色々なIF集   作:超人類DX

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続き。
プッツンするあの子


爆発

 

 

 

 確かにアイツは屈折し過ぎたせいで真正面から向けられる情に弱い。

 だがそれでも人でない存在に対しては無尽蔵とも言える残虐性と憎悪が遥かに勝り、アイツは躊躇なく殺しにかかる程であった。

 

 

 一誠から月音という人間に生まれ変わった。

 白音との決着の為に逢えて妖怪の学校へと潜入した。

 

 そしてそこでであった妖怪の小娘達とのやり取りが一誠としての憎悪を浄化させていた。

 

 事実今の月音は妖怪の小娘に翻弄されることもある。

 

 かつての頃ならその時点で剥き出しの憎悪に従うかのように手にかけていたがそれもなくなってきた。

 

 ………もっとも、それは今の月音に近しい連中にのみ適応されることであって、その他に対しては変わらないのかもしれないのだが。

 

 それでもやはりかつての時代からアイツは変わっている。

 

 そして無限の憎悪を糧とする永久進化の異常性もまた……。

 

 

 

 ちょっとしたToLOVEる――もとい、アクシデントがありつつも、白雪みぞれの故郷となる場所へと到達した月音達だが、四次元トンネルを抜けた先は―――遭難確定なレベルの猛吹雪状態だった。

 

 

「寒いっ!?」

 

「ちょっとした雪どころか大吹雪じゃないの!?」

 

「だが学園に居るよりは涼しいだろ?」

 

「涼しいを通り越して凍死するわっ!?」

 

 

 季節の概念がおかしくなるレベルの猛吹雪は耐性の低い者達にとっても堪えるレベルである。

 しかしそんな状況において月音は辺りを抑揚の薄い顔で見渡している。

 

 

「月音は平気そうだろう?」

 

「た、確かにそうだけど、私達と同じ半袖姿なのになんで平気なのよ?」

 

 

 本当に人間かどうかも怪しいレベルの平然さの月音の異質さに前を見ていた月音が口を開く。

 

 

「寒いのは寒いよ俺だって。

昔と違って耐性も弱ってるしな。

だがこういう場面での殺し合いもあるだろうって、それなりに鍛えては来ていただけだ」

 

『何度かコイツは宇宙遊泳を経験している』

 

「………スケールがデカすぎてリアクションに困るっての」

 

 

 『で、方向はどっちだ?』と同じく雪女故に平気な顔のみぞれに対して淡々と里の場所を聞く月音のリアクションに困る過去に胡夢達は呆れ顔になりつつみぞれを先頭に歩いていく。

 

 

「さ、寒いですぅ……」

 

「半袖で役にたたないだろうが、俺の上着でも着てな」

 

 

 その際、やはり子供には甘いので、ガチガチと震える紫に上着を貸す月音は完全にTシャツ一枚となるのだが、それでも平然としており、根本的に他の人間達と人体構造が違うのではないかという疑惑を持たれつつ更に進んでいくと突如として吹雪が止む。

 

 

 

「ついたぞ」

 

「…………」

 

「わぁ……」

 

「凄い……」

 

 

 吹雪が晴れ、視界が広がる先には氷に包まれた建物等が連なる幻想的な集落があり、萌香達は目を奪われる。

 どうやらここがみぞれの故郷となる里で間違いないらしく、引き続き彼女の先導で里の中へと入ると去年の学園祭に来たみぞれの母であるつららが出迎える。

 

 

「いらっしゃい、お待ちしていましたわ」

 

「あ、貴女はみぞれちゃんのお母さん……!」

 

「つららです。

……………来てくれたのですね月音さんも」

 

「………………」

 

 

 去年一件で危うく呼吸するだけの物体にされかけたみぞれの母である白雪つららが、辺りをキョロキョロと伺うように観察している月音に対してバカに丁寧に頭まで下げるが、当の本人は遠くからこちらをうかがうように見ている里の子供達に気づいてそちらを見ていた為、ガン無視するような形となる。

