神器ではない力。
所謂『精神』の力。
俺達がその領域を知って辿り着いた時から、俺達はもっと先に行けると確信できた。
それはバラキエルのおっちゃんも、朱璃さんも、朱乃ねーちゃんも同じ。
もう二度と間違えない為に。
もう二度と失わない為に。
それがどんなに間違えていても、俺は進み続ける。
リアス達が学園を暫し休学してからの駒王学園は、学園のアイドルが居ないという意味で大騒ぎする生徒が出てきたのだが、『一切の妥協をやめた』風紀委員長が瞬く間に鎮静化させた。
取り締まる側というのは往々にして嫌われやすい立場になりがちだけど、他人に嫌われる事には慣れている霧島一誠にとってはなんの痛手にもなりはしない。
問題はその覚悟を持つ者が他に居らず、風紀委員としての資格がないせいで、一誠一人という状況だ。
流石に人手不足感は否めないし、この学園は斜め上的な意味での風紀違反者が決して少ないは無い。
今の所は、妥協をやめた一誠が徹底的に取り締まった事で大人しくなりはしたが、それも長く続くかどうかはわからない。
だからせめて後3人……。
出来れば己の後を継いでくれるという意味では後輩が風紀委員会に入ってくれたらと一誠はちょっとだけ思う。
「没収した成人雑誌はキミ達の親に返しておいたよ」
「はっ!?」
「なんで!?」
「当たり前だろう。
そんなくだらんものを持っているのは親の責任じゃないとでも? だからおたくの18にも満たない息子さんは、学園にこんな低俗な雑誌を持ち込んで、女子達の目の前でわざと読んでいるときっちり説明したよ。
説明した後、泣きながら謝られてね……きっと情けなかったんだろうね。
………多分帰ったら其々の親父さんに半殺しにされると思うけど、よく反省するんだな」
「「…………」」
風紀委員長・霧島一誠の代はまだ始まったばかりであり、今日も懲りずに低俗なものを持ってきた者達に対して其々の親に話をしたと告げた。
表立って風紀を乱す者こそ減ったものの、隠れて違反をするものはまだ多い。
「化粧品の持ち込み、そして化粧をするのは学園では禁止されている」
「じょ、冗談じゃないわ! アンタに何の権限があって――」
「風紀委員会だ。
第一、こんなものを使ってテメーの顔を塗りたくらなきゃ勉強できない訳じゃあないだろう? それでも塗りたくたいのなら学園の外でやってろ。
ここではやるんじゃねぇ」
噛み殺す正義とやり過ぎる正義を継承した結果、『徹底して破壊する正義』を打ち立てた霧島一誠に搦め手は一切通じない。
男子であろうが女子であろうが平等に執行する。
「ねぇ霧島君? もし見逃してくれたらイイコトしてあげるから――」
「そうかい……ならサンドバッグになれや? 最近物をぶっ叩いて無くて運動不足でさぁ?」
「」
くだらない色仕掛けなんて仕掛けようものなら地獄を見る。
風紀委員長は今日も孤独に、そして冷徹に委員会を切り盛りするのであった。
そんな徹底して破壊する正義に対して不満を覚えない生徒はかなり少ない。
だからこそ風紀委員会の横暴さに対してのクレームは多く、そのクレームは対抗馬とされる生徒会にしょっちゅう送られてくる。
「会長、今日も目安箱には風紀委員会についてのクレームの投書ばかりです」
「…………」
「こういうのも伝統なんだけどね……」
「ただ、彼がたった一人で風紀委員を歴代と変わらず運営させているお陰で、校則違反者がかなり抑え込まれているのも事実なのよね……」
「どうします会長? ………ダメだわ、完全に折れちゃってる」
しかし一誠によってハッキリと無能集団と見なされてしまい、最早ただの雑草扱いまでされてしまうまで落ちぶれた現生徒会に、彼への対抗力は殆ど無くなってしまっており、また会長であるソーナ自体が一誠に毛嫌いまでされてしまっている始末。
故に多くの生徒達のクレームを処理が全くできなくなってしまった。
「しかも彼、生徒会以外の各委員会の仕事のお手伝いまでしているって話だわ」
「うん、私も昨日見た。
美化委員会と一緒にお花を植えていたわ」
「だから委員会所属の生徒達からのクレームは一切無いばかりか、求心力は私達生徒会を越えている」
「それなら確かに、私達の存在する意味がわからないって霧島君から言われても仕方ないかも……」
『…………』
人気という意味ではダブルスコア以上で風紀委員を越えている生徒会だが、各委員に所属する者だけに絞れば、多くの意味合いで生徒会はただ一人の風紀委員長に劣っている。
そして何よりもソーナにとってショックだったのは、幼馴染みでもありライバルでもあるリアスと比較され、圧倒的に劣っていると揶揄された事だろう。
