まず舞台が違うというか……はい。
無限の龍神と無神臓と……無幻大
世の中っては人智を越えた何かがある。
俺がそれに気付いたのは、奪われ、忘れられ、見捨てられて死を待つしか出来なかった小さい時の頃の話だ。
薄汚く、この飽食の時代とも言われてる日本で餓死寸前だった俺を偶々見付け、偶々持っていた食べ物を割いてくれた男の人。
ちょっとスケベだけど、とても強くて……俺が最も尊敬する人の一人で……。
『何処にでも似たような奴は居るらしいな……。
まったく、アイツがアイス食いたいなんて言うから外に出てみたら、とんだ拾い物をしてしまったな』
『坊主、お前から奪ったソイツをぶちのめしたいか? それともこのまま負け犬のままみじめに死ぬか?』
『やる気があるのであれば、お前を最強程度にはしてやるよ。
昔俺がアイツに拾われた様にな……』
そんな大切な家族と出会ったのはもう十年も前だった。
『おかえり―――って、その脇に抱えてるのは誰?』
『近くで死にかけてたから拾った。
どうやら昔の俺と同じらしいぞこの坊主は』
そしてもう一人出会った少女と共に……俺は地獄から這い上がる事となる。
織斑一夏がISを起動したと報じられてから少し経った後、彼は流されるかの如くIS学園に飛ばされてしまった。
女性しか起動が出来ないとされる兵器を、試験場を間違えた織斑一夏が偶然触れた事により起動してしまったと、世間の人間達はそう認識していた。
「ま、そんなリアクションになるわな?」
だがしかし……その『織斑一夏』と同じ顔をした少年が、驚愕の表情をする織斑一夏や女子生徒達の視線の悉くを流しながらマイペースに携帯端末を操作しているという現実は誰も知らない話だった。
「だ、誰? 織斑一夏君ってどっちなの?」
「さ、さぁ……もしかして双子?」
「…………」
「い、一夏が二人……?」
驚愕して固まっている方なのか、それともマイペースに携帯で動画投稿サイトに入って仔猫ならぬ『小ぬこ』の微笑ましい姿を見てほっこりしている方が織斑一夏なのか……。
何も知らない生徒達は勿論、その中に混じって目を見開いていた織斑一夏の幼馴染みも――どちらかと言えばニャンコの動画を閲覧しながら「もふりてー」と呟いている方の少年に、何者なのかという懐疑的な視線を向けていた。
普及と共に設立された男子禁制の花園・IS学園にて世界で最初のIS男性操縦者が入学するというだけでも驚愕ものなのに、その男子と瓜二つの容姿を持った謎の少年が当たり前の様に居座っている……。
ニュースでの情報しか知らない女子生徒の多くは、真ん中の席でニタニタとしている謎の少年の正体が気になるまま、結局担任と副担任が出てくるまで、誰も話し掛ける事はしなかった。
……。な、何故生きている?
俺が奴を見て最初に思ったのはその疑問だけだった。
「諸君、私が織斑千冬だ―――」
姉の口上が全く耳に入ってこない。
千冬姉さんだって表面上は冷静を保っているが、頬杖付きながら退屈そうに眺めている成り代わりで消えた筈のオリジナルのその容姿に内心動揺している。
例によって千冬姉さんの口上で女子達がキャーキャーと騒いでいるが、俺は今更になって生きている事をわざわざ教えるとばかりに現れた死に損ないが頭から離れず、イライラすらしてきた。
「織斑一夏です。
此度の入学に伴い、lSについて自分なりに勉強をしてきましたけど、皆さんと比べたら大したものでも無いので、精一杯勉強したいと思います」
取り敢えず自己紹介の流れになり、原作一夏とは違って無難に乗り切った俺は、何人か挟んでやってきた……死に損ないの自己紹介に耳を傾ける。
よく見たら千冬姉さんや他の人達も、この俺だけが正体を知る死に損ないに注目しており、死に損ないは死に損ないでノロノロと椅子から立ち上がると……。
「兵藤一夏……。
そこの彼がISを動かしたとニュースなった際、何処の誰がリークしたのか知らないが、顔が似てるって理由で無理矢理適正を受けさせられました結果この様となりました」
ちなみにそこの彼とは全くの無関係です。
そうハッキリと、俺に対して意味深な目を向けながら宣った兵藤一夏と嫌味にしか聞こえない名前を名乗った瞬間、コイツ自身が俺を憎んでると確信できる。
「なのでISに関しては全くの素人ですので、皆さんの足を引っ張る事となりますが……精々生ぬるい目で見てあげてください」
「………」
その瞬間、俺はコイツを完全に排除しなければならないと確信した。
俺が主人公として成り代わった筈なのに、生きているコイツは癌でしかない。
となれば、事故に見せ掛けて殺す事は造作も無いので、この学園にこの死に損ないが馴染む前にさっさと始末――それも事故と判断されやすい何かを利用して消そう。
そう決心しながら何処で消そうか考えようとしたその時だった。
「あ、最後に目標を一つ――俺の目標はとある奴に『清算』をさせる事です。以上」
「!?」
見透かす様な目で俺を見ながらそう口にした死に損ないの言葉。
その言葉の意味は聞いていた皆には解らなかったが、俺には解ってしまった。
解ってしまったからこそ……俺は早くこの死に損ないの絞りカスを消さなければならないと思った。
「……。くくく」
俺を薄ら笑いの表情で見る、唯一のミスを完全に……。
まさか此処までトントン拍子に行くとはね。
ニュースでデカデカと報道されてくれたお陰で、簡単に牽制も出来たしな。
「ちょ、ちょっと良いか!」
「箒か……どうしたの?」
「来い!」
「わっ!? お、おい!?」
怒った様子の黒髪の女――いや、アレは多分幼馴染みだった女に連れられて何処かに行ってしまった織斑一夏こと、俺から全部を奪ったクソヤローは俺が生きていた事に誤算だといった表情がアリアリと出ていて実に愉快だ。
まあ、そりゃそうだろうな……?
