色々なIF集   作:超人類DX

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展開を一気に加速させる


無神臓

 

 

 

 カマかけたら本当にそうであった。

 という事でシャルル・デュノアとの距離感が余計に微妙なものへとなってしまった一誠は、部屋が変わろうがやることは基本的に変わらない。

 

 

「…………」

 

 

 まだ日が明ける前の時間に起床し、同じ部屋の者であるシャルルと一夏を起こさないように部屋をこっそりと抜け出す。

 

 

「……ふぅ」

 

『リアスを失っても尚このルーティンだけは変えられなかったな』

 

 

 軽装に着替え、外へと出た一誠は少し冷たい空気を肌で感じながら深呼吸をすると、かつての世界で生まれたその時から宿っていた龍の声が聞こえる。

 

 

「勿論止めようと何度もしたのはドライグだって知ってるだろ? でも結局止めることはできなかった。

もうこれ以上進化する必要なんてないのに、寧ろ進化をしてしまえばその分簡単にくたばれなくなってしまうのも分かっている……でも止められないし止める訳にはいかない」

 

『リアスを救えなかった贖罪か……?』

 

「それもある。

でも結局俺はこの異常(アブノーマル)の扉を開け放った時から、好む好まざる関係なく、向かい合わないといけない。

そうでないと俺はこれまでの俺の人生そのものを否定してしまう。

それは、ドライグやリアスちゃんと抗ってきた人生すらも否定することになっちまう。

だからやるんだよ……例えもう進化する必要がなくてもな」

 

『……一誠』

 

「はは、それにこの世界は俺達の世界と違って頭の良い人間が結構多いみたいだからな。

その内俺を『害悪』と見なして殺せるだけの何かを作ってくれそうじゃあないか? もしその時は派手に暴れてから死んでやるのも悪くねぇだろ?」

 

『……』

 

 

 誰にも聞かれる心配が無いからなのか、声を出して自身の半身とも言える龍と会話する一誠の表情はどこまでも投げやりだった。

 己とリアスの自由を取り戻す為に世界そのものに抗い続けていた頃の情熱はそこには無い。

 

 されどそれでも進化の道を閉ざす事はできない。

 かつては間違いなく完全なる制御をしていた異常性に今は振り回されている程に、一誠の意思は脆くなってしまった。

 

 

「幸いこの学校は人工の離島でそこそこ広いからな。

トレーニングする分には十分な広さだぜ」

 

 

 ヘラヘラと笑いながら軽い準備運動をする一誠にドライグはこれ以上言うことはできない。

 リアスがそうであったように、この世界に居る人間の誰かが一誠に追従できる可能性を秘めていれば、もしかしたらとも思った。

 

 

「先ずはウォームアップで。離島の周囲全速力500周くらいからやるかね」

 

『それはよしてやったらどうだ?』

 

「あ? 何で……」

 

 

 今の一誠はかつての頃にあった筈のものを失っている。

 肉体的な意味でならあの頃よりも更に進化をしている筈だが、精神的な強さは弱体化の一途を辿っている。

 

 その証拠にドライグは既にその気配に気付いていて、敢えて黙っていたけど、今の一誠はその感覚すら失っているのか気付くのに遅れをとってしまっている。

 

 

『ほれ』

 

「あ? …………なんだ、そういうことか」

 

『そういう事だ』

 

 

 ドライグの声に振り返って漸く気付いた一誠の視線の先に居るのは、ジャージ姿の箒とこの度の引っ越しにより同部屋となった布仏本音がこちらに向かって走ってきていた。

 

 

「待ってくれ! わ、私たちも参加させてくれ……!」

 

「ほ、本当に毎日こんなことしてるんだね。

しののんに言われた時はまさかって思ったけど……」

 

『今時のガキにしては中々骨があるとは思わんか?』

 

「アホだな、寝てろよ」

 

 

 のんびりしていたら置いていかれるとでも思っていたのか、既にぜぇぜぇと息を切らせている箒と本音に、これではトレーニングにならないと一誠は少し面倒そうな顔をするが、言ったところで特に箒は絶対に付いてこようとするのは、同部屋時代からわかっていた事なので仕方なく折れてやる事に。

