色々なIF集   作:超人類DX

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一応前回のその後


ちょっとした不運

 

 

 

 それは今までの人生で見た何よりも凄惨であり、残酷だった。

 

 

「お前も本当は今の自分が抱えている『矛盾』に気づいているんだろう?」

 

「黙れ……!」

 

「今のままではオレ……つまりお前にとって過去である自分がやって来た事の全てを否定することになるかもしれないと恐れている―――だから今のお前は弱いんだ」

 

「黙れェェッ!!」

 

 

 きっかけはほんの小さな騒動だった。

 何時もなら簡単に片付く筈のものでしかなかった。

 

 されどその騒動により現れし存在は――常に余裕であった月音を追い詰めている。

 それは彼を知る者からすれば信じられない光景。

 

 

「お前も思ってるんだろ? 別にこんな畜生共しかいない場所で待たなくても、あの猫ガキを引っ張り出せる方法はあるって? それなのに自分が今まで殺してきた畜生共とは少し違うせいで躊躇い始めている。

ははは、単純だなぁ? ええ? 今更改心したところでオレ達が過去にやった事は帳消しになんてならねーんだぜ?」

 

「ぐはっ……!?」

 

「なぁ? だからその肉体を―――青野月音の肉体とドライグをオレに譲れよ?」

 

「な、に……?」

 

「そうすれば今抱えている全てから解放し、最も強かった頃に戻れる。

そうすればそんな苛立ちからも解放されるんだぜ? そうさ……オレ達は人でありながら人でなしになったとはいえ、人間なんだからよ?」

 

 

 そしてもたらされる真実はあまりも壮絶で、残酷で、救われない。

 

 

「青野月音ではなく、全てを殺し尽くした最悪の赤龍帝・兵藤一誠なんだぜ……?」

 

 

 そんな過去を彼女達は知るのだ。

 

 

 

 

 

 それは学園祭真っ只中の時に始まった。

 今の自分が人ならざる存在に対する殺意が薄くなっている事への苛立ちを抱えながら萌香達に引っ張られながら学園内を歩き回る月音の元へと突如やって来たのは、青野月音としての従姉弟である響子という少女。

 

 

「や、やっと会えたよつっきー! へぶっ!?」

 

「貴様、何故ここに居る?」

 

 

 実家も近いので、青野月音としての幼少期はしよっちゅうこの少女について回られた事もあったせいか、凄まじくウザそうな顔をしながら、飛びかかってきた響子を避ける月音。

 

 

「ひ、酷い……! そして相変わらずクール」

 

「質問に答えろこのアマ。

どこからどうやって来た?」

 

「おばさんにつっきーの通ってる学校の名前と住所を聞いたのよ。

でもその住所にはビルしか建ってなくて、そのまま調べてたら女の人にここだって教えて貰って……」

 

「女? ……チッ、とにかく今すぐここから帰れ」

 

「えー!? な、なんでよー!? せっかくつっきーと会えたのに……! そもそもこの学校も変に怪しいし、危ない所だったら家に連れて帰る――」

 

「来て早々偉そうにほざくな……消えろ」

 

「消えませーんだ!!」

 

 

 どうも中々のメンタルをしているらしく、暴言混じりに帰れと言われても言い返せるだけの気力を持っている響子は宣言している通り帰りそうもない。

 

 

「誰だあの女は……?」

 

『ドライグくんが言うには、月音の従姉妹さんみたいよ』

 

 

 そんな月音と響子のやり取りを物陰から窺うは絶賛入れ替わりっぱなし状態の萌香達であり、懲りずにまた飛びかかってきた響子をカウンター拳骨で地面に叩きつける月音に少し不満そうな眼差しを送る。

 

 

「聞いてないぞ、従姉妹が居るなんて……」

 

「しかもあの様子からして、月音の気性に慣れてるみたいだし……」

 

「結構良い音で拳骨されて地面に叩きつけられたるのに、即復帰する辺り、耐久力は凄いかもしれませんね……」

 

「? 従姉妹ということはつまり、あの女にもドライグのような龍が宿っているのか?」

 

 

 現時点で月音の中身が一応人間だと知らない萌香達は、みぞれの呟いた言葉にハッとしながら響子をじーっと観察する。

 

