去っていった者達の意思を抱き、そして先へと進ませなければならない。
それか託され者の責務である。
例えどんな形であろうとも、どんな状況下であろうとも、どれ程の重圧であろうとも。
「どうして俺だけが生き残ってしまったんだろうな……? 寝ている間に全く違う世界じゃ伝説扱いされちまってるし。
出来る事なら俺も早くそっちに逝きたいよ。なぁ……ドライグ、リアスちゃん?」
生き残ってしまった青年は異界の地で何を観るのか。
まだ誰にもわからない。
伝説の龍帝を本当に呼び出せてしまった。
思いの外若くて、思いの外軽くて、それでいて常に寂しそうな目をする青年は自分が余所の世界で伝説扱いをされていたことに戸惑いと拒否感を示していた。
だから伝説扱いするのをやめることにしたのが、彼を呼び出した竜族の少女は、そういう運命の悪戯だったのか、青年が愛した悪魔の少女に非常に声が似ていた。
決して本人はその悪魔の少女と竜の少女を重ねはしないが、運命という言葉が本当に存在するのならば、これほど皮肉な出会いはないであろう。
深い眠りについていた青年を呼び起こしたのだから。
そして、過去に生き続ける龍の帝王と、責任を果たそうとする竜の少女の奇妙な冒険は、まだ始まったばかりなのである。
「なるほどね、あの時落ちた結果が今のキミって訳だ」
「ああ」
「大量の魔物を喰らった事による変質か。
今のお主を仲間達が見たらさぞ驚くだろうなぁ」
「やめろ、奴等はもはや仲間じゃねぇ。
オルクスを制覇し、真実を知った今、この世界の為に戦う気なんてない」
そんな半人半龍と化して久しい青年と、竜族の少女は青年とはプロセスの違う方法で異世界から召喚される形でやってきたとある少年と、その少年によって封印を解かれた吸血鬼の少女と出会していた。
元は黒髪で、いじめられっ子だったとされる少年は、迷宮の下層に堕ちることで生きる事への執念を爆発。
結果、魔物を喰らって生き永らえようとしたことで頭髪の色が変化し、その精神も変貌を遂げた。
その過程を二人は知らず、偶々下層地点を散歩感覚で闊歩していたことで出会い、暫く行動を共にしていたのだが、この度地上へと戻った。
「アンタは本当に俺達と同じように異世界から来たのか……?」
「一応は……。
けどキミの話を聞いている限りだと、多分キミとは更に違う世界から来た。
ずっと寝ていたとはいえ、俺が寝る前の地球は殆ど生物も滅んでいたしよ……」
「……」
「滅んだって……どうして?」
「ちょっと色々あってな……」
南雲ハジメという少年と、そのハジメが封印を解き、名を与えられた少女・ユエ。
妙な縁で暫く行動を共にしていた半人半龍の青年ことイッセーと、そのイッセーを呼び寄せた竜族の少女ことティオは改めて情報を整理しながら今後についてを話す。
「これからどうするつもりだ? 俺達はこのまま他の迷宮を制覇するつもりだが……」
「さてね。
呼び出された君達が何者だったのかを知った今、特に宛も無いんだよな」
「妾はイッセーを呼び出してしまった責任を取るつもりじゃ」
「……………」
最早目的なんて無いと言う更に別の世界から呼び出された青年の言葉にハジメは思案する。
正直、この二人とオルクスの下層で出会すことができたからこそ、制覇するのが楽だった。
何よりこの二人は自分が今まで向けられていた悪意といったものが欠片も感じないし、ユエに対しても同じ。
信用出来る者がほぼ皆無であるこの世界にとって、この二人の存在はハジメにとってかなり貴重だった。
だから擦り切れた今の自分の精神に残るほんの小さな気持ちを、ハジメは打ち明ける。
「目的が無いなら、二人も俺達と来ないか? これから先俺達だけでやれると思える程、自惚れちゃいない。
だが、二人が来てくれるなら不可能を可能にできそうな気がするんだ」
「二人なら信用できる……」
あまりにも欲が感じられないイッセーと、実直なまでにイッセーにあれこれしようとするティオ。
実力の程は二人とも桁が違う強さであり、迷宮に居た時もこの二人だけは敵に回したくないと思わされた程。
だからこそ取り込むべきだと本能で察知したハジメとユエにイッセーとティオは互いに顔を見合わせる。
「と、彼は言っているけど、どうするよ?」
「どちらでも構わないぞ。
妾はイッセーについていくだけじゃからな」
「あ、そ。
……まー、あんま役に立てないと思うけど、それでも良いなら良いぜ? どうせやることなんて無いしね」
「「………」」
こうして二人はハジメとユエの冒険に同行することになった。
イッセーにとっての最後の冒険が……。
そして始まる冒険に早速の騒動が舞い込んでくるのだ。
引きこもりニートのようにやる気も何もなかったイッセーが、外へと出ることで徐々に活動をするようになった。
己が呼び出してしまった責任を、その過去の一部を知った事で常に感じ続けているティオは、ひょんな出来事を経て出会う事になったハジメという少年とユエという吸血鬼の二人とのほほんと話をしながら歩いているイッセーの姿を見て、頬を緩めていた。
(ほんの少しだけ本来のイッセーに戻りつつある。
利用するようで悪いが、もう暫くはあの二人と行動を共にした方が良いな)
過去のイッセーはもっと直情型で、彼が真に愛した悪魔の少女と相棒の赤き龍と共に、どんな相手であろうと立ち向かっていた。
伝説として聞かされていたからこそ、例え100%戻らなくてもこの状況は決して悪くはないと思うのである。
「しかし器用なんだなキミは?」
「錬成師としての技能がそうさせているのが大きい。それにオルクスで手に入れた神代魔法が役に立っている」
色々な道具や武器を作成するハジメの手先の器用さに感心するイッセー。
そんなイッセーのリアクションをティオは見るだけで妙に満たされた気分になる。
「うんうん」
「どうしたの?」
「うむ、妾が呼び出してしまった当初は何に対しても無関心だったイッセーが、楽しそうにしているのを見ると嬉しくての」
ユエの不思議そうな表情に、頬を緩ませながら答えるティオ。
そんな時だったか、少々大きめのモンスターに追い掛けられいる少女と出くわしたのは。
「お願いです! 私達を助けてください!」
追い掛けられていた少女を結果的に助けたハジメは、未来視の能力を持つ兎族の少女の事情を聞き、最後に助けてくれと懇願をされた。
シア・ハウリアと名乗った少女は本来亜人が持てる筈がない魔力を持つが故に、亜人の国から一族ごと追放されてしまった。
そして新たな生活の場所を探そうにもモンスターに襲われるか、帝国の兵に拉致されるの繰り返しで既に本来の半数にまで一族が減ってしまった。
そして未来視に出たハジメを探し、発見し、今に至るという事なのだが……。
「zzZ……」
「むっ、イッセーが寝てしまったから少し休憩なのじゃ」
「そういや、出会ってから寝てる姿を見たことがなかったな……」
「常に寝ている私たちの周りを警戒してくれていた……」
(ぜ、全然聞いてくれない……!?)
