色々なIF集   作:超人類DX

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故郷へのバスの車内での話


バスの中ではお静かに

 

 

 人の歴史と共に、俺は人の中から世界を見てきた。

 その月日を過ごす内に俺は気づいた。

 

 人は皆、目を閉じて生まれる。

 そしてその全てはそのまま生涯を閉じる。

 

 歴代の宿主達も俺を扱いこそすれど、真の意味で目を開けることはなかった。

 だが俺にとって最後にて最強である宿主は違った。

 

 

 俺を宿し、物心がついた時から俺を使えるようになってしまったが故に。

 そして決して開くことなんてなかった筈の目を開けてしまったが為に。

 

 アイツは肉親に拒絶されてしまった。

 

 だから俺は何があろうとアイツの傍でその最後を見届けると誓った。

 共に戦うことを誓った。

 

 憎悪を糧に歪んだ進化をし続けても……。

 

 

 そんなアイツが違う人間として生まれ変わった今、アイツの憎悪は薄れ始めていて、それと同時に力を失い始めている。

 

 アイツを最強最悪たらしめた無限進化の異常が人ならざる存在とのギリギリの日々によって浄化され始めているが故に精神の柱が揺らいでいる。

 

 弱くなるという意味では危険なことなのかもしれない。

 だが俺はそれでも良いと思う。

 

 アイツが弱くなったのなら、その分相棒である俺が力を貸せば良い。

 

 無神臓が消えてしまうのなら、新たな領域へと進めば良い。

 

 そうすることでアイツは憎悪を糧にし続けた進化で到達しかけていた限界を超えた先へと進むことができると、俺は信じている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どんな事情や理由も聞かず、無限に沸き上がる憎悪の赴くままに人ならざる存在を壊し続けた少年が、別世界の人間として生まれ変わり、過去への決着の為の手掛かりを探るために潜入した人ならざる存在の為の学園で出会った者達との時間により僅かにその憎悪が薄れ始めている今日この頃、かつて冥界に蔓延る悪魔を嗤いながら殺し尽くす程精神が憎悪によって破綻してしまった彼が、悪魔ではないにせよ人ならざる存在の里へと行くことになった。

 

 

「……………」

 

 

 招待をしてきたクラスメートの雪女ことみぞれが、捨てられた子犬みたいな顔をするものだからついやけくそに行くことを了承してしまったものの、本当ならば新聞部の男子の先輩(狼男)と人間界で人間の女性へのナンパ活動の予定があった訳で、今更ながらみぞれの故郷へと向かうバスの車内にて、他の新聞部の者や公安委員会と副部長といった面子達がはしゃぐのを横に、窓の外を眺めながら後悔のため息を吐く。

 

 

「今更ながらナンパしてたら成功したかもしれないと思うと、ちょっと後悔なんだけど……。

はぁ、人間の女の子とわんわんしたかったぜ……」

 

 

 人ならざる存在に対しては人間基準でも美少女と言える異性だろうが平然と鬼畜な対応に出る癖に、人間の異性に対してはバカな男子高生そのものなテンションとなる月音にとって、ナンパとはとても大切なものであった。

 それ故にさっきからテンションが著しく低い。

 

 

「まだ言ってるの? 今さら言ってももう遅いわよ。

そもそも月音だって行くって言ったんだし」

 

「そうですよ、第一月音さんのナンパは下手過ぎますし、間違いなく逃げられて終わりに決まってますぅ」

 

「ナンパではなくて美味い飯ならたらくふ食わせてやるぞ?」

 

 

 人間の女やら魔女のイリナを相手にする時は、嘘みたいなスケベ心を顔にまで出すのを知っている女子達の言葉に月音は『はん』と鼻を鳴らす。

 

 

「下手かどうかなんてお前等にわかって堪るかってんだ」

 

「だってそういう時の月音さんは顔から言動から下心丸出しじゃないですか」

 

「何度か見たことあるけど、人間の女の子達全員がドン引きしてるし」

 

「鼻息も荒いし……」

 

「月音、きっと人間の女にはお前の良さがわからんのだよ」

 

「もっと鬼畜な姿を見せるべきでは? 例えば『俺に従えメス豚ァ!!』って怒鳴りながら踏むとか……」

 

「そうでなくてもアンタみたいなDV変態男なんかに好かれたらこの世の終わりだわ」

 

