色々なIF集   作:超人類DX

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短気は損気


カルシウム

 

 

『この学園の外でなら好きなだけ殺し合いをしようが、校則違反をしてくれても構わない。

そのかわり、学園の施設内では控えろ。そして人間を含めた一般人への粗相は決して働くな。

この学園が存在する理由が『人間達との共存』である以上、最低限それだけは貴様等のノミ以下の脳ミソに刻め』

 

 

 初めて見た感想は、『このどこからどう見ても弱そうな男は何を言っているのだろうか?』だった。

 

 

『もしこれを破れば、俺がわざわざぶち殺す為に出張らなきゃならなくなるわけだ―――――たかが貴様等みたいな虫けら風情をな?』

 

 

 入学式の時に、学園の治安維持を生業とする委員会の委員長からの挨拶の際、優男風の男はその見た目とは正反対に口も態度も頗る悪く、新入生達を見下すような発言をしていた男。

 当たり前だが、そんな挨拶をされた新入生のほぼ全員があんな弱そうな見た目をした男の発言に反発心を抱く訳だが、そんな新入生の一人であるとある少女は反発心というよりは、バカなのかと呆れた。

 

 というのも少女のルーツとなる種族はとても強力な種族だったので、あの優男の言動が痩せ犬の威嚇にしか聞こえなかったのだ。

 

 加えて少女は少女の目的があってこの学園へ入学したので、あんな弱そうな男の言葉なんて右から左だった。

 

 よもや、その少女の目的となる存在が弱そうな男と関係しているとはこの時知らずに。

 

 

『わざわざ私を追う為にここまで来たのか……? だが残念ながら私は今忙しくてな。

お前と遊んでやる時間はそんなに無い』

 

 

 その後少女は早速目的となる人物への接触を果たし、そのまま喧嘩を売った訳だが、少女は衝撃を受けた。

 それは過去に妖力を封じられ、自力では解放出来なかった筈の『姉』が電灯スイッチ感覚でお手軽に封印を解いたのだ。

 それはある意味喜ばしい話だったのだけど、姉は言うのだ。

 

 

『この学園に入学した時、私は『互角』の男と出会った。

負けはしないが、勝てもしない……だからその男と遊ぶ――あ、違う勝ち越す必要があるので、お前と遊んでる時間はないのさ』

 

 

 あの姉と互角の力を持つ男が居る。

 孤高のバンパイアの姉が初めて見せる、なんだかとても楽しそうな顔。

 それを理由に自分に構ってる時間はないと言われた少女は憤慨した。

 

 誰だその男は? 互角なんて嘘に決まっている。

 当然少女は姉に詰め寄るように訊ねれば、封印が解かれた姉はどこか楽しそうな――妹である少女が見たことがなかった美しい微笑と共にその名を口にした。

 

 

 月音という名を。

 

 

 当然少女は嫉妬した。

 封印された状態の方の姉はさておき、あの状態の強い姉にそんな顔をさせる……しかも男がこの学園の中に居るなんて腸が煮えくり返る思いしかない。

 

 だから少女は探した。

 その月音なる馬の骨男の事を徹底的に調べた。

 

 結果、その男については簡単に知ることができた。

 というのも、上級生にその名前の男について聞いてみれば、ほぼ全員が同じような反応をしたのだ。

 

 

『あ、アイツとは関わらない方が良い……! お、俺は何も知らないし、キミから青野の事なんて訪ねられねもいない……!』

 

『あ、青野について知りたいの? わ、私は直接なにかされた訳じゃないけど、去年彼が先代の公安委員会を全滅させてるのは見たわ……。

ニタニタと『悪魔』のような笑い顔で、先代委員長を殴り続けていて――ひぃぃぃっ!?!?』

 

 

 全員、ほぼ例外なくその月音という男について聞けば恐怖し、時には発狂する者すら居る。

 一体どれほどヤバイ奴なのだと思いつつも調べ続けた結果、どうやら入学式の際に暴言めいた挨拶をしていた公安委員長の優男が月音だったらしく、しかも姉が所属する新聞部なる部活にも所属している。

