色々なIF集   作:超人類DX

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的なアレの封じてた閑話をアレコレ


執事イッセーのとらぶるな憂鬱(その3)

 

 

 強くならなければ、生きることはできない。

 

 強くなければ、我を通す事はできない。

 

 強くなり続けならければ、誰も自分なぞ見やしない。

 

 

 

 

 強くなってこそ、この借りを返すことができる。

 

 

 

 

 もう二度と失わない為に。

 あの惨めな思いをしない為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 挫折から這い上がり、その先の領域へと到達する過程で悪魔の執事となった青年は、人間である自分の事を身内として迎え入れた悪魔達への借りを返す為に生きていた。

 

 道から弾き出された原因となった存在へのケリを付けた事で、兵藤一誠としてではなく、日之影一誠としての生となった青年にとって口にこそ出さないが、その切っ掛けと道を示した変わり者の悪魔達への借りは返しきれない程に大きなものだ。

 だからこそ彼は、どれだけ拒絶をしようとも一切変わることのなかった、青年の『母』を自称する悪魔の女性と共に世界から弾き出された際は、何が何でも彼女を守っていた。

 

 それこそ例え、自分だけが元の世界に戻れなくなろうとも彼女だけは返すという覚悟を内に秘めて。

 

 

 

 

 

 

 掛け値なしに『普通』の少年である結城リトが宇宙人の少女と出会った時を境に、非日常が始まったのは紛れもない事実だ。

 そしてその過程で本来ならば決して出会う筈の無い存在との出会いもまた更なる非日常への入り口だった。

 

 

 人でありながら人でなしである青年と、その母を自称する宇宙人ではなく生粋の悪魔。

 

 結城リトにしてみれば、人を越えた力を保持する両者は宇宙人と変わらないのだが、この二人は驚いた事に異なる地球から望まずして流れ着いたと言う――所謂異世界人であった。

 

 家に住むようになった宇宙人の少女の協力のもと、元の地球へと帰ろうとする事で、自然と彼も二人と関わるようになったのだが、どちらも――特に青年の方はこれまで出会ってきた宇宙人達よりもある意味特徴的で濃い存在だった。

 

 リトよりも年上なのに同学年の高校生となり、無口で無表情のコミュ障を極限までに拗らせた性格なのだが、変に律儀な性格。

 

 そんな性格に当初リトは苦手意識を持っていて関わることを避けていた。

 けれど、自分が宇宙人とのイザコザに巻き込まれた時は黙って助けてくれたし、自分の妹がトラブルに見舞われた時も助けてくれた。

 

 本人はその時の事を『通りすがった際に偶々視界に入ってウザかったから』と言うが、例え最初がそうだったとしてもリトにとって青年は年上の同学年という意味でもとても頼りになる先輩へと変わった。

 

 その青年の母に対して事故を起こしてしまった時は、危うく殺されそうになったが、悪いのはこちらだし冷静になった青年自身から謝られたので気にしない。

 

 なにより青年はリトの妹に懐かれている。

 その理由だけでもリトにとって彼への好感度は高いし、なにより自分が持つ女難に近いものを彼も持っているというのが、リトに同類意識を持たせるのだ。

 

 

「本日はお忙しい中お集まり頂いてありがとうございます。

皆さんに集まって頂いた理由は他でもありません――そう、イッセーさんの最近についてです」

 

 

 皮だけでは敬遠される彼――日之影一誠を年上の同学年の頼れる人と認識してから時は経ち、相変わらず母のヴェネラナと共に元の地球へと戻れる算段が無い今日この頃。

 結城リトは、最初に住むようになった宇宙人少女ことララから始まってからすっかり増えた同居人の居る自宅のリビングに居た。

 

 そして何やら真剣な顔をしているララの妹の片割れと、それを聞く妹の美柑といった面々を見ていた。

 

 

 

「ズバリ言いますが、最近のイッセーさんはそこに居ますリトさん並に女性との縁が増えています」

 

 

 物々しい言い方をする妹の片割れことモモに美柑を筆頭に、モモによって集められた女子達はうんうんと頷いている。

 

 

「一見すればイッセーさんはああいう方なので、寧ろ敬遠されがちです。

しかし、我々のようにある程度イッセーさんを知ってしまうと、ものの見事に嵌まってしまいます。

正直私は見誤っていました……まさかイッセーさんがリトさん並に……」

 

 

 そう言いながら微妙に肩身が狭い思いをしていたリトへと視線を向けるモモ。

 

 

「お、オレに言われても……」

 

「ええ、別にリトさんを責めている訳ではありません。

けれど、イッセーさんの数少ない同性のご友人としての意見をお聞きしたいのです」

 

