堕天使相手だと残虐度100倍化。
兵藤凛という転生者が居る。
どこかで聞いたことのあるような、それこそありふれた理由で兵藤一誠の双子の姉という形で生まれ変わる予定であった。
しかし、何かの『妨害』があったのか、それとも神がそうさせたのか。
兵藤凛は確かに兵藤一誠の姉としての転生こそ果たしたが、その転生の方法は生まれ変わったのではなく、それこそ一誠にとってすれはある日突然沸いて現れたように現れたという形になってしまった。
勿論、転生にあたり一誠の両親の記憶が改竄される事で正真正銘の兵藤家の子として初めから存在しているという認識をされている。
だが、誤算だったのは、一誠自身はその改竄の影響を一切受けていなかった事だ。
つまり、一誠は自分に姉なんて存在している訳もなく、沸いて現れた存在が当たり前のように両親から受け入れられている事に恐怖と嫌悪を抱いた。
しかも、双子の姉とされる凛ばかりを愛し、一誠はオマケのような扱いをする両親により、一誠の人格は少しずつ歪み始めた。
その時点で凛は自分のせいで一誠がおかしくなり始めた事を理解し、可能な限りの事をしようとはした。
しかし一誠本人は凛という存在を拒絶し、いつの日か両親に対しても嫌悪と拒否感情を剥き出しにし始め――遂には家から出ていった。
そして二度と帰る事は無く、何時しか一誠という存在は、まるで凛が現れた事で自動的に消されたかの如く痕跡が消えた。
無論、両親もそんな一誠の存在をいつしか……。
当然凛は探しはした。
けれど一誠は見つからず、数年が経った頃………。
本来ならば高校生になってから出会う筈の……そして両親が健在である姫島朱乃の実家に住んでいる事を知った時に絶望する事になる。
兵藤から霧島という姓になり、戸籍も完全に書き換え、兵藤家とは全くの他人として生存しているどころか、何よりも姫島朱乃とその家族だけにしか情と優しさを見せない青年になった姿に。
スケベでもない。
女性の胸に鼻の下も伸ばさない。
それは最早兵藤一誠とは言えない存在に成り果てたのかもしれない。
いや、それ以上に霧島一誠として生きる今の彼はあまりにも――異常なまでの力を持っていた。
そして甘さが一切無く、相手を殺めるという行為にすら一切の躊躇いがない。
その証拠が、凛にとっての記憶と知識にある最初の山場となる『アーシア・アルジェント』の救出である。
本来は人間に化けた堕天使レイナーレによって一度は命を失った兵藤一誠がリアス・グレモリーという悪魔によって兵士として転生し、その後悪魔としての生き方の学習中に出会う事になるアーシアとの交流と救出があるのだが、霧島一誠として生きる彼は学園の風紀委員として活動していて出会う気配もまるでない。
そればかりか、完全に変わったその性格では仮にアーシアと出会ったとしても何の感情も持たない……そう思ってしまったからこそ凛が動き、リアスの兵士になり、アーシアと出会い、交流を重ね、堕天使に連れていかれた彼女を救おうとした。
幸い、神によって与えられた『力』があるお陰で戦えはするし、原作と同じく木場祐斗と塔城小猫が協力してくれた。
後ろ髪を引かれるような思いはあるが、凛は二人と共に町外れの寂れた教会へと赴いた。
しかし……。
「こ、これは……」
凛達が到着した時、教会は完全に破壊されていた。
そして絶句する暇も無く鼻腔を襲うは、吐き気を覚える程の濃厚な血の香り。
「レイナーレが配下にしていたと思われる悪魔祓いの死体が……」
「……。こっちにはレイナーレと一緒に行動していた堕天使が……」
「だ、誰がこんな事を……?」
トラウマになりかねないほどの――原型が殆ど失せている死体の山に嘔吐しそうになるのを必死に我慢しながら殆ど原型を留めていない教会を調査する凛、小猫、祐斗。
そして見飽きる程の死体の山を通りすぎていく先にあったのは――
「………………」
返り血を浴び、無表情で既にクズきれの様に横たわる堕天使レイナーレの顔を砕く……背に『風紀』と刻まれた改造長ランを着た男だった。