「………………」

 

 

 次々と出てくるナンパに対する駄目出しに、ちょっとイラッとなる月音。

 特に最後に萌香の妹の心愛(月音は名前すらまだ記憶してない)の言葉には、反射的にレッグラリアートをぶちかましかけてしまう。

 

 

「こっちは紳士的だっつーの……」

 

 

 そもそも月音的には鼻の下なんて伸ばしてないし、下心も顔に出してない紳士なナンパを心掛けているつもりなのだ。

 

 

「どこがよ? これだけの意見が私達から出てるのが答えみたいなものでしょう?」

 

「んだと……? さっきから黙ってりゃあ……!」

 

 

 そう言う胡夢に全員がうんうんと――運転中のバスの運転手までもが頷くので、とうとうムカッとなった月音は席から立ち上がると、なんとなく視界に入っていた胡夢に近づく。

 

 

「え?」

 

 

 人間ではない連中にわかって堪るかと、否定されまくられたせいで軽い負けん気が発動してしまった月音は、きょとんとする周囲の視線を受ける中、同じくキョトンとしている胡夢に向かって無駄にキリッとした顔と共に座席の背もたれを壁に見立てた壁ドンしながら口を開く。

 

「お姉さんの横顔を見て電気が走りました。

だから俺と回転するベッドのある夢のお城で熱い一夜を過ごしませんか……?」

 

「………へ?」

 

『………』

 

 

 突拍子が無さすぎる行動とその台詞にたっぷり1分はバスのエンジン音以外の音が消える。

 

 

「は……え……や、あ、あの……その……」

 

 

 そして言われた本人である胡夢が徐々にテンパって目を泳がせ始めた辺りで無駄にキリッとした顔から無表情顔に戻して離れた月音は、周りで唖然としていた面々達対してドヤっとしながら言う。

 

 

「ほら、紳士的だろ?」

 

『どこがだ!?』

 

 

 当然ながら欲望丸出しな台詞なので、当たり前のように全員から否定されまくってしまった月音は解せないといった顔だ。

 

 

「人間じゃねぇお前らにはわからんのだよ」

 

「人間だろうと妖怪だろうと魔女だろうと関係なく最低ですよ!?」

 

「私はそのストレートさはイヤではないが、他の女だと悲鳴でもあがりそうだな」

 

「変態の極みね」

 

「ちょっと無いかなー……? それとさっきからロザリオが凄い荒ぶってて、もう一人の私がめちゃくちゃ怒ってるわよ」

 

「な、なんだと……ぽんこつはどうでも良いが、これで紳士的ではないだと…?」

 

 

 紳士の極みだと本気で思ってたのに、これでもダメ出しをされてしまったと今度はショックを受ける。

 

 

「く、ぐぐ、じゃあ黒乃さんは!? さっきの俺は紳士的だったろう!?」

 

「あ、あのその……今後は本当にやめた方が良いと思ったといいますか……」

 

「ダニィ!?」

 

 

 月音の中では、妖怪にしてはかなり常識人認定をしている胡夢にまで無いと言われてしまい、某伝説の超野菜人の出現を伝えるならず者に反応する王子みたいな声が出てしまう。

 

 

「クソッタレー!! じゃあ悲鳴あげながら逃げてたのは照れ隠しでもなんでもなくマジ逃げだったってのかよ!?」

 

「………。寧ろ何故そこに気付かないんですか」

 

「初対面の男にそんな変態丸出しな台詞吐かれて喜ぶ女なんて居ないっての……」

 

「月音を知ってる私とかではない限りは無謀な台詞だぞ」

 

「ドライグくんも困ってたわよ? 『アイツの悪癖だけはどうにも治せん』って。それとさっきからもう一人の私が、胡夢ちゃんに近いから離れろって怒鳴ってるわ」

 

「やはり月音さんは私をお漏らしさせた挙げ句ゲラゲラと鬼畜に笑い飛ばす意地悪さがないとダメな気がします」

 

 

 半目のジト目な視線を四方八方から受けてとうとう自分のナンパが間違いまくりのものだったと自覚する月音は、流石に意気消沈となってさっきからもじもじとしている胡夢に気づかず自分の席に戻ろうとした時だった。

 

 

「ヒッヒッヒッ、ちょいと揺れるから気を付けろよ~?」

 

