色々なIF集   作:超人類DX

796 / 1034
473話から始まり、602話にちらっとやった例のネタの没話をゴニョゴニョしといた話


記憶が無い元執事の青春(嘘)

 

 

 ある人間の子供が悪魔に育てられた時、反抗期真っ只中みたいな性格になった。

 

 されど少年は決して受けた恩を忘れる事は無く、その悪魔達を守る為に己の人格を含めた全てを棄てる覚悟をした。

 

 自分が自分ではなくなるという恐怖をも乗り越えた先に待っていたのは何なのか。

 

 これは守る為に日之影一誠である事を投げ捨て、兵藤一誠へと戻った少年と、その少年を見守る悪魔の母のお話……。

 

 

 

 

 

 

 

 日之影一誠はその数奇な人生により本来の人格からかけ離れた者へとなった。

 その性格は決して他人を信じず、冷酷なまでに敵を排除する極限のコミュ障だ。

 

 だが、紆余曲折があって、受けた恩を返す為に己の培った人格と力を投げ捨てる事で記憶と力を失った事で、皮肉な事に本来の兵藤一誠に近い人格へと回帰することになり、守る対象の一人である悪魔の母と共に異界へと飛ばされた。

 

 日之影一誠であった彼はその悪魔の母を常に『ババァ』と呼び、常に反抗期のような態度を取り続けていたのだが、回帰した今の彼は日之影一誠としての潜在的な精神もあってなのか、素直なまでに悪魔の母を敬愛する―――つまるところマザコンとなっていた。

 

 そしてこれもまた日之影一誠として生きていた環境の名残なのか、今の一誠は年上の女性がタイプだと公言している。

 もっと言えば悪魔の母ことヴェネラナのような女性が理想だとも。

 

 そんな彼のかつてにはなかった『素直さ』によって色々と振り回される知り合いが出来た現在……彼は男性では起動できないとあるパワードスーツを起動できてしまった例外の男子の内の片割れという触れ込みで、女子率MAXな高校へと通うことになっているのだが、公言通り、年上の女性にしか興味が無いせいか、そんな環境に放り込まれても意外な程にもう一人の男性起動者であり友人である織斑一夏と順応している。

 

 

 

「おはよう母さん。そっちは大丈夫か?」

 

 

 そんな、記憶と人格と力を失っている事を自覚していない日之影から兵藤へと戻った一誠の朝は、今現在束の助手という形となっている義母であるヴェネラナへの実にマザコンらしいモーニングコールから始まる。

 

 日之影一誠時代においても、ヴェネラナの事をババァ呼ばわりし、ヴェネラナの実子達と変わらぬ愛情を向けてくる事をウザがるような態度をしてきたのだが、実の所、潜在的な意識は今の一誠とあまり変わらない。

 

 違いはその気持ちを素直に表せないのが日之影一誠であり、こうしてドストレートに表せるのが今の一誠なのだ。

 

 

「そうそう、ちみっこの鈴って覚えてるだろ? あの子がなんと転校して来たんだぜ? しかも代表候補生ってのになってるし。

でさ、今度の休みに会うとき鈴も母さんに会いたいって言ってくれるから連れてこようと思うんだ」

 

「…………………」

 

 

 そんな義母へのモーニングコールの様子をすぐ横で見ているのが、『監視』という大義名分を利用して同室に無理矢理させた一夏の姉であり、一誠とも昔馴染みである織斑千冬担任教師。

 

 彼女もまたヴェネラナとは知り合いばかりか、ヴェネラナの事を先生と呼んでいる。

 

 

「ん、じゃあ週末楽しみにしてるよ母さん」

 

 

 典型的なマザコンであることは昔から知っている。

 そしてヴェネラナから知らされた一誠の秘密もある程度知っている。

 知った上で接していく内に、一誠本人から『理不尽大魔王』呼ばわりされてしまったりもしたことでついいじめてしまうこともある。

 

 しかしそれでも千冬にとって一誠は普通の友人とは違う感情を抱くのだ。

 

 

「よーっしゃ! 今日も1日頑張るぜ!」

 

「電話は終わったのか?」

 

「おう! 千冬さんに宜しくって母さんが言ってた」

 

「そうか……それなら早く着替えろ」

 

 

 日之影ではなく兵藤へと戻っても、縁には恵まれている様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな今を生きる兵藤一誠だが、彼を取り巻く人間関係はスッキリしているようで色々と複雑なものだったりする。

 千冬しかり、束しかり……。

 

 

「もー遅い! 朝ごはん一緒に食べようと待ってたのよ?」

 

 

 一夏と共通の幼馴染みである少女・凰鈴音だったり。

 

 

「わざわざ部屋の前で待ってたのかよ? 悪いな、今ちょっと母さんと電話してて……」

 

「え? あ、そうなの? うーん……それ言われるとこれ以上言うわけにはいかないわね」

 

「週末鈴を連れて行くって母さんに言っといたぜ?」

 

「ホントっ!? そういう事なら許すわ!」

 

 

