色々なIF集   作:超人類DX

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別にヤマもオチも無いもんだから、最後に思いきりふざけてみたぜ。


ぬぼーっとする終わった男

 

 

 

 今の自分が何の為に生きているのかがわからない。

 死のうと何度も自分で自分の頭を潰しても死ねない。

 

 大好きだった悪魔(リアス)が傍に居ない現実はどれだけ否定したくても否定できない。

 

 それでも生きているのは復讐とリアスと共に生きる自由を手にれる為に限界を越え続けていったからなのもそうだが、自身に宿る龍が居てくれているから。

 

 その最後一線を越えさせまいとしてくれる龍がいるから彼は生きている。

 

 

 

 

 二人の転校生によって今日の1組は少々騒がしい。

 けれど考えるのを半ばやめてしまっている一誠にとってすればそのどちらの転校生に対する関心は皆無だ。

 

 現れるなり一夏をビンタした眼帯をつけた銀髪の少女であろうが、男子の制服を着た金髪の者であろうが。

 

 

「………………」

 

「ここが俺達が使ってる更衣室だ。

時間も無いしちゃっちゃと着替えちゃおうぜ?」

 

「あ、う、うん……」

 

 

 金髪で線の細い男子の転校生ことシャルル・デュノアを一夏が更衣室に案内する横で、先程まで布仏本音からこの学園の生徒会長から目をつけられたと聞いた一誠は無言で着替えようと制服の上着を脱ぐ。

 

 

『結局、限界を越え続けてもその古傷だけは消えなかったな』

 

 

 いつまでこんな生き方をしないとならないのかと、どこまでも生きる意思が灰となっている一誠に宿る相棒の龍がぽつりと呟く。

 

 

(……………)

 

 

 一誠にしか聞こえないその声の主ことドドライグの言葉に釣られるように己の身体に視線を落とせば、その身体には大きな傷が残っていた。

 

 普段は首まで隠れるインナーをYシャツの中に着込んでいる為に誰かに見られる事は無い、首から下腹部までに刻まれた古傷。

 

 

(皮肉なもんだな。

この小汚い古傷が、俺がリアスちゃんとドライグと戦ってきた証なんだ)

 

 

 復讐の為に戦い続けたという証を見て自嘲する一誠。

 

 脇腹付近に残る抉り抜かれた傷跡も。

 肩から下腹部に向かって蛇が這うような切り傷も。

 

 リアスを庇う為に負った背中の銃創のような傷跡も。

下手をしたら死んでいたと今でも思う切り裂かれたかのような首の傷も。

 

 その全ての傷跡が、己がこの世界の存在ではなく、そしてリアスと共に生きた証だった。

 

 結局復讐相手であった所謂転生者と呼ばれた存在と、その大元である神からの悪足掻きなのか、進化を重ね続けた今でも、彼等から受けた傷だけは消えなかった。

 

 

『そのナンタラスーツというのにもう少し肌を隠せるものはないのか? そのまま出たらガキ共の目に止まるだろう』

 

(勝手にしてくれよ。

見られようが、どう思われようが最早どうでも良い)

 

 

 よほどの人生を歩まなければまず残らないだろう様々な傷は、殺しの経験もない学生達には少し刺激が強いのかもしれないが、一誠はどう思われようが最早なにも思わない。

 

 偶々後ろから見ていたシャルル・デュノアなる転校生が一誠の背中の傷跡を見てしまって絶句していようが知らないものは知らない。

 

 

「先に行ってるよ」

 

「ん? おう」

 

(スペアの人のあの傷、どこで負ったものなんだろう……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やはり生気の無い目をしたスペアの男子である兵藤が一夏とデュノアよりも先に現れた時、私もそうだったが、彼のISスーツを着たその姿に驚いてしまった。

 

 

「……………。なにか?」

 

「あ、いや……デュノアと織斑はまだなのか?」

 

「そのデュノア君とやらを案内もしてましたのでもう少し掛かるんじゃないかと」

 

「そうか……」

 

 

 常に無機質な目をした兵藤は淡々と私の言葉に返すと、少し引いている女子達に混ざって整列し、ぬぼーっとした目で上を見ていた。

 

 

「ぜ、全身が隠れるタイプのスーツを渡してあげるべきだったでしょうか?」

 

「ええ、次回までに用意した方が周りからの視線も防げるでしょうしね」

 

 

 普通に生きていたのならまず残らないであろう傷跡は一夏と同じ型のISスーツでは隠しきれないし、その姿を見てしまった山田先生の提案に私もうなずいた。

 

 

 

「兵藤くんって腕も脚も傷だらけなんだね……」

 

「じ、事故でああなったのかしら?」

 

「…………………」

 

 

 過去が不透明な部分が多い兵藤一誠という男はこれによりますます謎が深まってしまい、初めて兵藤の傷跡を見た生徒達も、動揺してしまっている。

 

 

「むぅ、やはりそのスーツだと全身は隠れないか……。

男子用でオーダーメイドのスーツを作ってくれそうなメーカーを探してみるか?」

 

「す、すごいねー……?

