魔改造フラグ……ON
白き破壊の神の伝説。
その力は神にも等しく、そして神をも殺す絶対なる存在。
ただ一人、かつてその白き破壊神と会うことができた者は三大冥王の一人に数えられるまでに到達した後の行方は彼にしかわからなかった。
その力を手にした者はこの世を制する。
伝説を知る者の多くはその力を求める為に暗躍をした。
そしてそんな伝説を知る新たな存在が現れし時――
『あの喰うだけしか能の無いバカ猫も随分と出世したらしい。
もっとも、あのバカ猫の事だ、なにも知らないバカ共に神だなんだと揶揄されたところでうざがるだけだろうぜ』
その無尽蔵なる憎悪を滾らせている赤き龍の帝王が降臨した時。
『どっちにしろそんな話を聞いちまった以上、テメー等を生かす理由はねぇ……』
その憎悪から少しずつ違うものに触れ始めた赤き龍帝が再臨した時。
眠り続ける伝説は再び目覚めるのかもしれない。
強力な魔術の代償に肉体が死にかけていた魔女への定期的に血の提供を続ける月音のおかげで、本来なら朽ち果てる筈でった植物を操る魔女は生気を取り戻し、現在は弟子の橙条瑠妃の保護者を務める傍ら、その友人達を鍛えてあげたりとする――穏やかで悪い気はしない日常を送っている。
弟子の瑠妃から『お館様』と呼ばれているその魔女は真の名を名乗らなくなって久しかったのだが、自分の命と土地を人間達から守る術を教えてくれた人間の男児に問われる事で再びその名を呼ばれるようになった。
運命の悪戯か――真の名がイリナである魔女の運命は穏やかでちょっと慌ただしい日常と共に過ぎていくのだ。
「頼む! お願いします! どうかこの制服を着てくれ! そして一枚で良いから写真を撮らせてくれ! 待ち受けにするから!」
「お、お前はそうやって土下座をすれば私が承知すると思ってるだろう?」
「似合いそうだから! お願い! 後生だから!!」
「う……。く……し、仕方ないな……」
運命を変えた少年にしょっちゅうこっ恥ずかしいコスプレをさせられながら……。
去年の大喧嘩以降、裏萌香は確かに月音との差を少しは埋められた。
それに甘んじるつもりは毛頭ないにせよ、ひとまずは満足である。
だが同時に不満にも思う。
てっきりその凶悪で粗暴な性格のせいで自分くらいしか友達なんてできもしないだろうと思っていたのに、あれよあれよと月音の凶暴さを承知で近寄ろうとする輩(ほぼ女ばっかり)が増えてしまった。
「あ、しまった……数学の教科書を忘れてきちゃった」
「…………」
「え……どうしたのよ月音?」
「ほら使えよ。
俺は適当に寝てるから」
最初は魔女の紫だった。
彼女の場合は飛び級で実年齢がまだ子供だからというのもあってほぼ最初から態度が甘かったのでまだ納得もできる。
しかし今月音に数学の教科書を渡された胡夢に関しては当初互いに毛嫌いするほど破綻していた筈だった。
だというのにここ最近は寧ろ月音の方も胡夢に対して妙に態度が甘い。
「私は授業の内容も把握してますし、私の教科書を貸しましょうか?」
「いやいい。
どっちにしろ昨日血を抜きまくって眠いし、このまま寝るわ」
「瑠妃さんの師匠さんにですか……」
「そこまで聞けばちょっとはかっこよくも聞こえるが、瑠妃のやつが怒ってたぞ? 土下座しながらどこかの学校の女子制服を着てくれって拝み倒していたとな」
「またそんな……。
ここに居るときは何に対しても無関心顔なのに、なんであの人にはそうなのよ……」
「逸材だからなあの人は……ふっふっふっ」
「たまに月音の中での基準がわからない時があるわ……」
『……………』
下手にそのことを言うと月音に無視されるので抑えるものの、この状況に対して裏萌香は言い知れぬ危機感を抱く。
特に当初は眼中にもなかった胡夢が異常な速度で月音と仲良くなっているので。
「Zzz………」
「寝ちゃった……。
血が足りてないのは本当みたいね」
「何があるかわからないからって何時も常人なら失血死確定の量の血を抜いていっているみたいですからね……」
「それで裏萌香相手に勝てる辺り、ほんと強いわね月音って……」
「それでこそ私の月音だ。
………しかし困ったぞ、眠る前に月音に話しておきたかったことがあったのに」
「? なによ話したいことって?」
「いや、部活の時にでも言うさ」
対応が軟化すればするほど裏萌香が『ぐぬぬ』をしているとは知るよしも無い月音は授業の殆どを眠ることで失血による体力消耗をある程度回復させることに成功する。
「寝てれば治るって辺りも信じられない回復力してるわねー?」
「これでも全盛期の頃は手足が消しとんでも再生可能だったんだ」
『時間はかかるが、臓器も完全に再生可能だったぞ』
