敗北だ。
ISの試合という意味でならば敗けではないのかもしれない。
けれどあの戦いが純粋な戦闘であったのなら。
審判も無い殺し合いだったのなら、地に這いつくばっていたのは私だ。
…………。いや、そんな筈はない。
あの時は気が動転していて冷静ではなかったからだ。
そうでなければ私があんな男に負ける筈がないんだ。
一夏が嫌に興奮しながら私達に話をした内容に私は驚かされたと同時に、やはりかつてドライグが私に言っていた事は本当だったのだと思った。
「マジだぞマジ! エネルギーが切れなかったら一誠が勝ってた!」
訓練機を半専用機として渡され、そのまま先生に基礎を教えられた一誠が直ぐに経験者である相手を試合で圧倒したらしい。
その時私は直接見ていなかったので、少々残念に思ってしまう。
「随分な活躍だったらしいじゃないか?」
自分のした事じゃないのに、我が事のように話しくる一夏とは正反対に、一誠はと言えば黙々とした様子で私が渡した弁当を食べているので、声をかけてみると、一誠は嫌そうな顔をしながらお茶に手を伸ばす。
「彼の姉ちゃんに強引に乗せられたんだよ。
状況も状況だったし、やらなきゃ収まりもつかないと思っての事だ。
それに試合なら普通に負けた。エネルギー残量と機体ダメージを無視して無理矢理動かして自爆したってのが本当の所だ」
本人はあくまで負けたと言う。
確かにISの試合の範疇ならば一誠の負けなのかもしれないが、一夏の近くで微妙な顔をしているオルコット達の反応を察するに、あまり良い内容ではないのかもしれない。
「相撲に勝って勝負に負けるの反対ってところか。
どちらにせよ、今後はISの訓練もするのだろう?」
「定期的にあの先生に試験されるんで、嫌でもやらんとしょうがない」
なるほど、自由にさせたらまずISには触れないであろう一誠の行動をある程度先読みしたのか……。
「まったく、高々3万の商品券に釣られたがばかりに面倒ばかりだ……」
「………」
本人は心底嫌がっているけど、私はその商品券で釣った政府の誰かさんに感謝しかない。
そうでなければ一生捕まえられる気はしなかったからな。
「いやー、一誠のお陰でスカッとできた」
「そりゃあ良かったな」
一誠がボーデヴィッヒに試合では負けたけど勝負には勝ったということで、今後はボーデヴィッヒもああいう態度を控えてくれる筈――という事で気分も良いまま一緒に部屋へと戻る。
「キミは良いのか?」
「? なにがだ?」
「あの先生はキミにとって先生以前に姉さんなんだろ? キミ自身はあの先生から教えて貰ったりとかはしてないらしいのに、こんな得体の知れない赤の他人が先に教えられてることに不満はないのか?」
妙に真面目な顔をする一誠に俺は不思議に思う。
不満? 何でだ???
「別に無いぞ? 一応俺も少しずつ千冬姉に教えてもらったりはしてたしな」
「だが……」
「変な所に拘るな? 千冬姉は先生なんだぞ?」
「…………」
寧ろ基礎を短期間でモノにしてくれた千冬姉とすぐに追い付いてきた一誠に感謝しかしない。
だってこれでやっと同じ境遇同士でライバルになれるんだもんな!
「…………。前々から思ってたけど、変わった奴だなキミは」
「そうか? 一誠もかなり変わってると思うが?」
そうすれば俺はもっと強くなれる。
あの時ボーデヴィッヒが俺に言っていた『認めない理由』………つまり弱さを克服だって出来る気がする。
そうする事で俺は虚センパイにカッチョイイ所を見せられるんだ!
