元々そういう素養は多分あったのだろう。
けれど、その素養を一切隠さなくなったのは俺が過去に経験したある出来事からだ。
他の悪魔のように眷属を持っていたであろう俺が見せられた地獄。
何もかもが信じられなくなるあのトラウマ。
皮肉な事なのかもしれないが、そんな経験をしたからこそ今の俺が在るし、両親や兄達もあんなはっちゃける事も無かっただろうし、同じ経験をさせられた一誠と出会うこともなかった。
世間知らずの貴族のボンボンのままが幸せであったのかどうか等、今となってはわからない。
けれどあの経験があったから俺は力を求めるようになり、壁を越えることが出来た。
自惚れるつもりは勿論無いが、今の俺はほんのちょっとだけ強いんだぜ……?
特に興味もなかった赤髪連中共に毛嫌いされているのが冷静に考えても腹が立ったので、連中に向かって中指を立ててやった――と、貴族にあるまじき行動を家族全員でやらかした結果、いっそ互いの因縁を吹っ切るという意味で喧嘩でもすれば良いという誰かさんの提案により、二度と直接会うことも無いと思っていたリアス・グレモリー達とのバトルが勃発することになってしまったライザー・フェニックス。
一度スイッチが入ると貴婦人とは思えないチンピラ化する母のエシルや、細かいことは基本気にしない癖に身内がバカにされると鈍器を相手の頭に向かって平然とフルスイングする程度にはタガが外れるシュラウド。
そして普段はそんな両親のストッパーになる側な筈の兄二人までもが魔王に向かって中指立てて罵倒をしてしまうものだから、巡りめぐってライザーに火の粉が飛んでくる辺りは中々にライザーも不幸体質なのかもしれない。
「本当に俺がゲームに勝てたら黒歌の罪を完全に帳消しにできるのか? 口約束だけでは信用できんのだが……」
「大丈夫だ、その為に時間をかけて黒歌さんの元主共がやってきた証拠だけは集めてきた。
それに、反故にする様なら今度は直接『帳消しにさせてください』と言うまで殴り抜くまでよ」
「ええ、知ったような口を昔から散々私に叩いてきたヴェネラナ・グレモリーに『ギャフン』と言わせるまでです」
「母さんとグレモリー夫人とそんなに因縁があったとは知らなかったぞ……」
「因縁というよりは、現役の頃の私ってほんの少しお転婆で、その時の姿を見ていた彼女に思い切り見下されていただけです」
「あー……母さんの現役の頃かぁ」
フェニックスだけあってライザーも本来は濃いキャラクターをしているのだが、それを上回るのがこの両親であり、特にエシル・フェニックスが現役だった頃は、それはそれは『お転婆』過ぎて、当時のエシルを知る他の悪魔達は例がいなく口を閉じるし、目も逸らすほどだったらしい。
「そこまでしてくれなくても良いのに。
なんやかんやでこうして落ち着いて生きていられてるし……」
「そういう訳にはいかないな黒歌さんよ。
キミとて罪が無くなりさえすれば堂々と冥界内を闊歩できるようになれるし、妹さんとも会いやすくなるだろう?」
「少しは大人を頼りなさい? アナタも私達にとっては『子供』ですからね」
「う、うん……」
「それに、既にレイヴェルと一誠はやる気満々だからな! がっはっはっはっ!」
そんなこんなで大炎上で有名なフェニックス家は爆進するのである。
思わぬ理由で長年隠れて生きなければならなかった黒歌の罪を抹消できるチャンスを得た一誠とレイヴェルのやる気は限界突破しており、勢い余って対戦相手を文字通り消し炭にしかねないものがあった。
「ファイナル・ドラゴン波ァァァッ!!!」
普段はド派手な光線ではなく、背後から首を切り落とすような戦い方をする一誠が、フェニックス家の屋敷の裏の湖の畔で空に向かって極太光線をぶっぱなしていたり……。
「どうよ!? これなら一撃でやつらを消し炭だぜ!」
「純粋な殺し合いではないので、その技はマズイと思うわ。
