色々なIF集   作:超人類DX

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お次はこの√

例のそれのアレ


覚悟な執事

 コミュ障を拗らせたまま成長した少年は悪魔の執事となった。

 コミュ障を拗らせたまま成長したあくま(・・・)で悪魔の執事の目標は、超越し続ける最強の赤髪の悪魔を超えること。

 

 その為だけに生きた。

 本来辿る道が変わった事で独自の進化を歩む事で……執事として徹底的にお節介な悪魔淑女達に叩き込まれた彼は独自の繋がりを形成していく。

 

 これは悪魔の執事の少年の――

 

 

「俺はあの時から赤龍帝でも兵藤一誠でも無い。

俺は――ただの日之影一誠だ」

 

 

 

 

 

 周りが何を思おうとも、誰が何を向けてこようが、俺が求めるものはただひとつ。

 

 もう二度と奪われぬ領域への進化。

 

 だから繋がりだの、愛だの友情だのといったものは要らない。

 

 そんな情があれば、邪魔になるだけ。

 

 頂点は常に一人。

 

 悪平等なんて繋がりも。

 悪魔との繋がりも。

 

 その全ての繋がりこそが自分への枷となると思っていた。

 

 ましてや誰かと共に生きるなんて無理だと思っていた。

 そう思える存在も居なかった。

 

 

 そんな俺が……。

 クソッタレな理由で訳のわからんこの世界に来てしまい、生き方も考え方も俺からしたら反吐の出る甘さの女と出会った。

 

 

『私の夢はね、誰もが笑って暮らせる世界にすることなんだ!』

 

 

 甘すぎる女。

 あり得ぬ夢物語を馬鹿みたいに信じて語る夢想家。

 そんな女に何度もハッキリと言ってやったりもした。

 

 

『確かに私はアナタの言う通り、夢だけを語るだけの夢想家なのかもしれない。

けど……それでも私は諦めたくない。その為なら私も覚悟する……! してみせる!』

 

 

 現実を叩きつけてやったりもした。

 けれど折れなかった。そればかりか俺はその女に返せぬ借りを作ってしまった。

 

 

『ほら、誰が見ても一誠君の勝ちだよ。

だからもう……帰ろう?』

 

 

 

 それでも俺は全ては元の時代へと戻り、最強(サーゼクス)との決着をつける為の足掛かり程度にしか思わなかった。

 けれど俺は、そんな甘さとガキみたいな理想を抱き続けるあの女に……。

 

 くだらない理由だとも思う。

 己の注意不足だったことも認める。

 

 

『誤解だよ皆……! 一誠君はわかりにくいかもしれないけど、仲間を無意味に傷つけたりは絶対にしないよ!』

 

 

 認めたくはなかったが、あの女の甘さがあったから、力の大半を失った俺が今の今まで生きてこれた。

 

 普通なら俺のようなねじくれた人間等、秒で嫌悪する筈なのに、あの女だけは全く変わらなかった。

 

 だからきっと俺は―――――

 

 

 

 

 

 

 

 皮肉にも、世の中の現実を桃香に突き付けてしまったりもしていた日之影一誠が、今度は『責任案件』という現実を突きつけられた。

 

 桃香は、どんな凄惨な現実を前にしても決して夢を夢のまま諦めなかった。

 そんな桃香と、例えどんな理由であろうとも共にした事で桃香が生命を宿した今、彼は突きつけられた現実を前に狼狽えるのは当然だった。

 

 

「アンタもよくよく運がなかったな」

 

「え?」

 

 

 けれど逃げるという選択肢は彼の中には欠片も無かったらしく、彼なりの責任の取り方と覚悟を持ったようだった。

 

 

「どういう事?」

 

「あの時俺と出会さなければ、アンタはもっとまともに生きていけただろうよ。

まともな男と出会ったりな……」

 

「一誠君はまともだよ?」

 

「俺がまともな訳がないだろう。

俺がまともなら、世の中の男は聖人を通り越した何かだ」

 

「そうかな……? でもあの時一誠君と出会ってなかったら、あの襲われていた村で私は死んでいたのかもしれないし、生き残れても『現実を直視』しないまま、周りに自分の夢を押し付けていただけの存在になっていたと思う。

だから私は一誠君と出会えて良かったと思っている……」

 

 

 それはつまり、今後元の時代へと帰還しても悪魔の執事ではいられなくなった。

 そしてケジメをつけなければならない。

 

 

「本当にとことん甘い女だなアンタは……? 反吐が出るくらいに」

 

「あはは……ごめんね?」

 

 

 自分のしてきた事への責任を果たす為に。

 

 

「そんなアンタだから俺みたいな奴がこの世界で生きて来れた……。

挙げ句の果てにはアンタに俺は――」

 

「………」

 

「悪かった。

けど……わかってくれ、俺はアンタに手を出したクソッタレ野郎だ。

それでも元の時代に戻らなければならない――こんな俺を一人の人間として扱ってくれたアイツ等に借りを返す為に」

 

