呉√よりもっとさっぱりしとるぜ。
とある筋肉モリモリマッチョマンによって全てが滅茶苦茶な過去世界へとすっ飛ばされた三馬鹿。
その筋肉モリモリ曰く、同じように未来から来る一般人の青年のお助けキャラに成りきれたら元の世界に還すと、ほぼ一方的な要求をされてしまった。
人と魔の間に生まれし半人半魔の少年。
英雄の子孫である青年。
人の限界を常に超え続ける異常な少年。
其々が『普通ではない』ものを持つからこそなのかは解らないし、そんな要求を素直に呑むのは癪ではあった。
然るにそれで帰れるのならばやるしかないと、嫌々自分を納得させる事にした三馬鹿は、この世界において最初に出会った――それこそ後に歴史に名を残す偉人と同じ名を持つ少女達にあれこれ言われた後に配下になったことで、早速つまづいてしまった。
それは、お助けしなければならない青年が、別勢力の長的な位置に居た事。
何より、三人して張り切って青年にとっては化け物そのものともいえる力を見せた事で逆に警戒されてしまったせいで仲間になる以前の状態になってしまった事。
本当ならばそのお助けする青年を発見できた時点で最初に出会った少女達とは袂を別つ計画だったのが、今現在は完全に破綻してしまった。
結果、三馬鹿達は後に魏の国と呼ばれる者達と――――――――――まあ、なんやかんや持ち前のマイペースさで上手いこと生きているのだった。
「俺の隊の諜報結果によると、北郷君達の勢力に例の呂布といった面々が降ったらしい」
「着々と戦力と勢力を拡大してるって訳か……」
「呂布ってーとあの赤髪の女の子だよな?」
「ああ、虎牢関攻めの時に一誠が戦った相手だ」
「やっぱあの子か……。
今もフルパワーに戻れてなかったにせよ、あの時点でマジで死にかける程度にはあの子強かったんだよな。
いやまあ、別に敵対する意思はこっちないんだけど」
「問題は向こうが俺達を完全に妖怪の類として認識していてしまっている事だ。
この分だと仲間にしてくれと言っても無駄で、例の変態の要求通りにはできない」
「実質あの変態からの対価には期待できなくなったって訳だよな? マジかよ……」
「俺は今となってはそれで良いと思うけどな。
だって俺達が北郷とやらの仲間になれたとしたら、そこに居る人達と敵対しなければならないんだろう? 今更彼女達を殺せるか? 俺は無理だ」
「そりゃまあ……」
「凪に悪いしな……」
そして現状の三馬鹿は、元の時代に戻るという点に関しては割りと詰んでいた。
元の時代に戻るためとは言え、お世話になった人達を裏切る事ができない程度には、『身内認定』をした相手には甘くなってしまう。
それが三馬鹿なのだから。
「フルパワーを取り戻し、強引に次元を抉じ開けてこの世界から抜け出すといった方法を試してみるしかない」
「でもそれって完全に戻れる保証が無いんだろ?」
「下手をしたら次元の間に閉じ込められて詰む可能性もある。
しかしこの方法しかないのならやるしかないだろう。
フルパワーを取り戻す事自体はこの先必要だしな」
だから三馬鹿はやり方を変える事にした。
其々が本来持つフルパワーを取り戻すという方法に。
「心配するな、その為に俺の女版ご先祖様から任された警備隊に色々と仕込んできた。
情報を集めやすくする為にな」
「ここに来てからのお前ってクソ真面目に働いてるよなぁ」
「一番のアホだと思ったあの神牙がな?」
「………………。お前達からの褒め言葉として受け取っておくよ」
正規(?)のやり方では帰還するのは絶望的と判断し、別の方法を模索する事になった。
「うーん……」
その方法とは、三人が其々持つ本来の力を完全に取り戻し、その力を使って強引にこの世界から抜け出すという方法。
マッチョマンによる帰還方法とは違って、下手をしたら元の世界に戻れることもなく次元の中へと閉じ込められてしまう博打にも近い方法ではあるが、今のところそれしか思い付かないので、少し真剣になってパワーを取り戻す修行に打ち込んでみる。
「………………うーん」
しかしこの世界に来てからというもの、三人は未だにフルパワーを取り戻せてはいなかった。
それはまるで、誰かによって本来あるべき力を押さえ込まれてしまっているような感覚があり、引き出そうにも引き出せない。
それ故にこの世界の強い武将辺りに割りと苦戦し、戻すにしてもどう戻すのかすらわからないので、完全な手探り状態。
試しに瞑想の真似事をしてみても――特になにもない。
「さっきから変な顔しながらなにをしているの?」
