色々なIF集   作:超人類DX

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もし、執事が最初に出会ったのが彼女ではなく『彼女』だったら。


虎達と執事

 弱いままでは奪われていくだけである。

 

 弱いままでは見捨てられてしまう。

 

 弱いままでは我を通すことはできない。

 

 弱いままでは()()を保つこも儘ならない。

 

 幼き頃に刻まれたトラウマ……。

 それが彼に強さと進化を絶えず渇望させるようになり、そして人との繋がりを疑うようにさせた。

 

 それは例え煩くて、彼を家族と呼ぶ悪魔達に対してすら例外ではない。

 彼の刻まれたトラウマは未だ誰にも癒すことはできないのである。

 

 ただ強さを――目の前の強大な壁として立ちはだかり続ける魔王を越える為に。

 彼は拗らせたコミュ障を抱えながら生きるのである。

 

 そして、人生が捻れ、それによって変貌した運命を歩む青年は更なる運命と巡り会うことになるのだ。

 

 良くも悪くも、恩も恨みも忘れないコミュ障執事青年の―――――

 

 

 

 

 

 

 未だに乗り越えられない強大な壁(サーゼクス)によって弾き返された(ハイボク)を喫した一誠。

 何時まで経っても乗り越えられない自分に苛立ちを募らせ、純粋な悔しさと怒りで身を震わせた回数は数知れない。

 

 何故勝てないのか。

 どれだけの鍛練を重ねて進化の壁を乗り越えても、人外の対となるサーゼクスに何故勝てない。

 自問自答をしたところで答えなど反っては来ない。

 

 そんな敗北感情を拗らせた執事に残るのは自分への怒りだけ。

 そんな怒りを搭載した状態であったからこそなのだろう。

 

 冷静さを事欠いた彼の身に想定外の現象が起きたのは……。

 夢にサーゼクスの対となる平等なだけの人外が現れる筈が――直視出来ない出で立ちの化け物が現れ、訳もわからない事をほざき散らし、挙げ句の果てに此方の返答を完全に無視した真似をやられてしまった。

 

 つまり、目を覚ました執事の目に映るのは―――

 

 

 

「……………………」

 

 

 冥界では無く、全く以て見知らぬ平原だったのだ。

 

 

「……………………あ?」

 

 

 『アナタがもっと強くなる方法を教えてあげても良いわよぉん?』――と、野太い声でほざいた化け物みたいな出で立ちのナマモノの夢はどうやら安心院なじみと同じくただの夢ではなかったらしい……と人間界かと思われる平原を見渡しながら執事青年の日之影一誠は当初こそ冷静に判断をしていく。

 

 

「くだらねぇ真似を……」

 

 

 

 どっちにしろあんな訳のわからないナマモノの言うことを聞くつもりは無い日之影一誠は、即座に元の場所へと戻ろうと決めた。

 しかしそのすぐ直後にはこの状況を作ったとされる夢の中に出てきたナマモノに対する絶大な殺意が発生したのは云うまでもない。

 

 

「あの気色悪かった生ゴミは後で処理してやるのは確定で、まずは戻って――」

 

 

 『外史の救世主になって欲しい』と、ナマモノがほざいていた。

 外史というのが何なのかは全然知らないのだが、どうやら自分が生きていた世界とは全く違う世界なのであることだけは説明された。

 が、日之影一誠は当然救世主になんぞなる気等無いし、ましてや自分とは全く関係ない世界の為に働く気等更々なかった。

 

 故に取り敢えずあのナマモノは見つけ次第徹底的に八つ裂きにしてやることを心に誓うのと同時に、さっさとこの世界から元の世界に戻ろうと嫌味な程の星空に向かって手を翳し――――

 

 

「…………………あれ?」

 

 

 日之影一誠は固まり、そしてダラダラと嫌な汗が流れていく。

 そう、日之影一誠は気づいたのだ……。

 

 

(ど、どうやって冥界に戻れば良いんだ……?)

