色々なIF集   作:超人類DX

783 / 1034
風紀委員長(徹底的モード)です。


しょうもないオマケがあります。


マシかマシではないのか

 霧島一誠はバラキエルとバラキエルの血をひく朱乃以外の堕天使を全てを嫌悪する。

 

 だからアーシア・アルジェントがとあるはぐれ堕天使達に宿す神器を狙う為に町へと侵入した時は真っ先に動いた。

 

 別にアーシア・アルジェントを助ける為ではないし、何ならリアスの眷属となって兵藤凛の家の世話になっている現在に至るまで興味を持ったことすらない。

 

 あるのはただ、無力だった己がかつて抱いた堕天使へのトラウマと果てなき憎悪。

 

 

『人間の身でありまだその年でよくぞそこまで……。

バラキエルのやつもさぞ安心できるだろうよ小僧。

あぁ、お前にどんな過去があったのかは知っている。

バラキエルの娘と嫁に俺の同族がした事が理由で堕天使全てに殺意を持っていることもな。

そのことに関して否定するつもりは全くない。

現にお前はその憎悪とバラキエルの娘への情を糧に俺に迫る領域まで到達したのだからな。

だからこそ俺はお前達を今は殺さん』

 

『………』

 

『悔しいか小僧? 俺が憎いか小僧? 俺がバラキエルの嫁と娘を一度殺したカス連中とは違うと理解はしても、堕天使である以上は憎悪の念が晴れないか?

ならば存分に俺を恨め、憎め、それを糧に更に強くなれ。そして守ってみせろ』

 

 

 その堕天使がたとえトラウマの直接の原因ではないにしても、彼は底知れぬ怒りを堕天使にぶつけ続ける。

 

 

『バラキエルと朱璃の娘朱乃よ。

お前もまた小僧と同じく、自らの殻を破った者だ。

小僧共々お前にも期待するぞ? もし小僧と同じく俺にもっと迫る領域へと来れたのなら―――くっくっくっ、俺も俺の相棒と共に全力で戦える』

 

『何故私達を殺さないのですか……?』

 

『殺す? 何故俺の命を脅かす程の強さを持つ可能性がある存在を殺す必要がある? 俺が望むのはただひとつ……全力を尽くした本物の闘争だ。

お前達はその資格がある……だから今は殺さん。

それに今回の件はこの聖剣をなんとかする為に出てきただけの事だからな』

 

『………』

 

『ふっ、納得できんか? それならそれでも構わん。

じゃあな、バラキエルと朱璃によろしくとでも言っておいてくれ』

 

 

 

 されどその憎悪をすらをも飲み込む程の強大な壁が現れた時、霧島一誠は二度目の絶望と挫折を与えられるのか。

 

 

『俺はっ……! テメー等堕天使に二度と負ける訳にはいかないんだっ……!』

 

『一誠くん……』

 

『だから……! だから貴様だけは……!!』

 

 

 それはまだわからない。

 しかし止まるわけにはいかない。

 何故なら虫けら同然な自分を受け入れてくれた――

 

 

『俺にィ!!!』

 

 

 朱乃と朱乃の家族の――

 

 

 

 

 

 

 

『殺されるべきなんだァァァァッ!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 未来(コレカラ)を守りたいから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソーナ・シトリーが実質的な再起不能となるという未知なる展開へと突入したことで、最早どう行動すべきかもわからなくなる兵藤凛。

 兵藤一誠ではなく、霧島一誠として生きる彼も既に本来の一誠とは全くの別物となっているこの状況で自分はどうすべきなのか……。

 

 今は本来の一誠のようにリアスの眷属として生きてはいるが先の事はわからない。

 以前一誠自身が冷たい目をしながら言っていたように、悪魔全体と敵対する可能性だってある。

 

 そうなれば自分はどうすべきなのか。

 

 恐らく一誠の味方になりたいと懇願したところで断られる。

 何故なら霧島一誠の野望は決してハーレム王ではなく、姫島朱乃ただ一人を守る事なのだから。

 