それはつまり、悪魔としての価値すら一誠にとっては皆無であると言われたのだから。
「だからって会長にあんな言い方するなんて酷すぎるでしょうよ。
会長は悪くないのに……」
唯一の男子にて兵士の、一誠と同学年の少年が恨めしそうに呟くものの、全員が苦笑いをするだけだった。
「私、どこで間違えたのかしら……」
『……』
悪魔としての主の力無き声に誰も答えることができない。
「悪いわね霧島君。
こんな事にまで手伝って貰っちゃって」
「いえ、これも風紀の為ですし」
「まだ中学生だった先々代の頃からアナタの事は知っていたけど、やっぱりアナタって律儀よねぇ」
「借りも貸しも作りたくないだけですよ」
「あ、霧島と……あれは図書委員長」
「やっぱり委員会所属の者には人気あるわね……」
「なんで彼女には普通に対応するのに私には……」
「お、落ち着いてください会長……」
さて、最早生徒会なんて意識するに値しない存在へと認識をした一誠はといえば、図書委員長の仕事を軽く手伝った後、修行の為に休学することになったグレモリー眷属の活動場所である旧校舎に赴いていた。
普段は見回りといった程度でしか立ち寄る事は無いのだが、休学する前に朱乃から頼まれた事があるので、一誠は旧校舎のとある一室へと向かっていたのだ。
それは……。
「あ、イッセー先輩……!」
「おう」
この旧校舎にリアス曰く『封じてる』という存在の食事を代わりに運ぶ事であった。
「わざわざありがとうございます……!」
「ねーちゃんから頼まれたからな」
薄暗い教室を改造した部屋に居たのは、薄い金髪と赤い目をした少女――のような少年で、やっぱり少女。
訳あってこの旧校舎に封じられている――というかほぼ自分から進んで封じられているという名の引きこもり生活をしているこの者の名はギャスパー
リアス眷属の僧侶であり、そしてハーフの吸血鬼でもあった。
「まさか皆さんが留守の間にイッセー先輩が来てくれるなんて思わなかったです」
「ああ、俺も思わなかったな。
二度とそのツラを見ることなんてねーとすら思ってたし」
「う……て、手厳しいなぁ……あははは」
そんなギャスパーとイッセーは朱乃とリアスを介して過去に何度か顔を合わせた事がある。
故に対人恐怖症気味なギャスパーが意外な事に怖がらない数少ない相手の一人であり、またイッセーもギャスパーが如何にしてこういう生活をしているのかを知ってはいるので、微妙ながらも風紀執行の対象外としていた。
「皆さんは修行に出掛けたといっていましたが、大丈夫でしょうか? 僕の知らない間に眷属がお二人加入したって」
「さぁな。朱乃ねーちゃんは問題ないにせよ、残りに関してはかなりどうでも良い」
「で、ですよねー……?」
そしてギャスパーは近々行われるゲームには参戦しない為修行もしない。
だからこうして留守の間の世話を頼まれたのだが、ギャスパーはともかく、イッセーは特にギャスパーに思うところが無いので淡々とした態度だ。
「あ、おいしい……。
この料理はイッセー先輩が?」
「ああ。
味付けなんぞ適当だがな」
「でも結構美味しいですよ? あっさりとしてて食べやすいです」
「あっそ」
見るからに虫も殺せなさそうな少女的な出で立ちのギャスパーが、イッセーがかなり適当に作った食事をパクパク食べている姿をなんとなく見る。
性格としてはギャスパーからしたら恐怖の権化と見なしても違和感が無いイッセーに……というかある意味ではイッセーにだけは妙に懐いている。
「で、外に出る気は?」
「う……ま、まだちょっと怖いかなって……」
「………」
自分には無いモノの塊だからのか。
周囲の評価なぞ糞喰らえを地で行くからなのか。
とにかくギャスパーはイッセーに懐いている。
そういう意味ではもし引きこもりを克服できさえすれば風紀委員の後継者候補なんかにできそうなものだが、イッセーにその気は全く無い。
気があまりにも弱すぎるから。
「風紀委員の腕章……かっこいいなぁ」
「………」
「ちょっと僕も着けてみたいなー……なんて」
「ダメだ。これは風紀委員に入った者だけに渡される奴で、この腕章は先代から渡された委員長専用のものだ」
「わ、わかってますよ。
あの長ラン……でしたっけ? あの長ランと腕章を着けた先輩ってカッコいいから、僕もちょっとって思っただけです……」
「そんなに着けたいならこの引きこもり生活を『自分の意思』でやめて復学して風紀委員に入るんだな。
もっとも、入るには歴代恒例の試験をパスしなけりゃあならないけど」
「……」
