徹底的モード・『揺るがぬ風紀委員長』
受け継いだとはいえ、俺は自分を正義の味方だなんて思わない。
善だの悪だのなんて概念は俺にとって何の意味も無い。
あるのはただ、守り続けていきたい。
その為に力を手に入れたい。
塵以下だった俺を助けてくれたあの子と、その家族の為に。
その為だったら、俺は鬼にでも何にでもなってやる。
その日、一般の生徒達は『噂』が本当だった事も相俟って、壇上から語る『風紀』の腕章を付けた少年に震えた。
『既に知っている者も居るだろうけど敢えて説明させて貰うが、今期の生徒会を勤めていた生徒達は『事情』により自主退学とさせて頂いた。
それに伴い、次の生徒会選挙が行われるまでは生徒会は廃止となり、今後の全校集会の仕切りは各委員長が交代で行うこととなる』
淡々とした口調で生徒会の解体と、所属していた生徒の『自主退学』についてを説明する風紀委員長・霧島一誠。
その立場と、結局は歴代の委員長に全く引けを取らぬ執行力のせいで普通の生徒達は彼に恐怖を抱いているし、生徒会の解体と退学は間違いなく彼が原因だと思ってしまう。
『俺は先代や先々代のような『正義感』なんて持ち合わせてはいない。
節度を守れてさえすれば、楽しく過ごせば良いと思っていたし、現に継いで暫くは君達の校則違反を見逃そうとはした。
もっとも、先代が卒業して俺の代になった途端、俺を舐めていたのか、節度も糞もない違反者ばかりだったわけだが……』
『…………』
『だから俺は見逃すのを辞めた。
これでも先代達と違って緩めにしているつもりだけど、キミ達はそんな俺を『暴君』だの『何様だ』と思うだろう。
しかし、俺を徹底的にさせたのはキミ達にもあるというのは忘れるな。
必要のない私物の持ち込み。他の生徒への迷惑行為。口頭による警告の無視』
『…………………』
『俺はな、口で言ってもわからんガキ共に寛容になれる程大人じゃねぇ。
だから今後ともこの活動はやめないと決めた』
故に誰も彼も淡々と説明する一誠に怯えるのだが、そんな生徒達等まるで気にする事なく、全校集会を仕切っていく。
『それでも文句があるなら俺の所に来て言え、何時でも聞いてやる。以上だ』
生徒会を解体させた事による気の緩みに対する『釘』を刺すかのような淡々とした演説を終えた一誠は、ゆっくりと壇上を降りる。
そんな彼に拍手を送るのは賛同する各委員会に所属する生徒と委員長と、見習いである風紀委員会の者だったとか。
元々今の生徒会だった者達は『見てくれの良いだけの』活動しかしなかったので、各委員長に生徒会が行うべき活動を振り分けても問題はなかった。
何故なら元から仕方なく尻拭いの真似事をしていたのだから。
「改めて各委員会の皆さんにはご迷惑をお掛けします」
そんな彼女・彼等に一誠は改めて謝罪をする。
いくら『理由』はあったにせよ、今回の件は半分は自分の『私怨』もあったのだ。
その私怨に少なからず巻き込んでしまった自覚はあるのだ。
「気にしなくて良いわ。
今までだって生徒会の業務をあの代になってからは兼任させられていたしね」
「寧ろ初めから居ないものだと思えば納得もできるってものさ」
そんな一誠に他の委員長達は仕方の無いことだからと許してくれる。
「不慮の事故で今期の生徒会は誰も居なかったと思いながら皆でやれば大丈夫だわ」
皮肉な事に、元生徒会達のお陰で各委員会と連携力と結束が強まったのだから。
こうして一般生徒達にとっての生徒会の件は静かに終わりを迎える事になるわけだが、霧島一誠個人としてはまだ終わってはいない。
何故なら元生徒会の面々は元会長であるソーナ・シトリーという悪魔が率いた連中だったのだから。
以前、その悪魔達との間で一悶着あり、此度はほぼ個人的な報復心で彼女達を再起不能へと追い込んだのは事実。
故に彼女達の身内からの報復に備えなければならないのだ。
「生徒会は各委員長達で兼任することでなんとかするにしてもだ……奴等の身内共を後はどうにかしないとな」
「悪魔って本当に存在してたのね……。しかもあの元会長さんと役員達が悪魔だったなんて」
無論報復に来た所で頭を下げる気も、命乞いをする気もなく、抵抗するつもりである一誠は、一般人であり見習い風紀委員の一人である桐生藍華に、今回の騒動に巻き込んでしまったとして彼女達の正体を教えていた。
無論、藍華は驚きはしたものの、『自分は悪魔じゃなくて人間』だと言い切る風紀委員長がその悪魔をああも八つ裂きにできている事の方に興味があったせいか、リアクションはさほど大きくはなかった。