 

 

「クソが、全速力で500周なんてキミ等じゃまだ無理だろ……」

 

「い、いや50周くらいなら最近はなんとかできるぞ?」

 

「ご、500周って……。今からやっても一日掛かっちゃう」

 

「あーもうわかったよ! キミ等のペースに合わせてやるわ! でも一周はするからな! まったくもう……!」

 

 

 確かにリアスはもう居ない。

 リアスとの生が全てであった一誠にとって今の人生など無意味で無価値なのかもしれない。

 けれど肉親もろとも殺されかけ、生き残ってしまった小さな子供があの地獄をそれでも生き抜こうとする内に芽生えた親のような情を持つ赤い龍はそれでも一誠に生きて欲しい……そう願うのだ。

 

 

『お前は自分が死んだ方が楽だったのかもしれないと思うのだろう。

でもな、逝った者の借りは帳消しになる。後を継ぐのは生き残った者なのだ一誠よ……』

 

 

 

 

 

 

 例え特殊な家の従者の家系であろうとも、このトレーニングは危うく胃の中の物を戻してしまう程にハードなだった。

 

 

「…………」

 

「少し待ってくれ、のほほんさんが……」

 

「あ? ……チッ、キミ等のレベルに合わせてるつもりなんだぞこっちは」

 

「す、すまん……」

 

「……ったく、だから寝てろって言ったのに、おら、大丈夫か?」

 

「う、うん大丈夫大丈夫……あははは……うぅ」

 

 

 同じ部屋になった箒が毎朝一誠の後を追ってやっていたとされるトレーニングの話を当初信じられなかった本音だったが、実際確かめるつもりで同行し、少々の体力には自信もあったから参加してみた結果、最早授業をまともに受けられないレベルのハードトレーニングだった。

 

 

「ご、ごめんねいっちー……邪魔になっちゃった」

 

「これに懲りたら今後は下手な好奇心を捨てる事だな。あの眼鏡の無限の龍神ボイスの小娘にも言っておけ」

 

「無限の龍神……?」

 

「ま、まあまあ……!

私が誘ってしまったからのほほんさんは悪くは……」

 

「はんっ! ………ほら、ゆっくり呼吸を整えろ」

 

 

 だがへばるのは自分だけで、箒は息こそ少し切らせているものの付いていけてはいるし、一誠に至っては殆ど汗すらかいていない。

 

 

「くっそ、全然身体が暖まらないぜ」

 

「重ね重ねごめん……」

 

「一々謝るな! わかったよ、もうウダウダ言わねぇよ、悪かったな」

 

 

 例の無人機の件により知ることになった一誠の異質さの土台を垣間見た気がする本音は、悪態こそついたいるものの動けない自分を気遣って休憩にしてくれている一誠にただただ足を引っ張ってしまっている事に対する謝罪をする。

 

 

「そ、それなりに体力とかには自信あったんだけど、下手したら授業よりハードだよこれ……」

 

「一誠にとって授業で行われるトレーニングは全くトレーニングにはならないからな……」

 

「一般人にはちょうど良いんだろ。俺が少しおかしいだけだ」

 

 

 そう言いながら休む本音の目の前でシャドーを開始する一誠の異質通り越してギャグみたいな体力に変な笑いが込み上げてしまうものの、改めて一誠のシャドーの動きを見てみると、洗練さこそなくまるで力任せに相手を粉砕するような剛の動きに見える。

 

 

「………ふっ!」

 

 

 と、思えば急にボクサーのようなフットワークを思わせる動きをしてみせたり……。

 

 

「む、切り替えたな」

 

「切り替えた?」

 

「ああ、なんでも最近閃いたらしいんだ。戦う相手によってパワーで押しきるか、ああして手数と速度で翻弄するかってな」

 

「へぇ……?」

 

「実はそれを見た時に私もひとつ閃いてな」

 

「……しののんも大概な気がするけど」

 

 

 説明しながら自分も似たような真似をしていると話す箒に、本音は寧ろこの異質さを知った上でついていこうとする箒のメンタルの強さにちょっとした尊敬の気分になる。

 

 

「まあ、一誠の本当の戦い方はああいうのではないのだがな……」

 

