色々なIF集   作:超人類DX

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これも単発。

クロスネタです


お手本にしちゃダメなカップル

 

 

 喪ったのかもしれない。

 この世の地獄というものがあるのならば、あの時がまさにそうだったのかもしれない。

 でもその地獄があったから今の私が在るのは間違いないし、這い戻ろうと抗えたのだと思う。

 かつて私を『無能』と言ったあの男の言うとおり、私は悪魔としては間違いなく無能だと思う。

 

 しかし私は無能で良かった。

 

 無能だからこそ知ることなんて無かった世界を知ることができた。

 

 私を私として見てくれる彼と出会えた。

 

 そして本当の自由を掴み取ることができた。

 

 

 悪魔としては喪ったのかもしれない。

 けれど私――リアスはそれでも堂々と胸を張りながら言える。

 

 私は今がとても幸せだと……。

 

 無能として心が死にそうになったあの日、リスクを承知で助けてくれた彼と一緒なら何処であろうとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 平凡な日々。

 平和といえば聞こえは良いのかもしれない。

 されど何かが物足りないし、この気持ちを真の意味で理解してくれる者は、たとえ少女の幼馴染み達でも皆無だった。

 

 常人よりも少しだけ様々な意味で優れていたからこそ、ほんの少しの努力をするだけで可能にしてしまう才能を持ち合わせているからこそ、少女は平凡な日々自体が己を蝕む『毒』にも感じてしまった。

 

 そんな少女が中学生となった時期に知ることになる、とある同学年の男子に、容姿が優れている幼馴染みが、所謂無能に属する男子にひっそりと惚れた事を知った少女は、ほんの少しだけその男子に興味を持つ事になるのだが、その男子は幼馴染みの男子と比べたら確かに才能がないが、彼には無い精神を持ち合わせていた。

 

 けれど親友の少女からわかりやすいくらいの惚気話を聞きつつも、少女自身はそれ以上の興味を彼に持つことが無いまま中学時代を生きたのだが……。

 

 ある時少女は知るのだ。

 

 

『ごめんよお嬢さん。

よそ見しちまってたんだ、ほら立てるか?』

 

『荷物を拾うから待っててね?』

 

 

 常人よりも多少は優れているというその自負を簡単に押し潰す―――優れているだの劣っているだのと考えること自体が無意味だと悟らされる程の強大なる存在を。

 

 それは挫折でもあり、そして色が無かった視界に初めて色がついた瞬間でもあり、歓喜であった。

 

 この出会いにより、少女はふて腐れ始めていた精神を立て直す事になる。

 そして明確なる格上であるその二人の男女が何者かと知りたいという欲求に突き動かされるようになる。

 

 それは少女の親友が冴えない男子に対する気持ちにも似ていて……。

 

 

 そして現在。

 その二人の男女の事を調べた少女は、二人が通っている高校に進学を決める事になり、入学と同時に常に二人で居る彼と彼女のもとへと押し掛けるようになった。

 

 何かを教えて貰う訳でもなく、ただその二人が立つ絶対的な領域に近づきたいと思う情熱のような気持ちのままに……。

 

 

「またキミか」

 

「はい、また私です」

 

「最近キミの幼馴染みだとか名乗る男子からキミに対して余計な事を言ってないかと詰め寄られてるんだよね。

彼らにとっては俺はキミを誑かす詐欺師野郎にでも見えるらしい」

 

「またですか? 何度も私からもそんな事はないと言っているのに……」

 

「……。リアスちゃんに対しても周りからそう思われてるから別に良いんだけどよ」

 

「それは単なる妬みなんじゃないかと……」

 

 

 少女の心は今とても燃え滾っていた。

 

 

 

 

 

 

 中学生の頃、私の幼馴染みの一人であり親友がとある男子の行動を見た事で惚れた少し後、私は明確な領域の違いというものを知った。

 

 それまでは少し他の人よりも優れているなんて自惚れた事を思ってたのだけど、その自信はあの二人によって一瞬にして馬鹿な世迷い言なんだと思い知らされた。

 

 圧倒的て絶対的。

 才能という概念を考えることすら馬鹿馬鹿しく思える領域に君臨する二人の先輩。

 それ故に周囲から理解されない事も多いのだけど、本人達は至ってマイペースに日々を楽しんで生きている。

 