 あの日から自分を見て怯え、逃げるように去った彼が生きていた事に安堵と罪悪感を抱き続けている。

 けれど、そんな思いもひっくるめて、霧島一誠として生きる彼に関心はないのだ。

 

 それはこれまでも……そして今も変わっていない。

 

 

「数学の教科書を忘れちゃった?」

 

「はい、昨日お部屋でご一緒にお勉強をした時に、鞄に入れるのを忘れちゃいまして……」

 

「うーん……」

 

 

 そんな心のひっかかりを常に感じながらも生きてはいる兵藤凛はこの日、すっかり姉妹感覚で同じ屋根の下で生活するアーシアに教科書を忘れてしまったと言われる。

 

 人間誰しもひとつやふたつ忘れ物をしてしまうことはあるので、別にそこに思うことはないが、問題はその授業の教師がそこそこうるさいタイプだった。

 

 だからどうにかして教科書を調達しないといけないと考えた凛は他クラスの人から借りる事を提案してみる。

 

 

「貸していただけるでしょうか……? 私、凛さんや部活の皆さんしかお友だちがまだ居ませんし」

 

 

 だがアーシアは貸してもらえる自信がないらしい。

 アーシアが男子あたりに貸してと懇願すれば、この学園の男子のことだから喜んで貸してくれそうなものだけど……と、『ただ一人の例外』を除いて思う凛は、取り敢えず一緒に隣のクラスを訊ねてみる。

 

 

「? 数学の教科書を貸して欲しい?」

 

「は、はい。えーっと、この子が忘れちゃったので貸して貰えたらなぁと……」

 

「お、お願いします……!」

 

 

 男子相手に借りるのはなんとなく引けたので、女子に声をかける凛とアーシア。

 対してその女子生徒こと桐生藍華は『貸してはあげたいんだけど……』と困った顔だ。

 

 

「今日ウチのクラスって数学無いのよ。

だから私は持ってきてなくてね……まあ、教科書を学校に置いていくタイプの人に声をかければかりられるとは思うけど……」

 

 

 そう言いながら近くに居た者に次々と声をかけようとした藍華だったが、ふと教室の扉の前に立つ凛とアーシア――の背後に居る存在に気づいて『あ』と声を出す。

 

 それにつられて二人も振り向くと、そこには風紀委員長こと霧島一誠が邪魔そうに立っていた。

 

 

「…………。教室の入り口を塞がないてもらえるか?」

 

「ご、ごめん……!」

 

「す、すいません……」

 

 

 相も変わらず無機質で淡々とした言い方に思わず退く凛とアーシア。

 

 

「それでなんなの?」

 

 

 退いた二人を一瞥しつつ教室に入る一誠が、藍華に何故他クラスの二人がここに居るのかを訊ねるので、藍華が理由を説明する。

 

 

「ああ、だから借りに来たわけね。

で、桐生が貸したのか?」

 

「いや、うちのクラスは数学無いし、私が持ってる教科書は家だから、他の人に持ってないか聞こうとしていたところ。

その時にちょうど委員長(あんた)が戻ってきたのよ」

 

「ふーん?」

 

 

 一瞥をくれた以降は全く視線を寄越さない一誠の、まるで興味なさげな声。

 どうやら忘れ物をした程度では風紀の執行とまではいかないらしく、アーシアは特にほっとした。

 

 

「委員長は持ってないの?」

 

「数学の教科書をか? 一応持ってはいるが……」

 

「ならこの金髪の子に貸してあげたらどう?」

 

「は? ………まあ、今回は別に良いけど」

 

 

 そればかりか、藍華に言われたからとはいえ教科書を貸してくれる事になった。

 

 

「はい。今回は一応見逃すことにするけど、次からは気を付けろよ?」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

(初回なら見逃してくれるばかりか、言えば割りと簡単に貸してくれるんだ。

わ、私も忘れてくればよかったかも……)

 

 

 使い込んではいるが綺麗でもある数学の教科書を受け取ったアーシアが慌てながらお礼をする横で、凛が余計な事を考えている事に気づかずに。

 

