そしてきっと大人になりきれない大人へとなるのだろう。
自分の息子に龍が宿っていると知った日。
その龍が息子の力となって守る存在だと知った日。
そして息子が龍の力と共に強くなっていく姿を見た日から、パパスは徹底的に自分を鍛え直すようになった。
「ぬんっ!!」
妻であるマーサが魔界へと連れ去られたあの日から、王である身分を隠しながら幼き息子共に伝説である天空の勇者と、天空の勇者がかつてこの世界に平和をもたらしたとされる武具を探す旅へと出た。
その旅の最中、パパスは確かに強くなれた。
されど六歳となった息子が龍を宿していて、その力により戦う姿を目にしてから、パパスはこのままではいけないと徹底的に鍛えた。
伝説と歴史の流れと共に風化した古代の剣技を旅の最中に知り、血反吐を吐く鍛練と共に甦させることにも成功した。
マーサを魔界へと連れ去った巨悪の存在の手の者たちを撃退することもできた。
「ギガブレイク……!」
必ず妻であるマーサを救う。
その信念をより強固に抱いた事でパパスは己の限界を――即ち『壁』をひとつ越えた。
それは息子であるリュカが龍と共に異次元までの速度で成長していくから。
自分を大きく越えていくだろうから。
だけど、越えた事で孤独になってしまうかもしれない。
人からも、魔物からも――そしてこの世のどこかに存在するかもしれない神にすらも理解されぬ領域に到達してしまえば、きっと誰からも理解されぬ存在になってしまう。
(リュカは特別な存在だ。
赤い龍――ドライグの力を扱うリュカの強さはどこか存在する世界が違う者のように感じるし、時折親のわしが恐怖を感じる程に増大している……)
父である自分でも時折リュカの事がわからなくなるときがある。
リュカ自身は自分を慕ってくれているし、恐らくし自分を越えた所でリュカは父と呼び慕ってくれると信じている。
(それではダメだ。
大人として……そしてリュカの父としてもアイツを独りにさせてはならぬ!)
故にパパスはその強さを引き上げる。
リュカがどれだけ伝説の天空の勇者とは明らかに違う異次元の力を宿していようとも、どこまでいっても自分の子だ。
道を誤れば諭して正してやるのも父である己の役目だから。
なにより……。
(フッ、まだまだ越えられてわしの立つ瀬もないからな!)
一人の男としてのプライドもある。
だからパパスは更なる次元へと到達せんと、王家に代々継承されし剣を振るう。
「奥義・ギガクロスブレイク……!!」
デュムパポス・エル・ケル・グランバニアもまた息子の宿す『精神』によって壁を超えていくのだ。
「た、助けてくれ父さん!!」
「む? なんだリュカ? そんなに血相をかえて……」
「この前から絡まれるようになった金持ちの家の娘二人がしつこいんだよ!」
「娘? ああ、ルドマン殿の……確かデボラさんとフローラさんだったな。
しかし仲良くなることは良いことではないか、ちゃんと遊んであげなさ――――」
「みつけたわよリュカァ!!」
「なぜ逃げるのですか!?」
「…………お、おぉう。
わしの見間違いか? デボラさんが身の丈以上の巨大なハンマーを振り回し、フローラさんはイオナズンレベルの呪文を連発しながらこっちに凄い顔をしながら走ってきているのが見えるのだが……」
「い、いやほら、礼の天空の盾ってのがあの姉妹の家にあるっていうし、金持ちの娘さんだから結構拐われやすいって話だから、軽く自衛の手段を教えたら、なんか飲み込みが微妙に良くてよ……。
この前も山賊みたいな連中を30人くらいはあの子等だけで返り討ちにしたし……」
「それはまたパワフルな姉妹だが……何故追いかけられている?」
「修行じゃなくて遊べっていうから、かったるくて断ったらキレられた……」
「うむ、それなら取り敢えず謝りなさい」
そんなパパスとリュカ親子は、現在本来の歴史よりも相当に速い段階での天空装備のある町へと訪れ、しばしの滞在中だった。
「ぐ、ゴースト! お前足止めしろ!」
「む、むむ、無茶言わんでください!? あ、あの小娘達、坊っちゃんの教えを凄まじい速度で吸収してくれたせいでまともにやりあってもボコボコにされるんでさぁ! と、特にあのデボラとかいう小娘に何度あのデカいハンマーで叩き潰されたか……!」
「チッ、どうせ持てねぇと踏んで前にぶちのめしたゴールデンなんたらから手に入れた金槌を渡したのが間違いだったか……!」
町の外で修行をしていたパパスに助けを求めてたところ、素直に謝れば許してくれると言われてしまったリュカは、ゲレゲレを頭に乗せながら共に並走中のおやぶんゴーストに命令するも、おやぶんゴーストもあのパワフルな姉妹に怖じ気づいてしまっている。
