色々なIF集   作:超人類DX

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クロス話の続き


赤龍帝とバンパイア(シーズン2)
事故と偶然と


 

 

 

 

 暴力の権化という概念があるとするなら、それはまさに彼の事だろう。

 

 恐怖、絶望、挫折と共に徹底的に叩きのめされた少女は姉によって体験した挫折を大きく超えた挫折を知る。

 

 

 一族ではない、聞いたことのない無名の男に負けた。

 

 

 それが少女に与えられた新たな挫折だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セクハラされるのが嫌すぎるからという理由で部活に入っているのが青野月音である。

 彼はその見た目とは真逆で短気であり、口も悪く、人ならざる存在への暴力性が極めて高い。

 

 そんな少年が、過去の因縁への決着の為に敢えて人ならざる者達の通う学園に所属していて、そこそこ恐怖の対象となりながらも、それなりに学生をやっている。

 

 そんな彼と彼の所属する新聞部は先日のとある取材により学園近辺に出没したとある強盗団を取材の意味合いを込めて探す事になった。

 

 結果だけを言えば本当に強盗団が居たわけだが、公安委員会の委員長も兼任させられている月音によって瞬く間に殲滅させられてしまう。

 

 そしてその時の様子をネタに新学期第一号の新聞が発行された。

 

 

「新聞部・新学期一号でーす!」

 

 

 見出しはチンピラムーブかました月音が強盗団をまとめて路上のチンピラの喧嘩よろしくにタコ殴りにして成敗している時の事についてだった。

 新聞を作成するに辺り、最後まで月音本人は自分をメインにすると間違いなく読まれなくなると警告したのだけど、萌香達はそれでも月音をメインにした記事を作成してしまう。

 

 

「う、うわぁ……」

 

「強盗団も運が悪かったな……」

 

「よりにもよってあの青野に……」

 

 

 案の定、興味本位で記事を読む生徒達のほぼ全員が『凶悪小僧』のような形相で泣きながら逃げる強盗団を後ろから蹴り飛ばしている記事の写真を見てドン引きしている。

 

 こうしてますます青野月音への畏怖度が高まる中、今回の取材の少し前、見事なまでに八つ裂きにされた新一年生の少女――朱染心愛はといえば……。

 

 

「ぐ、ぐぬぬ……!」

 

 

 つい先日まで全身が包帯だらけの似非ミイラ状態で安静にせざるをえない重症患者が、姉の萌香の知り合いらしき魔女の女性により復帰を果たし、安静状態の最中に起こっていた事件で憎き男が活躍していた話に悔しがっていた。

 

 

「こんな乱暴な変態男の近くにいたらお姉ちゃんか汚れちゃう……!」

 

 

 全身をタコ殴りにされた恨みもあるものの、そんな相手を変態呼ばわりしている辺り、精神的にはそこそこタフなのかもしれないし、なんなら物陰から死んでる魚のような目をしながら公安委員会の仕事をしている月音を睨んでいるくらいはメンタルもやられてはいないらしい。

 

 

「あ、あの時はちょっと油断してただけだし、見てなさいよ……!」

 

 

 こうして奇跡的に復帰できた心愛は密かなる復讐を企てるようになるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな復讐心を育む心愛とは反対に、最早その事すら忘れていた月音はといえば、新聞部の部室も兼ねている公安委員室にてちょっとした打ち上げ中だった。

 

 

「あ? 一年の入部申請が0の可能性が高い?」

 

「そーなのよ、一応今日から部活の勧誘期間に入るんだけど……」

 

「……………あぁ、俺が理由って言いたいわけだな?」

 

 

 一応貰ったジュースを飲みながら参加はしていた月音は、強盗団の件の話から部員についての話になると、意外と真面目に部活をしている胡夢から新しい部員が来ない気がするという旨の話をされ、それがほぼ間違いなく月音が理由だと理解する。

 

 

「じゃあ俺が退部すれば良いだろ、別にそこまでやる気ある訳じゃないし」

 

「即座に猫目先生が騒ぐんじゃないの?」

 

「…………………ぐ、それは確かに」

 

 

 ならば自分が退部してしまえばという発言に対して胡夢はその場合によって起こりうる未来について話せば、胡夢のみならず、その場に居る者全員が頷く。

 

 

「それに月音に退部されたら公安委員室(ここ)が部室として使えなくなるし……。

正直言うとそこまで新しい部員に入って欲しいというわけじゃあないんだけどさ」

 

「………」

 

「ちなみに私は昨日付けで正式に入ったぞ。

ふふん、これで堂々と月音と……」

 