そのタイミングで眠くなってしまったイッセーが寝てしまったせいで何とも締まらず、しかもハジメ達は寝ているイッセーを気にしている。
「あ、あのぅ……」
「あ? なんだお前、まだ居たのか?」
「居ますよ!? ですから私たちを何卒助けて――」
「悪いがそんなのは知らん。
お前達の事情と俺達の目的は関係無いし、そもそもタダで助けて貰えると思っているのならお門違いなんだよ」
「ぅ……」
そうハッキリと言い切るハジメに、シアは泣きそうな顔をする。
しかし、そんなシアを見ていたユエがハジメに言う。
「ハジメ、連れていこう。
樹海を目指すなら案内は必要」
「そりゃあそうだが……」
「元住人ならちょうど良いのではないか?」
「……まあ、お前等が言うなら」
理には叶ったユエと眠るイッセーを支えるティオと意見に、渋々シアなる少女の願いを聞いてあげる事にしたハジメ。
もっとも、イッセーが起きるまで待たなければならないのだが。
そして起きるまで暇なので、ハジメは今まで聞けなかった質問をティオにすることに。
「ティオがイッセーを呼び出したとの事だが、何故呼び出したんだ?」
「一族に古くから伝わる伝説じゃよ。
異界にて神そのものに反逆し、勝利した伝説の龍の帝王についての文献が実家の倉の奥にあるのを読んでいてな。
どうせただのお伽噺だと思って召喚の儀式を敢行した結果、イッセーが現れたという訳じゃ」
「伝説の龍の帝王……?」
「聞いたことなんて無いけど……」
「わ、私もはじめて知りました。
それでその……今寝ている方がその伝説の方なのですか?」
「ほぼ間違いない。
本人はまさか異世界で伝説になっているなんて思ってもいなかった様じゃったし、何より伝説なんて呼ばれることを嫌がっていたがの」
更に別の世界からやって来た事だけは聞いていたハジメとユエだが、まさか伝説レベルの事をやっていたとは知らずに驚愕していた。
「あまりイッセーを伝説だなんだと言わないで欲しいのじゃ。
本人は自分を『大事なものを守れなかった負け犬野郎』と卑下してしまうのでな」
「だからティオはイッセーの傍に?」
「そうじゃ。
興味本位で呼び出してしまったのは妾じゃ。
本人は気にしていないとは言うものの、責任は感じてしまう」
「一体、どんな世界だったんだ? イッセーの世界は……」
すやすやと眠るイッセーを見ながら、ハジメは呟くが、その答えを真の意味で知る者は誰も居ない。
終了
オマケ。
腑抜け続ける赤龍帝と竜の少女。
結局の所、腑抜けた精神のままであるイッセーにティオの複雑な気分は募っていく。
理由が理由なだけに、無理矢理奮い立たせる訳にもいかないし、また不可能なのはわかっている。
されど、どんな事をしてもその心がずっと過去に向けられたままなのは寂しいのだ。
ましてや、日に日にハジメがユエやシアといった者達と楽しそうにしているのを見ていると余計に。
「若いねぇ」
「イッセーには無いのか?」
「リアスちゃんが生きていた頃は毎日あんな感じだったけど、今はなぁ……」
「じゃろうな……ハァ」
過去を忘れなさすぎるからこそ、今の一人であるティオには酷く悲しく、そして寂しい。
しかし、それでもティオはイッセーの傍を離れようとはしない。
それは呼び出してしまった事への責任感があるから――――だけではない。
この先、その意識が過去に向けられ続けても構わないという覚悟があるから。
「のうイッセー、少しだけ眠りたい。
だから……」
「えー? ……仕方ねーな、良いぜ? ほら、ちゃんと眠りな?」
その背に少しだけ寄り掛かりたい……そう思うのだ。
補足
完全に『無気力』な状態なので、皮肉にも全てにおいてマイルドです。
代わりに常に過去に生きてる状態なので、モヤモヤさせまくるという。