 

「月音が龍を宿す特別な種族の者だとするなら、血縁者であるあの女も確かにそれはありえるかもしれん」

 

『うーん、どうかしら?』

 

 

 裏萌香の言葉が本当なら、響子ももしかしたら異質なパワーを持っているかもしれないと、妙に焦りの気持ちを持ち始める中、ロザリオを介して表の萌香が言う。

 

 

『最近二人が眠った後に、こっそりドライグくんとお話することが多くなったのだけど、聞いている限りだと龍を宿す者って月音だけだと思うわ』

 

「確かに、龍を宿す種族なんて聞いたこともないし、種族として確立しているとするなら、バンパイアに匹敵する強力な種族として名を馳せている筈だからな」

 

「………いやいや、バンパイア自体が強いってのは悔しいけど認めるにしても、匹敵っていうと語弊があるような気がするわよ?」

 

「挑んでは片手間に月音にあしらわれてばかりだからな、萌香は」

 

 

 『匹敵』の辺りを嫌に強調する裏萌香に対して、胡夢とみぞれが冷ややかな突っ込みをいれる。

 

 

「しかし月音さんはどんな妖怪なのでしょうね? 考えてみたら私達って月音さんがどんな種族かどうかも知りませんでしたし、何人家族かも聞いてません」

 

「「「…………」」」

 

 

 紫の言葉に、三人も確かにと頷く。

 突然変異的な異次元の力を持っていて、その正体は未だ不明だが、月音本人のキャラクターがあまりにも濃すぎたせいで疑問に思うことを忘れていた。

 改めると、自分達はあまりにも青野月音を知らないし、改めるとかなり気になってしまう。

 

 

「つーかなんだその封筒は?」

 

「あ、これはつっきーの場所を教えてくれた女の人から預かったもので……」

 

「預かっただと?」

 

「うん。ここに持ってくれば取りに来る人が……って、ダメだよつっきー! 勝手に中身なんて見ちゃ――」

 

「………」

 

 

 そんな裏萌香達を他所に、そろそろ気絶させてでも人間界に響子を戻そうと思い始めていた月音は、ここに来るまでに女から預かったと響子の持っていた封筒が怪しさを感じたので取り上げて中身を見る。

 横でギャーギャーと響子が喧しいのも全部無視して中身を取り出した月音の目に飛び込んできたのは一枚の鏡だった。

 

 

「鏡……だな」

 

 

 単なる鏡だとは決して思わないが、てっきりウィルス兵器でも仕込まれているのだと思っていた月音は肩透かしをくらった気分となる。

 

 

「も、もうつっきーったらダメだって言った………のに?」

 

「あ?」

 

 

 何故鏡なんぞと思う月音に、響子が改めて注意をしようとしたのだが、何故か自分を見て驚愕しているではないか。

 なんだ? と思っている月音に響子はいきなりこう言い出す。

 

 

「あ、アナタ、誰? つっきーじゃない……」

 

「は?」

 

 

 コイツ、能天気過ぎてついに頭も壊れたか? と基本的に響子の距離感をうざがってた月音は酷いことを内心思うが、その疑問に答えたのは同じく驚いた声を出すドライグだった。

 

 

『そうではない、月音――いや一誠、もう一度鏡で自分の顔を見てみろ……』

 

「は?」

 

 

 ドライグまでなんだよ? 基本的にドライグの言うことは全部聞く月音はもう一度鏡を覗き――――そのまま鏡をおとした。

 

 

「……これ、は」

 

 

 全てを憎んでいる暗い瞳。

 その心が顕れているかのような焦げ茶の髪。

 

 

『その鏡には何かしらの仕掛けが施されているようだが……』

 

「…………」

 

 

 そう……かつての自分。

 青野月音ではなく兵藤一誠の姿に変わっていたのだ。

 

 

「!? 月音が知らない男の姿に変わった……!」

 

「あ、あの鏡のせいかしら?」

 

「というか、月音が凄く驚いているが、あれは姿が変わったというよりは『ありえないものに遭遇してしまった』という感じの驚きかただな」

 

