色々なIF集   作:超人類DX

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続き。

この一夏君は無限夫婦を見て育ってるので……みたいな。

※直しとタイトル変更……といっても逆にしただけですけど。


建前と本音

 クラスの代表ってのはクソヤローがなってめでたしめでたしとなったとさ。

 つーか誰がなったって一緒だろうと思うのだが、クラスの女子の大半は奴が男子である奴になって貰いたかったらしく拍手と歓迎をしている。

 

 その際、えーっと誰だっけ? クラスの副担任の巨乳せんせーが『一組のクラス代表に織斑一夏君。一繋がりで縁起が良さそうですね~』なんて訳のわからん事を言ってたのを何となく覚えているが、それ以外の事はあんまり覚えてない。

 

 

「G? いやそれ以上……だと……?」

 

「一夏、ジロジロ見たら失礼だよ」

 

 

 てのも、クラス代表に駆り出される所を嫌だと言って簪にも援護をして貰ってから、元姉――いや、向こうは織斑一夏を奪った方のを弟と思ってるから元もクソも最早無いのだが、その織斑千冬からの視線が微妙に俺を警戒してるそれになっているのだ。

 

 

「P28を兵藤……お前が朗読しろ」

 

「へい。えーっと、ISの武装には様々なものが開発されており――」

 

 

 まあ、自分の弟だと思ってる皮被りのクソヤローと似てるじゃ済まされないレベルの奴が、前情報も碌に無く、しかも世界で最初の男性操縦者と織斑一夏が発覚して直ぐという笑えないタイミングで現れたのだ。

 恐らく織斑千冬は俺や俺の血縁関係を既に洗っていると思って間違いは無い。

 

 

「…………」

 

「―――である。

……あの、どこまで読むんすか? 次のページもですか?」

 

「……。いやいい座れ」

 

 

 が、織斑千冬に分かったのは恐らく『何も分からない事が解った』という結果だろう。

 孤児だった俺を引き取った血の繋がりの無い金持ち兄とその嫁の下でスクスクと育ち、更識家の次女とは幼馴染みの関係ぐらいしか、分かってもその程度くらいか?

 

 

「女の子の好み? 決まってんじゃん、強くてムチムチしてる娘が大好物さ」

 

「わぉ、実に思春期の男の子ってかんじ~

織斑君と全然違うわ」

 

「彼は何て? あ、何かコッチをガン見してきてる所を聞いて悪いけどさ」

 

「ええっと、外見じゃなくて優しい人……らしいわよ?」

 

「ぷっ……くくっ! 何その超絶嘘臭ぇ台詞――ごほんごほん!

あ、あれじゃん、じ、実にイケメンっぽさ爆発な模範解答だね。

さぞこれまでの人生はモテモテだったんじゃねーの、なぁ簪?」

 

「そうだね。それより一夏……?

ムチムチしてる女の子って言ってたけど、それって私に対する当て付けかな?」

 

 

 故に、クソヤローの塗り固めた作り物の顔を剥がして素に戻したらどんなリアクションをするのかが地味に気になる訳で……。

 休み時間になって簪と簪の友達の布仏さんと布仏さんが仲良くなった伝で何と無く話をするようになった夜竹さんって子と、男子である俺は疎外感を感じる事無くちょっとしたトークをしてる最中も俺はどのタイミングでクソヤローに精算をさせるか考えている訳だ。

 まあ、奴の戦力がどの程度か分かれば直ぐにでも公開の下、その作り物で俺から奪い取った全ての前で思い知らせてやるけどな。

 

 

「………。兵藤さんの性格はどうも一夏さんとは全然違いますわね」

 

「顔は似てるんだが、何だか遊んでそうというか……一夏とは大違いだな」

 

「…………」

 

 

 簪と仲良しだったってお陰なのか、クラスの女子相手にそれなりな……少なくともな冗談混じりの会話が成立するくらいには溶け込んでいると思う。

 それはクソヤローの方も同じらしく、あんだけ罵って毛嫌いすら顔に出してたセシリア・オルコットっていう金髪美少女さんは、どいう訳かすっかり化けの皮被った似非野郎にホの字のご様子であり、逆にクラス代表の座から降りた俺を逃げた只の男……と嫌ってはないものの幻滅してるといった目を向けている。

