色々なIF集   作:超人類DX

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悩める少年はなにも彼だけでもない


思春期男子共

 

 

 

 誰にも束縛されぬ領域へと到達する事こそが生きる理由であった執事は混乱した。

 

 

「珍しいですね、副長がお仕事のミスをなさるなんて……」

 

「……………………」

 

「あ、いえいえ、責めているという事ではないですよ? ただ本当に珍しいなぁと……。

何かありましたか?」

 

「………………………」

 

「結局セラフォルー様の件はサーゼクス様によるガセネタだったようですし、それが理由ではないとは思いますが……」

 

 

「………………………………………」

 

 

 あの日の出来事以降、日之影一誠は精神的な動揺がどうにも抑えきれず、執事としての仕事にも支障が現れるようになっていた。

 ミスといっても常人が見たら完璧と見紛うレベルの些細なミスなのだが、グレモリー家とシトリー家の女性陣達により徹底的に鍛えられた結果、悪魔の使用人達を差し置いてグレモリー家使用人副長兼、シトリー家使用人長にまで到達した彼らしからぬミスがここ最近多くなってしまった。

 当然、一誠が幼い頃から使用人として働いていた姿を見ていた古参の使用人達は、気づけば自分達の上司にまで成長を遂げてくれた後輩上司の様子を心配するのだが、基本的にコミュ障の一誠はそんな彼等の心配をただ無言で首を横に振って誤魔化そうとする。

 

 

「……………ごめんなさい」

 

 

 単に遅れてやって来た思春期が理由なのだが……。

 

 

 

 

 

 そんな使用人達の心配を他所に、日之影一誠はセラフォルーとの一件以降、自分がどうするべきなのかと考え続けた。

 

 これが赤の他人だったら、単なる戯言だと切り捨てられていたのだが、あのセラフォルーだ。

 初めて見た時から妙に虐め倒してやりたいという加虐心が増幅してやまないあのセラフォルーだ。

 

 

「そりゃ別に嫌いじゃないとは思うが……」

 

 

 思い返してみても、一誠的にはセラフォルーに対して嫌いといった感情はない。

 むしろ、サーゼクスのガセだったとはいえ、どこぞの悪魔と見合いだなんだするという話を聞いた時はその誰かをぶっ殺してやりたいといった感情を抱いた事も否定はできない。

 

 そういった事を踏まえれば、自分の自覚がない所でそこそこどころかかなりセラフォルーを気にしていたと言えるし、これが『好き』という感情なのならそうなのだろう。

 

 

「……」

 

 

 あの日以降、会う会わない関係なく頭の中で色々なセラフォルーが浮かんできてしまっているという意味でならそうなのかもしれない。

 しかしながら執事は困惑するし、そもそも好きの定義がイマイチわからない。

 

 

「待てよ、そもそも好きってなんだ?」

 

 

 一度個を失ってからの這い戻りにより、色々と人格形成に多大なる影響があったせいか、いちいち深く考えてしまい、しまいには好きの定義がわからなくなってしまう。

 こうした自問自答と、常に頭の中に過りまくるセラフォルーのせいで執事としての仕事に少しだけ支障をきたしてしまうことになっているそんな日之影一誠の様子の変化について、彼に近しい悪魔の者達は当然気づいている。

 

 気づいているのだが、聞いても大体は『なんでもない』と返されるので、しつこく聞かれる事を嫌うと知っている悪魔の家族達はそれ以上の追及はしないようにしている訳で。

 

 

「お、日之影じゃん」

 

「今日もお仕事かい?」

 

「………………」

 

 

 気づけば同じ箇所の窓を延々と拭き続けていたりする日之影一誠は、廊下を歩いていた同い年の転生悪魔の男子に声をかけられた。

 

 

「………………」

 

「相変わらず無口だなお前は……?」

 

「匙君、これでも最近は話をしてくれるようになったんだから……」

 

「まぁなぁ……」

 

 

 リアス・グレモリーの騎士である木場祐斗と、ソーナ・シトリーの兵士である匙元士郎。

 同い年で男子というのもあってよく話しかけられることがあり、当初はガン無視をしていた一誠も最近は少しずつながら話すようになったこの男子二人を見て、ふと思う。

 

