ただし、兄貴の方が少しつっけんど
最初に言っておこう、俺の理想の女性は包容力のある年上の女性である。
なんでそうなったのかと説明すると長いようで短く、劇的なようで単純なので省くのだけど、とにかく俺が理想とする女性はそういう人なのだ。
ちなみにライザーの兄貴も俺に近い。
……まあ、二人ともそんな女性にナンパしても相手にされた事なんて一度もないんだけどよ。
そもそも『神』が成り代わりの転生をさせておきながら、本人が生存しているという事自体がおかしかった。
だから本物となるために排除を試みた事で兵藤一誠になったはずだった。
しかし排除した筈の存在はイレギュラーへと変貌して舞い戻ってきた。
そして本物へと成り代わった自分に対しての復讐をすることなく、そして自分に怯えることもなく楽しそうに生きていた。
当然今度こそは完全なる排除を試みようとした。
けれど彼の背景に存在する者達が居るせいで、下手に排除するのが難しくなった。
そんなイレギュラーと化した男の影響か、本来はたはだの脇役のひとつでしかないフェニックスが物語に介入してくる事態へとなった時から、兵藤一誠は彼等フェニックス達の行動に何度も苦い思いをさせられることとなっていくのだった。
「わかったわね小猫。
これはアナタの為に言っているの。
フェニックスと縁を持とうとなんて考えちゃダメ」
「………」
そのひとつがアーシアとの件。
もうひとつが生徒会のソーナ一派――というよりはソーナ。
そして最後に今リアスに説教を受けている白髪の少女である小猫だ。
「これは命令よ小猫」
「………………」
兵藤イッセーとしては小猫の事は特に殺意すら抱く事であった。
よりにもよってイレギュラーとなったあの男に……そう思うだけで今すぐにでも殺してしまいたい。
リアスが主としての命令をすることで、これ以上の接触は防げるようにはなれたものの、一度起きてしまった過去は変わらないのだ。
「なぁレイヴェル、なんで俺とライザーの兄貴ってあの人等にあんな嫌われてるんだ? 学校通う事になるまでは一度も会ったことなんてなかったろ?」
「端から見ればお兄様は悪魔の上級階級としての責務を放棄して遊んでいるだけの不良だからでしょうね。
冥界でもフェニックス家の恥の三男などと揶揄されてますし」
「そうだとしてもそこまで嫌うか? 嫌がらせなんてした覚えもないし」
「風評も相俟って生理的に受け付けられないからという気はするわね。
もっとも、お兄様からしたら小娘達に毛嫌いされようが気にしないでしょう。
でもアナタの場合は間違いなく兵藤イッセーが理由じゃないの?」
「ああ、消して成り代わったと思ったら生きてましたーってオチだったからってか? 迷惑な話だぜ」
「リアス・グレモリーの眷属でなければ即座に消し炭にしてドブ川にばら蒔いてやりたかったけど、あの立場である以上は下手にこちらから仕掛ける訳にもいきませんからね」
「そりゃあな、俺も上の兄貴やとーちゃんとかーちゃんに迷惑かけたくはねぇや」
「しかし昨日で大分わかってきたわ。
神とやらに与えられた力で『努力』してきたつもりのボンクラ人間ってね」
「いや、そうだとしてもそこは絶対油断するべきじゃないぞレイヴェル。
ライザーの兄貴も言ってたけど、奴等を相手にする時は慎重になりすぎるということ無いからな」
「勿論よ」
小猫がリアスによってフェニックス達との接触禁止を命令している頃、現在二人のみの風紀委員会の本部で主風紀委員室では、先日のゴタゴタで兵藤イッセーどころかリアス・グレモリー達にすら毛嫌いされている事について話をしながら何時もの報告書の作成をしていた。
「でもあんまお前をそういう奴等とは戦わせたくないんだけどな、黒歌もだけど」
「はい?」
「何でよ?」
結果、その内殺し合う時が来るだろうと考えた一誠は、その戦いとなった時にレイヴェルと黒歌を付き合わせたくはないと吐露すると、レイヴェル――そして委員長席に座っていた一誠の背後に文字通り突然姿を現わした黒歌が『どうして?』と理由を問う。
「兄貴が昔抹殺した野郎と兵藤イッセー君が同じタイプだとは限らないけど、手を出すんじゃなかろうかと心配で仕方ないぞ」
「手を出すですって?」
「仮にそうだったとしたら逆にその手を腕ごと切り落として蟻の餌にしてやるわよ?」
「二人ならマジにやりかねないってわかっててもだよ。
身内の贔屓目じゃねーけど、レイヴェルと黒歌は可愛いからな」
「「…………」」
風紀委員としての仕事を内容はともかく一応最低限はやる一誠はカリカリと書類にペンを走らせながらシレっとした顔でそう言う。
普段はライザーと二人しておばさん呼ばわりされるであろう年代の女性にアホなナンパ仕掛けまくるだらしない男の癖に、その好みから外れている所謂女の子に対しては無駄に紳士的なのは当然二人も痛いほど知っている。
「その内シトリーさんに言いやしないでしょうね?」
「それと白音にも」
「んぁ?」
なので今更一誠の言動に動揺はしないものの、頼むからもしもこの先仲良くなってしまったソーナだ小猫にそういう台詞は言わないで欲しいと思ってしまう。
「?? シトリー先輩と黒歌の妹さんに言ったらマズイいのか? うーん、言われてみたらどっちもちょっと胸が足りないけど結構可愛らしいお嬢さんではあるけど」
「もし二人に私達に向けた台詞を言ったら一週間は口を聞きませんからね?」
「あとおっぱいも触らせてあげない」
「さも常日頃俺がお前にそんな事を頼んでるように言うなや。