「………」

 

 

 日が出始めたIS学園にて密かに行われる進化のトレーニングは続いていく。

 

 

 

 

 こうして本音にとっては初の経験である一誠式ハードトレーニングは取り敢えずの終わりを迎えたのだが……。

 

 

「いたたたたた!?」

 

「ど、どうしたののほほんさん!?」

 

「た、多分筋肉痛かも……あははー……」

 

「筋肉痛って……何をしたのよ?」

 

「ちょ、ちょっとねー……わはははー」

 

 

 人生で経験したことのないレベルの全身筋肉痛に苛まれており、クラスメート達に心配をされていた。

 

 

「私も初めはああだったなぁ」

 

「………」

 

 

 そんな本音の姿を見てしみじみと思う箒と、素知らぬ顔で教科書を読む一誠。

 朝のトレーニング以降、一夏とシャルルの二人とは顔を合わせておらず、まだ食堂にいるのか教室に来ていない。

 

 

「…………」

 

『おい、眼帯の小娘がまたメンチきってるぞ?』

 

(知らん)

 

 

 そして先日の授業以降、完全に敵認定をしたらしいラウラ・ボーデヴィッヒからは敵意バリバリのメンチを切られっぱなしだが、小娘一人の殺気等そよ風にも満たないと、面白がるドライグとは反対に一誠は完全スルーを決め込んでいた。

 どうも彼女は織斑千冬に対して崇拝に近いものを持っているせいらしく、そんな千冬からマンツーマンで授業を受けた一誠がとてもお気に召さないらしい。

 

 

「む、既に居たか」

 

 

 それを知っている上でわざとなのかは……恐らくわざとではないのだろうが、その千冬はといえばわざわざそのラウラが見てる前で煽るような事を言うものだから、一誠からしたらうんざりしかしない訳で……。

 

 

「兵藤よ、話がある」

 

「…………なんですか?」

 

 

 別に千冬が悪いという訳ではないのだが、一夏の姉だけあって微妙に鈍いところがあるせいなのか、千冬の登場によりお喋りムードだった教室内が一気に静寂に変わったこの状況でわざわざ言うのだ。

 

 

「学園長に話を通したのだが、お前には専用機が無いだろう? かといって政府がお前に専用機を与える話は無い。

だから私が掛け合って学園の訓練機をひとつお前に半専用機として持って貰う事にした」

 

「えっ!?」

 

「す、凄いじゃん兵藤君!」

 

「………!」

 

 

 要するにスペアはどちからと言えば男でISを動かせた理由を知るための実験動物的な認識を政府はしているからわざわざ専用機を与える必要は無い―――という事実をオブラートに隠しつつ千冬の独断で経験を積ませるつもりで訓練機を半専用機として与えるという話らしく、それを横で聞いていたクラスメート達はざわついていた。

 

 

「それって贔屓だと思うし、他の生徒が納得できないでしょう? ただでさえ訓練機の貸し出しは上の学年が最優先されるのに……」

 

「そうだな。

しかし先日の授業の際、お前をそのままにした腐らせるのは勿体ないと思ったのだ。

そもそも織斑には専用機があってお前には無いのも変な話だろう?」

 

「いやだってISのコアにも限りあるし、しょうがないでしょうに。

それに見たでしょう? 俺はISを動かすのが下手すぎる。

だからこうして整備側の勉強を……」

 

「どっちもやれ。

とにかくこれは決定事項だ」

 

「…………チッ、強引な教師だな」

 

「ふっ、本来なら私にそのような口の聞き方は許さんが、今回だけは多めにみてやろう」

 

 

 ただの拘束具にしかならないものなんて要らないというのが本音である一誠を教師という立場から押さえ込む千冬は妙に気分が良さげだ。

 

 というのも例の無人機の一件以降、もしまたあのような状況となった場合、一誠がまたあの異質な力を行使する可能性があり、それを周りに見られてしまえば学園生活に支障が出てしまう。

 それを出来る限り防ぐ為――あの異様な力の行使を少しでも防ぐ為にという、千冬なりの生徒である一誠への思いやりのようなものだ。

 

 