もっとも、あの男になら問題はないでしょうけど」
『チッ、くだらんルールだ……』
「黒歌さんの件が無ければそのまま息の根を止めることも吝かではありませんが、今回だけは抑えてください、一誠にドライグさん?」
『仕方ない。だがあのカスには加減はしなくても良いのだろう?』
「ええ、加減して勝てるとは思うべきではありませんからね」
「よし、それならなんとかなるか……」
ゲームである以上、殺す事はなるべく控えなければならないというレイヴェルの言葉を受け、恐らくは強大な力を持っているであろう兵藤一誠以外はなるべく加減を心掛ける方向で意見を纏めた一誠とレイヴェルは、再び鍛練を再開しようと向かい合って構えると、二人の鍛練に同行して着いてきていたアーシアが少し遠慮しがちに声を出す。
「あ、あのー……一誠さんは元々私と同じ人間だったのですよね?」
「んぁ? ああ、そうだけど?」
同行を申し出た理由は、眷属ではなく保護されているという立場から抜け出したいという想いであり、なにかひとつでもライザーの役に立ちたいからだった。
二人の鍛練を見てみようと思ったアーシアは暫く一誠とレイヴェルがそれこそ殺し合いに近い戦いを繰り広げている様を見ていた訳なのだが、その最中一誠が元は人間であるにも拘わらず、レイヴェルやライザーと同じ炎の力を扱っていることに気づき、元は人間なのにどうして同じ炎の力を扱えているのかが疑問だったらしい。
「ひょっとしたら自分の魔力がライザーさんと同じように炎に変えられるのかなって……」
「素養があれば素でも可能でしょうね。
ですが一誠の場合は完全に我々の一族と同じ炎です。
理由は一誠自身の特殊性といいますか、異常性といいますか……」
「では私には無理なのでしょうか……?」
レイヴェルの説明に出てきた『異常性』という言葉の意味を少しだけ以前ライザーに説明されていた事で、ある程度は理解をしていたアーシアが、自分には無理なのかと肩を落とす。
その様子を見た一誠とレイヴェルは無言で目を合わせる。
(懐いてんなぁ……)
(今時本当に珍しいわ)
殆どの者はライザーないし一誠に対して、リアス・グレモリー的な反応をするというのに、このアーシアは驚く程にライザーへの悪感情がないばかりか、かなり懐いている。
そればかりか、戦うとは無縁の――虫すら殺せないような性格のアーシアがわざわざ鍛練に同行しようとする辺り、力を求めているのがわかってしまう。
「兄貴の役に立ちたい……というか兄貴と肩を並べたいって思ってるのか?」
「その……はい」
「ふむ……となれば先ずは魔力云々よりも基礎的な体力作りから始めないといけませんね。
それと先程アーシアさんが仰っていた事ですが、基礎を完全に固められたら『不可能』ではなくなりますよ?」
「え!?」
仕方ない。
ライザーはアーシアを戦う場に連れ出したがらないけど、本人がその道を望んでいる。
それならば妹として、弟分として一肌脱いでやろうと一誠とレイヴェルはアーシアに基礎を教え込むようになるのであった。
理由が無くなった時点で、無いと思っていたレーティングゲームの件が何故かやって来た。
その話を忌々しい表情で語るリアスから聞いた兵藤一誠は『世界の修正力でも働いたのか?』と考えるが、実際はファンキーを通り越したフェニックス家がグレモリー家に向かって中指立てながら罵倒しまくったからだとは流石にわかる筈もない。
「な、何で私が負けたらあんな男と婚約なんてしなければならないのよ……!」
「お、落ち着いてください部長……」
「どこまでもフェニックスは私の邪魔ばかりを……!」
「…………」
実家から唐突に連絡をされた事で荒れに荒れているリアスを周りが落ち着かせようとしているのを見ながら兵藤一誠は思う。
やつらが学園を荒らしていた時は冷静ではなかった為に何度かしてやられはしたが、だからといって奴等とやりあって負ける気はなかった。