 

 あれが姉と互角とは思えなかった少女は少し驚いたし、むしろ余計に互角な訳がないと思ったし、なんなら何か弱味でも握っているのではないかと卑怯者認識をする始末。

 

 その結果、少女は部活の活動場所へと突撃することになったのだが……。

 

 

「で? 一体どんな弱味を握ったのよ?」

 

「……………………………」

 

 

 ボリボリとカルシウムのサプリメントを貪りながら、すぐキレる癖を絶賛我慢中だということをまるで知らない少女……朱染心愛は、やっぱりどこからどう見ても優男にしか見えない男の地雷を実際踏みまくるのであった。

 

 

 

 

 

 

 心愛が来るなり月音を『姉の萌香の弱味かなにかに握っているに違いない』と言い出した時は、その場の全員が『こ奴は何を言っているのだ?』と思うと同時に、物理な意味で月音に叩き出されやしないと心配もした。

 

 だが短気を直すを目標しているしている月音はといえば、瑠妃に持ってこさせた小魚スナックをバリバリと食しながらいきなり手を出すことはしなかった。

 

 

「彼女に何を言われたのかは知らないが、キミは部外者だろう? 見逃してあげるから取り敢えず出ていってくれないか?」

 

 

 バリボリと小魚スナックを食べながらという妙なシュールさははておき、あの月音が……業務用電子レンジのようにすぐチン(殺意度メーターMAX)する男が、ひきつった顔ではあるものの、なんとか笑いながら突如乗り込んできた心愛に言っている姿に、胡夢や紫やみぞれは『おぉ……』と感嘆するような声を出す。

 

 

「本当に去年とは少し違うのね」

「恐らく去年の月音さんだったら、グーで顔面行ってましたからね……」

 

「短気さのせいで去年は大損こいてばかりだったと言ってたからな」

 

 

 小魚スナックに続いて飲むヨーグルトをガバガバと飲む月音の我慢する姿に、三人は感嘆はするけどその内爆発した時の方が却って怖い気もした。

 

 

「そ、そうよココア? 私達は部活の最中だから……」

 

 

 それは表の萌香も思っていたらしく、本当に即時八つ裂きといった行動を控えている月音を横目に、今はとにかく心愛には帰って貰おうと話しかける。

 

 

「………。だって納得できないし、信じられないわよ。

こんな弱そうな男がおねえちゃんと互角なんて」

 

「…………………………………」

 

 

 妹からしたら当然見た目だけなら弱そうな月音と封印が解かれた姉が互角なんて信じられないし、やっぱり近くで見ても弱そうだと、軽く見下した目を向ける。

 

 

「………………」

 

(が、我慢してますね月音さん……)

 

 

 その時点で椅子に座っていた月音は、机の下で思いきり拳を握り閉めて我慢しており、既に握り過ぎて掌に爪が食い込み、血がボタボタと垂れている事に気付いているのは瑠妃だけだった。

 

 

「お……俺にどうしろと?」

 

 正直言えば即座に全身をぶち壊してから海に沈めてやりたいと思っている月音は、ヒクヒクと口許を痙攣させながら違和感丸出しな笑みを張り付けつつ心愛に訊ねる。

 

 

「アンタが本当におねえちゃんと互角だって言うなら、私と戦いなさい」

 

 

 そんな月音に心愛は戦えと、ある意味姉みたいな事を言い出してしまう。

 その時点で表の萌香だけは本気でやめた方が良いと妹を説得するも、本人はどうしても信じられないので言うことを聞きやしない。

 しかも困った事に……。

 

 

「ひ、ひひひ……! た、戦えば良いんだな? 喜んで……!」

 

 

 既に暴発寸前だった月音は『喧嘩を売られたから買うまで』と己を正当化させる意味で不気味な笑い声を発しながら買ってしまった。

 

 

(あ、終わったわねあの子……)

 