 つまるところ、『似たような人生を歩み、風紀委員長にはなったものの女性に対してちょっとばかりだらしない彼』とは違い、霧島一誠は既に兵藤凛を転生者で自分のアイデンティティを壊されたからと恨みや憎しみを持ってはいない。

 

 それはきっと霧島一誠が『地獄へ落とされた赤髪の悪魔の少女と共に寄り添いながら生きたもしもの彼』に酷似した考え方を持つが故なのかもしれない。

 

 確かに兵藤一誠という存在は抹消されたも同然だ。

 しかしそれでも自分は再起することが出来たし、抹消されたからこそ出会えた。

 

 だから最早興味もなにも無い。

 

 

「一応忠告するけど、その教科書に落書きなんぞしたら……」

 

「し、しませんよっ!?」

 

「なら良い」

 

「…………」

 

 

 朱乃との未来の邪魔にさえならなければ、どう生きてようが知ったことではない。

 それが霧島一誠の『転生者』に対する考え方なのだから。

 

 

 

 

 風紀委員会に仮見習いとして加入中のギャスパーと桐生藍華は、唯一の委員所属にて委員長でもある霧島一誠を程度は違えど『尊敬』の念を抱く。

 

 この委員会に所属する者は一般生徒達にとって目の上のたん瘤であり、ヘイトを買う損な役回りになりやすい。

 しかしそれでも彼はたった一人となっても先代や先々代達と同じやり方を貫き続けている。

 

 どれだけ孤立しようともだ。

 

 だが、その揺れなさと既に解体となった元生徒会達の体たらくもあってか、委員会同士の連携と団結力を高めることになった。

 これは歴代の風紀委員会にはなかった事だ。

 

 つまり、この学園の一般生徒達は大なり小なり問題児ばかりなのかもしれないが、真面目な側の生徒達からすれば霧島一誠はたった一人であろうが紛れもない風紀委員長なのだ。

 

 

「これは単なる世間話だと思って欲しいのだけど……」

 

「?」

 

 

 異性だからと言って手加減せず風紀を執行する姿はある種の硬派さを感じさせるらしい。

 そして殆どの三学年の一部以外はこの霧島一誠が例の学園二大お姉様と呼ばれる者の片割れと深い関係である事を知らないし、彼女の前では実に『少年らしく』なる事も知らない。

 

 知らないからこそ、そのクールにも見える姿にほんの一部の女子は好感を抱くものらしく……。

 

 

「霧島くんって彼女とか欲しいと思わないの?」

 

 

 再来週に行われる『球技大会』の運営についての会議を各委員長同士で話し合って決めた後、唐突に図書委員長の女子に質問をされた一誠はきょとんとする。

 

 

「なんですか唐突に?」

 

 

 素朴な疑問というか、珍しい内容の質問だったので軽く戸惑う一誠。

 そんな一誠の両隣に座る見習い風紀委員である藍華とギャスパーは既に彼が『悔しいと思わされるくらいに大切にする相手』を知っているので、なんとも言えない顔だ。

 

 

「なんとなくよなんとなく。

最近ちらほらと『霧島くんって良いかも』って話す女子が居るから……」

 

「あ、それ私のクラスでも言ってた子が居たわ」

 

「校則違反者には容赦ないけど、守ってさえいたら意外と優しいってどこかのタイミングで知った者からは結構好感度高いのよね、霧島くんは……」

 

「はぁ……」

 

「「………」」

 

 

 最近この委員長会議くらいなら参加できるようになったギャスパーはまだ普通に通えていないので知らなかったし、一誠と同じクラスである藍華はクラスメートはおろか同学年全体からほぼ恐れられてるか嫌われてる一誠が、他学年だとそうでもないという事実に驚く。

 

 

「もしかしたらその内告白なんてされちゃうかもしれないけど、霧島君は好きな相手とかいるの?」

 

「居ます」

 

「――――あら、意外と即答なのね……」

 

 

