私が以前、過去の夢に魘されていた一誠を落ち着かせてあげようとした時、一誠に宿るドライグからほんの一瞬だけ見せて貰ったことがある。
『キミがあのクソ野郎によってこれまでの人生をひっかき回された事は、あのクソ野郎を殺す機会を探ってた時に知った。
キミだけがあのクソ野郎の反則さに気付いて距離を置こうとしていた時から、正直言うとキミの事は気になってた。
だからキミが奴等に捕まりそうになった時、俺はキミを助けようと思ったんだ』
嘘みたいな過去を生きていきた中で、一誠にとって一番深い大切な想い出を。
『安い正義感とかじゃないよ。
えっとそのー……間違いなくドン引きされるの覚悟でこの際言っちゃうけど、初めてキミを見た時からキミの事が頭から全く離れなくなっちゃってさ……。
えーっとね、つまりアレだよアレ! 一目惚れって奴で―――あぁっ! わかってるよ!? 得体の知れない人間なんぞにこんな事言われても困るっては俺も承知してるからな……!?』
復讐の為に暗い道を歩み続けた一誠の人生を変えた運命の出会い。
私では到底敵わない赤い髪の悪魔との出会い。
彼女にだけは一誠が見せる、一切の打算や見返りを求めぬ優しさと献身さ。
それだけではなく、守られるだけの状況から自ら脱しようと覚悟した彼女は一誠と同等の資質を持っていた事で互いを支え合う最良のパートナーへとなっていった。
『心底理解ができない。
あのカスはリアスちゃんの元眷属共には手を出してたくせに、リアスちゃんだけを邪険に扱ってたのか。
何が違うんだ? 寧ろリアスちゃんの方があんな見てくれだけのカス共より余程可愛いだろ』
『わからないけど、彼は私の無能さが嫌だったみたい……』
『は? 無能……?? リアスちゃんが??? テメーは転生の神とやらから見た目から力から全部を貰い物で、なにひとつ積み上げてもねーくせに良くほざいたな?」
『でも彼が嫌ってくれていたお陰で今の私で居られたし、イッセーとも出会えて、こうして一緒に居られるわ。
そういう意味ではある意味で彼には感謝している……と言えるかも』
『え!? お……おう! それは俺も思ってたぜ……! ナハハハッ!』
そして復讐だけではなく、彼女との未来を生きる為にその精神を燃え上がらせた一誠は今よりも余程年相応に見えた。
『どぉ~もぉ~ そこいらのチンケなチンピラでーっす。
いやぁ、楽しそうだねお姉さん達? 命助けられて散々世話にまでなった主を裏切って男一人に群がる人生がそんなに楽しいかなんて理解したくもねーし、見てるだけでムカついてしょうがない。
だから―――――――――今からテメー等全員皆殺しだ』
あまりにも大切になりすぎて、彼女の自由を奪う者。
彼女を侮辱する者に対しては後先考えずに報復に打って出る姿はまさに狂犬のように見えた。
『よくもまあ恩を仇で返した挙げ句、あのカス野郎みてーにあの子の事を無能なんぞとほざけたもんだなァ? ホント、ぶっ殺す事にこんな躊躇いを覚えねぇ奴等なんて初めてだぜ。
良かったなー? 今からテメー等はその『無能』にぶち殺されるんだからさァ……! そうだろうドライグ?』
『当然だ。
そして光栄に思えカス共、絶滅タイムだ』
だからこそ私は驚いてしまったのだ。
『テメーは今この子になんつった? オラ、もう一度言ってみろよ? ちゃんと聞いてやるからよ?』
『おいどうした? まさか今テメーでほざいた事を忘れたなんて無いよな?』
『ほら言えよ、なぁ? ………………なァッ!!!』
かつてリアス・グレモリーさんに対して侮辱の言葉を吐いた時、一誠が刹那にその者を八つ裂きにした時と同じ光景が今私の目の前で起こった事に。
「なんの騒ぎだ!」
「………」
「きょ、教官……!」
それも、リアスさんではなく私が言われただけなのに……。
「兵藤、ボーデヴィッヒになにをした?」
「聞き分けのねークソガキにちょっと脅しくれてやっただけですよ。
けど今の世の中って奴は、女の方が強いらしいし? 単なるそこら辺のちんけなチンピラの戯言にビビるとは思わないのですがねぇ? なぁ……そうだろ? 軍人さんよ?」
「っ!?」
それが酷く私を動揺させてしまうのと同時に、周辺の人達が怯える程の殺意を剥き出しにしたその姿に私は更に惹かれてしまう。
「……。兵藤とボーデヴィッヒは今から私と来い。
他の者達は一限目を自習とする」