 それは……元幼馴染みでクソヤローが現れてからアッサリと元姉共々クソヤローを信じた篠ノ之箒もまた、軟弱でチャラチャラしてて嫌いだって顔に出ている。

 

 

「当て付けのつもりとかは無いんだけど……」

 

「ふーん?」

 

「仲良いよねかんちゃんと兵藤くん……」

 

「仲良いというか……まあ、餓鬼の頃からずっと暇さえあれば一緒だったしな?」

 

「うん、本音や姉さん達に黙ってたのは謝る……ごめんね?」

 

「い、いや良いよ! うん……」

 

 

 とはいえ、割りとオープンにこういう事を言うもんだからあっつー間に3枚目キャラ扱いされちゃってる辺り、オーフィス姉ちゃんの言うとおり、どうも俺は一誠兄ちゃんに似てしまったらしい。

 

 

 

「話は戻るけど簪は自分の体型を気にしすぎだぜ。

夜竹さんも思うだろ? 簪は言うほど貧相じゃないって」

 

「うーん……確かに制服越しだから無責任には言えないけど、普通に女の子らしいと思うわよ? ね、のほほんさん?」

 

「え、あ……う、うん」

 

「ほらな?」

 

「本音に頷かれると微妙に嫌味に聞こえてしまうのは、私が捻くれているのかな……」

 

「あー……のほほんさんって大きめの制服でカモフラージュしてるけど、結構良いスタイルだもんねー……」

 

「それは俺も思う。ぽよんぽよんしてそうだもん……特にその隠れ大盛りが――」

 

「あ、あぅ……。

は、恥ずかしいから見ないで欲しいな……」

 

「一夏?」

 

「あーはいはい……。でもウチの兄ちゃんと比べたら俺はまだまだ紳士だと思うぞ?」

 

「お兄ちゃんの場合、それがカモフラージュでお姉ちゃんにゾッコンだから良いの」

 

 

 似てても良いんだけどね。

 寧ろ似てると言われた方が嬉しいくらいだ。

 あの二人の弟であれると実感できる……それは俺にとってのアイデンティティーとも言えるのだから。

 

 それにそっちの方が、この布仏っつー子も色々とやりやすいだろうしね……。

 

 

「しっかし、のほほんさんって餌付けとかしたくなるタイプだよな……」

 

「兵藤君もそう思う? 実は私ものほほんさんと仲良くなってからはそう思うようになっちゃって……」

 

「え、餌付け……?」

 

「本音は可愛いからね……羨ましい」

 

「え、か、かんちゃんだって可愛いよー!」

 

 

 例えば、実は簪とただならぬ仲でしたって彼女の上……つまり簪のねーちゃんとかに報告しやすかったりな。

 

 

 

 

 生きていただけでも邪魔なのに、IS学園に来るどころか俺のフラグまで邪魔してくる。

 セシリアは此方側に引き込めたが、これでは更識楯無――いや刀奈達とのフラグが立て辛くなる。

 

 まさか簪があの絞りカスと会ってあんな仲になってたなんて……何処までも余計な事ばかりだ。

 

 

「兄ちゃんがサバイバルな性格してるせいで、気付けば蛇とかも食えるんだぜ?」

 

「え……そ、それはすごいわね」

 

「あの……お兄ちゃんって誰? それにお姉ちゃんってかんちゃんも言ってたけど、楯無様じゃないよね?」

 

「一夏のお兄ちゃんとお姉ちゃん。

私も一緒になって呼んでるってだけ」

 

「ふ、ふーん」

 

 

 

「………」

 

「へ、蛇を食べるって……冗談で言ってるのかしら」

 

「まさか……単に女の気を引くための口車だろ。くだらん」

 

 

 まさかとは思うが……。

 その一夏の兄と姉とやらは俺と同じ転生者なのか? だとしたらマズイ。

 向こうは俺を転生者だと気付いている筈だし、一夏に何かしらの転生特典の力を応用して与えている可能性もある。

 というかそもそも一夏が簪にフラグを立てている時点で、その二人は怪しい。

 やはり一夏を殺すか……いやしかし殺したらソイツ等が出張る可能性があるから迂闊に仕掛けられない。

 

