とある世界に神そのものに抗った者達がおったそうな。
その抗う者達の中には赤と白の龍を其々宿す若者がおったそうな。
その二人の若者は本来ならば宿敵の関係だったのだせど、割りと気が合うのと共通の敵が居たお陰で宿命を越え、肩を並べて戦う親友同士となったそうな。
そんな運命を変えた二天龍を宿す二人の若者は、仲間と共に神への反逆を果たした直後、世界を意図せず飛び越えてしまい、全く別の世界へと迷い込んだ。
若者達はその世界から元の世界へと戻る為に色々と調査をした結果、封じられていた吸血鬼の少女と出会し、ある程度世界について知ることになる。
そして自分達とはまた別の世界から召喚という形でやって来た学生達の中のとある少年と少女を助け、共に元の世界へと帰る為に手を組む――つまりチームを発足することになる。
神への反逆を目的としたチームD×Gではなく、互いに異世界から迷い込んだ異世界人&現地人チームを発足した彼等だったが、困った事にそのチームの一人であり二天龍の片割れこと赤き龍を宿す赤龍帝の青年が、ひょんな理由から近づいてきた兎的な少女のやらかしにより―――――ちょっとグレ始めてしまうことになった。
主な理由としては、青年にとって元の世界でまっているだろう、青年が真に愛する悪魔の少女の姿が収められた携帯を踏み潰されて壊された……というそんな理由で。
お陰で普段は気さくなそこら辺の青年である筈の彼は、その兎的な少女にだけは塩対応となり続けることになるし、ある理由があって彼等に近づいた少女の願いもなにも青年だけは嫌がるのだったそうな。
これはそんな話のちょっとした続きである。
兎人族という、虫も殺せないような穏やかな――悪く言えば甘すぎる一族に懇願される形で亜人の国に踏み入ることになってしまった新・二天龍チームは、元々兎人族のシアという少女が予知的な能力をもってしまったが故に一族ごと追放された過去があったりするので、亜人の国の国境付近で他の亜人の警備的な事をしていた者と一悶着があったのだが……。
「恐怖を教えてやろう」
リアスの写真やら動画のみで内部ストレージを80GBは消費していた携帯をシアのうっかりで壊されて以降、完全に精神が不安定になってヤサグレ状態の赤龍帝ことイッセーがいきり立つ他の亜人に文字通りの恐怖を叩きつけることですんなり通して貰う事に。
その後、亜人の各族長クラスの者と会合することになったりとか、交渉の結果迷宮に入れる許可を取り付けたり、早速行ってみたけど、なんやかんやと条件が厳しいので後回しになってしまったりと色々とあったのだが……。
「短い間だが世話になった。
後うちのイッセーがすまん」
「い、いえいえ! 滅相もございません! 本当に……」
ヤサグレっぱなしなイッセーの代わりに謝っておく白龍皇ことヴァーリに対して、つい先程「恐怖を教えられた」亜人達は全力で首を横に振りながら気にしてほしくないと必死だった。
亜人達が軒並み怪物じみた青年になぎ倒されたせいで軽い大人達はトラウマになっているらしい。
「やだー! もっとお兄ちゃんと遊びたいー!!」
「もうちょっとここに居てよー! というか住んでよー!」
「ええぃ黙れチビッ子共! 俺はそんなに暇じゃねーやい!」
その癖各亜人の子供と呼べる年代からはいつの間にかそうなってたのか、軒並み懐かれているのだから訳がわからない。
結論から言うと、亜人の大人達は特にイッセーには二度と来てほしいとは思わなかった訳だ。
こうして次なる目的地を目指す事になるわけだが……。
「あ、あの……その旅に私も同行してはダメでしょうか?」
ここに来てまた小さな騒動が勃発することになる訳で……。
主にシアの発言で……。
「イッセーさんがとても大切にしていたものを壊したのは私です。
それに――」
