色々なIF集   作:超人類DX

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これも単発というかなんというか……。

てか続きものか?


枯れ果てし伝説の記録

 

 

 良い意味で裏切られた『伝説』の龍帝と知り合い、ほぼ無理矢理共に行動する様になってからは、時折夢を見ることがある。

 

 伝説の龍の帝王が伝説となる前の、愛する者達と共に熱く燃えたぎる精神を燃やしながら神と世界を相手に戦っていた頃の夢を……。

 

 まさに伝説に違わぬ、次元の違う戦いを繰り広げ、仲間と共に神に反逆をした夢を、彼が愛した悪魔の女と共に種という壁を越えて駆けていく姿は、年相応の青さと情熱に満ちていた。

 

 だけど今の彼にはその情熱は失われた。

 その情熱の源となる愛する者達も喪った。

 全てを取り戻した彼に残されたのは勝利による自由への喜びではなく、途方もない喪失感。

 

 それ故に彼は永遠に覚めることのない眠りについた。

 

 愛した者達から託されたものを抱きながら……。

 

 我々には知らない異界の伝説の真実を知らないで、面白半分で呼び寄せてしまった事を知った時、妾は命を以て償うしかないと思っていた。

 けれど、神をも葬り去る領域へと到達した伝説の龍帝は永遠に癒えぬ喪失感もあるせいか、そんな妾に『気にする必要なんてない』と簡単に許してくれた。

 

 それは妾の声が彼の愛した女に似ていたからなのかはわからない。

 少し前から妾と共に外へと出るようになっても、その真意はわからない。

 

 

 

 

 自由を取り戻す戦いを制した代償は、生き続ける事でまさに支払い続けるという皮肉を常に与えられながら生きる人間だった赤き龍の帝王は、異界の竜族なる少女によって再び目覚める事になり、最近は特に宛も無くフラフラと竜の少女が生きる世界を見て回る日々を送っていた。

 

 

「キミ達が向かおうとしていた迷宮は後回しにするのか?」

 

「ああ、どうやら先に残りの迷宮を制覇しないと入れないみたいだからな。

………まあ、アンタなら入れそうだが」

 

「いやぁ、過大評価して貰えるのは光栄なんだけど、今の俺は現役の頃の兆分の1まで鈍ってるからなぁ。

逆を言えば今の俺ならそのエヒトって神辺りに殺して貰えそうだから、取り戻すつもりはあんま無いけど」

 

「…………」

 

「おっと、そうなってまで生きたい意思を燃やしているキミに対して言うことじゃあなかったな……すまんね」

 

 

 永いこと眠っていた影響により、半人半龍化以外の力が軒並み弱体化している赤き龍の帝王ことイッセーのやる気はまるで無く、ひょんな事から知り合った更に別の世界から召喚されたとされる少年こと南雲ハジメとは正反対だった。

 

 

「ユエもそうだが、やっぱり永く生きるのは辛いのか?」

 

「生きる目的が無いとただの生き殺しだな。

だから一応無駄に生き恥晒してる身として忠告はしておくよ。

キミがこれから先どこまで到達するにせよ、生きる意味だけは決して失うな」

 

「……………」

 

「そうしないと俺のようになってしまうからな。

だから自分が大切だと思う全てだけは、どんなに汚い手を使ってでも守るんだ。

俺はガキの頃、それに失敗してしまった……」

 

 

 腕を失う程の代償と地獄を見た事で、ひとつの精神の到達点を掴んだハジメは、自虐的に笑う見た目は自分とそう年の頃が変わらなそうな青年の言葉のひとつひとつを真剣に胸に刻む。

 

 

「気づいた時には辛すぎて死にたくなっても死ねなくなるからな……俺のように」

 

 

 彼と行動を共にしている竜の少女か言うように、彼は常に己の過去に後悔し続けている。

 肉体的な傷よりも痛くて深い、心の傷を……。

 

 

 

 

 

