誰でも無い。
誰にもなりたくもなくない。
何の為に生きているのか。
誰の為に生きているのか。
その全てがわからなくなった。
かつてはあった筈の燃えたぎるような気持ちをも失い、残ったものはただの燃えカス。
不様に、虚しく、それでも尚みっともなく生き続けているだけの―――
何の為に生き続けているのか。
自分で自分を終わらせられる事もできなくなってしまった青年にとってかつては希望と夢を抱いて生きたこの世は地獄に戻ってしまった。
共に生きて戦い続けた相棒も失い。
肩を並べた同志も失い。
愛した女をも喪った。
それなのに自分だけはこうして醜く生きている。
取り戻す為の戦いを制した男が受けた代償と末路は、永遠の喪失という虚しきものであった。
そんな――燃え尽きてしまって躁鬱状態でも生き続けてきた青年がこの世から消えた時……。
「どこから来たのかと言われても、そこの所なんだが俺にもよくわからないんだよね……。
ずーっと暫く寝ていて、起きたらこうなってたって感じだし。
逆に聞きたいけど、ここは何処でキミは誰なんだ?」
黒く、深い――闇の底へと堕ちた青年の心に一筋の光が射す最後の戦いが始まるのかもしれない。
文字通り、彼が大きな轟音と共に空から堕ちて来た時からなにかが始まったのかもしれない。
常に苦しんでいるような暗い眼をした男性。
不可思議で、聞きなれない言葉を使う不思議な人。
そんな彼と出会った事で、私達は彼の生きた世界を――どんな生き方をして来たのかを少しずつ知っていく事になる。
混沌とした世を、それでも希望を抱いて生きようとするその姿を。
同じ希望を持つ者同士で世の流れに抗いながら笑って生きるその姿を。
惚れた赤い髪の美しい女性の為に命を燃やし続けた姿を。
世が混沌となった原因となった者との最後の戦いを制した事で余りにも多くのものを失い――自身は死にたくても死ねなくなってしまった事を。
燃えたぎるような熱い心は燃え尽きて灰となり、永い時をずっと老いることなく生き続けなければならなくなってしまったという地獄の日々を。
そして、決して癒える事のない喪失感を持ち続けたまま、この地へと迷い込んだ事を。
きっとこれは天よりもさらに高い、我等では想像の及ばない誰かが与えた『運命』だったのかもしれない。
ここより遥か先の未来で生まれ、失い、戦い、世に知られる事のない英雄の一人である彼がこの地へ迷い込んだ事も。
『今更言えた事でも無いけど、俺はキミ達に確かに借りがあったよ。
鬱陶しかったし、俺の事なんぞさっさと見捨てちまえば良かったのにとすら思ったけど、それでもキミ達は……。
いくらこうなっちまっても、目の前で俺が知ってる女や子供が死ぬのは見たくはないんだ……。
だから見せてやる――
そして私達と出会った事も……。
―――――――――――ファイナル・ビッグバンドラゴ波ァァァァッ!!!!』
全てを取り戻したが、全てを喪った青年。
勝利の喜び以上にそれまで抱えたかけがえのない全てを喪った事の方が辛いと思い知ってから100年余り。
そんな青年が不可思議な世界に迷い込んだのは偶然だったのか……。
彼は酷い躁鬱となり、全てにおいてやる気を失っていた。
かつて愛した女の為に燃やし続けた情熱も、それによる永久の進化も無い。
しかしそれでも死ぬことが出来ない。
そんな彼にこの世界の状勢を知った所で腰を上げるなんて事はしなかった。
しかし、そんな彼でも女子供といった弱者が蹂躙され、奪われる光景だけは見たくはなかった。
今更自分を正義の味方だなんて思ってもいないし、どこまで行ってもただの復讐者だ。
だけど弱者が奪われる光景は、かつての自分や愛した女が受けたものを思い出す。
だから青年は、この世界で起きて最初に世話になった母子の為に、最早振るうつもりもなかった力を解放した。
生まれた時から自身に宿り、自分に力の全てを置いて逝ってしまった龍の力と、永久進化の異常の力を使って。
この世界では真の意味でオーバーキルにて、化け物と揶揄されるその力を。
その後、青年は自分の力を目にしても怯える事がなかった子供と、その母の身に危険が迫る時だけ力を振るう事になる。
時には『自衛の手段』として母と子自身に自分達流の戦い方も教えたりもした。
その日々の最中、力だけを残して消えてしまった相棒の悪戯なのか、その親子に自分の過去を知られてしまったりもして、少しだけ気まずい事にもなった。
されど親子はそれでも変わることはせず、自分を一人の人間として接してくれた。
思えばこの時は久しくなかった『人間らしい自分』に少しだけ戻れたのかもしれない。
この世界の状勢が怪しいものへとなっても。
そしてこの世界においてかねがね噂になっていた『ある存在』を知った時から…………青年は少しずつ灰となっていった心の炎を再び燃やし始めていくのかもしれない。
「ほ、本当に俺と同じで、未来から来たのか……?」
「…………。キミより大分前から」
「そうなのか!?」