まあ、どう見てもロリロリな見た目してる少女の片方は『まじんのかなづち』を楽々と振り回すし、片方はロリロリな見た目なのに上級呪文を疲弊ほぼなしで何連発もぶちかましてくるのだから、おやぶんなゴーストでも怖いものは怖い。
「ちっ、こうなったら――ドライグ!!」
『こんな事でオレを使うな……まったく』
「良いから……!」
先ほどパパスには遊んでくれと言われたのを断ったからと言ったが、実の所本当の理由は遊んでほしいと言われた際にリュカが……
『え、嫌だ。
俺は今からポワン様の絵を描くつもりなんだよ。
――え? だったら私達の絵を描け? ……はぁ? それだったらオメー等の母ちゃんにモデルになって貰う方がいいし、絵の具が勿体ねぇわ』
と、ガキには興味ねぇと鼻で小馬鹿にした顔で言ってしまうものだから、ぶちギレられたのだ。
まさに自業自得とはこの事であり、町の外まで追い掛けてくるデボラとフローラに対して舌打ちをしながら逃走をしていたリュカは足を止める。
「ったく、これだからお子様は……」
そして振り返り、なんとも形容しがたい顔しながら爆走しまくるデボラとフローラに向かって構えたリュカはその左腕に籠手を纏い―――
「龍拳・爆撃ィ!!!!」
落ち着かせる為とは思えぬ単体奥義をぶちかましてしまうのだった。
妙なナリをしている親子が最近町中にいる。
そんな噂を聞いた少女は元来の性格もありつつ退屈だったので、その親子を探してみたところ、確かに妙なナリというかみすぼらしい格好の親子を発見する。
その時点で少女は興味を失いかけたのだが、偶々町の外へと出ていく親子をなんとなく追い掛けてみた所、親子の子の方が妙に人に慣れてるまものを相手に……なんか凄い速度で戦っているのを見てしまう。
同じ年の頃にアンディという少年が居るのだが、そういった少年達は例がいなく自分の言いなりになるのだが、少女から見た少年の姿はそういった他の少年達とは違う……こう、新鮮なものを感じた。
なのでつい話しかけてみたら、少年はどうやら修行をしているとのこと。
なんでなのかはその時は聞かなかったが、何より少年の態度が少女には新鮮だった。
まったくかしづく気配がなく、自分を完全に子供扱いするような態度。
だけど妙に腹はたたない。
むしろ自分の言動に対してヘラヘラ笑いながら流してさえくる。
加えて少年の父も凄いワイルドな見た目をしていて、最近腹の回りがだらしなくなっている自分の父とは真逆だった。
そして少女自身が完全にこの少年に対する興味を持った理由は、その帰りに金目的で誘拐しようとする輩に拐われそうになった時だった。
年齢にしては肝が座っているので、今更この手の輩に怯えたりはしなかった少女は見たのだ。
「ダイナマイトキーック!!」
「「「ギエピー!!?」」」
自分より下手したら背も低い少年がたった一人で大人達を蹴り飛ばしていく姿を。
「おいおい、この世界は誘拐が流行ってんのかよ? ラインハットのぼんくら王子といい……って、おーい大丈夫か?」
「…………」
「ああ、大丈夫そうだな。
ったく、確かキミってあの町でも一番の金持ちの子だろ? 一人でフラフラするなよな? ほれ……」
町の近くにある海へと誘拐犯達を投げ捨てた少年が、立つのを忘れて見ていた自分にヘラヘラした顔をしながら手を差し出す。
これが少女の――デボラが初めてリュカという不可思議な少年に興味を持った瞬間だった。
結局家まで送って貰ったデボラは、心配していた両親に事情を説明し、リュカに助けられたと話すと両親は信じられないような顔をしながらもリュカにお礼を言い、そのまま帰ろうとする彼へのお礼をする為に夕飯を食べさせた。
その際、両親から花よ花よと大事にされている妹のフローラを紹介してみたのだが、そのフローラがリュカを見るなり雷にでも打たれたような顔をしてからは一切喋る事なく俯いてしまい、時折リュカの顔をチラチラと見るていた。
こうして暫く親子がこの町に滞在すると聞いた時からデボラは毎日のように町中で何やら聞き込みのような事をしたり、困っている住人の手伝いをしたり、町の外で修行をしている親子を訪ねるようになった。
リュカな基本的に自分にあまり関心がないのか、こっちがしつこく色々言わないと応じてくれないので、無理矢理リュカの修行に付き合ってみたり、その話をフローラにしたら何故か凄い形相で『自分も!』と言うので連れていったら、露骨に嫌そうな顔をされたりと……。
今まで出会った同年代の男達とは明らかに違うリュカと居るのが楽しくなっていたデボラはこうして嫌々ながらも修行となれば結構親身になって教えてくれたお陰で、山賊達を単騎で殲滅できるだけの戦闘力を手に入れたし、フローラもおやぶんゴーストとか名乗るゴースト系のまものを見て凄いじゅもんを会得した。
そして現在。