 常に過去を見続けて後悔する異界の伝説を興味本位で呼び寄せた事への贖罪と、伝説と言うにはあまりにも儚げであるが故に放ってはおけない純な気持ちと共にイッセーという伝説の青年にこの世界の案内役をしている竜族の少女ことティオは、別の世界から召喚された集団から弾き出された少年と、地下深くに封じられていた吸血鬼の少女からの誘いにより、五大迷宮の制覇の旅に同行しているのだが、この度の旅によって亜人の国の案内役をしてくれた兎人族の少女がこの旅に同行したいと言い出した。

 

 どうやら亜人の国での色々によってハジメに惚れたらしいのだが、当の本人は割と迷惑がっていた。

 

 

「若いなぁ。

つーか彼は中々モテるねー」

 

「む、羨ましいのか?」

 

 

 そんな若者達の青いやり取りをのほほんとした顔で眺めていたイッセーの言葉に、横で聞いていたティオが反応を示すも、イッセーは軽く笑いながら首を横に振る。

 

 

「俺が好きなのは、ガキの頃からチンピラ同然に生きてた俺を受け入れてくれたリアスちゃんだけだし、今も変わらんよ。

というか、こんな年齢不詳の得体も知れん野郎にどうこう思う奴なんていねーだろ?」

 

「……………」

 

 

 ましてや嫌になる程他を殺しまくってきたチンピラだしとこれまた自虐的な物言いをするイッセーに、ティオはムッとなる。

 

 

「そこまで卑下するものでもないだろうに……」

 

 

 とことんネガティブで、枯れた言い方しかしないイッセーの燃えたぎるような過去を知っている身としては歯痒い気持ちであるが、そうなってしまっている理由もまた聞いてしまっているので責める訳にもいかない。

 

 しかもそれ以上に彼の口から呼ばれるリアスという名前を最近はあまり聞きたくないとすら思ってしまうティオはモヤモヤしっぱなしだった。

 

 そんなティオのモヤモヤのまま付いてくると煩かったシアが旅に加わる事になる。

 

 

「ハジメ君がリーダーになったらどうよ?」

 

「は? リーダー?」

 

「おう、キミは頭も回るし、ユエさんとシアさんもキミの言うことなら聞くだろう? あ、勿論俺とティオもキミなら従う気になれるぞ」

 

「いや、経験の長さならアンタが――いやイッセーがなった方が……」

 

「残念ながら、俺は指示をされる側でね。

それと小学校すらまともに通ってなかったもんで頭も悪い……」

 

「しょ、小学校? イッセーの世界は核戦争かなにかで世紀末化でもしていたのかよ?」

 

 

 その際、イッセーが何となく提案した事でこの旅パのリーダーに推薦されるハジメは難しそうな顔だ。

 

 

「イッセーの言うとおり。

思えばここに居る者は皆ハジメに付いていくって思っている者達。

それにこううのも経験……」

 

「そうそう。良いこと言うじゃんかユエさんよ?」

 

「私も一応大人だから……」

 

「………」

 

 

 加えてユエにもそう言われてしまい、仕方なく引き受ける事になるハジメは、いつの間にかそこそこ仲良くでもなったのか、『いえーす』と言いながらハイタッチするユエとイッセーに肩を落とす。

 

 

「祭り上げられたみたいで嫌だが……仕方ねぇ」

 

 

 強さの目標点である男に煽てられたとしても、割と悪い気はしなかったハジメはこうしてこの奇妙過ぎる―――もしも『情熱』を取り戻した場合は史上最強最悪の鉄砲玉にジョブチェンジする異界の伝説の龍帝の、今は名ばかりの『主』となるのであった。

 

 

(俺とは別系統の進化を予感させるからなこの子は……。

ふふ……ひょっとしたら俺を殺してくれるかもしれない)

 

「………………」

 

 

 そんな思惑を密かに隠し、内心ほくそ笑むイッセーをティオが呆れた顔をしていることには気付かず。

 

 何はともあれ、次の目的地へと向かうことになったハジメ御一考は、その目的地の近くの町に到着する。

 そして門番をしていた兵士に身分証の意味も込めてステータスプレートを見せるのだが、オルクスの迷宮による修羅場を潜り抜けた結果、信じられない成長数値が記載されていることをうっかり忘れて軽く門番に怪しまれたりもしたが、上手いこと誤魔化して町の中へと入る。

