色々なIF集   作:超人類DX

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603話をそのまま異世界転移なしでルート確定させる的な話。


執事の魔王少女一直線編
執事と魔王少女


 

 

 日之影一誠とはあくまで(・・・・)悪魔の執事であり、悪魔の眷属ではない。

 脆弱な過去により個を奪い取られ、死を待つだった時にある人外によって導かれた事で、不本意ながら悪魔の執事となり、奪われた替わりとなる個を掴めた。

 

 その後、その個を奪った男とは約十年ぶりに再会することになるわけだが、新たな個を掴みとった日之影一誠にとっては最早過去の個など不要だった。

 

 しかし奪われた報復だけは取り敢えずキッチリと果たしたかったので、二度と挑む気など起こせぬ程度に八つ裂きにしてやり、彼は本当の意味で過去と決別し、日之影一誠としての道を歩む事になった。

 

 何物にも縛られぬ最強の領域へと到達する。

 

 その領域に君臨する最強の魔王に勝つ。

 

 

 本来の性格とは正反対に、ある意味変態的なまでに強さを求める執事に情等不要であり、ましてや異性などのアレコレなぞ邪魔にしかならない……といった、ある意味で不健康な生活を送り続ける日々。

 

 しかし執事は自覚がなかった。

 強さをただひたすらに求める彼をそれでも構い続ける悪魔達との日々によって少しずつ芽生えていた情に。

 

 最強の悪魔と同世代の癖にとことん趣味が子供じみている、魔王の一人を苛め倒すのが楽しいと思い始めていくのと同時に抱いていた小さな情を。

 

 そんな小さな気持ちを自覚しないまま日々を過ごしていた執事は、ある日宿敵たる魔王のちょっとした悪戯により、加速していくことになる。

 

 

『好きだよ、いーちゃん……』

 

 

 ちょっとした悪戯から始まった小さな騒動の果てに執事へと向けられた嘘偽りなきその言葉が恐らくは以前から彼女に対して大なり小なりの気持ちを持っていた執事を揺れ動かした。

 そしてその言葉と共に、ただの人間から這い上がった執事と、そんな執事を弟同然に可愛がってきた魔王は――

 

 

 

 

 

 

 サーゼクスのちょっとしたからかいがただの冗談だとセラフォルーとの話で発覚した執事の日之影一誠は、グレモリー家へと帰還すると同時に、母のヴェネラナからお説教をされていたサーゼクスを一発ぶん殴ってやった。

 

 

「お、おぉう……鼻に一発とは成長したね一誠も?」

 

「黙れボケが。

その程度で済んだだけありがたいと思え」

 

「話はサーゼクスから聞きましたよ。

その様子ではサーゼクスが話を盛っていたとわかったようね?」

 

「セラフォルーから直で聞いたからな……クソが」

 

 

 鼻を抑えながらヘラヘラ笑うサーゼクスに悪態を付く一誠は、そのまま何時もの執事業務へと戻る。

 

 

「………? おかしいわね、てっきりそのままセラフォルーちゃんから何か言われたのかと思ったけど……」

 

「ぼ、僕もてっきり。

でもあの様子じゃ話が盛られたとわかってそのまま帰って来たみたいだね……」

 

 

 そんな何時も通り過ぎる一誠の態度に、ヴェネラナ達は違和感を覚えるのだが、せっせと業務をする一誠にしかその真相はわからないし、後にセラフォルーの様子を見ても、特に変わった所がなかった。

 

 

「…………」

 

 

 そんなサーゼクス達とは逆に、一誠はといえば何時も通りの業務をせっせとこなしている外見とは逆に、内心では相当にテンパっていた。

 

 

(ぐ……ど、どうする。

セラフォルーの奴が今夜城をこっそり抜けろなんて言ってきたが……)

 

 

 サーゼクスに見事騙され、セラフォルー――というかレヴィアタン領に単独で乗り込んだ挙げ句、セラフォルーからあれこれ言われてアレもこれもされてしまっていた一誠はとてつもなく動揺をしていた。

 

 

(半日前まではあんなアホ女にどうこう思うなんてなかったのに……く、くそ)

 

 