 

 バスを運転していた運転手が揺れると警告すると同時にバスが大きく揺れた。

 

 

「ぬおっ!?」

 

 

 ダメ出しされまくって意気消沈していた月音がバランスを崩してしまう。

 

 

「きゃ……!?」

 

「ぐあっ!?」

 

 

 この程度で普段はバランスなんて崩さなかったが、ダメ出しによるメンタルダメージのせいか、足を揺れに取られてしまった月音が目の前の胡夢に向かってそのまま倒れかかってしまった。

 

 

「………」

 

「……………」

 

『……』

 

 

 倒れこんだ月音が思いきり胡夢の胸に顔面ダイブをかますという体勢となり、再びの静寂が車内を支配する。

 

 

「つ、月音……?」

 

「…………………」

 

『がーっ!! 突き飛ばせ! 殴り飛ばせホルスタイン女!!』

 

「く、胡夢さんのおっぱいに月音さんの顔が思いきり……」

 

「おい……何故そんな満更でもない顔なんだお前は?」

 

「あ、や……これは事故だし?」

 

 

 ぴくりとも動くことなく胡夢の胸に顔を突っ込んでいる月音への怒声やら、満更でもなく寧ろさりげなく月音の背中に腕を回して抱き締め始める胡夢にへの文句の言葉が出で来る中、ぴくりとも動かなくなってしまった月音はといえば……。

 

 

「…………。目を回して気絶してるわ」

 

「前に胡夢さんと私が月音さんに反学派連中から助けて貰った際、お礼なんてほざいた胡夢さんからちゅーをされた時みたいな顔で気絶してますぅ……」

 

「その時、ドライグ君も言ってたけど、月音って案外ストレートな展開に弱いみたいね……」

 

『ええぃ、呑気に言ってる場合か! 替われ! あのホルスタインをシバき倒す!!』

 

「落ち着きなさいって。

それじゃあまるで負け犬さんのやることよ?」

 

「くっ、月音はひょっとしてデカい乳が好きなのか?」

 

『ガキの頃からその傾向はあったな』

 

「ほら、やっぱり変態男じゃない」

 

 

 いつぞや不意打ちで胡夢にお礼をされた時のような顔が茹で蛸のように真っ赤に紅潮させ、目を渦巻きに回して気絶していた。

 そんな月音と、やっぱり然り気無く抱き寄せる胡夢を見ていた裏萌香が癇癪を爆発させながら表の萌香に替われと言い出し、他の者はジトっとしながら胡夢を睨む。

 

 

「は、はへ……」

 

「ほ、ほら起きてよ月音? ……だ、ダメだ、起きないわ。

えーっと、うん……仕方ないから起きるまでこうしてあげるわ……他意は別にないけど」

 

「無いなら月音を私に渡せ、私が抱きしめてやるから」

 

「いえ、私に渡してください。

普段は肩車とかおんぶとか膝に乗せてくれるお礼として膝枕くらいならできますから!」

 

『月音のバカ! 無駄乳好きめ!』

 

 

 結局目的地に着くまで気絶していた月音は、胡夢に抱き寄せられっぱなしだったという。

 そして意識を取り戻した際、信じられないことにただただ平謝りだった。

 

 

「わ、悪い! また迷惑かけた……」

 

「ホントよ、月音が気絶してる間はみぞれやら紫ちゃんやら裏萌香が大騒ぎするし……」

 

「………」

 

「まあでも……?

私だって月音とはそんな他人行儀な仲じゃないつもりだし、気にしなくて良いわ。

ただ、あのナンパのやり方はやめたほうが良いけど」

 

「おう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ますます気持ち悪い仲の良さになってますぅ……」

 

『ムカつく! 何故だか知らないが非常に気に食わん!』

 

 

 

 

 

 

終わり




補足

どうであれキズモノにしてしまっている事への彼なりの罪悪感と、要らぬ可能性を開かせてしまった責任もあるせいか当初鼻で笑ってた相手への態度が変わりまくってる。

しかも本人も本人で可能性をモノにし始めてるので余計に。


その2
裏萌香さん怒りまくる。


その3
胡夢さんクリティカルヒット。


月音(一誠)『どんなに人生や精神が歪みまくってもおっぱいには勝てなかったよ……(遠い目)』

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