色々なIF集   作:超人類DX

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駆け足で終わらせる。
その後のことは知らん


大喧嘩の果てに……

 

 

 私が知った初めての明確なる格上に、初めての挫折を与えられた。

 ただの悔しさから来る意地だった。

 

 

『大切なのは気配の動きを掴むことだ。

キミは俺の動きを目で追う事に固執しているから見失う』

 

 

 そんな意地ですらも、月音はせせら笑って相手にすらしなかった。

 鬱陶しい子供の駄々をあしらうように……。

 

 それでも私は退かなかった。退きたくなかった。

 

 そういう意味では、もう会ってない『粘着質なあの妹』の事なんて言えないし、気持ちがなんとなく今ならわかる。

 

 

『Boost!』

 

「シッ!!」

 

『来るわよ!』

 

「わかっている!!」

 

 

 記憶は朧気だけど、あの時私に抱いていたアイツの気持ちはまさにこれの事なのだろうって。

 

 

「す、凄い! 速すぎていまいち見えないけど、萌香が月音スピードに付いていけているわ……!」

 

「そればかりか、月音と打ち合う度に萌香の妖力が強くなっていっているぞ……」

 

「それにしても……。

スピードを生業にしているワイ等の種族の立つ瀬がなくなるくらい速いってなんやねんな……」

 

「………あれ、いつの間に居たんですか銀影先輩?」

 

「あないな騒ぎを起こせるのはお前等くらいやからな……。

様子見に行ってみれば二人でやり合っとるし」

 

 

 なぁ、妹よ……。

 ある意味お前のあの意地の強さのお陰で、私はやっとスタートラインに立てたよ。

 その事に関してだけは感謝してやる……。

 

 

「チッ……」

 

『打ち合うだけこちらが損をするか。

まったく、まるで『白いの』と殺り合っている頃を思い出す』

 

「ドライグが不用意にペラペラ喋っちまうからだろうが。

つーか、俺が寝てる間にそんな話を表の彼女としてたのかよ? ホント、やってる事が逢い引きなんだよ」

 

『そんな訳あるか』

 

 

 まだその差は大きい。

 だけど、今までは挑んだところで一度たりとも私を『見なかった』月音がはっきりと私を見ている。

 

 

「っ……月音の力を奪うことでなんとか食らい付けてはいるが、やはりまだ一手足りない」

 

『それでも大きな一歩よ』

 

「わかっている。

しかし、私も知らぬ所で何時ドライグとそんな話を聞いていたんだ?」

 

『え、それはアナタと月音が眠った後に話をしていただけよ? これもアナタが殆ど月音の寮のお部屋に居座ってくれていたお陰ね。

ふふ、ドライグくんとのお話は凄く楽しいのよ?』

 

「……。お前等、気付く度に怪しい関係を連想させるのだが」

 

『怪しいかぁ……。

まぁ、ドライグくんは多分そうは思わないけど、当たらずも遠からずかしら?』

 

 

 数百と打ち合い、互いに一度距離を取り、少しのハーフタイムを挟み、その打ち合いの最中でもう一人の私が吸収した月音とドライグの力を妖力として私の中に流し込んでから再び力を解放する。

 

 さぁ、戦いはまだこれからだ……!

 

 

 

 

 

 

 かつて白音が到達した、全てを喰らい尽くす力と同じく、萌香が到達した吸収という力は力を倍加させて一気に叩き潰すスタイルである月音にとっては相当に相性が悪かった。

 

 ましてや萌香が到達した神器に近しいあの力は、かつて一度だけ殺しあった事のある白龍皇のそれに程度が近く、こちらがギアを上げれば上げる程、萌香によって吸収されてしまい、結果として萌香を引き上げてしまう。

 

 

「ここに来てあのハーフ悪魔が宿主の白龍皇に近いタイプの天敵に出くわすなんてよ……」

 

『こちらがギアを上げれば、その力をあの小娘達も吸収し、同等まで昇ってくるからな』

 

「………」

 

 

 力の大妖としての基礎能力も相俟って、さながら白龍皇の宿主だった銀髪の青年を思わせると月音は、ここに来て初めて今の萌香を『割りと厄介』と認識するようになる。

 

 何度か打ち合いながら倍加を掛けて一気に潰そうと試みたが、どうやらあの表萌香をベースとする神器擬きは直接触れずとも近づくだけである程度対象の力を奪って己の力に還元できるのは既に理解している。