「ど、どうしましょう? 従姉妹さんも驚いているみたいですし、あの鏡を調べるべきかと……」

 

 

 段々空気が不穏なものへと変わっていくのを察知した萌香は、紫の言う通り鏡を調べるべきだと、物陰から姿を現し、自分の手を見ながら目を見開いている謎の男の姿になっている月音に近づく。

 

 

「おい」

 

「こ、今度は誰?」

 

「そこでアホな顔して驚いている男のツレだ。

おい月音……」

 

「月音って、つっきーのお友達なの? でもこの人つっきーじゃない……」

 

 

 ぞろぞろと現れる女子達に困惑する響子が怯えた様子で一誠へと姿を変えている月音について話していると……。

 

 

「それはリリスの鏡。

映した者の本性を強制的に暴く鏡さ」

 

 

 どこからともなく声が聞こえ、萌香達がその方向へと向くと、そこには数ヵ月前主に月音にズタズタにされて解雇された元美術教員の石神が居た。

 

 

「い、石神先生? 何故アナタが……」

 

「こ、この人……この人がつっきーの居る場所を教えてくれた人……」

 

「……なるほど、そういう事だったか」

 

 

 引く程殴られた挙げ句、全治不明の重症を負わされた石神だが、不可思議なほどにその傷は癒えている様子であり、何やらクスクスと笑っている。

 

 

「ほ、本当のつっきーはどこに……?」

 

 

 響子からしたら目の前でいきなり姿を変えた男が月音ではないと思うのは当然だし、状況があまりにも非科学的過ぎて頭がおかしくなりそうだった。

 だからこそ月音の行方を問うのだが、石神はそんな響子を嘲笑う。

 

 

「目の前に居ると言うのに、人間とは愚かな種族だ」

 

「に、人間って……だってつっきーじゃな――」

 

「わからないか? キミの知っている青野月音は、キミを含めた肉親をずっと騙しており、今の姿が本当の姿なのだ」

 

「………………」

 

 

 そう響子に告げる石神はとことん嘲笑う。

 青野月音によって学園追われ、その復讐の為に様々な事を調べ尽くした結果至ったひとつの解。

 

 

「つまりだ、キミ達は騙されていたのだよ。

青野月音は妖怪ではなく――人間だということを隠してキミ達と仲良しこよしをしていたのさ」

 

『!』

 

 

 ニンゲン。

 それが青野月音の正体であると告げる石神に衝撃が走る――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、やはりそうだったか」

 

「は?」

 

「あれだけ強いのならもっと有名な筈だもんね」

 

「は??」

 

「妙に人間の女性ばっかり鼻の下とか伸ばしてましたし、そりゃあ月音さんが人間だとしたら腹は立つけど納得ですよ」

 

「は???」

 

「というか、人間だったとしても変わらないだろ」

 

「はぁ????」

 

 

 ――――のは少なくとも一瞬だったらしく、萌香達は次々と呑気なリアクションだった。

 これには石神も微妙に困ってしまう。

 

 

「い、いやいやいや、その人間が妖怪が通う学校に通うのがおかしいのではないかという話だし、もしかしたら我々妖怪を駆逐しようとする人間の手先かもしれない――」

 

「月音は誰かに従うようなタマではない」

 

「殺るならとっくに殺ってるでしょうしね」

 

「…………」

 

 

 少しアホの子臭がする萌香達に、ちょっと肩の力が抜けてしまう石神。

 どうやら思いの外信用を勝ち取ってたらしい……が、その信用もすぐに壊れると確信している石神は気を取り直して嘲笑う。

 

 

「なるほど、しかしそれも何時まで続くかな?」

 

「どういう意味だ……?」

 

「さっきも言っただろう? リリスの鏡は映し出した者の本来の姿と――――『本性』を映す鏡だとな。

彼はどうも我々妖怪に対してかなり攻撃的だろう? つまり――」

 

 

 ――――――その本性に支配されたらどうなるかな? その言葉を告げた瞬間、過去の姿へと変わってから一言も声を発する事なく下を向いていた月音の姿が消えた。

 

 そして次の瞬間……屋台の上に立っていた石神の手足が鮮血と共に引きちぎられた。

 

 

「ぎゃぁっ!?」

 