「…………」
「それより早く部屋に戻ろう。きっとシャルルもそろそろボディソープ切れてるって気づいてるかもしれないからな!」
「…………」
色々あったし、最初はどうなることかと思ったけど今なら胸を張ってこの学園に入って良かった。
なんて思いながら俺は一誠と共にシャルルの待つ部屋へと帰る。
「お、やっぱり今シャルルは風呂だな。
ちょっくらボディソープを渡してくる!」
「おう……」
部屋に入ると案の定浴室からシャワーの音が聞こえたので、ソファに座ってテレビのリモコンを探している一誠に告げ、俺は浴室へと向かう。
「ん? 何か忘れてるような――あ゛っ!? ちょっと待て織斑君―――」
その際、急に一誠が俺を呼び止めようとした気がしたが、それよりも早く俺は浴室のドアを開けてしまい――
「…………え?」
「い、いち……か……?」
そこにはシャルルであってシャルルではないお嬢さんが目を丸くして――その、色々と丸出しの姿で俺を見ていた。
「しまった……完全に忘れてた」
そう一誠が片手で顔を覆いながら呟いているけど、それよりも俺は今の光景が意味不明すぎて訳がわかない。
だってシャルルは男な筈だ。
なのに今のシャルルはどう見ても――
「あ、あの……取り敢えず出ていって貰えると嬉しいかも」
「! は、はい!!」
女だった。
俺はシャルル(?)にそう言われると全力でボディソープを置いて浴室から飛び出した。
「い、い、一誠……! シャルルがシャルルじゃない……!」
俺は迷った。あの光景について一誠に説明すべきか。
でも同じ部屋だから黙ってる訳にもいかないので俺は頭の中が滅茶苦茶になりながらもなんとか説明しようとテレビのリモコンを操作していた一誠に話しかけた。
「落ち着け、ナニを見たんだか聞かないけど、つまりそういう事だったんだろ?」
「そ、そういう事って?」
「彼――じゃなくて彼女の事だよ」
「え!? ま、まさかその感じだと知ってたとか?」
「知ったのは部屋変えになった日の夜だな。
考えても見な、キミや俺がISを起動させたってだけで三ヶ月は毎日勝手に顔写真まで晒してニュースになったってのに、彼女の時は一切報道されてなかったじゃあないか」
「! た、確かに。
でも確かシャルルは俺達と違ってIS製造の会社の子でしかもフランスの代表候補生だから国が報道を規制させるように圧力かけたんじゃあ……」
「俺もそれは一瞬思ったが、カマをかけたら見事に引っ掛かったんだよ。
まさかキミにまですぐバレるほどトロいとは思わなかったけど」
「ま、マジかよ……」
一誠がテレビのチャンネルを変えながら説明する通り、世間的には未だ俺か一誠の事に関する事が報道されているが、シャルルについては一切報道されていない。
男でISを起動したという事実だけであれだけ世界的に騒がれていたにも拘わらずだ。
それを怪しんだ一誠がカマをかけたら見事に引っ掛かったらしいし……。
「あ、あのぅ……」
「どぅわ!?」
「…………」
や、やべぇ……ボディソープ渡す前までは男だと思ってただけに、今のシャルルを直視できねぇってか、こうして見ると確かに女の子っぽい骨格してるわ。
「……………」
「……………」
「……………」
やっべぇ、気まずい!
誰も喋んないし―――いや一誠はバラエティー番組をつまんなそうに観てるだけにしか見えんけど、俺は特に気まずい。
シャルルも下向いて何も言わんし、どうしたものかと思っていたら突然一誠が立ち上がって部屋に備え付けてあるミニ冷蔵庫を漁り始めた。
「なに飲む?」
「え? あ、じゃあ茶を……シャルルは?」
「へ? あ、僕もお茶……」
「ん」
そう言ってお茶の入ったペットボトルを取り出した一誠は俺とシャルルに渡し、ソファに座り直すとキャップを開けてグビグビと飲み始めた。
そう言えば箒がいってたけど、一誠って意外と子供舌らしく、今飲んでる飲み物もりんごジュースだったり。
「ほらな、だから言ったろ?」
半分まで一気に飲んでから一息入れた一誠が唐突に俺――じゃなくてシャルルに言う。
だからって何の事だ?
