自由を懸けた戦いを制した後の少しの冒険。
ひょんな事から別世界に来てしまった二天龍を其々宿した二人の少年は、騙された結果封印されていた吸血鬼少女と出会ったり、大型の魔物との戦闘によって奈落へと転落し、片腕を失った少年と、その少年を助けようと自ら転落した少女と出会ったりと、元の時代へ戻る手懸かりこそ未だ掴めないものの、知り合いが増えていった。
吸血鬼少女と出会った地点まで落ちてしまった少年が、狂暴な魔物から自らを助ける為に危険を犯してまで追いかけてきた少女を守る為に片腕を失った事を知り、少年に生きる術と守る術を叩き込んだりもした。
その結果……ほんの少しずつ何かが変わり始めているということに、誰も気づかないのだ。
ありふれた職業を昇華させた結果、その人格すらも変貌させ、世界最強になる筈であった少年、南雲ハジメはその人格を変える事は無いまま隻腕の戦士としての道を一歩踏み出した。
それは、自分の命を捨てる覚悟で自分を助けようとしてくれたクラスメートの少女が居たからなのかもしれない。
そして、本来ならば出会う事の無い二人の少年との出会いがなによりも……。
「そうなんじゃないかとは思ってはいたけど、やっぱり携帯は使えないみたいだな」
「アザゼル印の特別端末で、太陽光でも充電可能だからバッテリー切れが起きる事は無いが、これでは意味がないな」
「折角だし、皆への土産話の為に写真でも撮っておくか?」
「だな」
「不思議なアイテム……」
「これは携帯端末だ。
俺も一台持っているから、後でアリスにも使い方を教えてやろう」
運命に抗い、勝利した者達の冒険はこうして続く。
周りから疎んじられ、地の底へと転落した少年だったけど、自分の為に命を捨てる覚悟を持つ者が居てくれた事を知り、自分と同年代ながら相当の修羅場を潜り抜けた『凄味』を感じる少年二人と吸血鬼の少女と出会うことで、片腕を失っても生きる事への『誇りと覚悟』を捨てずに居られた南雲ハジメ。
もしも誰とも出会わずにあの穴の底に落ちていたら、よしんば生きていたとしても精神が壊れていたと思えば、自分はきっと運が良かったのだろう。
だからこそ今度はただ失うことを黙って見ているだけの弱い自分から脱却しなければならない。
そうすることで、死ぬかもしれない思いをしてまでも自分の為に地に堕ちてくれた彼女への恩を返せるし、何よりも守ることができる。
守られてきた分、今度は自分が彼女を守る。
誰かの命令でもなければ、恩に対する使命感でもなく、ただ自分の意思で……。
それが隻腕となりし南雲ハジメの現在なのである。
「南雲くん! 白崎さん! よく……よく無事で……! ううっ……!」
「すいません畑山先生……」
「ご心配をおかけしました……」
「本当に心配だったのですよ!? 南雲くんは片腕を失っていますし……」
「あの三人に助けて貰えなかったら、今頃死んでいました」
「それもわかっています……。
それで、二人を助けてくれた方達はどこへ?」
「色々見てみたいと街に行っています」
担任ではないが社会科教師だった畑山愛子に半泣きになられてしまいながらも生存に安堵されるハジメと香織は、自分達を助けてくれた二人の少年と一人の少女が街の散策中であることを教える。
どうやら畑山愛子は二人の生徒を助けてくれた見ず知らずの三人の少年と少女に是非お礼が言いたかったらしく、今は留守と告げる二人に少し残念そうに眉尻を下げている。
この様に、自分達の――特にハジメの生存を心底喜ぶ者は意外にも居るのだが、殆どは香織の生存のみしか喜ばない者しかいないのが現実だった。
「まったく、アナタが無茶をしたせいで暫くまともにご飯も喉に通らなかったのよ?」
「あ、あははは、ごめんね雫……? あの時は居てもたっても居られなかったから……」
「それは――まあ、でしょうね」