つーか頼んだら触らせてくれんのかよ?」
「どうしてもと言うのなら吝かじゃないわね」
「当たり前だけど、一誠だけの権利だからね?」
「マジか……!? うーんでもなぁ……。触れたら最後弱味握られて無茶振りばっかされそうで怖いからやっぱ良いや」
「そんな卑怯な事はしないわよ。
精々籍を入れろと言うだけで」
「そうそう、たったそれだけで私とレイヴェルのおっぱいが一誠のものになるんだよ? お得でしょ?」
「いやー……それだったらエシルかーちゃんからの膝枕権利の方が――――――あ、悪かったからそんな顔すんなよ?」
「「………はぁ」」
普段はこうしておちゃらけているが、本心は常に己を過小評価している心配性で、それでも折れずに這ってでも這い戻ろうとしてきた血みどろの努力家であることを見ながら共にここまで歩いてきた二人の所謂女心は常にモヤモヤさせられるのだから。
そもそもソーナ・シトリーはどれだけフェニックス家と三男の異端さによる風評が流れても気にしなかった。
それはその異端の三男の妹が初めて眷属を持つ事になった直後に貴族同士の集まるパーティで、三男と妹――そした彼女が眷属とした人間の少年を見た時点で完全に認識が固定されていたのだから。
「~♪」
「昨日の騒ぎの後から会長の機嫌が見たことないくらいに良いわね……」
「私たちの知らなかった会長の趣味と同じ趣味を持つ相手と知り合えたから……かな?」
「でもその相手って冥界じゃ相当評判が悪い人達なんだよね? 私たちも詳しくは知らないけど……」
「結局塔城さんと抱き合ってたってのは本当だったみたいだし、その内会長に変な事しないかしら……」
「特に会長は霧島君を気に入ってるみただしね……」
昨日の大きな前進によってずっと機嫌の良いソーナの耳に、眷属達のヒソヒソ話が入ってくるが、それでもソーナは機嫌が良かったし、なんならこの子達がずっと彼等を――特に一誠を敬遠して欲しいとすら思う。
趣味もそうだが一番は彼のあの精神性がソーナにとってドツボなのだ。
周りの目等を気にせず、時には外道を進んでも貫こうとする意思の強さ。
守る為には文字通り手段を選ばぬ大胆さ。
恐らく彼は過去に挫折と絶望を経験したのだろうというのは一発で見てわかった。
何故ならソーナ自身も過去に似たような経験をした事があり、その経験の果てに今の自分が居るのだ。
(きっと彼ならば私の『全て』をさらけ出しても変わらずに接してくれる……。
ふふ……惜しいのはフェニックスさんよりも早くに彼と出会えなかった事だけど、それでも私は絶対に諦めないわ)
親にも姉にも――身内と呼べる者にも見せることが出来なかった『本当の自分』を彼なら平気な顔で受け入れてくれるという、ある種の絶対的な信頼感をソーナは一誠に抱いている。
(けれどフェニックスさんと『もう一人の彼女』のガードが固いのよねぇ。
それに塔城さんも……うーん、こうして考えると案外モテるのね一誠君って)
後は彼を取り囲む鉄壁のガードをどう崩すか。
筆頭であるレイヴェルと常に気配を感じるもう一人を上手く切り崩す事ができれば……。
(でもまぁ昨日は取り敢えず彼と抱き合えたから良しとしましょう。
ふふ……他人にここまで執着した事なんて無かったけに余計燃えてくるものよ。
ふふ、今度は甘えさせてあげたいわ……)
ソーナは割りと強かなお嬢さんだった。
ちなみに……。
「ごはぁっ!?」
「覚えておけ、ある一定の壁を越えた悪魔は種族としての弱点をある程度克服できる。
だからお前の振り撒く聖水だなんだも俺にはなんの意味を為さない。
そこまで悪魔を滅したいのなら、少し勉強し直せ――神父君?」
「ら、ライザーさんが悪魔……?」
皆がほのぼのしてる頃、ミニ◯駆のパーツを買いに行っていたライザーは、一般人を襲う神父とそれを止めようとしていたアーシアを発見してしまう。
当初はリアスとの約束通り見なかった事にして通りすぎようとしたのだが、その神父がライザーを見るなり悪魔だと騒ぎ立てながら襲い掛かって来たので、仕方なく応戦。
その結果、アーシアに正体を知られる結果となってしまった。
「そんな、嘘ですよね? フリード神父が間違えているだけですよね? ライザーさんは悪魔では――」
「残念ながら事実だよお嬢さん。
信じるわけもないだろうが、別にキミを騙すつもりなんてなかった――ただ聞かれなかったから答えなかっただけだ」
「そん……な……」
「だがこれでわかっただろう? キミは俺達と関わるべきじゃない。
この神父小僧の命も取らんからさっさと連れて去れ。そして顔を合わせるのもこれっきりにしようじゃあないか」
「………………」
けれどライザーは動じる事なく背中を踏みつけて地に縫い付けた言動とテンションが物騒な神父を気絶させて無力化すると、ショックで気が動転しているアーシアに自身の正体を明かしながら、もう会うのはやめるべきだと忠告し、そのまま去っていくのであった。
補足
ここまで毛嫌いされる理由は冥界での悪評が割りと広まってしまっていたから。
つまり教育によろしくない的な意味で。
その2
レイヴェルたんと黒歌さんにはラフにこんな台詞を吐くからこうなる。
その3
ソーたん的には彼は運命の相手認定してる模様。
全てをさらけ出したら多分『危険生物』認定されるけど、きっと彼はそれでも変わらないと。
………大体合ってますけどね。
その4
ほのぼのしてる裏でどんどん話が進む。
でも壁越えフェニックスなのでサクサクと拗れていく人間関係以外は進むのだ。