ここが過去の中国的な世界なのはなんとなく分かった。
だが俺は圧倒的に『学』が無く、学歴に至っては幼稚園中退だ。
小中高と通った試しは無く、その間は全て復讐の為の潜伏と鍛練に費やしてきたからな。
だから、過去の偉人の名前を聞いてもあまりピンとは来ない。
天の御使いという名の学生君は当初歴史の偉人と同じ名前の女を見て驚いたようだけど……。
まあよく考えたら昔のアジア大陸の人間の髪の色がああもカラフルな訳もない訳で。
どちらにしても、ここが変な過去の世界であろうが無かろうが、俺のやることは特に無いと思っている。
理想とやらを掲げてどこぞの人間同士で殺し合いをしてようが、俺には関係のないことなんだ。
第一、俺が出たら色々と余計におかしな事になりかねない訳だし……。
なにより、生きてる意味を完璧に見失ってしまったのだから。
とはいえ、借りがある相手が働いているのに自分は何もしないってのは、彼女の子供の教育的にもよろしくないとは思うので、雑用の仕事なんかしてみたりはするんだけどよ……。
それと、その内二人の前から消える前にあの親子にはこの先を生き残れる程度の『自衛手段』を教えておいたりとか……。
で、ふと思うんだよね……。
『俺って一体何をしてるんだろうか……』
ってな。
ああ、誰か俺を終わらせてくれないかなぁ……。
孤独となった青年が、摩訶不思議な過去の世界に来てからそこそこの年月が流れている。
相変わらず彼は全てに対してのやる気が消え失せていて、死んだ魚のような目をしている。
借りのある親子が領地を受領した劉備一派に合流して遣える事になっても基本的になにも変わらない。
「なぁ、兵藤は何かできるのか?」
「暫く見て貰った通りだよ。
キミみたいにこの時代の歴史に詳しいって訳じゃない」
同じ未来から来た者同士という意味で何かと気にしてくれる天の御使いこと北郷一刀はそんな一誠の在り方に対して特に非難はしないのだが、彼の取り巻き達は一誠の事を、黄忠こと紫苑は働いているのに、自分は何もせずフラフラとしているだけの男と見なしているらしいが、それでも変わる気はなかった。
「そう、か。
その……最近皆が兵藤の事を色々言うからさ……。
俺は別に今のままで良いと思ってるんだ。だってよ、訳もわからずこの世界に来て帰れるかもわからないし、死ぬかもしれないんだし……」
「でもキミはちゃんと生きてるじゃないか。俺と違ってさ……」
「偶々三国志の知識を持ってただけであって、本質的には変わらないよ。
本音を言えば、俺も一杯一杯で……」
そんな彼女達の不満を一刀は宥める。
それは、一誠だけには同じ境遇だからこそ持つ悩みを打ち明けられるからというのもあるし、実の所一誠が全く働いてない訳ではない事をちゃんと把握しているからなのだ。
「それに皆には兵藤だって自分でできることをしてる言ってるのに信じてくれないし……」
「まぁ、端から見りゃああの子の紐ニートにしか見えんだろうしなぁ。
仕方ないだろ……」
「でも璃々の面倒を見たり、ウチの兵士達の下で雑用仕事をしてるのにそれは無いだろ……」
「いーんだよ。あの子の紐ニートになってるのは紛れもない事実さ」
見た目は自分と変わらない年の男なのに、話をしてみると二回りは年上のような答えが返ってきたりもする一誠は、今現在の一刀にとっては色々な意味で重要だった。
「あの子ってもしかしなくても紫苑の事、だよな? 何時も思うけど、兵藤ってまるで紫苑よりも年上だと言わんばかりの態度で接するよな?」
「だって事実だしな……。キミ達は信じてくれねーけど」
「いやだって、118歳ってのは流石に信じられないし……」
「普通の人間からしたらそう思うか……」
出来れば本当の意味での仲間になってすら貰いたい。
そんな事を思うからこそ、一刀は同じ一の字を名に持つ、自称118歳の一誠とこの世界に来てから出来た仲間達の間を取り持とうとする。
「これから俺も一緒になって訓練をするんだけど、兵藤もどうだ?」
「邪魔になるだけだろうし……」
「良いって良いって! 俺も皆に比べたら全然弱いし!」