やりあえば確実に勝つ。
それだけの力を持っているという自負が却って兵藤一誠を冷静にさせているようで、いっそライザーと死に損ないを再起不能にして二度と表に出られないようにしてやろうと内心思う。
(殺した所で問題もないしな)
こうして事実を知らぬまま勃発した抗争の話を纏める為、ライザー達は再び人間界へと足を踏み入れる。
話を纏める調停役としてグレモリー家のメイドであり、フェニックスの長兄と次兄が中指を立てて罵倒した魔王・サーゼクスの妻であるグレイフィアに先導される形で、二度と来ないと思っていた旧校舎の部室へとやって来たライザーは、既に歓迎すらせず汚物でも見るような目をするリアスをスルーしながらゲームの取り決めの為の話し合いをする。
「まずは再びこの場所へ入る許可をして頂き、ありがとうございますリアス・グレモリーさん」
「実家からの命令で仕方なくよ。
話が終わったらさっさと消えて頂戴」
「ああ、勿論だ。
さて、早速例のレーティングゲームの事だが……」
「ええ、私達が勝てばアナタと婚約だなんて虫酸の走る取り決めはなかったことになる……でしょう?」
「……………。まあ、そうなるな。
正直言うと何でオレとキミがそんな話になったのかは知らんがね」
「そう思うのなら今すぐにでも取り下げて欲しいわね。
そうすればアナタの顔を二度と見ないで済む」
「それだけなら喜んでそうさせて貰いたいが、俺達も勝たなきゃならない理由があるものでね。
悪いが、ゲームにだけは勝たせて貰う」
嫌悪を通り越した態度をするリアスとは反対に、ライザーはいくら罵声を浴びせられても平然と自分の意見を述べる。
その後ろにはライザーの僧侶として一時加入したレイヴェルと兵士として加入している燕尾服姿の一誠が同じように淡々とした顔で佇んでいる。
(ど、どうしてこの方達はライザーさんと一誠さんをあんなに……? あれ、でもあの白髪の方はそうでもない……?)
そして唯一本当の意味でのライザーの眷属であり、女王であるアーシアはここまでライザーと一誠が特にこの赤髪の悪魔や眷属達に毛嫌いされている状況に困惑と疑問を抱きながらも努めて顔には出さないように頑張っていた。
「これも既に聞いてはいるだろうけど、俺には眷属が女王であるアーシアしか居ない。
ゲームとなれば最悪俺一人でキミ達と対戦するつもりだったが、そちらのご両親――ジオティクス様とヴェネラナ様が妹のレイヴェルとその眷属を一時的に加えろとわざわざ仰って頂けた訳だが、その話も聞いてはいるかい?」
「ええ……まともな眷属の居ないアナタを憐れに思ったようだけど、何人増えようが構わないわ。
くだらない玩具で遊んでばかりのアナタ達には負ける気なんてしないから」
「…………………………」
(シトリー先輩が居なくて良かったわ……。
聞いてたらキレてんじゃねーか?)
くだらない玩具と言われた瞬間、ライザーと一誠の表情に一瞬だけ殺意が混ざったが、本当に一瞬の事だったので誰にも気づかれないで済んだ。
というより、そのくだらない呼ばわりする玩具のガチ勢がリアス自身が親友と思っているソーナだったりするし、そのソーナがもし聞いていたら、テーブルに置いてあるティーカップと皿をリアスの顔面に向かって、メジャーリーガーも真っ青なフォームでぶん投げてるだろうということに、リアスはどうやら気づいてないようだ。
「話は終わりかしら? それならとっとと出て行って――」
「待った、あとひとつだけ了承をして貰いたい事がある」
「――――チッ、なにかしら?」
苛立つリアスだが、その苛立ちを利用されている事にどうやら気づいていないようで、ライザーは苦笑いをしながら口を開く。
「なに、イケイケのキミ達にとっては取るに足らない事だ。
単にこの一誠とレイヴェルの他にもう一人――僧侶の枠としてゲームに参加させて貰いたいだけだ」
(僧侶だと……だれだ?)
