色々なIF集   作:超人類DX

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前回の後。

といってもほぼ同じ


耐える赤龍帝

 

 

 

 それは報復である。

 

 

「小さい頃、俺にスキルの概念を教えた女から聞いた事がある。

16世紀の人間の貴族ってのは、戯れで奴隷の手足の骨を端から一本ずつハンマーで叩き壊すんだと。

で、誰しも最初は『助けてくれ』と泣き叫ぶ訳だけど、その内その言葉は『殺してくれ』に変わる。

人間の貴族達はその奴隷が『殺してくれ』と何時言うのかを賭けて遊んでいたんだってよ」

 

 

 それは怒りによる憎悪である。

 

 

「で、テメー等悪魔ならどれくらいで『殺してくれ』と言うのか、俺はそれが気になって夜も眠れない訳なんだわ。

だからさぁ………………………………テメー等で試させてくれよな?」

 

 

 それは剥き出しとなった圧倒的なる残虐性である。

 それは―――

 

 

「イイ音聞かせろや!!!」

 

 

 破壊の龍帝の再臨。

 

 

 

 

 

 

 案の定イリナとゼノヴィアと出てった事に文句を言われた挙げ句、この一件には絶対に関わるなと偉そうに釘を刺されたが、そんなもんはクソ喰らえだ。

 最初(ハナ)っから忠誠なんざ誓った覚えも無い。仲良しこよしをする気も無い俺が、わざわざ聞いてやる事なんてありえないんだよ。

 

 

「肋と右腕をやられたか……畜生共が」

 

 

 だから無視してやろうと思ったんだがな。

 奪われたものがデカ過ぎるってのも考えものだぜ。

 ちょっと前までなら即ぶっ壊してやれた雑魚共相手にこの様だ。

 

 

「げほっ!?

チッ、ド、ドライグと話せてたら笑われちゃうなこりゃ……クソッタレ」

 

 

 クソ悪魔の話を無視して出ていこうとしたら、力付くでクソ悪魔の目の届く範囲に留められそうになった。

 だから思わずキレて大暴れしてやったんだが……クソ、結局好きなだけやられて、何とか目を盗んで逃げられたのが精一杯だった。

 

 お陰であの白髪のクソガキに腕と肋折られて歩くのもしんどいくらい痛いけど、イリナとゼノヴィアと約束した場所まで自分で行ける程度のダメージに抑えられただけマシか。

 

 

「惨めにも程があるぜ……チクショウ」

 

 

 始まりは確かに俺の『油断』からだったのかもしれない。

 しかしこれでも俺は誰かに害を為したりなんてしなかったし、親に捨てられて以降も細々と強くなる為の修行をしながら生きてきただけだった。

 それをどこで知ったのか、危険だからとほざいたあげく死にかけていた俺を勝手に悪魔の駒にしやがって。

 

 それ以降のことなんて思い出すのもおぞましい。

 下僕という繋がりのせいか俺のスキルを流用し始めるし、使えると解ったとたん、俺を縛り始めやがるし……。

 

 

「いつか必ずぶっ殺してやる……」

 

 

 天地がひっくり返っても俺は奴等だけは必ず報いを受けさせるし許さないという、何時か必ず訪れさせてやる未来を思いながら、俺は痛む身体を引きずるように歩くのだった。

 

 

 

 

 

 イリナとゼノヴィアが待ち合わせ場所にてイッセーの姿を目にした時、まず抱いた感情が驚愕だった。

 

 

「どうした!?」

 

「酷い怪我……!」

 

「よー……ふははは、昨日振りだな二人とも――ぐっ!?」

 

 

 右の頬が倍近く腫れた『同類』の存在を目にしたゼノヴィアとイリナは、ヘラヘラ笑っているイッセーに駆け寄り、どうしたんだと詰め寄りながら傷の程度を確かめるようにぺたぺたと触診をする。

 

 

「大したことじゃないぜ。

クソ悪魔とちとやり合って――いぎっ!?」

 

「痛いのか!? くっ、多分肋もやられてるな」

 

「それに右腕も……」

 

 