「何時までもフリで誤魔化し続けるには無理があるってよ。
もっとも、キミが気を抜きすぎてたにしてもコレはただの事故でしかないけどよ」
「………うん」
「な、何の事だ?」
「この子が男のフリをし続けるにも限界があるって話だよ。
趣味ではないらしいし、何でそんな事してたのはわからんけどね」
「! そ、そうだった、なぁシャルル、その……なんでシャルルは男のフリなんてしてたんだ?」
「それはその……実家の人達からの命令で」
「実家だと? 実家というとデュノア社の……?」
「うん。僕の父がそこの社長。その人からの直接の命令なんだよ」
「命令って、親だろう?なんでそんなこと」
「一夏、僕はね、愛人の子なんだよ」
単なるおふざけではないとは思っていたが、シャルルの話は俺が思っていたよりも深刻で、所謂大人の都合ばかりな話だった。
「僕はもともと田舎でお母さんと二人で暮らしてたんだ。
裕福ってわけじゃあなかったけどそれなりに楽しく暮らしてた。
でもお母さんが死んじゃってそのときになって私を引き取ったのが二年前。
亡くなった時に父の部下の人がやってきてね、それから色々とと検査でたらい回しにされていく過程で、ISの適性が高いことがわかったんだ。
それで非公式ではあったけどデュノア社のテストパイロットをやることになった」
きっと自分からは話したくなんてなかっただろう過去を少し俯きながら話すシャルルだが、俺は真面目に聞いた。
そこから先はシャルルの実家の会社での難しい立ち位置や、何をされたのか色々と聞いた。
そして何より何故シャルルが男の格好をしていたのかについては、その方が同性としてより男の起動者である俺に近づける可能性が高くなり、また仲良くなる事で白式のデーターを抜き出せるから――らしい。
早い話が、傾き始めた会社の経営を立て直す為にシャルルは利用されているという事だけだった。
「だから専用機を持たない一誠にはあまり接触しようとはしなかったのか………」
「それもあるかな。会社でも兵藤君の評価は男性起動者としての希少価値の高さだけで、専用機は持たないスペアと見なされていたから……」
「………」
「でも一番は、いきなり僕の正体を見抜かれちゃったからなんだけどね……あはは」
テレビを観ている一誠に苦笑いするシャルル。
「でも結局は一夏にもばれちゃったし、僕は本国に呼び戻されるだろうね。
デュノア社は倒産するか他の企業の傘下に入るだろうけど関係のないことかな。
今までみたいにはどの道行かないと思うしさ。
あはは、何だか話したら楽になったよ。聞いてくれてありがとう。
それと、今まで嘘ついててゴメン」
そう言って頭を下げるシャルルだが、恐らくこのまま本当に国戻ったとしたら碌でもない未来しかないことは俺でも感じられた。
「いいのかそれで?」
「え………?」
「………」
「それでいいのか?
悪いが俺は納得しないぞ、親が何だって言うんだ?
どうして親だからってだけで子供の自由を奪う権利がある。おかしいだろう、そんなものは!!」
「い、一夏?」
「…………」
自分でもよくわからないが、怒りのままにシャルルに言う俺に、本人はポカンとしていた。
「親がいなきゃ子供は生まれない。
でもだ、だからって親が子供に何して良いのは間違っている。
生き方を選ぶ権利は誰にだってある、親に邪魔されていいわけがない!」
シャルルのことだけではない。
ここに居る俺や一誠にも言える事だ。
「ど、どうしたの一夏? 急に熱くなって……」
「あ、悪い。いや、俺と千冬姉は親に捨てられたクチだからついよ……」
「え? そ、その…ゴメン」
「なに気にすんな。それが当たり前だったし、俺の家族は千冬姉だけだ。
親なんかなくてもいい。それよりシャルルはこれからどうすんだ?」
「どうって言われても、もう時間の問題だよ。
フランス政府もこのことを知ったら黙ってるわけがない。
僕はは代表候補生を下されて良くて独房入りだと思う」
「それでいいのか?」
「いいもなにも僕には選ぶ権利がないから仕方がないよ」
そういって笑って見せたシャルルの笑みは痛々しかった。
俺はシャルルにそんな表情をさせるすべてが許せなかった。同時に俺はなにもできない自分に腹が立った。