 

 

 そう、パラレルワールドの人間界から元の世界の冥界にどうやって戻れば良いのかが。

 人間界から冥界への道は把握している。

 

 しかしそれはあくまで元の世界の人間界からの道筋であって、このパラレルワールドからの戻りかたなんて知るわけが無い。

 

 つまり燕尾服に身を包む日之影一誠は――早い話が無一文で全く知らない場所に放り出されたも同然であった。

 

 

「………」

 

 

 みるみると顔色が悪くなっていく。

 表情こそクールさを繕っているものの、その内面は果てしなく動揺している。

 只でさえコネなんて元々少ないし、対人コミュニケーション能力が死んだも同然である日之影一誠にとって、よくありがちな異世界転生物語なんてその場で血反吐でも吐き散らかすレベルのNIGHTMARE難易度なのだ。

 

 そしてここに来て気付かされるのだ。

 

 うっとうしいと思っていた悪魔達の存在は日之影一誠にとって割りと重要であったのだと。

 

 

(殺す……!! あ、あの変態ゴミ野郎は絶対にブッ殺す……!)

 

 

 八つ裂きからSATSUGAIに引き上げた一誠は、とにかく帰還を第一の目的とし、ここに突っ立っていても仕方ないと『重く感じる身体と足』を使って、まずはここが何なのか、それと人間がちゃんと存在しているのかを気配を辿りながらさ迷う事に……。

 

 

「コロス、コロシテヤル、ブチコロス……」

 

 

 ブツブツと物騒な事を呟きながら……。

 

 これは、他との繋がりを疑い続ける青年の『取り戻す』旅……。

 

 

 そして違う道を辿るお話。

 

 

 

 

「………………」

 

 

 ド田舎にしか思えない道をひたすらに歩き続けていく執事。

 ここが何処なのかすら解っていないまま、単なる意地もあって無駄に歩き続けていた彼の心中は、とにかくこの場所へと勝手に飛ばしてくれた奴等への報復のみ。

 

 

「一体人間界のどこなんだここは……」

 

 

 しかし探しても見つかる気配がない。

 砂場でアリのコンタクトを探すよりも高い難易度に、余計怒りを増し続けていた執事は、知らず知らずの内に足を踏み入れていた。

 

 

「動くなっ!!」

 

「……………」

 

 

 とある勢力の領域(テリトリー)へ。

 そうとは知らずに妙に前時代的な武装集団に取り囲まれてしまった執事は、無用な労働をする気にはなれなかったので元来た道を引き返そうとするが、どうやらそのまますんなりと返してくれそうもない。

 

 

(何かの冗談か? それともどこぞの部族? どうやらここが日本ではない事は間違いないらしいが……)

 

「こ、コイツ……! 射った矢を片手で……!?」

 

「何者だ! 名を名乗れ!!」

 

「………………」

 

 

 弓矢で狙撃されたので、取り敢えずキャッチしつつ目の前の人間達が日本人ではないと理解するのだが、反対に謎の武装集団達には余計に警戒されてしまった。

 

 

「それ以上動くんじゃあない!!」

 

(この連中が言っている言葉を理解できるのも不可解な気はするが、こっちの話なんて聞きそうもねーし、ここは一旦コイツ等を眠らせるか……)

 

 

 段々めんどくさくなってきた執事は、取り敢えずこの目の前の連中に眠って貰おうかと、戦闘体制に移行しようとしたのだが……。

 

 

「がっ!?」

 

 

 鈍い痛みと衝撃が突然後頭部に突き刺さり、執事はその場に倒れた。

 

 

(な、なに……!?)

 

 

 一般人に後ろを取られたこともそうだが、一体全体誰が……と考える間も無く意識を刈り取られた執事。

 

 

(う、後ろから……だと……!? 俺が気付かなかった…………)

 

 

 

 そして執事が再び目覚めた時―――執事にとってのこの世の地獄が始まるとはこの時まだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 暇だから。

 

 そんないい加減な理由でちょっとした散歩に出掛けたのが始まりだった。

 一人で自分達の領域に踏み込んできた不思議な衣服を纏った青年。

 

 

「気絶をしたようですが、どうされますか?」

 

「連れていけ」

 

「は? ………何故? ここで始末をすべきでは」

 

「良いから連れていけ」

 

 

 

 部下達の威圧をものともせず、射った矢をこともなさげに片手で掴んだ時、彼女の血は一気に滾った。

 

 どこの誰かなんて知らないが、この小僧は間違いなく出来る。

 そう思うが早いか、早速戦いを挑んでやろうと後ろから挨拶をしてみた。

 されど己でも驚く程に呆気なく意識を失ってしまった時は、正直自分の見込み違いだったのかと落胆もした。

 

 

 

(あまり期待なんて出来そうもないが、この小僧には何かがある気がする)

 

 

 取り敢えず何故ここに踏み込んできたのかを聞くつもりで、意識を失った青年を自分達の家へと連れていくように命じはした。

 この時点で彼女はこの青年に対する興味を殆ど失ったのだけど、この気まぐれが良い方向に働いたと理解したのはそれからすぐの事であった。

 

