色々と間が悪い……
こんな俺のことをあの人達は受け入れてくれた。
普通なら信じないガキの戯言を信じ、そして迎え入れてくれた。
だから俺はこの恩を一生をかけて返し続ける為に生きる。
そしてもう二度と目の前で失いたくないないから。
無力で抗うことも出来ずに恩人が死に行く姿を……大好きな人が冷たくなっていくあの感覚を二度と感じたくはないから俺は強くなる。
その為ならば――――守れる為ならば俺は喜んで人を辞めてやる。
恩を返す為? 違う……好きだから。
誰に命じられた訳じゃない。
誰かの意思でもない。
これは俺では無くなった『俺』の持つ本当の意思。
それが正解や不正解だの善か悪なんて関係ない。
例えこの生き方を否定し、世界が俺を排除しようとするならやってみろ。
俺は――俺達はそれでも抗って、テメー等に中指でも突き立ててやるよ。
こんな俺を受け入れてくれたバラキエルのおっちゃんや朱璃さん――そして朱乃ねーちゃんの為に。
ああ、ちなみに姫島家本家を含めた五大宗家連中に関しては虫けら同然にどうでも良いというか―――面白半分に絶滅させたくなる程度にはアレだとは思うし。
リアスが結婚させられるか否かの件自体に全く関心が無い一誠は、後日リアスと朱乃から『悪魔式のゲームに勝てたら婚約の話を白紙にさせられる約束を取り付けた』という話を聞いた。
その悪魔式のゲームについてはある程度朱乃から聞いていたこともあったので何となく把握はしていたというのもあり、朱乃が女王として居る以上は負けることはまず無いと一誠は思った。
とはいえ、そのゲームの為にリアス達が暫し休学するという話を聞いた時は流石に動揺はしたが……。
「え……そのゲームの日前日まで休んで修行するって?」
「ええ、ゲーム自体これが初めてになるし、グレモリー家が保有している土地を使って暫く皆と修行をしようかと思って……」
「あ、ああ……そうですか」
言っている事は至極まともだし、約10日程の休学に関してもきちんと学園側に通している為に何の問題も無い。
寧ろその期間内を呑気に過ごしていたら、反射的にシバき倒していた事を思えばリアスはそこまでバカではないと思う。
しかし問題はその期間をグレモリーの土地で寝泊まり込みで過ごすという話だ。
「ちゃんと朱乃ご両親にも話を通したわよ?」
「あ、うん……そうなの?」
「ええ、間違いないし二人も了承しているわ」
「ほ、ほーん?」
つまり10日は朱乃とは会えません。
そう言われてると同義。
「えーっと、頑張ってくださいね。
もし負けたら問答無用で朱乃ねーちゃんを連れ帰りますので」
「そうならないように頑張るつもりというか、文字通り必死になるわ」
努めて平静を装う一誠だが、その顔はかなりひきつっていた。
「さ、さーってと! 話も大体わかったし、俺はそろそろ戻ろうかなっ! 風紀委員の仕事もあるし!」
『………』
そう言いながら部室を去ろうとする一誠はあからさまに動揺しっぱなしであり、その場に居た全員が気づく程であった。
というかさっきから朱乃をチラッチラと見ているせいで何を意味しているのかが丸分かりだった。
「あ、あのー……」
そんな一誠を見て、やはり知識とは違う展開だと思った凛がリアスに提案をする。
「どうしたの凛?」
「その……もし一誠が良いなら、この修行に付いて来て貰った方が良いんじゃないかなって……。
ほ、ほら! 一誠は強いし! 神器も持っていて一番扱いに長けてそうだし!」
結局転生悪魔にはならず――いや、堕天使達を相手に何の躊躇いもなく無傷で殺害した姿から察しても、リアスの遥か上の領域ゆえになりようが無いと悟った。
しかしそれならばと知識の通りにある程度歩ませられるはずだと思ったが故のこの提案。
「凛先輩……」
「それは、どうかと思うよ?」
「ど、どうして? だって一誠は強いんだよ? 皆で一誠に教えて貰った方が……」
だが凛の友人達はそれに対して難色を示す。
というのも、霧島一誠自体が朱乃の幼馴染みで失踪した兵藤凛の弟というだけの事で転生悪魔ではないのだ。
加えて彼は朱乃以外の全てに対して無関心過ぎる。
なので凛の言う『コーチ』は決して勤まらないと思うのだ。
第一、凛の提案に対して一誠の反応が『ありえない』という反応なのだ。
「キミの提案には驚いたけどね兵藤さん。