逆にギャスパーは割りと風紀委員に対する一種の羨望を持っている模様。
しかし憧れだけでは風紀委員に加入することは出来ず、いくら人手不足であろうが例外は認めないイッセーは毅然とした態度を崩さない。
「男の子の身体になったり女の子の身体になったりする僕なんて気持ち悪いですもんね……」
しかしギャスパーはそんなイッセーの言葉に対して自信がない表情で呟く。
そう、兵藤凛の知識にはないギャスパーの『秘密』。
その秘密が、ギャスパーを『自分か誰なのか』を解らなくさせ、そして自分への自信を失わせている原因。
「きっと外の人たちが知ったら化け物だって言います……」
「どっちもお前で良いだろ。
精神は紛れもなくお前なんだし」
「そうやってサッパリした事を言ってくれるのはイッセー先輩くらいですよ……」
「嘗めた事を抜かしてきたらぶちのめせば良い。俺はそうしてきた」
「そ、そんな強く無いですし僕…」
そしてそんなギャスパーの体質に対して『どっちでも良いし、どっちもギャスパー』と見なして対応するからこそ、ギャスパーはイッセーに懐いている。
「副部長が羨ましいです……」
「………。それ食ったらお前の神器の制御を見てやるよ」
「えっ!? い、良いんですか?」
「朱乃ねーちゃんに頼まれたしな。それに完全下校時刻も過ぎたし」
「わ、わかりました! ……えへへ♪」
自分の生き方を変えない風紀委員長に憧れる者……それがギャスパーの今である。
「あ、もうひとつ聞きたいことが……。
今の生徒会とはやっぱり敵対関係なんですか? 確か今の生徒会は部長の幼馴染みのシトリー様ですけど」
「敵対という認識なんてしたことは無いな」
「え? それじゃあ――」
「そこら辺のダンゴムシにすら劣る連中なぞ、居ても居なくても俺の人生になんの影響もねーぜ」
「Oh……。
チラッとはお聞きしていましたけど、そんな認識にまでなっていたのですか。
なんというか、ある意味あの方々は平和に生きられそうでなによりですぅ……」
そして……
「ギャスパーは大丈夫かしら……?」
「大丈夫でしょう。
あの子はイッセーくんに懐いていますから。それよりも集中してください」
「わ、わかってるわよ……。しかし凛が思いの外強い事に驚いたわ。
やっぱり彼の姉というのは本当なのかしらね……?」
「……………」
「ご、ごめんなさいって! 別にそういうつもりで聞いた訳じゃないわ!」
「………………………………」
(か、彼と暫く離れているせいか、ちょっと怖いわ……。
何と無く朱乃の目に『黒い炎』が燃えているように見えるし……)
目的の為ならばどんなことでもやるという覚悟によってたどり着く漆黒の意思は磨かれていくのだった。
「と、ところで朱乃? あの時彼が言っていた『見せて貰う』ってどういう意味?」
「力の度合いとかそういう意味ですわ。
…………まあ、アナタのご想像通りでもありますけどね?」
「や、やっぱり? 参考までに聞きたいのだけど……ど、どうなの?」
「どう? どうとは?」
「その……彼って優しいのかなって」
「それはもう……。
ふふ……ただ、たまにだけど『ちょっとだけ乱暴になる時も』ありますけどね?
まあ、私がそうして欲しいって言うからですけど」
「へ、へぇ? Sなアナタが……? まったく想像できないわ。
私てっきり何時もの調子でアナタが彼にあれこれと……」
「イッセーくんにだけはそうなっちゃうだけですわ。
よく両親から言われますもの『間違いなく自分達の子だ』って。ふふふ……」
(確かに彼と一緒に居るときの朱乃って、結構子供っぽくなるわ……)
「ちょ、大丈夫かい凛さん!?」
「祐斗先輩の竹刀がもろに顔面に……」
「ら、らいじょうぶ! ちょ、ちょっとぼーっとしちゃった……アハハハハ! (き、聞きたくない事を聞いてしまった。
や、やっぱりそうだったんだ……い、イッセーは副部長と……うぐぐ……!)」
続く?
補足
ただし、委員会所属の生徒からの受けは総じて悪くはない。
というか、半ば放置している生徒会にも似た活動をやっているので、委員所属の生徒と一般生徒の両組織の支持率は逆転している。
その2
ここで登場ギャーくん。
実は結構前の時点で知り合ってて、引きこもる理由が理由な為、例外的に風紀執行の対象外。
そして割りと懐かれているのと―――ら◯ま1/2的体質というびっくり体質持ち。
その3
てか、神転人間と漆黒の意思搭載覚悟あけのん居る時点で普通に負ける要素がないというね。
そして基本ドSだけど、イッセーと居ると精神年齢が幼くなって割りとMっ娘さんになるらしい……。