色々なIF集   作:超人類DX

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他のシリーズ見渡しても、基本的に美味い位置にいるこの人。


執事(離職中)と白兎

 

 

 慣れてない人を相手にする時の一誠さんはほぼ間違いなく声を出さなくなるし、なんなら目すら合わせようとはしない。

 

 ミリキャスが言うには恥ずかしがり屋さんと言うが、一応一誠さんの直の後輩となる千冬姉と束さんは『単にコミュ障を拗らせただけ』と言う。

 

 

 オレも箒も二人の話を聞いてからはどちらも当てはまると思う。

 というのもミリキャスと友達になったばかりの頃はよく家に遊びに行っても一誠さんはオレ達と会っても無言で無表情で石像みたいな印象が前面に出ていた。

 

 オレも箒も当時はそんな一誠さんに対して、『全然似てないミリキャスのお兄さん』としか思っていなかったので特に思うことはなかった。

 けれど後々聞いてみたら千冬姉が他愛のない話をしてくれる時によく出てきていた『先輩』が一誠さんだったとか、あの気難しさの塊であり、子供ながらに『絶対に性格的に合いそうもない』束さんが一誠さんの事を『いーちゃん』だなんて、妙に可愛らしい愛称で呼んでいた事には同じく後で知った箒と一緒になって驚いた。

 

 

「失礼、少しよろしいですか?」

 

「え? な、なんだよ――じゃなくて、どうしたのオルコットさん?」

 

 

 世界な広しと言えど、オレと箒の姉は恐らくトップに君臨できる程癖の強い方だと思っていただけに、無口で無表情で基本的に何を考えているのかがさっぱり読めない一誠さんとああも気安く話せるのは奇跡にも近い劇的ななにかがあったとしか思えない。

 

 ……まあ、オレと箒の見解からしたら千冬姉と束さんが一誠さんに懐いたというべきなんだけど。

 

 とにかく、千冬姉や束さんを前にするとちょっと口は悪めだけど意外にも喋るし、押しに弱くて『どうしても』と頼まれると引き受けてしまう妙な人の良さがあるとわかったり、極度の負けず嫌いだったり…。

 

 そしてやはりミリキャスとの血の繋がりは無くて、事情があって保護者のような立場であることや、人間の範疇を越えた『怪物』であると知ったり……。

 

 あの日、まだ無力であったオレを『ミリキャスの友達だから』と助けてくれたり……。

 

 

「織斑先生の妹さんと聞いていてここ数日アナタの様子を見させて頂きましたわ。

てっきりあの織斑千冬と同じような才をお持ちかと思いましたが、とんだ見込み違いのようでしたわね」

 

「は、はぁ……」

 

「いきなり私達の間に割り込んできたかと思えば随分な挨拶だな?」

 

「キミみたいな『他人』がちょっと遠くから見た程度でイチカの底を見抜いた気になるのはどうかと思うな?」

 

 

 知らなかった景色を――恐らく教えてくれなければ一生知ることはなかった場所をミリキャスと一緒に教えてくれた。

 

 

「そうでしょうか? 今こうして私に言われても気の抜けた反応をする時点で底が知れると思いますが?」

 

「その時点で皮しか見れていないと自分で言っているようなものだとわからんか?」

 

「落ち着きなよ箒? この人にいくら言っても理解なんてできないよ」

 

「ていうか、兵藤と試合するんだろ? オレなんかに構って大丈夫なのか?」

 

「ふん! あんな男に負ける私ではありませんわ! とんだ見込み違いでしたわね織斑一夏さん!」

 

 

 知れば知るほど人間臭くて。

 知れば知るほど律儀な人で。

 知れば知るほど―――

 

 

「なんだったんだ?」

 

「あまり気にするな。

大方千冬さん――おっと、お前を織斑先生の妹だからと警戒でもしていたんだろう」

 

「最初から今まで妙に周りを敵視しているしね。

それにしても金髪かぁ……しかもあのステレオって感じの口調と良い、『あのメス鳥』を思い出すなぁ……」

 

「め、メス鳥? なんだよそれ?」

 

「当時からちょっと僕達よりも兄さまに近い『領域』に居るってだけの分際で、兄さまに色目使ってた女の事さ……」

 

「師匠にだと……?」

 

「ちょ、ちょっと待てよミリキャス……? い、一誠さんはその女を知ってるのか?」

 

「知っては居るよ。

ただ、その女があまりにもうっとうしいものだから、兄さまはすっかり金髪の女が苦手になっちゃったから、心配するような事は絶対にないよ」

 

「そうなのか……? それなら良いけど……」

 

「その女と今のオルコットが似ている訳か……」

 

