罰則の為に試合に出場をしなければならなくなってしまった一誠自身は誰かと肩を並べて戦う経験がリアスとしかなかったりする。
何故なら数多のハードな世界と違い、彼はリアスと二人だけで世界に抗っていたのだから。
これがもし
しかし彼にとっての仲間は。同志は。友は。肩を並べて抗う存在はドライグ――――そしてリアスだけであった。
それに加えて恋人のようは関係でもあったリアスを喪った事は自分の精神の半分を喪ったも同義である。
故に今の一誠はすべてに置いて投げ遣りであり、少々攻撃的なのである。
「要するに見映えの良いコンビネーションで勝てば良いんだろう? それならお前が好きに動いてそれに俺が合わせりゃあの教師も納得するだろ」
「む……教官はそんな付け焼き刃には騙されないぞ」
「そうだろうが、勝ちは勝ちだろ。めんどくせぇんだよ」
そんな一誠が罰則とはいえ、リアスやドライグ以外と共に戦うのは未経験にも近いものがあり、しかもそのペアとなる相手は直前までうっかり殺しそうになった少女ときた。
「俺はお前と違って、あの教師にどう思われようかどうでも良いんでね」
「……その教官に世話になってた癖に」
「ちげーな、善意の押し付けをくらっただけだ」
試合中に喧嘩でもしかねない程に相性最悪なコンビの先行きはとても不安なものがあった。
最近部屋が変わったということで、すっかり一夏との縁が切れ気味になってしまっていた更識簪が、最近転校してきたらしい眼帯の女子と共にふて腐れた顔をしながら訓練場に向かう彼を見たのは偶然であった。
一夏と本音が彼の情報源であり、その片方を失った事で彼にますます近寄れなくなってしまった簪にとっては天が与えた偶然であると思って、ついついこっそりと後を追ってみれば、どうやら今月末の試合に出る為の訓練だったらしい。
(む、彼はあの女子と出るの……? てっきり篠ノ之箒と出ると思ってたけど……)
彼の人となりはそれなりに把握していたつもりであった簪にとってすれば、転校したばかりの女子とペアを組む事自体が意外であり、一度は完全に拒絶された身としては少々納得いかない気分であった。
「ウォラッ!!!」
「ぐぅ!? パ、パワーは認めるが、そんな大振りでは当たら――――」
「ディィィリャァァァッ!!」
「おぎゃあっ!?」
とはいえ、彼がISに搭乗する姿を見るのは初めてだったのでそれはそれで良いとは思う簪は、なんというかIS同士の戦いとは思えない――例えるならチンピラの路上での喧嘩のようなやり方で訓練相手の女子にえげつない攻撃を仕掛けている一誠をキラキラした目でただただ見ていた。
(流石にビームは出さないか……あとあの赤い腕も)
目潰しはするし女子の頭を壁に何度も叩きつけまくる一誠を見ている限りは、どうやらあの凄い力は見れそうも無い。
しかしこれはこれで、ヒーローに見える彼のアウトローさが見れるという意味では満足だった。
……ぶちのめされてる女子はまことに気の毒だが。
「絶対防御って機能は便利だなオイ? 加減してるとはいえ、間違えてぶち殺す心配はないって訳だ」
「そ、そうかもしれんが、痛いものは痛いんだぞ!?」
「そりゃあそうだろ、痛いようにしてんだから」
既に半泣きになっている眼帯の女子の恨むような顔を華麗にスルーする一誠が、チンピラ然とした構えから突如訓練機の武装をその手に展開する。
「さて次だ」
「……! お、お前、その剣の構え方は教官と同じ……?」
「棒持って戦うのは趣味じゃないんだがね、IS乗っての戦いでは使えると思ってね。
織斑君と篠ノ之さんとあの先生に頼んで見せて貰った事でちょいと閃いたんだ」
それにしても随分と仲が悪いペアだが、何で組んだのかが不明だ。
気づけば訓練場に居る他の生徒達も一誠とラウラと喧嘩しながらの訓練に注目してしまう中、簪はといえば一誠の剣捌きがどんなものなのかとワクワクしながら見ている。
そんな時だったか……。
「は~い、そこの喧嘩をしながら訓練中のお二人さん、他の生徒達の迷惑になるから少し控えましょうね~?」
簪の機嫌は一気にマイナスを突破することになる姿と声が文字通り喧嘩にしか見えなかった両者に向けられた。
「あ?」
「ぬ……?」
その声に反応する一誠とラウラの視線が訓練場の地面に向けられる。
するとそこには扇子を片手にした女子生徒がこちらを見上げている。
「……」
「誰だ……?」
人を喰ったような笑みを浮かべてこちらを見る女子生徒にまだ転校したてで見覚えの無いラウラは眉を潜め、一誠はといえばつい最近まで一夏の愚痴の中にしょっちゅう出てきた生徒会長の事を思い出す。
「取り敢えず降りてきてくださるかしら?」
オーフィスの声に似ている元一夏の同居人の女子に似通う容姿であるその女子生徒の言葉に、ラウラはチラリと一誠を見て――ギョッとする。