 とはいえ、そんな事実を知った所で霧島一誠は喜びなんてしないし、好きな相手が居るのかの質問も即答だ。

 即答された各委員長達にすれば意外な答えで驚く者が居たり、ちょっと残念そうな顔をする者もちらほら居る。

 

 

「そう。

少し羨ましいわね、その誰かさんが」

 

 

 それはこの話題を振った図書委員長も同じように少々残念そうなそれであった。

 ハーレム王に一切興味が無い生き方をしてきた霧島一誠は、皮肉な事にある意味モテやすかったらしい。

 

 

「思うに、支取さんってもしかしたらだけど霧島君に多少――」

 

「………………………………」

 

「――――あ、ごめんごめん。

今の発言は完全に取り消すわ。

そこまで露骨に嫌そうな顔されちゃあね……」

 

「全力で寒気がしましたよ、今のジョークは……」

 

「と、とことん嫌いだったのね……彼女達のこと」

 

「そうでなければ解体なんてしませんでしたよ」

 

「でしょうねぇ? うん、支取さんの話はもうやめるわ」

 

 

 本人はとことんブレないし徹底的なので無意味なのだけど。

 そして、基本的に一般の学園生活中はお互いに他人のフリをすると決めている朱乃と一誠。

 

 

「えーっと、例えばオカルト研究部の人達ってどう思うの?」

 

「案外その手の話が好きなんですね……」

 

「まぁね……。

と、言いたい所だけど、霧島君の事をもう少し知りたいっていう好奇心があるのよ。少なくともここに居る皆はね?」

 

「意外と謎が多いからね霧島君って」

 

 

 というのも、朱乃も一誠も意味こそ違えど学園内では名が知れ渡っているので、もし『幼馴染みで小さい頃から互いに好きで好きでしょうがない関係です』なんて言えば面倒な事この上ないことになるからと考えての事だ。

 

 

『殆どがお前と朱乃の関係性を知らんからか』

 

(……)

 

 

 別に普通に喋ってしまえばそれで終わりなのだが、この学園の大半が喧しくなるのはわかりきった事なのだ。

 相棒のドライグの呟きに無言を貫く一誠はそれでも黙っていようと考える。

 

 

「では部長さんの印象は……?」

 

『だ、そうだぞ一誠?』

 

 

 美化委員長の質問に一誠は考える。

 部長さん――つまりリアスをどう思うか。

 

 それは簡単だ……。

 赤い髪の悪魔で、悪魔としての朱乃の一応の主。

 ただそれだけの事であり、それ以上の印象はなにもない。

 

 アレが使えないと判断すれば即座に見限る――それだけの存在だ。

 

 

「赤い髪の派手な人……くらいでしょうか?」

 

「あ、そんな印象なんだ?

美人だなぁとは思わない感じ?」

 

「作りは良いんじゃないでしょうか?」

 

「シビアね……」

 

 

 だがその事を正直に言うつもりはないので、赤い髪の人程度の印象しかないと返せば、殆どの人達はある程度の予想でもしていたのか苦笑いである。

 

 何度も言うが、彼にとっての異性は朱乃か朱乃以外のその他全部でしかない。

 そしてその他全部に対しては押し並べて平等に同じく興味が無いのだ。

 

 

「俺の事はもう宜しいでしょう?」

 

 

 強くなって守れる男になると覚悟をした時からずっと変わらないのだから。

 

 

 

終わり

 

 

 

 オマケ・生徒会長から脱落した者

 

 

 軽はずみな行動が身を滅ぼす事を徹底的なまでに思い知らされた。

 

 彼は情などでは決して情けをかけないことを絶望と共に叩き込まれた。

 

 彼には欠片の慈悲も無かった。

 

『ま、待って……!! ど、どうか話だけでも、理由だけでも聞いてくださ――』

 

『話にならないクズがっ……!』

 

『うっ……!』

 

『待ってくださいだ? テメーはその台詞を生まれてから――そして何度これからも吐き続けるつもりだ?