ライザーの言葉に一番反応したのは、既に目の前のライザーが燕尾服なんぞ着てる死に損ないのせいで原作から剥離している――と思っている兵藤一誠だった。
ライザーの本来の眷属は何故か存在しないし、その内奪い返すつもりではあるがアーシアを奪われた。
そんな予想もつかないライザーが言う僧侶とは誰の事なのかがわからないし、正直予想がつかないだけにリアスには断って欲しいのだが、今のリアスは目の前の男二人のせいで冷静さを失ってしまっている。
「そんな程度なら構わないわ。
一人二人増えたところで関係ないもの」
「そうか、キミの寛大な精神に感謝するよ」
「……アナタに言われると反吐が出るわ」
(……チッ)
あっさりうなずいてしまったリアスに兵藤一誠は舌打ちをする。
一応自分が介入することで原作よりも既に何倍もリアス達は強化されているので、戦えば勝てないことはないが、それでも不穏な要素は極力避けたかった。
一応自分がなんとかすればそれで良いとは結局自己完結はしたようだが、兵藤一誠はこの場には居ないその僧侶の事が気になるようだ。
「では俺達は失礼する。
良いゲームにしよう」
「精々冥界の恥となるまでの時間を楽しむことね」
こうしてゲームの取り決めは終わった。
……………フェニックス家のファンキーさを本当の意味で知るまで後少し。
「白音さんはまだ大丈夫そうでしたね」
「一度完全に気づいたお陰か、黒歌の事もちゃんと見えていたみたいだぜ?」
「流石白音だにゃん」
「しっかしまぁ……何で俺はああも嫌われてるんだ?」
「す、凄い怖い顔を皆さんしてましたね……。
その白音さんと言う方以外は……」
結局一言も口を聞いてはくれなかったグレイフィアと共に一度冥界へと戻り、無愛想の極のような挨拶だけされてさっさと帰っていく彼女を適当に頭を下げながら見送ったライザー達はそのままフェニックス家に戻る―――事はせず、どういう訳か人間界へと逆戻りしていた。
「さてと、ここならグレモリーさんの目が届かないと言われて来てみたが……」
場所は一応リアスの管理する町なのだが、情報によればこの辺鄙きわまりない破棄された工場の跡地はリアスの目の届かない場所との事であり、この場に来た理由はひとつ……。
「わざわざ足を運んで頂いてありがとうございます、ライザーさん」
何故か真っ黒いローブのようなものを頭からすっぽり被った、さながら死神のような出で立ちで現れたソーナ・シトリーからのお誘いだったりする。
「オカルト研究部の人達より、よっぽど今のシトリー先輩の方がオカルトしてる出で立ちですね……」
僅かな時間だが人間界へと戻ると聞いたソーナがとにかく会わないかと誘うので、乗ることにしたライザー達は、リアス達もオカルトな格好をしているソーナにちょっと驚いてしまう。
そんなライザー達にクスクスと笑うソーナはすっぽりと被っていたローブのフードを外し―――ライザー達を絶句させた。
「……シトリーさん、か?」
それは全員がソーナを見紛える程に雰囲気から全てが違っていたのだ。
特にその瞳はアメジストのような色ではなく、強い激情が凝縮させた黄色の瞳だったので。
「偽者ではありません。皆さんが冥界へと追いやられて以降、少し色々とありましてね………ふふふ」
そう微笑みながらパッと一誠に向かって両手を広げるソーナ。
「へ? な、なんすか?」
「なにって、再会のハグですよ? 私とアナタはトモダチでしょう?」
「え……あ、えぇ……?」
ニコニコしながら待ってますのポーズのまま微動だにしないソーナに、一誠は困惑しながらレイヴェルや黒歌を見る。
「仕方ないので許可はしてあげますわ」
「多分してあげないとずーーーーーーーっとあのポーズのまま動かないと思うし」
「……」
確かに、と黒歌の声に一誠は思うと、おっかなびっくりな足取りでソーナに近付き、ちょうど手の届く間合いまで迫ったその瞬間、まるで獲物を喰らおうとする猛禽類のような速度で一誠の腕を掴むと、文字通り引きずり込むように一誠を抱き寄せた。