「は、はい……」
「へーへー……」
きっとリアスさんも抱き続けていたのであろうこの気持ちに……。
「い、一誠……!」
「? なに?」
「その……すまない。そしてありがとう」
「は? ……………ああ、別に深い意味は無いからキミが気にする事じゃないぞ」
でも私にはまだその背は遠すぎる……。
「目撃していた生徒からの証言もある。
だが学園で騒ぎを起こしてしまったことには変わりは無いのはわかるな?」
「は、はい……」
「………………」
危うく多くの女子高生達が一生のトラウマ且つ暫くハンバーグが食えなくなるだろう惨殺現場になりかけた程の喧嘩騒ぎを聞き付けた担任の千冬は、おろおろしている副担任の真耶と共に当事者であるラウラと一誠を生徒指導室に呼び出した。
(完全に兵藤に対してラウラが怯えてしまっている……。余程堪えたようだが……)
人間一人の放つものとは次元の違う殺意を真正面から浴びてしまったラウラは、なんとか気を持ちながら千冬の言葉に返答をするが、この件から完全に機嫌が悪い方向に突き抜けてしまっている一誠はと言えば、これまでの大人しくて影の薄いスペア起動者のイメージを反転させ、まるで開き直ったかのような態度だった。
「チッ……」
具体的には今の時代の男性とは思えない――指導室の机に両足を乗せて椅子に座るチンピラスタイルで。
「面倒だし全部俺が悪いって体にして貰えません? 手を出しのは俺の方ですし」
「ひょ、兵藤君……?
そ、その、ちゃんと座ってくれたら先生は嬉しいかなって――」
「あ?」
「ひっ!? あ、あのその……な、なんでもありません……!」
「…………」
大体の話は目撃していた生徒達や一誠に割りと近しい本音やら箒に聞いていた千冬だが、今までは何があっても多少の言葉遣いの悪さだけで立ち振舞いは大人しかった一誠がここまでの態度に豹変させている事に千冬は意外性を覚えるものの、そこは教師として副担任に威圧的な態度を取る一誠を注意する。
「まだ苛立ちが収まらんのは見ててわかるが、山田先生に当たっても仕方ないだろう? それに今のお前の態度は確かに良くない。だからちゃんと座れ」
「……………………チッ、確かにそうでしたね。どうも失礼しました」
恐らくこの手の人間には頭ごなしに言っても余計反発される。
なので敢えて冷静に諭すように言ってみれば、一誠は不機嫌な態度こそ改めないもののきちんと座り直した。
激怒すると一気にチンピラっぽくなるものの、根は律儀というか素直な部分もあると思っていた千冬はよれた制服の襟も正しながら座り直す一誠に少し満足そうに頷く。
「よし。
それで今のお前の質問なんだがな、今ここで互いに和解をすれば罰則は無しにしようと思うのだが……」
「わ、和解……でありますか?」
間違いなく罰則だろうと教官時代の千冬を知るラウラや、普段の千冬を見ている真耶の二人が千冬のその言葉に驚きを隠せない。
しかし……。
「和解? 俺がコレと?」
一誠はラウラの殺害こそ止めたものの、ラウラという存在そのものが既に『一々殺意は持たないが、それが必要ならばとっとと殺すことに躊躇いを感じない対象』で固定されてしまっているので、お手て繋いで仲直り等ありえないという考えだった。
「逆にお尋ねしますがね、先生の弟だからといきなり織斑君に手を出し、ちょっとばかし俺が織斑先生から直に指導して頂いたら、勝手に癇癪起こして今度は俺にうざったい真似をして来る話もまともに通じないナマモノとどう和解しろと?」
「な、ナマモノ……」
「…………。そういう言い方は止せ。
確かに他の生徒達からの証言ではラウラの方から一方的に絡んだのかもしれないにせよだ」
最早人に対する呼び方ですらなくなる言い方に、ラウラはビクビクしており、千冬はそんな一誠の鋭すぎるナイフのような言い方を咎める。
「俺は心底アンタとコレの間にどんな過去があったかなんて興味も無い。
だけど、そういった人間関係の拗れ理由で関係ない俺まで絡まれるのはゴメンなんですよ。
そもそも俺にはなんの関係もないですし、しかもこの虫けらはテメーの思い通りにならねぇからと周りにすら当たり散らす始末だ―――なぁ、コイツ本当に軍人なの?」
「うぐ……」
「……」