「私も公安委員会の副委員長と兼任で入りました」

 

 

 みぞれと瑠妃が正式に加入した時点で部活としての人数の適正はクリアできているとのこと。

 別にそこまで考えてやる事もないとは思いつつも、意外と真面目に考えている胡夢の手前もあるので、一応なにか手はないものかと考えていると……。

 

 

「そういう訳なので、皆さんと一緒に部員の勧誘をしましょー♪」

 

「……………………」

 

 

 音もなく椅子に座っていた月音の背後に立っていた顧問の猫目静がチアガールの格好で後ろから月音に抱きつきながら言う。

 その瞬間、プッチンプリンのようにぷっつんした月音が思いきりぶん投げるのは彼女達にとってはいつもの光景だった。

 

 

「殺す! 今度こそ殺す!!!」

 

「お、落ち着きなさいって!」

 

「猫目先生もブレないねー……」

 

 

 

 こうして何故か女子達がチアガールのような格好をしての部活勧誘が開始され、その解禁を待ってましたのように他の部活動の者達の勧誘ラッシュで校舎は賑わいを見せていた。

 

 

「ひっ!? し、新聞部は入らないですー!!」

 

「ほ、他の部活に入る予定なので……!」

 

「さようならー!!」

 

 

 案の定、美少女だらけなのに男子達からですらチアガールの格好をしている萌香達の後ろで公安委員の新制服に身を包んでいる月音の存在によって逃げられていた。

 

 

「だから言ったのに、俺なんて単なる害悪でしかねーだろ」

 

 

 声をかける前に新入生から逃げられる現状に、月音はめんどくさそうに呟く。

 

 

「うーん、最近なんでか広まっている噂もあるせいなのかしら?」

 

「噂?」

 

「えーっと、『新聞部は青野月音が女子達を侍らせる部活だから入ってもうま味がない』………って」

 

「……………」

 

「や、所詮単なる噂だし、そうじゃないってのは私達はわかってるからほっといてたのだけど、まさかこんな形で弊害になるとは……」

 

「……………………………………」

 

「そ、そこまで露骨に凹まれると傷つくんだけど?」

 

「…………………………………………………………………………ああ」

 

 

 結局噂もあって勧誘は上手くいかないまま時間だけが過ぎていく。

 そんな時だったか……。

 

 

「ところで先程からずっと萌香さんの妹さんがこそこそしながらついてきてますが……」

 

 

 部員の一人である仙童紫が指差す先には確かに先日やっとミイラではなくなった萌香の妹が物陰から窺うようにこちらを見ている。

 

 

「あ、もしかしたらあの子なら入ってくれるかも?」

 

 

 その視線に対して突然表の萌香がそんな事を言い出すのだが、先日の件を見ていた胡夢達はそれは無いだろうと突っ込む。

 

 それでも一応は声をかけてみるものの、月音はといえば最早心愛を視界にすらいれていない。

 

 

「は、はぁ? なんでこんな所に入らないといけないのよ?」

 

「今のところ新入生の部員が一人も入らなくて、アナタならちょうどいいかなって……」

 

「い、嫌よ! そもそもお姉ちゃんがこんな低俗なところに居るのですら我慢ならないし、なによりそこの暴力変態男と同じ部活なんて……!!」

 

「…………………」

 

 

 はっきりと月音を指差しての発言に、一瞬周囲はヒヤリとしたが、月音本人はといえばそんな心愛を一瞥しつつ鼻で笑うだけだった。

 

 その見下しきった態度が余計に心愛の神経を逆撫でしていく。

 

 

「な、なによその態度!? この前は単に油断しただけであって、万全の状態ならあんたなんて――」

 

「わかったから黙れ虫けら。

テメーの声は耳に障る」

 

「んがっ!? な、なんですってー!?」

 

 

 つっかかる心愛を心底見下しまくる月音に萌香達はおろおろとする。

 

 

「ぜっっったいにこんな部活になんて入らないんだから!!」

 

 

 そう叫びながら走り去る心愛。

 こうして新聞部は部員を一人も確保ができなかったのであったのだが……。

 

 事件はここからであった。

 

 それは心愛を見てちょっと不憫に思った紫が後を追って話をしてみたり。

 月音の力に食らいつくには身体的な意味でのスペックを上げなければ話にもならないと聞いて、武道関連の部活を見学しようとしたら揃って門前払いを食らったり。

 

 見た目が子供だからと考えた結果、紫が開発した『すくすくドロップ』という飴のようななにかを服用して一時的に大人になったと思いきや副作用で子供になったりと、心愛と紫が騒いでいる間にそれは起きていた。