「………」
何故、こんな自分の殻に綴じ込もって酔っぱらってるだけの面倒な存在をそこまで気にかけてくれるのか……。
かつての仲間やリアスといった者達以外からは嫌悪され続けてきた一誠にはわからなかった。
天の御使いという名の青年が新たな主となってからは、この地もそれなりに活気づいてきた……。
その事自体には満足だったりする黄忠こと紫苑なのだが、新たに仲間となった一刀の配下とされる者達からの一誠への印象が結構悪いという事だけは気になってはいた。
確かに彼は基本的に全く働くことをしない。
それは彼が生きる意味を完全に見失っているからに他ならない……という真実を自分と娘の璃々だけが知っている現状、周りに理解されないのは承知していた。
だがしかし、どう考えてもやはり一誠はそれだけが理由ではなく嫌われ過ぎている気がしてならない。
それこそまるで、この世界に拒絶されているかのような……。
「むむ、ご主人様はまだなのか? 今日は大事な全体訓練だというのに……」
「少し用事があるってさっき外に出たのだ」
「まあまあ、約束を破るような御仁ではないのだし、待ってやろうではないか」
個性的ながらも確かな武の腕を持つ一刀の配下達が、参加する筈の主はまだかと待ち構えている。
彼と劉備というまだ垢抜け切っていない女性を中心に構成された軍は確かな実力者ばかりが集ってはいる。
だが、その殆どの者は一誠に対する心象がよろしくはない。
正直言って紫苑からすれば仲良くなられても困ると言えば困るし、一誠本人は一切気にも止めてないので現状のままでいいと言えば良いのだが、かつて『燃え滾る
まあ、それで急に掌を返されても嫌だけど。
そんな事をぼんやり考えながら、全体訓練の時を待っていた紫苑はハッと我に返った。
何故なら劉備や関羽といった者達が待っていた『ご主人様』が、嬉しそうに笑っている我が娘を肩車しながら渋い顔をしている彼と共にやって来たのだから。
「すまんすまん! 折角だからと兵藤にも来て貰ったんだ!」
『…………』
その瞬間、どんな朴念仁でも一撃で察してしまう程度には彼の出現により訓練場の温度が下がった。
「うっわ、アウェイ感が満載だねこれは……」
「い、いやいや! 兵藤が来てくれたから皆びっくりしてるだけだって! なっ!?」
『……………』
「おとーさん、あうぇいってなーに?」
「そうだな……場違いって意味だな」
「ふーん?」
何人かが明らかに歓迎しかねるような顔をしてしまっているせいか、一刀が慌ててフォローに入る。
もっとも、本人は全く気にせず璃々にアウェイの意味を教えつつその場に下ろしてあげる。
「それで? 俺はどうすれば?」
「えっと、とりあえず皆と一通りの訓練に参加してくれたらなぁ……」
「……キミにわざわざ来て貰って頭まで下げられた以上は別に構わないけど、本当に素人だぞ? いいのか? 団体行動とか終わってるくらいダメだぞ?」
「だ、大丈夫大丈夫! なっ!?」
『……………』
甘える璃々と手を繋ぐ一誠に一刀はなんとか仲間達の了承を取ろうと必死だった。
結局、変な空気のまま全体訓練は始まる事になり、一誠は参加すると言い出した璃々と共に紫苑の隣で訓練を開始するのだった。
この世界に来てしまったからには、自衛の手段は持った方が良い。
そう考えた一刀はなんとかして一誠を引っ張り出すことに成功した。
後は、一誠に対して『何故か』歓迎できない的なオーラを出す仲間達と仲を深めて貰えたら……そう思いながら、自分は関羽こと愛紗の横で訓練を行いつつ、隅っこの方で璃々と紫苑とで訓練をしている一誠を見る。
「アナタが璃々と来たことに驚いてしまったわ……どうして?」
「いや、彼がどうしてもってよ……」
「同じ場所から来たから仲良くなりたいんだってさ?」
「なるほどね……」
ぎこちない動きで木の棒を振るう一誠。
なんというか、確かにこうして見るとまるでひとつの家族にも見えなくもない。
「ご主人様、何故彼を?」
「だってアイツだって俺と同じなんだぞ? 知識は無いかもしれないけど、それでも俺にとっては同じ境遇の仲間だ」
