繋がりというものは、そう簡単に切れるものではない。
ましてや、共に修羅場を潜り抜けただとかそんな経験を共にしてきたともなれば、付け焼き刃の何か程度では切れたものではない。
強すぎてその仲の良さが気持ち悪いとまで言われてしまう―――そんな繋がりがあり続ける勢世界のお話が………。
悪魔という種族としての在り方とすれば、間違いなく異端であり、間違いなく失格の烙印が押されるであろう者達が居る。
言うなれば身勝手ともいえる者達。
だが、その実情はその者が持つ眷属にあった。
基本的にとても大人しい美少女として通っていて、学園内でも五指には入るであろう人気者の一人であるのが塔城小猫である。
絹糸の様な白い髪と、金色の瞳はどことなく小さな猫を思い起こさせるとして、癒し系なマスコットなんて呼ばれることもしばしば。
もっとも、塔城小猫なんて呼ばれている彼女には真の名があり、彼女自身が呼んで欲しいと思った相手にしか決して呼ばせようとはしないなんて事もあるし。
もっと言ってしまえば、大人しめな美少女というのも正解ではあるが不正解でもあるのだ。
それは、彼女が入学してから一ヶ月後に発覚した事であり、本人曰く『いや、我慢できないので…』との事なのだが……。
一体どういう事なのか? それは彼女が休み時間だ放課後になると即座に教室を飛び出しては、上の学年の教室へと突撃する事に答えがある。
「イッセー先輩、部活ですよ部活」
「知ってるし、わざわざ来なくても良いっての」
少女のお目当ては彼にあるのだ。
自分にとっての先輩でもあり、仲間でもあり、家族以上の繋がりがあると信じているこの青年。
「来る度に俺はクラスメートから白い目で見られてしまい、お陰でクラスではまともに話してくれるのが居やしないぜ」
「良いじゃないですか、そんな連中なんて。
先輩には私たちがいますよ?」
「そこに関する否定は全くしないが……」
ちょっとおちゃらけているけど、少女にとって大切な者。
大切に思いすぎて、少しでも彼が他の他人と話しているのを見ると、気が狂いそうになる程度には少女は彼が大好きだった。
「前に先輩と同じクラスってだけで話しかけてきた女が居ましたけど、うっかり八つ裂きにしてやりたくなりましたしね」
「先生に呼ばれてるって教えてくれただぞ」
「それだけ私は先輩が好きなんです」
そんな少女の少々重い気持ちに対してイッセーは上手く付き合ってあげている。
自分の些細な行動だけで過激な行動をしてしまう事に苦労することはあれど、それでもイッセーにとっては可愛い後輩なのだ。
その妙に地に根付いたような構えた態度だから、余計に小猫が傾倒してくると気づかずに。
これは、そんな白い少女のお話。
突然だが私、搭城小猫改め白音は好きで好きでどうにかなってしまいそうな人がいる。
その名は一誠くん。
今はイッセー先輩なんて呼んでいるけど、今よりもっと小さな頃は彼の事をイッセーくんと呼んでいた訳だけど、とにかく私はこの人が好きだ。
好きすぎて、ちょっとでも一誠くんが他の雌と話していたりするのを見てしまうだけで、うっかりその雌をバラバラにしてやりたくなってしまう程だ。
そんな気持ちを常に抱いている私とは反対に、一誠くんはといえば私の事をいつまでも子供扱いする。
今の私の見た目が余計そう思わせているのかもしれない。
「この前、堕天使がイッセーに接触してきた件だけど……」
「ああ、その堕天使ならもう二度と先輩の前に現れる事はないですよ」
「……。敢えて聞くけど、それは何故かしら?」
「先輩に嘘でも色目を使う雌なんて生きている価値はありません。いえ、嘘だからこそ死んで当然です」
「……あ、そう」
ならばもっと成長しようと思う私だけど、その前に先輩が小汚い雌風情に奪われるのだけは阻止し続けなければならない。