いっちーって普段ずっと長袖だったから気づかなかったけど」

 

「こんなの何の自慢にもならないし、これのおかげで銭湯とか行けなくて割りと困るんだよね」

 

 

 そんな中、篠ノ之だけは初めから知っていたかのような態度だ。

 同室だから何かの拍子に見たからなのかもしれないが……。

 

 

「なぁのほほんさん。

その、この事は例の生徒会長には……」

 

「勿論黙っているつもりだけど、多分すぐ知られちゃうと思う。

これだけ皆に見られちゃってるし……」

 

「そうか……」

 

「そんなもの一々キミ等が気にする事じゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 ドライグの言っていた通り、ISスーツから露出する箇所から見えてしまう痛々しい傷跡のせいで変な空気になってしまったものの少し遅れて来た一夏とシャルル・デュノアを加えての授業は開始される。

 

「本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練に入る」

 

 

 授業態度に関しては実は今のところ好評価だったりする一誠は、すぐ近くで鈴音やセシリア達となにやら話をしている一夏とは真逆に、説明をしている副担任の話を聞いている。

 

 

「それにしても兵藤のあの身体は何があったからああなるのよ……?」

 

「単なる事故では説明がつかないレベルですわよ……」

 

 

 案の定例の一件以降は積極的に関わろうとはしなくなった二人は、ぬぼーっとした顔の一誠に刻まれた傷跡について話をしていた。

 

 

「あんまり触れてやるなよ。

俺も詳しくはしらないけど、子供の頃に大きな事故にあって残ったって箒から聞いたし」

 

 

 そんな二人を一夏は色眼鏡では見るなと言うものの、セシリアや鈴音だけではなく殆どの生徒が既に一誠の傷跡に引いている。

 

 

(スペアの男の起動者のあの身体はなんだ……? まるで戦争帰りの傭兵のようだ……)

 

 

 それまで無関心であった銀髪の転校生ことラウラ・ボーデヴィッヒまでもスペアという認識しかなかった一誠に関心を少しだけ持ったり。

 本人は晒し者になろうが知ったことじゃないと、どこまでも燃え尽きてしまっている気分とは裏腹に様々な考察の対象にされてしまっている始末。

 

 

『やはり平和に生きていた人間の小娘共には異様に見えるようだ』

 

(はぁ……)

 

 

 殆どが余所見をしているせいで千冬の怒号が飛んだり、その罰で専用機持ちの鈴音とセシリアが副担任とちょっとした試合をすることになっていたり、その副担任が二人をまとめて相手にして普通に勝ってたりとしていても、一誠の心はリアスを失ってからずっと曇り続けていた。

 

 

「………」

 

 

 そのリアスの声にそっくりな箒が、生気を失った顔をしている一誠を心配そうに見ていることに気づかず、軽い試合も終わり、いよいよ専用機を持たない一般生徒達が何機か用意された訓練機を使っての起動訓練を行う。

 

 

「専用機持ちは織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰だな。八人一組でグループになって実習を行う。リーダーは専用機持ちがやる事とする」

 

 

 授業を受ける生徒達の全員がISに触れられるようにとある程度の班分けを指示する千冬に、それまで整列していた殆どの女子生徒達が一斉に一夏ないしシャルルへと雪崩れ込むように同じ班になって欲しいと騒ぎだす。

 

 

「…………………」

 

「ああ、やっぱりこうなるのか」

 

「おりむーとでゅっちーは人気者さんだねー?」

 

 

 専用機は無く、そして普段から常に生気を感じられない不気味な風体である一誠には比較的関わりのある者しか来なかった。

 

 

「いや、俺専用機なんて無いんだから織斑君達の所に行けよ。

俺は数が余ってる所に適当に混ざるから」

 

「私もそうしようと考えていただけだ」

 

「それに織斑先生は一言も自由に組めなんて言ってないしねー」

 

 

 やいのやいのと一夏かシャルルに群がる女子達を見て苦笑いする箒と本音の言う通り、案の定な惨状を前に軽く呆れていた千冬から怒号が飛ぶ。

 

 

「この馬鹿者共!!