どうせすぐ帰るし。
そんな楽観的な考え方がここにきて尾を引いている状態である三馬鹿の一人である一誠は、今現在三人と比べると割りと自由に動ける立場というのもあって、訓練場でトレーニングをしていると、いつの間にかそこに居たらしい、この勢力の王ともいうべき存在にて、例の神牙の女版ご先祖こと曹操が、怪しい奴でも見るような顔をしながら一誠に訊ねてきた。
「フルパワーを取り戻すための修行」
「ふるぱわー?」
「あ、えっと……全盛期って意味。
俺もヴァーリも神牙も未だに本来の力を取り戻せてなくてよ。
今まではそれでなんとかやれてたけど、この先の事を考えたら、やっぱ全盛期を取り戻すべきなんだろうなぁ……と」
左の拳を突き出しながら女版曹操こと華琳に全盛期を取り戻そうとする旨を話す一誠。
「よ! はっ! ほっ!」
「…………」
空を切り裂くような音と共に身体を動かして見せる一誠を華琳は暫し黙って見つめ、やがて口を開く。
「それは北郷って天の使いの下に呂布といった連中が降ったって話と関係があるの?」
「まぁね。
前にあの子とタイマン張った時、一歩間違えたら死ぬかもしれなかった程度には真面目に苦戦しちまったからな。
結局彼のお助けにはなれそうもないし、こうなりゃあ一応の備えは必要だろう?」
普段は互いに些細な理由で子供じみた取っ組み合いをする華琳と一誠だが、この時は真面目な会話だった。
「たいまんって言葉は一対一という意味なのはなんとなくわかったわ。
確かに北郷達の勢力は日増しに大きくなってはいるし、もしかしたら事を構える日が来るのかもしれない。
……今のところは無いにせよね」
「俺としてはあんま敵対とかしたくないんだけどね」
「アナタ達からしたら北郷を助ける事が元の時代へ戻る方法だものね」
「そういう事。
最初に出会したのがお前達でなくて彼等だったら、こんな困る事も無かったんだけど………」
「………………」
「ま、今更うだうだいっても始まらない。
とにかく今はフルパワーを取り戻さねーと……」
そう言いながら真剣な顔で身体を動かす一誠の姿を見て、華琳も流石にちょっとした罪悪感を感じた。
確かに自分が尤もらしい事を言って三人を引き留め続けていなければ三人は今頃元の時代へと戻れていたのかもしれない。
彼等にとってその場所は故郷であることを考えると……。
「? さっきからなんだよ?」
「…………いえ、少し考え事をね」
けれど今更そんな事は言えない。
というか特に一誠には言いたくない――と言ったちょっとした複雑な感情を抱える華琳。
「考え事? ……………ああ、お前まさか、自分等が無理矢理引き留めてなかったら今頃俺達はもっと楽に帰れたのかもしれない―――なんて考えてるのか?」
「………………違うわ」
そんな華琳に一誠が見透かしたように言う。
華琳にとって微妙に悔しいことの一つともいうべき、たまに発生する自分に対する察しの良さに、言葉を軽く詰まらせてしまう。
「違うって言う奴のするツラじゃあねーな? ったく、その通りなら何でもっと早く俺達を捨てなかってんだっつーの」
「それならどうしてアナタ達は出ていかないのよ?」
「あ? そりゃあアンタ等がムカつく連中だったらとっくにオサラバしてやってたよ。
けど、神牙とヴァーリは少なくともアンタ等を良い奴と思っているしな……それに何だかんだこの世界ではアンタ等から世話になっちまってるし」
受けた恩や恨みは絶対に忘れない性格だからこその言葉に、華琳は訓練場の隅っこに置いてある岩に腰かけて水を飲む一誠に近づく。
「神牙とヴァーリがそうなら、アナタは?」
そして訊ねる。
一誠自身はどう思っているのかを。
すると一誠は水を飲む手を止め、数秒程華琳を見てから言った。
「神牙やヴァーリとヴァーリはなんだかんだ美少女達と仲良くやれてるってのに、俺はチビで寸胴で偉そうな貧乳女にコキ使われてる事に不平等さを感じてやまないだけだな」
「……………」
そう言ってから『ケケケっ!』と悪い顔で笑う一誠の言う、チビで寸胴で偉そうな貧乳女が自分の事であると直ぐ様理解し、イラっとした華琳は思わず地面に落ちていた石を拾って投げつけてやりたくなる。
「チビで寸胴で偉そうで貧乳女だけど良い奴だとは思う。
だから……あー……俺も同じで、仮にもし北郷君が俺達を仲間にしてくれるって事になってても多分行かない」
「………。チビで寸胴で偉そうで貧乳な女なのに?」
「おう。
チビで、寸胴で、偉そうで、貧乳女で、自分に自信たっぷりでもな」
