そして見てなさすぎたせいで……
復讐を果たしても、大切な人達は守れなかった。
だから進化をし続ける事を放棄した。
けれど、俺の異常は放棄を許さなかった。
全てを見失った俺がどれだけ怠惰に生きても、俺の異常性は老いや衰えを与えることはしなかった。
何十年経とうとも老いず。
何十年経とうとも力は衰えず。
何十年経とうとも死ぬことは出来ず……。
それは俺自身がかつて望んだ結果でもあった。
人間である俺では、愛した悪魔の女の子と同じ時間を生きる事ができない。
だから人としての進化を重ね、あの子と同じ時間を生きる様にしようとしたから。
だから、今更それを辞めようにも辞められなかった。
愛したあの子が逝ってしまい、ただ一人取り残されたとしても。
どれだけの月日が流れようとも。
何処であろうとも……。
怠惰で腑抜けにも見えた男が自身の主と呼べる男性と同じ場所から来たばかりか、『その気』にさえなれば自分達を簡単に叩きのめせる程の力を保持していた。
その事実に驚きはしたものの、それならどうして今までその力を使わず、怠惰に生きていたのか。
まるで自分達の頑張りを鼻で笑っていたかのような態度は、多くの者に新たな不信感を抱かせるものであった。
自分達の主はそんな彼を庇うから余計に面白くもない。
そしてそんな不信感を向ける相手は自分達の事などなんの興味も無いとばかりに気にも止めやしない。
それが酷く苛立たせる。
「さぁさ! 此方ですぞ!」
「………………」
一部はそんな彼に対して好意的に接する訳だけど、あんなあからさまにやる気の欠片も感じない腑抜け面のどこか良いのか理解しかねる。
妙な力があるというのも差し引いても、人の上に立てる器には到底思えないのだ。
「主様が素手で戦われるので、それに倣って私も素手での戦い方を学ばせていただきましょう!」
「…………………」
先程から露骨に嫌そうな顔をしているというのに。
結局の所、たった一度の欠片の解放をした所で周りからの評価が変わる訳ではない。
寧ろ、人とは思えぬ異質な力を目にしたせいで、別の意味で敬遠される事の方が多いのだ。
寧ろその異常さを間近で見ても全く変わらない紫苑や璃々、それから一刀の方が変であるし、これまでの疑惑を確信へと変えた趙雲こと星に至ってはもっと変なのだ。
「ご主人様、星が勝手に彼と共に訓練場を占拠する件についてなのですが……」
「占拠だなんて大袈裟な言い方だな。
そもそも誰も使わない時間を見計らって使ってるだけだし、別に構わないだろ? ちゃんと後片付けだってしてるんだしさ?」
「それはそうですが……」
「何でそんなに目くじらを立てるかは敢えては聞かないけど、少しは落ち着いて見ろよ?」
「……………」
逆に、紫苑の下で世の為人の為に何かをするでもなく、ただただ怠惰に生きている男だと思っていた側の者達からの反応は相変わらず悪い。
それはそれだけの力がありながら、何故いままで黙っていたのか……というのもあるし、今現在も怠惰な生活をやめていないからという理由もあった。
とはいえ、あまり露骨な態度をし続けて彼がどこかへ居なくなってしまっても困る。
ましてや、そのままどこかの勢力に加入して敵にでもなられたらこの国の危機になりかねない。
だから不平不満はあれど正面切って言えなかった。
「~♪」
「お、星じゃないか。最近ご機嫌だな……」
「ええ、押し掛けると凄く嫌な顔をされる主様ですが、なんだかんだと鍛練の面倒を見てくれるようになりましたからな」
「そっか。やっぱり兵藤は強いのか……?」
「強いという次元の話ではございませんな。
子供と大人の差……いや、蟻と龍の差というべきか」
「そりゃあ、デコピン一発で星が吹っ飛ばされてたもんなぁ。
俺も教えて貰おうかなぁ?」
「!? なりませんご主人様! ご主人様の鍛練なら私が見ます!!!」
「お、おぉ……? わ、わかったよ……」
「愛紗よ、まだ主様を信用せんのか?」
「あ、当たり前だ!! 私はまだ認めた訳じゃないからな!!」
「確かに主様のあのやる気の無さは少々思う所はあるが、主様なりの事情もあるしな。