残念な事に俺はただの外様だから無理だよ」
「え、でも……」
「それ以前に10日も学校から離れたら、間違いなく風紀がまたおかしな事になるからな」
凛自体に対しては虫以下の認識だが、ただの会話だけならば意外にも普通にできたりする一誠は、風紀委員長であることを理由に丁重に断る。
が、そう言っている間も一誠はチラチラと朱乃を見てばかりだ。
「…………。風紀委員の事を暫くソーナ達に頼んでみたらどうかしら?」
そんな一誠を見てリアスが何抜きなしに提案する。
だがその瞬間、一誠の表情がガラリと変わってしまう。
「俺に、あんな眼鏡悪魔風情に頭を下げろと?」
「め、眼鏡悪魔風情って……」
その豹変っぷりにリアスは内心『しまった』と自分の軽はずみな言動を後悔する。
元々風紀委員会と生徒会という立場からして不仲に加えて、一誠の場合は特に会長であり、リアスの幼馴染みでもあるソーナを酷く毛嫌いしていた。
「あ、頭を下げろとは言わないわよ? ただ、今の風紀委員会はアナタ一人だけだし、少しだけ生徒会に業務を分けた方が良いんじゃないかなぁ……と」
「就任早々俺のやり方にケチ付けるだけ付けて代案は全く出さねぇ。
言うだけ言って暫く大人しくして様子を見ててりゃあ、言ったテメー等はなんもしねーで廊下をほっつき歩くだけ。
やってることといえば全校集会の挨拶だけ。
………そんな虫けら同然の連中に風紀委員を一日たりとも――いや、一秒たりともやらせたくなんてねーよ」
「あ、いや……」
「黙ってた間にどれだけの生徒共が違反したと思う? 奴等の目の前でふざけた二人組の男子が女子に対してセクハラかましてようが、成人雑誌持ち込んで読みふけってようが、奴等は何をしたと思う? ………自分等には関係ないならとばかりにスルーだぞ?」
「そ、そうなの? そこまでは知らなかっ――」
「俺は中学の時点で先々代の恭ちゃん先輩に強引に委員会にぶちこまれて仕事をさせられ、入学してから冥ちゃん先輩の下で叩き込まれてきた。
その間、其々の代の生徒会と色々とやりあってきたのを見てきたからこそわかるんだよ。
ハッキリ言ってやる……今の代の生徒会はただテメー等が悪魔としての活動の隠れ蓑にしているだけの、歴代でもっとも最低な生徒会だ。
そんな奴等に任せる? 十日どころか二日で崩壊するぜこの学園の風紀は!」
『……………』
色々と貯まっていたのだろうか。
嫌悪丸出しに吐き捨てまくる一誠に、リアスも途中から全く庇えなくなった。
「だからな兵藤さんよ。
悪いがキミの提案には乗れねぇ」
「は、はい……」
と、軽く血走った目で言われた凛も引き下がるしかなく、それと同時に自分より更に彼女等が嫌われているという事実にホッとしてしまう。
これもまた知識とはまるで違う関係性だとしても。
「という訳でねーちゃん」
結局こうして凛の思惑はまたしても壊される結果となる中、毛嫌いの感情が昂りすぎて軽く興奮状態の一誠が、先程から何故かソワソワしながら一誠を見ていた朱乃を呼ぶ。
「行くのは明日からなんだろ? ………家に帰ったらちょっと見せて貰うぜ?」
「! う、うん……!」
『?』
(家って……そっか、一緒に住んでるんだよね……。
一緒に……いいなぁ)
見せて貰うの意味がわからずに首を傾げるリアス達の横で、妙に嬉しそうに頷く朱乃と、そんな朱乃を見て嫉妬の気分を沸かせる凛。
無関心を通り越したなにかとなったが故に基本的な会話が成立してしまうのは最早皮肉なのかもしれない。
ソーナ・シトリーは悪魔で生徒会である。
そして役員達は全員ソーナの眷属である。
つまり悪魔としての活動の隠れ蓑として生徒会に属しているのは紛れもない事実ではある。
ただ問題は先代までの生徒会達が全て風紀委員会に対抗できるだけの『説得力』を兼ね備えていたのに対し、ソーナ達には現在それが全くなかった。
それ故に、たった一人という所まで勢力が弱体化した風紀委員に勢いで負けている。
「真面目に、誠意を以て生徒会を執行しましょう。
そうすれば少なくとも霧島君も好敵手として少しは認識してくれるわ」
「それはわかりましたが、何でそこまであんな奴に……」
それには一応の理由があるのだけど、先日こてんぱんに罵倒されてしまったソーナは、まず真面目に生徒会としての業務を行って、決して自分達は無能ではないという証明をすることから始める事になった。