 

 そんな関係が羨ましくて、そんな生き方が出来る事が妬ましくて。

 特に女子の先輩はその容姿も比較した瞬間私がミジンコかなにかに思ってしまう程に綺麗な人だけど、嫌味が全然無い。

 

 だからきっと私はこの二人の先輩の事が好きなんだと思う。

 ひけらかす事もせず、周りからの恐れや妬みに対しても平然とスルーしてマイペースに生きることが出来るその突き抜けた精神力が。

 

 ……そんな二人の先輩を慕う私に対して、幼馴染み達がよくない顔をする。

 でも私はそれでもこの二人の先輩が好きだ。

 

 故に私にとって最早非日常なんてどうでも良いものであり、寧ろ二人の先輩との繋がりの邪魔にしかならない。

 異世界に召喚されたなんて訳のわからない話が本当であろうが無かろうが、私に欲しいのは二人の先輩との小さな日常だけ。

 

 だからそんな非日常に突如私と私のクラスメート達が巻き込まれた時、私は異世界から召喚が云々と言い出した異世界人達の戯言に対して石でも投げつけてやりたいと思いつつ絶望をした。

 

 もっとも、その絶望はクラスメートの誰かが驚きつつ引き気味な声でその名を呼んだ事で、即座に消えてなくなったのだけどね……。

 

 

「グ、グレモリー先輩と兵藤先輩!? な、なんで?」

 

「なんでって……そんなのは俺が聞きたいんだけど」

 

「シズク――あ、八重樫さんに放課後教室まで来てほしいと言われて来てみたらこんな事になったとしか……」

 

 

 うん。

 放課後は一緒に帰りたいと我儘を言っておいて良かったわ。

 お陰で、あの時の妙な現象に二人も巻き込まれてくれた様だし。

 

 

「お二人も一緒だったんですね? よかった……」

 

「何が良かったんだよ? どう見ても宜しくない状況に巻き込んでくれやがって」

 

「後でたこ焼きご馳走しますから……ね?」

 

「なにが『ね?』だこのヤロー」

 

 

 これでもそこそこ持て囃される程度の容姿ではある私でも全く通用しない兵藤先輩がジト目で私の頭を軽く叩き、比較となれば私がミジンコ以下となる程に綺麗な赤い髪の女性――リアス先輩がそんな兵藤――否、イッセー先輩を宥める。

 

 そのやり取りが――なにより自分達より上の学年の二人が何故か一緒になってここに居る事も含めて浮いているせいか、クラスメートの殆どが遠巻きに見ている。

 

 

(チッ、厄介そうな所だな。

久しぶりに人間以外の『気配』が大量だ)

 

(あまり長居はするべきではない場所ね……)

 

 

 そしてこの異世界への召喚により私は真の意味でこの二人を知ることになる。

 二人がどうして生きたのか。

 どうして出会ったのか。

 

 そして私が思っていた以上の修羅場を潜り抜けていた事を。

 寧ろ救世主をぶちのめすラスボスみたいな人達だということを……。

 

 そして私は、自分の心を覆っていた殻をこの経験により破り始める事になる。

 

 

 私――八重樫雫の心の殻を……。

 

 

 

 

 

 

 誰に命を狙われる事もなく。

 誰に追われる事すら無くなった世界で密かに生きていたベリーハードを突破したペアにとって、この世界は生きやすいとはあまりにも思えないものだった。

 

 何故なら異世界から召喚をしたと宣う人間達曰く、この世界は魔人族なる種族と絶賛戦争中であり、勝つために呼び出したと――つまりその魔人族と戦ってくれと言うのだ。

 

 

(いやいやいや、最悪過ぎるんだけど)

 

 

 そんな話を長々と聞かされた平凡学生達に混ざって聞いていた青年ことイッセーは同じく隣で聞いていた赤髪の少女と共に顔をひきつらせていた。

 

 何故ならリアスはこの世界でいうところの魔人族的な種族だし、イッセーはそんなリアスの100%味方なのだ。

 それを知られたら間違いなく殺しにかかるのは目に見えていた。

 