 服の上からでは解らなかったが、触診で腕と肋を触れた際に起こした一誠のアクションで骨をやられたと判断した二人……特にイリナは殺気だった顔で駒王学園のある方角を睨み付けると、そのまま報復にでも向かわんとばかりに走り出そうとする。

 

 

「へいへい、落ち着けってのイリナ」

 

 

 しかしそれを見抜いた一誠が無事だった左腕でイリナの手を掴んで制止する。

 するとイリナは『どうして!?』と訴えたが、一誠はヘラヘラ笑いながら口を開く。

 

 

「今はこんなダサい状況だけど、必ず力を取り戻す。

そそれまでは精々奴等にゃ嘘まみれでしかない『自由』を楽しませてやるし、力を取り戻すまではある程度我慢してやる。

それに、今回の事に関しては奴等曰く『悪魔が干渉してはならない』のを俺が無視してるからこうなったんだ」

 

「で、でも……それだけなら何でそこまで!」

 

「確かに止めるだけなら今の弱ってしまったキミを無傷で上手く止められる筈だ。

これではまるで虐待じゃないか……」

 

「あの畜生共はそうは思ってない。

曰く『教育』らしい」

 

 

 良いから良いからとヘラヘラと痛々しく腫れた頬を携えながら笑う一誠にイリナとゼノヴィアは納得できないという表情を浮かべる。

 無理矢理悪魔に転生させられ、力を封じられてるという事実だけでもイリナからすれば耐え難い仕打ちであるというのに、その上ただ止める為だけに此処までボロボロにされるともなれば、今すぐにでも一誠の代わりに報復に行きたかったが、それでも一誠は二人に言うのだ。

 

 

「心配しなくても、報いは必ず受けさせる。

それまでいい気分にさせてやろうじゃないの」

 

「「………」」

 

 

 力を取り戻したら地獄以上の恐怖を教えてやる。

 大きく腫れた頬をした顔を獰猛な笑みへと変えた本人の言葉に、二人は渋々と矛を納めるしか無かった。

 だが一誠がこの様では聖剣捜索も儘ならないのは事実であり、取り敢えず一誠を安全な場所に連れていこうとしたが、これも一誠は大丈夫と言いながら、逆に折れ曲がっていた右腕を鈍い音をさせながら無理矢理元の状態に戻す。

 

 

「それにいくら弱ったとはいえども、この程度の傷なら二時間もあれば治る。

どうも悪魔に転生してから力は奪われたが、元からあった身体的特徴はある程度残ってるみたいでね」

 

 

 要するに、何がなんでも奴等の嫌がる真似をしたいんだと言って聞かない一誠に、イリナもゼノヴィアも断りきれずに結局は了承し、聖剣捜索を開始するのだった。

 

 

「幸い両足は無事だったから飛べるし走れるぜ?」

 

「……。確かに時間は掛けられないが、そこまで急ぐ事でもないから、先ずは奴等が隠れてそうな場所を探して回ろう」

 

「肩とか貸す?」

 

「いいよ、大分痛みも無くなってきたし」

 

 

 悪魔にさせられてからの一誠は全盛期の億分の一以下にまで力が落ちていた。

 それこそ、自分の意思で相棒であるドライグとの会話すら出来なくなるくらいにまで落ちてしまっており、永遠の進化という特性である一誠自身の異常性すら殆ど失われていた。

 

 ――いや、正直な話それだけならまだ良かった。

 力を封じられた程度で済むならまだマシだった。

 しかし一誠が一番に許せなかったのはその先……悪魔に転生させられた事による偶発的なのか意図的なのかよくわからない事実。

 

 

「俺の異常性(アブノーマル)――えっと、そういう概念の事をわざわざ教えてくれた女から無神臓と名付けられたこの力を何のカラクリか知らんが、あのクソ悪魔共が使ってやがるんだ」

 

「何だと?」

 

「それって……」

 

 

 封じられた自身のスキルを、リアス達が行使している。

 それが何よりも一誠の怒りを増幅させていたのだ。

 

 

「転生させられた弊害なのか、それともそういう技術を悪魔が持っていたのかは知らないが、奴等は少なくとも『自覚』して使ってやがる。

少し前にクソ悪魔に婚約騒動があって、それを破棄するために行われたゲームでも、大した修行もしてねぇ癖に俺の力を使って勝ちやがった」

 