何故なら一誠の表情は石像の様な『無』そのものだったのだから。
「……」
「あ、お、おい……」
だがその女子生徒に言われた通り一誠は下降するので、慌ててラウラも下降して地面に降りると一誠と同じくISを待機状態に戻した。
「意外と素直じゃない? ふふん、素直な子はお姉さん的にポイント高いわよ?」
「………」
「な、何だ貴様は?」
「私? 私はこの学園の生徒会長をしてるの。
アナタ達が訓練場で喧嘩同然のやり取りをしているって聞いて止めに来たのよ?」
「む………」
生徒会長を名乗る女子に言われて返す言葉が無くなるラウラと、先程から一切喋る事をせず明後日の方向を見ている一誠。
「あの……女……!」
そして姉の出現によりそれまでご機嫌だった精神を一気に敵意へと変える簪。
更識簪はある件を切っ掛けに姉を嫌悪していた。
そんな姉が自分にとって未知でちょっとアウトロー入ったヒーロー然とした男子に簡単に近づいている状況を気に入る訳もない。
「訓練するのは結構だけど、もう少し周りに配慮して貰えると良いと思うわよ?」
「は、はあ……」
「…………」
やめろ、気安く話しかけるな。
早い話が嫉妬している簪の憎悪すら感じる視線が生徒会長に向けられる状況が続く中、それまで明後日の方向を見ていた一誠が突然ラウラに話しかける。
「行くぞチビ」
「ち、チビ!?」
「あら?」
いきなりチビ呼ばわりされたラウラは憤慨よりも驚きが勝ってしまったらしく、変なリアクションになり、生徒会長といえばずっと自分と視線を合わせすらしない二番目のスペア起動者にはてと首を傾げる。
「確かにちょっと騒ぎすぎた感はある。
なら場所を変えるまでだ、少し遠くになるが織斑先生に基礎を教えられた時に使った場所なら殆ど誰も来ないから、そっちに移動して続きをやるぞ」
「え? あ、ああ……わ、わかったがチビとはなんだ」
「見た通りだろうが、おら行くぞチビ」
「ち、チビはやめろ! ま、まったく……!」
明らかに生徒会長に対して警戒をしている態度の一誠はチビと連呼されて憤慨するラウラの手首を掴むと、目を細めた生徒会長には結局一瞥すらせずその横を通りすぎて訓練場を出ようとする。
「ちょっと待ってくれないかしら?」
だから生徒会長――更識楯無と名乗る生徒は一誠を呼び止めた。
すると一誠はラウラの手を掴んだままその場にピタリと止まる。
「…………」
「アナタと直接顔を合わせるのは初めてな筈だわ。
それなのに随分と素っ気ないんじゃあないかしら? 名前とか知りたくないの?」
振り返る事もせずその場に止まる一誠の背中に向かってニコニコとした笑みを浮かべながら尋ねる楯無と、一誠の顔を見てはオロオロしているラウラ。
「アンタの全てに興味が無い」
「…………」
結局一切振り返る事もせず、ただ一言言い切った一誠はラウラを連れて訓練場を出ていく。
その時点で訓練場の空気はかなり微妙なものへとなってしまったのだが……。
「あちゃあ……織斑君や本音ちゃんに聞いたのかしらね? 完全に警戒されちゃってるわ」
言われた本人は寧ろ楽しげに笑みを溢していたのであった。
そして……。
(や、やっぱりあの人は私と気が合う。
ちゃんと話ができればきっと本音みたいに……!)
嫌悪する姉を彼がバッサリと拒否した事が余程嬉しかったのか、今までに無い高揚感を簪は感じるのだった。
「チッ、めんどくせぇ……」
「お、おい……。今のは?」
「あ? あぁ、なんかコソコソとうざってぇ連中共の一角らしい」
「そうなのか……?」
「ああ……そうでなくても、ああいう顔した女は苦手なもんでね。
下手をしなくても八つ裂きにしちまいそうだよ」
「洒落にならんだろう、お前が言ったら……」
「まあ何にせよ騒いだのは事実だし、場所を変えるしかねーだろ」
「うむ……」
久々に親友の千冬から連絡を受けた天災こと篠ノ之束は、彼女の言葉に内心驚きながらも冷静に話をした。
「つまり、いっくんとは違って専用機を持たないその彼にこの束さんがわざわざ時間を割けってちーちゃんは言いたいんだ?」
『……。お前が他人に全くの無関心で、他人の為にわざわざ働く気なんて無いのは百も承知だ。
しかし彼の才能をそのまま腐らせるのは正直惜しい』
「ふーん? ちーちゃんがそこまで言うなんて、ソレは相当なんだね?」
『ああ、本人のやる気が薄いのがたまに傷だが、もし本格的にやり始めたら一気に化ける。
自分でも驚いているが、これ程までに化けた姿を見てみたいと思わされたのは初めてだ』
「…………」
少しワクワクしている千冬の声に束はさて困ったぞと思った。
正直言ってその気持ちはかなりわかるからだ。
だが束はあくまでも彼の事は偶々発見された一夏のスペアという認識で周りには通さないとならない。