 

 その際、見てくれからした亜人テイストの強すぎるシアは町に蔓延る悪い人間達への牽制の意味もあって奴隷というポジションにさせられる事になる。

 

 ちなみにユエは見てくれはほぼ人間と変わらず、ティオもほぼ人間の姿になれるし、イッセーはルーツが人間なので怪しまれはしなかった。

 なのでシアだけが奴隷扱いにされて、ブルックの町の散策中ずっと不満顔だった。

 

 

「まずはこの町のギルドで手に入れたアイテムを金に換えてくる。

一応聞いておくが、イッセーはそう言ったアイテムとかは持ってないか? ステータスプレートも無いし、俺が代わりに換金してきてやるが……」

 

「え? あぁ……すまん、荷物になるからと拾わない事にしててよ」

 

「そうか。イッセーとティオはそもそも俺が誘った側だからな、賃金という意味ではないが生活にかかる金は俺が今後も出すよ」

 

「うむ、すまんの」

 

「なんで私だけ奴隷扱い……」

 

 

 素寒貧であるイッセーとティオの分の生活費を保証すると宣言するハジメに、イッセーとティオはペコペコと頭を下げまくる。

 ちなみに二人の衣服もハジメが錬金して作成していたりするので、事実上誘われた側とはいえヒモ同然だったりする。

 

 

「冒険者ギルド・ブルック支部にようこそ! 用件を伺いましょう……って、両手どころか背後にも華を持っているのにまだ足りなかったかい? 残念だったね、美人の受け付けじゃなくて!」

 

 

 ハジメを先頭にギルドの支部へと入り、中年の受け付け嬢に妙な勘違いをされるハジメは即座に否定をする。

 

 

「そんなんじゃないし、よく見ろ男の仲間も居る」

 

「あらやだ!? そんなに若い内からそっちの気もあるのかい!? おばちゃんは未来が少し心配に――」

 

「ちげーわ!!? んなことより素材の買い取りをしてくれないかな!?」

 

 

 ギルドに貼られてる張り紙をボケーっとしながら見ていたイッセーも仲間だと主張したら余計な勘違いをされてしまうハジメは、少しキレながら素材の買い取りの手続きを申請する。

 その際、ステータスプレートの提出と冒険者登録をすることで一割増しとなると聞いて一応の申請をする事になったりもしつつ、前回樹海での冒険中に手に入れた素材を出したら驚かれたりもしたが、五十万ルタ近い金額で買い取らせる事に成功する。

 

 その際、受け付けの人に忠告混じりにおすすめの宿が記載された町の地図をサービスで貰ったハジメは、その忠告通りにシアやユエやティオを見る男連中の視線に注意しながら、ぼけーっとしていたイッセーと共に宿を出る。

 

 

「さっきの受け付け嬢が勧める宿に行くぞ」

 

「おう」

 

「……………。それと、この町の男には注意しろだとよ」

 

「なんと無く意味はわかってるよ。

心配するな、金を出して貰う以上、お嬢ちゃん達にはなんもさせないさ」

 

 

 実に腑抜けた顔で言われてもイッセーを知らぬ物にしてみれば説得力は感じない。

 しかし樹海を進んだ際、たった一度だけイッセーが魔物を相手に戦闘を―――いや、まだ自分が変わる前にオルクスの下層地点でベヒモスを消し飛ばした姿を見たことがあるハジメには実に頼もしくも思えてしまう。

 

 

「って、信用できねーか?」

 

「いや、アンタは普段こそ目の前で他人が誰かに惨殺されようが飯でも食って見てるだけなのかもしれないが、やると自分で言ったことは実行するタイプだ。だから俺は疑わない」

 

「………そりゃどうも」

 

 

 友人と呼べる関係ではないのかもしれないが、奇妙なことに信用できると思うハジメの言葉に、イッセーは困ったような顔で苦笑いをし、その様を見ていたティオはちょっとだけ嬉しそうだったそうな。

 

 こうして下手は打てないなと、少しだけ気持ちを切り替えたイッセーはハジメ達に続く形でキャサリンなる名前だったらしいギルドの受け付け嬢のおすすめの宿へと入ることに。

 