 

 無限の進化、そして一誠自身が死ぬほどの鍛練を重ねて習得した様々な技術の全てを、リアス達が当たり前の様に使った。

 

 

 

「全体の数%程度しか使えないとはいえ、客観的に自分のスキルを相手にする立場がなんとなくわかったわ。

………正直言えば絶望だわ俺のスキルって」

 

 

 勿論一誠が教えた訳でもないし、ましてやスキルにに関しては一誠自身の力だ。

 転生させた事で現れた『繋がり』がそうさせたのか……それとも悪魔の技術に下僕の特性を行使出来る様なモノがあるのかは知らないが、師より聞かされたらお伽噺に倣って習得した技術を簡単に行使される事は一誠にしてみれば侮辱でしか無かった。

 

 

「それは私とイリナがもし……いや、死んでもあり得んが、悪魔に転生したら力を奪われた挙げ句転生させた悪魔がそれを使えるようになるという事なのか?」

 

「わからないけど可能性は高いな……。

だがクソ悪魔は言ったよ『この力さえあればライザーとの婚約は破棄できる』ってな。

あ、ライザーってのはさっき言った婚約騒動の相手ね?」

 

「それってやっぱり知ってて使ってるって事なの? イッセーくんのスキルを?」

 

「偶発的に気付いたと本人は言ってたけど、それも信じられられないから俺はそう思ってる。

幸い、赤龍帝の籠手は使えないみたいだけど」

 

 

 悔しそうに顔を歪め、吐き捨てる様にして話す一誠にイリナとゼノヴィアはますますリアス達悪魔達への不信感を個人的に深めていく。

 

 

「だから奴等は大元である俺を手元に置きたがるんだよ。

意思とは無関係にね……皮肉なもんだぜ、今では俺は奴等の為の強化パッチだ」

 

「「……」」

 

 

 

 力が危険だからと、弱っていた所を無理矢理悪魔に転生させた挙げ句、力を奪って自分達で好きに使っている……それも本人の了承無しで勝手にだ。

 

 

「壊して良いのかな、アイツ等?」

 

「いい気分のする話じゃないのは確かだな」

 

「……。ま、今の俺が言っても愚痴にしかならないけどさ」

 

 

 特にイリナが光の無い瞳で何やら物騒な事をブツブツと呟き、止めなかったら今すぐにでもリアス達へと突撃しそうな雰囲気を放っていた。

 自分に手を差し伸べてくれた一誠の力を勝手に使われてるというだけで、イリナからすれば有罪(ギルティ)であり、今度隙があったら一発殴ってやろうと密かに考えるのだった。

 

 

「で、隠れてそうな所を探すって言ってたけど、宛とかあったりはするのかい? 何かさっきからフラフラしてる様な気がしてならないんですけど」

 

 

 そんなこんなで合流してから約三十分程が経ち、既に頬の腫れが引いてきている一誠が、話を変えようと二人の本来の目的である聖剣捜索についての話を振る。

 するとイリナとゼノヴィアは……何故か無駄に偉そうに胸を張りながら一言。

 

 

「無い」

 

「正直当てずっぽう」

 

「お、おいおい、揃ってキリッとした顔して言うもんじゃないじゃないか」

 

 

 その余りにも堂々とした言い方に一誠は思わずまだ痛む身体で軽くずっこけてしまう。

 美少女故に妙なドヤ顔でも可愛いから許すが、これがもし一誠の嫌うリアス達だったら、言ったその場で鼻をへし折ってやってた辺り、やはり昔馴染みと同類の人間というだけで一誠は寛大になれるタイプらしい。

 

 

「しゃーねーか。

それなら俺が怪しそうだと思ってる場所まで案内するよ」

 

 

 悪魔に転生してから怒りとストレスで毎日が苦痛だった一誠の微笑にゼノヴィアとイリナはちょっぴり申し訳なさそうにしながらトコトコと一誠の後を付いて行く。

 美少女二人と、ストレスも怒りも感じずに仕事とはいえ会話を楽しみながら歩く……それだけでも一誠は久しく味わえなかった癒しを感じる訳であり……。

 