「ですが彼はまったく何もしません」
「それを言ったら俺だって何もできちゃいない。
偶々大まかな『知識』があって、それに沿って動いただけの事だ」
「ご主人様はそう仰いますが、訓練にだってきちんと参加をされています。
それに武の腕も上がってらっしゃる」
「なあ、何でそんなに邪険に思うんだよ? アイツだってアイツなりに出来ることをちゃんとしてるんだぞ? 頼むからそんな事を言わないでくれよ?」
「………」
不可思議な程に一誠を毛嫌いする仲間達を、一刀は説得する。
そんな微妙にぎこちない空気のまま訓練は続いていき、お次は一対一の模擬戦となる。
「基本的に総当たりだ」
そう説明する一刀に、武官達は木で作った獲物を握り締める後ろで、一誠は微妙に迷う。
「さてと、どうするか……適当な所で負けましたとでも言うか」
「流石に『本気』を出したら殺しかねませんからね……それが良いでしょう」
「心配せんでも本気なんて出せないよもう。
それよりキミはどうなんだ? 確か弓矢だろ?」
「ふふ、璃々と共にアナタに少しは鍛えられた事を忘れちゃ困るわよ? 弓矢が無くとも戦えるわ」
「璃々もー!」
笑うとよーく似ている紫苑と璃々の言葉に、一誠は苦笑いを浮かべる。
「そうだったは……はは」
紫苑はともかく、璃々まで参加する気らしい。
ある程度今居るメンツを見たところ、まあ、ある程度はやれるだろう……。
と、確か関羽だったかが趙雲だったかの持つ獲物によって武器を弾き飛ばされて勝負が決する光景を眺める。
「ふっ、今回は私の勝ちだな」
「っ、また腕を上げたか……!」
そういえばよく仲間の一人にて宿敵の運命同士でもあった白龍皇のヴァーリとはああして互いを高めあってたっけな……と、二人のやり取りを少しセンチな気分で眺めている一誠は、不意に趙雲とよばれる女性の赤い瞳と目が合った。
「勝てば次の模擬戦の相手を指名可能でしたねご主人様?」
「おう、じゃあ星は誰を指名する?」
なんか嫌な予感が……。
そう思う間も無く、急にニヤリと笑った趙雲はビシッと然り気無く紫苑の背中に隠れようとした一誠に指を差した。
「あそこに居る兵藤……彼と試合をさせて頂きたい」
『……!』
趙雲からの名指しの指名に場は軽く騒然となった。
「お、おいおい星?」
これには流石の一刀も止めようとしたが、趙雲は言う。
「なに、心配されるな。
別に私は彼に対して悪感情はござらぬ。
それにこうして腕を確かめ合う事で彼の人と為りを知ることは可能ですぞ?」
「だが兵藤は……」
「心配ご無用。ちゃんと手加減はします故……」
「う、うぅん……なら良いが、えーっと行けるか兵藤? 兵藤……?」
不敵な笑みを溢す趙雲に圧され、仕方なく一誠に声をかけようと視線を向けた一刀だったが、その一誠はといえば紫苑の背中にこそこそと隠れている最中だった。
「今更隠れても無駄よ。ほら……」
「そーだよ、おとーさんなら大丈夫だって」
「…………」
地味に情けのない絵面だったが、二人に背中を押されて渋々場に出る一誠。
「………はぁ」
「お、おい大丈夫か? 無理しなくても……」
「いや、こうなった以上はやれるだけやりますよ……はぁ」
妙にわくわくした顔の趙雲を前に脱力しきった佇まいのまま深々とため息を吐く。
仕方ない、適当に付き合って適当な所で降参して終わりだ。
と、どこまでもやる気ゼロのまま、訓練の際に渡された棒を持って構える。
「では……始め!」
「ふっ……!!」
号令と同時に地を蹴り出した趙雲が間合いを詰め、打ち込んでくる。
「……………」
「ほう……!?」
それに対して一誠は、力負けをしつつもなんとか受け止めてます的にガードする。
「……………」
「はい! はいっ!! はいっ!!!」
受け止められた事に驚きつつも、何故かどことなく歓喜の表情の趙雲は、そのまま一誠を力で押し飛ばすと、鋭い突きを三度放つ。
「……全然やる気がないね、おとーさん」
「そうねぇ……困った人だわ」
そんな一誠の絶対的なやる気の無さを見た親子が呆れた顔をしていることに誰も気づかない。