「ま、まあ確かに改めてモモが集めた面々を見てみると、先輩って案外……とは思うかも」

 

 

 モモの言葉を受けながらリトはこの場に居る面々を見る。

 だがリトも知っている通り、問題なのはイッセー自身は全くその手の話に興味が無いし、最悪まったく気付いてもいないことである。

 

 

「ていうか、モモに呼ばれて来たんだな古手川って……」

 

 

 しかも大概イッセーに懐いている者というが癖のあるタイプであり、例えばリトが少し驚いたようにその名前を呼んだ同級生の古手川唯は、イッセーの狂犬さに対して一切物怖じせずにあれこれ言う真面目さんタイプであり、こういった集まりに来ることが寧ろ驚きだった。

 

 

「な、何を言っているの!? わ、私はただ日之影君が良からぬ者と知り合いと聞いたから、見逃すわけにはいかないと思ったまでよ……!」

 

「あ、ああそう……」

 

 

 当然リトの言葉に対して慌てながら否定する唯だが、先程のモモの言葉に美柑と一緒になって頷いていたのをリトは見ている。

 

 

「そういや天条院先輩は呼ばなかったのか?」

 

「あの人はイッセーさんから明確に苦手意識を持たれていますし、なによりあの方は個人プレーが過ぎますからね」

 

「確かに……。

けどヴェネラナさんの話を聞く限り、先輩って結構モテると思うけどなぁ。

だって先輩の元居た地球じゃ相当……」

 

「こ、この際悪魔の皆さんは除外します!」

 

「………」

 

 

 考えてみればみるほど、イッセー本人の性格含めても凄まじい倍率ではないかというリトの言葉をモモは誤魔化した。

 

 

「一番危険なのはあのネメシスがイッセーさんに絡もうとする事です」

 

「……ここ最近非常識な事ばかりなのだけど、やはり彼女も宇宙人なのね?」

 

「ええ、そしてかなり危険な存在です」

 

「………日之影君曰く『作った飯を集る野良猫みたいな奴』らしいけど」

 

「そこが問題です! どうもイッセーさんの存在を知ってからのネメシスは大人しくなる代わりにイッセーさんを我が物にしようと画策するようになったのです」

 

「………。余計危険って事だね?」

 

「そうです! ということで暫くは常にイッセーさんの傍に誰かが居るように心掛け、ネメシスから守るのです!」

 

「………」

 

 

 金色の闇と同じ生物兵器をただの野良猫と言えるイッセーだからこその危機感を訴えるモモに美柑達はコクコクと頷き、それを聞いていたリトは『大変だなぁ』とイッセーに思うのだった。

 

 

 

 

 

 こうして常に誰かがイッセーの傍に居ましょう作戦は厳かに始まったのだが……。

 

 

 

「フッ……! ハッ……! フンッ……!!」

 

 

 基本的に力こそ正義思考のイッセーは暇さえあったらトレーニングに勤しんでいる。

 今現在ヴェネラナ共々お世話になっている御門涼子宅をアポなし突撃をした際、出迎えてくれたヴェネラナからの『大体この場所で鍛練をしている筈』という情報を得た娘さん達は、早速その場所に向かうとヴェネラナの言っていた通り、極限まで鍛えられて絞り込まれた上半身を晒しながらトレーニングをしていた。

 

 

「ヴェネラナさんの情報通りですね……」

 

「あ、あまり意識していなかったけど、こうして見ると凄い身体ね……病気をしているとは思えないくらい」

 

「それに傷も凄い……」

 

「なんだろ、あの姿を見てから自分を見ると惨めな気分にさせられる……」

 

 

 汗を流すイッセーの姿をまじまじと隠れて見る娘さん達と、イッセーの姿を見て男として負けた気分になるリト。

 本当ならばここにララやらなにやらと同行者がもっと居た筈なのだが、大人数過ぎてもイッセーの邪魔になるだろうからと主だった『幹部』とリトだけで訪ねることとなったのだ。

 

 

「レンがやたらと先輩に『強くしてくれ!』と絡む訳だ……」

 

「本人からはまるで相手にされてないようでしたけど」

 

「ただのクラスメートでしかないからな、先輩にとっては」

 

 

 

 黙々とシャドーをし続けるイッセーを目の前に話をするリト達は、すでにイッセーがリト達に気づいている事に気づいていない。

 

 

「ネメシスはまだ現れませんね……」

 

 

 その状況の中、モモは今現在一番色々な意味を含めて危険視をするネメシスが来ないかと警戒する。

 最近学園でネメシスが色々とやることでイッセーの気を引こうとしているのは周知の事実である。

 

 