 確実に自分よりまともな精神をしているこの二人に聞けば、なにかわかるのかもしれないと……。

 

 

「あの……」

 

「! え、ど、どうしたんだい?」

 

「珍しいな、お前から話しかけてくれるなんてよ?」

 

 

 とにかく頭の中がセラフォルーだらけな――なんとなく変態めいた思考状況をなんとかしたかった一誠は、意を決して二人の同い年男子に話を聞いてみることにした。

 

 

「…………………。好きってなんなのでしょうかね……?」

 

「「は?」」

 

 

 流石にセラフォルーの件は恥ずかしかったので、取り敢えず好きとはなんぞやと訊ねてみる。

 すると案の定、あの堅物無口で女性にすらなんの容赦もない一誠からそんなことを聞かれるとは思うわけもない元士郎と祐斗は思わず目を丸くしながら、互いに顔を見合わせる。

 

 

「お前、どうかしたのか?」

 

「一誠くんからそんな事を聞かれるとは思わなくて正直戸惑いが隠せないよ……」

 

「いえその……なんとなくふと思っただけの事なのですけど」

 

 

 戸惑う二人に、あくまでも理由は無いけど気になったと言い張ろうとする一誠。

 そんな執事の質問に対して二人の男子はといえば、実のところ経験が乏しいので微妙に返答に困る。

 

 

「俺から言わせりゃあ、お前以上に俺はそういう話に縁が無いんだけど、強いて言うならアレだろ……好きってのは離れていてもその人の事が思い浮かんでしまうみたいな?」

 

「……………」

 

「その人の事を一生守っていきたいと思う心……とか?」

 

「離れていてもその者の事が頭に浮かぶ。

その者を一生守ろうと思う心………」

 

 

 二人も答えを持ち合わせている訳ではないが、其々の考える好きの定義を聞いた一誠は考える。

 

 物理的に離れていても絶賛セラフォルーの事が頭から離れないし、守るとは違うが一緒に居ても悪い気にはならない。

 

 

『ふっふーん、どう? 新しい衣装なんだけど、いーちゃんにだけ先行公開しちゃうぜ☆』

 

 

 何時までも趣味が子供なセラフォルーの天真爛漫な笑顔。

 

 

『あ、あのさいーちゃん? べ、別に私が着替えてる所を見てても良いけど、ちょっと恥ずかしいかも……』

 

『うー……。また衣装だけを吹き飛ばして裸にするなんて、いーちゃんのすけべ……』

 

 

 加虐心を突いてくるセラフォルーの表情。

 

 

『好きだよ……いーちゃん』

 

 

 そしてあの時見た儚げな――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………………………………………………」

 

「ちょ!? な、なにしてんだよ日之影!?」

 

「額切れてるよ!? 血がドバドバだよ!?」

 

 

 結果、オーバーヒートした日之影一誠はグレモリー家のお堅い壁に向かって何度も頭を叩きつけていた。

 

 

「………お見苦しい所をお見せしました」

 

「い、いや構わないけど大丈夫なの……?」

 

「額から血がギャグ漫画みてーに吹き出てんぞ?」

 

「大丈夫です、すぐに塞がりますので」

 

 

 結論としては、思っている以上にセラフォルーが気になっていると自覚し始めるきっかけになるのだった。

 

 

「おっと、そろそろ戻らないと……」

 

「もしかして例の?」

 

「ああ、あの人は俺が見てないと飯もなんも食わないからな」

 

「?」

 

「ほら、この前の三大勢力会談の時に捕獲した旧魔王の一族の事さ。

今捕虜として扱っているんだけど、どうやら匙君が持っていく食事じゃないと一切食べないんだって」

 

「衰弱死されても困るし、カテレアさんの懐古自慢話に付き合えるのも俺くらいだしな」

 

 

 そして縁が無いと自虐していた元士郎も、ある意味一誠みたいな状況だった。

 

 

「……………ひょっとしてその者が好きなのですか?」

 

 

 故に、特に深い意味もなく一誠が訊ねたせいで……。

 

 