「どっちにしろ、誰が悪魔だろうが何であろうが、私の目的には関係のない話だわ」
どちらにせよ、彼女の目標は完全なる風紀委員会への所属なのだから。
「それより問題はアンタよ。
大丈夫なの? 聞いてる限りじゃ、元会長の身内からの報復があるかもしれないって……」
「そんなものにびくついていたって仕方ないだろ。第一、来た所で俺は抵抗するつもりだしな」
「まあ……アンタも先代達に引けを取らないからそこまで心配なんてしないけど……」
桐生藍華にとってはそれが今の全てなのだから。
冥界の実家からの近況曰く、集中治療送りにされたソーナ達はフェニックスの涙で一応の回復はしたものの、精神が完全にへし折れて壊されたらしく、廃人同然の有り様になってしまったとの事だ。
それにより、ある意味ソーナ達より彼との距離が近かった自分について行動制御を受ける事になったソーナの姉がリアス自身に恨み言を洩らすようになったとか……。
「きっと、今セラフォルー様と顔を合わせたら八つ裂きにされるでしょうね私は……」
「そ、そんな……部長は悪くないのにどうして」
「私がソーナの幼馴染みで親友だったからよ。
あの方からすれば、自分の眷属の知り合いの人間の肩を持ったように思われてるでしょうしね」
「彼の危険性については魔王様も知っているのにですか……?」
完全な板挟み状態になったリアスの悲壮感たっぷりな姿に、転生者である兵藤凛を始めとした眷属達は微妙に納得ができないようすだ。
とはいえ、あの件に関しては既に忠告をされたにも拘わらず、霧島一誠の危険性を盾にして我を通そうとしたソーナ達にも落ち度があると思うので、一誠のせいでこうなったとはあまり思わない。
「うるさいと思われるくらいソーナには言うべきだったのよ。
まさか、あそこまでソーナが彼を甘く見ていたとは思わなかったし……」
「それはもう仕方ないとしか……。だってあの人、前々から一誠に毛嫌いされていたのに、何故かポジティブに考えてたようだったし……」
凛の言葉に木場祐斗や塔城小猫は頷き、新参でありソーナも一誠もあまり知らないアーシアだけは複雑な顔をする。
そんな中、朱乃だけは全面的に一誠側の発言だった。
「私は一誠くんがどうなっても変わりませんわ。
もしこのまま魔王様が報復に来れば、間違いなく一誠君と共に抵抗させていただきますので」
『…………』
何があろうと、それがこの世の中で『悪』と評されようとも自分は一誠と共にあると断言する朱乃もまた一誠と同等にブレがない。
それはまさに、守られるだけではなく支え合う事を覚悟した『漆黒の意思の炎』である。
「不思議ね、私はそんなアナタ達の関係性が羨ましいと思うわ」
そんな二人の関係を間近で見てきたリアスは羨望の感情を吐露する。
その者の為なら己の命すら平気で投げ出せる覚悟と愛情を持ってくれる――そして持てる関係が。
「ふふ、アナタにもきっと現れる筈ですよリアス」
「……多分現れないわよ。
だって私、彼程頑固な程に一途な男の子を知らないもの」
「………」
地獄を経験した果てに出会う『もしも』が無かったこの世界ではもしかしたら無いのかもしれない。
何があろうとも彼が傍に居てくれるだけで幸せそうに微笑む朱乃を見れば見るほど――そして、そんな朱乃の為に生きようとする彼を見れば見るほどリアスは現実を知るのだ。
(良いなぁ……はぁ)
それは転生者である彼女も同様に……。
結局の所、何があろうとも霧島一誠にとって重要なのは姫島朱乃の身に降りかかる全てを破壊することなのだ。
虫けら同然で死にかけていたあの大雨の日、見つけてくれて声をかけてくれたあの時から。
自分のような得体の知れない、生きる意味すらわからなくなっていた人間に手を差し伸べてくれた時から。
彼女や彼女の母を襲った悲劇から救えなかった己の無力さを知った時から……。
そして彼女を好きになった時から……。
「この前の件についてだが、サーゼクスとセラフォルー達には引き続き俺が圧力をかけて抑えてある……」
「結局、勝手にキレて暴れたのは俺なのに、バラキエルのおっちゃんの世話になっちまったか……。
俺もまだまだだな……」
「いくら背伸びしても、俺にとってお前はまだまだ子供なんだ。
少しくらいは俺にも大人らしいことを――親らしいことをさせて貰わんとな」
その為の強さを。
あの悲劇以降、霧島一誠は堕天使の存在を―――唯一の例外である朱乃の父でもあるバラキエル以外は憎悪する。
そして例外であるバラキエルに対しては守るべき者達が同じであるが故に、仲が良い親子のようだった。