 少々小柄な鈴音は、そのサッパリした性格もあって一誠と一夏の両方とも仲が良く、一時的に国に帰る為にお別れをするまでは毎日ずっと一緒だった時期もあった。

 そんな鈴音はご覧の通り、わざわざ部屋が正反対に位置するというのに部屋の前で一誠を待つ程度には、特に一誠には懐いている。

 

 

「…………おい、授業には遅れるんじゃないぞ」

 

「? あ、はい」

 

「………」

 

 

 そんな鈴音と一誠の同年代らしい距離感を千冬は内心かなり面白くない気分であり、ついツンケンした態度と共に先に行ってしまう。

 

 

「……」

 

「…………」

 

 

 去り際に鈴音と目が合い、挑戦的な眼差しを受けたのでつい返してしまったりもする。

 

 

「?? なんだ? 急に機嫌が悪くなった……」

 

「色々あるんでしょうよ。それより早く行かないと朝ごはん食べられなくなるわよ?」

 

「おっと! それは困るぜ」

 

 

 わかりやすく言うならば、鈴音は一誠に対して友人以上の感情を抱いている。

 勿論一夏も大切な友人であることに違いはない。

 

 けれど一誠とは友人であるのと同時にそれ以上の関係になりたいと思った相手だった。

 

 

「ね、イッセー? 昔みたいに手とか繋がないの?」

 

「んあ? ああ、そういやお前ってしょっちゅう手を繋ぎたがってっけ? なんだなんだ? そこら辺はちみっこのままってか?」

 

「ちみっこ言うな! これでもちゃんと成長してるんだってば!」

 

「へーへー……ほら」

 

「もう……ふふ」

 

 

 同い年の筈なのに、おばさんみたいな年の女の人に鼻の下伸ばすようなスケベなのに、母さん母さんとマザコンなのに、どこか年上のような包容力を感じる。

 それでいて、自分が日本の学校に通い始めた頃、周囲からいじめられた時は一夏と一緒に守ってくれた。

 

 

「あ、おはようございます兵藤く……ん?」

 

「? はい、おはようございます山田先生。えっと、なにか?」

 

「…………はっ!? あ、いえいえ! そ、その……! せ、節度を持ったお付き合いをお願いしますねっ!? それでは!!」

 

「は? ………行ってしまった。

一体何のこっちゃ?」

 

 

 だから一夏並に鈍くて一夏並に女性と縁があってもこの気持ちを押さえ込むままでは居たくない。

 それがたとえ、強敵だらけだったとしても。

 

 

 

 

 

 

 一誠は鈍い。

 凄く鈍い。

 呆れるほどに鈍い。

 

 いやまぁ、千冬姉とか束さんの場合は特殊だから仕方ないにせよ、鈴については俺でもすぐわかるくらいだし、なんなら昨日会ったばかりの箒ですら気付いた程度にはわかりやすい。

 

 間違いなく鈴は一誠が好きだ。

 

 けれど一誠はちっとも気づいちゃいない。

 今朝だってそうだ、わざわざ部屋まで迎えに行った鈴と手なんて繋ぎながら食堂に来たせいで、周りの女子達がキャーキャー騒いでるというのに、一誠は鈴を妹分的な扱いをしているせいで意味を理解すらしていない。

 

 

「あれだけアプローチをしているというのに、兵藤さんはまったく意図に気付かないのですか?」

 

「ああ、そもそも一誠は鈴の事を妹的な認識をしてるからな……」

 

「それにアイツの好みは年上だというのもあってか余計に鈍くなる」

 

「それはまた……」

 

 

 流石にセシリアも鈴の気持ちを察したらしい。

 だが箒の言うとおり、一誠は年上の女性――しかも年齢は千冬姉と束さんより更に年上の女性が好みなせいで対象外の相手の気持ちにはまるで気付きやしない。

 

 

「よー、ここ座っても良いか?」

 

「おう」

 

「おはよー一夏」

 

 

 だからとことんマイペースだ。

 今だって俺達が座ってた席の前に鈴と来て座り、周りからの視線に気づく事無くパクパク食べていやがる。

 

 逆に鈴は自分の行動が少し恥ずかしいのか、ちょっと照れている。

 

 

「んめーんめー……あ、そうそう。大魔王の今朝の機嫌は何故か悪いから、授業の際は気を付けるべしだぜ」

 

「………。千冬姉を怒らせたのか?」

 

「いんや? 鈴と食堂行く寸前までは普通だったけど、急に悪くなったんだよ。まあ、教師って大変みたいだからな」

 

「「「………」」」

 

 

 千冬姉の機嫌が悪いと事もなく言ってくれる一誠に、俺達は微妙な気分だ。

 多分間違いなく鈴が押し掛けたからだと思うんだけど、こればかりは鈴を責められない。

 というか、普段は割りと千冬姉を苦手に思ってる癖に、一誠関連となると一歩も退こうとしないからな鈴って……。

 

 昔も結構その手の理由で千冬姉とやりあってたし……。

 

 

「んめーんめー」

 

「相変わらずなんでもかんでも美味しそうに食べるわねぇ……」

 