 

 

「フッ……マジでうぜぇわ」

 

 

 たかが木っ端吸血鬼風情と見下してから短期間でよくもまぁ壁を越えてきたと思わず悪態をつく月音だが、久しぶりにまともにやり合える感覚のせいか無意識に精神が高揚している。

 

 

「ホント……うぜぇ」

 

『お前……』

 

「充分付き合ってやったしな……終わらせてやる」

 

 

 何でいきなり喧嘩を売られたのかは微妙にわからない辺りは鈍いが、思わぬ敵を前に月音は一誠としての記憶を思い返しながら、萌香の力を見定める為にこれまで倍加させてきたパワーを全解放する。

 

 

「!? あの構えは……!」

 

『たしかドラゴン波……だわ。

多分私の吸収できる許容を越えた一撃で終わらせるつもりよ……』

 

「吸収できる許容には限界があるのか?」

 

『ごめん、まだ自分でもどれくらいの力を吸収――いえ、『吸血』できるかはわからないの』

 

 

 両手首を合わせながら開き、腰付近に持っていく動作から、敵を殲滅させるあの光線を放つつもりだと察した萌香は相棒に吸収可能かと問い、表萌香はまだ到達したばかりでどこまで吸収――否、吸血できるかわからないと返す。

 

 となれば避けに徹するのが得策。

 

 

 

「少しは楽しめたし、ある意味畜生にも可能性があることを知った。

だからその礼だ――――――その場所ごと消えてなくなれ!!!」

 

 

 

「………。避けたらここに居る者全員が死ぬな」

 

『じょ、冗談だと思いたいけど……』

 

「アイツの人なざる者への複雑な気持ちを考えたら、いっそ全部を破壊して吹っ切ろうとする考えに至っても不思議ではないだろうからな……。

これはブラフであろうが、なんとかしなければならんな」

 

 

 全身から燃え盛る業火のように迸る金色の闘気が、更に激しく立ち上ぼり、時折青白いスパークが闘気を覆っている状態で放たれたら間違いなく此処等どころか下手をすれば星そのものに甚大なダメージを与えるかもしれない。

 

 ましてや今の月音の精神状態ならば本当にやりかねない……。

 そう判断した萌香は、胡夢や紫達が心配そうに見守るのを背に構えを解く。

 

 

「フー………」

 

『一か八かに賭けるのね?』

 

「そうでなければ私達……いや、下手をすればこの星の全てが終わる」

 

『………。わかった。

私も死ぬ気で月音とドライグくんの力を受け止めるわ……!!』

 

 

 か弱い人格と思っていたもう一人の自分――いや、相棒の覚悟を聞いた萌香は、二度程軽く脱力を伴う跳躍をした後、右手の手の平と左手の手の甲を相手に向けて組み合わせ、四角形を作る独自とう妙な構えをすると、解放していた妖力の全てを引っ込めた。

 

 

「な、なにをしてるの萌香は!?」

 

「妖力を消した……?」

 

 

 端から見れば勝負を放棄したようにも見えるので、胡夢や紫達が騒然とする中、萌香は独特の構えをしたまま極限までパワーを極限まで溜めたを鋭く見据える。

 

 

「来い……!」

 

 

 そして、あらゆる意味で覚悟をした萌香は声を放ち―――

 

 

「く・た・ば・れァァァァアアアアッ!!!」

 

 

 その声が届いたのかどうかは定かではないが、月音は凶悪なまでの規模のドラゴン波を撃ち放った。

 

 

『来たわ……!』

 

「っ……!!」

 

 

 避ければ終わる。

 かと言ってまともに受け止めても終わる。

 それならどうするか? ………受け止めつつ受け入れるしかない。

 そう判断したからこそ勘で閃いた構えを駆使して吸収する道を選んだ萌香は、地面を抉りながら迫り来る青白い閃光を受け止める。

 

 

「ぐっ!?」

 

『あ……ぐ……!?』

 

 

 だがそのエネルギーはあまりにも強大であり、構えた手の平から受け止めた萌香の全身が悲鳴をあげる。

 

 

「ぎ……ぎっ……!!」

 

『ま、まだ……まだ大丈夫! だから耐えて!!』

 

「か、軽く言ってくれるがな……! しょ、正直この選択を後悔しているくらいキツイぞ……!」

 