「………すまないな。
俺が迂闊に動けないばかりに子供であるお前にばかりに」
だがバラキエル自身は、家には帰りたくないと恐怖に怯えていた事で引き取る事にした一誠に少なからず罪悪感があった。
あの悲劇以降、一誠はそれこそ死ぬかもしれない程の壮絶な鍛練を狂ったように続けてきた。
それを止めなかったのは彼の潜在能力が自分と同等かそれ以上だったことを知ったから――なにより彼は自分と朱璃の子である朱乃を好いていたから。
その朱乃への好意を利用してしまったと思うからこそなのだ。
「もう二度とあんな経験はしたくないんだ俺は。
それに俺が好きでやっていることだからおっちゃんのせいじゃない」
「………」
「朱乃ねーちゃんの事が好きだからだよ。これまでも……そしてこれからもそれは変わらない」
バラキエルの謝罪を一誠は笑って気にするなと返した。
そんな一誠の姿を――怯えた子供の頃から見てきたバラキエルは『強い目になった』と笑みを溢す。
「後はおっちゃんにねーちゃんとの仲を認められるだけの男になってみせるさ」
「俺はとっくにお前なら朱乃を任せられると思ってるぞ? お前程一切『ブレ』の無い男なんて他に居ない」
「それで安心する気は無いよ。
俺はまだおっちゃんを越えられてないからな……!」
血は繋がらないが、間違いなく己の子である一誠が赤い雷鳴を全身から迸らせ、その腕に龍帝の籠手を纏って構える。
「そうか……。ならば俺に見せてみろ……!」
それに応えるようにバラキエルも紫電を纏いながら構えた。
「行くぜぇ!!」
「来いっ!!」
守るべき者の為に限界を越え続ける男同士――それが一誠とバラキエルである。
純粋に強さだけを探求し続けるはぐれ者となりし堕天使と天使とは違う、ひとつの進化。
「……! この強い気配はバラキエルと――あの小僧だな」
「バラキエルについてはアナタに聞かされていたのでわかりますが……例の人間の子がこれほどの強い気配を放てるとは……」
「くくく、今すぐにでも割り込んでしまいたいくらいだ。
が、今はまだ我慢してやろう……」
「アナタという人は……。
でも大丈夫なの? その人間の子はバラキエル以外の堕天使に対して並々ならぬ憎悪を持っていると……」
「俺が小僧が憎悪を持つ原因になった雑魚共と同一視されるのは癪な話ではあるが、それを理由に全力の殺し合いができるのならそれも面白い。
それに、遠からず自動的に奴等とも揉めるだろうからな……」
「まったく、アナタの戦い好きにも困りますよ……」
「お前まで巻き込むつもりはないぞ?」
「なにを言っているのですか。私はそれでもアナタについていくと言った筈よ? 私自身、元々善を気取るつもりも清廉潔白を宣うつもりもないのだから……」
そのぶつかり合いを察知するは、違うようで同じような進化を遂げた天使と堕天使……。
「そうか、ならこれからも頼むぞ――
「ええ、頼まれましたよ、私の――いえ、私だけの
先の先へ進もうとするコンビ。
「いちち……!
はは、やっぱり笑っちまうくらいにおっちゃんは強ぇなぁ……いてて」
「大丈夫なの……? まったくお父さんは……!」
「本気でやって貰わないと意味はないし、大丈夫さ。
寧ろねーちゃんのお陰で元気なくらいだぜ」
「私だって一誠くんを助けたいから、一人で無理はしなくても良いのに……」
「ん、わかってるさ。
俺一人じゃここまでにはなれなかったのも全部わかってる。
これはただの強がりみたいなものだよ……それにねーちゃんにカッコつけたいんだ」
「………そんな事しなくても私は知ってるよ?」
そんな親子の戦いを終えた後はボロボロになって帰って来た二人を其々朱璃と朱乃が治療する。
「ほら……今日はちゃんとお姉さんらしくしてあげる」
朱乃はボコボコになった一誠を治療した後、ただ優しく受け止めるように抱き締めてあげる。
リアスが羨む通り、一誠はただ自分の為に人を超えて来た。
ただ自分の為に……だから朱乃は一誠を心から信頼するし、心から愛することができる。
言葉だけではなく、行動でも示し続けてくれる彼を……。
「いつもありがとうね一誠くん?」
「朱乃ねーちゃん……」
いつの間にか自分より大きく、そして逞しくなった一誠を、包み込むように抱く。
自分の為に気を張り続けてくれる一誠と為に、せめて自分と居る時はと願う。
朱乃もまた一誠が大好きだから。
補足
実にベリーハードイッセーとは気が合いそうなのが彼。
一途過ぎてスイッチ入ると極端になるのも大体同じ