ハジメと共に帰還した香織に安堵しつつ軽くお説教する少女は、畑山愛子と話をしている片腕を失ったハジメを見て意味深に呟く。
「それで? 二人を助けてくれたらしいあの三人組はここには来ないの? どうやら格好からして男子二人の方は――」
「その事だけど、あまり触れ回らないで欲しいの。
雫にだけは言っておくけど、イッセーさんとヴァーリさんは『召喚』とは別の……予期せぬ事故でここに迷い込んでしまったようだから……」
「! そんな事があるの!? ……それなら確かにこの国の為にとは関係ないわね。
でもこの国の人達はそうではないみたいよ? 今メルド隊長が言っていたわ、三人を呼び寄せるって……」
「そうなの? ……でも大丈夫だと思うわ。
特にあの二人を御せる者はこの世界に居ないと思うし……」
「?」
きっと本来はユエと色々と擦りきれたハジメに名付けられ、ヒロイン道を躍進する筈であった封印されし吸血鬼の少女(300歳オーバー)は、地の底に降臨した二天龍との出会いにより、微妙にその運命から外れてしまった。
それが果たして良いことなのか悪いことなのか――きっと恐らく悪い方向なのかもしれないが、アリスという新たな名を手に入れた彼女的には悪くないらしい。
生きた年数でいえば、二人はまだ子供の範疇でしかないものの、凄まじい修羅場を経験し、そして生き抜いた実績がそうさせているのか、妙に包容力がある。
そういう意味でアリスは割りと二人に甘えてしまう所がある。
もっとも、片割れであるイッセーは甘えさせる相手をアリスという名の元になった少女に完全に固定して決めてしまっているせいかヴァーリと比べると少しだけ厳しい所があるが、殆ど誤差の範囲でしかない。
「え、城に?」
「はい、メルド団長の命令により、アナタ達を城へと通せと……」
「?? なにか気に触る真似でもしたのか?」
「いいえとんでもない! 団長が是非アナタ達にお会いしてみたいと……」
「………」
久々に人が多い場所をヴァーリにおんぶして貰いながら満喫していた時に現れた王宮の兵隊。
どうやら二人に用があるものからの使いらしい。
見る限り、アリスの正体を察知しているといったようではないが……。
「食事もご用意しますので……」
「お!? 聞いたかヴァーリとアリス! タダ飯だってよタダ飯!」
「別に飯の金に困っている訳ではないのだが、食わせてくれるのなら……アリスは?」
「二人が行くところなら何処でも行く」
「うっし、決まりだな!」
もっとも、イッセーは話を聞く限り元こそ人間だがその範疇を自ら逸脱しているし、ヴァーリに至っては半分は――
もし二人の中身を知ったら彼らが何をしてくるかを考慮すると丁重にお断りすべきなのだろう。
だがアリスにその不安はなかった。
「しかしなんだろう、コンビニ弁当的なものが食いたくなってきたな……」
「俺はラーメンが食いたいぞ。
材料さえ揃えば出汁から作ってしまうのに……」
「お前、前から思っていたけど、ラーメン職人になれば?」
「ふっ、向こうに戻って平和になったらそれも悪くないかもな……」
「…………」
何故なら二人は暗闇の空間をぶち壊してくれた。
そしてどんな時でも笑いながら敵を吹き飛ばす頼もしさもあったから。
だからアリスに不安は無い。
二人の真の目的が果たされた時、それが永遠の別れになるかもしれないという未来からほんの少し目を逸らしながら……。
帰還したところでアウェイな気分は変わらないなと思いながら『これからの』事を考えていたハジメが、あの修羅場を経験した結果、最早一切隠すこともなくぼんやりと香織がクラスメートで友人の八重樫雫となにやら話をしている姿を眺めていると、何故かメルド団長に連れられる形で街で遊んでいた筈のイッセー、ヴァーリ、アリスがやって来た。
「あの人達って確か……」
「何でここに……?」
「あの銀髪の人、かっこいいかも……地毛なのかな?」