どうやらイッセーが相当大事にしていた物を壊した事への贖罪の意味を込めた同行らしいのだが、最早目すらまともに合わせようとせず明後日の方向を向いていたイッセーをチラチラ伺う視線には別の意味が何となく込められてる気がする………と、チームの女性陣ことアリス(本来はユエとハジメに名付けられる筈の吸血鬼少女)や白崎香織、そしてチームではないがイッセーを追い掛けてきた事でなし崩し的に同行中の八重樫雫は察しつつ、ああも嫌われてるのにそっち行くのかと微妙に驚いた。
「どうか私にお詫びをさせて――」
「遺言はそれだけか虫けら? 冴えない台詞だったな」
「―――あぅ……」
そんなシアに対してイッセーはといえば完全に取り合う気が無かったどころか、完全に虫けらと吐き捨てながら殺る気満々とばかりに指を鳴らしていた。
そんな既に半泣きであるシアを見かねて、雫がフォローをするようにイッセーに話しかける。
「全部を許してあげてなんて無責任な事を言う気はないけど、少しは彼女の誠意を見てあげたら? これじゃあまるでアナタの器が狭いと思われてしまうわよ?」
学年的には先輩と言える年齢であるイッセーに対して気安い口調で話す雫に、イッセーの視線が雫へと向く。
「…………」
「ね?」
「……………。ヴァーリはどう思うんだよ?」
知ったような笑みを浮かべてくる雫に、妙な居心地の悪さを覚えたイッセーは、誤魔化すようにチームのリーダー的な位置にさせられ中のヴァーリに聞いてみる。
「お前がそこまで嫌だというのなら俺は彼女の同行を断る。
だが、彼女の予知の能力は何かに役立ちそうな気もするというのも本心ではあるな」
「………ハジメと香織ちゃんは?」
「僕はやっぱりこの世界の人が一緒の方が、色々と早く情報とかも理解できそうだし、良いとは思うかな」
「うん、私もハジメ君と同じ意見かな……?」
「…………………アリスは?」
「ヴァーリに変な事をしないのなら別になんでも良い」
ヴァーリとハジメと香織もシアの加入に対して反対は無く、アリスも微妙に意味合いは違えど反対ではないらしい。
「…………………」
確かにわざとではなく壊してしまった者に対して何時までも根に持ちすぎである感は否定もできない。
その分元の世界に戻ってリアスと再会できた時に思う存分保存しまくれば良いといえば良い。
「……………………。わかった」
仕方ない、本当は真面目に嫌だけどきっとリアスだったら『許してあげたら? その分好きなだけ撮らせてあげるから』と言うに違いないと無理矢理自分に言い聞かせる形で、表情は嫌々感が満載ながらも頷く事になった。
「ほ、本当ですか!? それでは――」
「ただし、暫くは俺の半径二メートル以内に近付くのはやめてくれ。
脊髄反射的にバラバラにしてしまいそうになりそうだからな」
「」
リアスの事になると沸点が電子レンジみたいにすぐチンするイッセーがほんの少し大人になった瞬間だった。
こうしてシアが新たにチームへと加わる事になったのだが、それ以前の問題がひとつ残っていた。
「つーかキミはそろそろ戻れや。
何時まで居座る気だ?」
そう、オルクスの迷宮辺りからイッセーについて来たままの雫の事だった。
「え、なんで帰らないといけないの?」
当然帰って欲しい気分であるイッセーは内心無駄なんだろうと思いつつも改めて言うが、最早チームの一員顔の雫は心底不思議そうな顔だった。
「香織や南雲君も居るし、このままアナタ達に同行した方が色々の都合も良いと思うのよね。
恐らくあの迷宮で落下した時点で私は死んでると光輝達に思われてるでしょうし?」
「…………」
やべぇ、うぜぇ……。
とイッセーはただただそう思うが、香織の親友なのは確かだし、シアよりは同行する理由としては尤もなので最早言うのを諦めてしまう事にしたイッセーは、ヴァーリが持っていた携帯を借りて、チームD×Gの集合写真を眺める。
「……………」
悪人顔だけど少し戸惑った表情の堕天使コカビエル。
そんな戸惑っているコカビエルの腕に寄り添うように組む金髪美女天使ガブリエル。