「…………………」

 

 

 そう……見知らぬ男の姿になっている月音によって。

 

 

「つ、月音……!」

 

『ま、まずいかも……石神先生の言っていた事が本当なら、今の月音はその本性に支配されていて正気じゃないってことに……』

 

「つ、つまり?」

 

『妖怪に攻撃的――それが私達にもって意味よ……!』

 

 

 手足を引きちぎられた石神の髪を掴んで持ち上げる月音の目は暗く、殺意に染まりきっている。

 

 

「ま、待て……! わ、私ではなく奴等――」

 

「どの道死ぬんだから、順番なんてどうでも良いだろ虫けらが? つー訳で死ね」

 

 

 そして呆気なく、なんの躊躇いもなく石神の頭部を拳で破壊した青野月音――――否、精神が『全盛期』へと戻っている兵藤一誠は、亡骸となった石神の残った胴体を放り捨てると、手から生成した赤き光弾で消し飛ばす。

 

 

「……………カスが」

 

 

 その余りにも躊躇のない殺人行為に、訳もわからず見せられた響子は気を失い、萌香達は緊張した面持ちで屋台から飛び降りた一誠を見つめ―――――

 

 

「くくく………くくくっ! ははははははっ!!!!」

 

 

 世界を――いや、星全体を揺るがす果てしなき力の奔流に戦慄をすることになる。

 

 

『初めて月音知り合った日と同じ……いえ、それよりも禍々しい……』

 

 

 ロザリオへと意識を移している表の萌香の言葉通り、一誠の姿へのなっている月音の目はあまりにも暗く、そして放たれる力はあまりにも凶悪だった。

 

 

「最悪の展開だねぇ……」

 

「石神元教諭も余計な真似をしてくれた……もっとも、文句を言いたくても殺されたので言えないがね」

 

「貴様等は理事長に運転手……」

 

「さ、最悪ってどういう……」

 

「見ての通りだ。

リリスの鏡は本性を秘めた姿を映し出す。

つまり、今の彼の姿こそが本来の彼であり、本性なのだよ」

 

「本性とは……?」

 

「人ならざる存在への果てしなき憎悪と殺意だよ」

 

 

 そう言うと同時にバスの運転手と共に月音の周辺に全力の結界を張る学園長。

 

 

「このまま正気に戻るまで大人しくして貰えると実に楽なのだがね……」

 

「月音は何時正気に戻る!?」

 

「今の彼はリリスの鏡によりかつての『記憶』と『精神』に支配されてしまい、現在の青野月音としての記憶と精神は強制的に眠らされている。

だからその精神が起きれば自然と元には戻るのだが……」

 

 

 ただ事ではないと臨戦体勢に入る萌香達に説明する学園長だが、その瞬間彼を取り囲む結界はまるで目の前を飛ぶ羽虫を追い払うかのように手を振った月音によって粉々に破壊されてしまう。

 

 

「………………ご覧の通り、我々のような人なざる存在の言うことなど今の彼が聞く耳を持たないだろうし……」

 

「なんか、ここは虫けらの気配がたくさんあるなぁ。

はははは…………取り敢えず絶滅だなオイ?」

 

「ご覧の通り、我々は大ピンチなのだ……あはははー」

 

 

 殺意に満ちた形相の月音と目が合ってしまった学園長は、かつての師から教えられた『兵藤一誠』を直に感じて変な笑いが込み上げてしまう。

 

 

「ヒヒヒ、このまま精神が戻らないと我々は絶滅するだろうねぇ……」

 

「な、何故そこまで月音さんは……それにあの姿は?」

 

「彼は少々特殊な生まれでね。

あの姿は謂わば青野月音の前世の姿だ」

 

「前世……?」

 

「そう。

もっとも強く、もっとも凶悪な……ね」

 

『ど、ドライグくんの言っていた事はこういう事だったのね……。

は、早く戻してあげないと……! くっ、ドライグくんに呼び掛けてるのに声が届いてくれない……!』

 

 

「恐らく共にリリスの鏡によって意識を閉じ込められたのだろうな。

彼が内から妨害をしてくれれば芽もあったのだろうが――」

 

「この数だと少し手間取りそうだな。

よし、おい虫けら共、光栄に思え、白音のクソガキ以外にこの姿になるのは、テメー等が最初で最後ダァァッ!!!」

 

 

 Welsh Dragon Fusion!!