「……………彼がやったのか?」
「状況から考えて間違いないかと……」
「い、一誠……?」
その男が何者であるか、当初分からなかった小猫と祐斗だが、凛が思わずといった様子で名を口にした事で、彼が凛の双子の弟にて『あの』風紀委員の唯一の後継者である霧島一誠であると気づいた。
「………」
「い、一誠……? 一誠だよ……ね?」
首から上が完全に破壊されたレイナーレの死体を投げ捨てる一誠に声を掛ける凛。
左腕に赤き龍の籠手を纏い、鮮血が拳から滴る姿は不気味そのものであり、無機質な表情で凛達へと振り替える姿は静かな狂気を感じさせた。
「あの悪魔女の下僕共か」
「「「…………」」」
発した第一声もその表情に違わず無機質なものだ。
凛からしたら自分の記憶の中にある一誠とはあまりにも駆け離れている。
しかし彼は……風紀委員長・霧島一誠はちょうど良いとばかりに絶句する三人を無視して彼はそのまま帰ろうとする。
「ま、待ってよ一誠! ど、どうしてここに……? それにこれは一誠が……?」
「………」
凛の声にぴたりと止まる一誠が無機質に振り向く。
「風紀の執行」
そしてそれだけを言うと、再び背を向けて去ってしまった。
結局凛達は、この噎せかえる様な血の香りのする寂れた教会があったこの場所で、遅れてやって来たリアスに事の真相を説明する事になるのであった。
堕天使が何やらやっている事と、以前八つ裂きにしてやった堕天使の女が中心であることを知った一誠は、理由も目的も聞くこと無く、迅速に堕天使一派と悪魔祓い達を全滅させた。
金髪のシスターが神器を抜かれて殺される場面を見た時点で、見逃す気は無くしていたし、何より堕天使な時点で確実に殺す気だった。
後は遅れて来るであろう悪魔共に後片付けを押し付ける。
その中に兵藤凛が居たのだが、一誠は既に凛という存在そのものが何をしてようが何の興味も関心もなかった。
そして案の定、次の日の放課後には悪魔連中――つまり朱乃の今の悪魔としての主にてこの町の管理を任されているらしいリアス・グレモリーに呼ばれていた。
「つまり、歴代の風紀委員会と同じようにこの町の治安維持の為にレイナーレ達を排除した……と?」
「ええ。一応朱乃ねーちゃんから、アナタ達が他種族相手にする時はすぐには動けないという話も聞いてはいましたので」
「………」
一切悪びれることなく言い切った一誠に、リアスは朱乃を一瞥しつつため息を吐く。
「この町の管理は私に一任されているの。
だからあまり派手な事をして欲しくはないわ」
「それ、冥ちゃん先輩と恭ちゃん先輩にも言った事があるのですかね?」
「…………」
一誠の口にした『冥ちゃん先輩』と『恭ちゃん先輩』という名にリアスは閉口してしまう。
この町の管理を任された時から何度となく衝突をしたことがある二人の人間。
その力はどちらも人間とは思えぬ程に強く、それでいてどちらも一切こちらの話を聞かずに我が道を進んでいた。
まさに『雲』のような自由人――そうリアスは卒業していった二人の『先輩』に対して思っていた。
「まあ心配しなくても、これ以上は余計な真似はしませんよ。
今回の件は堕天使が居たから直接動いただけですから……」
そんな二人の性質を受け継いでいる一誠の場合は、自身の女王である朱乃の幼馴染みであるし、ある程度こちらの言うことも聞いてくれると思っていたリアスは、自分の考えが甘すぎた事を痛感する。
彼は――霧島一誠は一見すれば先代と先々代よりは融通が利くように見えて、スイッチが入ってしまうと誰も止められなくなる爆弾の様な男だと。
加えて、彼は堕天使に対して異常な殺意を持っている。
「ところで、彼女は下僕にしたのですか? 確か俺が行った時には既に堕天使に神器を奪われて死んでいた筈ですが……」
「ええ……凛に懇願されてね」
「ああ、彼女にね……」
ビクッと怯えたように凛の背に隠れるアーシアと、何か言いたげな顔の凛を一瞥してから鼻で笑う一誠。
「まあ、死なずに済んだのならそれで良かったじゃあないですか?