そんなコカビエルを見て笑っている軽薄そうな男前堕天使アザゼル。
そのすぐ隣には元魔王の赤髪の美男子ことサーゼクスと白髪で巫女の制服のような衣装の美少女安心院なじみがおり、その間にはサーゼクスの娘であるミリキャスが其々安心院なじみと父であるサーゼクスと手を繋いでいる。
そして写真の真ん中には妙にキリッとした顔のヴァーリ。
照れたように笑いながら寄り添い合うイッセーとリアスが写っている。
「少しはそれで我慢できるだろう? 一応他にもリアスが写っている写真はある」
「………まぁな」
何時死ぬかもわからないから、思い出として残しておこうというアザゼルの提案によって撮られたこの写真は勿論破壊されたイッセーの携帯にも入っていた。
そう、この写真こそが――この写真の世界こそか自分とヴァーリの世界。
「色々と個性が強そうな人達ね……」
そんなイッセーの横から覗くように見てくる雫は、チームD×Gの面々にそんな感想を呟きつつ、心底穏やかな表情で写るイッセー……そしてそんなイッセーと身を寄せるように密着する赤髪の美少女をジーっと見る。
「アナタが異性に対してなんの興味も持たない理由が嫌でもわかるわ」
どこからどう見ても美少女であるリアスに同性としても負けた気にしかならない雫。
ちなみにシアはイッセーの半径二メートルは近寄れないので、現在絶賛アリスと香織に慰められていた
「あのシズクって人が近寄ってもイッセーさんは怒らないのですね……」
「雫ちゃんにああいう面もあるんだって私も驚いちゃってるくらいだもん」
「リアスって人の写真はシアも見た?」
「え、ええ……もう、笑うしかなかったです」
とことん毛嫌いされまくってるのに、何故か逆に気になって仕方ないシアはズーンと肩を落としながら携帯をヴァーリに返しながら立ち上がるイッセーを見つめる。
「……………」
「? ひょっとして修行でもするの?」
「見張りはヴァーリと日替わりでして、見張りがない時はそうしてる」
「なるほど、じゃあ私も付き合わせて貰えないかしら? あの時の感覚を何時でも引き出せるようになりたいし」
「チッ、ハジメか香織ちゃんに聞けや。
何で一々俺が……」
「まあまあ、これから先は同じチームの仲間じゃない。ね?」
「その『ね?』ってのは止めろ。全然可愛くねーわ」
「あら手厳しいわね。
一応こんな仕種を異性にするのはアナタが初めてなのに」
「知るか」
「や、やっぱり雫ちゃんってイッセーさんと話すと大分違う……」
「八重樫さんってああいう事をする人だっんだね。
元の世界じゃどちらかと言うと……」
「うぅ……多分私が同じ事をしたら蹴り飛ばされてしまいそうなのに……」
「ヴァーリ……。お願い……ね?」
「は? なにがだ?」
「むぅ……ヴァーリは鈍い」
「????」
若者達の旅は続く。
あくまでも元の時代へと戻る為の旅は、若者達に様々な経験を与える。
しかしながらその代償として要らぬ恨みを買う事も多かった。
「俺はキミを拐った誘拐犯だとよ。
彼等から言えばな」
「寧ろ助けて貰ったばかりか、ここまで面倒を見て貰ったと何度も説明はしたのだけど……」
「そんな説明で『はいそうですか』って納得する訳もねーだろ」
ハジメ達のクラスメート達からは誘拐犯扱いされ。
「で? 俺は何時キミに手を出したんだ? あ?」
「私に言われても……」
「ふざけんなよあのガキ共……! 頼まれたってんな真似なんぞするか……!」
「………………。リアスさんの事を知ってるとはいえ、そこまで否定されると傷つくわね」
相も変わらずハジメに関する現実を受け入れずに、香織と仲良くしているからと絡んだり、イッセーを誘拐犯呼ばわりか、雫に粗相を働いた最低男呼ばわりする事に、そろそろぷっつんしそうになったり……。
「雫も香織もそしてキミも南雲とその兵藤という男に騙されているんだ! 正気に戻――」
「馬鹿にするなァ!!!!」