「ねぇモモさん、ヤミさんはどうなの?」

 

「え? あー……彼女は逆に同情すら覚えるくらいイッセーさんに相手にされていませんので……」

 

「日之影君も言っていたわね。

『どうでも良いだろ』って」

 

「それに彼女は寧ろリトさんの方が……」

 

「? オレがなんだって?」

 

「いえ……」

 

 

 ……そのイッセー本人からはほぼ相手にされていないのが現状であり、もっと悲惨なのはリトの暗殺を完全に阻止されてから因縁があるというのに、本人からは名前すらまったく覚えられていないヤミなのだが……。

 そのせいか、モモの中でのブラックリストからは除外されているのはなんたる皮肉か。

 

 

「………フー」

 

 

 そうこうしている内にシャドーを終え、呼吸を整えているイッセーを見届けたモモ達は、良いタイミングだからと物陰から出てイッセーに近づいた。

 

 

「お疲れさまですイッセーさん」

 

「はい、このタオル使ってよ?」

 

「そんなに運動して身体は大丈夫なの?」

 

「……………」

 

 

 次々と話しかけてくる娘さん達に、実はとっくに存在に気づいていたイッセーは返答に少し困るものの、美柑が差し出してくれたタオルを受け取って身体を拭く。

 

 

「何のつもりだよ……?」

 

「イッセーさんが一人の時にあのネメシスが絡んで来ないようと思いまして……」

 

「最近のイッセーさんって妙にモテモテだし?」

 

「???」

 

「と、とにかく一人で無理をして倒れたら大変だから様子を見に来たのよ!」

 

「…………おう」

 

「はは……迷惑だったらやめさせますけど……」

 

「別に良いよ。

ただ、こんなの見ててもつまんねーだろ」

 

 

 知り合いのラインを越えられた場合、イッセーの態度はかなり軟化するというのは彼を知る者達の間では常識であった。

 世話になっているという認識がある相手には特にそうだった。

 

 

「それで、ネメシスは?」

 

「あのガキなら居ないぞ。

というか、用が無ければ特に学校とかでは絡むなと言ってあるし……」

 

 

 身体を拭き終えたイッセーが一張羅に袖を通しながらネメシスとの妙な関係性について話す。

 

 

「それでもです。

どうやらネメシスはイッセーさんを下僕にしたいようですから」

 

「ああ、言ってたな。笑わせるなって突っぱねてやったけど」

 

「それで諦める感じじゃないみたいだし、イッセーさんって変に甘いところがあるから心配なんだよ」

 

「む……俺があんなのにぶち殺されるとでも思ってるのか? 悪いがそこまで弱くは――」

 

「そういう意味じゃないってば。

はぁ……ホント鈍いよねぇ」

 

「む……?」

 

 

 

 美柑の呆れた顔にちょっと圧されてしまうイッセー

 結局この日はネメシスもやって来る事もなく、トレーニングを終えたイッセーと共に仲良く帰る事になるのであった。

 

 ………………が、事件は後日発生した。

 

 そう、例によってララの開発した発明品がよりにもよって―――

 

 

「い、イッセーさんが……」

 

「こ、子供になっちゃった……」

 

「……………………………」

 

 

 

 イッセーにド命中してしまい、某見た目は子供頭脳は反抗期的な姿に。

 

 

「ごめんねイッセー? 多分夕方には元に戻れる筈だから……」

 

「………ぼーっとしていた俺が悪い」

 

 

 うっかり発明品が暴走した事で起きたこの件は、一誠の姿が完全に子供になってしまったオチとなった。

 ララは自分の不手際を謝り、イッセーもそれを受けたので大きな騒動にはなりそうもなかったのだが……。

 

 

「い、家には帰りたくねぇ。

もし今の姿をヴェネラナのババァに見られたらやべぇ予感しかしねぇ」

 

 

 イッセーは今の姿で家に戻る事を非常に恐れていた。

 主にヴェネラナに思いきり揉みくちゃにされる可能性を理由に。

 故にイッセーは元の姿に戻るまで隠れる事になった訳だが……間が悪いとはまさにこの事だった。

 

 

「おい、イッセーを出せ、ここに居ることは調べがついている。飯を食わせろ」

 

 

 最近理由もなしに絡むことをしなくなっていたネメシスが、よりにもよってこのタイミングで襲来してきたのだ。

 

 

「か、帰りなさいネメシス! 貴方に出すイッセーさんの料理はありませんよ!」

 

「別にお前の許可なぞ要らんだろう? モモ・ベリア・デビルーク。

本人から断りの言葉を貰うまでは帰らんぞ……っと?」

 

 

「………………………」

 

 