(短い学生生活でしたね……)

 

(死んだ方がマシな目にあうだろうなぁ……)

 

 

 

 こうして朱染心愛は地雷を踏みまくったあげく、知らずにそのまま墓の中へとすっぽりと収まるのであった。

 

 

「コーちゃん! 武器変化! ハンマーモード!!」

 

「………………」

 

「バンパイアは孤高なる種族! アンタみたいな弱そうな男と互角なんてありえない! だからここで消え――――べぶっ!?」

 

「………………………」

 

「え、う、嘘……? ま、まったく見えなかった……! そ、そんな訳――あぶっ!?」

 

「今入れ替わってロザリオの中に入ってるぽんこつアホ吸血鬼が俺と互角―――なんてほざいてたらしいな?」

 

「え……あ……」

 

「少し訂正するとだなぽんこつの妹………俺とあのぽんこつは互角じゃねぇよ」

 

 

 その男、凶暴につき。

 その男、暴虐につき。

 その男、残虐につき。

 その男――――

 

 

 

「そ、そんな……封印が解けているおねえちゃんより強いなんて私は認めない!」

 

「そうか……なら仕方ないなァ?」

 

「へ……? ちょ、まって! い、一旦仕切り直しを――」

 

「俺をムカつかせたツケに待ったは無い。

そしてテメーのツケは……金では払えねぇ……!」

 

「ひっ―――」

 

 

 

 ――――めっさ短気につき。

 

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!!!」

 

 

 目にも止まらぬハンドスピードが心愛の全身を叩きまくる。

 

 

「ガババベガガギャィッ!?」

 

「無駄! 無駄! 無駄! 無駄! 無駄!!」

 

「ギエピー!?!?」

 

「無駄無駄無駄無駄――――――オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!!」

 

 

 

 女の子が出しちゃいけない悲鳴と、肉を叩きまくる鈍い音が辺りに響き渡る。

 

 

「がばばばばっ!?!?」

 

「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!」

 

 

「あれでも手加減はしてるのよね月音って……」

 

『ああ、本気で殺す気ならああせず首を破壊しているからな。

一応約束は守ってくれているようで安心……なのか?』

 

「いやいや、あれはあれで所謂『ミンチよりひでぇ』状態になるだけで、程度は同じな気が……」

 

「きっと我慢してた分、敢えて嬲ってストレスを発散しているのではないかと……」

 

「お、おっふ……!

久し振りの鬼畜モードの月音さん……」

 

「お前も大概だな……」

 

 

 月音が心愛を叩きまくる凶悪ラッシュを前に、部屋の戸棚に置いてあった小魚スナックを仲良く食べつつ見守る萌香達。

 

 

「ひぎぃぃぃっ!?」

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ――――――オラァッ!!!

 

「ヤッダーバァアァァァァアアアアア!!!!?」

 

 

 こうして朱染心愛はぶっ飛ばされてしまうのだった。

 

 

「ツケの領収書だぜ」

 

 

 そしてその言葉通り、死にはしなかったのだが……。

 

 

「おいぽんこつ、安心しな手加減はしてやった。

精々全身打撲と一部骨折程度だから復帰しようと思えば不可能じゃあない。

だから目覚めたら言っておけ、二度と俺にそのツラ見せんじゃねぇってな」

 

『ぽんこつはさておき、ココアが気に入らんのか?』

 

「頭の先から爪の先の全部に興味がねぇってだけだよ。そんなのにギャーギャー騒がれるのが嫌なんだよ」

 

『……言ってはおくが、アイツは超粘着気質だぞ?』

 

「多分これからも絡まれるかも……」

 

 

 この時点で彼女への好感度はどこぞの宇宙人王女三姉妹の末っ子並の最低値をマークしたのは云うまでもなかった。




補足

そら、勝てない姉からバンパイアではないけど互角の男が居るなんて言われたら『そんなバカな』って疑うわけで。

結果、10ページ分のダブルラッシュ食らっちまったわけだけど。

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