「打鉄で良いのか?」

 

「なんでも良いッスよ……はぁ……」

 

 

 別に周りにバレて化け物扱いされようとも一切気にしない一誠からしたらありがた迷惑にしかならないが、根は基本的に相手の厚意を突っぱねられないせいか、渋々受け取る事にした一誠は、すぐ隣で苦笑いしている箒に見られながら深々とため息だ。

 

 向こうの席から今にも殺さんとばかりの殺意を向けてくるラウラに対してという意味も込めて。

 

 ちなみに、チャイムと同時にギリギリセーフと言いながら教室に入ってきた一夏、シャルル、セシリアはきっきりと千冬に叱られるのであった。

 

 

 

 

 

 入るなり千冬姉に怒られてしまったのでよくは聞けなかったけど、どうやら一誠が訓練機を半専用機として渡されるらしい。

 それはつまり一誠を訓練に誘えるという事になるわけで、放課後となって千冬姉に連れられて訓練機を受理する手続きをしに行った一誠を誘おうとセシリアやシャルル、それから二組から来た鈴に提案してみた。

 

 けれど皆してどういう訳かあまり良い顔はしなかった。

 

 

「あの方はこれまで授業以外ではまともにISに触れてすらいなかったのでしょう?」

 

「そうだと思うけど……」

 

「私達の訓練に付いていけるとは思えないのよ。

授業でISを動かしてる姿を見た限りじゃ……」

 

「だから皆で一誠に教えてやれば……」

 

「そもそも彼って誘ったら応じてくれるのかな?」

 

 

 なんだよ皆して、俺が初心者の時は教えてくれたのに一誠には教えないのかよ……? シャルルまで何故か否定的だしよ……。

 

 そんな事を思っていたら一誠が千冬姉と教室に戻ってきた。

 

 

「……なんだお前ら、まだ居たのか?」

 

「あ、いや一誠がISを持つって聞いたので、せっかくだから一緒に訓練しようと思って……」

 

 

 千冬姉に話をしてみる。

 流石に千冬姉が『そうしろ』と言えば皆だって反対はしない――と思ってたのだけど。

 

 

「基礎訓練に関しては暫く私が面倒を見るからお前達はお前達の訓練に集中しろ」

 

「え!?」

 

「織斑先生が直接ですか!?」

 

 

 どうやら暫くは千冬姉が直接見るらしいけど、セシリアや鈴はかなり驚いていたし俺も直接千冬姉から教えられた事はなかったので少しびっくりだ。

 

 

「……………………」

 

 

 その千冬姉の説明の後ろで思い切り嫌そうな顔をしている一誠については今触れない方が良いのかもしれないけどな……。

 

 

「それなら仕方ないんじゃないかな一夏?」

 

「そうよ、織斑先生もこう言ってるんだし……」

 

「私達は私達の訓練をやるのみですわ」

 

「……おう」

 

 

 少し皆の言い方に解せない所もあるが、そういう事情があるのなら基礎を終えた後に誘えば良いと切り替える事にした。

 だが大丈夫なのか? この話を当然ボーデヴィッヒは知らないと思うが、もし知ったらまた面倒な事になりそうな気が……。

 

 

「基礎なら自分でやるんで、先生は自分の仕事をしたら良いと思うんですがね」

 

「前から思っていたが、私にそこまで露骨な顔をするなど一夏ですら無いんだがな」

 

「逆に俺にそこまでしようとする先生が意味不明なんですけど」

 

「お前も生徒だからな。ほら行くぞ」

 

「……チッ」

 

 

 という俺の嫌な予感はすぐに当たる事になるのだけど、この時の俺はまだ知らなかった。

 

 

「凄いですわね、織斑先生にあのような態度を隠すことなくするなど……」

 

「前々から変なやつだとは思ってたけど、やっぱり変だわ」

 

「……」

 

 

 千冬姉の指導は厳しそうだけど、一誠なら耐えられそうだし、基礎をマスターした一誠と訓練できたらもっと強くなれそうな気がする。

 だから俺もちゃんとその時までに備えて皆と訓練しよう……虚先輩にカッコ悪いところを見せない為にな。

 