「…………」
当たり前だが、クラスメートでもなんでもない三人が現れた事で、訓練場に居る者達の視線は自然と三人へと向けられる。
その中でも男子はアリスで女子はヴァーリに対して色々と言っているようで、イッセーは――ほんの一部の者しか言及がない。
まあ、言われた所でまったく気にも止めないだろうし、なによりイッセーの場合は元の世界に互いに心に決めている相手がいるのだから、ノーダメージもいいところなのだが。
なんて思っていると、ぽつんと一人でいるハジメに気付いた三人が手を振ってきたのでハジメも軽く笑みを溢しながら応じる。
「街を楽しんでいた所を申し訳ないが、どうしてもお前達には聞いておきたいことがあってな」
「何で下の階層に居たのかって話ですよね?」
「ああ、冒険者としての記録も無いお前達がかなりの下階層に居たのは、お前達が現れた場所から予測できているからな」
「その説明をするのはかなり骨が折れるな」
「……」
「まあ、その話を聞くのは今日ではない。
今日は招待客としてゆっくりして貰う」
どうやら軽い事情聴取のようだが、今すぐではないらしい。
その後メルドと二、三度言葉を交わした後に自由になった三人は、周りの視線を全く気にせずハジメ――そしてハジメの傍に来ていた香織のもとへとやって来た。
「街にそれっぽいラーメン屋がないかってヴァーリがだだっ子みたいに言うから探していたら連れてこられちまってよ。
タダ飯食わしてくれるから応じてしまったぜ」
「しかもラーメン屋はなかったしな……」
「大丈夫? ハジメ、香織?」
物凄くマイペースな三人に、既にそのマイペースさに慣れていたハジメと香織は軽く笑った。
「やっぱり三人の事について話を聞かせろって事だよね?」
「まぁね、何で俺達が殆ど無傷で下層側から現れたのか聞きたいんだと。
なんだっけ? ステータスなんたらにすら登録されていないのにとかなんとか……」
「ステータス……? あ、そういえば完全に忘れていたけど、僕達もここに召喚された時、そのステータスプレートに登録したんだよ」
「このプレートなのだけど、ここに自分の強さとかが数値化されているの」
「ほう?」
『……………』
そしてハジメと香織も周りの何か言いたげな視線をスルーし、イッセーとヴァーリにステータスプレートについてを教えていた。
特に香織の幼馴染みの一人で、ステータス的に勇者的なポジションになっている天之河光輝は自分が全く知らない香織の側面を前に、割って入りたくて仕方ないといった顔だった。
「なるほど、少しだけわかりやすい」
「へーハジメの天職ってのが錬成師で、香織さんが治癒師か……。
これもし俺達だったらどんな天職になるんだ?」
「もしかしたら、イッセーは赤龍帝でヴァーリが白龍皇ってなりそう……」
「それは職なのか……? だがありえそうだ」
『…………………………』
自分の知らない間に幼馴染みが取られた気分……というべきなのか。
とにかくハジメとナチュラルに寄り添う姿含めて気に食わない気分にさせられていく中、これまた幼馴染みの一人である八重樫雫がわざとらしい咳払いをしながら割って入った。
「あの……お話の所申し訳ないのだけど」
「? どうしたの雫?」
『?』
長い黒髪の少女の意を決した行動を前に、香織を含めた面々はキョトンとする。
「その、この人達が香織と南雲君を助けて地上まで送り届けてくれたのでしょう? だから友人としてお礼が……」
「ああ、そういう……。えっとね、こちらは私の親友の八重樫雫」
「あ、はいどうも……」
「本日はお日柄もよく……」
「この度はますますの……」
香織に紹介された雫だが、三人の態度は妙に固い。
自分の出で立ちがそうさせているのだろうか? と思いながらも、香織とハジメを助けてくれた事について改めて頭を下げながらお礼を言う雫。
