結局の所、コミュ障はコミュ障でしかないし所謂内弁慶なのである。
そんな性格になってしまった自分を改める気等まったく無いし、それで誰かに嫌われようが構わないという一種の開き直りにも近い考えを持ち続ける。
そんな執事にとって地味に人間を相手にした抗争はあまり進んでやりたいとは思わない。
生き残って元の時代へと戻る為とはいえ、所詮は一般人でしかない異世界人を無意味に殺害する趣味は持ち合わせていないのだ。
もっとも弱者から『ただ奪うだけの輩』に対してだけは全くの躊躇いは無くなるわけだが。
「…………………」
そんな訳で、悪魔の執事こと日之影一誠は、人生初となる人間同士の殺し合いの場に出ることになった。
今更他人を殺す事に禁忌を覚えるなんて綺麗な精神を持ち合わせているつもりも無いし、殺らなければこちらが殺られる状況ならば例え一般人を相手であろうが躊躇う訳にはいかない。
ましては今の自分は一般人にちょっと毛が生えた程度(一誠基準)にまで力を失っているのだから。
「………………」
そもそも何で戦争になったのかという小難しい話は全く把握していないし、把握する気も全くない一誠は、開戦直前の戦場の様子を見晴らしの良い崖の上から見下ろしている。
王様を傀儡にして悪政を敷いている者へのクーデターをする的な理由で集められた各勢力達の軍勢。
その中には例の天の御使いなる男が所属する軍もある訳で、どうやら今回は立場的に『味方』らしい。
「……………」
炎蓮が既にその男と接触をし、何もされてはいないのだけは理解した。
だがそれでも一誠は決して油断はしない。
この戦争でその男と出くわす事が出来ればそれで良いのだが、聞けば前線に出て戦うタイプではないらしいので、微妙なところ。
「…………」
どちらにせよ、その戦争で誰がぶち殺されてしまおうが自分が生き残りさえ出来ればそれで良いとだけ思った一誠は自陣へと戻るのであった。
さて、いくら未来から飛ばされてきて、炎蓮と正面からやりあえるだけの武を持っていても、孫呉の中では一兵卒でしかない執事。
本当ならば適当な将の兵の一人として戦争へと出るのだけど、孫呉の大将である炎蓮が前線出たがりの刹那的なタイプである為――
「さて、当然先陣はオレだ――と言いたい所だが、最近のオレは少しだけ丸くなったからな。オレと一誠が出る。文句はねーだろ?」
無論こうなる。
隅の方で模倣の燕尾服の襟を正し、白い手袋を嵌めていた一誠に視線を向ける炎蓮に、集う孫呉の将達はやはりかとため息だ。
「今回は連合の一枠としての戦いです。
あまりにも目立つと袁紹辺りが煩くなりますし、何より曹操のところに居る天の御使いは――」
「はっ! あんな小僧一人の目が怖くて戦いが楽しめるかってんだ。
逆に見せつけてやれば良いんだよ………『下手に干渉したらテメー等全員もこうなるんだ』ってな?」
ヤル気満々な炎蓮に全員がため息を吐きながら、肝心の一誠を見る。
「俺が拒否したところで、この狂暴ババァは構わず突っ走るのはわかってる」
「まあ……な。
だがお前一人が負担に――」
「嘗めんな、狂暴ババァの一匹や二匹脇に置きながらだって戦える。
ていうか、今の俺にはそれしかできねぇしな」
そう言って身支度を終えた一誠が炎蓮の横に立ち、炎蓮や炎蓮の娘達や配下の者達に宣言する。
「意地でもこのババァは死なせねぇよ」
『…………』
そう言ってペシンと軽く炎蓮な頭を叩いてやる一誠に、炎蓮は満足そうに笑みを溢し、配下や娘達は微妙に悔しそうな顔をしたとかしないとか。
こうして初めての戦争は幕を開けてしまうのだ。
悔しいけど、最も彼の考え方や生き方に近いのは母だ。