 返り討ちくらいはやってやれないことはない。

 しかしそうなればお尋ね者間違いなしであり、またあの時みたいな逃亡生活に逆戻りになってしまう。

 そう思ったイッセーは取り敢えず全力で空気になることを決めたのだが、そうは問屋が卸さないがイッセー&リアスペアの基本なのだったりする。

 

 主に、妙に懐いてくる後輩のクラスメートの一人が勝手に協力すると言い出すせいで。

 

 

「グレモリー先輩も一緒に戦いましょう!」

 

 

 返事は『はい』か『yes』しかあり得ないというか、頷く事を勝手に確信しているかのような無駄に爽やかな笑顔でイッセー――じゃなくてリアスに手を差し出してくるクラス内のヒエラルキー最上位の男子にリアスは非常に困った顔になり、イッセーは『ナチュラルにスルーされてるし』と、そう言えばこの男子ともう一人からは結構目の敵にされていたことを思い出す。

 

 

「イッセー先輩も居るのだけど?」

 

「む、勿論わかっているぞ雫。

兵藤先輩も、これまでは色々とありましたが、今は水に流して協力をしませんか?」

 

「………」

 

 

 水に流すも何も、今までもそっちが勝手に目の敵にしてたんじゃねーかよと腑に落ちない気分でしかないイッセー。

 どうもこの雫という後輩と喋るというだけの事も幼馴染みらしき彼等は気に食わないらしい。

 

 

「ごめんなさい……あまり気にしないでください」

 

「別に気にしちゃいねーよ。

リアスちゃんと態度が違うのはムカつくがよ」

 

 

 割りと本気で申し訳なさそうに謝る雫にイッセーは彼等の態度に対して気にするなと返していると、その雫の親友で容姿が可憐な少女が話かけてくる。

 

 

「兵藤先輩とグレモリー先輩も一緒に戦ってくれるんですか?」

 

「あー……今そうなったっぽい?」

 

 

 後輩こと八重樫雫の親友の白崎香織の人の良さそうな顔に対して、イッセーはそろそろリアスから離れないと光輝達を八つ裂きにしかねない気分を隠しながら曖昧に頷く。

 

 学校内では相当な美少女で通っているこの少女だが、イッセーにしてみれば『まあ可愛らしいお嬢さんじゃやいの?』程度にしか思っておらず、またその学校内でも香織と同等がそれ以上と言われているリアスの存在がイッセーにとっては全てだったりするのだ。

 

 

「雫ちゃんが何時も兵藤先輩とグレモリー先輩の事をとにかく凄いって話してました」

 

「こ、こら香織!」

 

「そりゃあどうも……褒められる気なんて全然しないけどさ」

 

 

 あまり褒められた気にもなれないイッセーは微妙な顔だった。

 凄いとか凄くないとかなんてどうでも良いから、とにかく自分とリアスをさっさとあの平凡なる世界に戻して欲しいと。

 

 

終わり

 

 

 

 

 平凡な生き方をしてきた人間達だったら異世界に召喚されて敵相手に無双します的な生活に憧れるのかもしれない。

 しかしながらそんな可愛げのあるものとは別領域の修羅場を経験した二人にそんな日常は要らぬものでしかないし、ましてやこの世界の人間の基準からして自分とリアスは間違いなく敵の側。

 

 故にとにかくイッセーとリアスは共に召喚された後輩達に紛れて細々と帰るてがかりを探そうとするのだが……。

 

 

「あーぁ、完全にやっちまった。

これで戻ったら間違いなく牢獄行きだな」

 

「そうね……。

でもこの子達を助けられただけでも良しと思いましょう?」

 

 

 聞けば香織という後輩がほぼストーカー同然に好意を抱くクラスでも筆頭レベルの苛められっ子がダンジョン的な場所内の大穴に転落したのを発見し、そのまま助ける為に穴に落ちたイッセーとリアス。

 だが自分達が落ちた後になんと香織と雫が上から落ちてきたのだ。

 

 お陰で上の階層よりも危険度が上がってる魔物から二人を守りつつ、落ちた男子を探す羽目になり、その過程で二人には自分達がまともじゃない所を見せなくてはならなくなってしまった。