「まぁね。『中身』は全然違うけど、多分兄さまが会った瞬間露骨に逃げる程度には皮は似てる」

 

 

 もっともっと知りたい……。

 

 

 

 ツンケンしている時期のセシリア・オルコットが、女子として在籍する一夏やら謎の存在であるミリキャスに絡んだ時は何かが起こるのではと思っていたが、結局特に何も起こらなかった事に転生者である男は残念やら安心したやらの気分だった。

 

 結局数日経ってセシリアとの試合を明日に控える今日まで一夏に白式というISの専用機が与えられるという話は出ることもない。

 

 こうなると本格的に自分が原作主人公で男の織斑一夏の代わりとなるのだという自覚を人知れずする事になる転生者である『兵藤』。

 

 ちなみに彼は入学が決まった際に国から既に専用機を与えられているという体で専用機を持ってある。

 

 もっとも、それはISというのは名ばかりの何かでしかなく、彼自身も転生者特有の『地力の底上げ』がされている。

 

 故にセシリア・オルコットに負ける気は全くなかった。

 

 

(……()()に頼んで少し調べて貰おうか)

 

 

 

 それよりも問題は一夏自身とそんな一夏の友人という位置に存在する『見知らぬ赤髪の女子』ことミリキャス・グレモリーだ。

 

 グレモリーという姓自体に違和感を覚えるし、勿論そんな名前の原作キャラは覚えすらない。

 妙に落ち着き払っている箒とすらも仲良くやっている事も含めて、彼女の存在によって一夏自身とその周辺の環境がかなり改竄されているのは見ているだけで感じられる。

 

 となれば、今現在に至るまでの情報を手に入れる必要があると考えた兵藤は密かに自身が培ってきた『伝』を頼ろうと考え、携帯を操作するのであった。

 

 しかしその伝を使った情報収集で手に入れた情報そのものが既に『でたらめに改竄されている情報』である事に男は全く気づかなかった。

 

「はーいビンゴ~

例の兵藤ってのが探りを入れてきたみたいだぜ?」

 

「あ? なんでわかるんだよ?」

 

「そりゃあこの天才こと束さんの持つ千里眼が発動したから――ってのは冗談で、いっちゃん(一夏)とみーちゃんの事を探るように見ていたって話を聞いてた時からある程度彼の事を調べたからだよん♪」

 

「手の早い奴だな」

 

「いーちゃん程じゃあないと思うぜ?

で、どうやらコレは束さんが全く関与していないというか、どこでどうやって手に入れたのかわからないコアのIS擬きを専用機と言い張って保持しているコネを持っている程度の背景があるみたい」

 

「どこかでありそうな話だな。それで?」

 

「その前に、いーちゃんは政府が裏で抱えている『暗部』を覚えてる?」

 

「? ああ、お前の名前と顔が織斑共々売れ始めた頃に、お前の身柄を押さえようと押し掛けてきた制服連中の事なら少しだけ……」

 

「充分だね。どうやらコレは個人的にその暗部の連中とのコネと繋がりがあるみたいなんだよねー?

で、そのネットワークを使っていっちゃんの事を探ろうとしたんだってさ」

 

「………」

 

「もっとも? その暗部共が掴んでる束さん達の情報なんて全くの出鱈目というか、ちょっと悪戯して改竄しまくってやったからなんの情報にもならない―――ってオチが言いたかっただけ」

 

 

 見つかったらまず大騒ぎ確定な存在が、実は学園の隅も隅な開かず同然の部屋の一室で持ち込んだコンソール端末を駆使して妨害しながら、仕事前の一服をしていた用務員に説明をしていた。

 

 

「だから心配しなくてもこれでもう暫くは鬱陶しい干渉は無いと思って良いぜ?」

 

「俺には無い引き出しなせいか、たまにお前が妙にスゲェと思ってしまうのはなんなんだろうか……?」

 

「ふっふーん! そのままもっと褒めてくれてもいいよん?」

 

「…………礼は言う」

 

「ちょっとお堅い言い方だけど、それも褒め言葉として受けとるよ。

しっかし、男の起動者が暗部連中とねぇ……?」

 

「お前が作ったそのISってのは女にしか動かせないんだろう? 何故ソイツが動かせたのかはわからんのか?」

 

「さてねぇ? 直で解体しながら調べればわかりそうだけど、別に興味なんてないし?