 精神の比率がほぼ『もっと力を』といった修羅的な精神で占められていたせいもあるし、潜在的な意味でセラフォルーに対して何かしらの情があったせいもあり、真正面から小細工なしで言われた言葉が頭から離れないし、なんならそれ以降からずっとセラフォルーの事が頭から離れない。

 執事の業務に没頭すればきっと忘れられると思ってやってみても、そんな時に限って頭に浮かぶのは妙に真面目なセラフォルーの姿だったり、コスプレしてはしゃいでる姿だったりと―――最早頭の中がセラフォルーに占拠されてしまっている。

 

 

 

「どうしたの一誠兄さま?」

 

「今日は随分とお掃除に熱中しているのね?」

 

「ミリキャスとリアスか……? なんでもねぇ……」

 

 

 これが所謂煩悩というものなのかと、必死になって頭を振ってみてもダメだった一誠は、そんな彼を通りがかりに発見したリアスとミリキャスから不審に思われてしまう始末。

 

 

「そういえば昼間突然城を飛び出したって……」

 

「よ、用事があったんだよ」

 

 

 取り敢えず一誠が思うのは、この意味わかんない状況をリアス達にはバレたくなかったので、全力で誤魔化した。

 

 

(くそ、クソが! セラフォルーのせいだぞ! お、お前みたいなコスプレアホ女に……ちくしょう!!)

 

 

 一誠自身はまだ自覚していないが、世間ではそれを『思春期』と呼ぶのである。

 

 こうしていくら別の事をして集中しようにも常にセラフォルーの姿が頭に浮かんでしまうようになってしまった一誠は、グレモリー家での業務を終わらせると、別れる前にセラフォルーから指定された時間が迫っていたので、全力で気配を悟られぬようにコッソリと城を抜けると、セラフォルーに指定された場所へと向かう事に。

 

 

「アイツ、こんな時間に何をしようってんだ? 決闘か? 決闘だったら良いんだけど……」

 

 

 誰にも見られずに来てほしいなどと珍しい事を言ってきたので、ついその通りにしてみたのだが、何をするのかまでは聞かされていない一誠は少々不安だったものの、何故か別の所で『楽しみ』という感情もあった。

 

 

「ぐぐ……どうなってしまったんだ俺は? あのアホのセラフォルーと会うのが楽しみって……イカれちまったとしか思えない」

 

 

 ブツクサと言いながらグレモリーの領土を抜け、シトリー家の領土へとこっそり侵入する一誠。

 別にこっそりとは言わずに堂々と顔パスで入れるのだが、セラフォルーからはあくまで誰にも見られずにと言われているので律儀に守る一誠は、もうひとつの仕事場でもあるシトリー家の城――――の裏にある広大な森林地帯へと入る。

 

 

「まさかドッキリとかじゃねーよな……?」

 

 

 シトリー家の領土の大半は広大な自然に囲まれており、一誠自身もこの地帯は訓練場として使っているので、己の家の庭のように地理を把握している。

 そんな広大な森林地帯をまだブツクサ言いながら進んでいけば、少し開けた場所へと出る。

 

 そこは湖のある場所であり、月明かりが水面を鏡のように映していて、幻想的でもあった。

 

 

「…………………」

 

 

 そんな湖の畔に魔王少女衣装ではないセラフォルーの姿があり、一誠は微妙に緊張しつつも『俺の弱味でも握るドッキリのカメラなんて仕掛けられやしないだろうな……』と周辺を警戒しながら近づく。

 

 

「あ、いーちゃん」

 

「………」

 

 

 結果だけいえば、そんなものは仕掛けられてはおらず本当にセラフォルーだけが目の前に居るだけであり、気配はあっても獣だなんだといった生物の気配だけだった。

 

 

「ごめんね、こんな時間に呼び出しちゃって?」

 

「いや……」

 

 

 タートルネックのセーターにスカートという、セラフォルーにしてはかなり落ち着いた格好からの嬉しそうな微笑みに一誠はサッと目を逸らしつつここに呼んだ理由を問う。

 

 

「家に居たらいーちゃんと二人にはなれないじゃない。

だからこっそり来て貰ったの」

 

「なんだそりゃ……」

 

「もー、わっかんないかなー? まあ、いーちゃんらしいといえばそれまでなんだけどね? ほら、ここ座ってよ?」

 