 

「お兄さんとお姉さんが地味に気になるんだけど……」

 

「あ、私もかなー……なんて」

 

「何だ何だ気になる? 気になっちゃう? ウチの兄ちゃんと姉ちゃんはスゲーぜ? 兄ちゃん姉ちゃんって言ってるけど、実際俺からすれば兄ちゃんと姉ちゃんってだけで二人は事実婚の夫婦だからね」

 

「え、夫婦なんだ?」

 

 

 クソ、どの程度の力を持ってるか解らない今のままじゃあまりにも危険だ。

 バカなのか知らないけど、絞りカスがベラベラ語ってるから想像するに夫婦らしいが……。

 

 

「でも多分写真とか見せたら誤解すると思う……特にお兄ちゃんを」

 

「へ?」

 

「誤解? 何を?」

 

「あー……まあ、確かに。

兄ちゃん本人も言われると怒るくらいは気にしてるしな」

 

「「? ? ?」」

 

 

 クソ……話を聞く限りじゃ刀奈達とはフラグになってないらしいから先手を討てばどうにかなるかもしれないが……。

 

 

 

 

 更識家は暗部である。

 そしてその暗部家の長女である更識楯無は、暗部としての訓練を経て天才的な才能を今尚伸ばしているが、昔から一つだけ悩みがあった。

 

 

「――以上の事から、兵藤一夏には兄と姉と呼ぶ夫婦が居るらしく、恐らくは兵藤一夏自身とかんちゃんを『おかしな道に誘った』のだと思います」

 

「そう……」

 

「そして多分、直接的にかんちゃんを誘ったのが兵藤一夏だと」

 

「それは解ってるわ。

まさか……今の今まで更識家でも掴めなかった簪ちゃんの『変わり様』が世界で二番目の男性操縦者――しかも昔からの幼馴染みだったなんて、ホントに笑えないわ」

 

 

 妹……簪の変化。

 かつては人見知りが激しく、自分と比べたら暗部としての才能が皆無だったその簪は、ある時を境に自分達を平然と潰せるだろう、異常な力を身に付けた。

 オドオドしていた態度は日を追うごとに『誰を前にしても平等に冷静で、氷の様に冷たい雰囲気を』纏った、さながら殺し屋を思わせるソレへと変わり、同じ人間――血を分けた姉妹なのかすら疑ってしまう異様な力を見てしまった時は、どうすれば良いのか解らなくなった。

 

 勿論何度も『どうやってそうなったのか』

 毎日の様に何処かへ行くが、『誰と会っているのか』と問い詰めた事も一度や二度じゃないし、尾行だって何度も決行した。

 

 しかし何時だって簪は尾行や問い詰めを煙に撒き、その異常で人じゃない力の様に『掴み所の無い表情』で、私なりに変わりたいと思ってるだけと答えるだけで具体的な事は何一つ教えてくれなかった。

 

 かつて才能に溢れた姉である自分との差を実の両親に指摘された事をコンプレックスに思い、自分に嫉妬しているから教えないのか――それは解らない。

 

 

「兵藤一夏の兄と姉は調べても解らないし、今は良いとして彼本人に口を割らせるのは……出来るかしら?」

 

「……。わからない。

かんちゃんが見せた力と同じような力をもしも持ってたとしたら、私達にはどうすることも出来ないのは確かだけど……」

 

「簪ちゃんは私達に対して『一見普通の姉妹や友達として』振る舞ってくれるけど、簪ちゃんのその目は誰も見ていない……兵藤一夏以外は」

 

「………」

 

「簪ちゃんを変えたのは間違いなく兵藤一夏……か」

 

「お部屋も一緒みたいです」

 

 

 兵藤一夏と簪の仲は単なる友達とは思えない繋がりがあるのがわかった……。

 近くで観察と諜報をしていた本音の報告でほぼ確信すら持てる位に少なくとも簪は兵藤一夏に惹かれているだろう。

 

 

「変えたのは兵藤一夏……か」

 

 

 織斑一夏の事もそうだが、更識楯無は兵藤一夏に意識を大きく向けている。

 妹の簪が変貌した原因として……。

 

 