 

 

「………………………」

 

『見事にガキの姿だぞ』

 

 

 それは部室に戻った際に机の上に置いてあった『すくすくドロップ』をただの飴と勘違いして食べてしまった月音が大人の姿にはならずに寧ろ子供化してしまっていた。

 

 

「この顔はしかも……」

 

『ああ、一誠としてのお前のガキの頃の姿だな』

 

 

 加えて、月音としての子供化ではなく一誠としての子供化として……。

 幸い一人で部室に戻ったので他の者には見られていない。

 

 

『あの飴のようななにかに妙な仕掛けでもあったのだろう』

 

「はぁ……」

 

 

 残っていたすくすくドロップを隠しながら月音――否、イッセーは舌打ちをする。

 誰の差し金かは知らないが、こんなしょうもない光景を見られでもしたら笑われてしまう。

 

 自然と元に戻れるかは不明だが、暫くは姿を隠した方が良いと判断したイッセーはこっそりと学園から抜け出そうと部室を出ていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 朱染心愛は災難だった。

 

 紫と妙な同盟を組んだ矢先に、彼女の発明品で一瞬だけ大人になり、馬鹿にしてきた空手部の連中を見返してやれたかと思えば副作用で子供になってしまうし、仕方ないので新聞部の部室に行けば胡夢達に大笑いされた挙げ句コスプレさせられ、頼りにできそうな姉にも子供扱いされ。

 

 唯一あの憎き月音が留守でこの体たらくを見られてないのが救いだったにせよ、子供扱いに耐えきれずに飛び出した心愛の心は結構傷ついていた。

 

 しかもそんなタイミングで恥をかかされたと逆恨みしていた空手部の三下に襲われる始末。

 

 

「こ、こんなところで……!」

 

 

 下劣な顔で嘲笑う三下達に抗う力を失っていた心愛、

 しかしそんな時だったか……。

 

 

「あ? なんだお前は?」

 

「ガキ? おいおい、ここは幼稚園じゃねーんだぞ? 迷子かぁ? くくく」

 

「……………………」

 

 

 茶髪で目付きの悪い……今の自分かそれよりも幼い少年が現れたのだ。

 突然の訪問者に空手部の三下達は内心『公安委員会じゃなくて良かった』と安堵しながら、ニタニタと無言で見上げる子供の頭を叩いていたのだが……。

 

 

「ゴゲギャアッ!?」

 

『なっ!?』

 

 

 少年を叩いていた空手部の一人の腕があらぬ方向にネジ曲がったかと思えば、跳躍と同時に空手部の顔面は蹴り飛ばされた。

 

 

「な、なんだこのガキは!?」

 

「このガキィ!!」

 

 

 ぶっ飛んで気絶した空手部員を見て激昂する他の部員達のお陰で心愛は解放される。

 しかしその代わりにあの謎の子供が危ない……そう思った心愛は誰かを思い出す目付きをしている少年に叫ぶ。

 

 

「に、逃げなさい!」

 

「………………………」

 

 

 流石に見知らぬ子供がこの人数にリンチされる様を見たいなんて思わない心愛だが、少年は一瞬こちらを振り向くだけで逃げる気配がまるでない。

 

 

「………………」

 

「な、なにしてんのよ!?」

 

 

 それどころか戦う意思をみせるように構える少年に心愛はもう一度叫ぶが、少年は構えをとかない。

 

 

「こんなやつらに負ける気なんてない」

 

「は、はぁ?」

 

 

 そう言って激昂する空手部員の正拳突きを捌いた少年は跳躍しながら部員の顎を蹴りあげた。

 

 

「ごばっ!?」

 

「こ、このガキ!」

 

「…………」

 

 

 蹴りあげられて地に沈む仲間を見て他の部員が少年を蹴り飛ばそうとするが、その脚を掴まれた部員は子供とは思えぬ腕力で投げ飛ばされる。

 

 

(こ、この子……子供だけど普通に強い?)