 当初は別の目的で地球に来た筈が、すっかり別の目的にすげ変わってしまっているネメシスがとにかく隠さないといけないという理由で美柑の胸に顔面を押し付けられながら抱かれていた小さいイッセーを発見してしまう……。

 

 

「おい結城美柑だったか? その妙に小さいガキはもしかしなくても……」

 

「もがもがもがもが!?!?」

 

「し、知らない! この子は親戚の子……」

 

「……ほう? ならその親戚の子とやらを離してやったらどうだ? 息苦しそうに見えるぞ?」

 

「あ、アナタが帰ったら離すから早く――」

 

 

 変に察しの良いネメシスがニタニタしながら近寄ろうとするのを、より強く抱きながら守ろうとする美柑だったが、比喩ではなく本当に窒息しかけていたイッセーが我慢の限界とばかりに美柑から離れてしまう。

 

 

「げほっ! げほっ!!」

 

「あ、だ、ダメ! 今顔を見られたら……!」

 

 

 必死になって再び隠そうとする美柑だったが、時すでに遅しだった。

 

 

「やはりお前か。

大方、ララ・サタリン・デビルークの発明とやらに巻き込まれてそうなったか?」

 

「ぐっ! だ、だとしたらなんですかっ!? 見ての通り今のイッセーさんの姿ではアナタに料理など作れません!」

 

「そのようだ。

が、しかし飯より面白いこの状況を前に帰る気にはなれんなァ?」

 

 

 くつくつと嗤うネメシスが美柑の反応速度を越えた速度でイッセーの身柄をかっさらう。

 

 

「ふふん、常に見下ろされていた相手から見下ろされる気分はどうだ? え?」

 

「…………」

 

 

 そして自分より背の低くなった不機嫌そのものな顔をしているイッセーをドヤ顔で見下ろしながら、ペタペタと頭やら頬に触れまくる。

 

 

「心配するな。どうせその姿も力を相応に弱体化しているのも一時的なものだろう? 元に戻った際に完全な敵と見なされて排除に動かれては困るのでな。

だから元に戻るまで精々楽しませて貰うさ」

 

 

 そう言いつつ妙に優しげに『戻ったら覚えておけよ』的な顔をするイッセーの頭を撫でまくるネメシスに、モモと美柑はぐぬぬと唸る。

 

 

「な、なんだ? 修羅場なのに妙にほっこりする……」

 

 

 そんな状況を見ることしかできないリトは、張り詰めつつも緩い空気にどうして良いのかわからず、偶々居合わせていたヤミはブツブツと言っていた。

 

 

「今なら勝てる……! けどこの状況の日之影一誠に勝ったところで果たして勝ったといえるのだろうか……?

いやでも……」

 

 

 普段の復讐を果たすのなら今が絶好の機会だが、それで満足なのかと問われたら微妙なせいか、葛藤しているヤミだった。

 

 

「いい加減に――」

 

「良いのか? 大人しくしないとうっかりヴェネラナ・グレモリーに今のお前の状況を話してしまうかもしれんのだが……」

 

「ぐっ……!」

 

 

 そんなヤミの葛藤を余所に、小さくなってしまった一誠はネメシスに絡み付かれても抵抗できないままだった。

 

 

「ふむふむ、肉体もちゃんと退行するか……」

 

「っひ!? て、テメッ……! ど、どこ触って……!?」

 

「ララ・サタリン・デビルークの科学力の調査のようなものさ。

他意はまったくないぞ? ふっふっふっ……!」

 

「こ、このっ! いい加減に――あひっ!?」

 

「不思議だ……あー不思議だー(棒)」

 

「ど、どこに手ェ入れて――ひんっ!?」

 

「そんな顔もできるんだな? ふふっ……くふふふっ!」

 

 

 そして逆セクハラをされる羽目になってしまい……。

 

 

「イッセーさんを返しなさい!!」

 

「古手川さんじゃないけど破廉恥だよ!!」

 

 

 それを見せられた娘さん達がガチギレし飛び掛かかって大乱闘スマッシュブラザーズとなったのであった。

 

 

終わり




補足

別の世界と違って、ファーストコンタクトをミスらなかったお陰で寧ろ普通に仲は良いどころじゃないモモさん。

その2
飯を集りに来る野良猫みたいな奴認識されてるだけで敵意は薄いネメシスさん。
逆にその部下さんの赤髪さんミスったことで半殺しにされましたが……。


その3
完全幼児化した原作と違って精神は退行しなかったせいで寧ろ大変な目にあわされた。

具体的には居合わせたネメちんのおもちゃにされつつ、無意識に存在しない母性を僅かに刺激したとかないとか。

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