それに、別に全く仕事をしない訳じゃないぞ? この前だって他の民達と農作作業をしていたし」
「だ、だったら何だ! 私が気に食わんのは、それほどの力を持ちながら、何故世の平定の為に役に立てんのだという意味だ!」
結局の所、一誠の立ち位置は何ら変わらないのであった。
そして関羽こと愛紗達の不満は大体当たっている訳で。
「まったく面倒な……」
「そうやって文句を言う割りには、教える時は真面目に教えるじゃない?」
「そうしないとギャーギャーとやかましいからだよ。
俺は適当に農業でもやりながら適当にやってたいだけだ」
「でもおとーさんって何時も思うけど、教える時の方が楽しそうだよ?」
「……気のせいだ。それとお父さんじゃねぇ」
あの日から教えろだのと子供みたいに押し掛けてきては喚く星についてぶつくさ言っている一誠は、自宅の庭でダラダラとしていた。
最早一誠の『最盛期』を知る者はほぼ皆無だが、一応一部を知る紫苑達にしてみれば、その日その日をフラフラダラダラと生きている今の一誠に少しだけで良いから昔の姿を見せて欲しいと思う訳で。
例えば、一度だけ見せてくれたあの時の姿とか…。
「そうは言っても、少ししたら彼女は来るでしょうに?」
「チッ、まさかあの小娘に見られてたとはな……。
大体は化け物と近寄りもしなくなるってのに……」
「今の貴方は別の意味で隙だらけだからじゃない? それに、押しに結構弱いし」
「半殺しにでもして『二度と俺に近寄るな』と脅すって訳にもいかんだろう? 別に何もされてないし」
天気も良く、三人仲良く並んで縁側でお茶を飲みながら駄弁る光景は地味に微笑ましいものがある。
それは逆を言えば、今この世の中の治安がかなり悪くなっててもどうでも良いという意味もあるわけで。
「ほら、噂をすれば……」
「ほんとだ、来た。
星だけじゃないみたいだけど」
「……げ」
そういう気持ちを見抜かれているからこそ認められていないが、別に認められなくても結構だったりする一誠は、紫苑が指差した先にこちらへ向かって来る三人の人影に嫌そうな顔をする。
「本日も来ましたぞ!」
「来るのがはえーよ……。それに何でその二人も?」
「何でも主様に言っておきたい事があるとか。
愛紗は単に着いてきただけですがね」
「言っておきたいこと?」
ムスッとした顔でプイッと顔を逸らす愛紗とはこれまでも何の関わりも無いので、別にどんな態度を取られようがどうでも良いが、一刀がどうやら言いたいことがあるらしいというのは聞いておいた方が良いと思う一誠。
一応、彼が周りを宥めてくれているお陰で今の生活が維持できているので。
「おう、実は城の拡張工事をしてた時に、お湯が沸いたんだよ」
「ほん? 源泉でも引き当てたってか?」
「そうなんだよ。で、急遽そこを大浴場にしてしまおうって事にして、ちょっと前に完成したんだけど、良かったら兵藤も入らないか? やっぱり日本人だし風呂は好きだろ?」
「…………まあ」
別にそこまで好きではないが、風呂聞くとかつてリアスとしょっちゅうドラム缶風呂なんか入ってた事を思い出す一誠。
確かに入れるなら入ってはみたいが……。
「……いや、遠慮するわ」
「え、なんでだ?」
一誠は丁重にお断りすることにした。
別に一刀の後ろでずーっとむすくれてる愛紗とその他の自分に対して良い印象を持っちゃ居ないであろう大勢に遠慮をしたという訳ではない。
「良いじゃないの? 私も入ってみたいわ」
「りりもー!」
「は? なんだ、お前達はまだ入ってないのか? 北郷君の個人風呂」
「私は入りましたぞ。ご主人様が内装を全て考えたらしくて、中々良い入り心地でした」
「俺たちの時代の日本の温泉宿を参考にしたからな!」
てっきり紫苑辺りは既に入ってるとばかり思っていただけに、少し意外だった一誠だが、それでも遠慮はしたかった。
「いやでも何か嫌だな……」
「なんでだよ? 風呂嫌いなのか?」
「寧ろ入るのは好きだよ。
ただよ、キミは入ったんだろ?」
「? そりゃあな」
「…………一人でか?」
「は?」
「だから一人で入ったのか?」
きょとんとする一刀達。