死ぬかもしれない闘争に身を捧げられる事。それによりもたらされる成長を至上とする彼にとって、母はある意味肩を並べられる相棒なのかもしれない。
「さて、案の定袁術は自分の戦力ではなく此方の戦力を使って敵を消耗させるつもりらしい」
「でしょうね……。
あーぁ、あんなのと同盟ってのも嫌になるわぁ」
「…………」
姉の雪蓮と冥琳が同盟相手である袁術に対して愚痴を溢している。
私も兵を指揮する立場として横から聞いている。
「意地でも死なせない……か。
頼もしくも思う反面ちょっと複雑よねぇ?」
「実に一誠らしいといえばらしいけどな。
アイツは借りを作ったと思った相手にはどんな事をしてでも返そうとする。そんな男だ」
「そりゃあそうだけどさぁ……」
彼について不満そうに話す姉だけど、私にしてみれば単なる嫌味にしか聞こえない。
何せ彼とは未だに私だけがまともに話せない。
母と姉、そして妹とはちゃんと話す癖に、何故か私とは話そうとしないし目すら合わせない。
そのせいかは知らないけど、私の配下となっている思春等とも話した事はない。
いえ……別にそこまでしてお話がしたいって訳じゃないのだけど、こうも差別化されるとそれはそれで不条理にしか思えないのだ。
ましてや母や妹、それからこの姉や冥琳といった者には妙に柔らかい態度をしているのを見せられてしまえばね。
それに、前に一度泥酔した時の事も正直腹が立つ。
だって彼、母や姉といった『話せる相手』にはあんな事をしたくせに、私に対して一瞥だけくれたのみで本当に何にもしなかったのだ。
出されて喜ぶような軽い女ではないけど、ああも徹底的に区別される謂われも無いと思うわけで―――
「! 一誠と母様ね? また派手にやってくれちゃって……」
「いきなりあんな大規模な妖術を使って大丈夫なのか……? アレはかなり体力を消耗する筈では……」
そんな事を思う内に、辺りが急激に寒くなったと同時に遠くの大地が凍てつくのが見えた。
どうやら冥琳の言う通り、彼が例の妖術を使ったみたいだけど……。
「思春」
「はっ……」
冥琳の言う通り、あの妖術は扱うだけで相当な体力を削られるという話を前に少しだけ耳したことがある。
それなのにあの規模の力を使ったということは向こうで何かあったに違いない。
そう判断した私は腹心の思春にひっそりと様子を見に行くようにと命じた。
……。なにもなければ良いのだけど。
初めて見た時と同じ。
いや、今回はそれ以上に幻想的で、不可思議な力を目の当たりにできた。
「verセラフォルー……
凍てつくような妖術で敵兵を大地ごと凍らせていく様は、まさしく人ならざる者の力。
異常で異質な光景を前に怯える敵兵を氷で作り上げた剣で斬り伏せていくその姿もまた……。
「おいおい、そんなに飛ばして平気か? オレより先に疲れちまうんじゃあ……」
「なめんなよババァ、こちとら毎日体力作りしてるっつーの、この程度の出力ならばまだ動ける」
既に馬から降りた炎蓮と二人だけで敵の軍勢を薙ぎ倒していく一誠は、その言葉の通り体力の消耗は微量のようだ。
「な、なんだこの男!? よ、妖術使いか!?」
「ひ、怯むな! 敵はたった二人だ! 弓矢隊! 射てぇぇっ!!!」
そんな二人の暴れん坊を前に、戦争相手である董卓の兵は怯みながらも一斉に弓矢を高台から二人に向けて放つ。
数百という矢が襲い掛かかろとするが、一誠は表情を変えずに無言で炎蓮の腕を掴んで引き寄せると、向かってくる矢に向けて手を翳す。
「verグレモリー兄妹……消滅」
すると一誠の身体を中心に小さなドームが形成され、飛んで来た弓矢が二人に届く前に消え去る。
「な、なん……だと……」