 

 

「………」

 

「ちょ、月音!」

 

「……………え、なに?」

 

「な、なにじゃないわよ、みぞれのお母さんが月音に挨拶してるのに、ちゃんと聞きなさいって……!」

 

「は? ああ……どうも」

 

 

 あまりのガン無視に居たたまれない空気が生成されてしまい、見かねた胡夢が月音を肘でつつくとやっとつららの存在を認識したのか、凄まじくいい加減な挨拶を返す。

 

 

「……………」

 

「す、すいません」

 

「良いのですよ。

元々彼に嫌われる真似をしたのはこちらですから」

 

「母の話をした途端、露骨に嫌そうな顔をされてしまったぞ」

 

 

 再び数メートル離れた建物の角からこちらを伺う里の子供達へと視線を戻す月音のあんまりな態度に胡夢や萌香達はつららに平謝りを繰り返すという、なんとも言えぬ挨拶となるのであった。

 

 

「どうですか、この里はお気にめしました? 先程から里が気になるようですので、軽く説明させて頂きますが、この里の建物の殆どが氷でできていまして、里を覆う結界の影響で空にはオーロラが……」

 

「へー?」

 

「いや人間界の札幌の雪まつりの方が北海道ギャルも居るし―――オゴッ!?」

 

「月音も里がきれいと言ってます!!」

 

 

 そのまま思ったことを口にだそうとする月音の脇腹に不意打ちの肘打ちをかまして黙らされた表萌香に、バッチリ聞こえていたけど敢えて聞こえなかった事にするつららは困ったような表情だ。

 

 

「でもこの里も少子化に悩んでいまして……。

規模に比べても人工が減っていく一方でして……」

 

「そうなんですか……?」

 

「ええ、ですから本音としましては娘が気に入っている月音さんと野球チームができそうなくらいの子供をと思ってはいるのですが……」

 

 

 そう呟くような声で表萌香から貰ってちょっと痛い脇腹を擦る月音を見るつらら。

 

 

「冗談はそのツラだけにしとけよ畜生ババァ。

つーかこんなド田舎ぐんだりまで呼び出した理由がそれだとほざくなら、逆にこの里もろとも皆殺しに――ぐぇっ!?」

 

「えーっと、今の月音の言葉を翻訳しまとですね、『僕のような男に娘さんは勿体無いです』と言ってます!」

 

「い、言ってね――もがっ!?」

 

 

 近しい者にはそこそこの対応になって来ているものの、依然としてその他には冷徹通り越して鬼畜な発言がポンポンと飛び出る月音を無理矢理紫や胡夢等と協力して口を塞ぎながら、慌てて全く別の事を翻訳と表して言う表萌香に、つららは苦笑いだ。

 

 

「私は嫌われてしまいましたか……」

 

「そ、そんな事はありませんよ!? そうでなければこの里にも来ませんでしたし! ねっ!?」

 

「捨てられた子犬のような顔をしていたらしい私に目を逸らしながらうなずいてくれたぞ」

 

 

 そう話すみぞれに、つららは少なくとも自分の娘に対しては完全な毛嫌いはしてないと少しだけ安心するが、前途多難となるのは目に見えたので深々とため息を吐くのであった。

 

 

(ご馳走で少しは心象を回復させなければね……)

 

 

 ある意味で月音という少年は特殊であり、その特殊さは娘の気性も簡単に受け止められる。

 そういう意味では逃したくはない訳で――

 

 まず前提となる里への招待という第一関門を突破できた以上、なにをしてでも娘に対する心象を良くさせなければならないと、去年のあの一件以降から暖めていた作戦を密かに開始する。

 

 みぞれからの便りによれば、月音という少年は細身な身体とは裏腹に結構な大食いらしいので、まずは可能な限り準備したご馳走を振る舞う。

 

