色々なIF集   作:超人類DX

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ママン達のせいで結構どころではなく一回り以上の年上には弱い執事なのだった。


執事と年上さん

 本来の出力を取り戻す。

 

 それが今現在執事の持つ目標。

 

 失くしたというよりは強制的に『制御』されている感覚がする以上、その制御の壁を乗り越える事が出きれば確実に本来のパワーを発揮することが可能だ。

 

 そうなればさっさと自分をこんな場所へと無理矢理送り込んだ者を探して八つ裂きにしてやる事も可能だし、鬱陶しい連中に良いようにされることもなくなる。

 

 だからこそ今は我慢の時だと己に言い聞かせながら、執事は制御という壁を乗り越えようともがくのである。

 

 ただ、元の世界の悪魔達と同等に鬱陶しい連中からの色々に四苦八苦しながらだけど。

 鬱陶しさの程度が似ているお陰で、コミュ障が軽く消し飛んでいるのだけど。

 

 

「…………………………………」

 

 

 そんな執事の朝はべらぼうに早い。

 これは彼が悪魔の母だの義姉を自称しまくる者達による教育が理由であり、使用人としてのスキルを徹底的に叩き込まれたからであった。

 

 まだ日が昇らぬ程の時間帯に起床し、身支度を整える。

 

 この時点でもし横に炎蓮とかが居ればラウンド1のゴングがどこからともなく鳴り響いてのシバき合い対決に勃発するのだけど、今日はその心配はなかったらしく、軽くホッとしながら複製に複製を重ねた結果、今現在の時点で45着となった燕尾服に袖を通す。

 

 そして自身に宛がわれた寝部屋の軽い清掃を済ませ、白い手袋を両手に装着した執事は、この部屋に置いてある清掃用具(自作)を手に取り、静かに部屋を出る。

 

 

「………………」

 

 

 まず執事が行うは、元の時代におけるグレモリー城やシトリー城と比較するまでも無く原始的な――江東だかなんだかにある孫家の城のお掃除である。

 

 電気・ガス・水道といったインフラ設備が当然存在しない過去も過去な世界において、冥界住みのリアル現代っ子人間である日之影一誠にとって、両家の城と比べて手狭ではあるこの施設の清掃だけでも当初はかなり苦労した。

 

 炎蓮などはそんな一誠に掃除なんて他の者にやらせておけば良いと言いはしたが、その他の者達の手入れのやり方が一誠目線ではかなり杜撰だったので、年上悪魔達の調教――基、教育を受けてきた彼的には見ていられないものだった。

 

 そうでなくとも、元の時代へと戻る為の協力をさせているに加えて、こんな得体の知れない人間一人の言っている荒唐無稽な話を信じて貰うばかりか、なんだかんだ飯を食わせて貰っている時点で、なにもしないという選択肢は他人に借りを作るのが嫌いな一誠にはあり得ないのだ。

 

 

「……………」

 

 

 そんな理由で掃除をするのが日課になる一誠だが、設備や道具が無いなら無いなりに代替えを考えて順応している。

 まず水道が無くて一々川だの井戸的な所から汲む真似はせず、元の時代における腐れ縁の一人であるソーナ・シトリーから模倣した水の魔力を駆使する。

 

 

「………よし」

 

 

 魔力の出力自体もかなり制限されてしまっているとはいえ、日常生活に応用できる程度には使える。

 自作のバケツの中に手を入れ、魔力放出させればその魔力はやがて透明な水へと変換される。

 

 

「…………………………………」

 

 

 迅速かつ丁寧に。

 グレモリー家使用人副長ならびに、シトリー家使用人長である一誠は分身する程の速度で音も無く孫家の施設を黙々と掃除する。

 

 物覚えは決して良くはないが、一度でも覚えさえすれば絶対に忘れないばかりか、独自に昇華させ続ける精神に突き動かされるかの如し清掃業務を手早く終わらせてみせる。

 

 

「………………フッ」

 

 

 サーゼクスの妻であり、グレモリー家使用人長でもあるグレイフィアに本当ならばチェックをして貰いたい所だが、今現在グレイフィアは居ない。

 それでも常人が見れば軽く引く程度には綺麗になった孫家の城の廊下を前に誰にも見せない達成感に満ちた笑みを人知れず溢し、清掃用具を部屋に戻す。

 

 この時点ではまだ外はうっすらと日が昇り始めている時間。

 通常ならば次の仕事は朝飯の用意をするのだが、この世界に来てからの一誠はその仕事には一切ノータッチだった。

 

 理由は簡単で、元からこの世界に住まう者達が用意するからであり、その仕事まで取る気は無かった。

 

 故にその浮いた時間は全て――――トレーニングにあてている。

 

 

「…………」

 

 

 何時までもこの場所に――この世界に長居するつもりは全くない。

 『救世主』がどうたらと好き勝手宣って勝手にこの世界に飛ばしてくれた連中なんぞの言うことなんてクソ喰らえだし自力で戻ってやる。

 

 そんな普段こそ無機質な態度の中に隠す燃え滾るような執念を抱く執事は、誰も居ないことをちゃんと確認してからひっそりとこの世界における一誠の秘密トレーニング場へと移動するのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 遥か先の『未来』から来た。

 そう宣う不思議な格好をした少年は、確かに不可思議な妖術やら異質な力を持っていた。

 そんな少年を長である炎蓮が気に入ったからという理由でこの地に置いている。

 

 長である炎蓮がそう言ってしまった以上、何を言っても覆せないことは長年の付き合いでわかりきっていたので、仕方なく彼を受け入れる事に了承はした。

 

 しかし当たり前ながら、そんな荒唐無稽な話からその風体と態度含めて、彼女は彼を当初信用しようとは思わなかった。

 