どうやら言っている意味を掴めていないらしいので、仕方なくストレートにいうことにした。
「いやさ、キミの事だし、どうせ一人とかじゃなくて誰か女とかと入ってるんじゃねーの?」
「ぶっ!? そ、そんな事は――」
「…………」
「キミの横の子の反応で大体わかるから別に誤魔化さんで良いぞ」
「い、いや……は、ははは……!」
あからさまに顔が真っ赤になる愛紗のせいで秒でバレた一刀は誤魔化すように笑う。
「大体外から君達を見ていれば、何となく関係性もわかるよ。随分とモテるようだし」
「うっ……」
「別にそれについて言うことなんてないよ。互いに合意ならね。
世の中にはその意思を完全に無視する馬鹿が居た事を考えりゃあ、キミはまともだよ」
「お、おう……」
「だから良いわ。
だってキミも若いし、風呂でもヤッてんだろ? そんなヤッた後の、変な液体がブレンドされてるような風呂なんて流石にちょっと……」
「ば、馬鹿言うな! 毎日一応洗ってるっての!! それは流石に――」
「き、きき、貴様ァ! 我々を馬鹿にしているのか!?」
「してねーよ、精神衛生的な問題だっての……そうでなくても璃々の教育上よくねぇ」
「思いきり聞かれてるだろうがっ!!!」
憤怒真っ盛りの愛紗の今にも武器を振り回しかねん勢いも気にせずヘラヘラと笑う一誠はチラリと紫苑を見る。
「それにしても紫苑が入ってなかったのは意外だったな」
「どうしてよ?」
「いや、てっきりキミも北郷君としけこんでるのかと思ってたし」
「…………は?」
「俺からすりゃあキミもまだ普通に若いし、まだなら頼んでみても――ぶげがっ!?」
下ネタ好きのおっさんみたいな言動と化した一誠だったが、その言葉が悪すぎたせいか、横っ面を思いきり張り飛ばされた。
「あ、貴方って人は……!! 私をなんだと思っているのっ!?」
「な、なんだよ急に!? いでででで!?」
「このっ! このっ!! 鬼畜! 女泣かせ!!」
「泣かした覚えなんぞねーわ!!」
ばしばしと半泣きで馬乗りになってシバきまくる紫苑に、見たこともない姿なのもあって一刀達は唖然となり、璃々はやれやれと苦笑いだった。
「お、おい大丈夫か? あんな紫苑初めて見るけど……」
「だいじょーぶ、おとーさんの前だといつもああだもん」
「ぐぬぬ……やるな紫苑。
過ごしてきた月日の差か……」
「お前、あの男の何が良いんだ?」
こうして始まった喧嘩は30分は続いたのだという。
「いててて……マジでキレる程のものか?」
「多分、キレても仕方ないと思うぞ?」
「何でだよ?」
「だって兵藤とそういう関係なんだろ? なのに俺とどうのこうのってのは……」
「は、いや違うぞ? 俺別にあの子とんな関係じゃねぇし」
「は!?」
「なんだと……」
「は? いや待て待て、寧ろ驚かれてる事に驚きなんだけど?」
「いやいやいや! 一緒に住んでるのに!? 璃々からお父さん呼ばれてるのに!?」
「私はてっきり紫苑の稼ぎを宛にしてるだけの怠惰な男だと思っていたぞ」
「あ、だから……。
そりゃあ怠惰なのは否定しないし世話にもなっちまってはいるが、間違いなく違うぞ? そもそも俺には普通に好きな子が居るし」
「そ、そうなんだ? えっと、それは元の時代の……?」
「そうそう。ふっ、聞きたいか? どんな子か見たいか!?」
「え? あ、いや……。(なんだか急にテンションが……)」
違うと言われて普通に凹み始めている紫苑に気付いていないのか、自分の好きな相手について話し始めた途端、妙に子供っぽくなる一誠。
そんな一誠は驚いた事に、懐からなんと『スマートフォンタイプの携帯端末』を取り出した。
「なんだそれは?」
「小さな箱……?」
当然愛紗と星はその端末を小さな箱と思うが、一刀は驚いた。
「け、携帯なんか持ってたのかよ!? え、でも使えないだろ?」
「「携帯?」」
「まぁ、電波は通ってないが、この端末は充電が特殊だから実質的に電池切れが起きないんだよ。
だからこうやって起動自体は可能なんだ」
「うぉっ!? ま、マジかよ!?」