「ほげぇ!!?」
と、思ってたら寧ろシアが急にガチギレして勇者少年を殴り飛ばしたり……。
「騙されている? そんなものは百も承知です! 未だにイッセーさんは私のしたことを許してはくれずに話しかけても無言だし! その癖シズクさんには微妙に対応が甘いですし!! 名前すら呼ばずにウサ公呼ばわりですし!!! というか言動からなにから全てか極端過ぎて怖いですよっ!!!! 怖いと思うし意地悪な人だと思ってるますよ!!!! でも気になって仕方ないんです!!!! どうしようもなく気になってしまうんですよぉぉぉっ!!!!」
『…………』
それまでの鬱憤が大爆発するシアに全員圧されてしまう。
「寝るときはヴァーリさんにアリスさんがひっついて仲良さそうだし、ハジメさんはカオリさんと毎晩胸焼けでもしそうなやり取りをするし! そんな状況の中私とシズクさんは特になーんにもございませんよ!! だってイッセーさんは私達よりも違う女性しか見えてないんしからね!! えっ!? これのどこが騙されてるって!!? 寧ろ騙されてても良いから優しくされてみたいですよーーー!!!!」
等と叫びながら既に意識が消しとんでる勇者をゲシゲシと蹴る辺りは、イッセーのやり方を学んでるといえるシアに、勇者の仲間達は呆然する。
「まあ、そういう事。
何故彼が私を誘拐したとか、手を出したとかそんな話になっているのかは敢えて聞かないけど、彼はとことん頑固だし、彼には心に決めている女性が居るのよ。
まあ? そういう意味では確かに私達はこのイッセーに『騙されている』と言えなくもないかしら?」
「ぜぇぜぇ……!
こ、こっちの日々の苦労も知らずに外野がベラベラと……!」
「その女性に一筋過ぎて他の面は割と隙だらけな癖に、全く揺さぶれない悔しさなんてわからないでしょうに」
リアス馬鹿を拗らせてしまってるが故の弊害なのかもしれなかった。
「その内後ろから刺されやしないか? 妾は微妙に心配じゃぞ」
「知るか、何を言われようが俺は知らん。クソが、早くリアスちゃんの所に帰りてぇわ。
帰って死ぬほどイチャイチャしたい……」
「……………………。あ、今妾も後ろから刺してやりたくなったぞ」
なまじ一筋過ぎて浮気の気配が無さすぎるタイプに進化しまくったせいで、変なタイプの異性を惹き付けるようになってしまったのは果たして皮肉なのか……。
「ねぇハジメくん? 私って騙されてるのかな?」
「う、うーん……しょっちゅうイッセーからリアスさんとどんな過ごし方をしていたのかって聞いてたせいであまり違和感とか感じなかったけど、改めて客観的に考えると……どうなんだろ?」
「でも私は好きなんだけどな? ハジメくんとこうするの」
「そりゃあ僕もさ……」
『』
ナチュラルにクラスメートの男子に絶望を与えまくる二代目イッセー&リアスだったり。
「鈍いヴァーリはきっと師のコカビエルって人に似たせい。
だからイッセーから色々と聞いた。コカビエルって人に対してガブリエルって人がやってたことを……」
「俺はああまで鈍くはないぞ……って、さっきからなんだ?」
「むむ、やっぱり鈍い。
それでも良いけど……ふふっ♪」
終わり
補足
とにかく拒否られ過ぎて寧ろ気になってしまった。
直後にリーアたんの写真見せられて絶望ルート入るけど。
その2
最早帰る気ゼロな雫さん。
自分の秘めた可能性を知る切っ掛けとなったイッセーには相当懐いているせいか、妙に素になりやすくなった。
懐かれた本人はかなり迷惑がってるけど……。
その3
順当にイッセーの相当片寄った経験を教えて貰うせいで、ますますイチャイチャしまくるハジメくんと香織さん。
最早クラスメート達も閉口するレベル。
その4
案の定悪の権化扱いされるが、日々の扱いもあってか寧ろ馬鹿にされてると爆発する兎さん。
困った事が発生すると無言で助けてくれる面も知ってるもんだから、嫌いにもなれないので余計に……。