以前にもテメーの下僕共にも言った事だが、世間はテメーの母親じゃあない。クズの言い訳を一々聞かない』

 

 

 彼に言い訳は通用しない。

 彼は清々しい程に徹底的だった。

 

 

『テメーの両親や肉親が教えなかったのなら、俺が代わりに言ってやろう。

『侮辱』に対する誠意は『死』以外は無い!』

 

 命乞い等聞かぬ。

 必死に頭を地面に叩きつけてようが彼は構わない。

 

 彼にあるのはただ侮辱された事への怒りと報復の心。

 その侮辱に対する報復に手は抜かず徹底的に破滅させる。

 

『その時点でテメーに最早猶予なんざありはしねーんだよ。

今から迅速に『噛み殺して』やるから、黙って殺戮されてろや?』

 

 

 彼はどこまでも風紀委員だった。

 だから自分達は壊された。

 

 

 手心も無く、泣いても許してはくれない。

 彼は自分達を結局は欠片も認めてすらくれなかった。

 

 そして学園からも追い出されてしまった。

 

 

「……………」

 

 

 あれから一ヶ月が経とうしている頃、自分を含めた眷属達の受けた破壊的な傷は、見た目だけならば確かに癒えた。

 だけどそれ以上に喪ったものがあまりにも多すぎた。

 

 あれからずっとソーナ・シトリー達は表に出ることはなく、心を喪った様に実家の部屋の中に引きこもり続ける。

 

 

「……………」

 

 

 実家の両親や姉達は自分達を保護してくれた。

 されど冥界に住まう同族達からの風当たりは強かった。

 

 霧島一誠を相手に要らぬ真似をしたせいで、暫くは平行線をたどっていた関係性が切れる寸前にまでなってしまったことへの責めの意見があまりにも多すぎた。

 その事に関しては魔王でもある実姉が黙らせたことで直接聞くことはなくなった。

 

 だけど未だ多くの悪魔――特に上層部は霧島一誠との関係が完全に切れる事を恐れていた。

 

 そんな関係性に対して僅かでも皹を入れたソーナへのヘイトはあまりにも多かった。

 

 そして反対に、そんな状況になってもなんとか関係と崩壊を押さえ込んでいるリアスは実に良くやっているという声がある事が……ソーナを更に蝕む。

 

 

「なんで私ばかり……」

 

 

 確かに霧島一誠を軽く見ていたのは認めよう。

 どうせなんだかんだと異性には甘くなるだろうと見くびっていた事も認めよう。

 だけどリアスだけが相対的に評価をあげるのかだけは……納得できない。

 

 

「リアスはただ姫島さんの主だから結果的に彼からなにもされていないだけなのに……」

 

 

 リアスが頑張っているのではない。

 リアスが姫島朱乃の王で友人だから何もされていないだけの事。

 それなのにリアスばかりが褒められるのは納得できない。

 

 今も自分とは違って自由を満喫しているのもそうだし、当然霧島一誠との関係性も続いている。

 

 自分達に対しては嫌悪の相を隠しもしない癖に、リアスとは普通にしている。

 

 それがとても納得ができない。

 

 早い話が嫉妬である。

 

 

「どうして……なんで霧島君は私を嫌うの……?」

 

 

 ソーナは知らない。

 一誠が何故嫌ったのかを。

 知ろうともしない。

 

 

「どうしてリアスばかりが……」

 

 

 ソーナは幼い頃からリアスに対してのコンプレックスを密かに抱いていた。

 常に一歩先を行くリアスが……。

 

 そしてリアスの居る立ち位置が。

 

 

「私とリアスと姫島さんのどこが違うというの……?」

 

 

 羨望はやがて嫉妬となり、嫉妬はやがて殺意となる。

 

 

(かわいそうなソーナちゃん……。

そっか、ソーナちゃんはリアス・グレモリーと姫島朱乃が憎いんだね? わかったよ、もう少しまっててね? ちゃんと霧島一誠ってのと一緒に『謝らせて』あげるから……)

 

 