「その理由は俺にもわからないんだ」
もっとも、対面してみたらあまりにも普通の――少し女性と縁がありすぎる青年だったわけだが。
「年は? 見たところ俺とそんなに変わらないと思うけど……」
「信じなくても良いけど、これでもキミの10倍は永く生きてる身さ」
「またまたぁ! 今の冗談は結構面白いぜ?」
「………………」
半人半龍へと成り果てた青年の行き着く先はまだわからない。
ただ、同じく未来から偶発的にやって来て、世間からは天の御使いなんて呼ばれ、仲間と思われる女性等からはご主人様なんて呼ばれている青年の生きる未来と、自分の生きた未来は少し違うのかもしれないと、後になって知ることになるが、彼は変わらない。
借りがある親子が天の御使いと呼ばれる彼の集めた軍に加入する流れで、自分も一応そこに所属する事になっても、彼はあくまでも親子への危険が迫った時のみ動く。
「悪いけど、俺はキミ達の掲げるご立派な目的に対してなにも思えないんだ。
俺はあくまであの二人に借りを返す為にやっているだけだしね」
その事をハッキリさせすぎたせいで、理解をしてくれた天の御使いの青年以外の彼の仲間達から白い目で見られることもあったけど、親子がかばってもくれた。
そんな複雑な関係性をなんとか保ちながら――燃え尽きた青年は過去という名の今を生きるのだ。
「ねーねー、おとーさん」
「あのな、何度も言うけど俺はお前の親父じゃないんだっての」
「でもおかーさんが呼んでも良いって言ってたよ?」
「はぁ……また妙な事を」
この世が三国志を模した妙な世界であることをあまり知らないまま今日を生きる青年。
そんな彼は天の御使いとしてこの世界を生きなければならない少年がなんとかして作り上げた軍と領地の末端兵隊として住まわせて貰っている。
流れに流されるままフラフラと生きていた結果といえばそれまでだが、ここ最近彼は少しだけ悩みがあった。
それは今あった会話のやり取りの通り、この世界にて最初に出会し、そして借りを作ってしまった親子の子と方から何故か父呼ばわりされ始めていたのだ。
当たり前だが、父とよばれるような事をこの子供の母親――今所属する軍の幹部的な位置になっている彼女としたことなんて欠片もない。
そもそももう二度と永遠に会えないとはいえ、それでも永遠の愛を誓い合った者が居るのだ。
そりゃあ、子を持つ年齢である彼女を生きた年数的な意味もあって年下扱いをし続けたりはしたものの、別にだからといって何があったなんて事は断じてない。
「イッセーの事をおとーさんだって皆に言うと、皆納得してくれるよ?」
「ナチュラルに外堀を埋めてくるとは、きっと将来大物になれるぞ璃々は……」
「えへへ♪」
が、基本的に愛した女性の兄の娘であった少女との経験もあるのと、潜在的に子供に好かれやすいというのもあってか、璃々と呼ぶこの少女からはかなり懐かれているし、あまり非情にもなれない。
だからついナチュラルに外堀を埋めてくる璃々の頭を優しく撫でてやると、嬉しそうにはにかんでいる。
(もしあの時全員で生き残れていたら、俺とリアスちゃんの間に子供とかデキてたのかな……)
そんな璃々を見ていると、過去における『もしも』を考えてしまい、少し複雑な気持ちにもなってしまう。
「……? どうしたの? どこか痛いの?」
「ん、なんでもない。
ほら、乗るか?」
「うん……!」
そんな一誠の表情から幼いながらに何かを察知した璃々は不安そうな眼差しを向けるので、誤魔化すように一誠は璃々を膝に乗せ、天の御使いとよばれる少年によって用意して貰った、若干日本の田舎にでも建ってそうなテイストの自宅の縁側で日向ぼっこをする。
「えへへ、おとーさんって優しい匂いがして璃々すきー……」
「それよく言うけど、よくわからんのだが……」
「ほんとだよ? おかーさんも好きって言ってたもん。あんしんするって」
「………」
『一誠とこうして眠ると落ち着けるわ……』
かつて愛した悪魔の女の子から言われた事を璃々の言葉で思い出してしまった一誠は、ズキリと心の奥を痛める。
(なぁ義兄貴――いや、サーゼクスさん。
アンタは言ってた。『僕達に明日は無い。だけど未来を夢見る事はできる』って……。
けれどよ、たった一人生き残っちまった俺はこうして今を生きても、未来は遠くなったよ)
そして本当ならば義理の兄となる筈であった悪魔の少女の兄から送られた言葉も思い出す。
(アンタもリアスちゃんもミリキャスも――仲間の皆も全部失っても尚死ねない俺にはもう何も残ってないぜ? 未来を夢見るなんて事も、恨みも後悔さえも……。
そして夜となるといつもそうだ。
心の奥の見えない傷が俺の全身を這い回るように痛む……俺の心を蝕むように)
心は既に死人も同然となった男の今。
生きる実感が沸かない、ただ死んでいないだけの無意味な生。
自由を勝ち取る為に自分の意思で戦ってきた頃の情熱は最早そこには無かった。
(俺はこれからどうなるんだろうな?)
