色々なIF集   作:超人類DX

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皮肉にも探りたがる者は敬遠され、板挟みにされる子は……


皮肉な関係

 

 

 偶々発見されてしまったスペア。

 

 起動させてしまったが為にそれまでの環境を強制的に変えられてしまった気の毒な男子。

 

 それが織斑千冬が弟の一夏に続いてISを起動させてしまった男子に対する印象だったのだが、実際に初めてそのスペア呼ばわりされる男子を見た時、千冬は表情にこそ出さなかったものの、内心では絶句した。

 

 生気を感じぬ目。

 一夏と同年代とは思えない程に荒みきったその雰囲気は、容易に話しかける事すらも憚れる。

 

 

 彼という存在を知った時、彼のそれまでの人生を聞いた時もそうだが、とにかく彼は全てにおいて異質で異常なものだった。

 

 両親は存在せず、捕まっては施設に預けられ、そして幾度となく脱走を繰り返す。

 最後に彼を預かっていた施設の者達は口々に彼を『決して誰にも心を開く事はしない』と言っていた通り、彼は誰に対しても心を開きはしない。

 

 ただ、理由はどうであれIS学園に入れさせられたという自覚があるのか、はたまた実は根が生真面目なのか、彼は学園内で問題を起こす訳でもなく、寧ろ授業態度はたまに女子と騒ぐ弟よりも良かった。

 

 なんなら教科書を常に読んでいて、わからないことがあると普通に教師である自分達に聞こうとする。

 

 それまでのプロフィールと実際に近くで見たそのギャップもそうだけど、何よりも驚いたのが千冬自身も顔見知りであり、篠ノ之束の妹である箒が彼を――兵藤一誠に対してまるで昔馴染みのような態度で接している点であろう。

 

 一夏はここで出会うまで彼の存在を全く知らず、六年ぶりに再会した幼馴染みの箒が彼女が如何にして彼と出会っていたのかは不明。

 恐らく彼の存在は箒の姉である束ですら『予想だなたしていない』ものだろうし、なにより驚いたのが一誠は常に誰に対しても近寄りがたいオーラを放つというのに、そんな雰囲気を貫いてまで彼に対してあれこれと献身的になる箒自身だ。

 

 

 千冬が記憶する限りでは、幼少期の箒は天然の規格外と揶揄される程の圧倒的な存在感を既に放っていた姉の束に対するコンプレックスでかなり荒んでいた所があった。

 そんな箒が、一誠を前にする時はどれだけ一誠が鬱陶しがられても構わず世話を焼こうとする。

 

 一体何者なのか。

 そして表向きは一夏達が撃退したとされる無人機を単独で――生身で―――――――そして異質な力で破壊したあの力はなんなのか。

 

 

「今日から本格的なISの実践授業が始まるぞ」

 

「らしいね」

 

「俺ってやっぱりこの前みたいに皆の前でお手本とかしないといけないのかな?」

 

「クラス代表でもあるからな一夏は。

可能性は高いんじゃあないか?」

 

「マジかー……あの時みたいに大穴開けないようにしないとなぁ」

 

 

 兵藤一誠は存在そのものが謎であるのと思うのと同時に千冬は静かに彼を監視し続けるのだ。

 

 

 

 

 朝のHRが始まる直前の1組の教室では、本日より始まるISの実践授業による話で持ちきりであり、その内話の内容がどこの会社のISスーツが良いかといったものに変わっている。

 

 

「あ、あのー……かんちゃんの事だけど」

 

「あ?」

 

 

 女子特有のきゃぴきゃぴとした空気には場違いな雰囲気を放つ一誠は箒や一夏が話をしている横で淡々と教本を読んでいると、先日の件以降、のほほんとしているようで実は結構苦労しているのかもしれないクラスメートの一人こと布仏本音に話しかけられた。

 

 

「なにかあったか?」

 

 

 かんちゃん……つまり一夏と同室の更識簪について何か話したそうな本音。

 それに対して一誠は教本に向けていた視線を本音に向ければ、本音は弱った表情だった。

 

 

「えっとね、かんちゃんというよりはかんちゃんのお姉さんが……」

 

「あ? お姉さん?」

 

 

 水色髪の鬱陶しい―――脊髄反射的に殺してしまいそうになる声をした小娘という認識ですっかり固定され、あの日以降一切顔を合わすこともなかった更識簪の姉について話すことがあるらしい本音に一誠は訝しげな顔だ。

 

 

「それは織斑君がたまに愚痴る生徒会長とやらのことか?」

 

「うん……」

 

 

 常に目が死んでいて近寄るなオーラを放ちまくる一誠だが、話し掛けられたら普通に返す程度のコミュ力はまだ残っているらしい。

 だが箒の場合はその声のせいでどうしても突き放した態度になってしまうわけで……。

 

 

「なんか、いっちーと話がしたいんだって。

それで同じクラスの私から話を通してって……」

 

「……………」

 

 

 どうやら一夏が最近食事の席でうんざりした顔で愚痴る相手が自分に用があるらしい。

 困ったような、とても言いづらそうな表情で話す本音に一誠は訊ねた。

 

 