 だけど俺は知ることになるんだ。

 一誠という男が持っている『異常』を。

 

 

 

 

 

 異常というのは、常人から見てそう思うからこその異常である。

 そういう意味では一誠は確かに異常者であった。

 

 

「驚いたな……。私は早くてもお前なら三日程でモノにできると思っていたが、こうも飲み込むのが早いとは……。

やはりお前は……」

 

「やめてくれますか。

俺はとっとと覚えて妙な監視から解放されたいから必死なだけですので」

 

「………」

 

 

 千冬はただ驚いた。

 一誠の高すぎる適応能力に。

 

 ほんの少し前まで本当の素人であった一誠に基礎を指南すれば、彼は瞬く間に吸収し、当初はちぐはぐであった操縦に関しても、突然彼が『慣れた』と口にした途端、その通りに操縦をして見せた。

 

 特殊な人間を何人か見てきた千冬もこれには驚かされたし、間違いなく今まで見てきた人間の中で兵藤一誠という人間は『異常』であった。

 

 

「この分だと明日には基礎は卒業だな」

 

「それを聞いて安心しましたよ。

怖い先生から解放されるって意味でね」

 

 

 だからこそ千冬は思う。

 もし彼が本格的に『やる気』になった時、一体どこまでの領域に到達するのか。

 一度はISというカテゴリで頂点に到達したことがあるからこそ、千冬は己が現役だった時に彼という存在が出てきていたらどうなっていたのかを。

 

 それは久しくなかった高揚感だった。

 

 

「なぁ兵藤よ」

 

「……なんすか、今姿勢制御に集中してるんですけど」

 

「いやな、折角の機会だから軽く私と試合を――むっ?」

 

 

 この男の持つISに対する潜在能力を解き放ってみたい――この男の未来を見てみたい。

 

 そんな欲望にも似た願望を抱いた千冬は武者震いを隠しながらつい口走りそうになったのだが、その先の言葉が一誠に届く前に無機質な電子音により阻まれてしまう。

 

 

「私です。今第5訓練場に居ますが――――なんですって? わかりました、現場に急行します」

 

 

 学園校舎から遠すぎて一般生徒はあまり近寄らない訓練場で基礎訓練を施していた千冬は、突如発生したトラブルに返答すると、ため息交じりで通信機を切る。

 

 

「トラブルだ。

どうやら生徒同士でISの私闘をやらかしている」

 

「そうですか、だったら早く行った方が良い」

 

「ああ、だからお前も来い」

 

「あ?」

 

「部分展開についてはまだ教えていなかっただろう? 私が実践するから見ていろ。ほら早く」

 

「………めんどくせぇな」

 

 

 そうぼやく一誠を無理矢理連れてトラブル鎮圧に赴く千冬。

 この時千冬は、何故箒が妙に彼を慕っているのかがちょっとだけわかった気がしたという。

 

 

 

 

 

 

 訓練をしていた一夏達は、殺気立ったラウラ・ボーデヴィッヒに早い話が喧嘩を売られた。

 当初は買う気が全くなかった一夏だったが、その一夏を侮辱したからと鈴音とセシリアが買ってしまった事で騒ぎに発展してしまった。

 

 結果だけを言うとラウラ・ボーデヴィッヒは確かに軍隊上がりだけあり、まともな連携を取れなかったが故に山田真耶に負けてしまった時と同じく、セシリアと鈴音を叩きのめしたのだ。

 

 だが山田真耶との違いは、勝負は決したというのにラウラが二人を機体ごと嬲り始めたのだ。

 

 これには激怒した一夏が自身の専用機である白式を展開し、ラウラへ特攻を仕掛けたのだがラウラはそれすらも冷静に対処してしまう。

 

 

「ふん、感情的で直線的。

私の敵ではない、絵にかいたようなの愚図だな」

 

 

 唯一の武装である雪片弐型を振りかざしたその瞬間、一夏の身体は硬直してしまう。

 

 

「な、身体が……!」

 

「やはり私とこのシュヴァルツェア・レーゲンの前では貴様も……そしてスペアの男も有象無象の一人でしかない! そのまま消えてろ!!」

 

 