出席番号順に一人ずつ入れ! 誰が自由にやれと言った!! 次にもたついたらISを背負ってグラウンド百週だ!」

 

 

 その怒号が飛んだ瞬間、ネズミが散るかの様に生徒達は整列をする。

 

 

「最初からそうしないか……まったく。

それと兵藤はグループを組まずにその場に待機していろ」

 

「は?」

 

 

 改めて出席番号の順でグループ分けが完了する中、一誠だけが千冬に言われる通りにそのまま誰のグループにも入らずに居る。

 とある女子は一夏と同じ班だシャルルと同じ班だと喜んでいる声をバックにぼけーっと突っ立っていると、待機を命じていた千冬が副担任の山田真耶と共に近づいてくる。

 

 

「さて、待たせたな。

お前は私が直接面倒を見る」

 

「はぁ……」

 

「本当なら同じ男子である織斑かデュノア所に加えるべきなのだろうが、お前は少しばかり『特殊』だ。

専用機が与えられないとはいえ、二番目の起動者である以上、政府からはある程度ISに触れさせろと言われている」

 

「…………………はぁ」

 

「少しばかりの贔屓となってしまうが、お前は授業態度な悪くないし、学ぼうという意思はちゃんと見える。

故に私が指導することになった、わかったか?」

 

「はぁ……」

 

「あ、ご心配しなくても織斑先生がご指導している時は私が皆さんを見ていますから、安心してお勉強してくださいね?」

 

「…………………はぁ」

 

 

 千冬が直に指導すると言われた一誠の返答は変わらずに気の抜けたものであった。

 本来ならこのだらけた態度に対して千冬は注意をするのだが、色々と思うところでもあるのか敢えて見逃している。

 

 

「では訓練機はラファールか打鉄の二種類となるが、どちらを使う?」

 

「多分、自分の性質的に打鉄ってのが合うのでそれで。

入学試験の時もそれでしたし」

 

「よしわかった。

では山田先生、生徒達を暫くお願いします」

 

 

 どちらの訓練機を使うかと問われ、一度きりだが乗ったことはある打鉄のほうを指定する一誠に頷いた千冬が真耶に後を任せてから取りに行こうとした時だった。

 

 

「待ってください教官!!」

 

 

 恐らくやり取りを見て聞いていたのだろう、恐ろしく不満であるという顔をした銀髪眼帯の少女ことラウラ・ボーデヴィッヒが突然殴り込んでくるように打鉄を取りに行こうとした千冬を呼び止めた。

 

 

「…………」

 

「なんだボーデヴィッヒ?」

 

「う……」

 

 

 授業中な事もあって、少々厳しい表情となる千冬とラウラに対する『無関心』の極のような生気のない無表情の一誠に、一瞬狼狽えたラウラだが同じグループとなった生徒達のハラハラした表情に気づく事なく一誠を指差しながら抗議をする。

 

 

「教官が直接指導を行うのは不公平であります! そもそもこのスペアの男は専用機すら持たぬ素人と聞いております! ならば他の生徒と同じ扱いをすべきです!」

 

「……?」

 

『スペアの男? あぁ、織斑とかいう小僧の後に一誠が動かしたからという意味か? 世間ではスペア扱いなのだな……』

 

(ああ、そういう……。どうでも良いなオイ)

 

 

 どうも千冬関連の事になると頭に血が昇りやすいらしく、それまで傷跡に対する疑問以外はほぼ眼中にすらなかった一誠を睨むラウラに、どういう訳か千冬の声が更に低くなる。

 

 

「国の上の連中がそう呼んだのかは知らんが、兵藤の名はスペアではないし、そう呼ぶのはやめろ。

それにこの件は私が決めた事だ、お前が意見をする資格などない」

 

 

 スペア呼ばわりすることは侮辱になると思っての事なのだろうか、千冬はラウラに注意をする。

 困ったことに、言われてる本人はどうでも良かったりするのだが……。

 

 

「くっ……!」

 

「わかったのならさっさと持ち場に戻ってグループの指導をしろ」

 

「…………………っ!」

 

「……………」

 

『お、一丁前に小娘がメンチを切ってきたぞ?』

 