 それは、小さな声を聞いていた姉に伝わってしまう事で新たな騒動の火種になるのかもしれない。

 

 

 

 

 

「う……!?」

 

「? どうかされましたか?」

 

「い、いえ……。

何故だかはわからないけど急に寒気が……。

それとお腹もキリキリと……」

 

「一応胃薬ならありますが……」

 

「も、貰うわ。

そ、それにしても本当に生徒会が無くても普通に出来てしまえてるのね……」

 

「各委員会の委員長で生徒会がすべきことを振り分けてやっているそうですわ。

皮肉な事に、シトリー様のお陰で委員会の間での連携が強くなったとか……」

 

「私って、絶対にソーナ達に恨まれてるわ」

 

「もしそれで報復に来るようでしたら、守ってみせますよ。

一誠君はああ言いますが、私にとってアナタは初めての友達ですから……。きっと一誠君も……」

 

「……多分もののついでで仕方なくでしょうけどね」

 

 

 

終わり。

 

 

その2・夢の中の自分。

 

 

 最近お腹がキリキリと痛いリアスは夢を見る。

 その夢はまったくもってあり得ない不可思議な夢であり、その夢の中においてなんとあの霧島一誠が……。

 

 

「??? どうしたんだよリアスちゃん?」

 

 

 朱乃にしか見せるはずのない人懐っこい優しい笑みを浮かべながら、自分の事をリアスちゃんだなんて呼ぶ夢なのだ。

 

 

「な、なんでも無いの」

 

 

 変にリアリティのある夢だが、同時にあり得ないとも言えるこの不可思議なる夢を見るリアスだが、同時にどこか心地よい気分にもなる。

 何せ夢の中の彼は凄まじく自分に優しいし、何なら朱乃の様に大切にすらしてくれる。

 

 

「ほら、おいでよリアスちゃん?」

 

「う、うん……」

 

 

 それも自分をグレモリーとしてではなく、ただのリアスとして見てくれる。

 

 

「リアスちゃんの髪は何時見ても綺麗だ……」

 

「あ、ありがとう……」

 

 

 この夢が自分の潜在的な願望がそうさせているのかはわからない。

 わからないけど、どこまでも優しくて、どこまでも大切にしテクれるこの夢の中の一誠はとても良い。

 だからついついその夢に嵌まる訳で……。

 

 

(朱乃っていつも彼にこんなことして貰えるのかしら? でもこれって夢なのよね……)

 

 

 夢だとわかりきっていても覚めて欲しくない……。

 そんな事を思う程度には夢の中の一誠は優しくて……。

 

 

「やっぱり夢か。はぁ……」

 

 

 覚めた時は何時だって寂しい気持ちになるのだ。

 

 

 

「さっきからなんですか?」

 

「い、いえ……! な、なんでもないわ。(ひょっとして……なんて欠片もあるわけないのに、私ったらなにを期待してしまってるのよ……)」

 

 

終わり

 

 

 

 

その3・拉致られその2

 

 

 先々代の委員長に拉致され、妙な町に少しだけ滞在する事になった一誠は、マフィアがどうとかと話す同年代の者達との交流を続けていたのだが……。

 

 

「……………………」

 

「「………………」」

 

「…………………………」

 

「「…………………」」

 

 

 しばらくマフィアの10代目らしい少年の家に厄介になる事になった一誠は、周りに言われるがままその少年と一戦を交えた後、彼の母親からの厚意でご飯を食べていた。

 だがその辺りか――いや、額と両手にオレンジの炎を灯した少年と戦っている最中辺りから今にかけて妙な視線を感じる。

 

 そしてその気配の先を見てみれば、見知らぬ少女がじーっとうかがう様に自分を見るのだ。

 

 

「ねぇ聞いても良いか?」

 

「? どうしたの?」

 

「キミの家のご厄介になってる時からずーっとこっちを見てくる子供がちらほら居るんだけど……」

 

「え?」

 

 

 ツナと呼ばれる少年に、見られている事を話すと、彼自身は気づいてなかったらしく、ツナの部屋の入り口のじーっと中を覗くツナの知り合いに気づく。

 