 それまで冷徹な声だったラウラが殺意混じりの怒号となると、武装のひとつであるレールカノンが硬直する一夏に向けられる。

 だがその瞬間、一夏とラウラの間に割って入るひとつの影が。

 

 

「きょ、教官……!?」

 

「千冬姉……!」

 

 

 それは千冬であり、ISのブレードのみでラウラのレールカノンを抑えていた。

 

 

「ISによる私闘は原則として禁止されている。

貴様等は罰則だ」

 

「ぐっ……!」

 

「ま、待ってくれ千冬姉! 仕掛けたのはソイツだぞ!」

 

「状況を見ればわかる。

そうだろうボーデヴィッヒよ……?」

 

 

 部分展開のみだというのに、強大な壁に見えてしまったラウラは千冬の声に圧されてしまうが、それでも言った。

 

 

「で、ですがこんな連中の為に教官が時間を割く事に私は納得ができません! どうして教官程の方が……!」

 

「なら貴様は『こんな連中』と呼ぶ者とは違うとでも言うのか?」

 

「そ、そうです! 私は――」

 

「思い上がるなよ小娘が……」

 

「うっ……!」

 

 

 たった一言、殺気混じりに告げられたその言葉で一気に戦意を失うラウラに千冬はため息混じりに離れる。

 

 

「そんなに一夏と兵藤が気に食わんのか」

 

「わ、私は……」

 

 

 千冬の質問に目を泳がせるラウラ。

 

 

「仕方ないな――兵藤!」

 

 

 それを見てこうなればと判断した千冬は、誰にも気付かれず、千冬に言われた通り部分展開のメカニズムを『観て』いた一誠を呼ぶ。

 

 そこで初めて一誠が居たことに気付いた一夏達。

 

 

「なんすか……一応観てはいましたし、何度か試せばなんとかなるとは思いますけど」

 

「その事については問題ないと思っている。

お前を呼んだのは、このラウラの相手を暫くしてみろということだ」

 

「あ?」

 

「……!?」

 

 

 

 また面倒な事を勝手に言い出したぞとげんなりする一誠。

 同じくそれを聞いた先程ラウラにやられかけた一夏は当然千冬に反対する。

 

 

「ま、待てよ! 私闘は禁止って……」

 

「私が見ている前での試合なら問題ない。

勝負が決したと判断すればちゃんと止めるさ」

 

「だからって昨日今日まともに動かしてる一誠じゃ……」

 

「そうかもな。だがこれ以上ボーデヴィッヒを放置していたら爆発しかねないだろう? ガス抜きをさせてやらんと」

 

「そ、そんなの……。い、良いのかよ一誠は?」

 

「昨日から死ぬほどうざったい話に巻き込まれてる感は否めないし、キミの姉ちゃんがちょっとうぜぇと思うが……しょうがねぇだろ。確かにあの銀髪は俺をぶっ殺したくて仕方ないってツラしてたしね」

 

「う、うぜぇって……」

 

「余計な事に巻き込んでいるという自覚はあるから今の言葉は不問してやる。

どうだ、やれるか?」

 

「やれるか? じゃなくてやらねぇといけないんでしょう? ったく、不様に負けても笑わんでくださいよ?」

 

 

 そう言いながら困惑するラウラの前に立ち、初めてラウラをまともに見る一誠。

 

 

「ほらよ、織斑大先生の許可が降りたぜ? 俺を合法的に八つ裂きにできるチャンスだ」

 

「き、貴様……! 何故教官と居る……?」

 

「あ? ああ、さっきまで別の訓練場で基礎を叩き込まれていてね。で、キミ等が騒ぎを起こしたって連絡が入ったら何故か俺も連れてこられたって訳」

 

「貴様……! 何故貴様ごときが教官から直接!!?」

 

「俺が知るかよ。 ったく、俺は単なる整備科志望だっつーのにこの強引女教師が無理矢理やらせてきやがるんだ」

 

「貴様ァァァッ!!!」

 

 

 どこが俺と似てるんだか……とラウラの激昂を前にヘラヘラする一誠は打鉄を展開させると、武装は展開させずにボクサーの構えをとる。

 

 

「素人だからお手柔らかに頼むぜ? …………先輩(パイセン)?」

 