 

「……………」

 

「お、思っていた以上に食べますのね……」

 

 

 その作戦場ある意味で成功し、テーブルに用意された料理を手当たり次第完食しまくる月音の食べっぷりはいっそ清々しさすら感じる程だった。

 

 

『普段はそんなに食わんのに、どうした?』

 

(ここに居たって食うくらいしか楽しむ方法がわからないってだけだ……そうじゃないと間が持たねぇ)

 

 

 この中の誰もが知らない事なのだが、その暴食さはあの白音に近いものがあり、ただひたすら出てくる料理を作法という概念に対して中指を立てるかの如く食い散らかす月音の姿はいっそ狂気にも見える。

 

 

「………………」

 

「お、お味はどうかしら?」

 

「腹が膨れりゃあ味なんぞどうでも良い」

 

 

 意を決したつららの質問に対しても素っ気なく返しながら熱々の鍋料理にがっつき続ける月音は結局通常と五倍の量を食べきるのであった。

 

 こうしてほぼほぼつららのやることが空回りになる中、娘のみぞれはといえばヤケ食いにしか見えない月音に対してなんとも言えない視線を送っている裏を含めた萌香や紫や胡夢といった『人以外の生物に対する異質なまでの嫌悪と殺意、そして月音ではなく一誠としての過去』を知っても尚近しい関係である者をじーっと見ながら思う。

 

 

(あの三人と比べても私は月音との仲はまだ浅すぎる。

多分、このまま何をしても月音には相手にされないし、場合によっては殺されるかもしれない……)

 

 

 彼女達に比べて自分は月音との仲におけるアドバンテージがひとつもない。

 狂暴・凶悪・性格もよくないし、優しさどころか鬼畜発言や行動ばかり。

 

 しかしそれと同時に感じる影のある側面と、ごく稀に見せるぶっきらぼうな優しさ。

 なによりあの壮絶すぎる――それこそ嘘みたいな過去。

 

 知れば知るほど、噛めば噛むほど味が出るスルメのような不思議で危険な魅力を感じてしまうみぞれは『種族としての時間』が無くなってきている事も相俟って、覚悟を密かに固める。

 

 

(それでも私は……)

 

 

 仕掛けるのなら今夜しかない。

 もしこれで失敗すればあらゆる意味で『未来』を失うことになる。

 

 その手を血に染めながらも『自由』を勝ち取った月音――否、一誠のような生き方を知ったからこそ。

 

 

(これでダメなら終わらせるしかない――私自身を)

 

 

 男を見る目がないのは今現在も変わらない。

 というか間違いなく悪化している自覚もある。

 

 下手をしたら殺しにかかってくる狂犬みたいな男にそんな気持ちをもってしまっているのだから。

 でも去年の萌香の意地と、胡夢の覚悟によって人以外を嫌う月音が一定の敬意を抱き始めたのなら。

 

 

(私だって覚悟くらいしてるんだ……)

 

 

 今度は自分の番だ。

 冷え冷えのかき氷まで丸呑みする勢いで食べまくってドン引きされ始めている月音を見つめながら、みぞれは密かなる覚悟をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 周囲のドン引きの視線やら、みぞれの密かなる覚悟に気づくことなく『間が持たないから』と限界突破の大食いをし続けた月音は食いすぎで完全に眠れなくなってしまった。

 

 

「うぷ……」

 

『明らかに食いすぎだ。

まったく……』

 

 

 横になっても座っても苦しい状態である月音にドライグが呆れたようすで言う。

 里の式典というものを明日に控え、今晩はみぞれの実家に泊まる事になり、萌香達とは別の部屋で夜を明かすことになった月音は窓の外から見えるオーロラを眺めながらパンパンに膨れた腹を擦っていた。

 

 

「うっぷ……」

 

『外にでも出て身体を動かすか? そうすれば少しは消化もするだろうし』

 

「ああ、そうするよ……」

 