名前も居場所もテメーが奪い取り、そこに居た筈の俺は絞りカスの、当時生きていく能力が皆無のガキだったんだ。
健康に生きてましたなんてあっちゃあ、誤算も良いとこだよなぁ? 奴を弟だと思ってる元姉さんも俺の顔を見てかなりビックリしてたみたいだが……くくくっ、自分が弟だと思ってる奴が俺の皮を被った知らねーカス野郎だと知ったらどう思うのかな?
「一夏」
「む?」
あぁ、楽しみだよ。
転生者ってクソヤローに全ての清算をさせる日が来るのが実に楽しみだ。
なんて久々の高揚感で思わず口元が緩んでいた時だった。
嘗て兄ちゃんがそうしたみたいに、俺も早いとこ清算させなきゃな……と十年越しのストレスを発散するその時を楽しみにニャンコ動画の続きでも見ようかな……なんて思っていた俺の座る席の丁度斜め前にちょこんと立つ影に自然と視線が向く。
俺を何の疑念も持たずに一夏と呼ぶ人間は、俺を拾ってくれた兄ちゃんとちっちゃい姉ちゃん以外はかなり限られる……いや、もうほぼ決まっている。
何せ、ずっと昔から兄ちゃんと一緒だったらしいちっちゃい姉ちゃんの声と今俺を名前で呼んだ声は酷似している訳で、そしてその声の主が誰かは俺はよーく知っている。
だから何の疑問も警戒も抱かず、自然と頬が違う意味で緩むのを感じながら、顔を上げ、自分を呼ぶちっちゃい姉ちゃんと似た声の主である女の子の呼び掛けに快く応えた。
「お久しぶり――でも無いか? 簪。元気でやってたか?」
最初は本当に偶然の出会いだった。
高校生くらいの見た目と小学校を卒業したての見た目から全く歳を取らないまま生きているという、説明不能の人外と龍の神様らしい兄ちゃんと姉ちゃんに拾われ、前向きに生きてい前向きにクソヤローに清算させるという目標と共に日々を這い上がるための特訓に費やしていたとある日に偶然出会った、同い年の少女。
暗くて、ハッキリしなくて、おどおどしてる水色髪と赤眼が目立つ少女――更識簪は、兄ちゃんが驚く程に姉ちゃんと声がソックリで、気付いたら……この歳までまともに付き合ってた初めての友達だ。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんがご飯に連れていってくれた時以来だから……一ヶ月ぶり?」
「マジ? 結構前だな……」
「そうだね、出会ってからずっと一緒に遊んでたから一ヶ月も会えなかったのは寂しかった」
だから俺にとって簪という子は大切な子だ。
簪も簪でちょっと色々と実家であるようで最初は何でもかんでも劣等感抱いてネガティブな性格してたけど、兄ちゃんと姉ちゃんと俺で鬱陶しいくらいに構った結果……本人曰く実家より三人と居たい――と言われるくらいに懐かれた。
まあ、流石に実家も両親も……聞けば姉も居るみたいだからそれは出来ないと言ってるがな。
「まぁでも、同じ学校に加えてクラスも一緒だし、今度は飽きるぐらい遊べるぜ?」
「うん……!」
クラスの女子や、他クラスだと思わしき女子が俺と簪の親しさに気になっている様子で見てくるが、そんなものなぞ気にせずに簪とのトークを楽しむ。
「二人は?」
「相変わらずマイペースにやってるよ。
で、相変わらず見た目だけなら犯罪にすら思える姿でイチャコラしてる」
「お姉ちゃんがベタベタしてるんだね? わかるよ」
いつの間にか元幼馴染みと共に帰ってきた織斑一夏の『ショック受けた表情』も無視し、今頃家でのんびりやってるだろう恩人二人を想いながら話を弾ませる。
ぶっちゃけ兄ちゃんも姉ちゃんも今の俺と簪からすれば兄ちゃんだ姉ちゃんだと呼ぶには違和感が――特に姉ちゃん至っては完全にロリだったりするので……まあ、アレだったりするんだが、気にしたり突っ込んだら兄ちゃんにひっぱたかれるので気にしたらダメだ。
「イッセーさんとオーフィスさんもお兄ちゃんお姉ちゃんって感じじゃないもんね……もう」
「寧ろ見た目だけなら今後俺達が追い越しちゃうと思うとちょっと悲しいよな。
だから今後の目標はイッセー兄ちゃんみたいに限界突破して老化の概念から抜け出そうとか思ってたりね」
「それは良いかも……そしたらずっと一緒だもんね。一夏とも……」
人の限界を越え、その昔は神様すらぶちのめしたらしい最強の人外・兵藤一誠。
その兵藤一誠と人外になる前から一緒に生きてきた世界最強の龍神・オーフィス。
曰く、かつての世界から抜け出して此処に来たらしい、異世界人でもある二人に拾われた俺は多分、宝くじで一発当てるよりも運が良かったと思う。
でなければよ……。
「
「ん……姉や両親やその他にバレちゃってちょっと面倒だけど、概ね問題なくコントロールは出来るようになった」
俺はあの時、そのまま死んでいた。
ホント……くくっ、ある意味あのクソヤローには感謝しなきゃなぁ?