『ただ吸収するのではなく、自分の妖力と混ぜ合わせるように受け止めるのよ……!』

 

「そ、そんな抽象的な事をこの状況で言われても……あぐぐっ!?」

 

 

 ギリギリで踏ん張り続けながら、手で作り上げた四角形の中へと力を吸収する萌香はちょっと涙目になっている。

 

 

「ぐ……ぅ……!」

 

『あ……ぅ……!!』

 

「『うぅぅぅう!!!』」

 

 

 最早バンパイアとしての恥も外見も関係なく、獣のような呻き声を発しながら踏ん張り続ける二人の萌香。

 やがて何時までも続くと思われる攻防は、その終わりを報せるかのような大爆発と共に終わりを迎えることになる。

 

 

「はっ……はぁ……! チッ……マジかよ?」

 

『耐えきったのか……』

 

 

 

 

 

 

「も、萌香!!」

 

「萌香さんが、耐えきりました……!」

 

 

 

 

 

 

 

「…………………」

 

 

 傷だらけになりながらも、構えたまま君臨する萌香が賭けに勝つという形で。

 

 

「…………」

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 構えを解いた萌香はだらりと腕を首を下げて脱力しており、その姿を見ていた月音は肩で息をしながら見据えつつ、かなり嫌な予感を感じていた。

 

 それは、己のスタミナを無視したドラゴン波であった。

 いくら弱くなったとはいえ、流石にこれで終わりにできると思っていたからこそ、割りと全力だった。

 

 それを吸収された……。

 かつて白音に力を喰われたように……。

 

 それは即ち……。

 

 

「ふ、はは……! はははははっ!!」

 

 

 萌香の力へと変わったのだから。

 

 

「交代だ……今度はこちらの攻める番だぞ月音!!」

 

「チッ……!!」

 

 

 これまでよりも更に跳ね上がった萌香の妖力が周辺の瓦礫の残骸や折れた木々を吹き飛ばす。

 そしてその瞳は紅く妖しく輝きを放ち、閃光の如し速度で月音に肉薄する。

 

 

「ぐがっ!?」

 

 

 速力や妖力の全てが限界を突破した萌香の脚力から繰り出される蹴りは軌道どころか音すらをも置き去りにする程の領域へと到達し、月音の顎が蹴りあげられる。

 

 

「お、ラァ!!」

 

 

 だが月音も全てを消し飛ばす規模のドラゴン波によって体力を大幅に消費したとはいえ、まだ戦えない訳ではなく、即座に体勢を戻して反撃をする。

 

 

「ふふ……お前ならそうだろうな!!」

 

 

 その反撃を受けた萌香は、歓喜の表情を浮かべ殴られた際の勢いを利用して一回転しながら月音の即頭部へのハイキックで更に反撃をする。

 

 

「ど、ドライグ!!」

 

『Boost!!』

 

 

 その威力に焦りを覚えた月音は自分の余力を倍加させる事でなんとか均衡に戻そうとするも、吸収されたエネルギーは萌香のパワーを別次元にまで押し上げていて、まるで因果応報のように叩き潰されてしまう。

 

 

「誰を相手にしても平然としていた月音さんがあんなに必死に……」

 

「萌香め……ちょっと悔しいじゃない」

 

「むむ……なんかちょっとしたジェラシーですぅ」

 

 

 ただの殴り合いへと発展していく様を荒れ果てた地で見ていた少女達は、心底楽しそうに月音をじゃれているように見える萌香がかなり羨ましかった。

 

 

「…………。その道を選択したか、赤夜萌香―――そしてアカーシャよ」

 

 

 

 その様子を遠くから観ていた者もまた……。

 

 

「やっとお前に言えるぞ……ふふふ、身の程を知れ!!」

 

「それはテメェだボケが!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして――――時は経ち。

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

「他はどうでもいいとして、この私と今年も同じクラスになれたというのに嫌そうな顔をするな」

 

「嫌そうなじゃなくて実際に嫌なんだよ。

つーかお前、学園と寮の建て直しが終わったと同時に俺の部屋にガラクタを置くんじゃねぇ。

自分の部屋があんだろうが」

 

「? 何をおかしな事を言っているんだ? お前のものは私のモノ、私のものも私のモノだと決まっているだろう?」

 

「テメーはジャイアンかコラ」

 

「ふふーん、今年は私も同じクラスだもんねー!」

 