借りがある親子の為にほんの少しだけ燃えた心はある。
だがその炎もいつまで続くかはわからない。
何故ならこの親子は確実に自分より遥かに早く居なくなるのだから……。
「あ、おかーさん!」
「ただいま璃々。ふふ、楽しそうね?」
「うん! おとーさんと遊んでた!」
「そう……」
「……………この子に何を吹き込んだんだキミは?」
「はて? 私は父親がなぜ居ないのかと聞かれたのでこの子の事を考えた結果、最良の結論を導きだしたまでですが?」
「……」
帰宅してきた璃々の母である女性の惚けたような言い方に一誠は二重の意味でため息を吐くのであった。
生きる屍(兵藤一誠)
チームD×G、または赤き龍の系譜カテゴリの気力+4,HP,ATK,DEF,220%UP
パッシブスキル『実感を失いし生』
自身のATK,DEF100%UP
受けるダメージ20%減
条件を満たすとどちらかに変化する。
必殺技・ぶん投げる
1ターンATK.DEFが上昇し、敵に大ダメージを与える
アクティブスキル『燃えたぎる無神臓』
チームD×Gカテゴリのメンバーが居る時のみ発動可能。
効果・異常性が全開化する
最終最後の赤龍帝(一誠)
パッシブスキル『自由の為の無神臓』
自身のATK.DEF300%UP
攻撃をする度に気力+1(最大8)
必ず4回攻撃を行い、二回目必ず必殺技に変化し、三回目以降は超高確率で必殺技に変化し、超必殺技発動で必ず会心となり、そのターンは全て会心が発動
攻撃をする度にATKが3%UPし、受ける度にDEFが3%UP(無限)
登場から10ターン、敵の必殺技を見切り、超高確率で無効化し、超絶特大ダメージを与える。
攻撃参加メンバーに『リアス・グレモリー』が居る場合ダメージを40%カット
必殺技・龍拳爆撃
ATK.DEFが大幅上昇し、敵に超極大ダメージを与える
超必殺技・超絶ドラゴン波
ATK.DEFが超大幅上昇し、敵に超絶極大ダメージを与える
アクティブスキル・『ファイナル・ビッグバン・ドラゴン波』
登場から3ターン目以降に2回発動可能
一時的にATK.DEFを超大幅上昇させ、敵全体に究極ダメージを与える。
バトル終了までATK.DEFを更に150%UP
アクティブその2『復活の無神臓』
赤き龍の系譜カテゴリのメンバーが居る時のみ発動可能
効果『復活する』
再び蘇りし無神臓(一誠)
パッシブ『???』
必殺技『???』
超必殺技『???』
「………」
「璃々は寝かしつけたけど、アナタはまだ寝ないのですか?」
「ああ……」
「そう……隣、失礼しますよ?」
「………………」
「また星を眺めているのですか?」
「何となくね……。
それよりキミは、璃々に余計な事を吹き込み過ぎた」
「余計なこと……ですか? アナタにとっては……?」
「俺はこういう存在になっちまってるし、俺自身にそんな気はないからな」
「…………でもアナタは」
「言っただろう? 借りを返す為だと、それ以上も以下もない」
「……………………でも私達は」
「ドライグの残留した記憶を見たキミなら知ってる筈だ。
俺は今までもこれからも変わらない……俺が心から愛せるのはあの子だけだ。だからよせ……俺に凭れるんじゃねぇよ」
「…………意地悪な人ね。そしてアナタから彼女の事を聞く度に苦しいですわ」
「できればキミ達親子の記憶から俺の事を抹消できたらしてやりたいよ……」
「それは嫌よ。
何があっても忘れたくないもの……」
「………」
「だから少しだけ、もう少しだけアナタに寄りかからせて……?」
終了
補足
先立たれた者同士……なのか微妙な所ですが、シリーズ通して微妙に扱いが酷めの彼女にちょいとしたスポットが当たる。
その2
この親子から受けた借りを返す時のみ、重すぎて動きもしなくなった腰が上がってドラゴン波をぶちかますらしい。
お陰で最近の彼は彼女の紐と見られ気味らしい。
その3
当初死ぬほど警戒してたけど、会ってみたらビビるくらい普通だったので、ものすごい遠くから見守る事にはしたらしい。
続きは……要らんだろ?