「は? いやいや捕虜だし、そもそも向こうからしたら転生悪魔なんて雑種犬以下みたいな認識しかしてねーし、精々バカなガキとしか見ちゃいねーだろ」

 

「ですが、思うにいくら命じられたとはいえ捕虜の食事を気にされるとは思えないのですが……」

 

「え?」

 

「確かに聞いてる限りだと、匙君ってカテレア・レヴィアタンの世話を焼いてるのが楽しそうに見えなくもないかも……」

 

「はぁ? おいおい、いくらバカな俺でもあの人が敵陣営の捕虜だってくらいわかってるっつーの。

そりゃ確かにドヤ顔で昔の自慢話してるのを見てて、時たま『あ、ちょっとかわいい……』って思う――――――あ、あれ?」

 

「「……………」」

 

 

 自覚させられ始める若者が一人ここに現れる。

 

 

 初めて他人に戦闘技術やら使用人スキル以外のことを『教えられた』一誠は、急激に動揺しながら捕虜の元へと去っていった元士郎を見送ると、そのままシトリー家での仕事も終わらせた。

 

 そしてそのまま周りに悟られずに気配を消すと、事前にセラフォルーと待ち合わせをしていた場所へと向かう。

 その場所とは例のシトリー領土にある湖であり、あの日の夜の一件以降、セラフォルーが周りに内緒で湖の近くに建設したログハウスだった。

 

 

「いーちゃん」

 

 

 これぞ所謂逢い引きなのだが、少なくとも一誠にはまだその自覚は無く、既に来ていて持ち込んだ家具やら何やらを設置していたセラフォルーに『お、おう……』と微妙に緊張しながら挨拶をする。

 

 

「こんな掘っ建て小屋みたいな所にんなもの持ち込む程なのか?」

 

 

 入るなり目に飛び込む昨日までは無かった家具達に一誠は少し呆れるものの、掘っ建て小屋というにはそこそこの大きさと広さがあるし、セラフォルーと二人して無駄に凝りながら建設したのもあって、強度もなにもバッチリだったりする。

 

 

「だっていーちゃんとこうして会う場所なのに、なにもないなんて寂しいじゃない?」

 

「そうだとしてもベッドなんて要らんだろ。

ここで寝るわけじゃあるまいし……」

 

「え、寝るけど?」

 

 

 ただ会って駄弁るだけの場所なのだから、ベッドなんて要らないだろと言う一誠に、セラフォルーは当然のように返す。

 

 

「明け方にしれっと戻れば誰にもバレないし、これがあれば二人で寝れるでしょう?」

 

「二人? ……一人分のベッドしかねぇだろ」

 

「えー? この期に及んでまだ言うんだ? もー、二人でこのベッドで寝るんだよ?」

 

「……は!?」

 

 

 そう言いながらベッドといった家具を一通り設置し終えたセラフォルーは、着ていたいつもの『衣装』の上着を徐に脱ぎ始める。

 

 

「っ!? お、お前! 脱ぐなら脱ぐって言えや!?」

 

 

 あまりにも突然の事で咄嗟に背を向けて視線を逸らす一誠に、セラフォルーは心底不思議そうな顔をする。

 

 

「そんな事をしなくても大体いーちゃんの方から服をひっぺがしてたし、なんで今更目を逸らすのよ?」

 

「ひ、ひっぺがしてた訳じゃねーよ!」

 

 

 否定はするものの、よくよく考えてみたらひっぺがしてた以上にひどいことをしていたと思い返す一誠は、ちょっと自己嫌悪。

 結局そのまま背を向けたままセラフォルーが着替え終えるのを待つのだが、数日前までなら真っ裸だろうが平然に思えたというのに、絹の擦れる音が聞こえるだけで変に動揺して仕方ない。

 

 

「ん、いいよー?」

 

(ぐ、なんだってんだ……)

 

 

 今更にも程があるだろう、と自分の精神の揺れっぷりに悔しさすら込み上げてくる中、セラフォルーの言葉を聞いて振り向く一誠だったのだが……。

 

 

「えと、ごめんいーちゃん。

家具以外に着替えも何着か持って来ようと思ってたのだけど、いーちゃんの着替えしか持ってきてなくて、私のは忘れちゃったんだ? だからちょっといーちゃんのYシャツだけ借りてるね?」