そして意外な事に先輩は見知らぬ雌と縁ができやすい事を常に見てきたからこそ知っている。
私たちの主であるリアス部長や副部長の朱乃さんもそのクチで、本音を言うなら先輩を取らないで欲しいと思う。
けれど先輩自体が二人の事はそう見ていないので、私も今のところはお二人を尊敬する先輩と思うことにしている。
「いつの間にあの堕天使殺しちゃったのかよ?」
「勿論。
そもそもあの雌は確実に先輩によからぬ事を企んでいましたからね。そんな奴に生きている資格はありません」
「手が早いな相変わらず……」
そんな部長と副部長と先輩と同学年の木場先輩のなんとも言えない視線を無視する私は、椅子に座っている一誠先輩の膝の上に乗り、後ろから腕を回してもらいながら座っている。
「それともあの堕天使女に興味があったとか?」
「いいや無い」
「それならば、私が食い殺しちゃっても関係ないですよね?」
先輩は基本的に私のする事に呆れこそするけど、怯えたりは決して無い。
「それとですけど、この前シトリー様に代理を頼まれて先輩とやったお仕事についてなのですけど」
「なにか問題でも……?」
「正当な働きに対する正当な報酬を要求をしました。
そしたらシトリー様は貸しにして欲しいと言ってきました。
でも貸しにした所で返ってくる保証がないので、断ってそのまま要求をしました。
そうしたら――」
「そ、そうしたら?」
「最近あの方の兵士として入った……あー……名前が何なのかは忘れましたけど、その兵士の人がいきなりムカつきだしました」
「………」
「正直言うと、私と先輩もムカつきました」
「ま、まさかソーナ達を……?」
「別に殺しちゃいませんよ? ただ、その兵士の人の耳を噛みちぎって、耳朶を地面にそのまま吐き捨ててやったら喜んで報酬を渡してきたので、部長に渡します」
「」
慣れたからというのもあるのだろうけど、どれだけ私が血に染まっていても、先輩だけはいつものように受け止めてくれる。
何時だって、何処でだって……。
だって先輩と私は同じだから。
同じものを共有できる唯一の相手だから。
「じゃ、じゃあ今日はここまでに……」
「帰りましょう先輩」
「ん、じゃあまた明日」
部活も終わったので、私は先輩の手を引きながら、部室を後にする。
私も先輩もあのリアス・グレモリーさんによって悪魔に転生した転生悪魔。
「しっかしあのシトリーの新しい兵士の人はクソ不味かったなぁ……」
「お前のその悪食はなんとかならないのか?」
「性分ですからねぇ。
もっとも、私はやっぱりアナタの味しか美味しいなんて思わないです」
そして転生悪魔になった理由もただなりたいからなった訳じゃなく、私も先輩も其々それしか生き残る方法がなかったから。
だから私も先輩も肉親は存在しない。
……いや、私に関しては姉が存在していたけど、もう多分二度と会うこともないでしょうし、先輩には絶対に会わせたくはない。
そして先輩も『その異質さ』のせいで両親を失い、今はリアス部長の実家の応援によって生活をしている。
だから私と先輩が帰る家は同じ。
それは私が望んだ事であり、一般人の生徒共は知らない。
そして家に帰れば、先輩と後輩ではなくなる。
「一誠くん、ご飯の前に先にお風呂に入ろうよ?」
「いい加減一人で入ったらよ?」
「良いじゃん、昔からそうなんだから! ほら!」
兄妹、親子、恋人……色々な関係はあれど、私達の関係はそれを越えたものだと思っている。
お互いが存在しなければこの世に価値など無いと思えるような絶対的な繋がり。
「~♪」
「白音も大きくなったな……こうして見ると」
「え、本当……? じゃあやっとイッセーくん好みの胸に――」
「背だよ背。それにそこに関しては……まあ、うん」
だから誰にも渡さない。
この繋がりを私から奪う輩は誰であろうが喰い殺す。
それが私の生きる意味なのだから……。