 

 ここで言ってもどうにもならないと悟ったのか、悔しげに一誠に殺気混じりで睨んだラウラは渋々持ち場に戻っていくと、それを見送った千冬ははぁとため息だ。

 

 

「すまんな、ボーデヴィッヒの言ったことはあまり気にするな」

 

「別に最初(ハナ)っから彼女の言動に気分なんて悪くなったりしませんよ。

……そういや彼女は織斑君にもああしてましたけど、先生の知り合いなんですか?」

 

「以前、奴が所属する隊の指導をしたことがあってな……。

私に拘りすぎて視野がああも狭くなるとは思わなかったが……」

 

「………………」

 

『要するにリアスが侮辱された時の一誠のようなものか……。

少しでもリアスが嘗められたら、ソイツはおろかソイツの周辺の全てを皆殺しにするまでお前は止まらんかったからなぁ』

 

(へ、同じにされたかねーよ。

それに俺は今でも後悔なんてしてない)

 

 

 ドライグが茶化し混じりにラウラの事を言うが、一誠自身は自分と今の小娘が似ているなどとは微塵も思いたくはなかった。

 

 

 

 

 

 さてと、色々あったが改めて兵藤を見ることにした私は、打鉄を使っての基本運転の指導を行う。

 

 

「まずはゆっくり歩行しろ」

 

「………………」

 

 

 実を言うと、急遽入学が決まってしまった兵藤の実技試験の相手は私であった。

 その時は特に思うことはなく、起動はできても全くの素人と云わんばかりの動きであっとしか思わなかったが、あの時の件を思い返しながら改めて基本動作を行う兵藤を見ていたらわかってしまう。

 

 

「ぬ、やっぱり教本通りにはいかないですね……」

 

 

 兵藤はほぼ手を抜いている。

 確かに歩行をしながらぼやいた通りに今の兵藤ISに乗っての歩行は難しいと感じているのは本当だろう。

 

 だが、私の予想が正しければすればすぐにでも物に――

 

 

「ぐぇっ!?」

 

 

 ――――する。

 そう思いながら注意深く見ていた私の目の前で兵藤がバランスを崩して顔面から地面に転んでしまった。

 

 

「おい……」

 

「あ、あれ? おっかしいな、試験の時もそうだったけど、普通に動かそうとすると正反対の挙動――にぃっ!!?」

 

 

 つい突っ込み気味に声を掛けた私に、兵藤は困惑しながら立ち上がろうとすると、今度は勝手に10メートル程上昇すると、背部スラスターを全開にしながら急落下し、また顔面を地面にめり込ませた。

 

 

「す、すいません……思った通りに動けなくて」

 

「……………。まあ初めはそんなものだろう」

 

 

 訂正しよう。

 兵藤は手を抜いていたのではなく、手を抜かなければまともに動かせないらしい。

 まさかとは私も思うが、それは恐らくこの訓練機の反応速度よりも遥かに兵藤自身のスペックが上だから……なのかもしれない。

 

 

「仕方ない、暫くは私が手を取りながら先導するので、その通りに動いてみろ」

 

「す、すいません先生……。ま、まさかこんな難しいとは。

これを割りと初見から平然と乗って飛び回れる織斑君って凄いんすね……」

 

 

 いや、お前の場合はISというものが却って己の潜在能力を引き下げてしまうからだ。

 しかし訓練次第ではどうにかなるはず。

 

 例えばこの打鉄のスペックにまで己を制御するとかな……。

 

 

「そら、次はゆっくり上昇しろ。

いいか? 精神を無にして激流に身を任せるようなイメージでだ」

 

「それは一番俺に合わないんですけ―――どぇ!?」

 

 

 まさか、ISのスペックを越えたせいでISに振り回される人間が現れるとはな。

 もしかしなくても、完全に制御できる術を身に付けたら現役の頃の私を越える可能性があるかもしれない。

 

 

「あっ!? ひょ、兵藤君が織斑先生に抱きついてるわ!!」

 

「本当だわ! ど、どうしましょう!? リアクションに困るわ!」

 

 

 

 

「くそ……! マジでムズいな……!」

 

「………………」

 

「あ、すいません……。

ぐぬぬ、ゆっくり……そっと……」

 

 

 変に神経も図太いしな。

 偶々見ていた生徒達が騒ごうが、事故とはいえ私にそうしてもまるで気にせず真面目に訓練しようとするのは中々骨もある。

 されたらそれは普通に困るが………一切の動揺もしないのは何故かムカッとしてしまうが。

 