 

「……………」

 

「む、キミは確か昨日の……」

 

「なぁに? まだ私達に何か用?」

 

 

 そこに邪魔が――リアスの手先が来られるだけで、全部ぶち壊しにされた気分になってしまうのは、多分仕方無いのかもしれない。

 

 

「追ってきやがったかクソ悪魔の手先。

あ? 何しに来たんだよ?」

 

「今キミに用は無いよ兵藤くん。

用があるのは後ろの二人が持ってる聖剣だ」

 

 

 顔立ち整った金髪の男子が、人通りの少ない裏道へと入り込んだ三人の前に通せんぼするかの様に立ちはだかる。

 

 

「?」

 

「だとは思った」

 

 

 

 

 その瞬間、今さっきまで穏やかな顔だった一誠の表情が一瞬で殺意の波動に目覚めた誰かさんの様なそれとなり、イリナとゼノヴィアは昨日振りに見た男子に対して若干めんどくさそうな顔をした。

 

 

「キミの事はあれから独自に調べたよ。聖剣計画の生き残りらしいな?」

 

「…………」

 

 

 金髪の少年――木場祐斗にゼノヴィアが確かめるようにして問うと、祐斗の表情が憎悪に溢れたらものへと変貌する。

 

 

「そうだ、僕は謂わばキミ達の先輩に当たる。

……失敗作だけどね」

 

「生き残りが居るとは思わなかったけど、まさか悪魔の手先になってたなんてね。

それで? あの計画の復讐のつもりで私達が預かってる聖剣を狙ってるわけ?」

 

「そうさ、だから大人しく聖剣を渡してくれないかい?」

 

 

 聖剣が憎くくて堪らないといった形相で、周囲の空間から無数の剣を出現させてその切っ先を三人に向ける祐斗に、一誠が嘲笑う様に口を開く。

 

 

「大人しく渡せと宣う奴の行動じゃねーな、クソ悪魔の下僕の分際が?」

 

 

 リアスは当然として、その下僕である祐斗、小猫、朱乃……と、まだ居るが、とにかくその全てを嫌悪している一誠の言葉に、木場は鬱陶しそうに顔を傾けながら言う。

 

 

「キミだって部長の下僕だろ? まあ、正直同情は覚えるけど……」

 

「同情だァ……?」

 

 

 その言葉が、一誠の逆鱗に触れるには充分だった。

 

 

「じゃあ死ねや!!!」

 

『Boost!』

 

 祐斗から向けられた皮肉にしか聞こえない言葉に対して一気に激怒した一誠が、左腕に転生と共に宿っていた龍とすら意志疎通も出来なくなって弱体化した神器を呼び出し、即座に倍加を描けながら祐斗へと殴り掛かる。

 しかし弱体化というものは悲しいほどに弱体化しており、全盛期なら只そこに突っ立ったままでも、適当にぶっ放した空気弾か何かで簡単に首を撥ね飛ばせる程の力を有していたのに、今の一誠は、繰り出す攻撃速度も威力も悲しいほどに弱く、遅く……そして軽かった。

 

 

「くっ……!」

 

「いきなりだね兵藤くん?」

 

 

 殴りかかってきた一誠の籠手越しの拳を呼び出した剣を使って片手で防いだ祐斗の淡々とした言い方に一誠は悔しそうに顔を歪める。

 

 

「クソが……!

こんな程度の雑魚、本来なら即ぶっ殺せたのに……!」

 

「そうだね、キミが部長に転生して貰う前までなら可能だったかもしれないけど、今は……いや今後永遠に無理だ。

その証拠にその頬の腫れはどうしたんだい? 塔城さんに殴られちゃった?」

 

 

 見下すような態度で煽る祐斗に、一誠の怒りのボルテージは最高潮に達し、更に力を倍加させて剣ごとぶちのめしてやろうとするが……その前に祐斗が身体を横にずらして一誠の力を流し、そのまま転ばせる。

 

 

「今キミの相手をしてる暇は無い。

僕も僕で目的があるんでね」

 