「はぁ……ぁ♪ あのバカ共のせいで、今後は毎朝挨拶としてこうする予定だったのに……」
「お、おぅ……」
「まあ、間を空けてからの方がもっと癖になりそうだからこれはこれで構わないのだけど……フフフ♪」
どうした良いのかわからないでいる一誠にソーナは刻み込むように抱き締め、そのまま数分は離してはくれなかったという。
「あの……そろそろ……」
「まだ」
「いやでも先輩さんの眷属にもし見られてたら……」
「知ったことじゃないわね」
「だ、だめだ……メンタルが振り切れすぎて勝てねぇ」
その後、一誠を解放したソーナはやっと本題を切り出す。
「大体の事は把握しております。
リアス達とゲームをするのでしょう? そこで黒歌さんも参加するとか……」
「そうだが、それがどうかしたのか?」
「いえ、いきなりSS級であったはぐれ悪魔の彼女を眷属として公衆の面前に出すと五月蝿いのも多いでしょうし、ゲームの邪魔になりかねないでしょう? なので、ギリギリまで黒歌さんには変装をした方が良いのではと思いましてね」
「変装? 私が……?」
急に話を振られた黒歌がぽかんとしている。
「……。まあ、正直言ってしまうと変装をして欲しいだけの話なんですけどね、私の弟子も見てみたいと……」
「ん、弟子?」
「ええ、最近私に弟子ができましてね、今日は皆さんにその弟子も紹介しようかなと―――噂をすればなんとやらでしたね」
弟子という言葉に首を傾げていたライザー達に対してソーナの視線がライザー達の背後に向けられる。
それに釣られて後ろを振り向くと、ソーナとまんま同じ真っ黒けなローブを着てフードを頭からすっぽり被った誰かがこちらに向かって歩いてくるではないか。
その何者かは結構小柄に見えるというか―――気配が物凄く覚えのあるものだったりする訳で……。
「遅くなりました……マスター」
「構いませんよ、我が弟子よ」
というか白音であり、到着するなりソーナに向かって膝をつきながら頭を下げてマスターなんぞと呼ぶものだから、レイヴェルや黒歌や一誠は心底驚いた。
「し、白音?」
「あ、黒歌姉様」
「どうされたのですか……?」
「キミ、シトリー先輩となにかあったのか?」
話しかけてみると何時もの白音的な返答なのだが、格好やらなにやらがソーナ共々浮きまくってしまっているせいでシュールにも程がある。
「色々と話が合うというか、気質が合ったので色々と教えていく内に、秘密裏に師弟関係になってました」
「なので私もシトリー先輩をマスターと」
「へ、へぇ……」
変な繋がりが出来上がってる事実に顔がひきつる一誠達。
決してその黒いローブの下がレイヴェルと一誠の名前が刺繍されている体操着だったりする事に引いている訳ではない。
「あのー……ローブの下は変わったお洋服なんですね?」
アーシアが天然で聞いてしまったのだが……。
「あ、これは退学になってしまった一誠先輩とレイヴェルの使ってた体操着を譲って貰ったのですよ」
「勿体ないですし、予備で着ています」
「へぇ……?」
『……………』
そんな物持ちの良さげな理由じゃないのは既に知ってる一誠とレイヴェルななんとも言えない顔をするけど、言及すると怖い事を聞かされそうな気がしたので黙っていることにした。
「ほら、ちょっとサイズは大きいけどちゃんと着れてるでしょうレイヴェル?」
「え、ええ……そのようで……」
「先輩のはちょっとブカブカだけどね? ふふ、着ると先輩とレイヴェルに包まれてる気がするんだ。
ふふふ……でもやっぱり直接が私は好き……」
ファンキーなフェニックス家とタメ張れる程度にファンキー化してる白音に、黒歌はなんとなく将来が心配になってくるのだったとか―――ブーメランがぶっ刺さるが。
続く。
オマケ・黒猫姉ちゃんの変装アイテム。
姉が姉なせいか、そこら辺は姉妹なのかもしれない程度には実はアレだったりするソーナが提示する変装とはなんだろうか? それは……。
「なにこの変なコウモリみたいなヘルメットは? それに黒い全身タイツに変な腕輪と足輪……?」
「……………エグゼのフォルテじゃねーか!?」