 

「今現在三人部屋と二人部屋がそれぞれ空いていますが……」

 

 

 本来の物語と違い、この時点でイレギュラーであるイッセーが居るせいか、妙な勘違いを宿屋の従業員にされる事は無く、必然的にティオ、ユエ、シアを三人部屋に、イッセーとハジメが二人部屋でと頼もうとしたのだが……。

 

 

「違う、私とハジメが二人部屋でイッセーとティオとシアが三人部屋。

この方が平和的……!」

 

「な、なんでそうなるんですか!? そこは私とハジメさんが二人部屋でユエさんがイッセーさんとティオさんとの三人部屋にすべきです!」

 

「嫌だ、それだと気が散る」

 

「なっ!? なにをする気ですか!?」

 

「妾達は外れ枠みたいな言われ方じゃな……」

 

 

 微妙にしょっぱい顔をするティオの言葉にハッとしたのか、ティオとシアが『そんなつもりじゃない』と謝りつつティオを味方につけるつもりなのかユエが言い出す。

 

 

「ティオもイッセーと同じ部屋の方が良いでしょう? シアは適当に無視すれば良い」

 

「逆です逆!」

 

「ふむ……」

 

 

 ユエの言葉にティオはイッセーに視線を移し―――ドキッとした。

 

 

「…………………………………………」

 

 

 それはイッセーが今まで見せたことのない――さながら夢で見た全盛期の頃の情熱を感じさせる鋭く精悍な顔つきで窓の外の様子を見ていたのだ。

 

 

(何人かギルドって場所から追ってきてるバカが居るな……。

どの世界にもバカは居るもんだな……ったく)

 

(お、おぉう……! い、イッセーがキリッとしているのじゃ……! な、なんじゃこの胸の高鳴りは……!?)

 

(……。外から見ている奴等を察知しているのか?

ふっ、過去の事は俺もまだ知らないが、やっぱり律儀だなイッセーは……)

 

 

 ティオは現役時代を彷彿とさせる雰囲気にドキマギし、ハジメは有言実行をする律儀な姿に好感度を上げている。

 

 

「あ、あの……それでお部屋は?」

 

「は? あ、その話だったな。

チッ……うるさいので俺とコイツ等二人で三人部屋にしてくれ。

そして向こうに居るイッセーとこのティオが二人部屋を使う」

 

「へ!? あ、そ、そういう関係なんだやっぱり……」

 

「は?」

 

「わ、わかりました! ではその様に!」

 

 

 シアとユエは後できっちり説教だと心に決めながら、ハジメは部屋割りの変更をするのであった。

 ちなみに、部屋が決まったとイッセーに話した瞬間、五分程宿の外へと『人妻でもナンパする』と、嘘丸出しな理由で出ていき、なにやら町中で悲鳴が木霊することになるのだが……。

 

 

「いやー! 酔っぱらいに絡まれちゃってさぁ。

適当にあしらったから今夜はよく眠れそうだぜ」

 

『………………』

 

 

 赤い液体を顔や服や拳に付着させながらヘラヘラと笑って戻ってきた時点で全てを察するに十分だったとハジメは思ったのだった。

 

 

 

 

 リアスに対するふざけた害虫共の駆除に対する心構えに比べたら、億分の1でしかないのかもしれないが、本の少しだけ現役の精神に戻ったイッセーは、何故か知らないけどドキマギしているティオと同じ部屋で眠る事に。

 

 

「あの子等、いつの間にかそこまで仲良くなってたんだな?」

 

「み、みたいじゃの……ははは!」

 

 

 実は部屋割りに関する小競り合いの事は聞いてなかったので事情を知らないし、今現在ハジメにユエとシアがお説教されているとは知らないイッセーは、しどろもどろな返答のティオを背に部屋の窓から外の様子を警戒する。

 

 

(ぐ、わかっていたとはいえ、やはりイッセーは欠片の動揺もせぬか……! これでは妾の空回りではないか……!)