「こ、このガキッ……! ぶち殺してやるっっ!」

 

 

 勢いよく前のめりに転んだ一誠を冷たく見下ろす祐斗に一誠の殺意の波動は更に強くなり、汚れた制服も気にせず飛び掛かるが……。

 

 

「ストップよ一誠くん。怪我をしてるんだから、ココは私達に任せて」

 

「うっ!?」

 

 

 それよりも速く、瞬間移動にも見紛う程のスピードで祐斗に飛び掛かろうとしていた一誠の前に移動したイリナが真正面から一誠を抱き締めてその動きを止めた。

 その速さは騎士として転生し、スピードに自信のあった祐斗を驚愕に目を見開かせるに充分な程だった。

 

 

「っ……く、くそ、自分が情けねぇ」

 

「そんな事無いよ。寧ろやっとイッセーくんに恩返しが出来る」

 

 

 イリナに抱き止められる体たらくに若干不貞腐れた顔をした一誠にイリナは嘗て幼い頃のイッセーにして貰ったのと同じように一誠の頭を撫でながら落ち着かせると、その母性に溢れたら穏やかな表情から一変、どこまでも冷たく、どこまでも異常性を孕んだ感情の無い表情で剣先を其々ゼノヴィアと自分に向けていた祐斗へと振り向くと、抑揚の無い声でただ一言。

 

 

「調子に乗らないでよ悪魔の癖に。ぶち壊されたいの?」

 

 

 その異常性を伺い知るような、重苦しい殺気を放った。

 それはゼノヴィアとて同じであり……。

 

 

「力を奪い取って使うことしか出来ん悪魔とその下僕相手に友好的になれると思うなよ。

当然貴様に聖剣を渡す気はない」

 

 

 ゼノヴィアもまた……イリナと一誠を思わせる異常性を孕む静かな殺気を放った。

 

 

「……。なるほど、妙に兵藤くんと仲良く出来るなと思ったらそういう事か」

 

 

 二人から向けられる殺気に祐斗が察した様に呟く。

 

 

「解るんだよ、僕もリアス部長と同じく……彼の化け物だった理由を今使えるからね!」

 

 

 そして二人に拮抗する異常性――つまり元は一誠の持つ精神の根元を表に出すと、そのまま金髪だった髪を血を思わせる真っ赤な髪へと変色させると、二人に向かって襲い掛かってきた。

 

 

「全く恐ろしいね……! 同じ元・人間が持ってた力とは思えないさ!」

 

「! あれは乱神モードか!」

 

 

 素で構えた二人の内、ゼノヴィアへと襲い掛かってきた祐斗が、一誠の異常性の内から派生させた技術を使って剣で斬りかかった。

 その髪の色でかつて使った乱神モードであると察した一誠が再び悔しそうに顔を歪める中、襲われたゼノヴィアは只一言……。

 

 

時間跳躍(クロックアップ)

 

 

 低く、響く様な声で只一言呟いたその瞬間……ゼノヴィアの姿は忽然とその場から消えた。

 

 

「っ!? な、なに!?」

 

 

 振り下ろした剣が虚を切り、姿も見失った祐斗が思わず動揺して辺りをキョロキョロと見渡すが、目に映るは同じくギョっとした顔で辺りをキョロキョロとしているイリナに抱き締められた状態の一誠と、無表情のまま――いや、見下すような目をするイリナだけで肝心のゼノヴィアの姿が見えない。

 

 

「くっ、何処に――ぐあっ!?」

 

 

 すると、そんな祐斗の全身に強烈な衝撃と痛みが一斉に襲いかかり、何かが折れる嫌な音と共にボロボロの人形の様にその身を投げだすと、グシャリというこれまた嫌な音と共に頭からコンクリートの地面に落ち、そのまま意識を失ってしまった。

 

 

「ふぅ……手加減はしてやったから死んでは無いと思う」

 

「うぉ!?」

 

「お疲れ、ゼノヴィア」

 

 

 グシャリと頭から地面に落ちたのと同時に、それまで全く姿の見えなかったゼノヴィアが額を拭いながら姿を再び現したのを見た一誠がビックリした顔になる。

 

 

「お、おいおい……まさか今のが?」

 