 

「イーピンとユニ……? どうしたんだろう?」

 

「ああ、そういう名前の子か。

その子達はアレか? 得体の知れない野郎に対して警戒しまくる子達なのか? だったら納得するんだが……」

 

「や、どっちもそんな風な子ではないけど……」

 

「………」

 

 

 ツナと呼ばれた少年もどうやら二人の行動を不可解に感じたらしい。

 一体全体何なのだろうか……と思うものの、特に不愉快さも無ければ害になる感じも無いので、放っておくことにした。

 

 

「え、こんな夜遅くにトレーニングするの!?」

 

「キミは気にせず寝ててくれよ。

これは俺の日課みたいなものだから」

 

「ほう、雲雀が認めるだけの強さがあるのに、もっと上を目指そうとする向上心もあるのか。

ダメツナとは違うな」

 

「ほっとけよ!」

 

 

 わーわーと騒ぐ赤ん坊とツナ少年をBGMに着替えを済ませた一誠はそのまま外へと出て町を見て回るついでのランニングを開始する。

 

 

「変な町だなここは……」

 

『妙な力を持ったやつらが多い』

 

 

 見知らぬ力を持つ人間の多さが目立つ町中を暫く走る一誠だが、再び背後から気配を感じて足を止めた。

 

 

「………またか」

 

『ああ、よくわからんガキ二匹か……』

 

 

 ドライグの言う通り、それはツナ少年がイーピンとユニと呼ぶ子供二人からの視線だった。

 辺りはすっかり暗くなってしまっているというのにわざわざ尾行してきた理由はよくわからないが、そのまま振り切って子供二人だけにする訳には安全的な意味では良くない為、疲れたフリをしてその場に止まる。

 

 

「…………あー、喉かわいたなぁ」

 

「「…………」」

 

 

 そう言って立ち止まった一誠の目の前にちょうど自販機があったので、わざとらしい独り言を言いながら財布を取り出した一誠は、適当にジュースを三本買う。

 

 

「おっとしまったー……。

間違えて三回ボタンを押してしまったー(棒)」

 

「「………」」

 

「これは困ったなー こんなに飲めないしなー? 誰か飲んでくれる親切な人はいないかなー?(棒)」

 

 

 子供相手にマジキレするタイプでもないし、寧ろ子供には少々甘い一誠は、電柱の影に居るであろう子供二人をチラチラ見ながらわざとらしく言う。

 すると本当に困ってるとでも思ったのか、ひょこっと姿を現した。

 

 

「###&*▲△△※〒?」

 

「あ? なんて?」

 

 

 二人の内の一人が何か言っている。

 しかし何を言ってるのかが全くわからなく、予想外に軽く困ると、もう一人の少女が声を出した。

 

 

「えっとあの……間違えて買ってしまってお困りになっていると聞いたので……」

 

「…………」

 

 

 良かった、どうやらこちらの子供は話が通じるらしいと思った一誠はコクリとうなずきながら二人にジュースを差し出す。

 

 

「おう。一本買うつもりが三本も買っちまった。

流石に飲めんし、キミ達はたしか沢田君の知り合いの子だろ? だからやるよ……てか貰ってくれ。捨てるのも勿体ない」

 

「○★☆◇◎」

 

「そ、そういう事でしたら……」

 

「ん」

 

 

 妙に緊張した面持ちで受けとる二人に、一誠はフッと『なんだ、普通の子供じゃねーか』と笑みを溢すと、そのまま並んでジュースを飲み始めた。

 

 

「それで? 俺に何か気になる所でもあるのか?」

 

「あ、い、いえ……特に深い意味は無くて、沢田さんの雲の守護者である雲雀さんが以前からよく自慢気にアナタの事を話されていたので……」

 

「恭ちゃん先輩が? マジか……ちょっと嬉しいなオイ」

 

 

 尊敬する者の一人に褒められたと感じた一誠はちょっと得意気な気分になる。

 

 