「スケベそうだからそれで釣るのは……」

 

「かんちゃんが黙ってないと思いますけど……」

 

「だよね……。今の簪ちゃんを怒らせたら……只じゃ済まされないかも。虚ちゃんはどう思う?」

 

「…………。やはりそういう手では無く直接兵藤一夏を問いただしてみるべきかと。

勿論リスクは大きいですが、本音の目線によれば彼は決して取っ付き難いという訳では無さそうですし」

 

 

 妹の才能を塗り替えた。

 妹の価値観をすげ替えた。

 妹の関心を肉親以上に己へと向ける様にした。

 

 既に完全な変化を遂げてから数年では利かない年数となっているが、楯無は妹の変化に納得も理解もしたくは無かった。

 

 だって……今の簪は実の両親ですら――暗部に属する自分達がハッキリと思える程の異常(バケモノ)なのだから……。

 

 

「あの、それとは別に織斑一夏の方が何故か楯無お嬢様と話がしたいと、『言った覚えなんて無いのに、何故か私がお嬢様と繋がってる事を知ってる風に』言ってきたのですが……」

 

「それもそれで妙ね。

織斑千冬の弟で、幼少期から才能溢れる男の子だったらしいけど、私達暗部の事を知ってるなんて、一体何処で知ったのかしら……」

 

「それは……私にもちょっと。

ただ、織斑一夏は私に――いやお嬢様に『兵藤一夏から簪を離した方が良い』って言ってました」

 

「……。どうやら織斑一夏は兵藤一夏の何かを知ってる様ね。

兵藤一夏に接触する前に先にそっちに話を伺ってみるのも手……か」

 

 

 更識楯無は少なくとも個人的には、妹を妹では無くした兵藤一夏を好ましいとは思わなかった。

 

 

 

 

 一夏はスケベだ。

 織斑一夏……つまり一夏から一夏としての全部を奪い取って生きてる方はどうだか知らないけど、私の知る私の一夏はスケベだ。

 

 

「セシリアはもう少しビットを細かく同時に動かせる様に練習するべきだと――」

 

「おい一夏私には何も無いのか! オルコットばかりで――」

 

「い、いや箒はもう少し基礎を……」

 

 

 

「ぬぬ……何度やっても遅すぎるだろ。

ISって光速で戦闘するって話じゃ無かったか?」

 

「軍事用で音速レベルらしく、基本的にはその手前……かな?」

 

「んだよ……。

兄ちゃんの黒神ファントムの億分の一かよ。拍子抜けだぜ」

 

 

 イザとなればどうぜ生身でぶっ飛ばすから、程々に勉強する……という一夏に付き合い、向こうで篠ノ之さんとオルコットさんに挟まれて揉めてる織斑一夏の視線に鬱陶しさを感じながら、一度だけだからと二番目の男性操縦者の名目を利用して借りてきた訓練機で、基礎的な動作を織斑一夏目的殆どの女子達でごった返してる訓練場で細々とやっている――――というのは一夏の建前。

 

 

 

「お、あの子Cだな――ぬほ!? あそこのロングヘアーの子はDだぜオイ! 兄ちゃんが居たら小躍りするパラダイス空間だな!」

 

「…………」

 

 

 本当はISスーツという、身体のラインが解りやすい……例えるなら水着っぽいスーツに身を包む女子を見て騒ぎたいからという理由で訓練の真似事をしている。

 成長するにつれてイッセーお兄ちゃんの悪い所ばかり似たせいで、私としては複雑極まりない……私だってISスーツ姿なのに何にも言ってくれないし……。

 

 

「聞いてるのか一夏!」

 

「一夏さん! さっきから何処を見てらしてるの!?」

 

「い、いや別に……」

 

 

 見てると言えば、どうでも良い顔が似てるってだけで私からすればその顔すら一夏とは違うと思える男。

 オーフィスお姉ちゃんじゃないけど、イッセーお兄ちゃんが他の女の人にデレデレするのを建前だとしても見ててモヤモヤする気持ちがよく分かる。

 

 

「いやー眼福眼福。

正直乗り気じゃなかったけど、こりゃ良いぜ……にへへ」

 

「はぁ……」

 

 