文字通り弓矢を消し飛ばした一誠に、今度こそ兵達は怯えた。
そしてその力に呼応するかのように――はたまた単なる偶然か、彼の背後から数万という連合の軍勢が一斉に押し寄せる。
「おい一誠! 連合連中がオレの獲物を横取りしようとしてるぞ!」
「わかっているから暴れるな」
こうして見事なまでに初戦をガタガタにされた董卓軍は押し寄せてきた連合軍により瞬く間に制圧されていくのであった。
「ハーッハハハハッ!! 残りの獲物は全部オレと物だ!!」
「…………」
ひたすら獲物を狩る獣のような形相で暴れた押す虎と妖術使いの男を先頭に……。
終わり
泥酔とまではいかないものの命の危険という信号を脳がキャッチした時のみ、限定的にリミッターが外れる感覚を途中から掴み始めていた一誠は、炎蓮の護衛をしながらひたすら敵本陣目掛けて走り続ける。
だがしかし、その砦を守るは、三国最高峰の武を持つ少女……。
「ほう、コイツが呂布か。
他の雑魚共とは違うのが匂いでわかる」
「………………」
一見すればローテンションにも見える姿だが、炎蓮はその力が本物だと見抜き、剣を抜く。
「!! うおっと!?」
「………ここから先は絶対に通さない」
そしてその力は本物であり、炎蓮をして手こずる。
「退けババァ」
ならば最短で自分が終わらせるしかない。
炎蓮をとにかく無傷で生還させることに拘る一誠は、渋る炎蓮をなんとか説得させながら引き下がらせる。
「…………………」
「チッ……!」
だが本来のパワーを取り戻せていない今の一誠でも苦戦は免れない。
ともなれば……。
「おいババァ」
「あん? 交代でもするのか?」
「違う。
このままこの女とやりあってもじり貧なのはわかった。
だから一気に終わらせるつもりだが……」
「………が?」
「たぶんだが、この女を黙らせた後、確実に俺は動けなくなるから、その時は邪魔になる。
だから見捨てて放置しろ。良いな?」
「……………」
「俺がどうなろうが関係ないが、約束した以上、アンタだけは死なせる訳にはいかないからな」
今出力可能なフルパワーで一気に終わらせる。
しかしその代償はかなり大きい。
それを把握した上で炎蓮に念を押した一誠は――
「ハァァァァァッ!!!!」
「!?」
「っ!?」
この時までに密かに溜め込んでいた力の全てを吐き出す。
「……………」
全身から迸る魔力のオーラは大地を凍結させ、飛び交う砂煙を消滅させる。
その瞳は紫色に輝き、その頭髪は燃える様な真っ赤に染まる。
「ふ、はっははは! そんなものまで隠してたのかお前は!? よーしわかった! お前の言う通りにしてやる! だがその代わり、お前は絶対に置いていかねぇ! オレとこの先もずっと遊ぶ為になァ!!」
その姿に戦慄はせず寧ろ歓喜する炎蓮。
「ぐぎっ!?」
「!」
「く、そ……! この程度でまだ……! 頼むから持ってくれよ俺の身体!!」
戦場が紅蓮の輝きに染まる時、執事は限界を越えていく。
嘘です。終わりです。
それは空から落ちてきた。
それは傷だらけであった。
それは――――ドス黒い報復にまみれた目をしていた。
「俺にとっちゃあお前等なんぞ旧時代の遺物にもなりゃしねぇ存在でしかない。
だから何がしたいとか、どうしたいかなんてどうでも良い。
そもそも、生身の人間を見るのは俺としても久しぶりだしな……」
人間の抱える憎悪を突き詰めたような男。
この場の誰もが見たことの無い力を振るう男。
その力は強烈無比であり、誰にも届かぬ最高峰。
本物の龍を宿す龍の化身。
「それでも俺を雇うつもりかい王様?」
されど、自分達の知りえない領域を知る者。