「えーっと、わざわざお礼なんて良いぜ?」
「ああ、偶然の偶々だからな」
「気にしなくていい」
「は、はあ……」
妙に謙虚な人達ね……と思う雫。
すると横でクスクスと笑っていた香織が耳打ちをする。
「意外と初対面の人達に警戒しちゃうのよ。
別に悪気は無いから心配しないで?」
「………」
なるほど……と納得する雫。
だが雫自身も見たあの階層での出来事は忘れたくても忘れられない。
彗星のごとく現れ、絶望的な状況を一瞬でひっくり返した――見た目からして歳も変わらなそうな二人の少年と、金髪の少女を。
「それで? 暫くは私達と同じ所に居るの?」
「なんでも、事情聴取をして、害がないと判断されるまでらしい」
「迷惑ならさっさと出ていくって言ったけど、勇者達を救出してくれたからどうたらこうたらって――あ、そうだ、勇者ってなに? 勇者なんかやってるの?」
「僕はもちろん勇者じゃないよ。
勇者は……ええっと、あそこに居る天之河って奴さ」
「ふーん……? ああ、彼か」
「カオリの事ばかりでハジメのことは居なかったような感じで捲し立ててきた奴が勇者をしているのか……」
「ははは、それは基本的に何時ものことだから大丈夫だよ」
「……今のハジメなら問題ない」
どうやらハジメと香織に対してはかなり気を許した話し方をしている。
どうやらハジメと香織が妙に成長しているように見えるのはこの三人が一枚噛んでいるようだが……。
「てかここ訓練場なんだろ? せっかくだし、ちょっと運動するべ?」
「ああ、体術オンリー魔力行使禁止だ」
そして知る。
運動しようぜと訓練場を利用し始めた二人の少年同士の模擬戦が…………常軌を逸していることを。
本人達は『ただの運動』と表していたけれど、一般現代から来たばかりの者達に見えたのは、ただの殺し合いにしか見えない壮絶な殴り合いだった。
「ね、ねぇ、本当にただの運動なの?」
「? そうよ? あの二人にとってはだけど……」
「で、でもあれじゃあ殺し合いにしか……」
「本当にただの運動だから心配は要らないよ八重樫さん。
本気なら――多分ここら辺が完全に地図から消えるだろうし」
「………は?」
「ただのじゃれあい……だからちょっと羨ましい」
互いに笑みを浮かべながら、超高速戦闘を展開する光景に、誰しもが戦慄を覚える中、アリス、ハジメ、香織だけがのほほんとその光景を眺めていた。
「な、なんだアイツ等……?」
「人間技じゃない……」
そんな言葉が次々と出ていく中、殴っては殴り返し、姿を消してはまたぶつかり合う衝撃波を放つ二人の少年の殺し合いにしか見えない訓練は続く。
「ごはっ!?」
「一歩出遅れたなイッセー!!」
やがてその時間も渾身の右ストレートをギリギリで避けたヴァーリのボディブローが決まり、ヴァーリの勝利で幕を下ろした。
「よし……! これで498勝で、俺の勝ち越しだな!」
「ってぇ……! 最後の最後で気を抜いちまった……!」
『…………』
気づけばメルドといった兵隊達までもが二人の戦いを見ており、膝を付いたイッセーに手を差しのべ、その手を取って立ち上がる二人に拍手を送っていた。
「思っていた通り……いや、それ以上だったぞ二人とも」
「え? あ、すんません……勝手に使わせて貰って」
「構わんよ……。
こちらとしても、良いものを見せて貰ったからな」
人に見せるつもりはなかったので、ちょっとむず痒い気持ちになる二人。
そんな二人のせいで本来使うべき者達が微妙にやりにくい事になってしまったのは仕方ないのかもしれない。
「……………」
特に、一定の才能を持つ者達には知らずに『強大な壁』を見せる事になってしまっていることに……。
ちなみにその直後に騒ぎを聞き付けてやってきた畑山愛子に物凄くお礼を言われた。
「あの、お二人はうちの学校の生徒では……」
「いや、俺は学生じゃないですよ?