「そらっ!」
「……ぐ」
他の者は圧倒的な差があると思っているらしく、趙雲の一撃が肩に当たって苦悶の表情の一誠に対して『やはりこの程度か……』と思う。
「………参りまし―――」
そして一誠も一誠でさっさと終わらせたかったので、適当な所で持ってた棒を弾き飛ばして貰うと、そのまま頭を下げで降参しようとしたその時だった。
「私を見くびっているのか?」
「…………は?」
それまで少し楽しげな顔であった趙雲が、降参を告げる一誠の言葉に被せるように獲物の先を向け、鋭い目を向けた。
「なんの事――」
「お主は先程から全く本気ではないだろう? 訓練と時もそうだったが、わざと素人みたいな動き方をしているのは解っているぞ」
「は? ちょっと待て星……一体何を――」
「私は知っているぞ兵藤よ。
お主が『素人ではない』事を……な!」
「…………」
隙を見せたつもりは無かったというのに、見抜かれた事にほんの僅かに表情が強張った一誠。
一誠だけではなく、紫苑と璃々もまた趙雲が見抜いている事に驚いた。
何故なら、趙雲以外の武官達ですら見抜けていなかったのだから……。
「だからこのお遊びは辞めにして、本気で――いや、本来のお主と手合わせ願おうかっ!!」
「本来の……? さっきから何を言ってるんだ星!?」
持っていた木製の模擬武器をその場に捨て、壁に立て掛けてあった自身の獲物を持ち出して来た趙雲に、慌てて一刀が止めようとする。
「……………」
そんな状況の最中、一誠は切っ先を向けられているというのに平然とした顔で、紫苑と璃々を見る。
おい、どうするよ? といった意味で。
「予想外ではあるけど、良いんじゃないかしら?」
「うん、りりはおとーさんのかっこいい所見たい」
いい加減周りから単なる紐の無能呼ばわりされるのに我慢ならなかった親子は解禁を許可するので、再び一誠は獲物を前にした獣のような鋭さを帯びた赤い目をした女を見る。
どうやらこのままのらりくらりで誤魔化せそうではない。
仕方ない……。
「はぁ……」
流石に本気でやる訳にはいかないが、ある程度思い知らせてやるしかない……。
出来れば二度と俺に関わりたくないと思わせる程度には……。
そう判断した一誠は、ため息をひとつ吐きつつ初めて目の前の女性に尋ねた。
「先に聞くぞ小娘。
何時から気づいていた?」
そう、紫苑と璃々の世話になってからは一度しか本気を解放したことがなかった。
しかも目撃者が居ない所でだ。
なのにどうして彼女は知っているのか、それだけは把握しなければならないと尋ねる一誠に、近い年代――それこそ一刀と同年代だろう青年から小娘呼ばわりされた事に少々面を喰らいつつも趙雲は不敵に笑う。
「最初にお主を見た時からだ」
「は?」
「ああ、説明が足りないな。
詳しく言えば、お主が眩い光と共にこの地に現れた時からだ」
「……………なんだと?」
眩い光と共にこの地に現れた時から。
その言葉に一誠は今度こそ驚いた。
自分は完全に紫苑と璃々に起こされて意識を戻すまで知らなかった事を彼女は知っていた――いや、それどころか自分がこの場所に来た時の事を見ていた。
「あの時は私も各地を放浪していた時期だった。
その時期に入った山の中で不思議な光と共にお主が落てきたのをこの目で見させて貰ったのだ。
もっとも、その直後にそこの紫苑と璃々が先にお主に近寄って連れていってしまったのだがな……」
「「…………」」
「そしてその後暫くしてからお主を見た時……お主の力を見た。
だから私は知っているのだ。お主が今全く本気ではないことをな……!」
騒然となる場を前に趙雲は言った。
つまり、彼女は紫苑と璃々が偶々発見する直前に彼を発見していたのだ。
そればかりか、一誠の持つ異質な力をも……。
「さぁ、理由は話したぞ! だから本気を出せ!!」
「……………」
なるほど……めんどうな。
一誠はそう毒づきつつも、理由を話された以上は対応しなければならないと納得した。
「先に言うが、引くなよ?」
「?」
仕方ない、そこまで知りたいのなら見せてやる。