 

 結局このままでは眠れないので、ドライグの提案に乗ることにした月音は着替えていると、部屋の戸を叩く音が聞こえる。

 

 

「……?」

 

『こんな夜更けに誰だ? まさかモカじゃないだろうな?』

 

「ああ……夜景デートってやつか? ドライグも中々やるようになったな?」

 

『いや、普通にどう対応していいのかわからんのだが……』

 

 

 表の萌香がドライグを引っ張りだしに来た可能性が思い浮かび、思わず月音が茶化すようにニヤニヤしながら出てみるが、そこに居たのは表の萌香ではなくて薄い着物を着たみぞれだった。

 

 

「あれ、違った……」

 

「違った……?」

 

「いやこっちの話……ってかなに?」

 

 

 予想が外れた月音が何の用だと聞くと、みぞれは妙に神妙な顔をしながら口を開く。

 

 

「無理を承知で頼みたい事があるんだ」

 

「?」

 

 

 そう前置きしてから、里の外に行くのでついてきて欲しいと言い出すみぞれ。

 

 

(なんでこんな時間に……?)

 

 

 当然ながら普通に警戒してしまう月音だが、ドライグがそんな月音に『どちらにしろ外に出るつもりだったのだし、付き合ってやったらどうだ?』と言うので、そのまま了承すると、何故か話を持ちかけてきたみぞれの方が驚いた顔をしている。

 

 

「は?」

 

「あ、いやてっきり『暇じゃねぇんだよ』と断られると思ってから……」

 

「あー……いや、何にもなければそう言ってたかもだけど、ちょっと食いすぎて眠れなくてよ」

 

「そういうことか……」

 

 

 別に自分の願いを聞いた訳じゃないと知ってちょっと残念に思うみぞれ。

 しかし理由がどうであれ付き合ってくれるのならそれでも良いと割りきったみぞれは、月音を連れてそのまま里の外に出る。

 

 結界の外は相変わらずの猛吹雪状態だが、月音は寒そうにしている気配もない。

 

 

「い、良い天気だな?」

 

「むっちゃ吹雪いてるのを良い天気と表するのは種族柄か?」

 

「そ、そういう訳ではないんだが……」

 

 

 ある場所へと誘導するみぞれは間を持たせる為に月音に話を振ろうとするのだが、どういう訳か空回りをしていた。

 というのも、途中でみぞれ自身も気が付いた事なのだが、完全に月音と二人きりになって何かを話すという事が今までなかったのだ。

 

 

(な、何でこんなに緊張しているんだ私は……?)

 

 

 単純な話、みぞれは今テンパっていたのだ。

 考えてみれば共通の趣味もなければ盛り上がる話題も持ち合わせていない。

 

 

「てかどこに行く気なんだよ?」

 

「あ、ああ……白雪草が咲いている場所に向かってるんだ。

摘みに行こうと思って……」

 

「え、その草だか花は明日摘むんじゃないの?」

 

 

 尤もな質問だが、みぞれにしてみれば『誰の邪魔もない』今しかないのだとぽつりと唐突に過去を語る。

 

 

「子供の頃な、こうして里を抜けてはよく人間の街を覗いていたんだ」

 

(え、急に全然関係ない話してる…?)

 

『何かあるな……この小娘』

 

 

 俺の質問がガン無視された……と思いつつも人間という言葉に興味を示す月音は大人しく聞く。

 

 

「そんな事を繰り返していたら、ある日から人間の男の子と仲良くなったんだ。

その当時も今みたいに式典や儀式とか関係なく花を摘みに来たんだ」

 

「おー、こんな吹雪いてる所をか? そいつ根性あんじゃん。

それで? 今でもソイツとは仲良しなのか?」

 

 

 並の人間なら普通にヤバイこの場所を歩き回れるだけ、その人間の男は中々の根性だと、人間というだけで褒める月音。

 

 