 

 

「これはダメかもわからんね……」

 

「うっ!? つ、月音の姿が変わった……」

 

「ま、前に似たような姿を見たことあるけど、あの時よりもより龍と人が合体した姿って感じね……あ、あはは」

 

 

 挙げ句の果てには龍の力と肉体を融合させ、見たこともない姿へと変化した事で、星を越えて宇宙をも震撼させる圧倒的なパワーへと跳ね上がる。

 

 

『くくく……さァ――始めようかァ……!!』

 

 

 長い学園祭のサプライズの始まり。

 

 

 

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

 それはあまりにも強すぎた。

 

 

「ごはっ!?」

 

「しつこい虫けらだな……」

 

「ま、まだ……まだ……!」

 

 

 全てを総動員して挑んでも、触れることすら許されぬ領域。

 

 

「な、なんとか鏡をもう一度彼に見て貰えれば……」

 

「それで月音は戻るのか!?」

 

「希望的観測でしかないが、キミ達や我々が知る青野月音もまた彼の本性だとするなら、もう一度リリスの鏡で再び本性を映せば或いは……」

 

 

 校舎をむちゃくちゃに破壊しながら、逃げ惑う妖怪生徒や保護者達を殺そうとする月音からギリギリで守る裏萌香達の作戦。

 

 

「わ、私が月音の気を引くわ……」

 

「く、胡夢さん……!? いくらなんでも危険です!」

 

「あのまま月音が戻らなければ、どのみち私達妖怪に先は無いわ。

それがたとえ月音の本性だとしても! 私は悪態付きながら助けてくれた月音も本性だって信じたい……!」

 

 

 何かに苛立ちながらも、なんだかんだ助けてくれた月音もまた本性であると信じたいからこそ決める覚悟。

 

 

 

 

「この場所ごと! 消えてなくな――」

 

「させないわ!」

 

「っ……の! 邪魔だ!! この虫けら妖怪女がァ!!」

 

「うっ!?」

 

 そんな覚悟を燃やした少女が、隙を作る為に突撃した時……。

 

 

「ほ、本当に容赦ないんだから月音は……? お陰で片腕をやられちゃったわ」

 

「それはお前の遺言か? 冴えない台詞だった――ぬ!?」

 

「ふふーん、つーかまえたっ……!

それとついでにわかったけど、やっぱりアンタ月音でもなければ月音の本性でもないわ……! だって、本当の月音ならこんな程度で隙なんて見せてくれないものね……!」

 

「!」

 

 

 所詮鏡が映した似非の本性であると気づき……。

 

 

「今よ萌香!!」

 

「……!?」

 

「確かにホルスタイン女に動揺する程度じゃあ似非だな……!」

 

 

 矛盾した苛立ちを抱える青野月音を取り戻さんと全力で飛び掛かるのだ。

 

 

「鏡の幻影ごときが月音の本性でなった気でいるなど――身の程を知れ……!」

 

 

 世界の明日を守る為ではなく、口の悪い不器用な人間の友達を助ける為に。

 

 

 そして……。

 

 

『ぐ、俺としたことが……!』

 

『ドライグくん!』

 

「ドライグの声が聞こえるということは戻ったのだな?」

 

『あ、ああ。

随分とオレ達が迷惑をかけたようだな。あの鏡に意識を奪われた後、まさか過去の自分達と殺り合う事になるとは……』

 

『ドライグくんと月音も戦っていたんだね?』

 

『本性の自分を自称する奴から随分と勝手な事を抜かされたがな……』

 

 

 その戦いの果てに待ちうけるものは―――

 

 

「キミの本性というよりは、本性を読み取ったリリスの鏡に乗っ取られたのだな? やけに戦い方がお粗末だったのも納得だ……」

 

「………………」

 

「敢えて言うが、そうやって自己嫌悪に陥る辺りは我々の知るキミだと確信できるぞ?」

 

「…………………何故そのまま俺を殺さなかった?」

 