これぞまさしく『カッコ悪い』だった。
だから俺は考えた。
考えて考えて……そして思い出した。
「……だったら尚更奴等の思い通りになるべきじゃない」
「え?」
「この学園の利点を活用するんだ。
確か特記事項第21にこうあるぞ。
『本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外敵介入は原則として許可されないものとする』ってな」
そう、入学の際に散々読まされた学園の資料には確かにそう載っていたし、生徒手帳にもきっきり書いてある。
「―――つまりこの学園にいれば少なくとも卒業までは時間を稼げる。
そんだけあればどうにか出来る方法も見つけられる――いや必ず見つける。だから別に急ぐ必要もないだろ?」
まさかこんな所で脳がパンク寸前になるまで読まされた事が役にたつとは思わなかったが、精々利用させて貰うぜ。
なんて思ってたらシャルルがこっちを見て苦笑いをしている。
「一夏ってさ……」
「む? なんだ?」
「よく覚えられたね。特記事項って55もあるのに」
「ふふん、実は割りと勤勉なんだよ俺は」
「そうみたいだね、ふふ…」
やっとシャルルが年相応の笑顔を浮かべた。
「まあ決めるのはシャルルなんだから、考えてみてくれ」
「うん。そうするよ」
それに……また巻き込む事になってしまうのかもしれないが、一誠だってきっと協力してくれる筈だぜ。
なんて思いながら一誠を見てみると、テレビをいつの間にか消していて、ジーっとシャルルを見ていた。
「な、なに……?」
「…………」
「お、おう……どうした一誠? なんか気に入らない事でもあるのか?」
たまに一誠はよくわからないので、機嫌を損ねてしまったのかと恐る恐る俺は聞いた。
すると一誠は真顔でシャルルに言うのだ。
「いくら出せる?」
「はい?」
「だから、金はどこまで出せるんだよ?」
「な、なんのこと?」
突然シャルルに金の有無を問い始める一誠に、シャルルのみならず俺も困惑していると、一誠は真顔のまま言うんだ。
「俺が満足するだけの金を積めば、その実家だっけか? ………フランスの地図から消滅させてやっても良いぜ?」
「「……………は?」」
現実的にあり得ないであろう話を。
ち、地図から物理的に消すって何を言ってるんだ一誠は?
「少なくともその元を消し飛ばしてしまえば、キミはある程度の自由を取り戻せるんだろう? 流石に他人の為にタダでやる気にはなれないが、金さえ積めばソイツ等を皆殺しに――」
「ま、待て待て待て待て!!? 話がぶっ飛び過ぎだ!?」
「そ、そうだよ! そ、それにそんな事不可能だって……!」
ほ、箒の言うとおりだな。
普段は何たいしても無気力だが、所謂スイッチが入るとやることや考え方が極端になりすぎてしまうって……。
しかしだからといっていくらなんでもフランスの大企業を消すなんて無理にもほどがあると俺とシャルルが言うと、一誠は徐にソファから立ち上がって窓際まで移動する。
そして窓から見える星空に向かって左手を翳したその時……。
「起きろドライグ」
「え……」
「な……」
その左腕は淡い輝きと共に赤い装甲に覆われており、その掌からは高密度のエネルギーが集束している。
ISではない。そして打鉄でもないそれを俺達は知らない。
知らないけど……。
『きゃあっ!?』
『そ、空が突然真っ赤に!?』
『い、異常気象!?!?』
俺とシャルルは一誠の持つ『非現実』の一端を見てしまったのだ。
「い、今のは……?」
「い、一誠が手からビーム出したら空で爆発して真っ赤になってしまった……」
「……………」
ISの武装よりも範囲がヤバイ気がしてならないビームが空の上で大爆発し、数分の間空全体が真っ赤な血のように染まり、部屋の外では他の女子達が大騒ぎをする声をBGMに赤い腕から元の腕へと戻った一誠がこちらを見る。
「今のをキミの実家にぶちかませば、地図から消せる。
どうだ? いくら出す?」
「い、いやいやいやいやいや! 待て待て待て待て! 色々と他にも聞きたいことはあるけど、それぶちかまされた人達はどうなるんだ!?」
「まあ、消し炭になるかな」