 

「………………」

 

 

 目に飛び込んできたのは、サイズが二回り程大きいYシャツ一枚だけを着ていているセラフォルーだった。

 本人曰く、一誠の分の着替えは持ってきたけど自分の分を忘れてしまったのでYシャツだけ借りたと言うのだが、袖はサイズの影響でだぼだほだし、下は何も履いておらず下着のみと、本当に忘れただけなのかと思う程度は実に扇情的な姿だった。

 

 

「ん、いーちゃんもおいで?」

 

 

 しかもその上でだぼだほなYシャツ一枚姿で両手なんて広げる始末。

 

 

「こんな所をソーナちゃん達に見られたら大騒ぎになるだろうなー……ふふ♪」

 

「………」

 

「でも、悪いとは思ってても止められないからなー☆」

 

 

 そのまま主導権を奪われるかのようにベッドに引っ張られしまい、そのまま一夜を共にすることになった。

 

 

「そ、そういや……ソーナの兵士で匙ってのがいるだろ? 最近彼がお前に喧嘩売って返り討ちになった旧魔王の血族の女だかの面倒を見てるとかって聞いてるのか?」

 

「カテレアちゃんの事? そういえば聞いたような。

でもどうしたの突然?」

 

「今日ちょっと話す事があって……」

 

「そうなんだ。

それはそうとさ、別にいつでも良いからね?」

 

「な、なにが?」

 

「この前みたいに私のおっぱいをちゅーってしても……」

 

「し、しねぇよ!? あ、あん時はなにして良いかわかんなかくててんぱってただけだ!」

 

「えー……? でも確かにずーっと戸惑ってたっけ? んー……しょーがないなー? 今日もおねーちゃんが優しくしてあげようじゃないかっ☆」

 

「う……」

 

「……………あーもう! かわいいんだからいーちゃんは!☆」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっきし!?」

 

「? 寒いのですか?」

 

「いや……。

それよりそろそろ夜なんで寝た方が良いんじゃ……」

 

「え? ……あ、そ、そうですね。

少し話が長くなってしまったようです……」

 

「…………………。まあ、別に暇なんで話がしたいなら付き合うけど」

 

「え!? ………………あ、あらそう? そんなにこの私の転生悪魔には勿体ないお話を聞きたいのなら聞かせてあげないこともなくってよ?」

 

「……………………………。かわいいなオイ」

 

「へ? い、今なんて?」

 

「あ、いえ……ただの個人的な感想なんですけど、なんでアンタってそんな連中の仲間だったんすか? そらセラフォルー様に負けてレヴィアタンの称号を失ったとはいえ、アンタなら努力でなんとかできたでしょうに……」

 

「それは……」

 

「……。でもアンタが敵として捕まってくれたからこそ、こうして話せてたと思えば悪い事ばかりでもないか。

アンタがもし最初から現政府側だったら、俺みたいな転生悪魔が直で会える立場じゃないでしょうし」

 

「わ、私もアナタみたいな……えーと、転生悪魔にしては中々話の分かる者を知れてちょっとだけは良かったと思ってますよ……?」

 

「う、日之影に言われたせいだなこれは。

今のアンタが妙に可愛いと思ってしょうがねぇ……」

 

「え……?」

 

「って、こんなのに言われてもうぜーだけか」

 

「……! い、いえいえ! アナタは転生悪魔にしては中々マシですし? 私にそういう台詞を言う権利くらいは特別に許可してあげてもなきしにも非ずといいますか………。で、でも私にそんな事を言う男なんて誰も居なかったわよ……?」

 

「いねーならソイツ等の目が腐ってたんだろうぜ」

 

「う……て、転生悪魔のくせに……」

 

 

 別のレヴィアタンと少年の夜も一緒に更けていく。




補足

一旦意識し始めたせいか、挙動不審となる執事。

そして同い年の少年達に聞いて余計思春期拗らせる。



その2
平行してこっちの少年もそうなってたり。

まあ、こっちは主導権を握り気味なんだけど。



その3
こっそり夜会うようになったんだってさ! バレたら大変だ

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