 

「わぁ……いっちーって怖いもの知らずだね」

 

「ボーデヴィッヒが先程から親の仇のような形相だが、大丈夫かな……?」

 

 

 こうして不可思議な男子生徒との授業は進む。

 

 

 

終了

 

 

 

 その男は異質であった。

 

「アナタは確か兵藤君だったわね? 織斑君から聞いているかとは思うけど、私が生徒会長の――」

 

「…………………」

 

「――あら?」

 

 

 生気をまるで感じない。

 

 

「織斑君に色々聞いたから警戒しちゃっているの? それなら大丈夫大丈夫! そんなに怖がらなくてもお姉さんは何もしない―――」

 

「…………」

 

「―――あ、あれ?」

 

 

 男は愛する者を失ってからずっと、生きる屍だった。

 

 

「ちょっとちょっと! 今のは流石にわざと無視して――」

 

「……………」

 

「――――え、えぇ……? ここまで無視されたのって初めてなのだけど……」

 

 

 生きている実感がまるで無い、ただ死んでいないだけの無意味な生。

 

 

「あ……」

 

「……………」

 

「あ、あのー……私の事覚えてる? ほら、織斑君がクラス代表になった時のお祝いの時に取材させてもらった……」

 

「一応は……。その節はどうもすいませ――」

 

「あぁ、良いの良いの! 私もちょっと強引すぎたかなって思っていたし! あ、あははは……!」

 

(ま、黛ちゃんには返事したのに何で私はガン無視なのよ……!?)

 

 

 

 男にとって今の生は全てに対して無意味で無価値だった。

 

 

「…………」

 

「い、良いお天気ですねっ!?」

 

「…………………今にも雨降りそうな曇り空にしかみえませんが」

 

「へ!? あ、あぁ、そうだね!? 何言ってるんだろ私ったら! あははは!!」

 

 

 しかしそれでも死ぬことは許されなかった。

 『短かったけど、アナタと一緒に居れて幸せだった』と泣きながら抱き止めた青年に微笑みながら逝ってしまった悪魔の分まで生きる為に。

 

 何より今も尚止まらぬ永続進化の精神が……。

 

 

「ね、ねぇ……少しだけでも良いからあの時の力を―――」

 

「や、やめなってばかんちゃん! ご、ごめんいっちー! すぐに連れて帰るから!」

 

「離して本音! 今しかチャンスは無いの!」

 

 

 だから生きなくてはならない。

 永遠に癒えぬ途方もない喪失感による幻肢痛(ファントムペイン)と共に。

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒさんのVTシステムを鎮圧した際、アナタはISとはまるで異なる力を使っていた。

ああ、これはあくまでも私個人の興味だからね? けどもしこの事が政府に知られたら、二番目の起動者(スペア)という意味でも兵藤君は世界中に狙われてしまうでしょうねぇ?」

 

「…………」

 

「あ、アンタはっ! 一誠を脅すつもりか!?」

 

「そうまでして何がしたいのだ貴女は!」

 

「やーねー? 織斑君も篠ノ之さんも怖い顔して? 私は寧ろそういった面倒な手合いから守れるコネがあるのよ?」

 

 

 しかしそんな生きる屍でも『越えてはいけない線』はある。

 

 

「でも今まで兵藤君は悉く私と簪ちゃんを無視し続けたじゃない? となれば別に庇う理由もこちらには無いのよ。

しかも困った事にこの前兵藤君がISではないけどISの全身装甲のようなものを纏って戦っていた戦闘記録がこのメモリーの中に映像としてあるのよねぇ?」

 

「よ、よせ! あ、アンタ……学園を守った一誠を晒し者にするつもりか!?」

 

「………そうだとするなら私はアナタを全力で止める」

 

「だから誤解だってば。

私はただ取引がしたいのよ? 例えばそうね……今現在も簪ちゃんは彼に興味津々でしょう? だから兵藤君には生徒会に入って欲しいのよ。そうすれば身内として歓迎できるし、何なら私の実家の一員にもできる」

 

「…………」

 

「ね、簪ちゃん……いえ簪、アナタは彼をどう思う?」

 

「え……そ、それは……」

 

 

 

 

 

 

 

「ククク………」

 

 

 

 

 

 

 

「え……?」

 

 

 

 

 

 

 その(ライン)を越えてしまった時。

 

 

 

「何が身内だ。

強請のネタを手に入れて俺にマウントを取った気でいるカス共が……」

 

「…………」

 

「う……」

 

「い、一誠……」

 

 

 その生気を失う瞳に再び炎が灯るのかもしれない。

 

 

「ばら蒔きたいんなら勝手にしろ。

どっちにしろ俺はおたく等の家庭事情の修復の為の材料になる気はありませんので」

 

「…………そこまで私たちを拒絶するのね。

困ったわねぇ……そこまで嫌われていたつもりはないのだけ―――ぐっ!?」

 

「俺はな……!