 

 まあ、香織は驚いたが雫は特にそんな二人の異常を直で見ても気にしてなかったのだせど。

 

 やがて魔物に片腕を食われてボロボロになっていた男子を発見したイッセーとリアスは、その様を見て泣きながらパニックになる香織を落ち着かせつつ、可能な限りの治療を施すことに。

 

 

「あ、ありがとうございます……僕なんかを助ける為に……」

 

「気にしないで良いし、寧ろ謝るのはこっちよ。

ごめんなさい、私達が遅かったせいでアナタの腕が……」

 

「い、いえ! 生きていただけでも運が良かったくらいですから!」

 

 

 完全にヤサグレる前に発見された少年の名は南雲ハジメといった。

 こうしてなんとか助けることに成功したリアスとイッセーはそのまま地上へと戻ろうと、襲いかかる魔物を時には共に行動する少年・少女達に倒させて経験させつつさ迷う事に。

 

 

「え、カオリはハジメ君の事が……?」

 

「中学時代からそうでしたよ。

正直香織にはノイローゼになりそうになるくらい南雲君の事を聞かされてきました……」

 

「そりゃあご苦労様だな……」

 

「ただ、南雲君はクラスで相当質の悪いいやがらせ――いえ、虐めを受けています。

それは多分香織に話しかけられたりしているからというやっかみもあるかと……」

 

「あぁ……」

 

 

 その過程でハジメの状況を雫から知ったり。

 

 

「あ、あのー……最初は逼迫していたので疑問に思う暇もなかったのですが、どうしてイッセー先輩とリアス先輩は……そ、その……そうやって寝るんですか?」

 

「どうしてって……これが普通だからとしか言えないんだけど」

 

「私が無理を言ってして貰ってるの……」

 

 

 イッセーとリアスが噂以上に深すぎる関係に、初心さん達が赤面したり。

 

 

「良いなぁ……」

 

 

 そんな二人の間に混ざってみたくなる雫だったり。

 

 

「さ、寒いし! 二人がああして寝るのは理に叶うと思うから、わ、私達もしてみない!? ねっ!? ねっっ!?」

 

「ぼ、僕が!? 八重樫さんとじゃなくて!?」

 

 

 それを見てた香織が一気に距離を詰めかけてきたり。

 

 

 こうして実は悪魔だったり、実は龍の帝王だったりする二人によって少年と少女達はすくすくと育つのであった。

 

 

「んー……地上へと戻れたのは良いのかもしれないけど、何だか残念な気持ちかも。

あ、でも何時もの眠り方は何処ででも出来るから、今晩も一緒だねハジメ君!」

 

「そうだね! あれじゃないと最早熟睡できなくなっちゃったよ僕は! わっはっはっ!」

 

 

 地上への帰還の頃には、気持ち悪いレベルで仲良くなりすぎてしまった香織とハジメを見たクラスメート達との間で一悶着あったりもして……。

 

 

「し、雫もか!?」

 

「?? 私はどう見ても普通でしょう? 何か問題でもあるかしら?」

 

「問題だらけだ! 凄まじく兵藤先輩が鬱陶しそうな顔をしているのが解せないが、何故その先輩の背中にしがみついているんだ!?」

 

「しがみついてないわよ、おんぶをして貰っているだけよ? ね、先輩?」

 

「断るとマジ泣きするから仕方なくだろうが。

何で俺がリアスちゃん以外の小娘なんぞにこんな真似を……」

 

「えー? でもリアス先輩はちゃんと許可してくれたじゃないですか?」

 

 

 割りとメンタル的に図々しくなる雫のせいもあって、ハジメとイッセーは結局ヘイトを買いまくる事になるのだった。

 …………本人達は何を言われてもスルーだったせけど。

 

 

 

「…………………今日も一人……」

 

 

 そしてどこかで今日も封印されている者の独り言はまだ届かない。

 

 

終了




補足
ベリーハード世界軸でしかも一緒なので常にアホなカップル状態。

そして雫さんが例のたっちゃん的な枠。


ハジメと香織がモロにベリーハードペアの影響を受けまくるし、そのせいでメインヒロインがまだ閉じ込められてるという……。


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