そう心の中で呟いた一誠は、首を傾げた趙雲や仲間達の目の前で初めて……。
「俺、普通じゃねぇからよ?」
ほんの一欠片だけ解放する。
『っ!?』
猛禽類を思わせる瞳となり、赤く妖しく輝くオーラを放つ。
その圧力は周囲の者達を膝づかせる程度のものであり、目の前でその圧を浴びた趙雲は絶句する。
「ふ、ふふふっ! それが本当のお主かっ! やっと……やっとだ!」
しかしそれ以上に彼女の感情は歓喜に塗りつぶされた。
手の届かぬ遥か彼方の存在に……そしてそれ故に気づく可能性に。
「ハァァァッ!!!」
全身の筋力を総動員させ、趙雲は一誠に挑む。
人の様で人ではない。
本当の意味で遥か彼方の天から落ちてきた男と力を堪能する為に……。
「うっ!?」
しかしその渾身の一撃は、斬る覚悟を込めた一撃はあっさりと。
まるで幼子が親を全力で叩いても通じないかのように掴み取られた。
掴まれた獲物を引き寄せられ、趙雲の身体は一誠の目の前に……。
「暫く跡になんぞ?」
それだけを言った一誠は、趙雲の額を軽く……本当に手加減して指で軽く弾いた。
「ぎゃん!?」
バチン! という音と共に趙雲の身体は乱回転をしながら吹き飛び、訓練場の壁を破壊しながらしこたま打ち付けられ、立ち上がる事はなかった。
『…………』
「あーぁ……なにしてんだろ俺」
「一応死んではないようだし、これで良かったと思うわよ?」
「うん、おとーさんは強いんだってわかって貰えたしね?」
目を回しながら気絶する趙雲を前に何度目になるかわからないため息を吐く。
結局自分ができることは、力で黙らせて生き残るというやり方しかないのだと……。
終わり
あっという間に一誠が単なる紐ニート予備軍ではなかったと知られた――までは良かったが、逆にその異質なパワーに怯える者が現れたとか……。
それでも一刀は変わらないし、一誠に力があっても無理矢理戦わせようとはしなかった。
曰く『紫苑と璃々の為に戦ってくれるだけでも、俺達の利になるぜ』と。
そして一撃で失神させられた趙雲はといえば……。
「…………」
「今日こそ、今日こそアナタに遣えさせてください!!」
「…………………………………………」
圧倒的なパワーに寧ろ心酔してしまったらしく、ここ最近毎日家に押し掛けては配下にしてくれとうるさかった。
「何度言われようが無理なもんは無理だ。
そもそもキミは北郷君と劉備って子の配下だろう?」
「ご主人様と桃香殿は、貴方に遣えても立場は変わらないと仰っておりました! 寧ろ貴方様が本当の意味で仲間となって貰えるとも……!」
「……………」
押しても投げても引きもしない趙雲に、一誠は心底困った顔で、妙に微笑みながら見ていた紫苑に助けを求める視線を向ける。
「星さん? ウチの人が困っていますし、少し控えて頂けるかしら?」
「なに? ウチの人だと? ………あの、常々疑問だったのですが、貴方様は紫苑とそういう関係なのですか?」
「そうです―――「違う、借りがある相手なだけだ」――もう!」
「借り? つまりそういう関係ではないと? では別に紫苑の許可は要らないと?」
「まあ……って、何で俺が了承をしている体なんだよ」
めんどくせぇ、死ぬほどめんどくせぇ。死ねないけど……。
何故か紫苑と趙雲がバチバチになっている間に苦笑いをする璃々を膝に乗せて頭を撫でながら座る一誠は、このまま500年は寝たいと思うのだった。
「ほらアナタ? 彼女にもそろそろ帰って貰って、いつもの通り三人一緒に寝ましょう?」
「ぬ!?」
「捏造するな。俺は他の女とは寝ねぇよ」
「ふっ、嘘はよくないなァ? ところで、私の真名を是非貴方様に呼んで頂きたいのですが……」
「ちょっ、ベタベタすんなよ……もーめんどくせー!」
赤き龍の系譜……?
終了
補足
シリーズ的に割りと不遇その2さんにも軽くスポット。
どうやら一番最初の発見者にて、紙一重で接触しそこねた模様。
その2
デコピン(本気)の場合、首から上が消し飛んでた模様。
その3
『何故』か嫌われている。
というか、マイナスよろしくに嫌われている