 

 

 仮にも異性と部屋を共にしているというのに、一切の動揺も無くひたすら窓の外を警戒し続けるイッセーに、ティオは徐々にモヤモヤを増幅させていく中、窓の外に視線を向けたままのイッセーが言う。

 

 

「俺が見張っておくから、キミは寝てな」

 

「……お主はどうするつもりじゃ? まさか一晩中起きて警戒するつもりか?」

 

「ああ、樹海に入る前に一度寝たからな。

暫くは寝なくても体調に支障は出ないし、流石にハジメ君には寝て貰わないとな。

…………寝れるかどうかは知らんけど」

 

「……………ハジメはそこまでイッセーにして欲しい訳ではないぞ」

 

「わかってるよ。でもキミに続いて彼にも世話になっちまった以上、俺が出来る事なんて仕掛けてくるバカを八つ裂きにして追い返すくらいだ」

 

 

 やる気は消失しているが、借りを作った相手にはとことん律儀な面だけは変わらないイッセーの主張にティオは理解こそするが納得はできない。

 なにより宿屋に泊まるのに寝ないのも変だし、もっと言えば勝手に緊張している自分のこの気持ちはどうすれば良いのかわからない。

 

 

「? なんだか隣の部屋からシアさんとユエさんの半泣きの声が聞こえるんだが、アブノーマルなプレイでもしてんのか? 割と冒険家だな彼も……」

 

「絶対に違うと思うぞ。

それより警戒は良いからお前さんも眠った方が良い。

その……アレだ、どうしてもと言うのなら肌寒さもあるし一つの寝床で――」

 

「そういう言葉は俺だから冗談だと解釈できるが、性欲バカな野郎だったらマジでヤられる可能性があるから、あまり言うべきじゃあないぞ?」

 

 

 加えてかなり勇気を出した発言に対してもイッセーはただの冗談だと思われる始末で、モヤモヤの頂点に達したティオは思わず腰かけていたベッドにあった枕を思い切り窓の外を警戒していたイッセーの後頭部目掛けて投げつけてやった。

 

 

「この腑抜け! ヘタレ!」

 

「?? 何を怒ってるんだよ? ひょっとして枕投げでもしたかったのか? それくらいなら別に付き合ってやっても――」

 

「違うわっ!!」

 

 

 このリアス・グレモリー馬鹿男め! とことんリアスにしか意識が無さすぎて今をまるで見ようとしない鈍男にティオはもうひとつあった枕を今度は顔面めがけてぶん投げてやりながら、癇癪のようにイッセーに言う。

 

 

「お前さんが寝ないのなら妾も寝ないからなっ! 寝不足のお荷物になってしまっても妾は悪くない!!」

 

「……なんかどこかで聞いたフレーズだな。

そんなに寝て欲しいのか俺に?」

 

「ここまで言わないと寝ようとしないイッセーがおかしいだけじゃ!」

 

「…………?」

 

 

 何をそんなに怒っているんだこの竜のお嬢さんは……? と、とことん察しないイッセーは、寝ろと駄々をこねた子供のように喚くティオを宥めるつもりで、仕方なく警戒を打ち切ってベッドに入ることに。

 

 一応寝ていても悪意を関知すれば目を覚ますことも可能ではあるし、ハジメもハジメでそういった手合いに対する対策はしているだろう。

 

 

「ほらこれで良いんだろう?」

 

「そうじゃな! 予想した通り同じ寝床ではないがの!!」

 

「同じ? ベッド二つあるのに一つで寝る理由もないだろうに」

 

「では妾でなくリアス・グレモリーだったら!?」

 

「そりゃあ一つの掛け布団で抱き合いながら寝る――ぶっ!?」

 

「ふんっ!!」

 

「お、おい? 枕使わないと良い睡眠が―――なんだよ、訳がわからんぞ」

 

 

 こうして過去を未だに見続ける腑抜けた青年の異界での夜は更けていく。

 

 

 そして町全体が寝静まった夜更け……。

 

 

 

「うっ……あ……ぁ……!」

 

「………ん?」

 

 

 ふて寝したティオは目を覚ます。

 過去ばかりしか見ない龍の英雄の呻き声によって。

 

 

「イッセー……?」

 

 