故に時の皇帝は龍の帝王を欲してしまう。
遥か先の未来で、その報復心だけを糧に人ならざる者を殺し尽くした破壊の龍帝を。
「わぁお、どいつもコイツも人間の女だが、腹の中は畜生同然にカスで結構だなオイ?」
だがその男はあまりにも毒が強すぎた。
そしてあまりにも制御不能だった。
衣食住の保証を約束すれば、どんな存在であろうとこの世から消してくれるという意味では便利過ぎたが、逆を返せば自分達のような輩にすら牙を剥く可能性が高すぎた。
権力欲、自らの保身といった後ろめたいものを抱える者達にすれば、最強の戦力でもあり自らを滅ぼしかねない毒にも近い。
されど皇はそんな『破壊の龍帝』の在り方が新鮮でもあり、また彼の持つ『永久の進化』の異常を欲してしまった。
それはかつて彼自身と飽くなき殺し合いを果たしてきた白い猫のように……。
「ア? テメーの立場を振りかざせば、テメーの思い通りになるとでも思ったか? そりゃあ大概の連中はそうなるだろうが、馬鹿かお前は? そんな小賢しいところとは無関係の場所に―――――強者は存在する」
自分の威光がまるで通用しない本物の絶対者。
全てを力でねじ伏せる遥か彼方の天のような強大さ。
その全てが――
「で、反逆されたと? 自業自得にも程があるな」
「…………」
「で、どうするんだ? このまま死ぬか? 俺は契約が切れた時点でおたく等がどうなろうが知った事じゃねーし、貯金もできたことだからどこかの片田舎でひっそりと暮らそうかねぇ」
「名も立場も全て捨てる。
だから……私も……」
「あ? ふざけろよ、お前みたいな何も知らずに周りの強欲共に利用されてきただけの馬鹿女を連れていく理由がわからねぇな。
だったらオメーの妹の方がまだマシだぜ」
「…………………」
「…………はぁ、わかったよしょうがねぇな。
俺も俺でお前等の財に寄生してたってのは事実だしな……ったく」
届かない。されど追い付きたい。
きっと生まれて初めて手に入れた自分の『意思』を打ち明けた失いし皇に破壊の龍帝は手を差しのべる。
「言っておくけど、今までみたいに言えばなんでも手に入ったり贅沢な生活は期待するな」
「う、うん……!」
「よし……ったく、起きろドライグ。
このクーデター起こされた元王様を連れて逃げるぜ」
『人間相手にも希代の悪になってしまったな遂に?』
「もうどうにでもなれだな。ほら行くぞ王様」
「…………真名で呼んでよ」
「はいはい気が向いたらな……!」
破壊の龍帝と共に時の皇は歴史の表舞台から姿を消した。
そして始まるは――
「反逆した連合達は解散し、元連合同士でやりあってるんだと。
まあ、そんなもんだわなぁ…」
「で、できたわ一誠! こんな感じでしょう?」
「おー、そうやって自分自身を知って受け入れる訳だ」
「アナタを知らなかったら絶対にわからなかったわ……」
「まあ、殆どの人間はそうだしな」
片田舎でひっそりと暮らす元王様と雇われ龍帝の日常……なのかもしれない。
「ふ、ふふふっ! あぁ、同じになったからこそわかる。
アナタは誰よりも異常なのね? でもだからこそ欲しい……もっと一誠が欲しい……!」
「ちょ、ベタベタすんなや」
「あいたっ!? ふふ………もう、意地悪なのね? この前みたいに愛してくれないの?」
「ラリったボケ猫みてーにほざいたお前をぶん殴っただけだろう」
嘘です
補足
自分で一定のリミッターを外せるようにはなれたけど、身体がガタガタになるのは変わらない。
使いどころを間違えたら危険必至。
その2
D×S一誠の場合、もろ悪役的な所からスタートしそうてな訳でこの特殊√
そしてかつて殺し合った白猫さんのように彼女は…………。