最終学歴は幼稚園中退ですし」
「は!?」
「俺はそもそも学校とは無縁だったものでね。
ああ、一般的な学習ならアザゼル達に教え込まれてきたから問題はない」
「………」
当初愛子が成人している女性だとわからず、教師だと知って驚いたりもしたが、愛子からすれば年の頃が殆どハジメ達と変わらない少年二人が学校に通ってすら居なかったと聞いて、変な勘違いしてしまうことになる。
そんなイレギュラーにより性格はそのままに隻腕の戦士として成長・進化の羽化が始まっているハジメも、アウェイな空気をものともせずに訓練をする。
二人によって叩き込まれた戦闘術は戦闘術とは呼べない、闘争術ともいえる我流の戦い方だが、生き残る為……なにより死を覚悟してまで自分を助けようとしてくれた香織を今度は己が守る為、ハジメは何度も死にかけた二人からの地獄訓練に耐えきってきた。
それにより今のハジメの戦闘力は急激な成長を遂げている。
「て、テメッ……南雲の分際で――ごはっ!?」
「…………………」
クラスメートの大半は最早相手にもならず、片腕を失ってでも生き残った事や、香織と物凄く仲良くなっている等々の意味を含めて悪意を持つ檜山なるクラスメートが奈落に落ちる前の際にあったハジメへの半リンチを再開しようと訓練相手に指定したのだが、結果はご覧の通り。
わざと死ぬかもしれない魔法まで行使したのに、涼しげな顔でそれを蹴り飛ばしたハジメの一撃で吹き飛ばされてしまうし、接近戦に持ち込んでもハジメを捉えることすら出来ずに膝の一撃を顎に貰う。
「まだまだ、ヴァーリやイッセーの領域には程遠いや……」
『…………』
あの弱くて苛められっ子だったハジメが、冷めた表情で檜山達に一瞥もくれることなく呟く言葉がやけに印象的だった。
そして香織もまた治癒師としての範疇を超えた戦闘技術を習得していたらしく、同じくその見た目が嘘みたいにパワフルな戦闘をするアリスと、ヴァーリとイッセー程ではないにせよ、高速戦闘をしていた。
「香織も少しは成長した」
「ありがとう……! アリスさんもだけど……!!」
「当然。ヴァーリとイッセーが私が知らなかった可能性を教えてくれたから……」
「か、香織が……」
「……。今の私達より強い気がしてきたわ……」
守られるだけではいけない……というかつてリアスが持った覚悟の炎に似たものを宿し、そして燃やし続けている香織――そしてアリス。
皮肉にも、そんな覚悟を宿した者同士によるチームが形成され始めているのかもしれない。
アザゼル、コカビエル、ガブリエル、サーゼクス、ミリキャス、リアス、イッセー、ヴァーリ……そして個性の殆どを失った安心院なじみによって形成されしチームD×Gのように……。
「状況から察するに、君達が香織――と、南雲を鍛えたのだろう?」
だが、そんな状況を快く思わない者がいるのもまた事実だ。
特に、帰還してからの香織を知った天之河光輝等といった者が……。
「確かに君達には感謝をしている。
君達が居なかったら香織も南雲も帰っては来れなかったのかもしれないからな」
「はぁ」
「偶然だったに過ぎないのだがな」
ご飯前の『運動』を終え、楽しげに談笑をしていたハジメ達に割って入る光輝が、イッセーとヴァーリに厳しい視線を向けながら言う。
この時点で間違いなくポジティブな印象は持たれていないと察した二人は、気の抜ける返答をしようとする訳だが、どうやら光輝が厳しい顔をしている理由は香織にあったらしい。
「さっき君達の強さは何となく把握できた。
だからこそ思う、君達程の強さがあるのなら、香織を強くする必要はなかったのではないのか? 香織の天職は治癒師なんだぞ?」
「はい………?」
「すまん、キミの言っている意味がわからんのだが」
何で香織まで戦闘術を仕込んでいるんだと聞いてくる光輝に、心底意味がわからないイッセーとヴァーリ。
そもそも教え込んだ理由は香織本人が志願したのだ。
だから主に基礎が完成するまではアリスに基礎を教えさせていたし、基礎が出来上がったらハジメと同じ訓練をやらせたのも事実だ。
しかしそれは本人がそう望んだからであるし、香織本人が『ハジメを支えられる領域に行きたい』という覚悟を持っていたからである。
なので、常人なら即座に心が折れる程度の訓練を施した訳で、香織はその訓練を見事に乗り切ったのだ。