「………」
「………。戻ってきてからずっと見てきてるんだけど」
「簪が可愛いからだろ?」
「えー……?
一夏に似てるようで全然似てない相手に見られても嬉しくない」
一誠兄ちゃんとオーフィス姉ちゃん……そして簪と出会えたんだからよ。
兵藤一夏
自分を救ってくれた兄と同じ領域に立つ事と、全てを奪った存在にそのツケを払わせる事を目標に這い上がりし、本来の織斑一夏。
備考……
更識 簪
一夏と出会うことで自分に自信を付け、人外男……そして自分と声が似てる龍神幼女みたいな関係に一夏となりたいと願う相棒。
備考……
これは全てを一度奪い取られた少年が、這い上がり清算をする為の物語……。
「取り敢えず改めてよろしく、だな」
「うん……よろしく一夏」
「な、何だアイツ等、あんな注目されているのに抱き合ってるぞ……!?」
「ば、バカな……!? あんな絞りカスが何で簪と……!」
終わり。
オマケ……その頃の無限の龍神と無神臓
「一夏も簪もがっこーに居る。
だから気にせずに我と子作りが出来る」
「もう何十年も言ってるなオメーは……」
「言うに決まってる。一誠は何時も寸前で逃げるから、我は何時もココがむずむずして寂しい。
いい加減我と番いになって気持ち良くなるべき。折角あの雌悪魔から物理的に離れられたのに……」
「あぁ、貧乳会長ね……。
いやもうとっくに会長じゃねーけど、あの人も結局変な人になったよなぁ。主に俺がからかいすぎたせいで」
「我はアイツが嫌いだ。
何時も我の邪魔して一誠にベタベタするから」
「邪魔も何もねーだろ……。
んな事より一夏の奴は俺の頃にも出た転生者とケリをつけられるかを心配しろよ」
「一夏なら問題ない。
一誠と我が一から戦い方を叩き込んだし、何より一誠と我を組み合わせた様な力が使える。
あの変な乗り物相手だろうと負けないし簪もいる」
「ISな。
簪ちゃんも冗談半分で一夏と同じように教えたらスキル発現させたからなぁ……しかも割りと俺達でも厄介な」
「簪は我と声も似てる。
一夏と簪はお似合い……そして我とイッセーはそんな二人の為に子供を作る事で平和になる。今だって一誠が意地悪するから一誠が欲しくておかしくなりそう」
「膝枕させろと言ったのはお前だろうが」
以上、膝枕だけど一誠がオーフィスの腰周りにガッチリ抱きついて、ゴスロリ衣装越しにプニプニお腹に顔埋めてるという……まごうことなきアウトな絵からの会話。
「ヴァーリと曹操は達者でやってるのかな……」
「んっ……! イッセー……が、その状態で喋るからもっとむずむずしちゃう……ぁ……」
補足
ぶっちゃけこのお二人さんは本編の時系列から更に時を重ねたお二人です。
が、未だそいう事にはなってないというオーフィスたんにしてみれば生殺し状態。
その2
まあ、テンプレ宜しくにそうなったけどホント偶然一誠に拾われた結果……這い上がるどころか人外候補になってます。
つーか、ISが逆に制御装置化するレベル。
簪さんは……まあ中の人がというかね?
幼少一夏によって会った一誠とオーフィスたんは気に入り、本人のコンプレックスを少しでも解消して上げようと一夏共々教えていたら……。
黒歌さんの境地に達しました。
その2
更識姉妹やらともフラグ立てる気満々だったこの転生者さんは、追い出した筈のオリジナルが生きてたばかりか、モノにしたがってた簪さんが取られたと勝手にキレてます。
ちなみにこの覚醒簪さんはコンプレックスを完全に吹っ飛ばして異常化してるせいで、ある意味姉さんや従者さん達との溝が深まってしまってるかもしれないです。
まあ本人はそんな皆に普通に接してるつもりですが、それが逆に嫌味と皆が感じてる……みたいな。