「ドライグに力を借りてだけどね……。それに今は多分もう無理だと思うが」
「それでも十分凄いっての……ほら飲みなさい」
放課後となり、新聞部の部室でもある公安委員室にて瑠妃と一緒に公安委員会の仕事をしつつ部活をする月音は、胡夢から差し出された飲み物を飲む。
「あとこれは家庭科調理室を借りて作ってみたお菓子よ」
「え? ああ、どうも……」
それから手作りらしいお菓子も貰った月音。
当初なら絶対に口になんて入れなかっただろう月音が、軽くでありながらも礼を口にしながら食べている辺り、去年の大喧嘩である程度過去との線引きが出来はじめているのかもしれない。
「どう?」
「あー……なんだろ、普通に食えるよ」
「そう? ふふん、これでも結構自信あったから嬉しいわよ?」
「おう……」
故に裏萌香の懸念している件は大体当たっている。
特に最近になって妙に胡夢とのやり取りが良い方向に行きすぎてる程であり、それは裏萌香だけではなく、他の者達にもわかっていた。
「最近になって胡夢さんと月音さんのやり取りが自然体過ぎるといいますか、なんか気持ち悪いくらい仲が良くなっているような……」
「月音が言うには、『ただの畜生だと思ってたけど、案外感性が普通だった』んだってさ?」
「………」
『…………』
表萌香の言葉にロザリオに居る裏萌香と、月音に話があるみぞれは渋い顔をしながらチビチビとお菓子を食べてる月音と、その傍で嬉しそうに微笑んでいる胡夢を見る。
「胡夢ちゃんって結構家庭的だからねー……。
月音って案外そういう子に弱いのかも?」
「「……」」
『………』
「むー……最初の頃、私をお漏らしさせた挙げ句、徹底的に虐め倒してくれたような鬼畜な月音さんがたまには見たいのですがね……」
最近は月音達のやり取りをドライグと共に見守る立ち位置になりつつある表萌香の意味深な言い方に、紫、裏萌香、みぞれは少しムッとなる。
ちなみに瑠妃にはそういった不満はないらしいく、強いて言うなら出会ったばかりの頃の鬼畜さを向けてくれなくなっているのと、師であり保護者でもあるイリナにばかりかまけるのが不満だったり。
「おい無駄乳、そうやってこざかしいポイント稼ぎばっかりするな」
「む、無駄乳ってなによ!? そ、それに別にポイント稼ぎなんてしてないし!」
このままだと月音が取られると思い、つい胡夢に悪態つくみぞれはここで行動に出る事を決め、妙な空気を放っていた両者の間に割って入ると、むしゃむしゃと菓子を食べていた月音に一枚の葉書を手渡す。
「月音にも読ませて欲しいと母から届いた手紙だ」
「母……あぁ、あのオバハン雪女のことか。
なんでまた……」
それは母のつららから娘であるみぞれ……そしてどういう訳か月音へと充てた手紙だった。
去年初めてみぞれの母のつららと出会ってから今まで、単なる妖怪ババァと揶揄して一切の関心がなかった月音は訝しげな顔をしながらも、一応目を通してみる。
「………………」
「なになに? なんて書いてあるの?」
別に読む義理もないのだけど、みぞれの様子がちょっとおかしいのもあったので、変な事でも書かれているのかと読んでみた月音の表情が段々と『イヤそうな顔』へと変わっていくのを胡夢や紫、それから萌香二人と瑠妃は見て手紙の内容が気になる中、手紙へと向けていた視線を妙にそわそわと身体を揺らすみぞれへと移す。
「この手紙の内容によると、キミに田舎とやらに帰省しろって話なのはわかった。
けど、その帰省に俺がわざわざ付き合わなきゃならん理由がわからない」
どうやら帰省をしろという内容の手紙であり、その帰省の際どうにかして月音も連れてこい的な内容と共に、月音に読まれるのを見越しての月音にたいする案内の手紙だった。
「その手紙に書いてある式典が主な理由だ。
私は今年で17で、種族としては成人の年齢なんだ」
理由を求める月音にみぞれは雪女の種族についての説明を交えながら説明する。
17の年で雪女としては成人となる今年、みぞれは故郷の伝統の『花納め』という儀式的なものをする必要があるので帰らないとならないらしい。
「花納めというのは故郷の近くにある山から小さな花を摘んで神社に納める儀式の事だ。
「その儀式と俺になんの関係がある?」
「その儀式を見て欲しいというのと、単純に月音を故郷の里に招待したい……それだけだよ」
「…………………」
「あ、いやその……母のことを胡散臭いと思っているのはわかっているけど、これは本当の事だぞ……?」
胡散臭い宗教教祖でも見るような顔をする月音にみぞれはあたふたとする。
態度こそ丸くなりがちになっているが、それは萌香達といった今の月音に近しい者達にだけであって、その他の存在に対しては依然こんな態度だし、必要なら躊躇なしで八つ裂きにもする。