いや別に隠す必要性は無い気もしないでもないが、なんとなく彼の規格外を越えた異常性を他の誰にも知られたくはないと思ってしまう。
「ちーちゃんがそこまで言うなんてねー? んー……まぁ他ならぬちーちゃんからのおねだりだし? 考えておいてあげても良いかな?」
『む、本当か? それなら最新の機能など要らぬからとにかく『頑丈』な機体にしてやれないか?』
「その心は?」
『これも私は驚いたのだが、アイツが本気を出して機体を動かすと、信じられぬ事に機体がアイツの身体能力に振り回されてしまうのだ。
お陰で今の段階で二機は学園の機体を乗り潰してしまった』
「…………へー?」
いやー、そんな興奮しながら語られても実は知ってるんだよねぇ……と内心思いながらも取り敢えず相槌しておく束は平行して考察もする。
やはり現行機体では彼の異常性にはついていけないのだと。
それはある意味天賦の才を持つ束に与えられた壁であり、試練のようなものであった。
パラレルワールドから流れ着いてしまった、人という種が人ならざる存在に対抗するかのように生み出した生粋の異常者に到達する為の……。
『………驚かんのか? お前の開発した物がアイツにとっては単なる拘束具にしかならんのだぞ?』
「いやー……言葉で説明されただけじゃあねぇ……?」
『それもそうか。
だが直接見ればわかるぞ?』
「んー、暇があったら調べてみるよん」
その異常性が世に知られ始めた今、自分もまた動かなければならない。
そう親友である千冬にも隠し続けた『記憶』を思い返した束は通信を切ると、自身の座っていた椅子でクルクルと3回転程してから止まると、肩を震わせながら笑う。
「漸く知られてきちゃったかぁ。
ふふふ……仕込んだ甲斐があったってものだよ」
かつて、自分に対するコンプレックスを持っていた妹の箒の様子が変わり始めた頃に見た死んだ目をした少年。
一目見たその瞬間感じた敗北感は今でも忘れない。
妹の箒の精神を引き上げ、更には自身に近しい領域まで引き上げたその異常性。
喪い、腑抜けても尚増幅し続ける無限の異常性。
自分は他の人間とは違うという考えを踏み潰した生粋の怪物。
「ごめんだけどねちーちゃん。私はもう知ってるんだよ?」
赤龍の帝王。
束にとって彼は未知であり、興味の対象であり――自分が生まれながらにして宿していた
「箒ちゃんの誕生日プレゼントも用意できたし、そろそろ直接会う時が来たかな? ふふふ……でも驚くだろうなぁ?」
他人を全く寄せ付けない束自身が唯一執着にも近い感情を抱く存在。
彼はきっと自分の事など箒の姉でISの教科書に載ってる人物程度の認識しかしてないだろう。
何故なら今まで直接会話等したこともないし、会った事もないのだ。
でも束は箒の成長を――いや、進化を促した彼に対してとても大きな感情を今も尚増幅させている。
「は……ぁ♪ わざわざ言わなくても知ってるさちーちゃん。
だって何時も見てるもの――ちーちゃんの教えを吸収していく姿も、ドイツの小娘を叩きのめすのも、機体が彼においつけなくて壊れちゃうのも……全部、ぜーんぶね……!」
超高速の拳の連打でラウラを叩きのめす映像を瞳を潤ませ、頬を上気させながら何度も再生させる篠ノ之束は知っているのだ。
「運命って本当にあったんだね……ふふふ♪」
――――――映像を切り替え、以前一度だけ彼が赤き龍の籠手を纏ってけしかけた無人機を龍の拳で消し飛ばしたその姿を再生させたと同時に束の背に広がる――――――――白き光翼がその理由としてあるから。
『………。まさか本当に赤いのまでここに居たとはな』
「んー? そういえば『アルくん』は彼が宿した赤い龍とは戦った事はなかったんだっけ?」
『ああ、あの時はそれどころではなかったからな。
お前の先代――つまりヴァーリもそれだけが心残りだった』
「へぇ? ならその先代の無念はこの束さんが継いであげるよ」
『…………奴は強いぞ。それこそ奴とサーゼクスの妹が同志となっていれば奴等に勝って生き残れたと思う程に』
運命は加速する。
「わかってるさ。ふふ……はぁ……ほんと見る度に身体が熱くなるなぁ。
ねぇ悪いんだけど暫く――」
『ま、またかお前……? どうにかならんのかお前のその性癖は?』
「ならないかなぁ。
だって気持ちいいし?」
『…………とんだ宿主に当たってしまったぞ』
終わり
補足
訓練というか、殆ど喧嘩してるせいで先行きがただただ不安な即興コンビ。
その2
生徒会長来たけど、事前に聞いてたせいで既に警戒心MAX
というか既に興味ゼロ。
そんな対応を見た妹は勝手に喜んでる始末。
その3
ちっふー、裏工作開始。
そして………………何故そこまで拘ってたのかの理由発覚。
天災兎さんはこのあとめちゃくちゃ――――――お察しで