 普段は何を考えているのか読めない程に無機質で、炎蓮にだけはババァなんて感情を剥き出しにする。

 それ以外には全く関わろうともしない。

 

 何より以前周辺の村を騒がせた賊を片付ける件においても試す意味合いで彼を出したのだが、その時の彼はただただ無機質に、虫を踏み潰して壊すかのように賊達を殺し尽くした。

 

 賊を凍らせて砕いたり、両手から放たれた光で跡形も無く消し飛ばしたり。

 

 そんな異質な力を持つ男をこのまま置いておいたら危険なのではないのかと彼女は何度も炎蓮に進言したりもしたけど、聞く耳もたず。

 結局その炎蓮の勘は当たっていたから良かったものの、下手をすれば自分達を殺す毒にもなりかねない危険な力を持つ少年であることは間違いない。

 

 故に彼女はついいつもの様に口やかましく、この地に留まるなら相応の働きをしろ等と言ってやろうとしたのだけど……。

 

 

 

 結論から言うと、彼は口の聞き方こそ炎蓮みたいにアレだが、受けた恩に対しては何をしてでも絶対に返そうとする程度には律儀な少年だった。

 幼い頃から教えられてきたらしい使用人としての技術は目を見張るものがあり、その時の彼の姿はいっそ芸術的なものすら感じた。

 

 強いて言うなら、彼は他人と話す事がかなり苦手なのか、基本的に一人で居ることを好んでいる。

 当初に至っては殺し合いにも近い決闘をした炎蓮以外とは全く口を聞こうとせず、炎蓮に通訳させる始末だった。

 

 決してタダ飯喰らいではないというのだけは理解したが、それでは良くないとついつい小言を言おうとしても彼はそそくさと逃げる。

 

 完全にこっちを露骨に避けているのが余計に腹が立つので、暫くは発見したら即座に小言を言う様になった。

 しかしある時だったか……炎蓮との通算何度目になるかわからないやり合いで疲弊していた彼に、そういうことも控えろとつい強めの口調で言った時。

 

 

『………せぇ……』

 

『は?』

 

『………る……せぇ……』

 

『なんじゃ? 聞こえんぞ、もっとハッキリ――』

 

『うるせぇって言ったんだよボケ!! 前々から一々グチグチとほざきやがって! 俺だって好きでこんなクソ前時代な場所に居る訳じゃねぇ!!』

 

 

 彼は初めて炎蓮以外に感情を出した。

 

『なんじゃと!? そもそも貴様が―――』

 

『じゃかしぃんだこのババァ2号が!!』

 

『ばッ!?』

 

『なんだなんだ!? ヴェネラナのババァかテメーは!? どいつもこいつも一々癪に触るんだよ!!』

 

 

 癇癪を起こした子供のように怒鳴り散らし、拗ねた子供のように走って去ってしまった彼の形容詞しがたいあの時の顔は今でも忘れない。

 後に知る話だが、どうやら自分達は彼にとっての元の時代で世話になった者達と色々と似てないようで似ていたらしい。

 

 特に小言を言う自分はヴェネラナなる者に。

 

 

『心配しなくてもそこのババァ1号に借りを返したら綺麗サッパリ消えてやるさ! だから黙ってろババァ2号!』

 

 

 それが張昭――真名を雷火が傷ついて威嚇する子犬のような少年の抱えていたものの一端に初めて触れた時。

 まあ、ババァ言われて腹が立たない訳も無いし、そもそも初見の時点で自分が結構歳いってると見抜かれていた事には驚きつつも黙っていられる訳もないわけで……。

 

 

「一誠! 鍛練する事も時折の決闘も否定はせん! だが皆の前に出る時はもっとしっかりしないか! まだ血が出とるでないか!」

 

「暫くすりゃあ治るし、朝からうるせーよ!」

 

「うるさく言わせておるのはお主じゃろうが! ほらこっちに座れ! 儂が手当てしてやる!」

 

「要らねーよ! やめろババァ!!」

 

 

 もっと余計に口喧しくしてやる事になった。

 なんというか、放っておくと良くない気がしたので。

 

 

「また雷火に捕まったのか?」

 

「最近は一誠が怪我をする度に飛んで来るし、何時も怪我をしないかと心配までしとるからのう」

 

 

 何を言われようが無関係とばかりに逃げようとする一誠を羽交い締めにしながら無理矢理出血箇所を治療する雷火のやり取りは最早日常の光景。

 

 

「よし、出来たぞ」

 

「チッ……!」

 

「なんじゃその態度は? まったく……少しは素直になってみたらどうじゃ?」

 

「うるせぇババァが……」

 

「喧しいババァで結構! それよりも少し身体を休めろ。そら、膝を貸してやろう」

 

「要らん!」

 

 

 ただ、常に危なっかしい行動ばかりを見てきたせいか、変に過保護化している。

 その証拠に一誠を休ませようと座っている自分の膝を叩き、嫌に慈愛に満ちた表情だった。

 

 

「素直じゃないの。ほれ!」

 

「ばっ!? ふざけんな! 止めろ! 本当に止め――うっ!?」

 

 

 それでも逃げようとする一誠を無理矢理自分の胸元に抱き寄せ、信じられない程に優しげな顔で頭まで撫でる。

 

 

「ふふん、図体はあってもお主はまだ子供じゃ。

ずっと強がっていては滅入ってしまうし、儂で良ければこうしてやる。ふふふ……」

 

「……」

 

『…………』

 

 

 古くから雷火を知る者達からすれば、天変地異レベルの光景。

 それが今の彼女だった。

 

終わり




補足

律儀に借り返しをする姿で一部認めた。

小言を言ったらババァ2号と罵倒された。

誰かに負けた姿を絶対に見せたくないと意地を張る姿を見て――――覚醒した。


………結果、こうなった。


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