「というか皆さん同じクラスですぅ」

 

「つまり裏萌香の出し抜きは許さないというわけだな」

 

「…………………………うぜぇ!!」

 

 

 

 過去との決着をつける物語はひょっとしたら続くのかもしれない。

 

 

『雨降って地固まるって奴か。

まさか一誠――いや、月音は人以外の者と過ごす日が来るとはな……』

 

『ふふ、そうね。

あ、ところでドライグくん? 放課後になったら月音と入れ替われない? 屋上でから一緒に景色とか見ながらお話したいなー……なんて』

 

『なんだそれは……? 意味がわからんぞ……』

 

 

終わり

 

 

 

 過去への決着の為に始まった物語で出会う事で、少しずつ精神のあり方を変えていく月音はまた新たな出会いが始まる。

 

 

「粘着質な妹?」

 

「えーっと……うん」

 

「いやうん言われても俺にどうしろと?」

 

 

 萌香の妹が入学したらしいけど、割りと本気でどうでも良かったり。

 聞けば封印を好きに解ける事を知らないせいか、最近表の自分がその妹に襲われているらしい。

 

 

「だったら裏のキミに替わって貰って蹴散らせば良いじゃねーか」

 

『既にやったが、ますます表の私への態度が微妙なことになってしまってな』

 

 

 種族のプライド的な意味で、強い方の裏萌香にはシスコンなのだが表萌香には微妙な態度らしいその妹に困ってしまっているというお話。

 

 

「へー? ふーん? アンタがおねえさまの言ってた月音って男かー」

 

「…………………………」

 

『うざそうだな……』

 

 

 嫌々会ってみれば値踏みされてるようでキレそうになったり……。

 

 

「こんなヒョロヒョロしてそうなのがおねえさまの近くに居るとかありえないんだけど」

 

「…………………………………………………………………………………………………」

 

「た、耐えてるね……」

 

『あの大喧嘩以降、ドライグも言っていたが、短気を直そうとカルシウムを摂るようになったらしいからな』

 

 

 軽く小バカにされても、プルプル震えるだけでなんとか耐える程度には短気を直そうと努力していたり。

 

 

 

「という訳で今後はおねえさまには近か――――――え?」

 

「ファックユー……ぶち殺すぞ吸血鬼風情がァ……!」

 

 

 でも結局ちょっと短気がなおっただけでキレやすいのは変わらなかったり。

 

 

「ば、バンパイア風情って、アンタ何様のつも―――ひぇっ!?」

 

「俺様じゃボケがァ!!」

 

 

 何度も頭を下げられた手前もあるので、八つ裂きにはせずボコボコ程度に抑えてやったり。

 

 

「二度とそのツラ見せるなよカスめがっ! ぺっ!」

 

「」

 

 

 青野月音は基本的にチンピラだった。

 

 

「な、なんなのよアイツ!? バンパイアの事を見下すし! な、なんか異常に強いし!?」

 

「あはは、あれでも相当丸くなったというか……。

多分去年までだったらバラバラにされてたと思うというか……」

 

「ば、バラバラって……」

 

 

 

 

 

「わはは! 行くぞ月音! 今日こそ膝をつかせて私に傅かせて―――あぎゃん!?」

 

『だから調子に乗らないでって言ったのにこの子は……』

 

『こういう調子に乗るところは月音も同じだがな』

 

『あ、だから微妙に波長が合ってるのねー……』

 

「い、痛い! ほ、本気で殴ったな!?」

 

「うっせーバーカ」

 

「な、なんだと!? バカと言った方がバカなんだぞ!!」

 

『………………。この子、どんどん残念な子になっていってる気がしてならないわ』

 

『それは俺も思う』

 

 

 

 

 

 

「う、嘘でしょ? 強い方のおねえさまが……」

 

 

 公安という腕章を無理矢理付けさせられたチンピラ赤龍帝は、今日も妖怪達をメタメタにする。

 

 

 




補足

割りと全力のドラゴン波すら吸収しつくせた。

構え方は某零地点突破・改



その2
この喧嘩の勝敗は見ている者だけの秘密となります。

ただ、この時点で無神臓の精神が限りなくゼロになった模様


その3
多分あの妹さんとの相性は鬼ほど悪いかもしれませんねぇ……。

ちなみに続いたとするならば、龍と吸血鬼の不倫現場がしょっちゅうピックアップされる……かもしれない。

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