それなのに何故文句を言われなくてはならないのか――それがわからない。
「香織は優しい子なんだぞ……! それなのにあんな戦い方を無理強いさせるなど……!」
「いや、無理強いさせてねーけど」
「なにを言っているんだコイツは?」
要するに守られキャラのイメージが光輝にはあったらしく、それがアグレッシブに地面や壁を素手で粉砕する事に激しいショックがあったらしい。
だが、殆ど周りがそのアグレッシブ女性しか居なかったイッセーとヴァーリにしてみれば――特にヴァーリ等は強い女性こそ理想みたいな事を思っているので、光輝の言っている事が全く理解できない。
「あのね光輝君、何か勘違いしているようだけど、私は自分で望んで強くなるって決めてるのよ?」
そんな光輝に香織本人も言うが、どうしても認めたくはないのか、光輝は感情的に否定する。
「違う! 香織はひょっとしたら騙されているのかもしれないんだぞ!? こんな得体の知れない連中に!」
『……………』
「―――うっ!?」
そして思わず二人を指差しながら言ってしまったその言葉により、カチリとハジメ、香織、アリスの中でスイッチが入ってしまった。
それに気付いたのだろう、光輝は思わずといった感じで口をおさえるが、遅かった……。
「天之河君、キミは香織ちゃんが守られる女の子であり続けなければ気が済まないって言いたいわけだ? それを二人のせいにしたばかりか、得体の知れないと……」
「言って良いことと悪いことぐらいわからないの……?」
「黙って聞いていればふざけた事ばかり……」
「ち、違う! お、俺は……!」
「得体の知れないのは的を射てる言葉だと思うぞ?」
「ああ、それ自体は否定できないな」
「「「二人は黙ってて……!!」」」
「「ア,ハイ……」」
イッセーとヴァーリは光輝の得体の知れない奴等に対しては全く否定できないと苦笑いだが、ハジメ、香織、アリスから発せられる妙な迫力に押し黙る。
「あの時落ちたハジメ君を助けられる程の力が私にはなかったけど、自分のした事に後悔はしていない。
それがどんなに身勝手であっても、独り善がりであったとしてもね。
そして今度はちゃんとハジメくんと肩を並べて前を向きたい――だから強くなろうと決めたの」
「か、香織……」
「だから誰であろうとこの想いだけは邪魔も否定もさせない。
私は――ハジメ君が大好きだから」
『』
そして宣言するように、『正真正銘』の気持ちを告げる香織に、光輝を含めたクラスメートの大半が絶望することになる。
そして皮肉にも、その想いを告げた香織はこれまでよりも強く、そして美しかった……。
「イッセーさんとヴァーリ君とアリスさんに会っていなかったら、きっと私はこの想いを拗らせて変な事になっていたのかもしれない。
私はこの出会いに感謝している――だから、この二人を得体の知れない者達なんて言わないで」
「香織……アナタ、本当に昔の香織じゃないのね」
「ふふ……受け身だけじゃダメだってこの三人に教えて貰ったからね♪」
「……そう。その南雲君は恥ずかしそうに隠れてるけど……」
「ハジメくんはシャイなのよ! ふふふ……♪」
こうしてどうにもならない領域まで二人の繋がりが強くなってしまった現実を知ってしまった光輝達。
それでも納得できないのが人間の感情な訳だが、喚いた所でどうにかなるか……。
「ほら、恥ずかしがらないでよハジメ君?」
「や、だ、だってそんなハッキリ改めて言われるとさ……」
「寝るときに何度も言ってきたじゃない? ほーら……!」
「うぅ……香織ちゃんは強引だなぁ……」
「ひゅーひゅー」
「本当にリアスとイッセーみたいだな………って、なんだアリス?」
「…………なんとなくヴァーリと手が繋ぎたくなった」
「は? 別に構わないけど……なんだ?」
多分もう無理だろう。
「寝部屋まで用意して貰っちゃったけど、どうするよ?」
「アリスと香織を同じ部屋にして、俺とイッセーとハジメが……」
「えー? 今まで通り一緒で良いのだけど……」
「イッセーが教えてくれた眠り方じゃないと落ち着けなくなったし……」
「……だってさ? じゃあ何時も通り俺だけ孤独に寝るのかよ。
ちくしょう、リアスちゃんが死ぬほど恋しいぜ……」