「ウマイものは美味い」

 

「アタシが初めて料理して失敗した時も、その失敗した料理を平然と食べてたっけ?」

 

「そんな事もあったな。

いや、あの時は失敗したってしょげてたお前を元気付けようと思ってよ。

それに失敗したって言っても見た目だけで味は結構イケてたし」

 

「一夏は一口で顔を真っ青にしてたし、一誠の味覚が変なだけだと思うわ……」

 

「そうか?」

 

「ああ、鈴には悪かったが、暫く舌が痺れちまったよ。

けど……あの時の一誠は男気に溢れてたぜ?」

 

 

 その癖、一誠は自覚しないでピンポイントで女子のツボをつつくからなぁ。

 鈴も千冬姉も束さんも大変だな……。

 

 

「そういえば、昔の一誠は姉さんが作った料理とは思えない何かですら平然と平らげていたな……」

 

「ついでに千冬姉の常人では噛めないくらい硬いバレンタインチョコとかも平気で食べてたっけ」

 

「……もしかして兵藤さんはかなりの悪食では?」

 

「好き嫌いが無いと言って貰いたいぜ。

それに食えん物は流石に俺も食いたいとは思わんぞ」

 

「でも何でも美味しそうに食べるし、その……一誠の奥さんになったら楽しそうだと思うわ」

 

「そうか? ふっふっふっ、なら三十路以降のお姉さんと早く結婚を前提に出会いたいもんだぜ!」

 

『…………』

 

 

 こんな調子に加えて、ある意味最大の障害がヴェネラナさんの可能性もあるし……。

 いやだってヴェネラナさんって引くほど美人なんだぜ? そりゃあヴェネラナさんを見慣れてる一誠にとっちゃあただの美人なんて珍しくもないだろうし……。

 

 

「あの、凰さんでしたわね? ……私が言えた義理ではありませんが、頑張ってください?」

 

「………………。昔からこんな調子だし、慣れてるわ。けど、ありがとう……オルコットさんだったかしら? 篠ノ之さんにも言えるけど、一夏(ソッチ)一夏(ソッチ)で相当鈍いわよ?」

 

「ん? 俺がなんだって?」

 

「「…………はぁ」」

 

「んめーんめー」

 

 

 何故か箒とセシリアが俺を見てため息吐いてるが、はて、俺なにかしたっけ?

 

 

終わり

 

 

 

 日之影から兵藤へと回帰した元執事は皮肉にもまともな青春を送る事になった。

 

 そんな彼は義母であるヴェネラナへの恩を返す為に学生生活を頑張るし、そのための強さを磨くのだ。

 

 だが今の彼には日之影一誠としての力も精神も無くしている、ちょっと頑丈なだけの少年でしかない。

 

 だからこそ時には泥臭く……兵藤へと回帰した彼自身の力を磨くのだ。

 

 とはいえ、一夏以上にISに関する能力が弱い。

 故に一誠は考えた結果……。

 

 

「閃いた!」

 

 

 ISの技術を己の閃いたスタイルによって補うようになった。

 

 

「行くぜ……!」

 

 

 スタイル1.アウトロー

 

 ルール無用の喧嘩を彷彿とさせるスタイル。

 急所突き、不意打ち、凶器使用……あらゆる環境を駆使して敵をなぎ倒せ。

 

 

「はー、生徒会長……」

 

「そそっ、更識楯無よ。よろしくね?」

 

「はぁ……」

 

 

 スタイル2.アサシン

 

 

 スピードと一撃必殺のスタイル

 

 音を消し、影から影へと渡りながら迅速に敵を叩け。

 

 

 

「会長さんの動き見てたら閃いちゃったもんで……」

 

「正直驚いたわ。完全な我流でそこまで私達に通ずる動き方ができるなんて……」

 

「いや、俺自身も正直驚きなんですけど、微妙に何故か懐かしい気分に……」

 

 

スタイル3.ストロング

 

攻撃こそ最大の防御を体現したスタイル。

 

相手の攻撃ごと叩き伏せよ。

 

 

 

 

「……………………………」

 

「なんだ……? さっきまでベラベラ喋ってたの――――ガッ!?」

 

「……………………」

 

 

 

 

 

「っ!? まずい!? あの侵入者が要らん真似をしたお陰で兵藤――いや、一誠が戻ってしまった!」

 

「あ、あの時と同じって事か……く、くそ! 早く止めないと一誠が人を殺してしまう!」

 

「………これで二度目ね、あの一誠を見るのは」

 

 

 

 

 

 伝説.悪魔の執事

 

日之影一誠としての己が到達したスタイル。

 

彼を愛した悪魔達から貰った魔力を駆使しながら、永続進化した肉体で敵を殲滅せよ。

 

 

 

 

※嘘です

 

 




補足

記憶と人格と精神が消えてるせいで、ストレートにマザコンです。

そしてコミュ強でもあります。

………別の意味で大分鈍いことになりますけど。


その2
力を失っても根に残る向上心は本能的に残っている。

故に色々と閃いて色々なスタイルを確立させてしまったらしい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。