「殺すっ!!」

 

「では始めろ」

 

 

 こうして基礎訓練を経ていきなりの試合に駆り出されてしまった一誠は、先程千冬から教えられた基礎通り、ISを動かすのであった。

 

 

 そして初の実戦で見せたその動きは一夏達を驚愕させる。

 

 

 

「!? イ、瞬時加速(イグニッション・ブースト)!?」

 

「しかもあれほどに小刻みに……!?」

 

「ど、どういう事だよ千冬姉?」

 

 

 

 開幕からいきなり瞬時加速を駆使してラウラに肉薄する一誠に一夏達は千冬説明を求めた。

 すると千冬は慌てて対応しようとするラウラと、軽いシフトウェイトをしながらラウラの周辺を高速で動き回る一誠とを見ながら口を開く。

 

 

「兵藤は物覚えが異常なまでに早くてな。

当初はISの動きに振り回されていたものも、時間と共に『慣れた』と言って本当になれてしまった。

そこからは本当に、スポンジのように私の指導を吸収していったものでな、取り敢えず実戦に使えそうな技術を軽く教えてみた」

 

「そ、それで瞬時加速を? お、俺だって覚えたのは最近なのに……」

 

「やっぱり変だわ……」

 

「では何故兵藤さんは打鉄の武装を展開なさらないのですか?」

 

「曰く、近づいてぶん殴る方が自分に合っているかららしい」

 

 

 そう千冬が妙に楽しげに語るのを耳に一誠とラウラの試合を見る一夏達。

 

 

「この、図に乗るなァ!」

 

「!」

 

 

 そんな一誠の素人離れした動きに面を喰らっていたラウラが声を荒げた瞬間、一誠の動きが一瞬固まったように停止してしまう。

 

 

「あ、あれは俺の時にもあった……!」

 

「ボーデヴィッヒのISの能力だ。

さて、どう対処する?」

 

 

 停止した隙にレールカノンを直撃させられ、機体ごと吹き飛ばされてしまった一誠がアリーナの壁に背中から激突する。

 その時点で打鉄に大きなダメージが入ってしまったが、一誠本人は機体から軽い火花が散っていても平気な顔で復帰すると、ゴキリと首を鳴らす。

 

 

「………停止結界の邪眼を持ったカスを思い出したが、それの劣化版ってところか」

 

 

 その際一誠が口に出したその言葉は誰にも聞こえなかった。

 

 

「ふ、ふん! 絶対防御に助けられたな! だが所詮素人! 私のシュヴァルツェア・レーゲンの敵ではない!」

 

 

 状況は圧倒的に自分に向いていると確信したのか、ちょっと強気に戻りつつあるラウラはバチバチと機体から火花やら軽い煙が上がっている一誠を見下す。

 

 その状況は見ている一夏達ですら思った事だったが……。

 

 

「経験しといてよかったわ。それはもうとっくの昔に『慣れてる』んだよ」

 

 

 そう言った瞬間、一誠の生気を感じられなかった瞳が文字通り変わる。

 

 地の底から飛翔せんと見上げる龍のような黄金の瞳に……。

 

 

「何を――はっ!?」

 

 

 負け惜しみをと言おうとしたその瞬間、そこに居たはずの一誠の姿がこつぜんと消えた。

 

 

「な、何!? ど、どこに――っ!?」

 

 

 完全に見失ったラウラはパニックになるが、遅れて反応したハイパーセンサーが一誠の現在地を教えた。

 

 

「……」

 

 

 自分の背後からブレードを今まさに振り下ろさんとする一誠の場所を。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 咄嗟にスラスターの出力を全開させて緊急回避を試みたラウラだが、片側のスラスターにダメージを負ってしまう。

 

 

「こ、こいつ……!」

 

「おろ? 今の反応できるのか? やっぱりスゲーなIS」

 

 

 避けられたというのに、寧ろISの基礎性能に感心する一誠は持っていたブレードをそこら辺に放り捨てると、再びボクサーのような構えを取る。

 

 

「どうやら、最近無駄に考えた戦い方(スタイル)はISと微妙ながらも相性が良いみたいだ……」

 

 

 そう呟くと同時に再び姿を消した一誠を今度こそラウラは見失う。

 

 

「うぐっ!?」

 

 

 そして一誠の姿が見えないまま重く、鋭い一撃がラウラの脇腹に突き刺さり、その一撃を境に腹部、顔面に次々と突き刺さる。

 

 

(ば、バカな……! は、ハイパーセンサーでは全く捉えられないだと……!?)