 これは確かに冗談だったとしても嫌だと思ってしまう。

 今更愛だ恋したなんて一夏と私の間にある訳じゃなく、更に云えばイッセーお兄ちゃんとオーフィスお姉ちゃんの、言葉に表さずともお互いを大切にし合っているという理想的な関係を毎日の様に見てきた影響で、私と一夏もある意味似てる状況なのかもしれないけど、間近で良く知りもしない子に嘘でもデレデレしてる姿を見るのは……やっぱり嫌だ。

 

 

「で、皮被りのクソやローは終始ハーレムしときながら簪をガン見してたけど感想は? もしかしてきゅんと来た?」

 

「……。オーフィスお姉ちゃんに言いつけて良い?」

 

「っ!? お、おいおい……じょ、ジョークが通じないお前じゃないだろ? 勘弁してくれよ」

 

「それくらいどうでも良い人を引き合いにだされるのは嫌だって事。

一夏はそこら辺がまだわかってない」

 

「お、おう……ごめん?」

 

「ん、良いよ別に。どーせ私は地味で眼鏡でボインじゃないし」

 

 

 これ以上を見られるのも嫌なので、一夏に言ってさっさと訓練を終わらせて寮に戻る帰り道、ニヤニヤしながらからかう一夏に私は不貞腐れた。

 確かに好きだとか、付き合ってくださいなんて告白を私も一夏もしてない。

 けど……うん……お互いがお互いをどう思っているかなんて今更言わなくたって解っている……。

 だから、それが例え冗談だとしても、今みたいなからかい文句は一夏に言われたくない……寂しくなるから。

 

 それを察してちょっとシュンとする辺りは解っててくれるみたいで良いとは思うけどね。

 

 

「冗談は置いておき、真面目な話、あのクソヤロー……まさか簪を狙ってるんじゃなかろうか。

どうもお前ばっかり見てるんだよねー……元幼馴染みとかオルコットさんに取り合いされてる対象になってる時もずっとよ」

 

「それは、自意識過剰じゃなく感じた」

 

「だろう?

ぶっちゃけISの訓練場に居るところをわざとお前と訓練してた訳だが、その時も器用にお前ばっか見てたしな」

 

「……。だから帰りたくなった」

 

 

 お兄ちゃんの体験談曰く、そういう人はどういう訳か特定の人物の顔と名前を普通に知っているらしく、嘗てまだ何の力も持ってなかったお兄ちゃんから全てを奪い取った挙げ句殺そうとした男もお兄ちゃんの名前を普通に知ってたらしい。

 となれば織斑一夏も同じような……何処からか現れた顔も名前も元は違う人間で間違いない。

 

 どうでも良い相手ではあるが、一夏から全て奪い取った挙げ句嘲笑いながら死ねとまで言った男に対して良い印象なんて聖人君子でも無い私は持たない。永遠にね。

 

 

「でも我慢して私が囮になっても良いよ。

それで手でも出してきたら――」

 

 

 だが一夏の目標の為になるのであれば、例え嫌いとも云うべき相手だろうと我慢して良い顔してあげられる事は出来る。

 私を此処まで成長させてくれたイッセーお兄ちゃんとオーフィスお姉ちゃん――そして何よりもその切っ掛けとなってくれた一夏が望むのであれば私は嫌いな相手だろうと好きになれる覚悟がある。

 

 

「そのやり方は永遠に頼まないな……つーかあり得ない」

 

 

 訓練場を出て夕日が照らす道を寮館へとトボトボ並んで歩く中、私が口にした言葉に対して一夏は、それまでのチャランポランな雰囲気をガラリ変えた真面目な表情で歩を止めて、無いと言い切った。

 

 

「偶々出会って偶々一緒に切磋琢磨し続けて八年近くなる。

そんな親友(アイボウ)に俺がそんなクソみたいな事を頼むと思うか?」

 

「…………無い、かな?」

 

 

 ちょっとだけ心外って顔で夕日を背に話す一夏に、私も足を止めながら首を横に振る。

 確かに一夏なら頼まないし考えもしないのは分かってる。

 ただ私が言ったのは、からかってくるばかりだからお返ししただけ……。

 そう……一夏はこういう事は絶対に言わないし、これこそ私が一夏を大好きな理由……。

 