「それはこの前の事に対する好奇心か? 織斑君の同室の小娘同様に……」

 

「それもあるけど、えっとおりむーから話とか聞いてる? かんちゃんと楯無お嬢様のフクザツなかんけーって奴なんだけど」

 

「…………ちらっとは」

 

 

 本音の質問に、一誠は最近一夏が愚痴混じりに話していた更識姉妹の不仲について聞いていたので頷く。

 

 

「かんちゃんは前に色々あって楯無お嬢様を敬遠するようになっちゃったんだ。

でも楯無お嬢様はそうなってもかんちゃんを大事な妹だと思ってて……」

 

「…………」

 

 

 妹は姉を毛嫌いし、姉は反対に妹を溺愛したがるらしい。

 しかしそんな話を聞いた所で一誠は余所の家庭の話になにを思うわけでもないし、そもそもそれとその生徒会長が自分と話したがるのとなんの関係があるのか理解ができない。

 

 

「ほら、あの時以降かんちゃんっていっちーにアレじゃない?」

 

「………」

 

 アレとはつまり、無人機を粉々にしてやった姿を見られ、それが何なのかしつこく聞いてこようとしていた話の事である。

 結果は簪の声がかつてリアスを傷つけた少女の姿に擬態した無限の龍神――つまりオーフィスに酷似していた為、思わず殺しそうになった事で露骨に近寄ることもなくなり、この本音も簪を止めていると聞いていた。

 

 

「それが楯無お嬢様的には面白くないんだって。

自分は嫌われているのに、いっちーばかり気にしていて、そのいっちーにはうざがられてるって……」

 

「要するに、嫌われた妹の関心が俺に向いてるから俺が気に食わねぇってか」

 

「た、多分……」

 

 

 

 ……………。なるほど、少しは織斑君の気持ちがわかった。これは鬱陶しい。

 申し訳なさげにしょげる本音に対して一誠はただただそう思っていると、途中から聞いていたらしい箒と一夏が話に入り込んでくる。

 

 

「あの人、一誠にまでちょっかいをかける気なのか? 俺は忠告したんだぞ? 下手な好奇心で一誠を探るの

はやめた方がいいって」

 

 

 すっかり苦手な存在と化していた楯無の忠告無視に一夏が苦い顔をし、箒は難しそうに唸る。

 

 

「むぅ、ということはあの日の事を生徒会長はある程度把握してしまっているのか?」

 

「うん……ごめん、どうやっても誤魔化せなくて」

 

「別にキミが謝る話ではないだろ。

そもそもの話、別に周りにバレようがどうでも良いし」

 

「え、そうなのか?」

 

「だからといってベラベラと喋られたくはねーけどな」

 

 

 

 再び謝る本音に一誠はそう素っ気なく返す。

 そう、別に一誠は隠したい訳ではない。

 

 だがこの世界では己の力は危険であるし、危険視されるのもわかりきっているので必要以上に見せる気がないだけなのだ。

 

 

「もし俺を実験動物にしようと狙う輩が出てきたら、ソイツ等を半殺しにしてから失踪すれば良い話だ」

 

「お、おいおい、それは困るぞ。

そうなったら男子が俺一人になるじゃないか。

せっかく唯一の起動させた男子同士として少しは仲良くなれたのに……」

 

「一夏の言う通りだぞ。やっと再会できて、こうして同じ学園で学べているのに……」

 

 

 一誠なら可能であろう行動に反対する一夏と箒。

 箒は勿論、一夏もどうやら一誠に友人としての感情があるらしい。

 

 

「生徒会長の事は俺ができるだけ説得してみるよ。

俺ばかりじゃなく、一誠にすら嫌味を飛ばす為に呼び出すなんてナンセンスだぜ」

 

「別にウザかったら、今後は俺の名前を聞くだけで吐く程度のトラウマを植え付けてやりゃあ良いだけで――」

 

「そ、それは勘弁して欲しいかなーって。

私もおりむーと一緒にお嬢様とかんちゃんを抑えるから……」

 

 

 一誠なら本気でやりかねないし、それだけの異質さがあると肌で感じている本音が必死に懇願する。

 どうであれ本音自身は簪と楯無は己の主なのだから。

 

 

「…わかったよ。

のほほんしてるキミにそんな顔されてまで言われたらな……」

 

 

 本音の懇願が届いたのか、一誠はため息を吐きながら二人に殺意をぶつけないと約束する。

 よくはわからないが、のほほんとするクラスメートにこんなシュンとされながら言われると妙な罪悪感が沸くのだ。

 

 

「ほ、ほんと!? あ、ありがとういっちー!」

 

「そのかわり後でプリン奢ってくれよ?」

 

「うん! えへへ~♪」

 

 

 すっかり調子を取り戻した本音がよれた制服の袖を振り回しながらニコニコと笑うと、そんな様子をみていた箒が少し驚いたように口を開く。

 

 

「いつの間に一誠と仲良くなっていたのか……」

 

「あ、そういえば確かに一誠とのほほんさんって仲良くなってるかも」

 

「え、そ、そうかなー?」

 