「流石ね一誠くん。
そう、黒歌さんにはこのエグゼ・フォルテなりきり変装セットを着てゲームに挑んで貰おうかなと……」
電脳世界の破壊神こと裏ボスのコスプレセットだった。
ちゃんとボロボロ気味のマントも準備している。
「む、胸がきついんだけど……」
「本家のフォルテは男性型のナビですからねぇ」
「切り裂かれたフォルテのエンブレムが姉様の胸で弾け飛びそう……」
試しに着てみた所、黒歌のスタイルでは色々とラインが強調されすぎて逆の意味で危険度を増したのだが、ボロボロマントで身体を基本的に隠すので、そこは問題ではないし、なんならフォルテのコスプレと聞いた途端ライザーと一誠の目が少年みたいにキラキラしていた。
「お、俺が着てみたいんだけど……!」
「ぐっ、なんというクオリティの高さ、レヴィアタン様の妹だけはある……!」
「うちの男共は……」
「あ、あれは恥ずかしくて私には着られませんね……」
こうして黒歌はフォルテのコスプレをする事になったのだが……そこからはエグゼシリーズガチ勢のソーナと、最近そこら辺の趣味の教育をソーナ直々に受けている白音は無茶な事を言い出す。
「良いですか? エグゼ1~3の基本技となるエアバーストから覚えてください」
「これは簡単だよ姉様、両手を前にだしながら光弾を出せば良いの」
「……………。何で二人は当然のようにできるのよ?」
「ファンが高じて最近は白音さんとエグゼの技を再現するようになりましてねぇ?」
「流石に本家みたいに腕をバスターには変化させられないけどね」
コスプレだけではなくて技も完コピしろと、既に完コピしてるガチ勢達に教えられる事に。
「で、出た!? 俺できてるかエアバースト!?」
「いや、それは単なるドラゴン波だな」
「ぐっ……! 割りとムズい……!」
「えーっと、両手を前に……」
「アナタまで覚えようとしなくても宜しいのよアーシアさん……」
その結果……。
「エクスプロージョン! アースブレイカー!! ゴスペルキャノン! シューティングクロー! バニシング・ワールド!!!」
「ふむ、ある程度はものにできてますね」
「ぜ、ぜぇ……ぜぇ……! 自分の異常性と仙術の応用をフル稼働させてるからなんとかできたわ……」
「良いなぁ姉様……ほら、ライザーさんと一誠先輩がキラキラした目をしてますよ?」
気合いでどうにか出来てしまった黒猫お姉さん。
そして……。
「ここからは完全発展ですが……まずはこの動画を見てください、人間の有志の方が作成したエグゼ3のMOD動画なのですが……」
「へ? ……フォルテBS? GSじゃなくて?」
「ええ……出来れば黒歌さんはこのBSフォルテも覚えて欲しいのです。
流石に私と白音さんの協力でもここまでは無理でしたが、アナタを見ている限り不可能ではないと確信できました」
「う、うわぁ……完全にプレイヤーを殺しに来てる性能なんだねこのフォルテ……。
げっ!? け、ケルベロスバニシングワールド!? 単発でもあんなに疲れるのに三連射は無理よ!?」
「やってくれ黒歌! 俺すげー見たい!」
「で、でも一誠、これは流石に――」
「やってくれたら何でもするぞ!」
「―――よっしゃあ! 意地でも物にしてやるにゃー!!」
こうして黒猫お姉さんは斜め向こう側にパワーアップするのだった。
確かにここまで完コピすれば誰も黒歌だとは思われないのだろうが……。
終わり
補足
無神臓ではないため、成長速度は並。
ただし、作り替えるというスキルを応用しまくってるので、小技は多いらしい。
その2
最早嫌悪を通り越したなにかになってるリアス一派。
嫌悪されてもされてる本人達は黒歌お姉さんの解放のことしか頭に無くてスルーしとるというね……。
その3
どこぞのシス師弟みたいな関係になっとっとた。
別名、ひんぬー師弟と言ってはいけない。
その4
コスプレさせられたかと思ったら技の完コピまでさせられる。
しかし気合いで会得した模様。
そして一誠の『なんでもする』の言葉でスイッチ入った結果―――
フォルテBSでぐぐれば性能はわかるぞい