 

「無いかな? じゃない、絶対に無いんだよ。

このネガティブ簪め、もしもお前が嘘でもクソヤローと微笑ましい会話してるの見せられたら、俺は殺人犯として指名手配されても関係無しにクソヤローの顔面を即刻剥がしてウジ虫の餌にしてやるぜ」

 

 

 オーフィスお姉ちゃんがよく口にするイッセーお兄ちゃんをもっと好きになる理由と同じ。

 普段はへらへらとだらしなくて、女好きで、お馬鹿な事ばかりやるけど……。

 

 

「簪は俺の本当の相棒(パートナー)だ。

だから誰にも渡すつもりは無いさ」

 

 

 イザと言うときは誰よりも優先してくれる。

 夕日を背にちょっと乱暴に私の頭を撫でながら笑う一夏は、初めて会った時の当時私より小さかった頼りなさは無く、十全命を預けられる頼もしく、そして大好きな相棒(パートナー)そのものだと、私は心の底から思う。

 

 

「うん……!」

 

 

 一夏はスケベだ。

 時には他の女の人にデレデレするかもしれない。

 けど、そんな一夏でも私は嫌いにはならない……。

 だって……。

 

 

「あ、そういやISスーツ姿の簪は結構イカしてたぜ? へへっ」

 

「バッチリ見てたんだ……えっち」

 

「そりゃ見るだろ。誰でもない簪だしな」

 

 

 弱かった私に手を差し伸べてくれたヒーローで、大好きな男の子なんだから……。

 

 

「まあ、一夏好みの胸の大きさは無いけど……」

 

「いやだからな?

簪は比較対象が大きいからであって、簪だって普通にぽよんぽよんしてると思うぜ? 抱き枕して貰ってる俺が言うんだ間違いねーぜ」

 

「じゃあ今日もしてほしい?」

 

「欲しい欲しい! お前にあぁして貰うとフワフワした気持ちで眠れるし、何より好きだし」

 

「ふふ、じゃあ早く行こ!」

 

 

 だから……あんまり他の人にデレデレしないでね? 切なくなっちゃうから。

 

 

 

終わり

 

 

オマケ

 

その頃の無限夫婦

 

 

 ロリコンじゃない……と言い続けて何年経ったかわかんね。

 しかし世間的にはやはりオーフィスと見た目と俺は釣り合わないらしく、犯罪の臭いがプンプンとしてしまうらしいが……最早最近は否定するのもアホらしくなって来たぜ。

 

 

「寮生活っつーか、IS学園の寮なんて絶対豪華なんだろーな。

ったく、最近のガキは贅沢だな」

 

「我は別に広い家が贅沢で羨ましいとは思わない。今のままで充分」

 

「まあ、そーなんだけどよー……。女の人の立場が強くなってるこの世の中、簪が一夏の傍に居てくれるとはいえ、パシりにされてないか微妙に心配というか……」

 

「パシり? 一誠がヴァーリと曹操に対して命令してる時みたいなやつ?」

 

「そうそうそれ。まあ、一夏ならお人好しの気があるからホイホイ聞いちゃってんのかもしれないけど……」

 

 

 一夏と簪という……曰く俺とオーフィスに似てるコンビがIS学園の寮暮らしになった事で、久々にオーフィスと二人だけになっているこの状況。

 俺は別に何十年という時を、殆ど人間の身体になっているコイツと生きてるので思うことはないが、世間的にはそうでも無いらしく、近所に居る引きこもりニートのクソガキに『幼女と生活とか羨ましい』としょうもない殺意の籠った目で何度か睨まれた事があった。

 

 まあ、所詮口だけの餓鬼の戯言だし、文句あんなら聞いてやるから言ってみろよ? と言ったら吃って何も言えない雑魚なんで気にもしてない。

 

 

「一誠、我の身体を洗って欲しい」

 

「はいはい……いい加減テメーでやれよな。

……結局やってやってる俺が言うのも何だけど」

 

 

 そりゃ嫌がってる相手にともなれば両手に手錠の逮捕かもしれんが、生憎コイツはテメーから進んで+見た目はガキだから中身は無限に生きてる龍神なんだ。

 最早慣れちまったせいで、風呂も一緒に入らされるし、言われた通りに髪と身体も召し使いの如くやって差し上げますよ。

 

 え? その事を突っ込まれてヴァーリと曹操をチェーンソーで解体しようとしてた?