 苦しそうな声が聞こえたティオは、寝る前の怒りを忘れて起き上がると、隣のベッドに寝ていたイッセーのもとへと行き、顔を覗き込むと、イッセーは苦しそうに……悪夢に魘されているようだった。

 

 

「まって……ドライグ……リアス……! おれを……ひとりに……しないで……!」

 

「イッセー……」

 

 

 呼び出してから初めて見る魘されている姿を見たティオは、それまでの怒りが己の中から消えていくのと同時に思わずイッセーの額に手を伸ばそうとした瞬間……。

 

 

「はっ!?」

 

 

 カッと目を見開いたイッセーが勢いよく身体を起こした事で、伸ばしたティオの手はまるで拒絶されたかのように弾かれた。

 

 

「…………」

 

「あ……ぜぇ、はぁ……はぁ! ゆ、ゆめ……?」

 

 

 全身から汗を流しながら顔色を真っ青にしながら夢であったと理解するイッセーは、すぐ横にティオが居ることに気付かず暫く息を切らせると……。

 

 

「う゛っ!?」

 

 

 突然口を抑えながらベッドから飛び出したイッセーは部屋に完備されていた洗面台に飛び込むと、胃の中のものを吐いた。

 

 

「げほっ! ごほっ! う……ぐっ……!」

 

「い、イッセー……」

 

 

 それはティオも初めて見る、明確なる伝説とは程遠いイッセーの弱さだったのかもしれない。

 

 吐きながらやがて力尽きたようにその場に膝をつくその背中には腑抜けても大きく見えた頼もしさはなく、ただ過去を後悔する男の小さな背中だった。

 

 

「も、もう見ることもないと思ってたのに……ち、ちくしょう。

くくく……クソが、俺は最低のクソ野郎だぜ?」

 

 

 ティオの知識にはその用語は無いが、イッセーは過去への後悔が強すぎるあまり、心的外傷後ストレス障害を抱えていた。

 最愛の相棒と悪魔の少女を守れなかった後悔は、生き続けるイッセーの心を毒のように蝕んでいる。

 

 

 

「ごめんドライグ……ごめんリアスちゃん。

託してくれた二人には悪いけど、俺も早くそっちに逝きたい……。

俺はもうダメなんだ……早く楽になりたいんだよ……」

 

「………………」

 

 

 その泣きそうな声にティオは本当の意味で後悔をした。

 自分が面白半分で異界の伝説と呼ばれた男を呼び出した事を。

 そのまま眠り続けた方がきっと良かったのかもしれない………あまりにも弱りきったその姿を見てしまえば、ティオもまたどうしようもない罪悪感を感じる他ないのだ。

 

 

「………」

 

 

 やがて落ち着いたイッセーは立ち上がり、部屋に置いてあったポットの水を飲み干すと、後悔の表情を浮かべていたティオにようやく気づく。

 

 

「…………悪い、起こしちまったな」

 

「いや……」

 

 

 過去ばかりで鈍いと勝手に怒っていたのは間違いだった。

 今へと引っ張り出したのは他ならぬ自分ではないか……それなのに過去ばかりを見るなと怒るのはなんたる我が儘で傲慢だったのだと、ティオはイッセーに掛ける言葉を失っていると、弱りきった笑みを浮かべたイッセーが言う。

 

 

「だから言っただろう? キミの種族の間で伝説だなんだと言われても、実際なこんな程度なんだよ。

好きな人達すら守れずに、テメーだけが生き残った馬鹿な男だ」

 

「相棒だった龍とリアス・グレモリーは絶対にそうは思ってはおらん。

だが無責任に妾はお前さんを呼び出してしまった………すまなかった」

 

「はっ、そんなことは気にするな。

ガッカリはさせちまったけどな……」

 

 

 謝るティオにイッセーは変わらず『キミが悪い訳じゃない』と言うと、弱々しい足取りでベッドに入る。

 

 

「俺は伝説なんかじゃない。これまでも……そしてこれからも。

ヒーローのようにヒロインを助けられない間抜けな負け犬だ……」

 

「の、のぅイッセー? その……怖い夢を見た時は誰かと手を繋いで眠るのが良いと聞いたことがある。

だから――」

 

「……。俺を呼び出したことへの罪悪感か、今の俺に対する同情なんてする必要はない」

 