「うーん、やっぱりあの男の子は居ないか……。
見つけたらせめて名前だけでも……」
つい先日新聞部に入り、今現在会話に参加せず一人なにかを探すように窓の外を双眼鏡で眺めている心愛に対してが主なサンプルである。
「頼む、私の故郷の里には月音が思ってるような輩は居ないって誓える。
なにより飯も美味いぞ」
「……………人間の女の子は?」
「それは居ないけど……」
「チッ、それじゃあ意味ねーだろ。
そもそも俺はこの式典とやらの日は銀影先輩と人間界でナンパをしに行く予定が――」
「どうせまた鼻の下がダルダルに伸びすぎてドン引きされて逃げられるが関の山ですぅ」
「確かに……。
なんというか、ああいう時の月音ってがっつき過ぎてちょっとカッコ悪いし……」
『下心が丸出しで見るに堪えん』
『残念だがコイツらの言ってる通りだ』
「……………………………」
イヤすぎて断ろうとした瞬間、全員から総すかんを食らってしまった月音はちょっと凹んだ。
あくまで個人的には紳士的なナンパをしていたつもりだったので。
「イヤか……?」
「う……そ、その目をやめろ。
わ、わかったよ! 行けば良いんだろう行けば!? ちくしょう!! 捨てられた犬みてーな目をしやがって……!」
そしてトドメにみぞれから捨てられた子犬みたいな眼差しをされてしまい、変な罪悪感を感じてしまった月音は結局了承することに。
(こ、こんな人間じゃない生物に……ちくしょうめ!)
『下手な人間より人間らしいかもしれんしなコイツらは』
その罪悪感を抱くこと自体、月音の精神が変わり始めているとこの時はまだ気づかないまま、季節外れの冬観光が決まるのだった。
「あ、手紙には友達もとあったからお前達も来たければ来ても良いぞ?」
「ホントに!?」
「やったですぅ!」
終わり。
イレギュラー的な理由で月音の――赤龍帝の血をその身に取り込んだ胡夢は、取り込む前とは比べ物にならぬ身体能力の進化の制御と昇華の為に密かな特訓をしていたのだが、その特訓をある日月音に知られて以降、実は本人から手解きを受けていたりする。
「さ、さすがに裏萌香達とは違って上手くはいかないわね……」
「俺の血を取り込めたってだけで簡単に進化なんてできない。
精々『その可能性』を広げる程度で、あとは本人次第だからね」
「え、ええ……わかってるわ。もう一度お願い!」
制服の袖に隠れているが、胡夢の左肩には切断の傷が残った。
その傷跡こそ胡夢が偶発的に掴んでしまった可能性への扉の証。
その可能性をものにし、更なる領域へと飛翔する為にも、胡夢は何度も壁を乗り越えんともがく。
「もし一発当てられたら……えーっと、月音からなにかしてちょうだい!」
「へ、当てられたな」
こうして特訓をしてくれるようになってから、胡夢はまともな戦いかたを月音から教えられた。
既に自分の
故に胡夢は掴んだ可能性をさらに広げる。
そして黒乃胡夢の可能性は――
「ここは私の出番ね……!」
「す、凄い……! 胡夢ちゃんがあんなに強くなってるなんて……」
「私も驚きです。
しかしあの戦い方ってどことなく――」
『月音に似てる……なんだかムカムカする』
スタイル『ヤンキー』
とにかく意地と根性で前へと突き進み、敵を倒しまくる不良の喧嘩の流れをくんだスタイル。
『スピード』
速度で撹乱し、素早く敵を殲滅するヒット&アウェイのスタイル
『ウェポン』
ありふれた物すらをも武器とし押し寄せる軍勢を殲滅するパワースタイル。
そして……。
「萌香は神器という側から月音の領域へと近づけた。
私は当然そんな力なんてないわ……けど、解ったのよ。
ドライグではない、月音の心に宿っていた
異常・有幻実効
伝説・夢魔
『魔を超えることができた今のキミになら扱える筈だ。
少し悔しいが、アイツを――イッセーを……いや、キミ達にとっては月音と共に戦う力をお前に託そう……』
「………。本当に、勝てる気がしないっての……貴女達には……!」
『……ふ、なら私を超えてみろ。
さぁその手に掴め、退けば敗けるぞ、臆せば死ぬ……! だから叫べ我が継承者よ! その剣の名は――』
継承・デュランダル
………嘘
補足
割りと感覚が常識人なものだから日に日に互いがラフに会話できるようになっていく。
そして傷を負わせた事への罪悪感と、要らぬ力を取り込ませてしまった事へのケジメもあって制御の為の訓練にも夜な夜な付き合う。
……結果すげー事になるかもだけど。
その2
だから裏萌香さんはぐぬぬしまくる。
裏萌香さん達は神器という側面で土台に立とうとし、胡夢さんは異常性という土台に立つ。
……つまり対等になれる可能性が高いかもしれない