「半分は俺のせいで要らん苦労をこの子は背負わされてるからな……」

 

 

 指摘されて自覚でもしたのか、チラチラと一誠を見る本音とは逆に、一誠は自分のせいでややこしい立場に本音が立たされているからと返す。

 

 皮肉なことに、一誠に近寄る事すら困難になった簪からかなり羨まれているわけで……。

 

 

「あ、ところでおりむーは私のお姉ちゃんとなにかあった?」

 

「へ? な、なにがだ?」

 

「昨日お姉ちゃんが『一夏君の好物ってわかる?』って聞いてきたから、何か作ってあげるのかなーって」

 

「そ、それは本当か? マジなのかのほほんさん!?」

 

「うぇっ!? う、うん……間違いないけど――お、おりむー!?」

 

「ぐ、ぐぉぉ……! すげぇ痛い。

痛いけど夢じゃないからすげぇ嬉しい……!」

 

「……」

 

「一夏がこうなるとはな……凄いな布仏先輩」

 

 

 そして一夏は自覚した気持ちを日増しに増幅させまくるのであった。

 

 

「やっぱりおりむーってお姉ちゃんのこと……」

 

「間違いないな。

あの鈍い一夏をああまで自覚させるなんて、のほほんさんのお姉さんは凄いぞ?」

 

「そうなんだ……。でも大丈夫かな? おりむーの事が好きな子ってかなり……」

 

「………。まあ、それを聞いて果たしてその者達が納得するかは別だと私も思うぞ。

一誠はどう思う?」

 

「どうもこうも、織斑君の気持ちが布仏さんの姉さんに向いてるんだから、外野がいくら騒いだ所で意味なんてないだろ」

 

 

 

 

 

 ちなみに、この後すぐに始まった朝のHRにて二人の転校生が紹介され、一人は金髪男子でキャーキャー言われ、もう一人の織斑千冬信者の眼帯銀髪少女は弟の一夏に開幕ビンタを噛ますのだが……。

 

 

「ふっ、今の俺はまさに無敵・・・!

だからキミの暴力も許してやろうじゃないか。

寛大な精神で・・・・・・!」

 

「な、なんだコイツは……?」

 

『…………』

 

 

 虚の事しか頭になかったせいか、実に寛大な心でスルーするのであった。

 

 

終わり

 

 

 

オマケ・板挟みが故に……。

 

 

 気づけば相当に損な位置に居る布仏本音。

 

 片方の主には嫉妬めいた嫌味を言われ、片方の主はクラスメートだからと探りを命令され……。

 

 その対象者たる一誠が単純に嫌な奴だったらなんの躊躇いもなく探りを入れてやれたのだが、彼は話してみればみるほどぶっきらぼうだけど結構気が合ってしまうのだ。

 

 更に言えば板挟みになる自分の状況を察しているのか、彼なりに労ってすらくれるのだ。

 

 

「もっと怖くて冷たい人だと思ってたんだけどなぁ……」

 

「いや、寧ろ一誠は結構はっちゃけるタイプだぞ? 今はそうなる相手も居ないからああ見えるだけで……」

 

「正直に話すとあっさり許してくれたし……」

 

「敵意がない相手だからというのもあるからな」

 

「でもなんであの時かんちゃんにあんな怖い顔をしたんだろう……」

 

「それは……まあ、色々あるんだアイツにも」

 

 

 こうして一誠の近くに居ると知られたらまた何かを言われる事は本音もわかってはいた。

 だが一誠もそうだが、一誠と親しい一夏も箒も知った上で自分を迎えくれるものだから、居心地が良いと思ってしまう。

 

 

「本音、そろそろ生徒会室に戻りますよ」

 

「あ、うんわかったよお姉ちゃん……」

 

 

 姉の虚が迎えに来たことでこの時間は終わる。

 これから生徒会室に行って報告をないといけないと思うと少しやるせない。

 

 

「あ、虚センパイ……」

 

「……ッス」

 

「こんにちは一夏くん……。

そして直接お会いするのは初めてですね兵藤君? 本音の姉の布仏虚です……。

その、本音から色々と聞いてはいると思いますけど……」

 

「ああ、おたくのボスが得体のしれない俺について探りがどうとかの話ですか? 別に構いませんよ、命令を無視できない関係なんでしょうし、妹さんは妹さんなりになんとかしようとしているのはなんとなくわかりますから」

 

「……………………。本音と一夏くんが言っていた通りでしたね」

 

「いえ? 俺は寧ろ性格は最悪ですよ? 証拠におたくのボスとは話したいなんて心の底から思いませんし」

 

 姉も妹も主達よりも近づけてしまっているのは果たして皮肉なのか。

 それはまだ誰にもわからない。

 

 

終了

 




補足

ひからかす気は無いけど、隠す気もない。
ただし、鬱陶しく探りをいれてくるなら返り討ちにはする。

それが今のスタイル。


その2
皮肉にもの布仏姉妹の方が仲良くなれてるというね……。



その3
のほほんさんにお姉さんの事を聞いた事でテンションが上がり、その直後に起きたイベントは某班長のようや薄ら笑いを浮かべて『許した』のでドン引きされた模様。

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