 

 二人だけになりたいからとストレートに言われた一誠は言葉に詰まりつつセラフォルーの隣に腰かける。

 

 

「……………」

 

「小さな頃、両親と喧嘩した時なんかはよくここに来てずーっと湖を眺めてたっけ。あの時と変わらないや」

 

「何百年以上前の話だそれは……」

 

「うーん……少なくともいーちゃんのご先祖が現役の頃くらいかな?」

 

「つまりお前も歴としたババァだな……。

いや、干からびたミイラか? くくくっ」

 

「あ、ひどーい! 人間と悪魔じゃ老化の速度だって違うんだから、人間の寿命で考えて欲しくないんだけどー?」

 

 

 僅に揺れる湖の水面を眺めながら、本当に他愛の無い話をする一誠とセラフォルー。

 当初こそ少しだけ緊張していた一誠も、セラフォルーをおちょくることで徐々に何時もの調子を取り戻していく中、セラフォルーが水面に映る月を見つめながら訊ねる。

 

 

「昼間の事だけどさ……」

 

「あ?」

 

「いーちゃんからしたら良い年こいた女悪魔が何を言ってるんだって思うかもだけど、私ホントにいーちゃんの事好きよ?」

 

「あ、え……? いや……は?」

 

「でもまだ私は聞いてないよ? いーちゃんが私をどう思ってるのか……」

 

 

 気づけば身を寄せながら、湖に視線を向けっぱなしであった一誠に顔を近づかせるセラフォルーのアメジスト色の瞳がまっすぐ見つめている。

 

 

「なんにも思ってないならそれでも良いから正直に教えて?」

 

 

 おちゃらけ魔王の一人の癖に不安そうな眼差しでそう訊ねてくるセラフォルーに、一誠は少し動揺しながらも口を開く。

 

 

「お前に何も思わないと断言するには、俺にとっちゃお前とは長い付き合いになっちまった。

だから何もお前に思うことはないってのは無い……。

ただ、その……好きかどうかって事についたは俺にもわからない」

 

「…………」

 

「お前も知ってるだろ。

俺は元々成り代わりの人間によって消される筈だった人間だ。

それを人外女に運良く拾われ、そのままサーゼクスに引き取られ……そしてお前達と出会った。

俺は強くなるために、サーゼクスに勝つ為に今まで生きてきたし、その為に不必要だと判断したものは全て捨ててきたつもりだった。

だからその……あまりよくわからないんだよ――好きだなんだって意味が」

 

 

 好きという感情がよくわからないと答える一誠の言葉をセラフォルーはただ黙って聞いていた。

 

 

「でも、あの時、サーゼクスがお前の事で俺を嵌めた時、俺は確かに凄まじく不愉快な気分になった。

お前は確かに今の冥界にとって重要な存在だし、純血を残す意味でも仕方ない話だとも思っていた。

だけど不愉快だった……お前が、どこぞの知らねぇ純血の悪魔とそうなるかもしれないって話を聞いた時は確かに――俺はそいつをぶっ殺してやりたいと思った」

 

「…………」

 

 

 小さいとき、初めて出会った時から良い年こいて変なコスプレ好きの痛い女。

 人間のガキにひっぱたかれて泣く、強いのか弱いのかよくわからない女。

 ノリがとことん軽すぎる大人とは思えないアホな女。

 

 

「そいつぶっ殺して、お前を奪い返してやりたいと思った……」

 

 

 ハッキリ言えば異性としての認識はまるで無かった。

 だけど、サーゼクスからの嘘を告げられた時、一誠は確かに強烈なまでの不愉快さを覚え、後先考えずにセラフォルーの居る場所へと走った。

 

 結局はただの嘘だったとわかったけど、その時確かに自分はサーゼクスへの怒り以上に安堵をした。

 

 

「………まあ、少なくともお前に対して俺はそんな事を思ってたと今になってわかったよ」

 

「ん、そっか☆」

 

 

 そういう意味では少なくとも一誠の中でセラフォルーの存在はそれだけ大きいものではあった。

 そう吐露するように話した一誠に、セラフォルーはニコリと微笑みながら大きくなった男の子の肩に身体を預けた。

 