「ん、そうだよ一誠君。

ゼノヴィアって何かしらないけど、時間の流れが生まれつき『視えたり』『触れたり』できるらしいのよ。

で、本人曰くその流れを弄くると、さっきみたいに速く動けるらしいわ」

 

「そういう事だ。

イッセー流に言うと、時間の流れを弄くれる異常性って所かな」

 

「……。それ、俺のより反則じゃね?」

 

 

 下手な神器なんかクソ扱いじゃねーか……。

 とただただ驚く一誠だが、ゼノヴィアは苦笑いしながら首を横に振って否定する。

 

 

「そうでもない、結構疲れるから多用も出来ないし、多分力を取り戻したイッセーなら直ぐにでも私を捉えられるだろう。

現にイリナはこの程度ならもう簡単に捉えられてるしな」

 

「え、そうなの?」

 

「うん、まあゼノヴィアの行動を何十手も先読みしないといけないけどね」

 

「………。ふ、ふーん」

 

 

 シレっと言うイリナに取り敢えず強がって返事をした一誠だが、内心はあんまり自信が無かった。

 

 

(ドライグブーストの黒神ファントムより速くて正確に動ける時点でかなりやべぇ。

……いや、攻撃を受けても壊せるからアレだけど、速さだけならマジで昔の俺より遥かに上だ。

やっぱ世の中って広いわ)

 

 

 自信は無かったものの……その心は久しく感じなかった新しさに打ち震えていたのだという。

 

 

「で、この聖剣計画の生き残り君はどうすれば良いんだ? 一応返り討ちにしてしまったが……」

 

「良いよ放っておけ、何かキミ達の持ってる聖剣を奪おうとしてたし、正当防衛で通るだろ。

まあ、んな事はどうでも良いとして……あのさイリナ? もういい加減サービスしなくて良いよ?」

 

「え、サービス?」

 

「いやほら……お胸がさっきから俺にダイレクトアタックしててよ……良い匂いもしてクラクラしちゃうっていうか……」

 

「あ、ご、ごめん」

 

「いや良いんだけどね? うん。

それにしても本当女の子らしくなったねイリナは」

 

「そ、そう? イッセーくんに誉められると嬉しいな……」

 

 

 その後、泡吹いた祐斗はそのまま放置してその場から去ったイリナ、ゼノヴィア、一誠の三人は聖剣探しを再開する為に街中を歩き回った。

 途中、イリナが何かの絵を見て教会から与えられた資金を全部叩いて買おうとしたのを、一誠が止めたり、サイコパスみたいなはぐれ悪魔祓いが、奪われた聖剣を片手に襲い掛かったりしてきたのをイリナとゼノヴィアがはっ倒して取り返したりとしたプチ冒険があったりしたとか。

 

 

 

「………彼が今の赤龍帝か」

 

『ああ。

そして話が本当ならば、お前と『同じ』だ』

 

「それに関してはほぼ間違いはないだろう。

リアス・グレモリーに眷属という名の奴隷に落とされた事で本来の力を失ってしまっている事も含めてな」

 

『どうする? 一応アザゼルは見られても構わないが、後でネチネチ言われるのは面倒だと言っていたが…』

 

「大っぴらに彼の手伝いをするのはやめておくさ。

どうやら彼だけではなく、あの悪魔祓いの二人も同じらしいからな。

ふふ……楽しみだよ、全てを取り戻した後に起こる彼との闘いが……!」

 

 

 そして、そんな冒険を空から見下ろす白き影も。

 

 

「一旦戻るよアルビオン。コカビエルに頼まれて買ったほか弁が冷めてしまう」

 

『うむ』

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

 たった一人の人間の報復により大打撃を受けてしまった悪魔達。

 その中で最も傷を負ったのはやはりリアス・グレモリーの実家であるグレモリー家だろう。

 

 娘、もしくは妹が眷属であった人間の男に殺されたのだから。

 当然その男ははぐれ悪魔としてケジメを着けさせる。

 

 

 しかしそれとは別に彼等は赤龍帝を生きたまま捕まえる理由がある。

 それは彼の持つ神器とは違う不可思議な力。

 