「……………。私が雪女と知ったら逃げてそれっきりだよ。

食い殺されるとでも思ったのだろうな」

 

「え……あ、そう。

まあでもアレだわ……人間としての感性なら多分それが

普通だと思うというか――えーっと……」

 

『少しは気の効いた言葉くらい言ってやれよ……』

 

「ま、まあ! ほろ苦い思い出として大切にこれからを生きれば良いんじゃね!?」

 

 

 その後徹底的にその人間の男の子に拒絶されたと聞いた月音は少し慌ててしまう。

 みぞれが完全なる無関係の妖怪であるのなら、鼻で笑って『そりゃそうだろ』とでも言えたのだが、前を歩くみぞれの背中から感じる哀愁さのせいか、これ以上は茶化せなかった。

 

 

「去年出会った頃に月音が八つ裂きにした教師が居ただろう? ちょうどアイツに似ていてね……。

そこで気づいたが、私はどうも男を見る目がないみたいだ」

 

「あー……なんて言ったら良いか、御愁傷様?」

 

「はは、本当にハッキリ言うな月音は? 実はさっきまでお前と本当の意味で二人きりで喋る事がなかったから緊張していたけど、すぐになくなってしまったよ」

 

「そりゃなによりで……」

 

 

 ズバズバとデリカシーの欠片もない言動ばかりな月音に、いつの間にみぞれの中の緊張も消えてしまった。

 

 

「もう私の見る目の無さは死ぬまで直らないだろう。

だからこれを最後にしたいんだ」

 

「? なんだ、気になる男でも見つけたのか?」

 

「………………………………。今のは流石に傷ついたぞ月音?」

 

 

 デリカシーも無ければ鈍すぎる。

 いや、意図的に他人からの好意を避けているというべきか。

 

 

「紫藤イリナとゼノヴィア……だったな。

月音の――いや、一誠が受け入れた二人の女」

 

「あ?」

 

「本当に私は見る目が終わっている。

妖怪嫌いに加えて、そんな女達を今もずっと愛しているような男に抱いてしまったのだから」

 

 

 自分が何をした所で相手にされないなんてわかりかっている。

 月音として生まれ変わった今でも心の底から大切で、愛したのが一誠としての過去を共に生きたあの二人の女であることも解っている。

 だけどそれでも――

 

 

「置物でも良い、形式だけでもいい、なにをされても構わない。

私を――その二人の次で良いから受け入れてくれ……!」

 

 

 種族としてではない、白雪みぞれとしての心の叫びを打ち明ける。

 その告白に対して月音が目を丸くしながら何かを口に出そうとした瞬間、月音とみぞれの近くの地面に強烈な音と共に何かが落ちてきた。

 

 

「!」

 

「あ……」

 

 

 咄嗟にみぞれを庇うように背に隠しながら白い立ち上る雪煙を睨む月音はゆらりと立ち上がる人型の影が見え――

 

 

「つ~く~ねぇ~……」

 

 

 鬼の形相をした銀髪女子を捉えるのであった。

 

 

「こ、ここに来る前から私を適当に扱い、ホルスタイン女に現を抜かし、挙げ句の果てにはそいつと逢い引きとは、ず、随分なプレイボーイっぷりではないか?」

 

 

 それはまぎれもない萌香……しかも裏の状態の萌香であり、月音ですらギョッとするレベルのキレ泣き笑い顔でゾンビのような足取りでこっちに近づいてくるではないか。

 

 

「ちょっと怖いと初めて思ったかも……」

 

「奇遇だな月音、私も思ったぞ……」

 

 

 その出で立ちに初めて妙な迫力を感じた月音は思わず一歩下がる。

 というか表の萌香の声がしない辺り、完全に眠った状態を狙って入れ替わったのだろうか。

 

 

「おい、なにキレてんだか知らないけど落ち着けや?」

 

「……………」

 