 

「……………………っ!?」

 

 

 青年が意識を取り戻したと聞き、自分達の元へと連れてこさせた。

 そして何者であるか、なんのつもりで侵入してきたのかと問う。

 

 

「口が聞けねーのか? オレの庭に勝手に入り込んだその理由も答えられねーのか?」

 

「…………」

 

 

 

 されど青年は誰とも目を合わせること無く無言を貫くばかりか、許可も無く去ろうとした。

 

 

「聞こえていない訳がないだろう! さっさと答えろ!」

 

 

 それを見た部下の一人が青年の肩を掴もうとした時、青年は―――

 

 

「気安く―――この服に触るなボケがァ……!!」

 

『っ!?』

 

 

 それまでの、まるでそこら辺に生えた草のような無害さを感じさせていた青年が、突如として血に飢えた野獣を思わせる殺意と怒りを解放しながら、部下の一人を殴り飛ばした。

 

 

「ガハッ!?」

 

「貴様っ!?」

 

「退けや雑魚共ォ!!」

 

 

 

 その瞬間、その場で青年を取り押さえんと全員が青年へと飛び掛かった。

 しかし、青年は彼女の眼前でその全員を血走った目をしながら返り討ちにしたのだ。

 

 

「ふん、クズがァ……」

 

「あの時俺の一撃にあっさり倒れてくれたのは、体力が無かったという訳か……」

 

「あ? じゃあテメーがあの時……」

 

「その通りだ。

テメーには色々と聞きたいとこがあったものでな。

くっくっくっ……! やはりお前をここに連れてきたのは正解だった訳だなァ!!」

 

 

 この時点で彼女は再び不思議な衣服を纏う青年への興味を持った。

 そして見たことのない力を駆使する青年に対して戦いを挑む。

 

 

「ここじゃあ手狭だろう? 場所を変えてヤろうじゃねーか?」

 

「………………上等だ、テメーはこの俺が直々にブッ飛ばす」

 

 

 部下や娘達が止めようとするが知ったことではない。

 

 

「なんだ、ちゃんと喋れるじゃねーか?」

 

「……」

 

 

 今初めて自分と目を合わせた青年がどれだけ強いのか……それだけなのだから。

 

 

「はーはっはっはっー!! やるじゃねーか! さぁ、もっとオレを楽しませろ!!」

 

(な、なんだコイツ……!? まともじゃねーとは思ってたが、普通の人間じゃねーのか……!? く、くそ、俺が力負けしてるだと……!?)

 

 

 

 

 

「そぉら!」

 

「(ち、違う! お、俺が弱くなっているのか!!?)

このっ……図に乗るなァァァッ!!」

 

 

 戦う時だけは己の感情を剥き出しにする風変わりな少年との一時を……。

 

 

 

 

 そしてこれが始まりであり……。

 

 

 

 

 

 

「クソが! 触んなババァ!!」

 

「おーおー、今日も元気な奴だなぁ? 俺と寝るだけでそんなに喜んで貰えるとは……」

 

「テメーの目は腐ってるのかゴラァ!!死ねぇぇっ!!」

 

「照れるな照るな! なっはっはっはっー!」

 

 

 

 現在へと繋がる。

 

 

 

「またやったのね?」

 

「日之影の部屋に勝手に入り込んで添い寝をしたらしい」

 

「また? まったくもう……」

 

 

 色々な枷が働いている結果、彼女に負けた執事は今現在、彼女のお気に入りにされてしまっていた。

 

 

「ぜぇぜぇ……! ちくしょうが! 本来のパワーさえあれば、あんなババァなぞ秒でバラバラにしてやれるってのに……!」

 

「えーっと、大丈夫……?」

 

「朝からそんなに怒っていたら疲れるぞ?」

 

「あ゛ぁ゛っ!? だったらテメーがあのババァに言ってやめさせろ! 娘なんだろうが!!」

 

 

 そんな彼女を相手に気付けばヴェネラナ・グレモリーやセラフォルー・シトリーと言った悪魔面子達を相手にする時みたいな感情をさらけ出すようになっていた執事は、彼女の娘の一人である女性に目を血走らせていた。

 

 

「言っても聞かないのはアナタもわかってるでしょ?」

 

「自由という言葉がそっくりそのまま歩いているような御方だからな」

 

「ぐっ……」

 

 

 されど彼女の肉親や配下達は止められないと言われてしまい、日之影一誠はやり場の無い怒りを抱えるしかない。

 

 

「母様に対して一々本気になっていたら疲れるわよ? そうだ、せっかくだし息抜きを兼ねて私達となにかしてみない?」

 

「そんなのは要らん! クソが!!」

 

「あ、ちょっと! ………あーあ、また誘いそびれちゃったわ」

 

「口の聞き方こそそっくりだが、根は真面目というか律儀な男だからなアイツは……」

 

「そうなのよねぇ?