「違う! 妾は――」

 

「頼むからっ!!! ………………今はほっといてくれ」

 

 

 ティオの事を拒絶するように強く言い放ったイッセーは、背を向けて横になってしまう。

 それはこの世界の何者にも踏み込ませないという明確なる意思なのかもしれない。

 

 

「恩はあるかもしれない。

でも俺にとって一番は変わらないし変えられねぇんだ……だから、それ以上俺に踏み込まないでくれ」

 

 

 過去を生きるイッセーにとってすれば、例え世話になった相手であるティオであろうとも、踏み込んでは欲しくない心の壁に、ティオは罪悪感と共に傷つく。

 

 

「…………………………ばか」

 

 

 そう、ほんの小さく呟いたティオは静かに涙を流すのだった。

 

 

終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしても過去を――真の意味で自分の領域に踏み込ませないイッセーは、その後もハジメ達に同行しながら様々な冒険を続けていく。

 

 完全なる灰となることはなく、燻り続ける小さな炎を燃え上がらせることが出来ず。

 

 しかし拒絶をしても尚、罪悪感ではなく己の意思でイッセーという存在の心の弱さを支える覚悟をした竜の少女の命が脅かされた時……。

 

 

「キミの名前は――あー、やっぱりどうでも良い。

聞くだけ無駄だし覚えるつもりもなくなった。

けど礼を言わせろ………久々にこの『感覚』を戻してくれてよ……!」

 

 

 伝説は再臨する。

 

 

「俺は赤龍帝でも、イッセーでもない。

俺は貴様等を倒す者だ……!!」

 

 

 託された意思と共に心を再び業火に燃え上がらせ……。

 

 

「待ちな、そうやって一人でやろうとするなよ?」

 

「悪者になるのなら私たちも一緒……」

 

「私たちだって仲間なんですから……!」

 

「まったく、揃いも揃って好き者共め。どうなっても知らないからな!?」

 

「「「「上等!」」」」

 

 

 

 失った他との繋がりも。

 

 

「全員イッセーに合わせろ!」

 

 

 求めた自由を再び掴む為に。

 

 

「これであの世に送ってやる!!!」

 

「ウルトラ・ビッグバン――――

 

 

 

 

 

 

「「「「「ドラゴン波ァァーーーッ!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハジメ君もそうだが、なんで俺までハジメ君の元クラスメート達に目の敵にされてるのかがわからん」

 

「連中曰く、イッセーはティオに変態な事をした最低野郎だとか……」

 

「まことに遺憾でしか――――なんだ全員してその目は?」

 

「無理矢理ではないのはわかるけど、変態な事という所はあながちでもないと思う……」

 

「は? んな馬鹿な、俺が何時――」

 

「イッセーさんが完全に寝ぼけると、凄いとティオさんが首だ胸に赤い跡つけながら嬉しそうに言ってきましたし……」

 

「………………それは事故だ事故。俺は悪くない」

 

 

終わり

 

 

「なっはっはっー! いやぁ参ったのー。

イッセーの奴にまるで自分のモノだと言わんばかりに身体にこんな跡を付けられてしまってのぅ……くふふふ♪」

 

『……………』

 

「いやー参った参ったー……あいたっ!?」

 

「余計な事を言うな! お前のせいでよくやからんガキ共に変態扱いされてんだよ!?」

 

「いたたた……しかし事実じゃろう? ほれ、妾の首筋にまだお前さんが付けた跡が……」

 

「だからそれは俺の意思じゃねぇわ! そもそもお前が勝手に寝てる俺を襲撃噛ますようになったせいで……! クソが、そこのハジメ君を見下してきたガキ共!! 絡んできた勇者のガキみてーにぶっ飛ばされたくねーならそんな目で俺を見るんじゃねー!!」

 

 

本当に終わり




補足

枯れ果ててるので基本穏やか。

けれど心に入り込むのだけは頑なに拒否する。

そして懐古厨よろしくに過去のことしか頭にない。


その2
しかし律儀さだけは残るので、何気にハジメ君からの信頼度は高め。

そしてティオさんはモヤモヤ。

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