そんな千冬の言葉に対してほぼほぼ素に戻り始めた一誠は一蹴しつつ、ラウラに対する攻撃性を強めていく様に、言われた本人は先の恐怖を植え付けられ事が一周回って冷静に自分のやってきた事を思い返せるようになったのだろうか、一気に萎縮してしまう。
「きょ、教官。
確かに私は兵藤にだけではなく、兵藤の友人に対しても敵と認識してしまっていました。だからつい暴言を……」
「……。本人にはちゃんと謝ったのか?」
「ま、まだです。
ですがすぐにでもちゃんと謝るつもりです……」
「そうか。
ボーデヴィッヒはこう言うが、それでも兵藤はラウラを許せないか?」
「さぁてね、ただ今このカスを見てても殺してやりたいなんては思いませんよ。
別に謝りたければ勝手にすれば良いんじゃないっすか?」
「では篠ノ之と布仏が許した場合はどうする?」
「それで終わりなんじゃないですか? あの二人がどう対応しようが、俺の中ではもうコレに対してどうも思わなくなりましたので」
「「「…………」」」
これまでの学園での生活態度から割りと真面目なタイプだと思っていて、ISに対しても磨けば光るだけのセンスは持っていると思っていた千冬だったが、ここに来て兵藤一誠の厄介さがわかってきた。
(下手をしたら束より厄介な性格をしているのかもしれんぞ兵藤は……)
長年の腐れ縁の性格に近いが、ある意味遠いとも言える――どちらにせよ非常に厄介な性質だと千冬はため息が溢れてしまう。
「織斑君もカワイソーに、織斑先生の弟だからってだけで元教え子ってだけの他人のガキに敵意向けられて。
俺が織斑君の立場だったら刹那で八つ裂きにして二度と俺の目の前に現れないようにしたやるってのにさ。
そう考えるとホント彼は穏やかな性格してるよな? 短気な俺とは大違いだぜ」
「…………」
単純に一誠は敵意が無い相手には無害だが、一度でも一誠の中で『無理』という認識になればその態度を一切隠す事がなくなり、寧ろ攻撃的にすらなる。
「兵藤君、どうかボーデヴィッヒさんを許すわけには……」
「は? さっき言いましたよね? 俺別にこれに対して許すとか許さないなんて感情は無いですって。
そりゃあ今後も同じ真似したら、海に沈めてやろうって気分にはなるかもしれませんが」
「「…………」」
それは彼にとって『親しい間柄』と認識された者が攻撃された時も――いや寧ろより苛烈になる。
それは千冬にとっての腐れ縁であり、箒の姉である篠ノ之束の性格に近いような気が千冬にはした。
寧ろ些細な理由であろうが本気で排除に動く分一誠の方が厄介な部分があるほどだ。
「とはいえ、手を出したのはこっちですからね。
早いとこ罰則でも退学でも好きにしてくださいよ。
どっちかと言えば退学の方が良いんですけど」
「さ、流石に退学には出来ませんからね?」
だが逆を言えば、彼は親しい者に仇為す者に対しては殺人すら辞さない覚悟が備わっているということになるわけで……。
(うーむ、個人的には嫌いではないんだがなぁ)
他の為に平気で自分の命をかけられる熱さに関してだけは千冬は好ましさを感じるようだ。
とはいえ、教師としては学園で騒ぎを起こした生徒を指導する立場がある。
「お前達の気持ちはよく分かった。良いだろう、では二人には罰則を言い渡す」
「………」
「うぅ……」
そして和解をする気も今は無いと断言されてしまった以上、他の者達への示しも込めて命じる他無いのだ。
「兵藤、ボーデヴィッヒ……。お前達は今より――」
だから千冬は『罰則』を言い渡し、その内容を聞いた一誠とラウラは皮肉な事に『似た表情』を浮かべるのであったとか。
俺達が来る前、教室でひとつの事件が起こっていた事を後で知った。
それは一誠が今月末に行われる試合には出ないという話を箒とのほほんさんにした時、俺個人としては実質一誠に敗けたボーデヴィッヒが納得できないと絡み始め、当初はボーデヴィッヒが何を言おうが一誠は相手にしようとしなかった。
だけどそれを見かねた箒が一誠が試合に出られない理由を話しつつ宥めた時、ボーデヴィッヒが一言箒に暴言を言った事が原因で一誠がプッツンし、下手をすればボーデヴィッヒが比喩無しに殺されるのではないかと言うレベルの激高と共に締め上げたというではないか。
「一誠ってよっぽどの事が無い限り感情すら抑えてるって印象だったけど、まさか俺たちが食堂で一服していた間にそんな事があったのか……」
理由があるにせよ、手を出したら状況が不利になるのすら分かっててそれでも赦せなかったのだと思えば、俺は決して一誠を責める気にはなれない。