母様としゃべり方がそっくりだけど、お仕事自体は本当に真面目にやるから……」

 

「この前も命令されたからとはいえ、私の仕事を手伝ってくれたしな」

 

 

 何故なら本調子ではなかったとはいえ、執事は彼女に負けたのだから。

 戦いに本調子ではないなんて言い訳は通用しないと思うからこそ、敗けは敗けだと認めざるを得ない。

 

 だから勝者である彼女の言うことの一定ラインは聞いたり、やらされている仕事に関しても周りが意外に思ってしまう程度には律儀にこなしてしまう。

 

 

「今度はもう少し然り気無く誘ってみようかしら?」

 

「………随分とアイツに拘るようになったなお前も?」

 

「それはアナタもじゃない?」

 

「まあ否定はしないが……」

 

 

 自分の決めたルールに従っているだけにすぎないのだが、その妥協の無さ故の他の者との交流が極端に少なく、一部そんな彼に対して不満を持っている者も居る――――という事実を知らない執事の青年は、見失った彼女の追跡を諦め、不貞腐れながら人の居ない場所へと赴く。

 

 

「クソが、一体俺は何をしてる……!」

 

 

 変な連中に捕まったあげく、そこのリーダーと思われる女に負けてしまった。

 嫌々事情を説明すれば、自分達のところに居ればその手がかりが手に入るかもしれないと言うから渋々留まることになったけど、そのリーダーと思われる女に毎日毎日なめた真似をされる。

 

 しかもその行動が元の世界の悪魔の母達に似ているのが余計に腹が立つ。

 

 

「はぁ……」

 

 

 思わず深々とため息を吐く執事は、疲れた様に岩場に腰掛けると、背後から気配を感じる。

 

 

「……………なにしに来やがった、ブッ殺されてーのか?」

 

 

 その気配はよく知っていた気配なので、振り向く事もなく不機嫌そうに背後にいる人物に向かって言う。

 

 

「む、まだ怒っているのか? そんなに嫌だったのか? オレと寝るのは?」

 

 

 その人物――つまり、彼を拾ったともいうべき女性は不機嫌そうな執事の横に立つ。

 

 

「お前があまりにもオレの娘達や配下に興味を示さないから試したまでだ」

 

「くだらねぇ」

 

「お前が相当な人嫌いだというのも暫く見てきてわかった。

しかしあのままだとお前は確実に孤立するぞ?」

 

「知るか。孤立してる方が気が楽だ」

 

「頑固な奴だ……」

 

 

 自分の娘達や仲間達とは徹底的に距離を取ろうとする彼に、彼女なりに間に入ろうとしたらしい。

 どうやら道のりはかなり険しくて長そうだ。

 

 

「それなら、そろそろオレを真名で呼んで貰いたいものだな? てめーだのお前だのではなく、炎蓮ってな?」

 

「テメーはテメーだろうが、良い年こいてガキみたいな事ばかりしてる奴なぞテメーかババァで十分だ」

 

「そのババァ相手にこの前の夜は――っと?」

 

「その先ほざいたら、確実に殺す……!」

 

「わかったわかった、ははは、どっちがガキなんだか……」

 

 

 だが少なくとも自分に対しては素であるのだけは間違いない。

 そう感じる女性――炎蓮はよくわからない特別感を感じながら、睨み付けてくる執事――日之影一誠を今日もからかうのだ。

 

 

「前にお前の目の前で雪蓮達を素っ裸にしてやってもお前は眉ひとつすら動かさなかったからなぁ」

 

「ふん……」

 

「かと言って完全に無反応って訳ではなく、オレには――」

 

「ほざいてろ年増が」

 

 

 これはババァと呼ばれる女性と、執事の青年のガタガタドタバタ録。

 

 

 始まりません。




補足

程度こそ違えど、彼女達はある意味悪魔さん達に色々と似てるので割りと楽には順応できる模様。

特に彼女は……。


続きません

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