人殺しになると同義の台詞を平然と言う一誠に俺は思わず一誠の肩を掴んで揺さぶっていた。
「じゃあ駄目だろ!? 確かにシャルルの実家は酷いのかもしれないけど、皆殺しにするなんて――」
「手っ取り早く縁を切りたいのなら手段にこだわるべきじゃあないと思うが?」
「それとこれとは別だろ!? い、一誠らしくねーしよ!?」
「俺の生き方は俺が決める。誰かの決めた正しさに興味はない」
「いやそこでカッコつけられてもなんだけど!?」
寮内が大騒ぎになってしまっている状況でも平然と、そして何故か無駄にキリッとした顔で言い切る一誠に俺は例の無人機の際に見た力を思い出し、尚更その力を使わせまいと説得に入る。
「と、とにかく時間は三年近く残っているんだ。
もっとスマートな方法を考えようぜ……な?」
「………。キミはどうなんだ?」
「え? あ、その……ぼ、僕も流石に友人が僕なんかの為に殺人を犯しては欲しくない――」
「は? 友人??? 誰と誰が?」
「――――…………ごめん、確かに僕はキミのその異様さに引いて怖がってたね。ムシが良すぎた」
しゅんとなるシャルルを見て一誠は軽く鼻を鳴らす。
「わかったよ、別の方法とやらにすれば良い」
「お、おう……さんきゅー」
「…………」
そう言ってソファに座り直す一誠だけど、何時もの一誠らしくなくて俺は逆に違和感だった。
「なに、ちょっと昔を思い出しただけさ」
「昔……?」
「………程度は違えど、ちょうどその子に少しだけ境遇が似ていた女の子の事さ」
「え、つまりその子も僕のような……」
「さてね、ただその時俺は――」
「……?」
「って、何を話そうとしてるんだか俺は。今のは忘れてくれ……くくくっ」
そしてその違和感と共に俺は一誠の事をまるで知らなかったんだと改めて思わされた。
「皆殺しはやめるにしてもだ、今のキミではソイツ等に抗えるだけの力はないんだろう?」
「悔しいけどね……」
「だったら俺から言えるのひとつだ。
自由を勝ち取りたいのなら、織斑君が提示したタイムリミットまでにその連中を黙らせるだけの力を得ろ。
そうすればその連中も、政府連中の誰もキミを縛る事はできねぇ」
「………」
「あ? なんだよ……?」
「いや……怖い人だと思ってたけど、意外と優しいんだなって」
「はぁ? 気色悪いな……。
金は積めねぇ、皆殺しに否定的な甘ちゃん坊っちゃんお嬢ちゃんには言われたかねーわ」
そう言ってそっぽを向いてしまった一誠に、何故か俺もシャルルも可笑しくなってしまう。
「はは、箒が一誠を慕ってる理由がわかった気がする」
「なんだろ、こういうのをツンデレさんって言うんだよね?」
「需要もクソもねーな」
笑ってしまう俺達に一誠は毒づく。
そうだ、俺は一誠の事はまだ何にもわからないのかもしれない。
でも誰かの為に『殺す覚悟』を持っているスゲークールな奴だってのだけはわかったし、今はそれで十分だと思った。
『一誠! 一誠!! ちょっと聞きたいことがあるが入っても良いか!?』
「ん? 箒か? もしかしてさっきの一誠ビームについてか? ……ってマズイぞ!? 今シャルルの姿を見られたら……」
「チッ……! キミはベッドに潜って隠れろ」
「う、うん!」
「やはり部屋に居たのか。
なぁ一誠、空が真っ赤になったのはお前が――って、どうしたんだ?」
「よ、よぉ箒……」
「別になんでもないし、キミのお察しの通りだから早く戻れ」
「む……だが状況的に一夏の前でドライグの力を使ったのでは?」
「色々あるんだよ。良いから早く――」
「ダメだってばかんちゃん!」
「……居た。ねぇ、さっきのはアナタがやったんでしょう? どうやったの? 出来れば見せて欲しい……」
「げ、さ、更識まで……」
「いきなりな挨拶だね織斑君。
でもアナタには用はない。あるのはこの人―――」
「俺はテメーに用はねぇ、三秒以内に俺の視界から消えろ虫けらが」
「」
「ご、ごめんねいっちー? かんちゃんが凄い顔しておりむー達のお部屋に走っていくのを見て止めようとはしたんだけど……」
「痛烈な一言で真っ白になりながら帰って行ったけどな……」
「………」
(ま、まずい!? なんか普通に部屋に入って寛ぎ始めた!?)
(ど、どうしよう……?)