「月音、ダメだ。

今の裏萌香にはなにを言っても聞いちゃくれないと――っ!?」

 

 

 どちらにせよ帰れと言う月音に裏萌香は無言で近寄るだけで返事がなく、あれは危険だと思ったみぞれは逃げようと提案しようとした瞬間、みぞれには完全に見えない速度の蹴りが放たれた。

 

 

「チッ……!」

 

 

 反応できた月音は片腕で防ぐが、軽く防いだ方の腕が痺れてしまう。

 

 

『激怒のあまり理性が飛んで、肉体のリミッターが外れてパワーが増しているのか?』

 

「は? それってつまり乱神モードみたいなものか?」

 

『敢えて例えるとするならな。

お前がここ暫くモカに対して適当な態度ばかりで怒ったんだろうよ』

 

「適当? そんなの何時ものことだろ――っと!?」

 

 

 再び刃のような蹴りを放つ裏萌香に今度は上体を逸らして避けた月音は、ドライグの言うとおり理性が何故か飛んでるので会話が成立しないと判断する。

 

 

「ちょっと離れてな白雪」

 

「わ、わかった。

でも月音……どうしてもお前に見せたい場所が…」

 

「あー、わかったわかった。

ちゃんとそこまで付き合ってやるさ……」

 

「……!」

 

 

 みぞれに離れるように言った月音な、今度はしくしくと泣き出した裏萌香に向かって構える。

 

 

「うぅ……うー……うー!!!」

 

「お、おぉう……泣いてるぞアイツ……?」

 

『8割はお前のせいだ』

 

 

 着ていたスカートの裾を掴み、プルプルと震えながら子供のように泣く裏萌香の意図が解らなすぎてちょっとビビる月音にドライグは心底呆れた声だ。

 

 

「わ、わたしがさいしょだったのに……」

 

「え、なに?」

 

「おまえは、わたしだけのあそびあいてだったのに……!」

 

「あ、あぁ? 呂律が回ってなくて聞き取れな―――」

 

「それなのに、おまえは他所の女とばっかりぃぃっ!!!」

 

「ぬおっ!?」

 

 

 みぞれが寝室を抜け出した辺りから見ていた裏萌香は表の萌香が完全に眠っていた隙に入れ替わりこっそり追跡していた。

 そうしたら月音の部屋に押し掛け、てっきりうざがると思っていた月音が事もあろうにみぞれの誘いに乗ってこっそりと二人だけで里の外に出ていった。

 

 

「おまえなんか! おまえなんか!」

 

「くっ!?」

 

 

 

 その光景があまりにもショック過ぎて、最近胡夢に対しても含めて他の連中にも態度が丸くなっていたせいで微妙に雑に扱われていた不満がそこで一気に爆発した裏萌香は、怒りよりも悲しみによる抑え込んでいた激情を爆発させてしまい、擬似的な乱神モードになってしまったのだ。

 

 

「ばか! ばかっ! ばかー!!!」

 

「こ、こいつ……! 微妙に強いってか、理性が飛んでるせいか痛み感じてないのか!?」

 

『格闘ゲームで顕すならスーパーアーマー状態ってやつだな』

 

 

 こうして雪山における夜の大運動会はおごそかに始まるのだった。

 その激しき肉弾戦によって、山に現れる謎の怪物はその余波で消し飛んだとかそうじゃないとか……。

 

 

「っ!? ちょ、待て! 今白雪が変なババァに拉致られて――」

 

「そうやってまたお前は他の女を気にするんだ! 私の気も知らないで!!」

 

「言ってる場合か!?」

 

「言ってる場合だ!!」

 

 

 そしてオロオロしながら見ていたみぞれが突風と共に現れた謎の妙齢女性に拉致られてしまっても、暫く喧嘩は続くのだった。

 

 

続く

 

 

 