「ふーんだ。そんな事だろうって思ってたし、どうせ私はぺったんこだもん。
イッセーくん好みじゃない貧相ボディですよー」
「そんなに卑下するなよ……。別にだから嫌いだって思うわけもないんだしさぁ?」
「うん……知ってるけどたまに不安になるから」
そう自分のあまり成長しない胸に触れながら湯船に浸かる私に、クスっと笑う先輩――いえ、イッセーくんはポンポンと頭を撫でてくれる。
「そういう可愛いところ、俺は好きだぜ?」
「もー……でも嬉しい♪」
どれだけ私が過激な事をしても、イッセーくんは笑いながら受け止めるのだ。
だから私は好きなんだ。これまでも……これからずっと。
「ねぇ、今日もイッセーくんが欲しいな……?」
「はいはい、湯冷めしないようにちゃんと温まってからな」
「あは♪」
そして、白音の破綻した異常な気質と精神に押されがちに見えるが、実の所イッセー自身もまた異常で異質で、不安定な精神を宿している。
例えば白音は見た目だけなら実に愛らしい容姿の美少女なので、現在通う学校でも人気がある。
中には見た目に黙らされた輩が白音に対して少々行きすぎた真似をする事もある。
しかしそんな輩は総じて『失踪』する。
何故なら。
「いいか良く聞けよ虫けら野郎。
あの子とはガキの頃から同じ釜の飯を食った仲なんだ。
俺はその時から誓ったぜ、あの子にふざけた真似をする馬鹿は誰であろうと生皮を剥いでやるってな……!」
一度スイッチが切り替わると、とてつもなく凶暴化する彼により消される運命となるから。
「わ、悪かった! も、もう二度と小猫ちゃんに近づかないから許してくれ!」
「い、イッセー……? その、彼もこう言っている事だし、許してあげても――」
「は? おいおいおいおい!? 白音はアンタの眷属でもあるんだぞ? 普通だったらコイツの歯を全部へし折りたくなる筈だろうが!!」
「そ、そこまでするわけには――」
「それとてめぇ!!」
「ひっ!? は、はい……!!」
かつて両親にすら存在を否定され、そして捨てられた事で『自分は誰からも認められない』という闇を抱えてきた一誠は、生まれて初めての『自分の同類』であり『自分を一人の人間として受け入れてくれた』白音を何よりも大事にする。
だが、そのやり方が他から見れば『異常』そのものであり、不安定な精神を抱える爆弾のような男にしか見えない。
しかしそれが一誠であり……。
「さっさと死ねボケが!!」
「げぶぉっ!?」
「死ねっ! 死ねっ!! 死ねっ!!!」
「や、やめなさいっ!!」
ある意味で前向きな少年だった。
「あらら、見事に手足の骨も歯もへし折られてますね。
これは二度とステーキは食べれないかな?」
「これでも足りねぇくらいだ。お前の盗撮なんぞしてたからな……」
そんな二人が何故一介の悪魔の眷属になっているのかは疑問が残る所だが、少なくとも主となるリアスは制御不能な爆弾である二人に頭が痛い。
「一応そこら辺の消しカスにも劣る輩に写真を持たれるのは嫌なので、この人の家ごと破壊してきました」
「なっ!? な、なにを馬鹿な事を!? そんな事をしたら――」
「大丈夫ですよ。たまたまこの人の家の上空から隕石が降ってきてしまったというだけの事故と見せかけたので」
やることが過激で極端。
その癖自分達に実害がない件にはやる気がない。
同年代とは思えない力の強さだけに目が行ってしまって眷属にしたのは間違いであったと思わされる程に、二人は制御不能だった。
「また実家から言われるわ……」
リアス・グレモリーの受難はまだまだ続くのだ。
パターンその1・不安定な異常者――終
補足
最初からネオ白音たんです。
そしてそんな状態から出会ってたので仲は良い。
ただし、そのせいで周りが危険ですけど。
その2
受け身に見えて実の所イッセーもどっこいどっこい。