イッセーがリアスとの逃亡生活中に完成させちゃったイチャコラ方法まで伝授しちゃったのだから。
終わり
近接戦闘可能なヒーラー、義手製作中の錬成師、ほぼ不死身吸血鬼、赤龍帝、白龍皇。
世界を越えたチームが何となく結成されてしまったまま、元の時代へと戻る為に行動する訳だが、最近は色々な非人間族と出会ったりする。
その中で一番驚いたのが、お察しの通り、イッセーにとってはギョッとなる声を持つ竜族の娘さんだった。
「イッセー?」
「リアスちゃん!? ………あ、違った。
ご、ごめんごめん……えっと、なんだ?」
姿も髪も色も全く違うが、ほんの少し声色を変えたら本当にリアスそのものな声を持つ竜の女性に、色々と大変だった。
そして間違えられまくる本人も段々ムッとする訳で……。
「そんなに妾の声は、リアス・グレモリーに似ているのか?」
「ちょっと声色を変えて俺の名前を呼ぶ時とかビビるくらいにな……。見た目は当然違うんだけど」
「妾は何度も間違えられて少々不満なのじゃが……」
「悪気は本当に無いんだよ……。うう、だけどその声を聞くとリアスちゃんに会いたい気持ちが倍加しちゃうぜ……」
「……」
不思議な機械に写る写真を見せて貰っているので、リアス・グレモリーがどんな姿をしているのかは彼女も知っていた。
イッセーが心底惚れ込む容姿であることも納得はしている。
だが声だけでそう何度も間違われていると、まるで自分自身の事を認識していないのではないかと思う訳で……。
「ちょっとだけリアス・グレモリーが羨ましいの……」
「ん? なんだ、恋人とか居ないのか?」
「おらん。そして初めて出会ったお主と戦い、一方的にズタボロにされて以降は嫁に行けん身体にされたからな」
「嫁に行けんて大袈裟な、軽く蹴っ飛ばしただけじゃんよ……」
「その蹴りが強烈で劇的だったのじゃ! それをお主はやれリアスだなんだと全く妾に興味を示さんではないか! お陰で毎日が敗北感じゃ!」
「お、おう……なんかよーわからんけどすまん……?」
まるでリアスに怒られてしまっているようで、つい平謝りをするイッセー。
「一番腹が立ったのは、寝ぼけたお主が妾にひっついたあげく、『あれ? リアスちゃん――太った?』って抜かした時じゃ! 妾はそこまで肥えておらん! 体型だってリアス・グレモリーに負けとらん!!」
「その話は蒸し返すなよ……思い出すだけでリアスちゃんに申し訳が――」
「それだ! 結局お主はリアス・グレモリーの事しか考えとらん! 妾の事はこれっぽっちも考えてはおらんじゃないか!!」
「か、考えてるぞ一応……?」
「何をじゃ!? どんな事だ!?」
「えっと……色々?」
「絶対に何も考えとらんだろう!? うがー!! この鬼畜! 女泣かせ!!」
「なんでこんなディスられなきゃなんないんだ俺は……?」
リアス馬鹿に引っ掛かってしまった者は、どこかの生徒会長や副担任のように苦労する運命なのかもしれない。
「ハジメとカオリはあからさまに仲が良いし、ヴァーリとアリスもなんだかんだ気も合う様子だというのに、妾とお主はなんでこうなんじゃ……」
「なんで言われてもな……。
第一、俺達って別にそんな関係じゃ――」
「……………」
「に、睨むなよ? 本当の事じゃないか……」
終わり
補足
そういう意味では香織さんは『赤き龍帝の系譜』なのかもしれない。
逆にアリスさん(ユエ)は『白き龍皇の系譜』かも。
ハジメ君は………どっちかな?
その2
こうして覚悟ガン決まりしてる香織さんに隙も躊躇いもない。
傷だらけになってでもハジメと進化しようとするし、ハジメを支える為ならなんでもする。
………強い(確信)
お陰でアリス(ユエ)が正妻の欠片もなくなりましたけど、本人は自由を満喫しているので結果オーライ……か?
しかし最近、センチな気分になっていた時に、それを察したヴァーリの天然が発動し、キラキラした石とそこら辺に生えてた名も知らない花を渡されたらしい……。
その3
まあその……中の人繋がりの影響でなんやかんやこのシリーズ系統のティオさんって割りと不遇ではない気がする。
ただし、どこかの生徒会長ことたっちゃんとかやまやよりも、リアスさんが居ない分余計ブレなくなるので苦労は凄いことになりますが……。
……という、ティオさんとのやり取りのある続きまでやろうと思いつつ躊躇中