 おざなりにされ過ぎて完全におへそを曲げてしまう裏萌香をなんとか落ち着かせた月音は、謎の女性にみぞれが拐われた事を報告するために一旦里に戻り、母であるつららに事情を説明すると、どうやらみぞれを拐ったのは雪の巫女だと知った。

 

 

「……………」

 

「どこへ……?」

 

「結局彼女が何故俺を連れ出したかについての答えを聞いちゃいないんでね。

しかも、拐われた理由がほぼ俺にある以上、そのケジメはつける」

 

 

 種族の事情等は考えず、ただ連れ出した理由だけを知るために乗り込む事にした月音と、それについてきた萌香達が見たものは……謎の組織連中に拘束された雪の巫女となにかに絶望するみぞれ。

 

 

「汚された? はん、俺なんぞガキの頃悪魔のクソ共にゴミ以下になるまで汚されたわ」

 

「月音……でも……」

 

「うっせーうっせー、最近は人間もそういうのは早いんだよ。

んなもん気にするな――それに、お前にやらかしたその馬鹿は代わりにぶっ殺してやらぁ」

 

 

 けれど自分の方がより汚されたと言い張りながら戦闘モードに切り替えた月音は、粗相を働いた謎の組織の人間をヒャッハーする世紀末なモヒカンよろしくなテンションで八つ裂きにする。

 

 

「おーおー、変態がなんか言ってるが……」

 

「ががごばべ!!!」

 

「ん~……聞 こ え ん な ぁ?」

 

 

 八つ裂きにしてから柱に素っ裸でくくりつけ、ギャグボールを咥えさせた状態の男に全員で雪だまを投げつけまくったり。

 

 

「み、雅があんな――っ!?」

 

「さぁ、次はお前等の番だ―――――畜生共」

 

 

 拗ねて『ぷいっ』とし続ける裏萌香の方が厄介だとはわかりにこの場に居た組織の者達を、萌香と心愛の姉らしき存在もろともメタメタ――。

 

 

「完璧・弐式奥義……!」

 

「ぐげ……がっ!?」

 

「アロガント・スパーク!!」

 

 

 ―――ではなく、ぐっちゃぐちゃにしてしまったりと、裏萌香を拗ねさせた事でドライグに怒られて微妙に機嫌が悪くなっていた月音は暴れまくったという。

 

 

「ぐっ、プリンで手を打たないか……?」

 

「そんなもので私の傷ついた心は癒えないぞ……」

 

 

 しかしそんなものよりも一番苦戦したのが拗ねっぱなしの裏萌香の機嫌直しだったとか。

 

 

「私はグレてやる。不良になってやる……! 午◯の紅茶を午前に飲んでやるし、プッチンプリンもプッチンしないで食べてやる……!」

 

「や、やめろォォッ!! それだけだけはやめろ! 考え直せ! 流石に俺が全面的に悪いと認めてやるから!!」

 

 

 結果、どこかの世界のロリ吸血鬼とその吸血鬼に世話になってる別世界の自分みたいなやり取りを真面目にするとかしないとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにしてんのあの二人?」

 

「裏モカさんがグレて不良になると宣言しちゃったみたいです……」

 

「………え、まさかプッチンプリンをプッチンしないで食べたり、◯後の紅茶を午前に飲む事が不良になることだと本気で思ってるの?」

 

「た、多分……月音さんも何故か真面目に焦って止めようとしてますし、もしかしてあの二人にとってはそうなのかも……」

 

「………。たまに思うけど、あの二人ってやっぱり精神レベルが近いのかもしれないわね」

 

 

 

 

 

『平和だね?』

 

『ああ、まったくだ』

 

 

 

嘘でした

 

 

 

 




補足

間違いなく男を見る目が悪化しまくり。

その2
ついに不満爆発する裏萌香さんは泣きすぎて言動が子供化する。




その3
殺意の塊のあの技くらったらもうね……。


その4
どこぞの世界のエヴァにゃんみたいな事を言い出す裏萌香さんと、真面目に焦る月音だった

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