その妙な主の張り切りっぷりに対して、何人かの眷属達は何故そこまでと思いつつも従う。
だがソーナ・シトリーは呆れる程に間が悪かった。
何故なら、無能呼ばわりされてやっと火がついたこのタイミングで、朱乃ロスが確定して鬼のように機嫌の悪い一誠がイライラした顔で廊下を歩いてくる姿を発見してしまったからである。
「…………………………」
「き、霧島君が……でも機嫌悪くない?」
「多分悪いと思う……なにかあったのかな?」
「か、会長、今彼と顔を合わせるのはやめましょう?」
すれ違う一般生徒全員が、恐怖の風紀委員長であるなた加えて、明らかに殺気立ちながら歩いている一誠を見て完全に怯えて着衣の乱れが無いかと必死になっている光景に、眷属達は主に彼に見られないように引き返そうと提案する。
「馬鹿な! 私達は生徒会! 風紀委員の好敵手である以上、彼から逃げるなんてありえないし、今こそ私達が本当の意味での『生徒会』となったことを知って貰うのよ!」
しかしソーナはなんだかんだで冥界で魔王の一人をやっている妹なのか、変な所でハートが強く、眷属達の制止を振り切って無駄に堂々と向こうから歩いてくる彼の元へと歩き始めた。
勿論慌ててついてくる眷属達は不安しかなかった。
「きっ、霧島くん!」
「あ゛?」
「ぅ……!」
そして止せば良いのにまたしても突撃してしまうソーナは、明らかに苛立ちマックスな様子の一誠にちょっとビクッとなってしまうし、なんならちょっと泣きそうだ。
(ま、負けないでソーナ・シトリー!)
しかし己を鼓舞するソーナは力強い眼差しを送り、宣言する。
「アナタの言う通り、私達は生徒会としては確かに能無しでした! ですが今から……たった今から先代達のような生徒会に生まれ変わる事を誓います!」
「……………………」
「だから――」
普通なら覚悟を示したという感じで、よくありそうな青春漫画的な展開というか、返しが一誠からされる程度には中々の啖呵だ。
しかし最早最初からリアス以上に何の期待もしちゃいない一誠は……。
「はぁぁぁ……」
「え……」
本当に心底どうでも良さそうに深々とため息を吐くと、そのまま何を言う訳でもなく行ってしまった。
罵倒するでもなし、冷たく突き放す訳でもなく、ただただつまらないナマモノが変な言葉を発している所に遭遇して萎えましたとばかりに。
「ひ、酷い……」
「ど、どうしてそこまで会長のことを……」
これには眷属達も憤慨をする。
けれどそれ以上に――無視以上のなにかとしか思えない対応をされはソーナ本人はといえば……。
「ふ、ふぇ……! う、うわーん!!」
子供のように大泣きしたのであった。
結局の所、色々と手遅れだったのだ。
終わり
おまけ
悪魔のゲームに備える為の修行で10日程帰らない事に酷く一誠は動揺した。
しかしそれは朱乃も実は同じだったりする。
なので今夜の二人は――多分死ぬほど露骨だった。
「なんだろ、何時まで経ってもガキだよな俺達って?」
「うん。でもそれでも良い……」
「それは俺も思うかなー……」
どれくらい露骨かというと、家に帰宅してからの二人は常時引っ付いてた。
お風呂の時もひっついていたし、宿題をする時も引っ付いていたし、朱乃のスキルのコントロールの訓練をする際もひっついていた。
単なるバカップル呼ばわりされても否定が一切できない程度には露骨な二人は、当たり前だが眠るときも引っ付いている。
大きな一枚の毛布にひっつき合いながらくるまる姿は、どこかの世界のリアスと一誠を彷彿とさせる。
そして……。
「何かあったらすぐ行くから、頑張れよねーちゃん?」
「うん……イッセーくんもね?」
「おう……じゃあおやす――」
「いや……! 今日はお母さん達に聞こえないようにしたわ。
だから――イッセーくんをちょーだい?」
「……。喜んでだぜ、朱乃ねーちゃん」
その繋がりもまた同じように強くなり続けていくのだ。
補足
基本学校ではちゃんと自重しますが、その分家だの他だのじゃ爆発的なバカップル化しちゃう。
ですので、ロスが入ると割りと困る模様。
2
覚悟するタイミングが壊滅的に遅くて悪かった。
お陰でどう足掻いても無駄に終わる。
3
今回は聞こえないように仕掛けたから問題ないぜ! ………普通にお母さんは察してますけど