 

「んー、皆には悪いとは思うけど、やっぱりどうしても私だけのいーちゃんになって欲しいんだよなー?」

 

 

 こんな性格だったから長い間縁はなかった気持ち。

 まさか人間の男の子によって抱かされたこの気持ち。

 

 他の者には悪いと思う……けれど、それでもセラフォルーは大きくなった彼に受け止めて欲しいと思ってしまう。

 

 

「ねぇねぇ、ひとつ聞くけど流石のいーちゃんも知ってるよね?」

 

「は? 何を……?」

 

「……………赤ちゃんの作り方」

 

「は、はぁ? お、お前、何を突然アホな事を……。

そ、そりゃあ知ってるちゃあ知ってるけど……」

 

「そっか……」

 

 

 戦って、勝つことでしか自分の価値を証明できないと思っている寂しい男の子。

 個を失った事で、強さこそが自分の証明であると思ってしまって歪んでしまった悲しい男の子。

 

 心の底では誰かを信じることができない臆病な男の子。

 

 

「お、おいセラフォルー!? い、いきなりなにを……!?」

 

「たまにはおねーちゃんらしくしてあげないとさ? 大丈夫、誰にも言わないし誰も見てない。

だから少しは誰かに寄りかかっても………私に寄りかかっても良いんだよ?」

 

「セラフォルー……お前……」

 

 

 きっとこの先も変わらない。

 誰よりも強さを求め、誰よりも貪欲に進化を求め続ける――それが日之影となった一誠の歩む道なのだから。

 

 

「サーゼクスちゃんを超える為に頑張る事は否定しない。

でも、そんないーちゃんを心配している人たちが居ることだけは忘れないで?」

 

 

 そんな道を歩む姿を見続けてきたから……セラフォルー・レヴィアタンではなく、ただのセラフォルー・シトリーとして抱いたのだ。

 

 

「こんな気持ちになる相手はいーちゃんしかないし、間違いなくいーちゃんが最初で最後。

だから何度でも言うよ? 私……いーちゃんが好き」

 

 

 最初で最後の恋心を。

 

 

「あはは、かなり勇気を出してるつもりだけど、今私の胸がすっごくドキドキしてるのがわかるでしょ?」

 

「ま……まあ……」

 

「でもこうでもしないといーちゃんは逃げちゃうし、本気出さないと……ね?」

 

 

 戸惑う男の子を優しく抱きながら、ただのセラフォルーとして彼女は伝えるのだった。

 

 

「ね、いーちゃん……する?」

 

「は? な、なにを?」

 

「えっと……大人なこと」

 

「ば、バカ言え! こ、ここ外だし、俺はそもそもただの人間――んっ!?」

 

「…………今更それは通用しないしさせないよいーちゃん? でも今を逃したらいーちゃんってヘタレなとこりもあるから、次のチャンスが何十年後かもわからなくなる。

だから―――」

 

 

 そして――………

 

 

 

 

 

 

 

 

「セラフォルーが倒れた?」

 

「急にお加減を悪くされたようで、今医者に見せたのですが……」

 

「なんだ? 何か重い病気でも――」

 

「いえ逆です………セラフォルー様は妊娠されてます」

 

「……………………は!?」

 

 

 

 その先に何があっても、きっと変わらないだろう。

 

 

 

「いや、えっと……ま、まあ確かに身に覚えしかない……。

あの、だからな? 最近ちょいちょい深夜になったらアイツと二人で会ってたりはしてたわ。

で、まあその……あー……うん」

 

「つまり、ヤッたわけね?」

 

「す、ストレートに聞くなやグレイフィア!

だ、だってしょうがないだろ!? あ、あのアホの極だと思ってたセラが……」

 

『セラ?』

 

「……あ、やべ!」

 

 

執事の魔王少女ルート編・プロローグ(嘘)

 




補足

嘘だと知ったあと、きっちりサーゼクスさんの顔面にジャイアンパンチしといたものの、それ以降思春期よろしくに頭の中がセラフォルーさんだらけになってしまう模様。


その2
そんな状況で深夜に逢い引きが始まる。

そして本気出してくる魔王少女。



その3
この場合、ホントただひたすらイチャイチャしかしない。

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