 

 

 ここで心愛は少年が見た目とは裏腹に凄く強い事に気付く。

 しかしそれと同時にいったいこの子供は何者なのだろうかと……そう思いながら小さな身体で翻弄しながら部員達を一人一人確実に沈めていく少年を見つめる。

 

 

「……………」

 

 

 そして気付けば心愛に復讐しようとしていた部員達は全滅する。

 蓋を開けてみれば少年の完勝であった。

 

 

「……………」

 

「あ、あの……」

 

 

 構えを解く少年に、心愛は恐る恐る声をかけると、少年が振り向く。

 その目付きはやっぱり悪くて、どことなく生意気そうな気がしてならなかったけど、助けてくれたのはたしかだったので、心愛は素直に礼を口にする。

 

 

「た、助けてくれてありが――ふみゅ」

 

「……………」

 

 

 しかしその瞬間、何故か少年によって顔をベタベタと触られる。

 

 

(な、なんなのよこの子供? こ、この私に気安く……)

 

「…………」

 

 

 行動が読めない心愛は憤慨したいのだが、何故か怒る気が起きないでいて、ベタベタと少年に触れられまくる。

 

 

「………」

 

(で、でも何故か知らないけど悪い気がしない……)

 

 

 数分程呻き声をBGMにベタベタと触られていた心愛だったが、やがて少年は無言のまま触れるのをやめる。

 

 

「ぁ……」

 

「………」

 

 

 その際、心愛は自分でもわからなかったが何故か少しだけ残念な気持ちになり、その意味はこの時まだわからなかった。

 

 

「出来れば忘れろ、おれのことを」

 

 

 しかしほんの一瞬、たった一度だけ見た少年の表情を見た瞬間……。

 

 

「……………………」

 

「じゃあね」

 

 

 朱染心愛の精神は少しだけ変わる事になった。

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ココア!?」

 

「って、コイツら空手部の奴等じゃない? もしきてココアちゃんが倒したの?」

 

「ち、違う……今の私より小さな男の子が助けてくれたの……」

 

「小さな男の子……? 一体……って、ココアさん?」

 

「………………」

 

 

 忘れたくても忘れられない思い出として。

 

 

 

 

 

 

 

「チッ、あの虫けらも食ったのか? 危うくバレて馬鹿にされるところだったぜ……」

 

『だからオレを使わなかったわけか……』

 

「わざわざあんな雑魚にドライグは勿体ないってのもあったよ。

にしてもこれ本当に戻れるんだろうな……?」

 

 

 

終わり

 

 

 

 その思い出のせいでちょっとだけショタコンに目覚めてしまった少女。

 

 しかしどれだけ探してもあの時助けてくれた男の子さ見つからなかったのだが……。

 

 

「ふっふっふっ、最近開発した変身のお陰で、ガキの姿になれる。

これで堂々と銭湯の女風呂に――にひひひっ!」

 

 

 唐突なる再会によって燻らせていた少女のショタコンが爆発した。

 

「見つけた! ね、ねぇ私のこと覚えてる? あの時は事情があって小さくなってたんだけど、本当の私は大人なのよ?」

 

「あ、あぁ……?(なんだこのガキ? 妙になれなれし)」

 

『女風呂に入る為だけに一誠の姿でガキになったから、月音ではないと思われてるんだろう』

 

 

 妙にハァハァしながら無遠慮にさわってくる少女に、変身している月音(ショタ一誠モード)は困惑する。

 

 

「ほ、ほら! お礼にお姉ちゃんが遊んであげるわ! ねっ! ねっ!?」

 

「い、いや……。(こ、こいつ……目がやべぇ)」

 

『特殊な性癖にでも目覚めたのか……』

 

 

 変身の間は力を大幅に落とすという明確すぎる弱点を無視してまで人間界の女風呂に入りたい願望を優先していたショタモードの月音は、目が軽くイッてる……普段は敵意を向けてくる少女にドン引きだった。

 

 そして後日…。

 

 

「ふん! あんたみたいな変態男と比べて、イッセーきゅんは本当にいい子だわ!」

 

「い、イッセーきゅん?」

 

「だ、誰ですかその人? というかイッセーって名前はたしか……」

 

「………………」

 

 

 

 

 

「ふふふ、ちゃんと写真も撮った。

今度会ったら遊ぶって約束もした……ふふふ、ふふふっ! はぁ……イッセーくんを抱っこしながら――うへ、うへへへ!」

 

「………………………………………」

 

「お、おい……ココアがおかしくなってしまったぞ」

 

『どういう事か説明できるドライグくん?』

 

『……特殊な性癖に目覚めさせてしまったとしか言えん』

 

 

終わり




補足

すくすくドロップをただの飴と勘違いして食べたら、退行してしまい、見た目が幼少期の一誠になる。


見られたら笑われると思って、戻るまでうろうろしてたら同じく副作用でロリ化してた心愛がなんか襲われてるのを発見する。

 別にほっといても良かったのだが、気づいたらなんか助けてしまってた。

ベタベタしたのは同じ飴でも食ったのかの確認のため。


結果ショタコンに目覚めさせた。


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