づき……取り敢えず食べる事にした。
その食いっぷりは、余程腹を空かせていたせいか、お世辞にも行儀が良いものでは無かったのだが、暫く三人は無言でコンビニ商品を食い散らかすのであった。
「お湯沸かしたんだけど、カップ麺も食う?」
「「い、いただきます……!」」
これが最初の抗う者達の出会いであった。
青年が復讐の為に何年も鍛え続けた事。
同じような境遇の者だと感じて咄嗟に手助けしたこと。
その理由が、友達がほしかったからというもの。
「同い年くらいの友達とか俺居なかったもんで……」
と、徐々に明らかになっていく青年の正体を知っていったリアスとソーナは、青年と行動を共にすることになった。
「こっちの部屋を使いなよ。
俺は―――風呂場で寝るから」
「え、でも……」
「アナタの家なのにそんな……」
「良いって良いって! 自慢じゃないけど、俺はどこでも寝れるからな!!」
オンボロワンルーム部屋に住む事になった元お嬢様二人だったり。
「魔王の妹!? お、おぉ……マジか、そりゃあ悪魔だってのはわかってたけど……」
「だから、もしかしたらこれからも冥界からの追っ手に追われるかもしれなくて……」
「それは別に良いよ。
ただ、あのカス野郎――そんな所まで入り込んでやがったのか……。
しかも二人の仲間にまで手ェ出しやがって」
『ほとほとクズだなあのカスは……』
二人の背景を聞いてビックリするけど、すんなり受け入れた赤龍帝の青年だったり。
「ソーナちゃんとリアスちゃんを誑かしたって事で冥界じゃ見事に犯罪者扱いか俺は」
「ご、ごめんなさい……私達のせいで」
「やっぱり迷惑だったわよね……?」
「いや別に? そもそも二人をお助けして悪魔を消し飛ばしちゃった時点で遅かれ早かれこうなってただろうからな。
あのカス野郎にもバレちゃったとしても、今やりあっても勝てはしないが逃げられはするから大丈夫だぜ」
めでたく犯罪者にされたけど別に気にしてなかったり。
「ね、寝られる気がしない……」
「でもこうすれば寂しくないでしょう?」
「それに私達はただのソーナとリアスだから……」
でっかいシーツにわざわざ三人でくるまって寝るスタイルになってある意味の精神修行になってる青年ことイッセーだったり。
「「「……………」」」
歪みに抗い、傷つき、それでも折れずに支え合う内に一線を越えてしまったり。
その結果、青年は他の女性に対して眉ひとつ動かす事も無くなったとかなんとか。
そして――
「真実から出た誠の行動は、決して滅びはしない。
かつての私とリアスの仲間や友人はアナタのものへとなった」
「でも、あの時私とソーナが決めた意思は――イッセーと出会ってからの時間は滅んでいない」
「そして、アナタの行動が真実から出たものなのか、それとも欲の赴くままの上っ面だけの邪悪から出たものなのか…………それはこれからわかること」
「「アナタは果たして、滅びずにいられるのかしら?」」
それでも抗い続けた者達は……。
「『ある意味貴様のお陰でここまで到達できた。
礼だ、お前らのお仲間もろともあの世に送ってやる!
ウルトラビッグバン――――」』
到達するののである。
そしてその果てにあるものは……。
「え、イチ兄が気になるんですか?」
「え、ええ……」
「あー……う、うーん、何て言ったら良いのか……なぁ箒?」
「更識先輩は去年からイッセー兄さんを知っている様ですが、何となく察しているのではありませんか?」
「…………。あの人がグレモリー先生とシトリー先生と仲が良いって意味?」
「ええ……というか仲が良いのは当然ですよ。
リアス姉さんとソーナ姉さんは籍こそ入れてませんがイッセー兄さんのお嫁さんですからね」
「……………………ふ、二人!? あの二人をお嫁さんにしてるの!?」
「本人達はそう言ってはいませんが、ほぼ事実婚状態ではありますね……」
「そ、そんな……勝負にすらなってないなんて……」
精々頑張ってくださいな世界での平穏なのかもしれない。
「ど、どうなんですか二人とも! い、イッセーさんとはどこまで!?」
「どこまで……って、ここではちょっと言えないというか、ねぇソーナ?」
「確かに大きな声では言えませんねぇ……。
犬の耳と尻尾つけてのわんわんプレイとか――」
「わ、わんわんプレイ!?」
「ソーナ……それ言っちゃってるからね?」
「あらうっかり……。
でも勘違いしないで貰いたいのは、私とリアスが勝手にそうしてみただけの事であって、イッセーがそうしろと言った訳じゃないですよ?」
とある生徒会長の難易度が跳ね上がったりとか。
「そんな事してたのかよイチ兄……?」
「い、いや違うっての。
二人がどこぞで拾ったエロ本を見て参考にしたらしくてよ……後半俺もほぼノリまくっちまったのは否定できんけど……」
「ふむ、犬耳と尻尾か……」
「お、おい箒よせよ? そんなんされたら確実に俺の理性が覚えたての猿のようになっちまう……」
派生・精々頑張ってくださいシリーズ(たっちゃん的にベリーハード)
「イッセーさん! 現役の女子高生とにゃんにゃんプレイには興味ありませんか!?」
「え、ごめんだけと全然ない」
「ぬがっ!? で、ではイッセーさんが雄ライオンになるハーレムプレイは!?」
「いやだから無いっつーねん。
リアスちゃんとソーナちゃんが雌ライオンのコスプレでもするってんなら乗るけど、キミは別に……」
始まらない。
「なんなんだあの子は?」
「身に覚えはないの?」
「別にないぞ? ただ、生徒さん達や先生達にばれないように仕事してたらあの子にはバレちまって、用務員室にサボりに来るようにはなってたくらいしかないぜ?」
「妹さんの事で相談に乗って貰ったと言ってたのは?」
「ああ、そういった悩みを聞いてたりはしたけど、そんな大した事言ってないぜ?」
始まりません
補足
親友という気持ちが強くてリアスと共に抗ったソーたん的な感じ。
そこからはベリーハードのようになり……みたいな。
そしてそのまま精々シリーズに……。
結果、たんにたっちゃんの難易度が跳ねあがった模様。
ちなみに、精々シリーズと比べてイッセーの性格が若干子供じみてる。
理由はソーたんに少しあるらしい。