だが女性の立場の方が上になっている世の中――ましてやその理由となるものを学ぶ学園の中でやってしまったとなれば、一誠に悪いイメージがどうしても付いてしまうのも事実。
現にボーデヴィッヒにやられて試合に出られない程に機体にダメージを負わされた鈴やセシリアといった、普段から妙に一誠に対して敬遠じみた態度を取る者は複雑な様子だ。
「私が意外に思っているのは、普段は篠ノ之さんのお節介を鬱陶しがっている兵藤さんがその様な行動に出た事ですわ」
「そうか? 俺から見たらちょっと羨ましいと思う程度には仲が良いと思ってるけどな?」
「それは一夏さんが鈍いからですわ」
「や、でも僕の印象としてはちょっと人との接し方が不器用な人だと思うけどな……?」
「だろ? 鈴もそうだがセシリアも改めて一誠と話とかしてみろよ? 意外と冗談言ったりして結構楽しいぞ?」
「…………考えてはおきますわ」
セシリアと鈴は特に――あの無人機騒動の件から一誠の事をかなり警戒している。
そりゃあ確かに俺やシャルがあの時見たISじゃないナニかについては、原理がわからない分ちょっと怖いかもとは思うけど、普段の一誠を見てればそういった力を無闇に使おうとはしないし、すぐ暴力に頼ろうとする奴じゃあないって分かってくれる筈なんだよ。
というか普通に話せれば結構冗談とか言ってくれたりもするし、なんなら結構スケベな面もあるくらいだ。
前にも女の人の胸についてかなり力説されたし、なんなら昨日なんてシャルが女の子だって発覚してるにも関わらずエロ本の話してたし。
まあセシリアと鈴にそんな話したら寧ろキレられそうだけど。特に鈴に胸の話なんか振ったらひっぱたかれそうだ―――なんて実はちゃんとある一誠のひょうきんさを思い返していれば、一誠とボーデヴィッヒが教室に戻ってきた。
『………』
「………」
「………………」
今が休み時間なので、戻ってきた一誠に声をかけようと思った俺だが声が出なかった。
というのも戻ってきた二人の様子がまさに真逆だったからだ。
具体的に言うと、見たこと無い程に萎縮しっぱなしのボーデヴィッヒと、反対に一発でイライラしているってわかるくらい不機嫌な一誠。
「機嫌悪いように見えるけど……」
「だな、千冬姉になにか言われたのか?」
シャルも気付いているくらいだからよっぽどなんだろうし、現にボーデヴィッヒとのやり取りを朝見た女子達は一誠にちょっとびびっている。
「………」
「………………」
というか、転校してからキレたナイフみたいな雰囲気しか見せてなかったボーデヴィッヒがあんな小さく見えるくらいしょぼんしてることに俺は驚くし、あからさまにイライラしている一誠の顔色をうかがう態度にもびっくりだ。
まあ聞いた話じゃあ箒に無能なんて言って怒らせた一誠に相当キレられたらしいからな。
その迫力も尋常ではなかったみたいだし、いくらボーデヴィッヒでもああなってしまうのかもしれない。
「………」
「大丈夫だったか一誠?」
「ちょっと怒ってる……よね?」
席に戻ると同時に隣の席である箒がそれまで話をしていたのほほんさんと一緒に心配そうに尋ねると、それまで無言の不機嫌オーラを放ちまくっていた一誠が短く『ああ……』とぶっきらぼうに返すので、一誠から近い席に居る俺達もついつい聞き耳を立ててしまう。
「織斑先生はなんと?」
「罰則だと」
「じゃあ謹慎処分とかじゃあないんだね?」
「ああ、だけど俺は罰則で済んだと思うべきなのか、こんなんならいっそ退学にしてくれと思うべきなのかイマイチわからなくてね」
そう箒とのほほんさんに言いながら次の授業に使う教材を引っ張り出している一誠に、聞き耳を立てていた俺達は首を傾げていた。
「布仏さんよ、朝キミから貰った忠告を無視する形になっちまった」
「え……それってもしかして」
「ああ、試合に出なければならなくなってしまった………というかそれが俺の『罰則』なんだとよ」
「そうなのか……? だが機体のダメージはまだ残っているのでは……?」
「同種の他の訓練機体を使えだとさ。悪いな布仏さん、キミが折角向こうの心象を悪くさせるのを覚悟で俺に忠告してくれたのに……」
「え!? ………そ、そんなの全然大丈夫だよー」
真面目な顔をしながらのほほんさんに謝る一誠に面を喰らったのか、珍しくのほほんさんがあたふたしている。