 

 しかしそれでも一誠は元の時代に戻る事を諦めるわけにはいかない。

 この世界で桃香の世話になり続けたように、元の時代で世話になり続けた悪魔達に対するケジメを果たす為に。

 

 

「うん……」

 

 

 その為にはまず桃香の折れなかった夢を叶える。

 

 元の時代でも幻でしかない果てしない夢なのかもしれない。

 今のほぼ力を失っている自分ではやれることなんて無いのかもしれない。

 

 

「アンタと出会した当初なら全く考えられなかった事だし、今でもアンタの夢の甘さを認めた訳じゃない。

だけど今ここで俺は誓う――」

 

 

 桃香の甘さに救われた事があったのは真実だった。

 だからその借りを――そしてそれ以上に大きく、一生を懸けても返せない借りを返す為に日之影一誠はあくまで(・・・・)悪魔の執事から……。

 

 

「お前の夢とお前自身を、何があろうとも守る」

 

 

 一人の為に生きるただの青年へと変わるのだ。

 

 

「もー……ちょっと違うよ一誠君?」

 

「は?」

 

この子(・・・)の事を忘れちゃだめだよ?」

 

 

 この世界で一番近くで一誠の生き方を見てきた桃香は、その誓いに対して自身の腹部に触れながら訂正し、微笑む。

 

 

「…………あ、ああ。そうだったな悪い。

それともしアンタの夢が叶った時、アンタが良ければなんだけど――」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてこの日以降、日之影一誠は変わり始める。

 コミュ力こそ壊滅的なままだが、今までは余程の事が無い限りは蜀の面々には近寄りもしなかった行動を少しずつ改め始めたのだ。

 

 

「変わったな日之影の奴。

前までは桃香が頼まなければ俺達の前に姿すら見せなかったのに……」

 

 

 その変化に、蜀の代表になりつつあった北郷一刀は仲間達と訓練をする一誠を見てポツリと呟く。

 

 

「やはり桃香様との一件でしょうな」

 

「寧ろ最近の日之影は今までよりも更に露骨なまでに桃香様から離れなくなりましたからな」

 

「思い返せば、今までも犬みたいに義姉上の傍にいたのだ」

 

 

 呂布こと恋と黄忠こと紫苑の二人を同時に相手どる模擬訓練戦をほぼ互角以上に立ち回る一誠を見て、桃香に近しかった者達もまた口々に彼の変わり始めている姿を目にしながら声を洩らしている。

 

 

「くっ……」

 

「こ、この前より更に強くなっていますね……」

 

「………………………」

 

 

 逆に、どういう訳なのかその恋と紫苑は今まで碌に一誠から相手にもされてこなかったという意味も含めて微妙に納得ができない様子だが、桃香の一件以降から異常なまでの成長速度を見せる一誠からは相変わらず相手にはされなかった。

 

 

「そこまでだ」

 

「はぁ……はぁ……」

 

「ふぅふぅ……」

 

「………………」

 

 

 結局最後まで恋と紫苑は一誠に傷を負わす事叶わず、一刀の制止により訓練は終了する。

 二人とは正反対に息ひとつ乱すことなく、訓練場を後にする姿に、一刀達は以前桃香が話していた事を思い出す。

 

 

「訳あって日之影は本来の実力が出せないとかどうとかって前に言ってたっけ」

 

「それは私も聞きました。

この前までは恋や翠にかなり苦戦をしていたのが嘘だったように今の日之影殿からは余裕すら感じられる」

 

 

 疲労に膝をつく恋と紫苑を横に、一刀は関羽こと愛紗と、一誠が異質な成長ではなく本来の力を発揮し始めているのではと考察する。

 その考察は当たっており、一誠自身も驚いているのだが、現時点での一誠はまだ完全ではないにせよ少しずつ力を取り戻し始めていた。

 

 

「ま、前よりももっと私を見なくなった……」

 

「恋の事も……他の人と同じような目で見る」

 

「ま、その……なんだ。

日之影の事をどうにかできるのは桃香しかないし、元気だせよ?」

 

「ご主人様、その慰め方は慰めにはならないかと……」

 

 

 逆に恋と紫苑には余計精神ダメージを与えたようだが。

 

 

 

 

 

 

 こうして蜀内部が色々な意味で少しだけ活気付いてくる中、桃香もまた今の自分が出来る事を精一杯やろうとする。

 武芸は愛紗や張飛こと鈴々といった者達と比較すれば劣るものがある。

 それに身重でもある今はあまり無理もできず、周りもさせようとはしない。

 

 しかしそれでも桃香は己の夢の為にじっとする事はできなかった。

 

 生き方も考え方も否定するけど、自分を今まで守ってくれた一誠との約束を守る為に。

 なによりその先の未来のを歩む為に。

 

 

「…………」

 

「えっと、どう?」

 

 