 

 

 つまりそれは異質な速度で攻撃しているという事であり、徐々にダメージを負っていくラウラは完全に防戦に追い込まれてしまう。

 

 

「………」

 

 

 そればかりか、攻撃の手が止むと同時に一誠が姿を現せば、挑発するようにシャドーをしている。

 つまり完全に遊ばれていると同義であり、ラウラの怒りは頂点に達する。

 

 

「ふざけるなァァァッー!!」

 

 

 先程バカにした一夏と同じように無意味にレールカノンを発射してしまったラウラ。

 当然の事ながらその一撃は姿を消しては高速で接近する一誠には当たることなく……。

 

 

「がはっ!?」

 

 

 目と鼻の先まで肉薄されたと同時に放たれたヘッドバットにより今度はラウラが機体ごとアリーナの壁に叩きつけられることになる。

 

 

「す、すげぇ……」

 

「やはりか……」

 

「な、なにがやはりなのでしょうか?」

 

「見ての通りだ。兵藤はああして実戦を経験すればするほど異質な速度で成長するということだ」

 

 

 そんなあり得ぬ光景に見ていた者はある意味魅せられていた。

 

 だがそんな試合も唐突に終わりを迎えてしまう。

 

 

「あ、やっべ。エネルギーが切れたから俺の敗けだわ」

 

「な、なんだと……!?」

 

 

 ISに振り回されていたのが、逆にISを振り回した事で打鉄が自壊してしまったらしく、エネルギーが底を尽きてしまった。

 逆にラウラの機体はダメージを負わされたとはいえエネルギーはまだ尽きていなかったので、ISの試合という意味ではラウラの勝利だ。

 

 

「その様だな。よし、両者そこまで。勝者はボーデヴィッヒだ」

 

「ったく、後にも先にもこれっきりにしてくだいよ?」

 

『………』

 

 

 それに納得なんてする訳もないのだが、とにかくラウラの勝ちで今回は閉幕となるのであった。

 

 

 

 兵藤一誠

 

 赤龍帝

 無神臓

 

 

 ISにおける戦闘スタイル。

 

 

 ブロウラースタイル

 

 ダメージ覚悟で相手を力でねじ伏せるという、生身での基礎スタイルに近いスタイル。

 

 

 スピードスタイル

 

 ISの訓練をするに辺り、ごり押しでは難しいと判断した際に閃いたスタイル。

 スピードで翻弄し、ダメージを最小限に押さえながらラッシュを叩き込め。

 

 

 ブレードスタイル

 

 織斑千冬と一夏―――そして篠ノ之箒の剣術を見て閃くのかもしれない第三のスタイル。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 伝説・赤龍帝

 

 一誠本来の戦闘技術をIS戦闘に転用させし異界にて最強最悪とも揶揄された永続進化のスタイル。

 これを見たとある天災兎は、興奮しすぎて寝られなかった模様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 篠ノ之箒

 

 ???

 

 

スタイル

 

 

 ブレードスタイル

 

基本的に一誠に近いが、より洗練されている。

 

 

 カウンタースタイル

 

 攻めるだけではダメだと己の気性を制御することで閃いた明鏡止水のスタイル。

 

 

 ジェットストリームスタイル

 

 沸き上がる情熱を解き放つ暴風のような攻めとなるスタイル。

 

 

 

 

 

 

 

伝説・紅き滅殺姫

 

 

 彼をと共に在った悪魔の女性への情景により覚醒せし新たな伝説の幕開けとなるスタイル

 

 

 

終わり




補足

下手なのは事実だけど、本腰入れさえすればその適応能力によりモノにすることが可能。

それを見た千冬さんは武者震いが凄いらしい。


その2
ただし、ISは使い捨てになってしまうのであまり無闇には動かせない。



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