そもそもISにしたって本当の目的という意味での足掛かりでしかないから実の所これ以上発展させる気もあんまないもん」

 

「…………」

 

 

 開発者本人の発言とは思えない適当さ加減に一誠は、そのISを巡ってアレコレしている各国の連中に聞かせてやりたいと思ってしまう。

 

 

「そりゃあ最初はそれなりの理由があっての事だったけど、いーちゃんとみーちゃんというバグみたいな人を知っちゃった今となっては、割りとISに関しては各々で好きにしてくれって気分にしからならいよ」

 

 

 そう言いながら然り気無く一誠が淹れてくれたお茶をちびちびと飲む束。

 

 

「お前、最初は俺を殺そうと躍起になってたのにな」

 

 

 そんな束に、少し昔の事を思い返す一誠。

 

 

「まー……絶対に血の繋がりが無いであろう幼女に『一誠兄さま』と呼ばせてる変態さんだと思ってた男にちーちゃんがああも懐くもんだから、その時は死ぬほどムカついたのは否定しないかな?」

 

「…………」

 

 

 そうクスクスと笑う束に一誠は微妙な気分になる。

 

 

「でもまぁ、殺してやりたいくらいにムカついたのも事実だし、それが理由とはいえ、生まれて初めて全力で物事に打ち込める気分を教えてくれたし、結局どれだけの手を尽くしても『アナタ』を殺せなかった。

それどころかアナタはそんな『私』をガキの頃の俺みたいだなとか言って、全然知らない世界を教えてくれた」

 

 

 それまでおどけた口調と呼び方をしていた束の雰囲気が変わる。

 

 

「ちーちゃんにも、箒ちゃんにもいっちゃんにも同じ世界を見せてくれた。

私がどれだけアナタを殺そうと憎んでもアナタは『変わらなかった』――だからかな?」

 

「……やっぱりお前ってセラフォルーとは違う意味で変な奴だ」

 

 

 恐らく誰にも見せることのない束の微笑みに対して、一誠は『ほら、コイツは絶対にセラフォルー似ちゃいねぇよ』と改めて思う。

 

 そう、彼女はきっと『自分に』に似ている。

 そして自分には無いものを持っている。

 

 

「ま、そーいう訳だから変な探りを入れてこられてもこの束さんがきっちりガードしてあげるから、大船に乗ったつもりで居てくれたまえ~!」

 

「……おう」

 

 

 だからきっとあの時、自分は自分の知る領域を教えたのだろう――そういつもの調子に戻った束を見ながら一誠は思うのだ。

 

 

「ちなみに、その暗部の一部がこの学園に生徒として居るけど……まー、問題ないっしょ? 私がここに居ることにも気づいてないし、いーちゃんという用務員の存在も悟られてないし?」

 

「仮にお前の存在がバレたら抑えにくるのか?」

 

「可能性は高めかな? でも大丈夫、そんかヘマは――」

 

「なら、その時は俺がそうはさせない」

 

「――――へ?」

 

「…………。お前にも借りがある。だからお前にはなにもさせない」

 

 

 

 他人と身内の線引きがハッキリし過ぎている。

 負けず嫌い。

 

 

「……………ねぇ、たまに思うけど、いーちゃんってわざとなの?」

 

「あ? なにが?」

 

「みーちゃんのお母さんだったりお祖母さんだったり、そのセラフォルーってのがいーちゃんを構い倒す理由が凄くわかるよ……」

 

「……?」

 

「ねぇ、思いきりぎゅってしていい?」

 

「はっ!? な、なんだよ急に、嫌だよガキじゃあるまいし」

 

 

 割りと似た者同士なのかもしれない。

 

 

「えー、ダメなの? 折角の大チャンスなんだよ? ほら、おっぱいだってその人達には負けてないつもりだし」

 

「だ、だったらなんだよ、どうでもいいわそんな所の大小なんぞ!」

 

「えー? みーちゃんが言ってたけど、その人達にぎゅってされると大体黙るって……」

 

「あ、ありゃアイツ等がバカみたいに強引だっただけだ! 誰がそんな事で……クソ! ミリキャスの奴め、そんな事までしゃべりやがって……!」

 

「だから最近いっちゃんとみーちゃんに結構嫉妬されちゃうんだよなー? 実は最近またサイズが上がっちゃって……」

 

 

終わり




補足

当初はどこぞのクレイジーサイコ天災兎の手前までなりかけてたのですけど、相手が執事一誠のせいか、あまりにもスルーされるのと、同情ではなく色々と不器用口下手ながらも教えてくるせいで、肩の力が抜けちゃったらしい。

 スペックにしても例のママン達というか年上悪魔さん達に一切退けを取らないので、実はミリキャスちゃまに一番ライバル視されてるとかないとか。


その2
兵藤という彼は――まあ、色々とコネがあるらしい。
しかしこちら側には妨害する気満々な天災さんが居るのでお察し。


その3
金髪アレルギーは基本変わりません。

見たら条件反射で誰かの背中に隠れます。


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