それで、話は終わりですか?」
「………。ええ、時間を取らせて貰って悪かったわ」
「いえいえ、今回はちと頭に血が昇りすぎたと自分でも思ってましたから。
ご迷惑をかけました」
結局、今後は堕天使がこの町に絡まない限りは大人しくするという約束だけを交わした。
向かい合って話をする最中ずっと、何の興味も期待もしちゃいないという目をリアスにしていた一誠は、その背後に控えるように立っていた朱乃にだけ、一瞬優しげな目を向けると、さっさと退室するのであった。
「本当に変わらないわね、あの目……」
そんな目を向けられ続けたリアスは、悔しいような気分で呟いた。
「ぶ、部長は一誠と知り合いだったんですよね……?」
「一応ね。
朱乃を女王にした時から何度かね……。
もっとも、彼は私が朱乃の王だなんて一切認めてはくれないけど」
「それは……どうしてですか?」
「単純に彼は他人を全く信じないから。
散々朱乃に説得されて、渋々頷いた時も、『朱乃を危険な目に遇わせた瞬間に殺してやる』と言われたわ」
そう言いながら朱乃を見るリアスはため息をもう一度吐く。
「だからこそ驚いたわ。そんな彼とアナタが姉弟だったなんて」
「は、はい……。
でも一誠は私の事なんてどうでも良いと思っていますし……」
「…………」
何の因果か、そんな一誠の双子の姉を眷属にし、聞けば壊滅的な関係だという。
何が起ころうとも、いざとなれば間違いなく一誠に付くと眷属になる際言い切っている朱乃といい、どうにも複雑だとリアスは更に深々とため息を吐くのであった。
こうして堕天使レイナーレ達は完全な意味で消され、アーシア・アルジェントはリアスの眷属になった。
そして案の定凛と過ごしていく内に、一誠との関係性を聞いて凛に同情し始める訳だけど、一誠本人は死ぬほどどうでも良かった。
何よりも優先することは、朱乃を守る事なのだ。
そして朱乃もそんな『覚悟』を持ち続ける一誠に守られてばかりではダメだと、リアスの女王となった時から強さを求め続ける。
「兵藤さんがイッセーくんの事を話す度に、イッセーくんが悪者にされるから、つい言っちゃったわ……」
「は? 別にほっとけば良いじゃん。
毒にも薬にもなりゃしねぇんだぜ?」
「それでもよ。
だって本当に二言目には自分が悪いからイッセーくんに……なんて言うし。
だからつい『アナタのその罪悪感やら自己憐憫に付き合って貰いたいのなら、部活動が終わったあとにして貰えますか? 今は部活中よ』って言っちゃったわ……」
『当たり前だな。それで、カスはなんて?』
「何も。
彼女に同情する子達に『そんな言い方はしなくても良いじゃないか』と言われたけど、後悔も反省もしないわ」
だから何があっても、それが正しくなかろうとも朱乃はイッセーの味方であり続ける。
「ホント、何がしたいのかわからねぇ女だな」
「私はただ単純にイッセーくんの気を引きたいだけだと思う」
これまでも――そしてこれからもずっと。
「気、ねぇ……? 一生涯無いんだが」
そして朱乃にとっての幸せな時間はまさにこの時である。
お互いにある学校での立場や目を気にしないこの時間。
「今日は一緒に寝るの……?」
「え? あー……そりゃあ良いけど」
学園じゃお姉様なんて呼ばれているが、朱乃自身はそんなタイプじゃないと自覚している。
何故なら朱乃自身の素は割りと子供だから。
「ホントっ!? えへへ……♪」
「成長してもあんま変わらないよなねーちゃんって」
自宅の部屋で、無垢な少女の様に一誠に抱き着く朱乃。
一誠にだけ見せる、朱乃自身の素。
「でも今日はお姉さんらしくする」
ニコニコとしながら一誠を胸で抱いたりするこの時間が朱乃は好きだ。
無論、一誠もまたこの時間が好きだ。
「最近また大きくなっちゃって……」
「みたい……だね。うん……」
ただ、成長するにつれて母親に似た女性に確実になっていくせいで最近ちょいと辛いものが一誠にはある。
「だから……良いよ?」
そして時折こうして見せる『女』の面。
母親の朱璃に仕込まれたものだと知らない一誠からしたら即殺確定だった。
「ず、ずりーぞねーちゃん……! そ、その顔はずるすぎるぞ!」
「ずるかったらどうするの? えへへ、私にお仕置きしてくれる?」
「が……す、するっ!」
「きゃん♪」
こうしてねじ曲げられた人生の果てに得た強い繋がりは、更に深く強固になっていくのだ。
主に夜とかに。
「元気なのは良い事だわ朱乃。
けれど、物凄く声とか聞こえちゃってるから、気を付けなさいよ?」
「べ、別に良いじゃない! お母さんだってお父さんと凄い事してる癖に!」
「私は良いのよ。
第一、あの人がそうしてくれって言うし?」
「へ、変態よ二人は!」
「舌ったらずな声で何度も何度もイッセーくんに『ちょうだい』する朱乃も大概じゃない?」
「ぐ、ぐぬぬ……!」
「ま、なんだ……オレは別にお前と朱乃の仲に反対しないから安心してくれ?」
「何に安心するんだよ……? 別に俺はバラキエルのおっちゃんと朱璃さんみたいなSMプレイなんてしねーぞ」
「心配しなくても朱璃の子であるあの子はその内―――いや、オレの子でもあるからもしかしたらお前にだけマゾになるかも――あ、既になっているのか?」
「…………」
なんとも平和なバラキエル一家。
補足
バラキー以外の純堕天使に対しては絶対殺すマン化する。
それを知っている上で傍に居たいと朱乃さんは思ってるのでブレーキが半分壊れてる。
その2
多分例の件を聞いた瞬間スイッチが入る可能性高し
その3
ベリーハードばりにイチャイチャやっとります。
互いに何の後ろめたさもなくやっとります。
てか、この話の半分はこんなんばっか。