「む? ところでデュノアはどうした?」
「野暮用で出払ってるだけだ」
「じゃあおりむーはどうしてずっとベッドなの?」
「そ、それは――」
「エロ本読ませたらガチガチになって恥ずかしいんだと」
「そ、そうそう! それなんだよ―――ってオイ!?」
「え、えっちな本って……ダメだよおりむー? お姉ちゃんに知られたら怒られはしないと思うけど……」
「違うからな!? ちょっと腰の調子が悪いだけだからな!?」
「お、俺エロ本なんて読んでないのに……」
「最後まで二人に誤解されたままだったね……」
「エロ本の一冊や二冊読んだのがバレたくらいで落ち込むなよ。
ていうか読んだことねーのかよ?」
「い、いやまぁ何度かはあるけど……」
「だろ? 俺もある……まあ、困った事に全然魅力にも感じなかったがな」
「ち、ちなみにどんなの?」
「赤髪の悪魔っぽいコスプレしてる洋モノだったな。所詮は紛い物だけど。織斑君は?」
「え、えっと、中学の頃に拾った奴で……真面目そうな委員長タイプの眼鏡かけた――――って、や、やめろよ!?」
「ああ、だから布仏さんのお姉さんが……」
「違うわ! あの人はいびられてた俺に優しくしてくれたし応援してくれたんだ! 断じてそんな邪な理由じゃねぇ!! そもそも虚センパイの方が一千万倍可愛いわっ!!」
「おう、その気持ちはわかるぞ、俺もあんなものよりリアスちゃんの方が一億倍――」
「え、リアスちゃんって誰だ?」
「…………な、なんでもねぇ。とにかく! エロ本読んだ程度で恥じるな! 寧ろドン引きされる程度に開き直ってしまえ!」
「嫌だよそれは……。
前に一誠が胸の大きさについて語りまくっただけであんな白い目で見られたってのに……」
「………あ、あの、僕居るんだけどな?」
終わり
異質な力を見た事で抱いた夢。
異質な過去を知ってしまった事で抱いた気持ち。
「一誠が私にたいしてそういう感情がないことは百も承知している。
でも、それでも私は一誠を独りにはしたくないし、例え永遠に一誠が他の誰でもない彼女だけを想い続けても、支えられる女になれればそれで良い」
ただ一人の為に世界そのもを敵に回し、ただ一人生き残ってしまった脱け殻の青年を支えるという覚悟。
「それはとても辛い道よ……?」
「それでもです。
それでも私はこの想いだけは変えたくない。かつて貴女がそうであったように……」
「……」
それもひとつの想いの形であると言い切った少女に、幻想である彼女は――
「少ししか時間はないけど観なさい。
私が貴女にしてあげられる事はこれしかないわ」
「…………望むところだ!」
紅き悪魔として少女を導くのかもしれない。
薄汚い子供を妹が気にしている。
しかしそんな薄汚い子供の持つ未知数の力は天然の規格外と呼ばれる事になる彼女を刺激していく。
「良いね、良いよ良いよ! 本当にどこまでも楽しませてくれるねアナタは! あはははっ♪ こういうところは姉妹なのかもねっ! キミが気になり過ぎて夜も寝られないよっ!」
「…………」
「ああ、その眼……自分とお前は違うって拒絶する目が良いよぉ……。
見下すことは散々あったけど、この束さんを見下せるのはアナタだけだよ……うふふふ♪」
世界を壊せる力。
富や権力だけでは到底御せない狂犬のような男。
自分が半ば広めたこの世界の概念を喰いちぎる正真正銘の怪物を前に天然の規格外もまた怪物への扉を開け放つ。
「ああ、ホント……キミの全てが知りたいなぁ」
怪物が規格外を惹き付けた時、何が起こるのかはまだわからない。
補足
ベリーハード世界のリーアたんに若干境遇が似てる人生だったと聞いた事で、ちょいとスイッチがオンになったけど、必死こいて止めたので今のところは安心。
ただ、デモンストレーションでポーヒーからのデデーン見せたせいで学園は大騒ぎになったけど。
その2
多分更識姉妹のどっちもが地雷踏んだらやべーんじゃないかなぁ。
その3
クールぶってるだけで、基本三枚目ではある。
特にリーアたん関連だと極端にぽんこつ化する辺りとか。