けれど投げることはせず、ヘラヘラと笑う一誠の顔を見ていると自然と身体の力が抜けていく。
目の前の男が自分に対して敬うといった気持ちが皆無なのは最初からだった。
そのせいで何度も子供じみた喧嘩を繰り広げてきた訳だけど、それが決して嫌ではなく、楽しいと思う自分が居た。
「あー……でもこの前の戦争の時に見た褐色美人軍団から勧誘されたら即答で寝返っても良いかも……」
「………………」
「確か孫堅だかそんな名前の……いやホントドツボそのものなおねーさん達だったもんなぁ――――いでっ!?」
だから自分の真逆の姿をした女ばかりに鼻の下を伸ばす一誠に一旦はその気が失せていた石投げをしてしまうし……。
「な、なにすんだコラ!!」
「この私がアホな顔をしていたアナタを注意してあげただけよ? 光栄に思いなさい?」
「思うかこのド貧乳が!!」
「ド貧乳じゃないわよ! ちゃんとあるわ!!」
「ねーから言ってんだろうが!! まな板よりひでーしなぁ!!」
気付けばいつもの通りの喧嘩をするのだ。
それが例え、騒ぎを聞き付けた兵や配下達に見られても構わず、一誠と頬の引っ張り合いをしたりして……。
「このっ! このっ!!」
「こ、このやろっ! 中々やるじゃねーか……! だがっ!!」
終了
オマケ…ほんの先の未来。
ほぼ毎日痴話喧嘩ばかりの華琳と一誠。
ある意味でお互いに本音をぶつけ合っているからなのかもしれない。
「勝手に呼びつけておきながら、害悪扱いとは恐れ入るぜまったく……」
「お互い、随分と嫌われたようね……」
「まったくだ。
ただ、お前の場合はまだ引き返せるぜ? 北郷君達と組んで俺達を排除しようとすればな。
そう考えると、もしかしたらこの世界における明確な『悪役』を作る為に奴等は俺達をこの場所に飛ばしたのかもしれねぇな……」
お互いこの世界の悪役としての立場になってしまった。
一誠達はそんな華琳達に今ならまだ引き返せると言うが、華琳はそんな一誠の言葉を鼻で笑って一蹴する。
「その連中の目的がそうだったとしても今更変わらないわ。
アナタ達と一緒に居るから悪だとしてもね。
私の生き方は私が決めるわ―――どこの誰も知らない連中の決めただけの正しさ等に興味はない」
それは三馬鹿達の生き方に酷似した覚悟の炎。
魏に居るもの全てが持つ『自我』。
「敵はこの世界を見ている管理者とやらを含めた全て!
その全てを叩きのめした時こそ、真の覇道となる!!
我等に後退は無い! あるのは前進勝利のみ!!」
覇王の気迫を覚醒させし魏の王は走る。
そして痴話喧嘩も続く。
「すぴーすぴー……」
「か、華琳様の膝でこの男は……!」
「どこまでも華琳様に図々しい奴め!」
「良いのよ二人とも。
今回ばかりは一誠達が居なかったら間違いなくこちら側が負けていたわ。
それに、こんなにボロボロになってでも私を守ろうとしてくれたもの……このくらいはね」
「………。文字通り華琳様に向けられた全ての盾になったからな一誠は」
「それは……認めるけど」
「しかし華琳様にこんな事をされるのは悔しいぞ――って!? 何をしている一誠!?」
「くーくー……ふふっ」
「ちょ、こ、この変態男!? 華琳様のどこに顔を……!!」
「だ、大丈夫よ……。
でも流石に気はずかし――ぁ……」
これまでも、これからも。
「ん……俺は一体――――のわっ!?」
「起きたわね一誠? よく眠れたようで良かったわ」
「な、なんだ!? な、なんで華琳が俺の布団に!? て、てかなんで素っ裸!?」
「アナタが私に抱きついたまま離さないで眠るから仕方なく運んであげたら、そのままアナタが私の服を脱がせた挙げ句胸をずーっとこうしてくれたのよ。
ほら、お陰で跡になっちゃったわ」
「」
「別に良いわよ? ただ……アナタ好みの大きさで無くて悪いけどね? ふふ……!」
「い、いや……」
「ほら、今度は私の番よ? まったく、子供みたいにしてくれちゃって……ふふふっ!」
「お、おう……」
終わり
補足
どこでも共通することは、三馬鹿が『いい人』と認めるとそれが例え自分達の目的の為だとしても裏切れなくなります。
その2
この√は基本的に曹操(神牙)が部下とToLoveるしたり。
ヴァーリは天然で金髪さん二人とのほほんとしたり。
一誠は――ずーっと痴話喧嘩しとります。
その3
その内悪役としての役割を誰かに振られてしまう可能性が高い。
もっとも、その場合は確実にそのツケを払わせる為に暴れ倒すけど