そういや最近のほほんさんと箒と一誠って結構一緒に行動してるけど、そんなに仲良くなってたんだな。
逆にのほほんさんと虚センパイの主らしき姉妹とはそうでも無いみたいだけど。
「す、すまないやはり私が余計な事をしたばかりに……」
「キミは全くの無関係だよ。
勝手にイラついて手ェ出したのは俺だからな」
しょんぼりする箒を一瞥しつつ筆記用具を取り出す一誠は気にするなと言っている。
「しかし……」
「じゃあ少しでも俺に悪いと思うんだったら、気にするな。
それに俺は自分のやった事に後悔なんてしちゃいない」
そう言ってびっくりした事に、突然一誠がしょぼんとする箒の頭をポンポンとやさしめに叩いた。
された本人である箒はその瞬間驚いて固まってしまうし、どこかの漫画でありそうなシチュエーションというかワンシーンにそれまでビクビクしてた女子の半分くらいが黄色い声を出したり、一番近くで見ていたのほほんさんが妙に羨ましそうに見ていたりと、少しピリついていた空気が緩んだような気がした。
「い、一誠……」
「あ? まだなにか―――――――あっ!?」
しかし一誠はどうやら無自覚でやってたらしく、箒の惚けたような声で突然ハッとした顔をする一誠が即座に箒の頭から手を離した。
「し、しまった……! ついリアスちゃんと同じ事を……! 悪いが深い意味はねーからな?」
「あ、ああ……わ、わかってる」
………。虚先輩に今の一誠が箒にしたような事をしたら怒られるかな……? 逆にして貰えたらそれはそれで嬉しいけど。
「いいなー……しののん」
少なくとものほほんさんはして貰いたいみたいだけど、そうか……一誠も出場するのか。てかリアスちゃんって誰だ?
でも今回の試合は誰かと組まなくてはいけない訳だけど、そこら辺の目処はあるのか? というかさっきからボーデヴィッヒが機嫌でも伺うみたいに一誠をチラチラ見ているのはなんだ?
なんて疑問は時間オーバーで授業が始まってしまったので聞けずじまいであったのだけど、その諸々の話は割りとすぐに知ることになるのだ。
具体的には昼休みの時間になった瞬間、意を決したような顔をしたボーデヴィッヒが、突然一誠の席にやって来た事で。
「ひょ、兵藤よ。
その……織斑教官からの罰則についてだが、流石に打ち合わせも無しで本番という訳にはいかないというか……だから少しだけ当日どうするかを決めたいというか……」
「勝手にやれよ。それに俺が合わせりゃそれで良いだろ」
「し、しかしだな……」
「わかったわかった! 今飯の最中だから食いながらになるぞ」
「あ、あぁ……」
「おら、そこ座れや」
「う、うむ……」
毎度ながらの箒の手作り弁当を食べる一誠のすぐ横にちょこんと座り始めるボーデヴィッヒの態度含めて驚いたのだけど、話の内容を察するにどうやら……。
「まさか織斑先生からの罰則というのは……」
「ああ、このちびガキと組んで試合に1勝しろ――だそうだ」
「ま、マジかよ!? 一誠はボーデヴィッヒと組むのか!? 」
「まぁね……もし当たったらお手柔らかに頼むわ、織斑君とデュノア君?」
ある意味ダークホースにしかならないだろうタッグの誕生に俺達は驚くしかなかったのだった。
補足
基本的に元の世界でリーアたんと生きてた頃は、ちょっとでもリーアたんに何かあれば大陸一の殺し屋をぶちのめした時のガチ化した嶋野の狂犬さんみたいに単身でカチコミかけるくらい制御不能になる。
その2
そんな過去の一誠を何度かドライグに見せて貰ったことがあった箒さんは、ほんの少しながらも現役時代に戻った一誠に驚いたし、なんかそれ以降は少しだけ対応が軟化していることにも驚き。
そしてそれを見てるのほほんさんは指咥えていいなーしてるらしい。
その3
他人に対する認識の度合いは寧ろ天災兎さんに近いと千冬さんは思いつつも、対応のやり方と攻撃性は一誠のほうが強いので厄介だなとも思ったとか。
その4
罰則内容
ラウラ・ボーデヴィッヒと兵藤一誠がタッグパートナーとなり、今度の試合に一回戦でも構わないから突破すること。
ただし、タッグ戦なので個人戦に走る事は禁止とする。
例えば一回戦だけ勝てば良いからと最初から一誠が自壊ダメージを無視して飛ばして対戦相手をまとめて倒してしまうのは禁止。
あくまで連携をして勝つことが条件。