 ふっ……昔の話だ。

 

 

「や! 一誠の手でやって欲しい」

 

「手だと時間食うから嫌なんだけど……まぁ良いや。

そら、まずは背中向けろ」

 

「ん……♪」

 

 

 昔から変わらずに頭を洗うのは嫌な癖に、何でかこっちは乗り気なのが地味に作為的な匂いを感じるものの、急かす様に身体を揺らしてるオーフィスを見てると考えるのもバカらしいので、言われた通りにお肌に優しい弱酸性のボディーソープを両手に塗りたくり、オーフィスの小さい背中にすり付けて泡を立てながら洗う。

 

 

「♪」

 

「ヴァーリと曹操が『自覚無しになってる辺り、手遅れだな』と生温い顔して言ってたが……まさかな」

 

 

 心地良さそうに声を出すオーフィスの背中と肩を一通り洗いつつ、こっちに逃亡――じゃなくて偶々流れ着く前に居た世界でのパシり共に言われた事を思い出しながら小さい背中を洗う。

 

 

「ひんぬー会長がしきりに『私にもやってよ』とか言ってたが……まだあの人相手にやってた方が健全なのかも」

 

「む……」

 

 

 お湯を掛けて泡を流している最中、頭の中にチラつく眼鏡のひんぬー会長……いや最早今は只のひんぬー悪魔さんとの卒業後も続く付き合いの中で言われた事を何と無く思い出す。

 

 あの人……結局別に悪い人じゃないし、悪魔の中じゃ最も信用出来る人で間違いないんだけど、何というか何故か俺に執着してるというか……っと?

 

 

「背中だけはやだ、前も……」

 

 

 考え事しながら適当な作業なのがバレたのか、それともひんぬーさんの話を出したのが不味かったのか。

 ちょっとムッとしてる声で俺の手を掴んだオーフィスが自分の腹部辺りに押し付けながら前も洗えと言い出す。

 

 

「おいおい……そろそろ自分でやるって努力は――」

 

「早く……お願い……!」

 

「……。へーへー」

 

 

 背中だけしか洗ってないのが嫌なのか知らんが、掴んだ手を離したオーフィスは、そのまま両手を上げで万歳をしながら前もといって聞きやしない。

 コイツ、初めて会った時から波長が合わないのか、あのひんぬーさんとはマジで仲が悪い。

 勿論互いに殺意があるという意味じゃあ無いのだが、事あるごとに言い合いをしてるというか……あ、はいはい洗います洗います。

 

 

「んっ……や……ぁん……!くすぐったいよいっせー……♪」

 

「なら自分でやれよ。つーか喜んでしゃねーよ」

 

 

 二の腕、脇腹、脇の下……とボディソープを擦り付けつつ洗う度に擽ったそうに身体を揺すりながら心地よさげな声を出すオーフィスに、段々自分が何をやってるのか分かんなくなってきた。

 

 ていうか、慣れすぎてなーなーだけど、冷静に考えると普通に犯罪全開な絵面だよなこれ。

 コイツが龍神で人間の餓鬼に擬態してるって知ってるから何も思わないが、世間様からすれば性犯罪者だわこれ――と、ご機嫌なオーフィスの後ろで徐々に自分のやらかしてる事に気付き始めた俺の気持ちを他所に、弾んだ声のオーフィス的にはまだ終わりでは無いらしい。

 

 

「ここもやって?」

 

「……。あのさ……チッ、はいはい」

 

 

 いくらか人間らしくはなったとはいえ、根本的には人間的モラルなんてコイツが考慮するわけも無いし、段々と考えるのもアホらしくなってきた俺は、やけくそにも似た気分で、言われた通り後ろから手を回して前も洗う。

 

 

「ぁ……ぁ……イッセーの手でお腹かポカポカする……」

 

 

 しかし、どうも洗ってやってる最中ずっと変な声を出してピクピク身体を揺らすオーフィスに疑念が生まれてくるし、現にさっきから変だった。

 