ここまで仲良くなったのだから自分達の命令くらいは聞くだろうと思って、修行は無しにして町で遊べと言ったら鼻で笑われた。
だから頭に来てフローラと追いかけ回してやったのだけど……。
「龍拳・爆撃ィ!!!」
左腕に時折現れる赤い籠手と共に放たれた赤き龍の一撃にデボラとフローラは目を奪われながら全身に浴びてしまうのであった。
「けほけほ……!」
「ほ、本気でやったわね……!?」
「流石に本気な訳ねーだろ。
本気だったらキミ等まとめてこの世から消し飛んでるって」
「ぐっ、まだそんな隠し技を持ってたなんて……」
「ぐすん……痛いですわリュカさん」
超手加減奥義でなんとか二人の癇癪を止められたリュカはちょっと半泣きになってる姉妹にはぁとため息を吐きながら最近父のパパスを見て覚えたベホイミをとなえてあげつつ呟く。
「同じくらいの年の子にビアンカって子が居たが、その子もその子で強情だけどまだ聞き分けが良かったな……」
「は? あんた、ポワンって女の他にまだそういう知り合いが居たの?」
「だ、誰ですか!? そのビアンカさんという方は!?」
実を言えばポワンに会う前のナンパ癖があったリュカのせいでビアンカ自身も結構拗れていたりするのだけど、そうとは知らないリュカはレヌール城の件を二人に聞かせながら、聞き分けなら良いと少し誉める。
「あっしが坊っちゃんに消されなかったのはそのお嬢ちゃんのお陰でさぁ」
「ふにゃ~ん」
「確かにビアンカが止めなかったらマジで消し飛ばしてたなお前のこと。
結果的に消さなくて正解だったけど」
「「…………」」
苦笑いするおやぶんゴーストに、リュカは頷くのだが、先程から出てくるビアンカなる名の者の方が気になって仕方ないデボラとフローラ。
「へー……?」
「随分と褒めるのですね、そのビアンカさんという方を……」
「? 別に褒めてる訳じゃないけど……なに揃ってへちゃむくれてんの?」
別の意味で不機嫌になる二人にリュカは『はて?』と首を傾げる。
「ていうか完全に町の外に出ちまってるけど、大丈夫なのかよ? この前の勝手に出て両親に怒られたんじゃねーの?」
「それなら心配ないわ」
「私達のおとうさまとおかあさまがリュカさんのおとうさまとお話されて、リュカさんかリュカさんのおとうさまが一緒なら出ても良いと許可して頂きましたので」
「あ、そう。
流石父さんの人柄だな」
「それより早く戻って普通に遊ぶわよ」
「えー……? だって町で遊ぶとなんか町の子達が俺に妙な敵意を向けてくるしよ……」
「そんなの無視しなさいよ。
というかそれって多分アンディ達でしょ? フローラと仲良くしてるからって」
「何故アンディがリュカさんにそういう事をするのかはわかりませんが、ちゃんと言っておきますから……」
すっかり回復した二人はいやがるリュカの手を引っ張る。
「くそ、だったらポワン様と遊びたい。
それもいけない遊びとか……うひひっ!」
「「………」」
「あぁ、いまごろどうしてるのかなぁ。
ほんとうに会いたいぜ……」
「「…………………」」
「いで!? ちょ、なんだお前等!? 俺の手を握りつぶすつもり――いでででで!?」
「「ふんっ!」」
こうして父を失わず、奴隷にもならなかった少年はすくすくと成長していく。
そして――
「ルーラを覚えたぜ! でも改造してルーラ改(孫悟空式瞬間移動)にできたからこれでいつでもポワン様と会えるぜ!」
「「「……………」」」
「ドリスにも教えてやるぜ! これでまるでダメなマスタードラゴンことマダオの所に一瞬で行けるぜ!」
「最高よリュカ兄! ふふ、これでいつでもプサンをいいこいいこできるわ……! ふふっ………ふふふふっ♪」
「ま、マスタードラゴン様……」
「や、やめろポワン。
わ、私はその……あ、あれだ! に、ニンゲンの可能性を知ろうと思って敢えてだな!?」
グランバニア王国は黄金時代をある意味迎えるのかもしれない。
「なんでアンタばかり……ぐぬぬ……!」
「大人になっても全然扱いが変わりませんわ……ぐぬぬ……!」
「ナイスバディになったのに……ぐぬぬ!」
「わ、私に申されても……」
「………」
「例え過去の天空人があなたを許さなかったとしても、私はあなたの味方だから……ほらおいで?」
「………………………ドリス」
むっちゃ骨抜きにされまくるマスタードラゴンが毎日のようにグランバニアに出没する可能性も高い。
終わり
補足
パパスさん。
ぬわー! どころか単体で合体技を会得する。
このままいけばダークドレアムとタイマンはれるぜ!
その2
デボラさん、この前リュカが拾ったまじんのかなづちをロリなのに振り回せる。
フローラさん、疲弊なしでイオナズンの波状爆撃攻撃可能。
……危険なロリ達だぜ。