テメーだけで喧嘩のひとつすら仕掛けられずに周りだけを巻き込むだけの奴が大嫌いなんだよ……!」

 

「っ!? よ、よせ一誠……!」

 

「い、いっちーが見たこと無いくらい怖い……」

 

「ま、まずいっす虚さん。

今まで一誠が本気でキレた所は見たことなんてなかったですが、た、多分今がまさにそれっす!」

 

「わ、わかっているわ……! で、でも動けない……!」

 

 

 土足で人の心に入る者は許さない。

 利用するだけしておいてあっさり切り捨てる奴はもっと許せない。

 

 

「少し前までは織斑君をさんざん利用して妹との関係の修復に利用し、それが無理だとわかりゃあっさり切り捨てて俺に絡み始め。

それも無理だとわかりゃあ今度は先輩面して強請ってか? あぁっ!?!!!」

 

「ガッ!?」

 

「ひっ!?」

 

 

 そしてプッツンしてしまった赤き龍の帝王は……。

 

 

「どれだけご託並べても、今の世の中とやらが女尊男卑だろうがな、最後にモノを言うのは結局は暴力……!

弱ェ奴が強ェ奴に従う、気に入らねぇ奴はぶん殴って黙らせる……!」

 

『Boost!』

 

「や、やめるんだ一誠、それはやり過ぎ―――」

 

「四の五の言ってねぇで、テメーのケツはテメーで拭けや――――このボケがァ!!!!!」

 

 

 怒りを力に変えて解放するのだ。

 

 そしてその瞳は何よりも狂気に染まって……。

 

 

「あ……あ……」

 

「おい」

 

「ひっ!? は、はい……!」

 

「俺の力とやらを見たかったんだろ? ほら見せてやったぞ? なぁ……喜べよ?」

 

「ひぃっ! や、やめ……!」

 

「笑えよ? 望み通りにしてやったんだぜ? 笑えよ……なァ?」

 

「う……あ……は、はは……あは、あはははははは……!」

 

「い、いっちー……」

 

「……すぐにお嬢様を医務室に。

それと先生を呼ばないと……!」

 

「だ、だから言ったのに! くそ! これじゃあ一誠が退学に……!」

 

「…………」

 

 

 

 かつて主人公(ヒーロー)であることを奪われ、そしてそのまま棄てる事で到達してしまった歴代最強最後――最悪の赤龍帝は更に堕ち続けるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という感じで一度はあの姉は痛い目に遭わないとわからないと思う……」

 

「………。まるっきりやってることが悪役じゃねぇか俺は」

 

「さ、流石にバイオレンスが過ぎると思うぞ更識?」

 

「でも一誠は前に私をそうやってボコボコにした……ISの試合内の事だけど。

でもお陰で私のやってたことが迷惑だった事と、一夏に八つ当たりしてただけだったって教えられた」

 

「絶対防御ってなんだっけ? ってなぐらいにボコボコだったよなぁあの時の試合って……」

 

「お陰でこうして昼を一緒に食べられる仲にはなれたじゃあないか」

 

「けど、今度はおりむーといっちーの両方にお嬢様が嫉妬しちゃってるんだけどねー……」

 

 

 以上、VS生徒会編の嘘話。




補足

どこの世界でも共通ですが、どうしてもISに乗るのが下手らしい。

千冬さんは既に例の件を見てしまったせいかある程度の予想がつけられたのでわざわざマンツーマンに切り替えたらしい。

……それまで眼中なかった眼帯銀髪娘の殺意度が大幅更新されたけど。


その2
異性に対する関心がリーアたん一筋過ぎてかるく拗らせてる故に皆無。

これはベリーハード世界の一誠共通。



その3
どこかのキレたア◯サダイ◯クト若頭さんみたいな行動をする可能性は0%ではない。

アドデック9(物理)に発展する可能性も0%ではない。

……全ては時とその時の状況次第だね―――

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