「無茶を言わないでくれよ? いくらリリスの鏡に操られただけで本来のキミよりも遥かに弱いとはいえ、それでも我々が全力を尽くして策を練ってやっと止められるので精一杯だったのだぞ? それよりキミは早く友人達のもとへ行け。

黒乃胡夢に至っては片腕を失ってまでキミを止めようとしたのだから……」

 

「…………………」

 

 

 

 

 

 

「お館様から月音さんの調整した血を分けて頂きました。

幸い胡夢さんの腕も見つかりましたし、この血を使えばすぐにでもくっつけられます」

 

「そう、それより月音は大丈夫なの?」

 

「月音さんなら……」

 

「………」

 

「無事そうね……?」

 

「ああ、お陰様でな……」

 

 

 

 

 

 

「その腕、俺がやったんだろ? ………悪い」

 

「ええまったくよ。

腕はちぎられるし、思い切りぶん殴られるし、正直生きてるのが奇跡なくらいだわ」

 

「………………」

 

「でもアンタがそういう顔もできるってわかったし、許してあげるわ。

友達だしね……!」

 

「……………」

 

「アンタが何でそこまで妖怪――いえ、人間以外の者達を嫌っているかについても敢えては聞かないであげる。

ふふん、私って意外と心が広いのよ? …………そういう妖怪も居るってもうアンタならわかるでしょう?」

 

「………………………………」

 

「はいはいその顔でわかるわ。

それを認めたら今までの自分を全否定してしまうから認めたくないんでしょう? それなら今はそれで良いわ。

でも、萌香も紫ちゃんもみぞれも瑠妃の皆が、今の月音に戻って欲しいって―――アナタが嫌う人間ではない人達が命を賭けたって事だけは忘れないで?

勿論私も」

 

「………お、おう」

 

 

 

 

 

「おい、なんかあのホルスタイン女に美味しいところを持っていかれてる気がしてならんのだけど」

 

『まあまあ……一番身体を張ったのも胡夢ちゃんなんだしね?』

 

 

 

 

「て、事で肩貸してちょうだい。

もうクタクタなのよ」

 

「え、あ、ああ……」

 

「それじゃあ友達ということで――」

 

「は? ――――なっ!?」

 

『あーっ!?!?』

 

「ん………。

う、勢い任せとはいえ恥ずかしくなってきたわ、あははは――――っとと? また気絶しちゃったわ」

 

「おいホルスタイン! またやったな!?」

 

「だってこうでもしないとずーっと私に対して罪悪感抱きっぱなしになりそうだと思ったから……」

 

「だからといって何でまたおっぱい枕をさせてるんどすかー!?」

 

「や、だ、だって多分こうするのが好きなのかなーって……前もそうだったし」

 

「その腕がくっついたらゆっくり話をしようじゃないか……」

 

「や、やーね! 友達が落ち込んでたからと思っただけだってば!」

 

 

 

 

『今度は私もちゃんと助けるからねドライグくん?』

 

『二度とあって堪るか……が、ああ、その時は張り倒してでも頼む』

 

 

 

終わり




補足

基本的に人間の味方というスタンスなのですけど、ウザいと感じたら対応が雑になる。

月音としての両親は恩も含めて相当大事にするが、従姉妹に対しては鬱陶しい奴だとしか思わない。

 それは今も昔もD×S系統一誠のスタンスが『身内認定した者以外が死のうが知ったことじゃない』というものだから。


その2
リリスの鏡が何故か微妙にパワーアップしていたせいで、全盛期(見た目と精神)に乗っ取られる騒ぎ。

ただし、映し出された彼の本性を支配した形になるせいか見た目とスタンスが人外絶対殺すマン時代に戻っただけで、戦闘力は寧ろお粗末だった模様。

それでも片腕は持ってかれる子も居るし、校舎はドラゴン波擬きで吹っ飛ぶし、学園OBを自称するオイタ連中は流れ弾でサヨナラバイバイするしと、規模的には笑えない惨事だったもよう。

 もしこれが本当の意味での過去の彼だったら、間髪入れずに施設全体ごと皆殺しにしていた。


その3
胡夢さんの器が微妙に大きくなっているのは多分気のせい

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