 

「やっぱり分かっててこんな真似させてるよなお前?」

 

「し、知らな……ぃ……。

我はイッセーに洗って欲しいから頼んだだけ……ぁ……ぅ……」

 

「…………」

 

 

 そう言いながらも変な声を止めずに、身体を震わせながや俺の手を掴み始める。

 ……。いやいや、こんな餓鬼の姿に欲情は全然ねーけど、それでも段々イラッとしてくるし、オーフィス自身がわざと言ってる気がしてきた。コイツは惚けてるけど。

 

 

「んっ……イッセー……我のココがむずむず――」

 

「ほらな……二人が居ないからって急に露骨になりやがって……このアホめ」

 

 

 しかし惚けてても段々と何故か息が荒くなってきたオーフィスがアウトな事を暴露しやがった。

 やっぱり完全な黒じゃねーかと確信した俺は、頬を赤くしながら背中越しに此方を見てくるオーフィスな後頭部を思いきりぶん殴ってから真水をぶっかけてやった。

 

 

「痛い……冷たい。

イッセーの本に書いてあった事を参考にしただけなのに」

 

「お前な……いやもう何も言わねぇ」

 

「うぅ、むずむずして切ないよいっせー……。

我のお腹が欲しいって言ってて我慢出来ないぃ……!」

 

「知るか、自業自得だアホ」

 

「うー……おかしい。

新しい本にはこの流れでそのままお風呂で子作りするのに」

 

「本をアテにするなよ……。お前龍神だろうが」

 

 

 まさかコイツ、簪に余計な事とか教えてねーだろうな? 一夏はまだガキだから簪にそんな真似されたら―――いやあの二人場合は、合意なら反対するつもりなんて無いけど……。

 

 

「なら、ちゅーで我慢するから……んっ……!」

 

「っておい! いきなり……んぐ!? し、舌はやめ……んむむみゃ!!」

 

 

 俺の場合は素の力だとコイツに分があるもんだから……クソ、ロリコンじゃないのに見た目ロリにこんな事されたら、そりゃあロリコン呼ばわりされるわな! くそったれぃ! 頼むからそこだけは真似るなよ一夏!

 

 

 

 

 

「イッセー兄ちゃんはよくオーフィス姉ちゃんにこんな感じの膝枕をしてたのは知ってるだろ? こんな感じの」

 

「う、うん……そうだけどちょっと恥ずかしいかな。だってお兄ちゃんとお姉ちゃんの見て思ってたけど、これって膝枕じゃなくて『お腹抱き枕』だもん……」

 

「まぁ言われてみればそうだけど……んー……二人がよくやる理由がスゲーわかるぜ。

簪の腹は温くてスヤスヤいけそうだぜ」

 

「……。別に私じゃなくてももっと肉付きの良い女の人にして貰えばもっとスヤスヤできるんじゃない?」

 

「だからそなネガティブ思考やめろし。

考えるまでも無くこんな事頼めるのはお前だけだし、他の奴に頼むつもりも無いっての……。

それに肉付きとか言ってるけど簪はちゃんと女の子らしくなってんじゃん……ほら」

 

「あっ……!? ちょ、ど、何処に顔を……!」

 

「えっと、コンプレックスに思ってる胸。ほらぽよんぽよんしてるぜ?」

 

「うー……!」

 

 

 以上、子は兄夫婦の背を見て育つ。

 

終わり




補足

一誠と同じです。
基本だらしないですが、イザとなれば全てよりも優先して簪さんの為に動きます。

故に、かつてオーフィスたんが偽龍帝に付きまとわれた際にぶちのめした一誠みたいに、もし簪さんが似非一夏にとれなればぶち殺し確定ねしちゃうかも……。

まあ実際問題似非に簪さんは触れられませんけどね某黒猫さんみたいなチートだしこのスキル。


その2

長年共に居たせいか、完全に感覚が麻痺してる一誠くんと、エロロリ龍神ちゃん化が止まらないオーフィスたん。

何やかんやで喧嘩はせず上手くやってるという……辺りはやはり一夏君の言うとおり事実婚なのかもしれない。





最後
続きは……感想が来たらモチベがあがってやるかもしれい。

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