頭にいくつもの?を浮かべる初見の愛紗と星をほったらかしにして、一人久々に見る自身の時代の物にテンションが上がる一刀は、ささっと操作する一誠から見せられる写真に絶句することになる。
「こ、これは……」
「な、なんと……」
「あ、主様と……誰だ?」
照れたように笑う一誠と、その一誠に寄り添う赤髪の美しい少女。
「俺が今でも好きな子さ。名はリアス……」
「外国の子か……?」
「あー……まあね。でもこれでわかったろ? 俺はあの子とそんな関係じゃないよ」
「それはわかったけど………」
「お、おい紫苑は知っているのか? 主様にあのような者が居たことに?」
「………大分前から知っていましたわ。
ええ、あの人に何をしようとしても、あの人の心にはずっと彼女しか居ない事も……」
「そう、なのか……」
「だからりりも少し寂しいんだ……」
「向こうは凄い暗い事になってしまってるのだが……」
「さてね、俺は最初から言ってた事だし、そもそも気のせいだろう?」
「……………別の意味で最低だな貴様は」
「なんで!?」
リアスという最強最大の壁はとてつもなき難関なのである。
終わり
リアスという最強の壁を知る。
いや、リアスを永遠に失ったからこそ彼の心は永遠に変わらないのかもしれない。
しかし……それでも。
「アナタが今も昔も変わっていないのは百も承知だわ。
それでも……先を歩くアナタに追い付きたいと思うのはダメなの?」
「主様は言っていましたな? これから先も俺だけは老いる事もなく、死ぬこともできないと。
だが私は貴方様を真の主と見定めた。それなら貴方様が朽ち果てるまで貴方様のお側に居なければ配下ではない……!」
全てを失い、迷子になり続ける彼の先を見たい。
例え自分達がリアスの代わりにはなれずとも……。
「ぐっ!?」
「く、くくくっ!! グハハハハァ!! ザマァ見ろ!!
あの時テメー等さえ居なければ、俺は俺の転生生活を満喫できたんだ!! だからただでは殺さねぇ! リアス達が居ないとわかった今、テメー一人なら簡単に殺せる!!」
彼自身の過去が再び現れたとしても。
「おいおい? 散々俺を非難してた分際で、テメーだって女に囲まれてるじゃねーか? それでよく俺を非難できたなぁ?」
「………」
「ふざけるなよ! 貴様に主様がわかってたまるか!!」
「大体この人はどこまで言ってもリアスさんしか見えてないのですわ!! こっちが何をしても平気な顔して突っぱねるし!」
「そーだそーだ! その苦労が貴様なんぞにわかってたまるか!!」
「はん、どっちにしろ同じだ。
なぁに心配すんな。コイツを殺したらコイツに関する記憶は全部忘れさせてやるよ? そうすりゃあお前等も俺に―――」
「一誠が言ってた通りだな……最低だぜ」
「はん、何の力も持たず、単なる知識だけで成り上がる苦労知らずの主人公野郎は黙ってろよ? お前もすぐ殺してやる」
いや、過去を完全に終わらせなければならない時が来たからこそ……。
(リアス……ドライグ……皆。
璃々との約束……うざいくらい構ってきた紫苑達の未来の為に……! 最後の赤龍帝としての誇り……!!
俺の全て……!!)
「捨てて………たまるかぁぁぁっ!!!」
失われし灼熱の
そして……。
「喰らうが良い下郎!! これが主様直伝――龍拳・爆撃だっ!!!」
「璃々!」
「うん、わかってるよおかーさん!!」
「「ドラゴン波!!!」」
「先に地獄で待ってろや………!」
「よ、よせ! 俺はただ自由に生きたいだけ――」
「地獄でやってな―――ウルトラ・ビッグバンドラゴン波ァァァァッ!!!」
嘘だよ。
「へへへ……リアスちゃぁん……むにゃむにゃ」
「あれほどの力を使いきって寝てるだけとはな……流石は主様だが」
「ふ、複雑だわ……私をリアスさんと間違えてるなんて……」
「おとーさんらしいけどねー?」
「むにゃむにゃ……リアスちゃん……」
「私はリアスではありませんよ……! もう……なんですか?」
「……………………………あれ、リアスちゃん太った?」
「……………………………………」
「ね、寝惚けてるだけだからな? なっ?」
「おちついてよおかーさん……」
嘘だっての
補足
なんてこったい! 色々な意味で