「それで今日は雲雀さんがアナタを皆さんに紹介すると聞いたので……」

 

「そういう事ね。オーケオーケー納得したぜ」

 

「☆〒◎◇」

 

 

 何故見られていたのかを知った時点で一誠はこの二人の子供への警戒心を無くした。

 要するに物珍しさからの興味だったのだから。

 

 

「死ぬ気の炎を使わない力を初めて見ました」

 

「俺からすりゃあ逆にその死ぬ気の炎って力に驚いたぞ? 地元じゃ誰も居ないしな」

 

 

 こうして小さなやり取りは続き、結局トレーニングは諦めてこの子供二人と散歩をしながらお世話になっている沢田家へと送り届ける事になったのだが……。

 

 

「それじゃあお世話になりました」

 

「また何時でも遊びにいらっしゃいね?」

 

 

 事は二日後の帰り際に起きたのだ。

 

 

「ちょ、ほら霧島君は帰るんだから離れろってイーピン! ランボも!」

 

「やだやだやだやだー!! イッセーはランボさんの子分になったんだもんね! だから帰らせないもんねー!!!」

 

「***▲△』★☆〒ー!!!」

 

 

 二日の間でびっくりするくらいに子供に懐かれたせいで大泣きされ……。

 

 

「あ、あの……! 夕方まで帰るのを伸ばせないでしょうか?」

 

「ユニまで!?」

 

「あ、あのその……もう少しだけもっとお話がしたくて……」

 

「でも霧島くんも忙しいし……」

 

「…………おい小僧、ユニに何をした?」

 

「ぶっ!? な、なにしてんだよリボーン!?」

 

「なにもしてねーよ! だから拳銃をこっちに向けんな、あぶねぇな!?」

 

 

 変な誤解をされ……。

 

 

「貴様かァ! 姫をたぶらかしたのは!!!」

 

「だから何もしてねーよ!! ただくっちゃべってただけじゃ!!」

 

 

 その誤解が広がったとかなんとか。

 

 

「じゃあ何故姫が貴様と寝てる!?」

 

「その言い方は語弊があんだろうが!! 寝ぼけてたんじゃねーの!?」

 

「そんな訳あるかァ!!」

 

「どわっ!? こ、この野郎……!」

 

 

 

 

 

「実際の所はどうだったんだ?」

 

「いや、霧島くんは俺の部屋でちゃんと寝てたよ? でも夜中にドアが開く音がしたかと思ったらイーピンとランボとユニが……。だから霧島くんは本当に悪くないというか」

 

「なるほど。

チッ、雲雀の後継者としては注目すべきだが、別の意味では警戒しねーとならねーかもな」

 

「霧島くんも不憫な……」

 

 

 

 

 

「や、やめて!」

 

「し、しかし姫! この得体の知れない男は姫を……!」

 

「わ、私が勝手にやったことですから! そ、それに寝付くまで背中を撫でてくれたり、頭を撫でてくれただけで……え、えへへ♪」

 

「……………貴様ァァァッ!!!」

 

「キレられる意味がわかんねーわ!!?」

 

 

プチ合宿……終わり




補足

どれだけ悩んでも、彼はもう彼女の事はどうとも思いません。

皮肉なことにだから普通に会話は可能です。


その2
再起不能になったシトリーさん達はリーアたんにヘイトを溜めまくる模様。

地雷フラグとは言ってはならない。


その3
最近胃薬がずっと欲しいリーアたんは、どこぞのベリーハード的な世界の夢を見るとかみないとか。


その4

先々代に拉致られたまま合宿した所、マフィアの10代目君と仲良くなったり、その10代目くんの家に居る子供達に懐かれたらしい。

色々と重要な女の子にすら懐かれたせいで、あらぬ疑いがかけられまくって大騒ぎになったとか。

そして下手にその女の子が釈明しても、内容が余計誤解を生みそうなそれなので……。

 が、結局子供には甘いので特に怒りもせず許したばかりか『頑張れよ』と笑いながら抱っこしてあげたせいで…………。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。