 リアスやその眷属達が異次元の速さで強くなった理由そものであると生前のリアスから聞いた事があったからこそ……彼が他を強くさせる不可思議な力とは別に、神の領域を鼻で笑って犯せるものを持っているから。

 

 

「確かに試した事なんてないけど、理論上は俺の過負荷(マイナス)である幻実逃否(リアリティーエスケープ)で、俺が粉々にしてやった連中の死という現実を否定して死んでいない幻実へと入れ替える事は可能だな……」

 

「…………」

 

「しかしお前等は馬鹿なのか? どこの世界に殺してやって清々したと思ってるような奴の為にわざわざそんな事をしようと思うのが居る? アンタ等にとっちゃ大事な妹ないし娘なのかもしれないが、俺にとっちゃあぶっ殺してスッキリしただけの畜生でしないんだよ」

 

 

 当たり前ながら拒否された。

 そして全てを取り戻した赤龍帝は力付くではどうにもならなかった。

 

 

「ちょうど良いや。

グレモリー家だっけ? 今後も邪魔そうだしここで一族全員消し去ってやる」

 

『喜べ、絶滅タイムだ』

 

 

 むしろ、嗤いながら牙を剥いてくる。

 

 

「修行も終えた事だし……」

 

「私達の試運転の相手になりなさいよ悪魔共?」

 

 

 そして彼の同志たる者も一緒に。

 

 

「私は全ての概念を壊す」

 

「私は時という概念を乗り越える」

 

「そして俺は、限界という概念を超える」

 

 

 たった三人により悪魔という種族が歴史から消される……。

 

 そして…………。

 

 

 

「あのちょっと……?」

 

「? なんですかアナタ?」

 

「アナタじゃないし、引っ付くのはちょっと遠慮願いたいのですけどね……」

 

「え、どうして? 私達は夫婦なんですよ?」

 

「いやいやいや! ただ偶然キミの手に触れただけなんですけど!? それで夫婦って色々と飛び過ぎなんですけど!? そもそも―――」

 

「ええ、ええ……わかっていますよアナタ? ふふ、イリナさんとゼノヴィアさんの事でしょう? 大丈夫ですよ、私は夫を縛り付けたりはしませんから。

そのお二人となら不倫を許可します………ふふふ♪」

 

「………………………。ちょ、イリナ、ゼノヴィア! た、助けてくれ! この人全然話聞いてくれない!」

 

「う、うん、助けてはあげたいのだけど」

 

「三人がかりでならお前と色々できるかもしれないと提案されてしまったものでな……。

だってイッセーが全然私達になにもしてこないし……」

 

「する方が寧ろ問題だし、そんな真似して嫌われたくなんてないからだよ! つーか嫌だろ!? 学歴も幼卒以下のフリーター以下男なんて!?」

 

「理由が理由だし、私別にイッセー君を学歴で見たことなんてないし……」

 

「寧ろ御使い天使だけどお前に汚されたい」

 

「…………………え、えぇ?」

 

「ね? だから問題はありませんよア・ナ・タ? きゃ~~♪」

 

 

 こんな日が来るかはまだわからない




補足
おさらい

時由自在(オーバークロッカー)

泣き虫ゼノヴィアさんではなく、D×Sシリーズでは持っている彼女のスキル。

アバウトに説明すれば時間という概念を弄くれるスキル。

超適当に解説するなら某天の道を行くライダーさん達とようなそれが可能。

 本気だしたらハイパークロックアップも夢じゃねぇ!

そしてデュランダルもきちんと制御しているので――


『Maximum Hyper typhoon』

 なんて、ALL ZECTER COMBINEしちゃう某虫取網みたいな剣みたいな事には―――まあ、ならん。

その2
歪みに歪んで人外絶対殺すマン化する因縁が消滅しているので割りとまだソフト。

ただし、元凶たる悪魔に対してはケタケタ笑いながら歯をへし折るくらい修羅ですけど。


その3
手が触れただけで結婚しろとか言い出す彼女はマイナス一誠とシトリーさん的な彼女です。

……つまりシリーズ的には何時も通りだし、なんなら結託し始めたりもする可能性がある。


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