 そんな桃香は合流した一誠と一緒になって座り仕事をしていたのだが、今現在その手を止めてなにやらやっていた。

 具体的には一誠が目を閉じながら不安そうな顔をする桃香の腹部に触れているという……。

 

 

「……確かに小さいけど気配はする」

 

「ほ、本当に!? じゃあやっぱり――」

 

「あの医者はヤブじゃなかったって訳だな。

………しかし本当に俺のガキなんだな」

 

「そうだよ? だって一誠君としかそういう経験なんてしてないし……」

 

 

 どうやら本当に妊娠しているのかという確認だったらしく。

 その結果、本当に小さな命の反応が桃香のお腹の中にあった。

 それはつまり、間違いなくそうなった理由が一誠で確定したという事で……。

 

 

「男の子かな? それとも女の子かな?」

 

「……………………いや、まだそこまではわかんねぇな」

 

「ふふっ♪ きっと元気な子だね?」

 

「あ、あぁ……うん」

 

 

 微笑む桃香に一誠は改めて、人生って訳がわからないと思うのだ。

 

 

「そういえば恋ちゃんと紫苑さんは……」

 

「? あの連中がなんだよ?」

 

「……。あ、いやなんでもない。

ちょっとだけ不安に思うことがあっただけで……」

 

「なにがだよ?」

 

「だってその……。

あの二人は一誠くんを色々と気にしていたから……」

 

 

 そんな一誠の心の呟きはさておき、恋や紫苑について言いにくそうな表情をする桃香。

 どうやら大なり小なり二人に対して女としての勘が働いていたらしい。

 

 しかし当の本人の一誠はキョトンとした顔だ。

 

 

「気にしていた? ……やけに絡んできて鬱陶しいとしか思わなかったが、そういえばあの二人は何で俺に絡んできていたんだ?」

 

「た、多分気になったからじゃない? 色々と……」

 

「色々ってなに?」

 

「い、色々は色々だよ」

 

 

 紫苑は微妙だが、少なくとも恋は正面から己を負かせた一誠に対して一定以上のなにかを持っていたのは桃香も察していた。

 だからたまに一誠が近づかれている姿を見てモヤモヤとした気分を持ったこともあったりもした。

 

 特に恋と一誠はある意味波長が合いそうな気がしたから。

 

 

「色々ね。どっちにしろ俺は変わらないし、これから忙しくなるんだ。

一々構ってられねぇよ」

 

 

 その意味ではここまで徹底的な態度を崩そうとはしない一誠は安心だ。

 徹底的過ぎて自分に対しても酒で泥酔でもしなければ本当に何にもしてこないぐらいには。

 

 

「そっか……」

 

 

 出来ればこのままでいて欲しい。

 そんな事を思ってしまう程度には既に一誠のあり方に惹かれてしまっている桃香が小さく微笑んだ。

 その想いを仄かに抱くが故に……。

 

 

「ね、一誠くん。

ちょっとだけ目を閉じてよ?」

 

「? なんで?」

 

「良いからっ! ね?」

 

「?? これで良いのか?」

 

 

 皆は知らないだろうけど、一誠は割りと子供みたいな素直さがある。

 普段は反抗期の子供みたいな態度ばかりだけど、こうして言ってみれば心配になる程度には素直に応じる。

 

 そんな一面も知っているからこそ、桃香は言われた通り目を閉じた一誠を抱き寄せ……。

 

 

「っ!?」

 

 

 無防備だったその唇に向かって自分の唇を重ねてやるのだ。

 その瞬間目を見開きながら固まる一誠を抱きながら、30秒程口づけをしてみせた桃香は頬を紅潮させながら、ほんの少し名残惜しそうに離れる。

 

 

「酔ってない一誠君とこうしたかったからつい……えへへ♪」

 

 

 そして自身の唇に触れながら悪戯が成功した子供みたいに笑う桃香に、カッチカチの石像みたいに固まってしまった一誠は……。

 

 

「あ、あれ!? 一誠くん!?」

 

「………………」

 

 

 沸騰でもするのではないかというくらいに顔を真っ赤に染め上げ、目を渦巻きのように回しながら桃香にもたれ掛かり、そのままその胸に顔を埋めながら意識をすっ飛ばしてしまった。

 

 正面からにはめっぽう弱い……それが彼なので。

 

 

「ふふ……もう少し休憩しよっか一誠くん?」

 

 

 そんな一誠を抱き止める桃香の表情もまた、見たことない母性に満ち溢れたなにかだった事は誰も知らなかった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「?? なんだ二人とも顔を真っ赤にして?」

 

「なっ、なんでもありましぇん! 桃香様と日之影さんのはわわな光景なんて見てましぇん!」

 

「お、大人過ぎてあわわだったなんて事もありません!!」

 

「は、はぁ???」

 

 

 ―――なんて事は無いのかもしれない。

 

 

終わり




補足

ある意味完成した感じなので、最早ずーっと二人でこんなんばっかやってます。


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